「国立西洋美術館 ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」の感想

東京の上野にある国立西洋美術館に行ってきた。目的は企画展の「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」を見ること。当館初の現代美術展ということで前々から気になっていた。展覧会のコンセプトとしては現代美術家は西洋美術館をどう見ている/見ていたのか。

その感想と備忘録。あと点数付け(わかりやすい!)

 

①中林忠良 73点

当館エピソードを抜いて導入は版画から。腐蝕の過程そのものを作品にしてた。長谷川潔を稲沢の荻須美術館で見た時超絶技巧ですごいと思ったがそういう版画ではなく、やや神秘性を感じるタイプ。ルドンなどが置かれていたのもなんか納得。

概観も含めて導入としてはよかったと思う。

 

松浦寿夫 60点

ここからは基本西美のコレクションと作家の作品が対で展示される。まずはセザンヌから。過去の仕事の紹介が主。セザンヌの風景画の方が力があり大きめの平面が何枚あっても負けている印象。批評文も同時にテキストで載せるとかすればよかったのにと。

岡崎乾二郎がいれば違ったのか?

 

内藤礼 50点

こちらもセザンヌ。白い。とにかく白い。ホワイトキューブに2枚の絵。左がセザンヌの風景画で左が同じ大きさの白いキャンバス。何かちょっと茶色っぽかった気もする。台座には黒い斑点がそれぞれの絵の下にあった。2枚見ても絵画の共鳴とか感じられずになんでこんな展示にしたのかよくわからん、、だった。寧ろホワイトキューブをどう搬入して組み立てのかが気になって周りをぐるぐる回ってた。

 

小沢剛 70点

セザンヌゾーンは終了。今度は藤田嗣治。戦後にパリではなくバリに行ったとしたら?から膨らませた8枚の絵画シリーズの展示。戦争、日本美術、現代美術独特のアイロニー。今回のテーマにも合ってて良い展示だと思った。

映像の方は人溜まってたので流し見したのでちゃんと見たらもっと発見があったかも。

 

⑤小田原のどか 65点

こちらはロダン、、のはずだがブラックライヴズマターにおける彫刻の破壊と考える人の転倒、吉本隆明高村光太郎、水平社運動と西光と仏教、彫刻の転倒と2つの震災(関東/東北)、それらを表現の自由の名の下にまとめるテキスト。。

テーマが散漫すぎて鑑賞者に優しくないと思った。テキストを読んだ後に展示を見直すと、唯一西光の掛け軸が立体的に見えて魅力的な絵に変わった。

翻って、水平社運動の設立にかかわった西光は部落差別によって美術家を諦めざるを得なかったという二重の抑圧=近代日本の呪いだけを扱った方が良いと思った

が、そうすると西洋美術(館)の文脈は見えなくなるのか、とも。何か惜しいなーと思いながらの鑑賞だった。

 

⑤布施琳太郎 68点

西美の建築をしたル・コルビジェがテーマ。奥にあったテキストは展覧会全体の中でも一番良かった。ドゥルーズの条理/平滑を思わされるような動的な美術館を生成すること。太陽の光の入りとある種の生物として美術館をモデル化するという案は面白いと思うし強度のある文章だと思う。

が、展示自体はそれを裏切っているというか何かズレているなーという印象。デジタルテクノロジーによる詩のランダムな生成は建築とどう関係するのか?情報化社会における抒情とどう美術館を設計するかという思想の繋がりが謎すぎてクエッションマーク。

とはいえ展示空間が狭い(ここから狭いゾーンがいくつかあった)ので、スペースあれば別の見せ方ができたのかな、とも思った。

 

田中功起 30点

西美の制度批判の展示。点数は一番低いが保育士へのインタビューはほとんど見れてないので不当かもしれない。

が、一番ひどい展示だったのは見ても恐らく変わらないと思う。テキストで制度批判をしてるのだがブログで書けばよいのでは?以上終了。山本浩貴のテキストもカルスタ/ポストコロニアリズム系の非常に凡庸な内容。翻訳によって美術を開くならそもそも英訳ではないはず。その言語を単に学ぶことのほうがよほど有意義だと思った。

悪しきリサーチ系といば映像作品だがそれに劣る形式があるとは驚き。ちなみに展示スペースは狭かったのでもっと広かったら何とかなった、、のか?

