出会い頭には本をもって

いろいろな考え方や気持ちを動かす本を通して、ゆるやかな気持ちに出会えるブログ

「作文で永遠のような一瞬って書いたら先生にどういう意味って言われたんです」

夏はちょうどいい。

まず長さがいい。オープニングに1ヶ月、メイン2ヶ月、エンディングに1ヶ月をかけたこの上ない構成で成り立っている。とりわけて長くもない。されど短くもない。もう飽きたと思う頃には終わる兆しが見えている。

そして会話のきっかけにちょうどいい。
少し暑くなれば「夏が始まったね」なんて会話が聞こえるし、夏の渦中には「今年も暑いね」なんて声が飛び交っている。極めつけは涼しくなってきた頃に、「そろそろ夏も終わりだね」と、ラスト1曲を迎えるライブのように僕たちにそろそろ終わりだという雰囲気を醸し出して始まりと終わりの合図をくれる。

僕はこのきちんと始まってきちんと終わる夏がたまらなく好きだ。

以前Instagramで知り合った人とご飯を食べに行ったことがある。
本の感想をほそぼそと投稿しているアカウントからDMで会話をして、話してみたいと誘われたことがきっかけだった。

インターネットでつながった人に会った経験はなかったから緊張はしたが、偶然のきっかけで出会うことに憧れていた僕は、少し浮足立った気持ちで待ち合わせ場所である渋谷のカフェに向かった。そこは本が立ち並ぶカフェで、メニューも小説や絵本に出てくる食べ物をイメージして作られた、本がきっかけで繋がった僕らにはうってつけの場所だった。

先に着いた僕はワインレッドのタートルネックを着ていますと服装を伝える。電車が急停止して遅れますと返信が来る。そうしてしばらく待っていると、到着予定の時刻ちょうどにやってきた彼女が僕を見て「それワインレッドじゃないじゃないですか」と笑いかけた。「あれ、違いますか」と僕は情けなく頭に手を当てた。正直、そこからは覚えていない。きっと本の話でもしたのだと思う。

ただ、会話の途中に唐突に発せられた彼女の台詞だけは憶えている。

「高校生の頃、作文で永遠のような一瞬って書いたら先生にどういう意味って言われたんです」

僕はその台詞に何と返したのだろう。
今でも思い出すその台詞の回答を、時折考えてしまう。

その後もう一度、彼女に会った。
行ってみたい定食屋に行き、行ってみたいカフェに行った。なんとなく2度会えば友人になる流れのような気もしたが、それ以降その人とは連絡をとっていない。

彼女は今何をしているのだろう。あれから4年ほど経ち、季節は永遠でもない、一瞬でもない夏を迎えている。きちんと始まってきちんと終わらなかった思い出だけが今も胸の中にある。