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令和4年度原子力規制委員会 第72回臨時会議議事録

2023年2月13日に行われた原子力規制委員会で、老朽化した原子力発電所の継続利用を可能にする決議が行われた。規制委員の中で反対したのは一名のみ。歴史的な決定にもなりうるので、委員の名を記録するとともに、議事録の翻刻を行った。出典はこちらのページにあるPDFである

委員長 山中 伸介(元大阪大学大学院工学研究科 教授)
委員 田中 知(元東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻 教授)
委員 杉山 智之(元日本原子力研究開発機構安全研究・防災支援部門安全研究センター 副センター長)
委員 伴 信彦(元東京医療保健大学東が丘看護学部(現東が丘・立川看護学部) 教授)
委員 石渡 明(元東北大学東北アジア研究センター 基礎研究部門地球化学研究分野 教授)

委員の紹介|原子力規制委員会

反対したのは石渡委員のみであった。こうして眺めると、自然科学者は石渡氏のみである。



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令和4年度原子力規制委員会 第72回臨時会議議事録

令和5年2月13日(月)

原子力規制委員会

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令和4年度 原子力規制委員会 第72回臨時会議

令和5年2月13日 18:30~19:50

原子力規制委員会庁舎 会議室A

議事次第

議題:高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討(第9回)

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○山中委員長

それでは、これより第72回原子力規制委員会を始めます。

本日の議題は「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討(第9回)」です。

説明は、原子力規制企画課、金城課長からお願いします。

○金城原子力規制部原子力規制企画課長

それでは、資料に基づきまして、金城の方から説明させていただきます。

最初の1.と2.の「趣旨」「経緯」のところでございますけれども、前回、概要案に関する科学的・技術的意見に対する考え方を了承いただきましたけれども、概要案の決定に当たりまして意見がありまして、更に委員間で議論することとされました。

その概要案を踏まえて条文案を作成しまして、本日はこの概要案についての決定を付議し、あと、条文案ですけれども、その了承を諮るものでございます。

まず、安全規制の概要ということで、これは別紙1のとおりでございます。また後ほど簡単な追加説明をいたします。

4.のところの法案等のところですけれども、条文案を別紙2-1、2-2と準備いたしまして、この了承をいただきたいというものでございます。これはなお書きにもありますように、閣議決定されるまでの間に法文上の技術的修正が加わる可能性があるということで御承知おきいただければと思います。

なお書きにございますように、原子力基本法の一部改正案、使用済燃料の再処理等の実施に関する法律の一部改正案については、臨時会議において内容を確認いただいておりますけれども、原子力発電の利用に係る原則の明確化、円滑かつ着実な廃炉の推進等のためのもので、規制や原子力規制法上の責任に影響を与えないといったことで、規制に影響を及ぼすものではないといったことで確認いただいているかと思います。

2ページ目に移りますけれども「今後の予定」としましては、この後の当然審議結果にもよりますけれども、決定、了承いただけましたら、こういう予定で進めたいと考えてございます。

3ページ目、別紙1ですけれども、これまで議論いただいた安全規制の概要といったもので、運転期間に関するものではないということでございます。

追加の説明が必要なのが、4ページ目に移らせていただきまして、11.の①のところで、円滑な移行のためにあらかじめ長期施設管理計画の申請及び認可ができるといった規定になっていますけれども、こちらの方、一部義務化したところがございますので、後ほど資料で説明させていただきます。

5ページ目からの別紙2-1が条文案でございます。改めるといったもので条文を構成しているもので、準備移行段階の話などはこの中で書かれてございます。

あと、21ページ目、別紙2-2は新旧対象条文となってございますけれども、この中に書いてあることを簡単に要約したものが45ページ目の別紙2(参考)にございます。

どういったところにどういう内容が書いているかは、こちらを御覧いただければ、目次

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のようなものになっていますので、御覧いただければと思いますけれども、先ほど後ほど説明すると言ったものは46ページの<附則>のところでございまして、施行日時点で運転開始後30年を超えて運転している発電用原子炉は、長期施設管理計画の認可を受けなければならない時点が明確でないといったことから、準備行為として認可を義務づけることとしているところでございます。

ここに「施行日」と出てきますけれども、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日といったことで、この条文案を準備してございます。

あとは参考資料でございますけれども、47ページ目は参考1といったことで令和2年の見解をお届けしておりますし、最後の49ページ目の参考2は、一方で、電事法(電気事業法)の中で運転期間に関する整理が進んでおりますけれども、こちらの方、上の方に40年原則、下の方に最長で60年に制限するといった枠組みが書いてあるかと思います。

原子炉等規制法は基本暦年で、運転期間は最大でも暦年で60年といったことでありますけれども、こちらの方を御覧いただければお分かりのとおり、運転期間は暦年では60年を超過するといったことになりまして、炉規法(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)の規定とは本質的に異なるものといったことで、今、電事法の準備が、【政府検討中】とございますけれども、進められているところでございます。

資料の説明は以上でございます。

○山中委員長

どうもありがとうございました。

先日の原子力規制委員会において、高経年化した発電用原子炉に関する安全性の検討に関する議論の中で、安全規制の概要について賛否を問うたところ、幾つかの意見がございました。委員それぞれの本件に対する心情については十分理解した上で、まずは、技術的な観点から、本日は高経年化した発電用原子炉の安全規制について議論を進めてまいりたいと考えております。

本日は3点議論を進めたいと思っています。

まずは運転期間の考え方、その次に、高経年化した原子力発電所の安全規制について、具体的に技術的な議論をさせていただきたいと思っています。最後に、審査の長期化と本件についての関係についての対応について、議論させていただきたいと思っております。

まず、金城課長から、資源エネルギー庁の運転期間についての考え方と安全規制のタイミングの問題について、説明をしていただきたいと思います。

○金城原子力規制部原子力規制企画課長

それでは、資料のエネ庁(資源エネルギー庁)の方の関係と当方(原子力規制庁)の方の関係ということでございますけれども、まず、先ほどエネ庁の方は御説明いたしましたので、基本的に60年を超えて暦年で運転できるといったようなものですけれども、まず、我々の方の安全規制ですけれども、別紙1の方に戻っていただけますでしょうか。3ページ目でございます。

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別紙1の方にございますように、令和2年の見解を踏まえて利用政策の側で運転期間に関する制度の検討が進められているといったところでありますけれども、我々としましては、見解を踏まえまして利用政策の側がどういう運転期間に設定しようとも、しっかりとした高経年化した発電用原子炉に関する安全規制を確保するといった観点からこのものを進めておりまして、一つ目にございますように、まずは、エネ庁側の運転期間に関わりなく、炉規法の中では暦年を使っていますけれども、暦年で運転開始後30年を超えて発電用原子炉を運転しようとするときは、10年を超えない期間を基にその劣化を管理するための計画を策定しまして、この計画について原子力規制委員会の認可がなければ。

○山中委員長

すみません。具体的な安全規制の説明というのは、また後ほど説明していただくかも分かりませんけれども、具体的に運転期間が資源エネルギー庁でどういう提案がなされていて、我々原子力規制委員会として安全規制をどういうタイミングで行っていくのかということについて、端的に説明していただけますか。

○金城原子力規制部原子力規制企画課長

失礼しました。

それでは、エネ庁の方の提案は、最後に説明いたしました参考2、49ページ目の資料になります。

こちらの方ですけれども、まずございますのが、発電用原子炉を運転することができる期間、運転期間といったものは、最初に使用前検査に合格した日から40年といったことでございます。こちらの方は基本的に炉規法の方で言っている40年と同じような規定になるかと思います。

一方で、40年を超えて運転しようとするときは経済産業大臣の認可を受けてといったことでありますけれども、こちらの方の要件は、①から④に並んでいますように、安全規制というよりは政策上の観点から、最初にありますような平和目的とかから始まりますけれども、例えば、③にございますように、非化石エネルギー源の利用促進を図りつつ電気の安定供給をといったことで、まず、延長の認可といったものが議論されてございます。

大きく違いますのは、その下にありますけれども、運転する期間は最長で60年という枠組みは維持というのですけれども、こちらにございますように、以下の停止期間については60年の運転期間のカウントから除外するといったことで、①から⑤とございますけれども、例えば、①にありますのは、安全規制等に係る法令等の制定や改正、運用の変更に対応するために運転を停止した期間といったものは、最長60年のものからは除外するといったものが今準備されているといったものであります。

その他、行政処分、行政指導、仮処分命令等、やはり技術的というよりは政策的な観点から、そういったものの停止期間について、カウントから除外といったものが検討されているといった状況でございます。

このような説明でよろしいでしょうか。

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○山中委員長

ありがとうございます。

資源エネルギー庁の考え方は、今、金城課長から話があったとおりです。この考え方からいたしますと、令和2年7月29日の原子力規制委員会の見解としてまとめた、運転期間は意見を申し述べるべき事柄ではなくという考え方に基づきますと、資源エネルギー庁の運転期間に対する考え方からすると、我々原子力規制委員会は60年以上のタイミングまで安全規制を行う必要があり、原子炉等規制法の改正を行わなければ、安全規制ができなくなる可能性があると私自身は考えます。

2年前の原子力規制委員会の見解も、10年間の様々な積み重ねの結果だと考えております。最初の5年の間は運転延長の制度を設計して、実際に4基の原子炉の審査を行って、技術的な検討を経て認可をいたしました。5年前から運転期間についてどうあるべきかというのを議論してまいりました。

高経年化に伴う劣化というのは一律ではなくて、個々の原子力発電所で確認していくべきものであると考えられます。これは既に原子力規制委員会で見解として申し述べてきたことと変わらない事柄ですが、私もそのように考えます。科学的に原子力発電所の寿命が一義的に決められるというものではない以上、一定期間ごとに劣化の程度を個別に確認していくことが必要であると考えます。

また、新しい知見がなければ原子炉等規制法を改正できないというものではなく、例えば、新検査制度の導入などはその一例かと思います。

ここで委員の方の運転期間に対する様々なお考えはあろうかと思いますけれども、御心情抜きで技術的な議論を行いたいと思いますので、それぞれの委員から御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。

○石渡委員

まず、本日の資料について一つ申し述べたいのですが、今、山中委員長も引用された令和2年7月29日の参考1となっている本日の文書ですが、これはどういう文書かということなのですけれども、ここに書いてある表題は「運転期間延長認可の審査と長期停止期間中の発電用原子炉施設の経年劣化との関係に関する見解」という文書であります。

1項目目に書いてある「いわゆる原子力利用の推進の機能に該当するものであって、原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない」というようなことは、これはもっと大きなことでありまして、延長認可の審査と、それから、発電用原子炉施設の経年劣化との関係という特定の課題に関することではないように思うのです。

そもそもこの文章はどういう場で出てきた文章かといいますと、これは令和2年度の第18回原子力規制委員会の議題5であります。議題5、このときは五つしか議題がなくて、これは最後の議題で、普通、最後の議題というのは、大体報告とか、そういうことが多いわけですけれども、どういう題名の議題だったかといいますと「経年劣化管理に係るATENA」、これは原子力エネルギー協会ですか、事業者団体ですね。「ATENAとの実務レベルの技術的

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意見交換会の結果を踏まえた原子力規制委員会の見解(案)について」という議題の中でこの文章が出てきました。

ですから、これは当然、6回行われたATENAとの実務レベルの技術的意見交換会の内容を踏まえた文書になっているはずであると思います。実際、そういうATENAとの懇談、意見交換を踏まえた内容も当然盛り込まれておりますが、「原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない」という、この部分に関する議論は、6回の議事録を私は全部検索しましたが、こういう議論が行われた形跡はありません。

これは、ですから、この文章のこの部分がどういう経緯でここに盛り込まれたのか、私は非常に疑問に思っております。この文章は、昨年9月末以来、何回も何回もこの場に出てきているわけですけれども、この文章は、特に「原子力規制委員会が関わるべき事柄ではない」ということについて、原子力規制委員会が、その当時、よく議論してこれを決めたかというと、私はそうではなかったのではないかと思います。これは、杉山委員以外の委員は、皆さん、ここにいらっしゃったわけですから。

ちなみに、参考1のこの文章の一部でも御執筆なさった委員の方はいらっしゃいますか。

誰も執筆していないのですよね。ということは、つまり、これは更田委員長か、あるいは原子力規制庁の誰かが執筆した文章です。

私は、この文章をあたかも金科玉条のように使って、原子力規制委員会が関わるべき事柄ではないということが原子力規制委員会の全体の意志として確固として決定されたというものでは、私は、ないのではないかと考えるのですけれども、皆様の見解はいかがでしょうか。

○山中委員長

少なくとも、私の見解を述べさせていただきますと、私自身も出席させていただいていましたし、前委員長も出席をさせていただいたCNOとの会合、これも3回、この5年間で行われておりますし、その中でも、運転期間というのはどう考えるべきものであるのか、あるいは運転停止期間というのをどう考えたらいいのかということについては、議論をさせていただきました。

したがいまして、運転期間そのものについては、どう考えるべきなのかということ。確かに石渡委員の御指摘のように、タイトルと、いわゆる提案の1.から6.までございますけれども、非常に様々な内容が盛り込まれております。運転停止期間についても、劣化が進むものであるという、そういう見解もまとめられておりますし、6.については、運転期間そのものについては政策的に判断すべき事柄であって、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではないという、そういう事項も含まれております。

