ゲームブック ドラゴンクエストⅡを熱く語る!

不朽の名作「ゲームブック ドラゴンクエストⅡ」(エニックス版)                                        完成度の高い作品をゲームと比較しながら熱く語ります。 Twitter もあります→ https://twitter.com/john_dq2_book

【創作 164】 憧れの人

ナナをサマルトリアに招いたおれは、ちょっとした事故でナナとキスしてしまった。

 

気にしなければいいのかもしれねえが、ナナと2人きりですごすのが気まずくなり

「いいダシを交えて3人ですごせば、会話もはずんで照れ臭くないのよ」という

ばあさんに聞いた話を思い出し、おれはダシとしてサンチョを呼び寄せた。

 

 

3人で協力しながら夕飯をつくり、食事中は親父たちが旅行に行った後のおれの行動を

率先して聞き出すなど、サンチョは最初のうちはいいダシとして働いていたと思う。

 

 

それなのに......

あれっぽっちのエールで酔ったのか?

それともわざと混乱させているのか?

 

食事が進むと、サンチョは暴走しだした。

 

 

謁見の間で2人でいたときにちょっとした事故が起きてナナと唇をぶつけてしまったと

事前にあいつには話してあったというのに.... くそっ、サンチョの野郎め!

 

「謁見の間で何があったんです?」としつこく聞き出そうとしやがった。

 

おれが答えないと「じゃあ、ナナ様が話してください」とさらに食い下がってくる。

 

 

しかも、おれが「ダシがマズいぞ!」と暗にてめえの暴走を伝えようとしているのに、

まったく気づきもしねえんだぜ?!

 

 

ようやく追及するのを止めて美味い魚の話を始めたのでホッとしていたら、なんと

その美味いと評判の魚は「キス」とかいうとんでもねえ名前だと言うではないか!

 

 

サンチョの野郎!

わざとだとしたら許せねえ!

 

おれは怒りにまかせて立ち上がったが、サンチョは勢いよく立ったおれを見ても

ぽかんと間の抜けた顔をしていて、おれの怒りをまったく理解していない。

 

我慢の限界で思わず立ち上がったものの、魚の名前が妙だからと怒りつけるのも変だ。

 

 

このまま何も言わずに座るわけにもいかねえし、おれは立ち上がった勢いのまま

「王子をサマルトリアに呼び寄せる手配をしてくる」と2人に告げて、食堂を出た。

 

 


食堂を出て伝令兵のもとへ向かう途中で、今晩ナナが泊まる部屋の準備をすっかり

忘れていたことにふと気づいた。

 

 

おれが「久しぶりに王子に会いてえな」と言ったとき、ナナも同意していた。

 

ナナに確認を取ったわけじゃねえが、王子をサマルトリアに呼ぶ手配をするとなれば

王子がこっちに来るまでの間、ナナはサマルトリアに滞在するつもりだろう。

 

 

このままナナが数日サマルトリアに留まるのであれば、おれは適当な女中を選び

ナナが泊まる客室の準備と、滞在中のナナの世話を頼まないといけねえ。

 

「どうすっかな〜」と思いながらあたりを見回すと、2日前の夜に偶然出会い

酔っぱらったばあさんの世話を頼んだ3人組の女中が前を歩いているのが見えた。

 

 

へっ、おれ様は運がいいな!

 

王妃が気に入って自分の側仕えにしているだけあって、こいつらは3人とも明るくて

ハキハキと受け答えするし、頼んだことも嫌がらず実によく働く奴らだ。

 

ナナの世話をしてもらうにも適任だろう。

 

 

おれは3人を呼び止めた。

 

「よおっ! 先日は、ばあさんの世話と食事の片づけをしてくれてありがとな。今日は

 ムーンブルクの王女ナナ姫がサマルトリアに来ているんだ。今晩はこのままここに

 泊まる予定だからよ、おまえたちにナナ姫の部屋の準備と世話を頼めるか?」

 

おれが尋ねると、3人は驚いた様子で顔を見合わせながら目を輝かせた。

 

 

ムーンブルクのナナ姫って、殿下と一緒に旅をしてハーゴンを倒した方ですよね!  