 

鷹野隆大 58点

ゴッホ、ドニなどいくつかのコレクションを「普通の部屋」に置いてある種の異化効果を狙った展示。ここも狭い。広かったらもっと面白い展開できそうな予感がした。

裸の男のポートレートがよかった。確かクールベを参照。ポップな絵ならこういう展示も合うと思うけど(マネ何かは合ったらむしろ良かった?)古典絵画はもうちょっと見る場所を選ぶなとも思った。

 

⑥ミヤギフトシ 63点

テオドール・シャセリオーの神話モチーフの絵画を映像によって別の見せ方をしていた。セクシャリティ/アイデンティティーが問われていた。

鏡(詩が書いてある)があるのはよかったというか寧ろもっと展開できたのではと思うのは素人目線か(鏡に映った彼/彼女。お前は誰だ?誰だったのか?誰になるのか?存在の問いかけとしての鏡)。

映像自体は映画チックでクオリティ高いと思った。が、語りが文語をそのまま読んでいてお経を聞いているような退屈さはぬぐえなかった(日本語の問題?)。

 

⑦飯山由貴 70点

西洋美術館が軍事産業にどれだけ関わってきたのかを告発するような展示。内覧会のニュースをみて不安半分で見たが力のある展示でよかった。

手書きの文字(抗議)が壁を埋め尽くしてて戦争画が何枚か並んでて最後にシェイム・スーティンの病んだ女性の絵。

活動とは健康な神経症になること!というメッセージを勝手に受け取った。鑑賞者のメッセージも募集されていて一部が展示されていた。

人は皆何かしらの活動家である。

 

長島有里枝 55点

ピカソがテーマ。名古屋でケアの学校を運営し、そこで作成された作品の展示。全体的に猫。素朴になんでピカソ?と思った。よくもなく悪くもなくといった印象。

見たときに言葉が浮かばなくてサーっと次に行ってしまった。名古屋は近いのでまた見る機会がありそう。

 

⑦弓指寛治 85点

上野近くにドヤ街の山谷地区があるらしい。ホームレスが多く住んでいる。キュレーターからそれをテーマにしてくれまんせか?と言われて会いにいき、、という導入から始まる物語形式のキュレーション。

とにかく丁寧なのが伝わる。空間設計もだがホームレス支援者への取材、ホームレスへの取材、それを言葉にして絵にして一つの展示にすること。完全新作ということで熱量もすごく感じてよかった。

特に作家と同じ名前のホームレスのカンジさんの物語はちょっと感動的で泣ける。現実を見ろと人は言うが、現実をフィクション=美術を通して再構成することの持つ意味、それでしか伝えられないものがあるなと確信。物語にしないと救えないもの、残せないものがある。東京に住んでないしホームレスとも無縁の生活をしているが、そんな関係ない私にも胸に迫るものがあった。

正面にあるゴーギャン風の絵も力があって良かった。

 

⑧竹村京 62点

モネがテーマ。水連シリーズの中で戦災によって一部欠けた絵が最近西美に帰ってきたらしい。展示としては損傷した水連の絵があり、その手前に欠けた部分が刺繍で縫われたカーテンがかけられている。これによってモネが蘇るわけでもないし作品体験としても豊かなものかは謎だが、批評的には展開しやすそうだなと感じた。

別の作家とのコラボレーションも見たいと思った。

 

⑧エレナ・トゥタッチコワ 48点

何がテーマなのかわからなかった。映像作品ではとにかく歩いてた。糸を巻きながら西洋美術館を歩いてた。私も企画展見終わったら常設見に行くしその辺歩くよなーと思った。結局何だったんだろう?

 

⑨遠藤麻衣 67点

テーマはムンクの「アルファとオメガ」で版画のシリーズもの。アダムとエヴァの物語を蛇の呪いを蝶番にして二人の性愛の話ではなくオメガが森の中の動物と交わる話に変換している。アルファは放置プレイののち嫉妬してオメガを殺して最後はアルファが動物たちに殺される。以上を映像作品に翻訳したのが展示内容。

アルファも女性、オメガも女性。ロダン地獄の門の前から始まり、目覚めた二人は蛇の呪い?によってお互いを愛し合う。レズビアンセックスものの映像。私は動物警察なので蛇しかおらんやん!となった。映像としては良い感じなんだけどムンクというよりクリムトとかの方が合うなーと思った。

 