これは少なくとも様々な場での意見交換も含めて、委員も出席し、前委員長も出席した場で議論がなされたことをまとめた資料であると思っております。

私の見解はそういう見解でございますし、それぞれの委員の御見解を改めて確認させていただきたいと思います。9月26日に就任させていただいて、私が就任した段階で、改め

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て本件については、杉山委員が参加されておりましたので、原子力規制委員会の場でこの見解についてどうですかということは一度お諮りさせていただいたと思うのですけれども、改めて個別に委員の方の御意見を聞いてみたいと思います。いかがでしょうか。

○田中委員

この令和2年7月29日の原子力規制委員会のときに、議題の中で五つ目だったのですけれども、こういうものが示されて、石渡委員が言われるように、十分議論したかというと、若干議論が少なかったかも分からないのですけれども、私としても、これを聞いて、一つの方向としてこういうものでいいのではないかなとそのときに思いました。

また、その後、昨年9月頃でしたか、これもまた議論が進んでいくときにももう一遍これをじっくり見たのですけれども、ここで言っている見解といいましょうか、大きな考え方は、私としては、このようなことで技術的・科学的に考えてもいいのかなと思います。

もちろん原子炉等規制法の中の43条のところに、運転期間の話と、どのように見ていくかの両方を書いているのですけれども、国会審議でいろいろな議論があったかと思うのですけれども、このような考え、この見解は、私とすれば妥当なものではないかと思いますし、今回の概要とか法改正などもこの方向かなと思います。

以上です。

○山中委員長

そのほかの委員はいかがですか。

○杉山委員

私はこのペーパーが出たときには委員ではなかったわけですけれども、では、改めてこれを見てどうか。まず、今の炉規法における40年プラス20年という定めが安全確保の上でベストかと言われたら、私はそうは思っていなくて、それは40年が30年だったらいいかとか、そういう数字の問題は気にしておりません。

この定め方で、今の決めだと、最初の使用前検査が終わった段階でタイマーが始まる。

そこからの年齢を数えるわけですね。そこにほかの制度と組み合わせれば、ある程度は最新知見を盛り込むことを義務化できるのかもしれないのですけれども、単純な年齢で定めるというのは非常に抜けが多くて、要は、古い設計で今新しく建設して、今、使用前検査を終えて最新の炉で40年使えますよというのは、私は、正直、納得がいかないのです。

以前から設計の古さを何とか判断したいですということを申し上げてきたのですけれども、これは、だから、古さとかは関係なしに、単純にタイマーがスタートしたら、40年を保証しているかのように私には見えて、その意味で、数字の問題というよりは、この決め方が余り私は原子力規制委員会のやり方とフィットしないような気がします。

もう一つの問題は、先行例といいますか、実際、40年を迎えるに当たって延長認可を受けた炉が幾つかございますけれども、満40歳になるまでに次の20年の認可を受けなければいけない。だから、我々の立場でいうと、許可をしなければ、そのタイミングで間に合わなければ、もうチャンスはない。もう廃止措置ですよという。

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実際、そうなったかというと、ならなかった。それはやはりそこで原子力規制委員会が判断に時間をかけて、時間切れになって、だから、もうおしまいですよというのは、それは我々が、ある意味、寿命を決めたようなことになってしまうわけで、当然、それは避けたかったのだろうと思いますけれども、ただ、慌てて審査をしなければいけないような我々の締切りになってしまうという今の制度は何かおかしくないかと、外から当時ずっと見て思っておりました。

だから、審査する側が締切りを設けられて、そこまでに合格を出さなければいけないような作りになってしまっているところも、今の炉規法の、これは炉規法の本体だけで決まっている部分ではないのかもしれないのですけれども、何か変な立て付けだなと思っておりました。

そういうところもありまして、今、このペーパー、個人的には表現ぶりとかで必ずしも100%アグリーでないところもあることはあるのですけれども、基本的には単純な数字で何年までと決めるというのは原子力規制委員会のやり方にフィットしないであろうという点では、私はこのペーパーに現在の立場では納得しております。

その上でどうするかという議論をこのしばらくこの場でしてきたわけで、私は今、何が一番これまでの議論で問題があったかなと振り返ると、やはり説明が足りなかった。原子力規制委員会のたびにこういう議論をして、先ほど申し上げた設計の古さとか、あるいは基準を厳しくすることによって古いものを排除するというような仕組みを作れるという、フレームワークとしては用意できるという話をしたのですけれども、今回、パブコメパブリックコメント)にかけた資料というのは余りにも限定された範囲で、我々の規制の全体像が説明されていない。

それは今までのいろいろな資料をかき集めれば、見えてくるのかもしれないのですけれども、やはり議論を進める中できちんとそういうところは整理して、見せながら進めてくるべきだったというか、今からでもそれをやらなければいけないと思っております。

これは、だから、説明だけの問題かというと、そうではないのですけれども、それでも少なくとも我々はきちんとした説明責任を十分果たせていないと感じております。

○伴委員

これを確か決めたときに、ATENAとの実務レベルの技術的意見交換会ということだったので、本当に科学的・技術的な見地から、運転期間のカウントの仕方というのはどうあるべきなのかというのを、予断を持たずに議論しようではないかという形で確か始まったと理解しています。

それで、では、本当に科学的・技術的見地から何年が妥当であり、あるいはどうカウントするのがいいのかということを原子力規制委員会原子力規制庁内部で、あるいはATENAの関係者との間で議論をしたときに、結論としては、それは一律に決められないという結論だったと思うのです。

そもそもこの40年、60年というのは、技術的見地が全くなかったわけではないにしても、

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やはり最終的には政策判断として決められたものであって、科学的・技術的見地から何年が妥当であるということを我々が決めることはできないということをここに盛り込んだので、表現上の問題はあるかもしれませんけれども、その趣旨としては私もそれでよいのだと理解しています。

○山中委員長

そのほかはいかがでしょう。

少なくとも高経年化に伴う劣化というのは、当然、その年数が減れば劣化は生じます。ただし、それは一律ではなく、個々の原子力発電所でやはり確認すべきものであって、何か科学的に原子力発電所の寿命が一義的に定まるものではない。それ以上、運転期間というのを我々が一義的に定めていいものであるということは判断できないと私自身は考えます。

石渡委員、その点について、いかがでしょうか。

○石渡委員

ですから、この文章というのが原子力規制委員会に出されたその場の議論といいますか、その議題から見て、ATENAとの高経年化に関する意見交換のまとめとしてこれが出されているわけです。

実際、去年9月にATENAが高経年化に関する自分たちの簡単なパンフレットみたいなものを出したわけですけれども、その中にも参考1と本日出されているこの資料が引用されております。引用されておりますけれども、例えば、第1項目とか、最後の第6項目のような、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではないというような文章は入っておりません。真ん中辺の技術的な結論だけが引用されています。

その意味で、原子力規制委員会が関わるべき事柄ではないというのは、これは今、伴委員がおっしゃったように、技術的・科学的にある年数を決めるということはできないと、そういうニュアンスで元々書かれていたことだと私は理解しました。

ですから、これを根拠にして、例えば、炉規法の40年ルールをなくしてもいいとか、そういう議論には私はならないのではないかと思います。

以上です。

○山中委員長

根本から食い違ってきたのですけれども、この辺りはいかがでしょう、ほかの委員。

○田中委員

先ほど山中委員長が言われたように、各々の個別の実用炉というか、発電所の状況を見て、それがあと何年、10年延長できるかどうかというのは、それは個別に科学的・技術的な判断から決めることであって、一律にそこはなかなか決められないと思うのです。

同時に、また、石渡委員が言われるように、現在の43条のどこどこの第1項に40年とあるのですけれども、そのときにいろいろ国会で議論があったかと思うのですけれども、そのときに本当に法体系の中であそこに40年のことを書くことがいいのかどうかというのは、

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もちろんそのときの国会での議論なのですけれども、でも、今回のいろいろな法改正の状況を見ると、ちょっと別に分けた方がいいのではないかという観点で今議論されているところだと思うので、私自身とすれば、やはりいろいろな、我々が科学的・技術的な観点から、事業者が提出する長期施設管理計画等について、しっかりと確認するということが原子力規制委員会の大きなミッションであると、大きな知見であるということを考えると、

このような方針がいいのかなと私自身は思います。

○山中委員長

そのほかはいかがでしょう。

7月29日の段階で、私自身、この考え方に対して、やはり運転期間については、政策的に判断をしていただくべきことであると。つまり、長くなるか、短くなるかというのは利用政策上の判断であって、我々原子力規制委員会が何か運転期間を定める、あるいは原子力に対して提言するとか、提言しないとかということに対して物を申す立場にはないという、そういう意見を申し上げたと私自身も記憶しております。

少なくとも我々がやるべきことは、高経年化した原子力に対する安全規制を確実に行うこと、基準に適合しているかどうか、基準に適合していなければ、その原子炉の運転は認可できないということになりますし、基準に適合していれば認可できるということになるわけです。

現状でこの10年積み重ねてきたのは、40年という運転延長認可制度を、1回で20年先まで見通して60年までの運転を認めるということを我々は行ってきて、技術的にも科学的にもそれは評価として妥当なものであるという経験を積んできたわけです。

したがいまして、期間がどうなろうとも、我々の任務としては、やはり安全規制をしっかりと行っていくということであって、その考え方がこの資料の6番目の項目の考え方であると私自身は考えます。

○伴委員

参考1の資料の3.目ですけれども、ここで、では、40年とは何なのだという話になったときに、結局、このときの結論としては、一つのタイミングでしかない、評価を行うタ

イミングという以上の意味を持ち得ないというのが結論だったと思うのです。

それで、結局、その評価の、一遍立ち止まってそこでしっかり見て、それで、更に運転を延長できる状態にあるかどうかというのをむしろもっときめ細かく見ていくことで、経年劣化の評価をきちんとしていくというのが、今、提案されているやり方だと思って、40年が特別ではなくて、30年以降という言い方をしていますけれども、場合によっては、40年より手前であっても駄目なものは駄目だときちんと言える。そういう制度にするという意味では合理的なものだと私は考えています。

○石渡委員

ただ、現在の制度でも40年目に特別検査を行うわけですよね。40年目は。そういうことになっているはずです。一つ、しっかりした規制を行うというのは、もちろんそれはその

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とおりで必要なことなのですけれども、では、60年目に何をするかということが今は決ま

っていないと思うのです。これを決めずにしっかりした規制を行うといっても、これは余り、どういう規制を行うのかが具体的になっていないと思うのですけれども、そこについてはいかがでしょうか。

○山中委員長

少なくとも50年目までは現行のルールで十分であるということは、議論させていただいたと思います。60年については、具体的に何か現行の申請項目について、プラスアルファで加える必要があるかどうかということについては、今後、議論をさせていただきたいという、そういうこれまでの議論だったかと思います。

その点については、石渡委員がおっしゃるとおり、具体的な項目については決まっておりませんけれども、少なくとも50年までの項目はきちんと見ていくということで、プラスアルファでどういう項目を加えるべきかということについては、いまだ決まっていないというのは事実でございます。

○石渡委員

ただ、こういう提案をされるということであれば、私は、少なくとも見通しぐらいは、このような規制をやる方針であるということぐらいは現時点でやはり決めるべきことではないかと考えます。

あと、先ほど説明があった参考2の、これは電気事業法の方の話だと思うのですけれども、これは前回も述べましたが「安全規制等に係る法令等の制定や改正、運用の変更に対応するため、運転を停止した期間」は60年にプラスするという案のようなのですが、我々審査に関わっている人間としては、原子力安全のために審査を厳格に行って、長引けば長引くほど運転期間がどんどんその分だけ延びていくと。私はこれは非常に問題だと考えます。

以上です。

○山中委員長

これは3番目に議論しようかなと思っていた点で、審査に対する公平性・公正性というのが損なわれる可能性がある。いわゆる審査を慎重にやって、時間が掛かれば高経年化が進むという、そういうプレッシャーが審査官にも掛かりますし、審査を担当する委員にも掛かってしまうと。

それと、高経年化がこのルールでは進んでいくというのは事実でございますので、これは審査の問題と高経年化の安全規制の問題と両面をはらんでいるかと思いますので、最後の項目として議論をさせていただきたいと思います。

次に、まず、運転期間についての考え方というのは、やはり石渡委員とまだ一致しないところがあろうかと思いますけれども、少し議論を先に進めさせていただきたいと思います。

次に、高経年化した原子炉の安全規制の具体的な、技術的な議論をさせていただきたい

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と思います。

先ほどからお話をさせていただいているように、劣化というのは、原子力発電所の使用期間が長くなればなるほど、当然、進んでまいります。ただし、我々が責任を持たなければならないのは、期間ではなくて、ある時点で我々が高経年化した原子炉について設けた安全に対する基準が満たされているかどうかをきちんと技術的に判断するかどうかということに尽きると私自身は考えています。

ある時点で、例えば、40年で、この先20年運転を継続していいという現在の制度であれば、そういうルールに基づいて我々は審査を行って、認可できたものについては運転を認めるし、万が一、40年で認可できなければ、運転することは認められないという、そういう制度になっておりますけれども、これからは30年以降、同じ仕組みを10年ごとに設けて、きちんと審査をしていこうという制度にしていこうと考えています。

