太って妊娠した

身長160cm体重45kg生理不順で来院されました。結婚後2年で妊娠の希望もありました。基礎体温は低温1相性でした。この方のようにやせすぎていますと生殖機能は制限されホルモンの分泌が適正ではなくなり卵胞の発育が悪く排卵しません。もう少し体重が増えてきますと少しづつホルモンの分泌がなされ卵胞が発育し排卵に到ります。お薬で生理にし排卵誘発剤を菜内服しましたが卵胞の発育は芳しくありません。排卵誘発剤の注射を数回しましたがやはり卵胞が大きくなりませんので今回は終了としもう少し体重を増やしてから排卵誘発をすることとしました。53kgとなり排卵誘発剤の内服、注射で卵胞が十分に発育してきました。排卵直前まで大きくなりました。頚管粘液が少ないので、今回の治療は人工授精を選択し、黄体期補充をしたところ妊娠が成立しました。この方のように少し体重が増えてきますと治療によく反応し妊娠の成立が望めますが体重が増えない方はなかなか難しい面があります。体重が増加しすぎるのも問題ですが減りすぎても妊娠から遠うざかりますので標準体重が妊娠にはよいと思います。

5.妊娠力で妊娠する

妊娠力という言葉を目にすることがあります.これを信じていれば妊娠が可能のような、不思議な響きを持っています。確かに、普通の方はしっかりとした避妊をしていなければすぐに妊娠してしまいます.しかし、1割の方は1年以上たっても妊娠しないために不妊症というカテゴリーに入ってしまいます.そこには何らかの原因があるのでしょう.しかし婦人科で不妊検査をしても約半数の方は、はっきりとした不妊原因はわかりません.これに対する解釈が問題で、不妊原因はないとするのか、原因不明不妊として治療が必要なのかです。わたしの解釈は不妊検査は簡単なものしかなくもっと本質的な検査方法がないために不妊原因を追求できないでいると考えます.そのために、排卵誘発、人工授精、腹腔鏡、体外受精と治療を進めます。しかしこれでも妊娠せずに治療を休んでいる時に自然に妊娠が成立することがあります.これなどは治療することにより妊娠力が少しずつ回復し休むことで完全に回復したことで妊娠したのでしょう.体外受精では生理になったがその後自然妊娠が成立することもあります。
「妊娠力をつける」という本もあります。(放生 勳 著 文春新書)この本は内科の医師である放生氏が自らの不妊体験をきっかけに不妊相談を開始しその成果を上装したものです.私たち産婦人科とは違った視点があり有益な本です.人には潜在的に妊娠力があり、それを導きだす方法が不妊治療だ、と明快です.未妊、不妊治療不妊、性生活習慣病結婚適齢期はなくなっても妊娠適齢期はなくならない、など新鮮な言い回しがあります.また、あまりにプライベートなことで踏み込んで考えていなかったのが不妊と性交回数に関してでした.恋愛期間が長かったり、結婚して月日が経ち、また2人目不妊などの場合は性交回数が次第に少なくなり、タイミングがとりにくくなってきます.さっそく外来で不妊の患者さんに聞いてみますとやはり、性交回数があまりないご夫婦が多く,妊娠力を下げています.このような方々には夫婦関係に何か新鮮な工夫をすれば妊娠に至るのではないでしょうか.

4. 子宮卵管造影で妊娠する

2月に来られた30才の患者さんで結婚して2年.避妊期間は1年、その後1年妊娠しないために不妊検査、不妊治療で来院されました.ホルモン検査、経膣超音波検査、精液検査は異常なく、3月の生理後子宮卵管造影をし子宮•卵管は正常でした.排卵は少し遅くなりましたが排卵期にタイミングをアドバイスしました.その後生理がないために妊娠反応をしますと陽性が出ました.
年に数人は子宮卵管造影検査の後妊娠が成立しています.2人目不妊の場合は子宮卵管造影を省略して通水検査をしますが、これでも妊娠が成立しています.子宮卵管造影検査は不妊症の必須の検査ですが,痛みがあるために患者さんに嫌われています.以前は子宮の出口を鉗子でがっちりつかんで造影剤を入れて卵管の通りを見ていました.この子宮の出口をつかむことが飛び上がる程痛かったと聞いています.いまは子宮の中に細い管を入れ、そこから造影剤を注入しますので、ずいぶん痛みは減りました.どうしてこの検査で妊娠が成立するかについては想像ですが、卵管は非常に細い管ですので、少しのことで中が詰まったり動きが悪くなり精子卵子の移動に障害がでていたのでしょう.そこに、造影剤がザーと押し寄せて卵管の軽い詰まりを押し流したり、造影剤が入ることにより卵管が刺激されて動きがよくなったのかもしれません.
排卵誘発、人工授精、腹腔鏡,体外受精、顕微授精と次々不妊治療をステップアップさせてもなかなか妊娠されない方がおられる中、
この程度の検査で妊娠が成立することは大変喜ばしいことです.

