選り好み

佐久間と関係のない話ばかり、日記ではありません

兎に角、速く、早く【中】

 

「ばっかみたい、」

枕を強く叩く

「ばか」

また叩く

「・・・ばか、ばかみたい」

枕を叩いた右手をそのままに、髪がたら、とたれてきた。

「少しでも期待した、」

視界が滲んで、眩んで、ああ溢れる、だめだよ、みっともないよ

頬を流れずに目の淵から落ちてそのまま右手を掠って枕に滲む。

「っ」

滲んだ、何も残ってない

「あっああああ」

なんであたしは獣なの

「あああああああああ」

なんであたしはこんななの

「ああああああああああああああっああっ」

たまにはこのくらい泣いてしまってもいいよね、ねぇ

 

 

その日あたしは一日そのベッドから動きはしなかったんだけれど、

日付が変わってからすぐあたしは義母さんが落ち着いたら食べれるよう、置いておいてくれていたスープを食べて、水を飲んでリビングに向かった。

義母さんに美味しかったよって直接言うつもりはないし合わせる顔がない気がしたから置手紙をしに行こうと思った。

廊下を歩きながら置手紙の文をつらつらと考える。

今日はお手伝いしなくてごめんなさい、明日はしっかりお手伝いします、心配をかけてごめんなさい、スープとてもおいしかったです、

それから・・・と考えた瞬間、リビングの中が廊下から少し見えた。

明かりが少しついている。

「?」

何か白いものが、ある?

「・・・何コレ」

机の上に白い可愛いレースの付いた箱があった。

セロテープも何も貼られていない。

義母さんはもう寝てることだし、覗いてしまおうか。

でも、覗いたらいけないかもしれない。

・・・いや、覗いてしまおう。

覗きたい。

結局自分の覗きたいという気持ちに押され、その箱を開けた。

「!?」

中に入っていたものは、白い靴。

白い花・・・

(もしかしてっ)

衣装かけを急いで見る。

「・・・やぁっ・・・ぱり」

白い、真っ白な、ウェディングドレス。

少し、期待、していいのかな?

でもこれはもしかしたら相手は無理やり結婚させられているのかもしれない。

だってあたしだもんなぁ、期待なんてするもんじゃないなぁ

(無理やり、かぁ・・・)

そう一度思ってしまったあとそう思いこんでしまった。

なぁんてネガティブ思考なんだろうなぁ

また、泣いてしまいそう。

泣き虫だなぁ

「~っ」

奥から、何かの奥から、どこかも分からないところからまた分からない感情が、熱い何かが、何かがその熱さで溶かされた感じになって、

「っ」

踵を返した。

リビングの出口へ、

廊下をこえて玄関へ、

玄関のドアを開けようと手を伸ばしたそのとき背後から足音がした。

「っ!?」

気がどうかしてて、

何も分からず 理解せず

 

爪をたてて足音の主を

 

怪我させてしまった

兎に角、速く、早く 【上】

兎に角、速く、早く

 

(あったかい・・・)

ベッドの中、まだ青白い空が窓から見える。

窓に手を伸ばそうと思ったけれど、ドアをノックする音が聞こえたから急いで其の手を引っ込めた。

「入りますよ」

ドアノブがガチャリと鳴って、ドアが開く。

「  、起きなさい」

早朝に何

「  、  、お客様がお見えです」

客なんてアタシにくるはずないじゃん

「お客様を御待たせすることはなりません」

しつこいなぁ

「  ?」

(~っもう!)

「誰?お客様って誰なの?アタシに訪ね人なんて」

「町からのお客様よ、早く御立会いなさい。」

なんだっていうの、こんな朝早くに。

「早くベッドから出てらっしゃいよ?玄関で待っていますからね」

「・・・はぁい・・・」

ドアを開けたまま、母さんは部屋を出て行った。

いや、母さんじゃあない。

アタシは狼だ。

銀色の、髪の色と似た色。

義母さんは人間だ。

この森の奥、義母さんに買われて暮らしている。

義母さんは優しい。

幸せな日々でもあるけど、アタシは狼だ。

皆と違う、だからお客様なんて信じられない。

半分人間で半分狼なアタシに友人なんていない。

友達はいるけれど。

「  !早くきなさい」

ベッドから足を下ろして、裸足のまま、スリッパも履かないで部屋から出る。

秋だというのに、朝は寒い。

(こんな寒い中よくこんな森の奥まで訪ねてこれるね)

廊下を超えて、玄関をそっと覗く。

「・・・どちら様でしょうか」

どうやら訪問客は男性のようだ。

「  、さんですか?」

「はい・・・私です。」

彼は私に一枚の紙を差し出した。

「・・・?」

白い、封筒?

「これは?」

男性は何も答えず、一礼してドアを開けて出て行ってしまった。

意味が分からない。

こんな早朝に訪問して、ただ紙を渡して、質問にも答えず出て行ってしまった。

その場で立ったまま、何も理解も出来ないまま、手元の白い封筒を見つめる。

「なんだっていうの・・・」

アタシが狼だから、いたずらの手紙でもよこしたの?

「  ?」

背後から義母さんの声が私の名前を呼ぶ。

「お客様は御帰りになったの?」

「・・・この手紙だけアタシに渡して帰ってった。」

どれ、と義母さんはその封筒を受け取ると直ぐに手をかけた。

・・・期待なんてしてないから・・・・

「なんて書いてあるの」

義母さんが口元をおさえている。

「・・・これ・・・あんたと籍をいれたいって」

「!?」

アタシの、人間とは違った耳がピン、とたった。

だって私は人間じゃあないのに

違うのに、そんな、いたずらにしても酷すぎる。

「いたずらじゃない!!こんなの、義母さん!」

涙が出る。

ふざけないでよ、馬鹿いわないでよう。

 

 

 

 

 

 

兎に角、速く、早く【上】end