技術的には40年で行っている仕組みを10年ごとに行うということで、基本的に今まで40年で取得できた技術的な経験というのは生かした状態で評価ができると。少なくとも50年目までは、項目については変える必要がなかろうというような議論をさせていただいたところです。

これまでの科学的・技術的な見地からお話をすると、圧力容器、あるいはコンクリート、電気ケーブルの劣化、これを40年の時点で20年間延長可能であるということを科学的に評価をして、認可できたものについては、実際に実証できたという、我々が検証することができたと考えています。それを30年、40年、50年、60年も、当然、同じレベルの評価以上のものになろうかと思いますけれども、そのように審査を進めていけば、より厳正に基準を満たしているかどうかの判断ができると考えています。

物理的な特性については、これまでお話ししてきたような中性子脆化でありますとか、電気的な性能の劣化でありますとか、あるいはコンクリートの強度の劣化等が重要になってくるかと思いますけれども、更に運転期間が延びれば、先ほどから話題に上っているような設計の古さについても、設計思想の転換のような項目については、我々はきちんとバックフィットの制度の中で対応できるように考えていくということが必要かと考えています。

私の安全規制に対する考え方については、以上です。

委員の方から意見を頂戴できればと思います。どうぞ。

○田中委員

大きな考え方とすれば、そういうものだと思いますし、もちろん原子炉によって中性子束が違うとか、行動等が違うから、相手とする原子力発電所の特徴を踏まえて、いかに科学的・技術的に見るかが大事です。

これまでも50年といいますか、60年までのところは今の方針でいいのではないかという議論がありました。さらに、60年を超えるときにはどのような項目をどのように見ればい

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いのかというのは、まさしく科学的・技術的な知見をもって、そこはしっかり見ないといけないと思いますし、そういった意味では、炉によって状況が違いますから、炉の特徴も踏まえて状況をしっかり見ていき、更に長期になってくると、評価項目、あるいは評価の視点等々がより厳しくなっていくのは当然であるかと思います。

以上です。

○杉山委員

新しいこの制度案に基づくと、30年を過ぎたところから次の10年の認可を与えるといいますか、現行の40年を迎えるときに一気に次の20年を認めてしまうという方法、それに比べると、私は、かなり刻んだ、10年というのは最長10年という意味ですけれども、そういう意味で、そのたびにきちんとした基準適合性も含めて、劣化も含めて見るということで、これまでよりは細かく見ることができる。

40年目にもちろん従来行ってきたような特別点検を行う。これは残すわけでありまして、60年目に何をするかを決めないとという石渡委員の先ほどの御意見、それはもちろんある程度分かりますけれども、そこは非常に慎重に決めなければいけないのだと思います。だから、今、それを決めた上でこの先に進もうというよりは、それはそのときまでにじっくりと議論する。そういうことなのかなと私は思っております。

○伴委員

今も高経年化の評価は行われる仕組みになっていて、50年のところまではこれまでどおりでいいだろうという山中委員長の御発言がありましたけれども、つまり、そこまでは、言ってみれば、今、高経年化の評価をやっているものを規則レベルに上げていく。より厳格に審査を行って、長期計画を認可していく。そういう仕組みになるわけですけれども、実質的には変わらないという見方も一方でできるわけですよね。

それで、石渡委員の御懸念は、だとすると、そこまでは今までと同じでいいとしても、60年を超える、そこのところでどうするのだと。それは、今、杉山委員がおっしゃったように、じっくり議論すべきだと。それはそうだと思いますけれども、一方で、石渡委員にしても、私にしても原子力工学の専門ではありませんので、そういう者からしたときに、では、それはできますかという問いが出てくるわけです。勝算はあるのですかと。そこのところのできれば率直な御意見をほかの3人の委員に伺いたいなと思います。

○杉山委員

具体的にこれをもって設計の古さを判断するという定量化するようなものは難しいのですけれども、今、やはり新しい原子炉、日本というより海外で導入されているもの、実用化されているもの、そういったものが備えている機能、そういったものをある程度義務化するといいますか、測定して得られるような数値ではなくて、どちらかというと、必要な機能を備えているかどうか。私はそういったものを求めていくのかなと思っております。

それを入れるというのはすごく大きな判断でありまして、というのは、それを後づけするのは多分難しいような機能になる可能性が高くて、そうすると、ばたばたと今ある炉が

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駄目になるかもしれない。それをある程度はもうやむなしといいますか、そこをあれこれ

しんしゃくせずに必要な機能として我々が決める、そういうところがあるのだと思っております。

今の段階では、そのぐらいのことしか言えないのですが。

○伴委員

すみません。一つ確認なのですけれども、それは、私、以前に発言したのですが、性能規定ではなくて、むしろ使用規定に近いものを入れていくと、そういうことですか。

○杉山委員

はい。そういった部分も必要かと思っております。性能というのは、後づけでも、何だかんだいって達成できる部分がかなり多いと思うのです。例えば、リスクを下げるといったときに、計算上のリスクを下げるということはできてしまうといいますか。ただ、そうやってつぎはぎだらけの施設、それに信頼性を置けるかと、確保できるかと。そういった意味では、最初からそのつもりで作った施設に勝るものはないと考えておりまして、そういう意味で、後づけで何とかできる部分、できない部分というのを、ある意味、ふるいにかけるというか、そういった思い切った要求は必要になってくると思います。

○山中委員長

一つ、先ほどの伴委員からの御質問に対するお答えをするとすると、今、重要な劣化のモードとして、圧力容器の中性子脆化とコンクリートと電気ケーブルの特性の劣化、この三つを挙げましたけれども、その三つについては、少なくとも劣化については、60年以上の実データがもう手に入っております。実際の炉に対して、60年以上運転してもこれぐらいの健全性は評価できるという、そういう科学的な根拠もございますし、論拠もございます。

また、ケーブルについて、あるいはコンクリートについても、これまで破壊検査、あるいは加速試験等からきちんとした予測式も提案されておりますし、劣化をすれば、当然、ケーブルなどは劣化の予測に基づいて重要なところは交換することもできますし、また、コンクリートについても、劣化予測式については、十分な精度を持って予測ができますので、少なくとも現行で60年の運転期間というものについては、十分な評価ができるかなと。

あるいはそれ以上の、60年というところで仮に評価をしたとすると、次の10年ということはある程度は担保ができるかなと考えております。

○石渡委員

伴委員がよくおっしゃる設計の古さということがございますよね。これは、伴委員のニュアンスではかなり抽象的に聞こえるのですけれども、このATENAの資料を見ると、これはもっと非常に具体的でありまして、要するに、50年も60年もすると部品が調達できないということを深刻に、やはり事業者ですから、考えているわけですよね。

設計の古さということは、正に直接的にはそういうところだと思うのですよね。それに対する対策ということを、ATENAの方ではここでは考えてはいるようですけれども、やはり

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古いものについては、そういう実際的な障害というものが起きてくる。これは避けられないと思うのです。

現在の法案、ここに示されている法律の案では、30年から10年ごとに検査をすると。実はそれは10年ごとに検査をするということしか書いていなくて、要するに、どんどん経年化は進んでいくわけですよね。これに対して、例えば、40年目、50年目と、検査する項目といいますか、検査の内容といいますか、これを経年数に応じて変えていく必要というのはないのでしょうか。ずっと同じ検査でいいわけですか。私はそこのところも非常に、この法案について疑問に思っているところなのです。

○山中委員長

少なくとも、その根拠を申し上げますと、40年の運転延長認可制度で、40年の1回の申請、これは事業者が出してきた様々な物理的な項目に対して、我々はきちんと審査をして、20年先の評価をして、運転延長してもいいという、そういう審査結果を出しているわけです。これから少なくとも10年ごとで、これから先、一番直近でいいますと50年ということになりますけれども、50年で40年にやったと同じような評価をしていただいて、そこから先また10年を予測しましょうと。そのように60年まで予測できていることを、10年ごとでやっていきましょうということで、当然、精度も上がりますし、審査の厳正さも上がるだろうと私は思っています。

○杉山委員

今の石渡委員の御質問で、年がたつにつれて評価の仕方を変えるといいますか、これはあくまでも劣化の評価であって、その劣化を考慮した状態でどんな基準を満たすかというところで、多分、基準の側で、どのぐらい古いものに対してはこういうものを求めるというような、そういった効果を盛り込むのだと私は思っておりまして、だから、これは、今ここで定めているのはあくまでも劣化の評価の話だけが書かれていて、先ほどというか、最初に私が申し上げたように、全体像が見えないというのはその辺でありまして、これと組み合わされる基準の側を、古いものをふるい落とすような仕組みを設けて、それと併せることで、劣化を考慮してもそのときに求められる基準を満たすということを、そのときごとに評価しなければいけない。そういう仕組みになると私は認識しております。

○田中委員

今、いろいろな委員の人が言われましたけれども、私とすれば、事業者が策定した長期施設管理計画が、いろいろな劣化事象の進展とか、いろいろなことを考えても、基準に適合しているかというところを、原子力規制委員会がしっかりとそこが見られるかどうかが一番のポイントになってくると思います。

もちろん、長期になってくると、いろいろな劣化も進んでくるし、予測式というのがあっても、そのとおりにいかないものもあるかも分からないけれども、不確実性があるとか、そういうところに対して、どんぐらいの幅でもって考えられるのかとか等々、総合的に本当に判断する能力が我々にないと、長期施設管理計画も認可できなくなってくるのだと思

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うのですけれども、そういうことで、我々としてもそれなりの大きな責任があるかと思います。

○山中委員長

そのほかはいかがでしょう。

何か石渡委員、いわゆる高経年化の安全規制について、こういうところが不十分だというところがもしあれば、御意見を頂ければと思います。

○石渡委員

ですから、今の杉山委員のお話は、炉規法というような大きな法律ではなくて、その下の法律で決めるということですよね。

○杉山委員

実際にどういった基準を満たすかといった基準の部分は、そうですね、炉規法本体の中ではなくて、その下部で、今までもそうでしたけれども、決めていくのだと思っております。

○石渡委員

ただ、私としては、例えば、経年数に応じた検査をするとか、そのような文言があってしかるべきではないかと思うのですけれども、ただ10年後とにやるということしか今は書いていないですよね。私はそういうところを申し上げただけです。

以上です。

○山中委員長

当然、個々の原子炉について、経年劣化の度合いというのは変わってきますし、当然、置かれた環境によって、考えないといけない劣化のモードも変わってきます。これについては、私もそういう発言をさせていただいたかと思うのですけれども、特に時間がたてばたつほど、その炉の特徴というのが出てくるので、応じた検査を、少なくとも60年については、やらなければならないと思っています。50年目までは、少なくとも今、60年目までは40年の段階で予測ができているわけですから、50年はきちんとその予測が正しいかどうかというのを、実データを取って認可制度の中で見ていくと。これまでよりも格上げした制度の中で見ていくという、そういうやり方でいいのではないかなと思っています。

○伴委員

今の山中委員長の御発言ですけれども、そうすると、60年のところに関しては、最大公約数的なといいますか、ミニマムセットみたいなものを、当然、これまでの今やっているものもやった上で、あとは炉型であったり、あるいは特定の炉ごとに異なる項目を要求することがあり得るという、そういう理解でよろしいですか。

○山中委員長

要求するか、あるいは事業者が申し述べてきた自分たちの炉に対する理解ですね。例えば、大きな地震を体験したとか、あるいは炉水に大きな変化があったとか、そういったところ、きちんと自分たちのプラントを理解した上で申請を出してきてもらうと。我々はそ

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れを本当にそうかどうかというのをきちんと審査していくというのが、50年目、あるいは60年目のあるべき姿かなと思っています。

○田中委員

その辺の具体のところというのは、規則で今後定めていくことになるのではないでしょうか。

○山中委員長

そのとおりだと思います。

いかがでしょう。ほぼ論点は出たかなと思っております。納得していただいたかどうかというのは少し分かりませんけれども、もう少し議論を続けたいと思います。

最後の審査の公正性に対する影響の問題です。私は、これまでどおり厳格な審査を行っていただくということで全く問題がないと思っています。仮に審査が長くなっても、そのような点と高経年化を結び付けずに、審査は審査として厳正に行っていただくということが我々に求められた正しい姿であると思いますし、それは地盤関係だけではなくて、プラント関係についても同じだと思います。問題があれば、ゆっくりと時間をかけてきちんと審査をしていただくという。

仮に石渡委員が危惧されているように、審査期間を故意に延ばすような事業者が出てきた場合には、原子力規制委員会として、当然、その審査がどのように行われているかというのはきちんと観察して、今でもしているわけですから、審査の中断、あるいは停止の措置というのを厳正に対応すべきであると考えますし、審査期間の長さによって仮に運転が延長された場合には、厳正に高経年化の審査を行って、基準を満たさなければ運転ができなくなるという、そこに尽きると思います。この点について、何かほかの委員、意見はございますか。