3.スーパーAIH(人工授精)で妊娠する

人工授精は昔からある不妊治療で妊娠率も高々1割程度と低く、体外受精に比べると見劣りのする治療法ですが、これに一工夫を施すと大変良い妊娠率が得られます.
方法は、まず月経が始まるとすぐに点鼻薬を使用します.この薬で下垂体の働きを抑え自然な卵巣の卵胞の発育を止めたところでHMGという排卵誘発剤を1週間程毎日注射しますと、卵巣にたくさんの卵胞が発育します.この方法は体外受精の卵巣刺激法と同じです.体外受精の調節卵巣刺激を人工授精に応用したものです.体外受精ではこの後採卵ですがスーパーAIHでは人工授精をします.
人工授精では妊娠率は高々1割程度ですが,この方法ですとなんと4割台の妊娠率が得られます.どうして妊娠率が良いのかはっきりとした理由は不明ですが、考えられることは、卵巣に多くの卵胞が発育しここからたくさんの女性ホルモンが分泌され子宮内膜などの発育が進み妊娠しやすくなった.多くの卵ができることにより1個のときより妊娠の確率が上昇する.つまり何ヶ月分の治療を一回でするためでしょう。卵胞が多く発育することにより卵巣の大きくなり子宮、卵管、卵巣の位置が少し変化し軽い癒着などが除かれ、排卵された卵子が卵管に取り込め易くなったなどの理由が考えられます.
不妊治療で普通の人工授精を何回も続けている方がおられますが、人工授精で妊娠する確率が一番多いのは1回目で、3回以上では妊娠率がぐっと下がってきます。そこでこの方法を試し、これでも妊娠しなければ次の不妊治療のステップは腹腔鏡か体外受精でしょう.

2. 2段階胚移植は驚異的に妊娠の確率を上昇させる

体外受精のときの胚移植は普通は採卵後2〜3日目に4〜8細胞期の胚3個移植し、妊娠率は約30%です.新しい方法としては5日目まで培養し胚盤胞を1個移植することにより、妊娠率4〜50%とよい成績が得られています.これでも妊娠しない場合にこれらを組み合わせた2段階胚移植法というものが開発されました.これはなんと70%の妊娠率だそうです.さっそくわたしも試みてみました.期間平成18年2月から8月までの7ヶ月間に採卵した43症例のうち受精卵を得られた34例を対象とし、35才未満で初回の体外受精の9症例は初期胚移植だけ、それ以外の25例は2段階胚移植をしますと、妊娠例は 15例、妊娠率は44%でありました.このうち2段階胚移植で良好な胚盤胞ができた症例では妊娠率はなんと76%に上りました.
この2段階胚移植の理論は、まず最初に移植した胚が子宮内膜に働きかけ着床に適した子宮内膜に変化させ,そこに胚盤胞を移植すると非常に着床がうまく行くということだそうです。この方法は滋賀医大で開発され全国に広まっています.しかし、妊娠率がよい反面、多胎妊娠の率が高いのが欠点です.

     初期胚移植    2段階胚移植
妊娠例  2/9 , 22%    13/25 , 52%
良好胚  2/5 , 40%    13/17 , 76%

 

DHEAは男性ホルモンの一種ですが卵巣に取り込まれて女性ホルモンになることから女性ホルモンの前駆物質とも考えられます.このホルモンは抗加齢物質でもあり、35才から減少傾向を示しますので、これを内服すると若返るといわれています.いま不妊領域でこのホルモンが注目されているのは平成17年に大阪で開かれたIVF研究会でニューヨークの生殖医学センターのグレイシャー所長が講演し40歳台の不妊症患者がこのDHEAを内服すると体外受精で採卵数が増加し妊娠率も増加し、効果的であったと述べてからです.そこで私も体外受精の治療をしてもなかなか妊娠が成立しない35才以上の不妊症患者さんにこのホルモンを勧めてみました.DHEAは日本構内では販売されていませんが、インターネットで個人輸入で購入することができます.十何人の患者さんが内服しましたがそのうち3名に妊娠が成立しました.2人の妊娠に成功した患者さんは10回目の体外受精で晴れて妊娠し、もう一人は4回の体外受精が失敗した後になんと自然妊娠に至りました.内服したすべての患者さんに効果があればよいのでしょうが、薬の効果には個人差があるようです.しかし、これで不妊の泥沼から這いあがることができれば試す価値はあると思います.