kaiser chiefs アルバム"stay together"のこと

英国国民的バンドkaiser chiefsの6枚目のアルバムが2016/10/7に発売されました。

 

6枚目といっても、今までとは意味が違います。これまでのkaiser chiefsといえば、ヴォーカルのぽっちゃりしたRicky Wilsonとバンドマスターでありドラマー、そして作曲を主に行っていた"イケメン"Nick Hodgson氏がフロントマンとして率いるバンドでした。しかしNickが円満脱退した後、Rickyはまず痩せました。いろいろあってマラソンで痩せました。

 

そして世界中で人気のオーディション番組であるThe Voiceのイギリス版に審査員として出演するようになりました。そこで見事にTVの人気者として痩せた姿が視聴者に定着しました。TVでの活動は音楽のためと言い切っていたRickyでしたが、アルバム発売に向けて、とギタリストSimonと二人をメインに露出をするようになりました。そして肝心の音楽はと言うと、ダンスミュージック寄りになりました。

 

心配事としては、Nickについていた沢山のファンが減るんじゃないかということ、これまで音楽を作っていた人がいなくなったのだからこれからどういう音楽を作るのかということがありました。そもそも彼らは柔軟に自分たちの「かたち」を変えつつ芯を貫くことはわかっているのだけれど、今回は芯が変わってるので・・・

 

今までのkaiser chiefsの音楽は、Buzzcocksブリットポップ勢の影響が垣間見える曲で、そこにシニカルで知性と頑張りに溢れた歌詞がのっているところが大好きだったのですが、少しずつリリースされた音を聞いてだんだん不安になってきました。私はアルバムだとAngry Mobが一番好きで、あれはNickの色が強すぎるくらい強いと思っています。

 

果たして私は新生kaiserにフィット出来るのか。私は好き嫌いが激しいので、嫌いな音には嘘がつけないだろう。でもkaiserを嫌いになりたくない。そう思って、youtubeに上がった公式のMVもちらっと見るだけで、発売日の様子も公式やメンバーの動向をチェックしていたにも関わらず、買ったまま聴いていませんでした。

 

そしていい加減に向き合わなきゃいけない、と今日ようやく聴いてみました。一曲目が流れたとたん「はぁっ!?」と言ってしまったんですけど……あ、これ好きだ。あ、全然好きじゃん。なんだ、うわぁ、と語彙の無さを発揮して聴き入ってしまいました。打ち込みでも懐かしさの残るおしゃれなビートで、落ち着いて歌い上げるRickyの表現力がはるかに増幅したと思います。"Sunday Morning"なんてかっこいい…歌詞も最高(アルバムの中で比較的地味な曲を好きになるタイプ)。正直聴いてて涙ぐみました。大好きです。新生kaiser chiefs大好きです。

Kaiser Chiefs|カイザー・チーフス 日本公式サイト

 

 

映画「スポットライト」感想

週末に、オンデマンドで「スポットライト」を見ました。今年のアカデミー作品賞を取った映画です。

 

spotlight-scoop.com

あまり事前の情報を知らず、友人が観たがっていたことが印象に残っていてなんとなく観ることにしました。

あらすじ

2001年の夏、ボストン・グローブ紙に新しい編集局長のマーティ・バロンが着任する。マイアミからやってきたアウトサイダーのバロンは、地元出身の誰もがタブー視するカトリック教会の権威にひるまず、ある神父による性的虐待事件を詳しく掘り下げる方針を打ち出す。

 

最初はあまりに絵が地味なので、このままこれで?これでアカデミー賞ってすごくない?と感じるほど地味だったのですが、つまりそれだけ脚本がよくできていて、要所要所のセリフで、あぁ、すごい、すごいな!と肯くことしきりでした。

冒頭で、日本語字幕では「牧師がいたずらをした」というように(正確には不確かです)セリフからはじまります。

Father was helping out.

Helping out?

なのですが、つまり、ん?え?なんだって?ていうつかみになっているんですね。

こういう繊細なセリフのニュアンスがあって、被害にあった男性たちの心情を丁寧にわかりやすく、観る側に伝えて来ます。

陰謀ものの映画をよく観るせいか、なかなか公開できないスクープに「こいつはこう見えて裏切り者なのでは?」「実は巨大な罠なのでは?」と疑ってしまっていたのですけれど、全然そんなことはなく、登場人物たちが自分の出来ることを懸命にやっているんですね。このへん、「シン・ゴジラ」みたいだなと思いました(なんでも「シン・ゴジラ」につなげる脳)

 

なによりすごいと感じたのは、「めちゃめちゃ悪い神父」や「理不尽に妨害をしてくる悪い牧師」が出てこないことです。出てこないのに、闇は深く、もたらした被害は大きく、私達の胸にのしかかってきます。これが脚本の力というものか、と舌を巻きました。