○杉山委員

例えば、審査に要した時間分、後で取り返せるというようにも読めますけれども、以前から議論しているように、出力運転中に進む劣化と、ただ何もしていない止まった状態でも進む劣化がありまして、後者の方は明らかにその分は進むわけで、審査の期間の間も。そういう意味で、私は事業者が時間稼ぎをするメリットは全くないと考えていまして、当然、そんなそぶりを見せたら、それに対しては厳正に我々の側から警告するといいますか、そういったところでそういった懸念を排除していきたいと思っております。

○田中委員

今、山中委員長が言われたように、審査を厳正に行うというのは当然のことであります。

我々も業者と意見交換等々をして、審査の効率化ということでそれなりの努力はやっているかと思うのですけれども、いくら効率化しようとしても、効率化したとしても、厳正に行うということはもちろんのことでございます。

○山中委員長

石渡委員、いかがですか。

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○石渡委員

「安全規制等に係る法令等の制定や改正、運用の変更に対応するため、運転を停止した期間」とここに書いてあるのですよね。例えば、審査上不備があって、審査を中断して検査に入ったというような事例が今までもありました。これは検査に入っている期間も、しかし、これは延びるわけですよね。多分そうなのだと思うのです。

要するに、我々の責任ではなくて、事業者側の責任でそういうことが起きて、それに対して我々としては、不本意ながらも審査を中断して検査に入らざるを得なかったと。それも、しかし、後で運転期間を延ばしていいよという話なわけですよね、これは。それは非常に私はおかしいと思うのです。そういう制度になるのであれば、これは審査をしている人間としてはちょっと耐えられないと思います。

以上です。

○山中委員長

事業者に非常に問題があるような場合には、本当にこれまでは、これまでといいますか、検査という形を取りましたけれども、少なくとも審査を中断する、あるいは停止をするという、そういう判断も今後必要になってくるかと思いますけれども、その辺り、石渡委員、いかがでしょうか。

私は、審査に対して何か早くするとか、短くするとか、何かそういうこと、あるいは長くなってはいけないとかということは全く考えておりませんし、審査については、これまでどおり厳正にやっていただければ全く問題ないし、そうでなければ、我々としては。

○石渡委員

私としてもそのつもりでおります。おりますが、審査を中断して検査に入っていた期間も、その分も運転延長していいということについては、私はそれはよくないと考えます。

○杉山委員

まず、我々審査を行う側が、利用政策側がどういった時間をカウントして、どういった時間をカウントしないというのをまず気にする必要はないのだと私は思っていて、我々が劣化評価をするときには、どんな理由で運転していなかったかというのは評価上関係ないわけなのです。私たちの審査で掛かった時間をカウントするか、しないかは、正直に言って、我々の審査、劣化評価等には全く影響を与えないことだと思っております。

影響を与えるとすれば、先ほどから言っていますように、古さを我々がフィルタにかけるような制度を導入したときに、単純に審査で時間が掛かった別の理由、不可避な理由であっても、それはそれで単純に原子炉を建設してからの時間がたっている。そういうところで審査といいますか、合格基準が厳しくなっていくはずといいますか、そのように我々はセットしようとしていますので、そこでつじつまが合うということにするのだと思います。

○山中委員長

私も高経年化の審査と審査そのものとは別に考えないといけないと。少なくとも高経年

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化をどのように我々が評価していくかという、そのタイミングの問題というのは、運転期間に対する政策側の判断であるという、私は、もうその結論というのはこれまでどおりの見解であるということですので、きちんと切り分けて考えないといけない。審査は厳正にやるべきだし、それは無用に事業者が仮に延ばすというようなことがあれば、審査をきちんと中断するというような手続をする必要があろうかと思いますし、そこに高経年化の何か別の問題を一緒に考えるというのは、審査は別の問題であると私自身は考えるのですが。

どうぞ。

○石渡委員

今、山中委員長がおっしゃったように、もし何かそういう不心得なことがあれば、審査を中断するというのはもちろんだと思うのです。ただ、しかし、審査を中断するのはいいですが、その中断していた期間も運転期間の延長に加わるわけです。これは切り分けて別の話だとおっしゃいますけれども、やはりこれは、その分だけ増えるということであれば、これは当然、原子力の安全に関わりますよね、劣化が進むわけですから。これはもう時間がたてば、どんどん進んでいくものがあるわけですから。だから、私は、そこを切り分けるというのはですね。

○山中委員長

そこにちょっと誤解があるようなのですが、当然、運転期間が長くなれば劣化は進んでいきます。ただ、我々がするのは運転期間に制限をかけるのではなくて、ある期日が来たときに基準を満たしているかどうかという安全規制をするのが我々の任務だと考えています。運転期間がどうのこうのというのを何か我々が科学的・技術的に判断するというのは、少しこれまでの議論とは違うかなと思います。そこがどうも石渡委員と根本的に食い違っているところかなと思いますが、いかがでしょうか。

○石渡委員

私はここの経産省経済産業省)の案に書いてあるとおりを理解して、そのように私自身の頭の中ではそうとしか理解ができませんので、そのように申し上げているだけです。

○山中委員長

運転期間についての考え方というのは、私ども原子力規制委員会で決めた結果というのはどうも納得できないというのが石渡委員のお考えと。

○石渡委員

はい。基本的に40年、60年という枠組みは変えないというのがこの経産省の案ですよね。

その枠組みを変えないのであれば、我々として積極的に炉規法を変えにいく必要は私はないと考えています。

○山中委員長

少なくとも40年、20年というところは原則ですけれども、運転停止期間をそこに加える

という資源エネルギー庁の案ですから、我々が安全規制を行っていくタイミングというのは、少なくとも60年を超えるケースが出てくると考えないといけないと私自身は思ってい

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るのですが。

他の委員、いかがでしょうか。2年前に出した結論と少し違う御意見が出ておりますけれども、その点についていかがでしょう。根本から御意見が食い違っていますので。

○杉山委員

私は、石渡委員のおっしゃることは別に食い違っているとは思っておりませんで、石渡委員の御懸念は、先ほどからおっしゃっているように、審査で要した時間の分が後ろにまた追加されてしまう。その分、劣化が進むのではないかと。当然、そうだと思っております。ですから、劣化を評価するときに当然不利になるということで、私はそれまでの話だと思っております。

エネ庁側、推進側が書いてある40プラス20というのは、今までの炉規法の記載との連続性を維持してそういう書き方をしていますけれども、事実上、このプラス20年ではないというのはもう内容からして明らかでありまして、炉規法側の記載とこれはもう一致していませんので、炉規法をそのまま残して、こちらをこのように改正するというのは不可能だと思います。

○山中委員長

石渡委員、いかがですか。

○石渡委員

私の考えはもう大分述べましたので、以上です。それ以上付け加えることはございません。

○山中委員長

何か事務方から付け加えることはございますか。

どうぞ。

○金子次長

次長の金子でございます。

先ほど石渡委員から、年数に応じた評価のような形を組んだらいいではないかというお話がありました。今も40年のところは別点検などがありますけれども、本日の資料の中の24ページを御覧いただきますと、劣化評価をどのようにやるのかということが書いてあります。石渡委員の御意見のように、年数に応じてという表現を使っているわけではございませんけれども、例えば、24ページの5項のところは「原子力規制委員会規則で定めるところにより」ということで、我々の議論でそれをどのようにやるかというのはきちんと定める形にしてございます。

それから、6項の認可をするための要件の中でも、劣化評価の方法は原子力規制委員会が定める基準に適合するという形で、どういう方法であればいいのかということについても、そのような形で設定はできるように枠組みとしてはなっているということだけ、事務局から申し添えさせていただきます。

○山中委員長

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そのほかに何かございますか。よろしいですか。

石渡委員、原子炉等規制法と電気事業法の両方に違う事項が記載されているという状態は、極めて安全規制上好ましくない状態だと私は思いますので、これは改正をしないといけないと。原子炉等規制法をきちんと改正して、高経年化した原子力発電所の安全規制を行っていくということをルール化するということが我々の任務だと思うのですけれども、その点について、やはり納得できないという御意見でよろしいですか。

○石渡委員

はい。炉規法というのは、ある意味、原子力規制委員会設置法とペアのような形で、そのときに制定された法律だと理解しております。炉規法というのは、したがって、原子力規制委員会が守るべき法律であると思っております。

我々として、もちろん科学的・技術的な理由、それから、より安全側に変化する、変えるという、そういうはっきりした理由があれば、これを変えることはやぶさかではございませんが、私としては、今回のこの変更というのはそのどちらでもないと考えます。

○山中委員長

恐らくそう考えられるところに、やはり運転期間について、安全規制で考えるべきであるという石渡委員のお考えだと思うのですが、そこに対しての考えが根本的に食い違っているかなと思うのですけれども、そういう理解でよろしいですか。

○石渡委員

それはそうかもしれません。

○山中委員長

そのほか、何か委員の方から追加する御意見はございますか。よろしいですか。

そうしますと、高経年化した原子炉の安全規制について、まず、根本の運転期間に対する考え方が石渡委員と他の委員と食い違ってしまったので、石渡委員のこの御心情というのは変わることがないかと思いますので、本日、改めて、前回、決を採りましたけれども、改めて委員の方から安全規制の概要案と法律の条文案についての賛否を一人ずつ伺いたいと思います。いかがでしょうか。

○田中委員

まず、安全規制の概要のところと、それから、法律の改正案については、私はこれでいいかと思います。

○山中委員長

私も、両方ともこれで私は賛成したいと思います。

○杉山委員

私は、この中身の話、何が書いてあるかについては、この範囲については了承したいと思っております。それに基づいたこの法案の文案も同じくです。

ただ、やはり最初に申し上げたように、これは説明が圧倒的に足りないと思うのです。

そこがすごく、ちょっと言い方は悪いですけれども、気に入らなくて、今までこういう申

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し上げてきたようなことが、次の回の資料といいますか、書き物に余り反映されていない。

こういった限られた資料だけが最後のアウトプットになってしまっている。

パブリックコメントに出したときに、改めて見た人たちにそれまでの話が全然伝わっていない。それがすごく問題だと思っています。先ほど言いましたように、今からでもそういった説明の何か資料はきちんと世に出してほしいです。

あと、もう一つ、これを言ってしまっていいのかなというところはあるのですけれども、我々がこれを決めるに当たって、外から定められた締切りを守らなければいけないという、そういう感じでせかされて議論をしてきました。そもそもそれは何なのだというところはあります。

我々は独立した機関であって、我々の中でやはりじっくり議論して進めるべき話ではあるのですけれども、いろいろな他省庁との関係もあるのでしょうけれども、我々は余りそういう外のペースに巻き込まれずに議論をすべきであったと思っております。

ただ、もう一度言いますけれども、この範囲の書き物の中身は、これは特別すごいことを盛り込んだというよりは、今の制度の骨子の部分をまとめたものであって、それに関しては私は賛同いたします。

以上です。

○伴委員

別紙1の安全規制の概要、それから、条文案ですけれども、私は合理的な変化であるという意味では了承します。

ただ、杉山委員も今指摘されましたけれども、やはり外枠といいますか、制度論ばかりが先行してしまって、本来、我々にとってのサブスタンスであるべきところの基準といいますか、特に60年超えをどうするのだというのが後回しになってしまって、そこがふわっとしたままこういう形で決めなければいけなくなったということに関しては、確かに私も違和感を覚えています。

○石渡委員

私の意見は、この改変、法律の変更というのは科学的・技術的な新知見に基づくものではない。それから、安全側への改変とも言えない。それから、審査を厳格に行えば行うほど、将来、より高経年化した炉を運転することになる。こういったことにより、私はこの案には反対いたします。

○山中委員長

残念ながら、石渡委員の御賛同を得ることができませんでした。運転期間についての根本的なお考えが違うということで、これはもうこの考えは変わることがないかなと思いま

す。本日の賛否の結果をもって、原子力規制委員会の決定といたしたいと思います。両案決定をさせていただきたいと思います。

その上で、反対の石渡委員にも、今後の高経年化の安全規制についての議論については、積極的に参加していただきたいと思うのですが、その点については、いかがでございまし

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ょうか。

○石渡委員

もちろん、委員ですので、参加をさせていただきます。

○山中委員長

ありがとうございます。

そのほか、何か委員の方から御意見はございますでしょうか。

どうぞ。

○杉山委員

私は、ここを決を採って進んでしまっていいのかということには疑問は感じております。

ただ、石渡委員が今納得できないことに対して、きちんと納得のいくという、納得させることが目的ではありませんけれども、懸念がなくなるような基準の策定に関して議論していく所存でありまして、その際には石渡委員の意見もずっとお伺いし続けていきたいと思います。

○山中委員長

石渡委員、今後ともよろしくお願いいたします。

それでは、本日の原子力規制委員会はこれで終了したいと思います。どうもありがとう

ございました。

稲田朋美の足跡

あまりにいろいろな「誤解」があるらしいので整理しつつ、その行動の源を議員活動をはじめた時点から振り返る。スマホなど小さめの画面や、大画面で眺める場合はレスポンシブなこちらから。