 殿下たちのご活躍を聞いてから、ナナ姫はずっと会ってみたいと思っていた

 憧れの女性なんですよ。そんな憧れの姫様のお世話が出来るなんて光栄だわ!」

 

3人は「ナナ様に会えるなんて感激!」「嬉しいわね」「幸せよね」となどと言いつつ

キャアキャアはしゃいでいる。

 


おれと王子とナナは、今やロト3国の勇者として世界中で称えられている。

 

特に女でありながら、さらに自国を滅ぼされていながら、くじけず勇敢に立ち上がり

ハーゴンを倒して世界に平和を取り戻したナナは「強くて勇ましく美しい女性」として

世の女たちの憧れの的らしい。

 

 

へっ!

あいつをどれだけ美化して見てんだか。

 

こいつらも世話しながらナナの本性を知って、幻滅しなきゃいいけどな。

 

 

おれは「ナナ様と話が出来るなんて最高!」と嬉しそうに笑っている3人組に

まずは客室を準備して、泊まる用意が出来たら食堂にいるナナに伝えてくれと頼み

伝令兵のもとへと向かった。

 

 

 

我がサマルトリアは4方向に見晴らし台を広く設置して兵士が警護にあたっている。

 

ハーゴンのくそ野郎が暴れていた頃は、見晴らし台にかなり多くの人員を割いて

厳重に警護させていたし、特にローラの門がある南側ではときに精鋭部隊を配置して

見晴らし台から弓矢や砲弾を用いて攻撃することもあったようだ。

 

平和になった今は人員をぐっと減らし、四方を常時3人の兵士が見張っている状況だ。

 

今でも遠方に不審な動きがあればすぐに報告することになっているが、最近は別に

報告するようなことも起こらず、ただぼんやり遠くを見るだけの日々が続いている。

 

 

おれは南東の遥か彼方にローレシアが見える東側にある見晴らし台へと向かった。

 

ここではローレシアからサマルトリアを訪れる奴らの中に不審者がまぎれていないかを

観察するのが主な仕事だが、有事のときはローレシアからの伝令を受け取ったり、逆に

ローレシアに伝令に走ったりしていた。

 

ここにはローレシア青の騎士団の兵士たちとも面識のある奴らがそろっている。

 

伝令を頼むにはこいつらが適任だ。

 

 

「カイン殿下、どうされましたか?」

 

おれに気づいた兵士が声をかけてきた。

 

 

ローレシア王をサマルトリアに招き、歓待したいと思ってよ、おまえたちの誰かに

 伝令に行ってもらいてえんだよ」

 

おれの話が聞こえたのか、他の2人の兵士も足早にこっちへ駆け寄ってきた。

 

 

ローレシア王ってカイン殿下と一緒にハーゴンを倒したあの伝説の勇者ですよね!

 はいはいっ、おれが伝令に行きます!」

 

兵士の1人が勢いこんで言ってくる。

 

 

「なんだと? おれが最初に話を聞いたんだぞ。おれが行くのが当然だろ?」

 

おれに声をかけてきた兵士が他の2人を牽制するように反論する。

 

 

「てめえ、ずるいぞ。たまたまおまえが近くにいたから声をかけただけじゃねえか。

 おれも話は聞いたぜ。カイン殿下は『おまえたちの誰か』と言っただけだろ?

 別におまえを指名したわけじゃねえんだ。ローレシアに行って王様に会う権利は

 おれたち平等にあるはずだぜ!」

 

もう1人の男も抗議してくる。

 

 

3人は「おれが行く」「いや、おれだ」などと言い合いながら小競り合いを始めた。

 

 

「なんだ? ローレシアに行ってこいなんて言ったら、みんな嫌がると思ったのによ。

 まさか率先して行きたがるとはな」

 

意外な反応におれは驚いた。

 

 

「だってローレシア王は、破壊神を破壊した伝説の勇者ですよ! おれたちみたいな

 兵士には憧れの存在ですから。そりゃあみんな会ってみたいに決まってますよ!」

 

1人が目を輝かせて言ってくる。

 

 

「けっ! 馬鹿だな、おまえら。確かに記録上ではカッコよく描かれているけどな。

 王子なんてすげえ奴に見えても、実際は力まかせに敵をなぎ倒すだけの奴だぜ?」

 

おれは王子を美化して褒め称える3人を小馬鹿にするような口調で言ってやった。

 

 

「『力まかせになぎ倒す!』最高にカッコいいじゃないですか!」

 

「それでこそ『勇者』だよな!」

 

「戦士としてとにかく憧れますよ!」

 

おれは王子を馬鹿にして言ってやったのに、3人はさらに憧れを強めたようだ。

 

 

