米澤 穂信の短編推理小説。主人公は群馬県警本部刑事部捜査一課の葛警部。上司や部下、同僚からさほど人望があるわけでもなさそうで、いつも菓子パンとカフェオレばかり食し、そしてひたすら冷徹に現実を見つめ続ける。葛警部は笑わず、怒鳴らず、人を褒めず、卑屈にもならず、愛想も悪く、無駄口をたたかない。まるで人間味がない主人公なのだが、著者の無駄をそぎ落とした骨太な文体とあいまって、私はこの葛警部を大いに気に入ってしまった。著者には是非、続きを書いてほしい。
頭木弘樹著。著者と川野一宇アナウンサーによるNHKラジオ深夜便の放送を書籍化したもの。番組そのものは聞いたことがないが、確かに深夜ラジオにふさわしい番組かもしれない。美しく明るい、希望に満ちた言葉ばかりが飛び交う世の中で(だからこそ)、絶望の中からしか出てこない言葉に「救われる」こともある、というのが著者の思い。
これは、とても良く分かる。そういうことが分かる年齢になってきた、ということかもしれない。カフカや太宰が語る、うじうじとした、このどうしようもなさ、そうした言葉が救いになる。それを読んで何かが改善するでもなく、解決するでもないが、それでも読者として救われる。その感覚、よく分かる。ドストエフスキーのように死の淵を覗き、自身が圧倒的な絶望を経験したからこそ得られた視点。そこからかかれた文学は、読書体験でしか得られない宝なのだが、元気で全てが順調に進んでいるときに読んでも鬱陶しいだけだろう。苦境のときにこそ読むべき本があるのだ。
絶望だけが人生だという趣旨ではないが、希望だけが人生でもないわけで。人間を知ろう、学ぼうと思うなら、両面から見ないといけないという話。「明けない夜はない」という言葉と「明けない夜もある」という言葉、私はこの矛盾する両方の言葉について共感できる。そう、明けない夜もある。
また、ゲーテの項で紹介されていた、「他人の人生をあらすじで見ないこと」という指摘も重要だ。人生をあらすじ、概要で記述すると何の問題もなく順調にいっているように見える(錯覚する)が、そんなわけはない。どの人にも、その人なりの苦悩、苦労があるはずで、それは他人と簡単に比較することはできない。
巻末に書かれた根田ディレクターの「『絶望名言』ができるまで」も良かった。是非、2巻も読みたい。なお、本書はスゴ本の方が紹介されており手に取ったもの(感謝)。
実は活動期間が短く、10年に満たなかった(1992年~1998年および2000年~2001年)。こうして改めて聞いてみると、ジュディマリはビートルズが好きだったんだな、などと気づく(LOVER SOULはRubber Soulから取ったのだろうし、Brand New Wave Upper Groundの中にはCome Togetherがそのまま歌われている)。
燃え殻著。日々の徒然ごとを描くエッセイ。ポジティブ過ぎず一歩引いてる感じで、しかし斜に構えたり世の中を呪詛するのでもなく、淡々とした日常を言語化される著者の目線が心地よい。同世代だからこそ伝わってくることがあるのかもしれない。
バラード良し、ミドルテンポ良し、ロック調(アップテンポ)良しと、何を歌っても名曲となってしまうのがすごい。