注記

稲田朋美ブログ2008年4月9日付より 映画「靖国」上映中止をめぐって

映画「靖国」の助成金問題について産経新聞正論に書きました。 新聞では字数に限りがありましたので 割愛していないものをこちらに掲載させていただきます。  表現の自由言論の自由が保障されているわが国で、どのような政治的、 宗教的宣伝意図のある映画を 制作し公開しようと自由である。日本は政治的圧力により映画の上映を禁止し、 書物を発禁にするような非民主主義国家ではない。 私と若手自民党議員の「伝統と創造の会」(「伝創会」)は、映画『靖国  YASUKUNI』(李纓監督)自体ではなく、そこに文化庁所管の日本芸術文化 振興会が750万円の公的助成金を出していること、その一点を問題にした。

発端は「反日映画『靖国』は日本の助成金750万円で作られた」という平成 昨年12月20日号の週刊新潮の記事だった。この映画を試写会で観た複数の 人が映画のなかに弁護士時代の私が映っていると教えてくれた。 もちろん私はこの映画で観客の眼にさらされることを同意したことはない。

今年の2月に伝創会で助成金支出の妥当性を検討することになり、文化庁に 上映をお願いした。当初文化庁からは映画フィルムを借りて上映するという話が あり、日時場所も設定したが、直前に制作会社が一部の政治家だけにみせること はできないというので、すべての国会議員向けの試写会になった。一部のマスコミ に歪曲されて報道されたような私が「事前の(公開前)試写を求めた」という事実は 断じてない。公開前かどうかは私にとって何の意味もなく、映画の「公開」について 問題にする意図は全くなかったし、今もない。  

 結論からいって同振興会が助成金を出したのは妥当ではない。日本映画である、 政治的、宗教的宣伝意図がない、という助成の要件を満たしていないからだ。

まずこの映画は日本映画とはいえない。同振興会の平成20年度芸術文化振興 基金助成金募集案内によれば「日本映画とは、日本国民、日本に永住を許可された 者又は日本の法令により設立された法人により製作された映画をいう。ただし、 外国の制作者との共同制作の映画については振興会が著作権の帰属等について 総合的に検討して、日本映画と認めたもの」としている。

映画「靖国」の制作会社は日本法により設立されてはいるが、取締役はすべて (名前からして)中国人である。 この会社は、平成5年に中国中央テレビの日本での総代理として設立されたという。 映画の共同制作者は北京映画学院青年電影製作所と北京中坤影視制作有限公司 である。製作総指揮者、監督、プロデューサーはすべて中国人である。このような映画が 日本映画といえるだろうか。ちなみに政治資金規正法では、日本法人であっても外国人が出資の過半を有する会社からは寄付を受けてはいけない扱いが原則である。  

さらに映画「靖国」は、政治的存在である靖国神社をテーマとして扱っており、 そもそもが政治的宣伝である。 小泉総理の靖国神社参拝をめぐっては、国内外で議論があった。特に日中関係は 小泉総理の参拝をめぐって首脳会談ができなくなるほど政治問題化した。

映画「靖国」のメインキャストは小泉総理と靖国神社を訴えていた裁判の原告らである。 私も弁護士として、靖国神社の応援団としてその裁判にかかわった。その裁判で、 原告らは一貫して「靖国神社は国民を死ねば神になるとだまして、侵略戦争に赴かせ、 天皇のために死ぬ国民をつくるための装置であった」と主張していた。 映画「靖国」からは同様のメッセージが強く感じられる。映画の最後でいわゆる 「南京大虐殺」にまつわるとされる真偽不明の写真が多数映し出され、その合間に 靖国神社に参拝される若かりし日の昭和天皇のお姿や当時の国民の様子などを 織り交ぜ、巧みにそのメッセージを伝えている。

いわゆる「南京大虐殺」の象徴とされる百人斬り競争―私は、戦犯として処刑された 少尉の遺族が、百人斬り競争は創作であり虚偽であることを理由に提起した裁判の 代理人もつとめた。結論は遺族らに対する人格権侵害は認められなかったが、 判決理由の中で「百人斬りの内容を信用することが出来ず甚だ疑わしい」とされた。

ところが映画「靖国」では、この百人斬り競争の新聞記事を紹介し、「靖国刀匠」を クローズアップすることにより、日本軍人が日本刀で残虐行為を行ったというメッセージ を伝えている。

 これらを総合的に判断すると、映画「靖国」が、「日本映画」であり「政治的宣伝意図が ない」とし、助成金を支出したことに妥当性はない。なお、この映画には肖像権侵害や 靖国刀靖国神社のご神体だという虚偽の事実の流布など法的にも問題があることが 有村治子参議院議員の国会質疑で明らかになった。   

私たちが文化庁に上映を依頼したとき、映画は既に完成し国内外で試写会が行われ ていた。配給会社によれば、釜山映画祭(韓国)、サンダンス映画祭(米国)、ベルリン 映画祭(ドイツ)等の国際映画祭で高い評価を得たという。 私は弁護士出身の政治家として、民主政の根幹である表現の自由を誰よりも大切に 考えている。だからこそ人権擁護法案にも反対の論陣を張っているのだ。今回の上映の 要請が「事前検閲であり表現の自由に対する制約」という捉え方をされ、そのような 誤った報道をされたことは、私の意図をまったく歪曲したものであり、許し難い。

民主政の根幹である表現の自由によって私の政治家としての発言の自由を規制しよう という言論があることにも憤りを感じる。外国による政治的宣伝の要素のある映画への 助成は極力慎重に行われる必要があるだろう。表現や言論は自由であり、最大限尊重 されなくてはならないのは当然だが、そのことを理由に税金の使われ方の妥当性を 検証する政治家の言論の自由を封殺しようとすることは背理である。

2016年9月30日 衆院予算委 戦没者追悼式に欠席したことに関する質疑

辻元氏「稲田大臣、こういうことをおっしゃっている。『自国のために命をささげた方に感謝の心を表すことのできない国家であっては防衛は成り立ちません。これは日本という国家の存亡にまで関わる』と。ところで、そうおっしゃっている大臣が、国防の責任者になられて、今年の8月15日です。これは防衛大臣になられて初めての8月15日。全国戦没者追悼式があった。これは閣議決定までして天皇皇后両陛下、総理大臣、両院議長はじめ政府の公式の追悼式。今年は5800人の遺族の方、ご高齢の方が多いですが、全国から出てこられているんです。先ほど天皇陛下のご公務の話があったが、最重要のご公務だといわれている。これを欠席されたんですよ。あなたはいつも『命をささげた方に感謝の心を表すことのできない国家ではなりません』と言っているにもかかわらず、欠席するのは言行不一致ではないかと思いますよ。そう思いませんか。いつもおっしゃっていることと違いますか。政府の公式ですよ。そして調べました。閣議決定されてから防衛大臣で欠席されたのはあなただけなんですよ。言行不一致じゃないですか。いかがですか」

稲田氏「私は常々、日本の国のために命をささげた方々に感謝と敬意、そして追悼の思いを持つということは、私は日本の国民の権利でもあり、義務でもあると申し上げてきました。義務というよりも、心の問題ですね。心の問題と申し上げてきました。その中で今回、戦没者追悼式に出席しなかったという指摘ですけれども、それは誠にその通りでございます。その理由については就任後、国内外の部隊について一日も早く自らの目で確認して、その実情を把握して、また激励もしたいという思いから、部隊の日程調整をしてきた結果、残念ながら出席をしなかったということでございます」

辻元氏「反省していますか」

稲田氏「大変残念だったと思います」

辻元氏「急にジブチの出張が入ったといわれているが、8月13日に出発して15日を挟んで16日に帰国されている。12日に持ち回り閣議でバタバタと出発しているわけです。確かに世界各国、日本国内の自衛隊防衛大臣が視察されること、激励されることは大事ですよ。しかし、あなた、日ごろいっていることと違うのではないですか。こうもおっしゃっていますよ。『いかなる歴史観に立とうとも国のために命をささげた人々に感謝と敬意を示さなければならない』。毎年、靖国神社に行ってこられましたね。これ公式行事ですよ。あなたの、戦争でなくなった方々への心をささげるというのは、その程度だったのかと思われかねないですよ。そんなに緊急だったんですか」

稲田氏「今までの私の発言… 読み上げられた通りです。その気持ちに今も変わりはありません。今回、本当に残念なことに出席できなかったということですが、ご指摘はご指摘として受け止めたいと思います」

辻元氏「国会議員は地元で式典があったり、集会があったりします。でも防衛大臣ですよ。ジブチに行きたくなかったんじゃないですか。稲田大臣が防衛大臣として靖国に行くと問題になるから、回避させるためではないかと報道されているんですよ。あなたは防衛大臣だったら信念を貫かれた方がいいと思いますよ

2011年12月5日 衆院予算委員会 

衆議院会議録情報 第179回国会 予算委員会 第7号

○稲田委員 総理、前沖縄防衛局長が不適切な発言を理由に更迭をされました。沖縄県民や女性に対する侮辱的な発言でした。その後に、一川防衛大臣が国会で、あろうことか沖縄少女暴行事件の詳細を知らないというあり得ない答弁をされました。沖縄県民だけでなく、日本国民全員が一川大臣に怒りを覚えています。  総理、なぜ、このような事態になっているにもかかわらず、いまだに一川防衛大臣をかばい、更迭なさらないのですか。

○野田内閣総理大臣 前沖縄防衛局長の発言は極めて不適切であり、今般の更迭は当然の措置であるというふうに思います。  その上で、改めまして、沖縄県民の皆様の感情を大きく傷つけたことについては深くおわびを申し上げたいというふうに思います。  その上で、一川大臣の発言でございますが、これは御本人に真意を確認していただければとは思いますけれども、詳細については知らないと申し上げたのは、恐らく、詳細をこういう場で語ることは適切ではない、あるいは不正確な記憶でしゃべることではないという御判断があったのではないかと私は考えております。

○稲田委員 情けない言い逃れはやめてくださいよ。大臣が詳細を知らないとおっしゃったのは、本当に詳細を知らないとおっしゃったんですよ。その場で言うのがふさわしくないとかそういう問題ではなかったんです。  しかも、官僚に責任をとらせて終わりですか。それが民主党のおっしゃっている政治主導ですか。部下に責任をとらせて御自分は保身を図る、それが政治主導ですか。政治主導というのは政治家が責任をとることですよ。  一川大臣、御自分の部下には厳しく、そして自分には甘い、それで示しがつくんでしょうか。大臣、お答えください。

○一川国務大臣 お答えいたします。  今御質問の、私の発言のことがちょっと出ましたので、事実関係と私の思いを述べさせていただきますけれども、参議院の復興特別委員会の席で、佐藤委員の方からそういう質問がございましたときに、私は沖縄の問題というのはかねてから関心を強く持っておりましたし、いろいろなことはある程度は承知いたしておりますけれども、少女暴行事件の件について、急にそう言われたものですから、私はあの委員会の場でそれを詳細に説明するということは、余り事件の性格上よくないというふうな思いがございました。  そういう中で、私の表現が非常に、そういう面では、いい表現では当然なかったわけでございますが、自分自身は、もう既に沖縄での少女暴行事件から十六年経過しておりますし、それがもとで、当然、沖縄県民の大きな当時の怒り、そういったものが米軍基地に対する整理縮小なり返還という運動に大きくつながってきた出来事であったことは、非常に痛ましい事件であったことは間違いないわけでございますので、それに基づいてのSACO合意というものがなされ、それからもう丸十五年経過している中では、今回のこの普天間問題にしっかりと負担軽減の内容を込めた、そういう措置を我々は誠心誠意これからも努力すべきであるというふうに思っておるところでございます。  また、私の今回のこのことに対する責任は、当然、監督責任なり、また我々の思いが沖縄の出先の局長さんに十分浸透し切っていなかったという面の、そういう責任は当然あるわけでございますので、自分の大臣職としての給与の返納も含めて、私も大臣としてのしっかりとした対応はしてまいりたいと思っておりますし、また、御本人の処分についても、今検討中ではございますけれども、早急に結果を出してまいりたい、そのように思っておるところでございます。

○稲田委員 大臣、しかも、大臣をかばっている総理、今の大臣の言いわけを信じる人はだれ一人いませんよ。あの国会の答弁の大臣の様子を見れば、本当に知らなかったんですよ。しかも、詳細を答えろと佐藤さんは言ったのではなくて、その概要とその影響を大臣の口から答えなさいということですよ。何をごまかしをおっしゃっているんですか。  そして、給料の返納、お金の問題じゃないんです。防衛大臣、あなたは自分の役目がわかっているんですか。あなたの役目はこの国を守ることであって、あなたの身の保身を守ることじゃありませんよ。いいかげんにしてくださいよ。  大臣、もう一度、これだけ混乱をさせて、官僚の責任じゃないんです、あなたの責任なんです。この混乱を、そして沖縄県民の怒りを自分が受けとめて、この場で辞任を表明されるべきだと思いますが、この場で表明をされませんか。

○一川国務大臣 私は、二日に沖縄県知事さんの方にお会いをして、今回の前局長の発言の問題を含め、私の国会での発言の問題も含め、しっかりとおわびを申し上げてまいりました。  そういう中で、県議会の議長さんにもお話をさせていただきましたけれども、これからしっかりと私たちは、この問題については沖縄県民の心の痛みというものを払拭するのには相当努力が必要だと思いますし、また、信頼回復は大変なことだろうとは思いますけれども、私なりにまた一生懸命この職務を全うしてまいりたいというふうに思っておるところでございます。