3人は誰が行くかジャンケンで決めることにしたらしく、わあわあと大きな声を出し

大騒ぎしながらジャンケンを始めた。

 

 

「やったぜ!」

勝った1人が拳を突き上げる。

 

 

「くっそぉ〜」「悔しい~!」

他の2人は唇を噛み締めて悔しがる。

 

 

 

「今、ローレシアで特に何も問題が起きてなければ、王子はこっちにくるはずだぜ。

 そんなに会いてえんなら、おれがここに連れてきておまえらにも会わせてやるよ」

 

負けた2人があまりにもしょんぼりしているので、おれは慰めがわりに言ってやった。

 

 

「よっしゃあ!」

「やったぜ!」

 

2人は顔を輝かせて喜んだ。

 

 

おれはジャンケンに勝って伝令に行くことになった兵士に王子への伝言を伝えた。

 

 

『今はナナがサマルトリアに来ているから久しぶりに3人で会いたいと思っている。

 緊急ではないので国内の雑事を片づけてからで構わないが、ナナも待っているので

 出来るだけ早めに来て欲しい』

 

おれが伝言を伝えると、3人は顔を見合わせて何か言いたそうにソワソワしている。

 

 

「なんだ? 何かあったか?」

 

おれが落ち着かない3人に尋ねると「待ってました」とばかりに1人が言ってきた。

 

 

「今、ムーンブルクの王女ナナ姫もサマルトリアにいらっしゃるんですよね!? あの

 強くて美しいという伝説の姫君が! おれたち、ローレシア王と同じくナナ姫にも

 ぜひとも会ってみたいんですよ!」

 

1人の言葉に他の2人も大きくうなずく。

 

 

「ちっ、何事かと思えばそんなくだらねえことかよ。まぁ、しょうがねえな。ナナも

 王子と一緒に連れてきてやるよ」

 

おれが答えると3人は歓声を上げ、手を叩き合ったり抱き合ったりして喜んでいる。

 

 

「急いで行って夜中に伝えるような内容じゃないからな、ローレシアに到着するのは

 明日の朝になってからで構わない。ローレシアに行くときは、キメラの翼も一緒に

 持って行ってやってくれ。向こうでは手に入らない貴重なものだからな」

 

おれが最後に伝えると、伝令兵はニヤニヤ笑ってうなずいた。隣で2人も笑っている。

 

 

言いたいことは伝えたので食堂に戻ろう。

 

おれは兵士3人に別れを告げて歩き始めたが、だんだんと怒りが湧いてきた。

 

 

くそっ! どうなってんだ?

 

あの女中たち3人は「ナナが憧れ」だと言って「ここでナナに会えるなんて!」

きゃっきゃとはしゃいでいるし、見晴らし台の兵士たちは「王子が憧れ」だと言って

会いたい、会いたいと騒いでいる。

 

兵士たちはさらにナナにも会えると聞いて、あんなに大はしゃぎするなんてよ!

 

 

ちっ、どいつもこいつも!

口を開けば王子とナナに会いたがる。

 

おれだってハーゴン倒したんだぜ!

おれがどれだけ素晴らしい活躍をしたかも、ちゃんと記録に残ってるはずなのによ!

 

 

おれのこと「憧れの存在」と明言したのはクリフトだけじゃねえかよ!

 

 

  剣術も魔法にも精通するカイン殿下は私の憧れの存在です!

 

 

 

なんで、あいつだけなんだよ?

他の奴らも少しは「カイン殿下が憧れだ」と言いやがれ! ちくしょう!!

 

 

 

 

 

グループで活動する宿命というか… (;´∀`)

どうしても「人気があるメンバー」「イマイチなメンバー」ができますよね ( *´艸`)

 

今回、カインには「じゃない方」の悲哀を体験させてみました ( *´艸`)

(私は大好きよ、カイン♡)

 

 

唯一まだ救いなのは、王妃の侍女でカインもひそかに気に入っている女中3人組が

「ナナさま♡」なことですね!

 

「ナナさま♡」じゃなく「王子さま♡」だったら、カインの怒りは… (;´∀`)

 

もし3人の女中たちが「王子さま♡」だったら、カインはきっと兵士たちのとき以上に

王子をディスったでしょう ( *´艸`)

 

 

さて、クリフトしか ファンがいないカインですが ( *´艸`)、王子への伝令も

無事に終えたので食堂へ戻りましょう!

 

 

 

 

次回もお楽しみに〜ヾ(*´∀`*)ノ