俳優たちの抑えた中にも底力の演技力があってこそというもので、このようなむずかしい題材を静かに落ち着いて伝える、報道の力と同時に映画の力を感じました。公開時に劇場で見れば良かったな・・・。

 

 

今更ながら映画「シンゴジラ」のこと

最初に劇場で「シン・ゴジラ」を見に行ったのは8月の頭です。それから6回見て自分なりに納得して円盤を待っていますが、これから海外で上映が始まるので、海外の友人にも見てもらいたいと推薦するために書きます。(あとで訳します)

 

そもそも特撮映画やアクション映画に興味がなく、リアルな人間ドラマの映画が好きなタイプです。リアル7割、フィクション3割くらいに感じないと入り込めないため、「特別な世界」や「特別な力」が最初から設定にあると「無理……」となります。それが「巨大不明生物」なんて!


おまけになんとなく「エヴァンゲリオン」を見ないでここまで生きてきたので、封切りの段階では上映することだけ知っていた程度なのですが、ネットで「これは日本的な会議と書類でゴジラと戦う話だ」という評を見かけて、「ちょっと待って、会議の映画なら大好きなんだけど?」と急に引っかかり、その日がたまたま休みだったこともあって、平日の夜に地元の映画館で見ました。

 

前半一時間、ゴジラが淡々と引き起こす被害に青ざめ、震え、涙が止まらなくなり、中盤の惨状でしゃくりあげ、後半で手に汗にぎり、安堵し、喝采し、最後の赤坂先生のセリフで再び泣き崩れた感情の動きが忘れられません。

私は素直にこの映画を「災害」「復興の映画」と捉えましたし、生まれも育ちも東京なので被害に合う場所への想いも強く、自分がどの時点で何をしているだろう、ちゃんと逃げられるだろうか、あの場所だと友人があぶないのではないか、家族を連れてどこへ避難するべきか、と考えながら見て、ゴジラが憎くて、私の生まれ育った大事な風景を焼き尽くしたゴジラが憎くてたまらなくて、実は蒲田くんとか未だにかわいいと思えません。


そしてまた、この映画を「人を信じている人たちの話」だと思いました。フィクションの中では悪人に描かれることの多い政治家や官僚が、それぞれのスタンスから他人を信じていました。初盤はコミカルに揶揄されていた閣僚たちの悔しがる横顔や、火の海を見下ろす大河内総理の背中、はたまた避難を誘導する人のひとりひとりに涙が溢れました。端的に言うと「愛の映画」だと思いました。

巨災対チームのみなさんはもちろん誰も彼も大好きです。好きなので一人ずつ延々と妄想することも語ることも出来るので胸の内でやっています。(それからカヨコの英語についてこだわるのは謎だし野暮だなと思います。私はこの頃しばらくカヨコっぽく英語を喋るブームでした。わかってもらえないので寂しい)

 

この映画は鏡のように見た人の内面を映し出して感想に反映される、と言われていますが、優れた演出というのはそういうものなのかもしれません。私はこの映画を東京に特化されているとは思いますが、日本をことさら美化しているとは思いません。自衛隊は総力戦をしますが、防衛のためです。日本社会の現実を描いているため、男女比はあんなものです。地震津波・核攻撃・原子炉事故という要素は日本にまつわるものだと思います。私たちは現実にそれらを抱えて生きています。何度も壊滅状態に陥った地域が復興してきた、という現実があのセリフに込められていると思います。誰が加害者で誰が被害者という話でもありません。現実はもっと複雑で、いくつもの正義が絡まり、理不尽にさらされ、逃れる事はできません。

まったくリアリティの感じられない映画でそこから逃れるための作品もあれば、現実の肌触りを感じさせながら希望を思い出させてくれる作品があり、私にはそういう作品が日々を生きる力になります。


そういうわけで初めて見た時から毎週末通い、ネットで知った細かいところや判別できなかった役者を確認するようになりました。今これを書いている10月でもまだ上映していますが、今の日本は画期的なことに邦画が争うほどヒットしていて、私の見える範囲でシン・ゴジラ」をまだ見たことがない人というのは頑なに「ただの怪獣映画」というスタンスを崩さないタイプのようなのでこれ以上は無理かな、と思っていますが、直接だけでも8人は説得して映画館へ見にいくよう薦めて、実際見た後は「強く推してくれてありがとう!」と喜んでもらえたのでほ満足しています。

このあと初代ゴジラを見ましたし、特撮映画とはなんぞや!というのを調べまくりました。(結果、現在の実写アクション映画ほとんど特撮映画の範疇だということも知りました。そういう映画を避けてきていました)


ちなみにエヴァンゲリオンも全部見ました。漫画も読みました。詳しい人に解説してもらいながら見たのでわからないこともすぐ教えてもらえて面白かったです。シン・ゴジラのおかげで自分の興味なかった範囲を知ったことも嬉しく思っています。

 

映画『シン・ゴジラ』公式サイト