○稲田委員 先ほどの、詳細は知っていたけれども適当ではなかったというような、そんな言いわけで沖縄県民に謝罪の気持ちが伝わったんですか。二日の日、大臣は知事に会われて、沖縄県民に謝罪をして、その謝罪は沖縄県民に伝わったんですか。もう一度お答えください。

○一川国務大臣 知事さんからのお答えも含めて、もう大変厳しいものであったというふうに私も認識いたしております。  私の今回のおわびだけで沖縄県民の皆さん方の理解が得られたというふうには私たちも思っておりませんし、これから引き続き努力はしてまいりたいというふうに思っております。  沖縄県内には約七千人の、自衛隊を含めた職員もお世話になっておるわけでございますので、我が国の安全保障上問題が生じないように、しっかりと私なりにまた努力をしてまいりたいというふうに思っております。

○稲田委員 何を甘い認識を言っているんですか。沖縄の皆さんは許していませんよ。日本国民も許していませんよ。知事も途中で退席なさったじゃないですか。県議会から抗議文を渡されたじゃないですか。あなたは公じゃなくて私を優先しているんです。そして、自分の保身を優先しているんです。そんな人にこの国を守れるわけありませんから。  今の大臣の答弁を聞かれて、総理、それでも総理は一川防衛大臣を更迭しないで、そして一川防衛大臣を守るおつもりですか。

○野田内閣総理大臣 大変沖縄の皆様の感情を傷つけた、これは本当に申しわけない気持ちでいっぱいでありますが、そのことも踏まえて、一川大臣におかれましては、これまで以上に襟を正して職責を果たしていただきたいと考えております。

○稲田委員 そもそも大臣には公の気持ちというのがないと思います。ブータン国王の宮中晩さん会をキャンセルして、御自分の同僚のお金集めパーティーに行って、そして、ブータン国王の晩さん会よりもこっちの方が大事だ、そのようにおっしゃいました。それは、はしなくも大臣の本心を言われたと私は認識をいたしております。  これだけじゃないんです。小松でF15の燃料タンクが落下をいたしました。そのとき、大臣は一週間後に小松におり立った。しかし、その現場を素通りしてどこへ行かれたか。やはり民主党の政治資金集めパーティーに行かれたんです。お金集めパーティーに行って、F15の燃料タンクが御地元に落ちて、そしてそれが、私は現地を視察しましたけれども、高速道路のすぐそば、民家のすぐそばの空き地に大きな穴があいている、ビルの屋上にも落ちている。そして、基地司令は、人身に事故が起きなかったのは奇跡だとおっしゃっている。  こんな大変な事故が起きているにもかかわらず、大臣はなぜ、政治資金パーティーに行って、空港から五分もかからない現地に行かずに政治資金パーティーだけに行って、そちらを優先したんですか。

○一川国務大臣 小松基地におけるF15の燃料タンク落下事故につきましては、F15にとっては初めての事故でもございますし、大変な厳しい、ゆゆしい事故でございました。これは、私は、地元に生活をし、あの周辺にいる人間でございますから、落下した場所は大変高速道路にも近い場所で、万一のことがあれば大惨事につながったであろうという面では、今先生御指摘のとおり、大変な事故であったという認識は持っております。  ただ、私は、地元であるからこそ、自分がその原因究明の前に余り地元へ出入りをしてあいまいな格好で処理したくないということで、徹底的に省内において、この事故の原因究明、そして再発防止に全力を尽くすべきであるという思いでございました。ようやく、先般、事故調査委員会においてその原因の究明が明確になり、そして再発防止についても、新たにそれをつくり上げ、今、地元の自治体の方にその説明に入っているところでございます。そういう面で、私は、地元であるからこそそれなりに厳しく対応してきたということでございます。  また、民主党石川県連のパーティーに顔を出したことは、確かに事実でございます。それは、前後のいろいろな日程の関係でそういう日程をとらざるを得なかったということでございました。

○稲田委員 質問に答えていないんですよ。結局、今、いろいろ弁解しただけで、現地視察するよりもパーティーを優先した、そのことをおっしゃっただけなんですよ。弁解ばかりやめてください。そして、現地に行かなかった理由に何もなりませんよ。真っ先に行くべきなんです、御地元でもあるし、防衛大臣なんだから。そして、小松まで行ったんだから。  いつもそうなんです。大臣は、事故後の十一日の記者会見で、防衛省の対応が遅過ぎる、国民目線じゃないと言って、また官僚に責任をなすりつけて批判をした、その御自分は結局行っていないんですよ。沖縄もそうです。どうして沖縄に事務次官を行かせて、御自分は行かなかったのか。なぜあなたは、御自分は行かずに官僚だけを行かせて、官僚の批判ばかりしているんですか。

○一川国務大臣 今回の前沖縄局長の発言は、先週の月曜日の夜、マスコミとの懇談会の中で発言した内容が翌日の二十九日の新聞で報道されました。その後、私は二十九日の日に本人を直接東京に呼んで、そして事実を確認した上で更迭の発令をしましたけれども、そのことについて、翌日、三十日に事務次官を現地に行かせました。それは、私自身が、三十日にもう既に国会の日程が入っていたと思っているんです。そういう関係もあって、私は、申しわけなかったですけれども、事務次官に、現地に行って沖縄県知事にお会いをしておわびをしていただくということになりました。そういう状況でございまして、その後、いろいろな委員会の日程等もございまして、私が行くのが二日の日になったということでございます。  沖縄県民の皆さん方には改めて心からおわびを申し上げたい、そのように思っております。

○稲田委員 全く答えになっていませんよ。三十日、党首討論があった日、あなたは総理の後ろに座っていたじゃないですか。党首討論で席を暖める暇があったら、沖縄に行って、そしておわびをなさるべきなんです。小松もそうなんです。私は、現地の、小松の地元の方にお会いいたしましたけれども、烈火のごとく大臣の対応を怒っておられましたよ。沖縄県民も同じなんですよ。大臣は結局、何が大事かが全くわかっていないんです。そして、自分の国よりも、自分の保身だけなんですよ。部下に厳しくて自分に甘い、決して責任をとらない。  不用意な発言が多過ぎる。素人だなどと発言をされました。総理、御自分のことを素人だなどと発言している防衛大臣を置いておくこと自体、国益に反しますよ。そんなおめでたい政府は世界じゅうどこにもありませんよ。防衛大臣が、自分は安全保障の素人だなどと言っている、そんな人を防衛大臣に据えている、そんなおめでたい国はどこにもなくて、世界じゅうからの笑い物ですよ。  総理、今でも一川防衛大臣のことを適材適所だと思っておられますか。

○野田内閣総理大臣 今の一川大臣の大臣就任直後のお話というのは、国民の目線で仕事をしていきたい、そういう思いでお話をされたものと思っております。  私は、これまでの政治的な経験とか知見等々を踏まえて、一川大臣は必ずしも防衛畑をスペシャリストとして歩んできたわけではありませんが、ゼネラリストの政治家としての資質を考えて、適材適所で選ばせていただいたということであります。

○稲田委員 笑わせないでくださいよ。国民目線と言うのであれば、素人を防衛大臣にしないでほしいというのが国民目線ですよ。  そして総理、そもそもこの沖縄の問題は、鳩山元総理のできもしない空手形、国外、最低でも県外、そして自分には腹案があると言って、腹案はなかったんです。それが今沖縄の皆さんを苦しめている最大の原因です。  総理、あなたが代表を務めている民主党の責任ですよ。沖縄県民そして国民に対して、鳩山元総理の、国外、最低でも県外、この発言が誤りであったことをこの場で認めて、謝罪してください。

○野田内閣総理大臣 政権交代をした以降に、いわゆる県外移転の可能性を探り、そしてさまざまな検証をいたしました。その結果、現在の日米合意に基づいて、普天間の危険性を一刻も早く除去し、沖縄の皆様の負担を軽減するという基本姿勢に変わりました。  この間にいろいろ曲折がございましたこと、そしてその間に沖縄の皆様に御迷惑をおかけしたことは、改めておわびを申し上げたいというふうに思います。 ○稲田委員 間違いなんです。そして、それは単に、沖縄県民の皆さん方の気持ちを傷つけた、もちろんそれは大きいです。それと同時に、日本国の安全も脅かしているんだという認識を持っていただきたいと思います。  また、総理の、沖縄に関して、全力を尽くして解決したいとか、言葉だけじゃないですか、すべて。素人の防衛大臣やら外務大臣に任せっきりにして、一回もあなたは沖縄に行っていないじゃないですか。一体いつ沖縄に行くんですか。一刻も早く沖縄に行かれるべきだと思いますよ。  今月の十二、十三日、南京大屠殺記念館の行事に合わせて中国に行かれるそうですけれども、土下座外交をする暇があったら沖縄に行くべきだと思いますが、いつ行くんですか。

○野田内閣総理大臣 別に南京陥落の日に合わせて行くわけでもありませんし、土下座外交をするわけでもございませんので、今のお言葉は私は適切ではないというふうに思います。  沖縄については、これは適切な時期に行けるようにしていきたいというふうに考えております。

大飯原発3 , 4 号機運転差止請求事件 判決言渡 「当裁判所の判断」

おそらく歴史に残ることになる判決文なので紹介します。歴史に残る、というのは、上告審でひっくり返るにしろなんにしろ、という意味です。いろいろ含蓄深い。ここに三人の裁判官、樋口英明さん、石田明彦さん、三宅由子さんに敬意を表したい。

以下、

http://eforum.jp/2014-05-21-ooihanketsu.pdf

OCR翻刻。ざくっとチェック・手直しはしましたが、まだ読み込みのエラーはあるはずで、この点ご容赦。

[追記] こちらに要旨がありますが、時間の許す方はぜひとも以下の全文もどうぞ。 

[追記 20140523]OCRはどうも全角の数字をスペース+半角数字にするので、これらすべてを日本の役所文書の慣例に倣って全角に差し替えました。変換スクリプトを別の用途で使う人もいるかと思うので、作ったpythonスクリプトこちらに置きます。

[追記 20221017] 樋口英明氏は裁判官を退職後に著書を発表された。「私が原発を止めた理由」旬報社、2021年

[追記 20221017] 対談記事(古賀茂明×「原発をとめた裁判長」樋口英明の最終回特別対談! 私たちが「原発を止めるべきだ」と主張し続けているシンプルな理由)

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平成26年5月21日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成24年(ワ)第394号(以下「第1事件」という。),平成25年(ワ)第63号(以下「第2事件」という。)大飯原発3,4号機運転差止請求事件

口頭弁論終結日平成26年3月27日

第1 請求

(省略)

第2 事案の概要等

(省略)

第3 争点及び争点に関する当事者の主張

(省略)

第4 当裁判所の判断

1 はじめに

 ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命,身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には,その被害の大きさ,程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。このことは,当然の社会的要請であるとともに,生存を基礎とする人格権が公法,私法を問わず,すべての法分野において,最高の価値を持つとされている以上,本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。

 個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益は,各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条,25条),また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。したがって,この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは,その侵害の理由,根拠,侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく,人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが,その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき,その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。

福島原発事故について

 福島原発事故においては,15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ,この避難の過程で少なくとも入院患者等60名がその命を失っている(甲1・15ないし16頁,37ないし38頁,357ないし358頁)。家族の離散という状況や劣悪な避難生活の中でこの人数を遥かに超える人が命を縮めたことは想像に難くない。さらに,原子力委員会委員長が福島第一原発から250キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討したのであって,チェルノブイリ事故の場合の住民の避難区域も同様の規模に及んでいる(甲31,32)。

 年間何ミリシーベルト以上の放射線がどの程度の健康被害を及ぼすかについてはさまざまな見解があり,どの見解に立つかによってあるべき避難区域の広さも変わってくることになるが,既に20年以上にわたりこの問題に直面し続けてきたウクライナ共和国,ベラルーシ共和国は,今なお広範囲にわたって避難区域を定めている(甲32・35,275頁)。両共和国の政府とも住民の早期の帰還を図ろうと考え,住民においても帰還の強い願いを持つことにおいて我が国となんら変わりはないはずである。それにもかかわらず,両共和国が上記の対応をとらざるを得ないという事実は,放射性物質のもたらす健康被害について楽観的な見方をした上で避難区域は最小限のもので足りるとする見解の正当性に重大な疑問を投げかけるものである。上記250キロメートルという数字は緊急時に想定された数字にしかすぎないが,だからといってこの数字が直ちに過大であると判断することはできないというべきである。

3 本件原発に求められるべき安全性,立証責任

(1)原子力発電所に求められるべき安全性

 1,2に摘示したところによれば,原子力発電所に求められるべき安全性,信頼性は極めて高度なものでなければならず,万一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない。  人格権に基づく差止請求訴訟としては名誉やプライパシーを保持するための出版の差止請求を挙げることができる。これらの訴訟は名誉権ないしプライパシー権と表現の自由という憲法上の地位において相拮抗する権利関係、の調整という解決に困難を伴うものであるところ,これらと本件は大きく異なっている。すなわち,名誉やプライバシーを保持するという利益も生命と生活が維持されていることが前提となっているから,その意味では生命を守り生活を維持する利益は人格権の中でも根幹部分をなす根源的な権利ということができる。本件ではこの根源的な権利と原子力発電所の運転の利益の調整が問題となっている。原子力発電所は,電気の生産という社会的には重要な機能を営むものではあるが,原子力の利用は平和目的に限られているから(原子力基本法2条),原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって,憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。しかるところ,大きな自然災害や戦争以外で,この根源的な権利が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかは想定し難い。かような危険を抽象的にでもはらむ経済活動は,その存在自体が憲法上容認できないというのが極論にすぎるとしても,少なくともかような事態を招く具体的危険性が万が一でもあれば,その差止めが認められるのは当然である。このことは,土地所有権に基づく妨害排除請求権や妨害予防請求権においてすら,侵害の事実や侵害の具体的危険性が認められれば,侵害者の過失の有無や請求が認容されることによって受ける侵害者の不利益の大きさという侵害者側の事情を問うことなく請求が認められていることと対比しても明らかである。