⑩パープルーム 75点

カオスな空間。何となくカオスラウンジ感というか梅沢作品のコラージュものの印象を受けた。壁紙にこだわりがあるせいか絵画はちょっと見づらい。学芸員の代わりにパープルームメンバーが常駐するとかしたらギャラリー感マシマシでよかったと思う。

明らかに異様な空間でいい意味で浮いてると思った。

 

⑩ユアサエボシ 62点

テーマはサム・フランシス。日本に生まれたサムフランシスという設定の作家が描いた抽象画とのセットで見せていた。なんでサムフランシスになるのかがよくわからずに何となく入り込めない感があった。

余ってるスペースに展示してる感あったからちょっとかわいそうな気もした。またもやスペース狭い問題。

 

⑩辰野登恵子、杉戸洋、坂本夏子、梅津庸一 90点

最後の部屋。テーマは印象派及びポスト印象派かな?辰野のでかい絵は中心の青い部分が宇宙的な深みがあってよかった。構成と造形の実験というか日本の抽象表現の重要な画家なのが一枚でわかる感。坂本は絵画の潜在性のようなものが見えて面白かった。純粋に絵画の表現を探求しているという感じ。梅津は坂本と比べると外側の参照(漫画の線のようなミロの線のような細かな模様たち。陶芸的な垂れる面)があってより伸びやかな印象を与える。とはいえ坂本が窮屈な印象を与えるというのは全くなくて一つの平面の中で高度な造形ゲームをやっている感じでわくわくした。素直に2人の絵は見てて面白い!と思った。最後の部屋で絵画を見ることが楽しいと久しぶりに感じれてよかった。杉戸はまぁこういう抽象画もあるよなーという感じだった。

 

以上、素人観客による感想でした。

アニメ雑感

魔法少女マジカルデストロイヤーズ

5話辺りで切った。オタクが抑圧されているというときに抑圧の主体が大文字の〈社会〉になるリアリティはもう失効しているのでは?(石原都政までのリアリティ?)という疑問を保留しつつ見ていた。「オタクの逆襲」というテーマは話数が進むにつれて後退して日常もの+魔法少女の微エロという方向に。終盤にまた「逆襲」のテーマは何の脈略もなく導入されて終わりの体裁を見せるのだろう。

opはドラッグ+サブカル系の映像で面白い部分はその数十秒かな。

 

この素晴らしい世界に爆焔を!

こちらも5話辺りで切った。初回の爆炎シーンは力が入っててよかった。このすばが好きかと言えばそうでもないので(ギャグのテンションに入り込めない)途中脱落も妥当か、と。めぐみんの過去の話で特に感想はない。

 

・スキップとローファー

原作読んで好きだったので期待してた。制作会社がPAなのが期待と不安を抱かせたが期待に応えてくれているといってよいと思う。新海、京アニ的な「青春」から思想的なものを取り払ったのがPAという感じがするが(単にキラキラしているもの、あるいはその単調な裏側)、原作が「青春」を複雑に描いているため薄まったとしてもグラスリップのようにはならない。兼近先輩が好きだが、そういえば演劇、あるいは演じることを物語の装置として使う作品は最近多いなぁと思った。何かに打ち込むために自分ではない存在に成る。その存在の耐えられなさ。

 

・【推しの子】

というか今見てる。見ながら書いている。多分書き終わるごろには追い付いてる。グローバルコンテンツになったという快挙だが、どう受容されてるのか気になる。脱線するが、横槍メンゴは何となく苦手意識を持っていたが「君は淫らな僕の女王」を読んで潜在力を舐めていたなと思った。それとも岡本倫の力なのか?強制的に「動物」になったヒロインが主人公に欲望を晒しまくっててすごい作品だった。真っすぐに「メンヘラ」。「内省」を促すのではなく、「開かれ」によって関係を構築するのではなく「欲望」を悪趣味なほど露出させる。あぁ、フィクション!!

推しの子は少なくてもアニメではこのヤバさは現れなさそう。

 

・「アイドルマスター シンデレラガールズ U149」

予想以上に「アイマス」だった。チームとしての成長と各キャラの見せ場をそれぞれ描く。見る前は小学生多数というどんな犯罪アニメだよと思っていたが、少女を「主体」として描いているので(橘アリスが主人公なのは納得する)おいおいというのはあまりない。それぞれが悩むことがありそれを乗り越えて成長する。ロリ系のアニメなら最近飛びぬけてよいのでは?

ちなみにゆうき君の声が好き(女性声優の少年ボイスはなぜ魅力的なのか)