プールのみずのんじゃった。

あとね、◯回寝たらプールなんだよ。

先週のはなぼうは、毎朝、エレベーターで会うひとみんなにそう自慢していた。管理人の山崎さんにも。九階のこうせいくんのおばあちゃんにも。
楽しみにしていたプールは先週の金曜日から始まった。今朝は二回目。帰宅して、どうだった?と聞いてみると、たのしかったよー、と第一声。だけど、しばらくして不安そうにこんなことをいう。

きょうはねえ、ろいくんとふたりでみずのまないようにがんばろうね、ってやくそくしたんだよ。でも…のんじゃった。

放射能を飲み込まないように心がけてみたのだという。ほかのおともだちにはいわないよ、だってみんなほうしゃのうのことしらないから…。

ろいくん一家は数少ない同志。不定期で我が家に集まり放射能会議を開く。新しい情報を交換したり、保育園や区に要望を出す際に相談したり。同じ年中組に通わせる親同士、知恵を出し合って、やっていこうというのが口実だか、じっさいはご飯を食べながら、ビールを飲みながら、あれこれおしゃべりをする。
ああでもない、こうでもない、と話すなかで保育園に働きかけてきた。最初は同じ疑問を抱えるひとがまったくみつからなかったけど、ひとりまたひとりと放射能に対して不安をもつ親はみつかった。みんな口に出さないだけなのかもしれない。子どもを人質にとられている。そういう思いはよくわかる。言いたい、けど言わないのだ。

でも、言わなきゃ始まらないし、とあれこれいうたびに困ったさん扱い。弁当を持参させてほしい、線量を測って欲しい、プールをきちんと洗浄してほしい、というたびに園長と″ご相談″なのだ。大変大変やれやれ。と少しだけ気負って過ごしてきた。少しは前へ進めたかのような気さえしていた。

けれども、である。ずっとはりつめてふんばってるのは子供の方なのだった。
プールで遊ぶときくらい、がむしゃらに水かぶって飲み込んで、むせっかえして水かけ合うのが子供の本分に違いない。昼ごはんはみんなと一緒の給食をパクつき牛乳をがぶ飲みしたいはずなのに。自分なりに折り合いつけていこうとふんばってるのだとして…。

こどもはこどもでだいじなものを失っている。