 新しい技術が潜在的に有する危険性を許さないとすれば社会の発展はなくなるから,新しい技術の有する危険性の性質やもたらす被害の大きさが明確でない場合には,その技術の実施の差止めの可否を裁判所において判断することは困難を極める。しかし,技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には,技術の実施に当たっては危険の性質と被害の大きさに応じた安全性が求められることになるから,この安全性が保持されているかの判断をすればよいだけであり,危険性を一定程度容認しないと社会の発展が妨げられるのではないかといった葛藤が生じることはない。原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは,福島原発事故を通じて十分に明らかになったといえる。本件訴訟においては,本件原発において,かような事態を招く具体的危険性が万が一でもあるのかが判断の対象とされるべきであり,福島原発事故の後において,この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しいものと考えられる。

(2) 原子炉規制法に基づく審査との関係

 (1)の理は,上記のように人格権の我が国の法制における地位や条理等によって導かれるものであって,原子炉規制法をはじめとする行政法規の在り方,内容によって左右されるものではない。

 原告らは,「原子炉規制法24条の趣旨は放射性物質の危険性にかんがみ,放射性物質による災害が万が一にも起こらないようにするために,原子炉設置許可の段階で,原子炉を設置しようとする者の技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせることにある」との最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決(民集46巻7号1174頁・伊方最高裁判決)の判示に照らすと,原子炉規制法は放射性物質による災害が万が一にも起こらないようにすることをその立法趣旨としていると主張しているが(第3の1原告らの主張(2)),仮に,同法の趣旨が原告ら主張のものであったとしても,同法の趣旨とは独立して万一の危険も許されないという(1)の立論は存在する。また,放射性物質の使用施設の安全性に関する判断については高度の専門性を要することから科学的,専門技術的見地からなされる審査は専門技術的な裁量を伴うものとしてその判断が尊重されるべきことを原子炉規制法が予定しているものであったとしても,この趣旨とは関係なく(1)の観点から司法審査がなされるべきである。したがって,改正原子炉規制法に基づく新規制基準が原子力発電所の安全性に関わる問題のうちいくつかを電力会社の自主的判断に委ねていたとしても,その事項についても裁判所の判断が及ぼされるべきであるし,新規制基準の対象となっている事項に関しても新規制基準への適合性や原子力規制委員会による新規制基準への適合性の審査の適否という観点からではなく,(1)の理に基づく裁判所の判断が及ぼされるべきこととなる。

 ところで,規制基準への適合性の判断を厳密に行うためには高度の専門技術的な知識,知見を要することから,司法判断が規制基準への適合性の有無それ自体を対象とするのではなく,適合していると判断することに相当の根拠,資料があるか否かという判断にとどまることが多かったのには相応の理由があるというべきである。これに対し,(1)の理に基づく裁判所の判断は4以下に認定説示するように必ずしも高度の専門技術的な知識,知見を要するものではない。

(3) 立証責任

 原子力発電所の差止訴訟において,事故等によって原告らが被ばくする又は被ぱくを避けるために避難を余儀なくされる具体的危険性があることの立証責任は原告らが負うのであって,この点では人格権に基づく差止訴訟一般と基本的な違いはなく,具体的危険だありさえすれば万が一の危険性の立証で足りるところに通常の差止訴訟との違いがある。証拠が被告に偏在することから生じる公平性の要請は裁判所による訴訟指揮及び裁判所の指揮にもかかわらず被告が証拠を提出しなかった場合の事実認定の在り方の問題等として解決されるべき事柄であって,存否不明の場合の敗訴の危険をどちらに負わせるのかという立証責任の所在の問題とは次元を異にする。また,被告に原子力発電所の設備が基準に適合していることないしは適合していると判断することに相当性があることの立証をさせこれが成功した後に原告らに具体的危険性の立証責任を負わせるという手法は原子炉の設置許可ないし設置変更許可の取消訴訟ではない本件訴訟においては迂遠な手法といわざるを得ず,当裁判所はこれを採用しない。(1)及び(2)に説示したところ1に照らしても,具体的な危険性の存否を直接審理の対象とするのが相当であり,かつこれをもって足りる。

原子力発電所の特性

 原子力発電技術は次のような特性を持つ。すなわち,原子力発電においてはそこで発出されるエネルギーは極めて膨大であるため,運転停止後においても電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならず,その間に何時間か電源が失われるだけで事故につながり,いったん発生した事故は時の経過に従って拡大して行くという性質を持つ。このことは,他の技術の多くが運転の停止という単純な操作によって,その被害の拡大の要因の多くが除去されるのとは異なる原子力発電に内在する本質的な危険である。

 したがって,施設の損傷に結びつき得る地震が起きた場合,速やかに運転を停止し,運転停止後も電気を利用して水によって核燃料を冷却し続け,万がーに具常が発生したときも放射性物質発電所敷地外部に漏れ出すことのないようにしなければならず,この止める,冷やす,閉じこめるという要請はこの3つがそろって初めて原子力発電所の安全性が保たれることとなる。仮に,止めることに失敗するとわずかな地震による損傷や故障でも破滅的な事故を招く可能性がある。地震及び津波の際の炉心損傷を招く危険のある事象についての複数のイベントツリーのすべてにおいて,止めることに失敗すると炉心損傷に至ることが必然であり,とるべき有効な手だてがないことが示されている(前提事実(6),甲14,弁論の全趣旨)。福島原発事故では,止めることには成功したが,冷やすことができなかったために放射性物質が外部に放出されることになった(前提事実(9))。また,我が国においては核燃料は,①核燃料を含む燃料べレット,②燃料被覆管,③原子炉圧力容器,④原子炉格納容器,⑤原子炉建屋という五重の壁に閉じ込められているという構造によって初めてその安全性が担保されているとされ,その中でも重要な壁が堅固な構造を持つ原子炉格納容器であるとされている(甲1・126ないし130頁,弁論の全趣旨)。

 しかるに,本件原発には地震の際の冷やすという機能と閉じこめるという構造において次のような欠陥がある。

5  冷却機能の維持について

(1) 1260ガルを超える地震について

 上述のとおり,原子力発電所地震による緊急停止後の冷却機能について外部からの交流電流によって水を循環させるという基本的なシステムをとっている。1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し,非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり,メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告において自認しているところである。すなわち,本件ストレステストに関し被告の作成した甲14号証の47頁には「耐震裕度が1.80Ss以上または許容津波高さが11.4m以上の領域で、は,炉心にある燃料の重大な損傷を回避する手段がなくなるため,その境界線がクリフエッジとして特定された。」,被告の準備書面(9)17頁には「クリフエッジとは,プラントの状況が急変する地震津波等のストレス(負荷〕のレベルのことをいう。地震を例にとると,想定する地震動の大きさを徐々に上げていったときに,それを超えると,安全上重要な設備に損傷が生じるものがあり,その結果,燃料の重大な損傷に至る可能性が生じる地震動のレベルのことをいう。」との各記述があり,これは被告が上記自認をしていることにほかならない。なお,当裁判所は被告の主張する1.80Ss(1260ガル)という数値をそのまま採用しているものでないことは,(2)オにおいて説示するところであるが,本項では被告の主張を前提とする。

 しかるに,我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。地震は地下深くで起こる現象であるから,その発生の機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ないのであって,仮説の立論や検証も実験という手法がとれない以上過去のデータに頼らざるを得ない。確かに地震は太古の昔から存在し,繰り返し発生している現象ではあるがその発生頻度は必ずしも高いものではない上に,正確な記録は近時のものに限られることからすると,頼るべき過去のデータは極めて限られたものにならざるをえない(甲52参照)。証拠(甲47)によれば,原子力規制委員会においても,16個の地震を参考にして今後起こるであろう震源を特定せず策定する地震動(別紙4の別記2の第4条5三参照)の規模を推定しようとしていることが認められる。この数の少なさ自体が地震学における頼るべき資料の少なさを如実に示すものといえる。したがって,大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。むしろ,①我が国において記録された既往最大の震度は岩手宮城内陸地震における4022ガルであり(争いがない),1260ガルという数値はこれをはるかに下回るものであること,②岩手宮城内陸地震は大飯でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震(別紙4の別記2の第4条5二参照)であること,③この地震が起きた東北地方と大飯原発の位置する北陸地方ないし隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度において有意的な違いは認められず,若狭地方の既知の活断層に限っても陸海を問わず多数存在すること(甲18・756,778頁,乙37・50頁,前提事実(2)イ,別紙1参照),④この既往最大という概念、自体が,有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎないことからすると,1260ガルを超える地震大飯原発に到来する危険がある。

 なお,被告は,岩手宮城内陸地震で観測された数値が観測地点の特性によるものである旨主張しているが(第3の2被告の主張(1)),新潟県中越沖地震では岩盤に建っているはずの柏崎刈羽原発1号機の解放基盤表面(固い岩盤が,一定の広がりをもって,その上部に地盤や建物がなくむき出しになっている状態のものとして仮想的に設定された表面,別紙4別記2第4条5ー参照)において最大加速度が1699ガルと推定されていること(甲38,被告準備書面(4)の16頁)からすると,被告の主張どおり4022ガルを観測した地点の地盤が震動を伝えやすい構造であったと仮定しても,上記認定を左右できるものではない。

 1260ガルを超える地震大飯原発に到来した場合には,冷却機能が喪失し,炉心損傷を経てメルトダウンが発生する危険性が極めて高く,メルトダウンに至った後は圧力上昇による原子炉格納容器の破損,水素爆発あるいは最悪の場合には原子炉格納容器を破壊するほどの水蒸気爆発の危険が高まり,これらの場合には大量の放射性物質が施設外に拡散し,周辺住民が被ばくし,又は被ぱくを避けるために長期間の避難を要することは確実である。

(2) 700ガルを超えるが1260ガルに至らない地震について

ア 被告の主張するイベントツリーについて

 仮に,大飯原発に起きる危険性のある地震が基準地震動Ssの700ガルをやや上回るものであり,1260ガルに達しないと仮定しても,このような地震が炉心損傷に結びっく原因事実になることも被告の自認するところである。これらの事態に対し,有効な手段を打てば,炉心損傷には至らないと被告は主張するが,かようなことは期待できない。

 被告は,700ガルを超える地震が到来した場合の事象を想定じ,それに応じた対応策があると主張し,これらの事象と対策を記載したイベントツリーを策定し,4.65メートルを超える津波が到来したときの対応についても類似のイベントツリーを策定している(前記前提事実(6),甲14)。被告は,これらに記載された対策を順次とっていけば,1260ガルを超える地震が来ない限り,津波の場合には11.4メートルを超えるものでない限りは,炉心損傷には至らず,大事故に至ることはないと主張する。

しかし,これらのイベントツリー記載の対策が真に有効な対策であるためには,第1に地震津波のもたらす事故原因につながる事象を余すことなくとりあげること,第2にこれらの事象に対して技術的に有効な対策を講じること,第3にこれらの技術的に有効な対策を地震津波の際に実施できるという3つがそろわなければならない。

イ イベントツリー記載の事象について

 深刻な事故においては発生した事象が新たな事象を招いたり,事象が重なって起きたりするものであるから,第1の事故原因につながる事象のすべてを取り上げること自体が極めて困難であるといえる。被告の提示する地震の際のイベントツリーを見ても,後記の主給水,外部電源の問題を除くと1225ガルから重大事故につながる事象が始まるとしているところ(甲14),基準地震動である700ガルから1225ガルまでの聞に重大事故につながる損傷や事象が生じないということは極めて考えにくい事柄である。被告がイベントツリーにおいて事故原因につながる事象のすべてをとりあげているとは認め難い。

ウ イベントツリー記載の対策の実効性について

 また,事象に対するイベントツリー記載の対策が技術的に有効な措置であるかどうかはさておくとしても,いったんことが起きれば,事態が深刻であればあるほど,それがもたらす混乱と焦燥の中で適切かっ迅速にこれらの措置をとることを原子力発電所の従業員に求めることはできない。特に,次の各事実に照らすとその困難性は一層明らかである。

 第1に地震はその性質上従業員が少なくなる夜間も昼間と同じ確率で起こる。上記3(2)において摘示したように,夜間の宿直人員数については規制基準が及ばないとしても,本件における危険性の判断要素となるところ,突発的な危機的状況に直ちに対応できる人員がいかほどか,あるいは現場において指揮命令系統の中心となる所長が不在か否かは,実際上は,大きな意味を持つことは明らかである。

 第2に上記イベントツリーにおける対応策をとるためにはいかなる事象が起きているのかを把握できていることが前提になるが,この把握自体が極めて困難である。福島原発事故の原因について政府事故調査委員会と国会事故調査委員会の各調査報告書が証拠提出されているところ,両報告書は共に外部電源が地震によって断たれたことについては共通の認識を示しているものの,政府事故調査委員会は外部電源の問題を除くと事故原因に結びっくような地震による損傷は認められず,事故の直接の原因は地震後間もなく到来した津波であるとする(甲1,19,20,乙9)。他方,国会事故調査委員会地震の解析に力を注ぎ,地震の到来時刻と津波の到来時刻の分析や従業員への聴取調査等を経て津波の到来前に外部電源の他にも地震によって事故と直結する損傷が生じていた疑いがある旨指摘しているものの,地震がいかなる箇所にどのような損傷をもたらしそれがいかなる事象をもたらしたかの確定には至っていない(特に甲1・196頁ないし230頁)。一般的には事故が起きれば事故原因の解明,確定を行いその結果を踏まえて技術の安全性を高めていくという側面があるが,原子力発電技術においてはいったん大事故が起これば,その事故現場に立ち入ることができないため事故原因を確定できないままになってしまう可能性が極めて高く,福島原発事故においてもその原因を将来確定できるという保証はない(甲32・208ないし220頁によれば,チェルノブイリ事故の原因も今日に至るまで完全には解明されていないことが認められる。)。それと同様又はそれ以上に,原子力発電所における事故の進行中にいかなる箇所にどのような損傷が起きておりそれがいかなる事象をもたらしているのかを把握することは困難である。

 第3に,仮に,いかなる事象が起きているかを把握できたとしても,地震により外部電源が断たれると同時に多数箇所に損傷が生じるなど対処すべき事柄は極めて多いことが想定できるのに対し,全交流電源喪失から炉心損傷開始までの時間は5時間余であり,炉心損傷の開始からメルトダウンの開始に至るまでの時間も2時間もないのであって,たとえ小規模の水管破断であったとしても10時間足らずで冷却水の減少によって炉心損傷に結びつく可能性があるとされている(甲1・131ないし133頁,211頁,被告準備書面(5)11頁参照,上記時間は福島第一原発の例によるものであるが,本件原子炉におけるこれらの時聞が福島第一原発より特に長いとは認められないし,第1次冷却水に係る水管破断による冷却水の減少速度は加圧水型で、ある本件原子炉の方が沸騰水型である福島第一原発のそれより速いとも考えられる。)。

 第4にとるべきとされる手段のうちいくつかはその性質上,緊急時にやむを得ずとる手段であって普段からの訓練や試運転にはなじまない。上述のとおり,運転停止中の原子炉の冷却は外部電源が担い,非常事態に備えて水冷式非常用ディーゼ、ル発電機のほか空冷式非常用発電装置,電源車が備えられているとされるが(甲16の1,第3の2被告の主張(2)参照),たとえば空冷式非常用発電装置だけで実際に原子炉を冷却できるかどうかをテストするというようなことは危険すぎてできょうはずがない。

 第5にとるべきとされる防御手段に係るシステム自体が地震によって破損されることも予想できる。大飯原発の何百メートルにも及ぶ非常用取水路(甲17,乙2の2,弁論の全趣旨)が一部でも700ガルを超える地震によって破損されれば,非常用取水路にその機能を依存しているすべての水冷式の非常用ディーゼノレ発電機が稼動できなくなることが想定できるといえる。なお,原告らの主張のとおり(第17準備書面),非常用取水路の下を将来活動する可能性のある断層ないしは将来地盤にずれを生じさせるおそれのある断層が走っているとすれば,700ガル未満の地震によっても非常用取水路が破損しすべての水冷式の非常用ディーゼル発電機が稼動できなくなる危険があることになるが,本件においては上記原告らの主張の当否について判断する必要を認めない。また,新潟県中越沖地震の際に柏崎刈羽原発においてその敷地内で活断層が動いたわけではないが,敷地内の埋戻土部分において1.6メートルに及ぶ段差が生じたことが認められる(甲92,乙8)。大飯原発柏崎刈羽原発と同様に埋戻土部分があることから(被告準備書面回参照),埋戻土部分において地震によって段差ができ,最終の冷却手段ともいうべき電源車を動かすことが不可能又は著しく困難となることも想定できる。大飯原発には,非常用ディーゼル発電機を初めとする各種非常用設備が複数存在することが認められるが(甲16の1,第3の2被告の主張(2)参照),上記に摘示したことを一例として地震によって複数の設備が同時にあるいは相前後して使えなくなったり故障したりすることは機械というものの性質上当然考えられることであって,防御のための設備が複数備えられていることは地震の際の安全性を大きく高めるものではないといえる。

 第6に実際に放射性物質が一部でも漏れればその場所には近寄ることさえできなくなる。地震が起きた場合の対応については放射性物質の危険に常に注意を払いつつ瓦磯等を除去しながらのものになろうし,実際に放射性物質が漏れればその場所での作業は不可能となる。最悪の事態を想定すれば中央制御室からの避難をも余儀なくされることになる。

 第7に,大飯原発に通ずる道路は限られており施設外部からの支援も期待できない。この道路は山が迫った海岸沿いを伸びるものであったり,いくつかのトンネルを経て通じているものであったりするから(甲14・3頁, 乙2の2),地震によって崖崩れが起き交通が寸断されることは容易に想定できる。

エ 基準地震動の信頼性について

被告は,大飯の周辺の活断層の調査結果l乙基づき活断層の状況等を勘案した場合の地震学の理論上導かれるガル数の最大数値が700であり,そもそも,700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないと主張する(第3の2被告の主張(4)ア)。しかし,この理論上の数値計算の正当性,正確性について論じるより,現に,下記のとおり(本件5例),全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの聞に到来しているという事実(前提事実同)を重視すべきは当然である。地震の想定に関しこのような誤りが重ねられてしまった理由については,そもそも(1)に摘示した地震学の限界に照らすと仮説であるアスペリティの存在を前提としてその大きさと存在位置を想定するなどして地震動を推定すること自体に無理があるのではないか,あるいはアスペリティの存在を前提とすること自体は問題がないものの,地震動を推定する複数の方式について原告らが主張するように選択の誤りがあったのではないか等の種々の議論があり得ようが,これらの問題については今後学術的に解決すべきものであって,当裁判所が立ち入って判断する必要のない事柄である。

 被告は,上記地震のうち3回(①,④,⑤)は大飯原発の敷地に影響を及ぼしうる地震とは地震発生のメカニズムが異なるプレート間地震によるものであることから,残り2回(②,③)の地震はプレート間地震ではないもののこの2つの地震を踏まえて大飯原発地震想定がなされているから,あるいは,①②③の地震想定は平成18年改正前の旧指針に基づくS1,S2基準による地震動であり,本件原発でとられているSs基準による地震動の想定と違うということを理由として,これらの地震想定の事例は本件原発地震想定の不十分さを示す根拠とならないと主張している(第3の2被告の主張(4)ウ)。  しかし,上記3回(①,④,⑤)については我が国だけでなく世界中のプレート間地震の分析をしたにもかかわらず(別紙4別記2第4条5二③参照),プレート間地震の評価を誤ったということにほかならないし,残り2回の地震想定(②,③)もその時点において得ることができる限りの情報に基づき当時の最新の知見に基づく基準に従つてなされたにもかかわらず結論を誤ったものといえる。これらの事例はいずれも地震という自然の前における人間の能力の限界を示すものというしかない。本件原発地震想定が基本的には上記4つの原発におけるのと同様,過去における地震の記録と周辺の活断層の調査分析という手法に基づきなされたにもかかわらず(弁論の全趣旨・第3の2被告の主張(4)ア参照,乙21),被告の本件原発地震想定だけが信頼に値するという根拠は見い出せない。

 また,被告の本件原発地震想定については,前提事実(2)に記載した各事実に加え証拠(甲41,72)及び弁論の全趣旨によれば,次のような信頼性を積極的に失わせるような事情が認められる。すなわち,大飯原発の敷地をほぼ東西に走る非常用取水路の下をほぼ南北に横切るF-6破砕帯と呼ばれる破砕帯が活断層であるか否かについては専門家の聞でも意見が分かれていたもので,大飯原発の差止めを求める大阪地方裁判所の仮処分事件においても主要な争点のひとつであった。この争点については被告の発電所敷地内の破砕帯に関する従前の調査結果に基づき,上記F-6破砕帯と連続性があるとされた非常用取水路の北に位置する台場浜トレンチ地点の破砕帯の評価を巡って争われた。しかるところ,被告は従前の調査結果を否定し,上記台場浜トレンチ地点と非常用取水路の下を走っている破砕帯の連続性がないと主張し,その後の掘削によりその存在が確認、された非常用取水路の下を南北に走っている新F-6破砕帯と呼ばれる破砕帯については,上記仮処分却下決定後に専門家の全員一致の見解として活断層ではなくまた地滑りとしての危険性もないとの評価が得られた。

 翻ってみると,このような主張の変遷がなされること自体,破砕帯の走行状況についての被告の調査能力の欠如や調査の社撰さを示すものであるといえる。発電所の敷地内部においてさえこのような状況であるから,被告による発電所の周辺地域における活断層の調査が厳密になされたと信頼することはできないというべきである。このことと,地震は,必ずしも既知の活断層で発生するとは限らないことを考え併せると,大飯原発の周辺において,被告の調査不足から発見できなかった活断層が関わる地震や上記性質の地震が起こり得ることは否定できないはずであり,この点において既に被告の地震想定は信頼性に乏しいといえる。

オ 安全余裕について

 被告は本件5例の地震によって原発の安全上重要な施設に損傷が生じなかったことを前提に,原発の施設には安全余裕ないし安全裕度があり,たとえ基準地震動を超える地震が到来しても直ちに安全上重要な施設の損傷(機能喪失)の危険性が生じることはないと主張している(第3の2被告の主張(5))。そして,安全裕度の意義については対象設備が基準地震動の何倍の地震動まで機能を維持し得るかを示す数値であるとしている(平成26年3月27日期日における被告の補足説明要旨)。

 柏崎刈羽原発に生じた損傷がはたして安全上重要な施設の損傷ではなかったといえるのか,福島第一原発においては地震による損傷の有無が確定されていないのではないかという疑いがあり,そもそも被告の主張する前提事実自体が立証されていない。この点をおくとしても,被告のいう安全余裕の意味自体が明らかでない。弁論の全趣旨によると,一般的に設備の設計に当たって,様々な構造物の材質のばらつき,溶接や保守管理の良否等の不確定要素が絡むから,求められるべき基準をぎりぎり満たすのではなく同基準値の何倍かの余裕を持たせた設計がなされることが認められる。原告らが主張するように(第3の2原告らの主張(3)),原子炉圧力容器や蒸気発生器などが高温側と低温側に大きな温度差があり,使われている鋼材などに温度差・熱膨張差による伸び縮みを繰り返すことによる材料の疲労現象がある等の事実があるとすれば,上記不確定要素が多いといえるから,余裕を持たせた設計をすることが強く求められると考えら'れる。このように設計した場合でも,基準を超えれば設備の安全は確保できない。この基準を超える負荷がかかっても設備が損傷しないことも当然あるが,それは単に上記の不確定要素が比較的安定していたことを意味するにすぎないのであって,安全が確保されていたからではなし、。以上のような一般的な設計思想と異なる特有の設計思想や設計の実務が原発の設計においては存在すること,原子力規制委員会において被告のいうところの安全余裕を基準とした審査がなされることのいずれについてもこれを認めるに足りる証拠はない。

 したがって,たとえ,過去において,原発施設が基準地震動を超える地震に耐えられたという事実が認められたとしても,同事実は,今後,基準地震動を超える地震大飯原発に到来しでも施設が損傷しないということをなんら根拠づけるものではない。

カ  中央防災会議における指摘

 大飯を含む日本のどの地域においても大規模な地震が到来する可能性はあるのであり,それが大規模であればあるほど,その確率が低くなるというにすぎない。平成24年6月12日に聞かれた中央防災会議,「東南海,南海地震に関する専門調査会」においても,「地表に現われた地震断層は活断層に区分されるものもあるが,M(マグニチュード)7.3以下の地震は,必ずしも既知の活断層で発生した地震であるとは限らないことがわかる。したがって,内陸部で発生する被害地震のうち,M7.3以下の地震は,活断層が地表に見られていない潜在的な断層によるものも少なくないことから,どこでもこのような規模の被害地震が発生する可能性があると考えられる。」との指摘がなされており(訴状38頁参照,同指摘がなされていることは争いがない。甲52参照),この指摘は上記知見に沿うものであるところ,証拠(甲38,62,63)によれば,マグニチュード7.3以下の地震であっても700ガルをはるかに超える震度をもたらすことがあると認められる。

(3) 700ガルに至らない地震について

ア  施設損壊の危険

本件原発においては基準地震動である700ガルを下回る地震によって外部電源が断たれ,かつ主給水ポンプが破損し主給水が断たれるおそれがあると認められる(甲14号証の20頁には「『主給水喪失』『外部電源喪失』については,耐震B,Cクラス設備等の破損により発生することから,Ssまでの地震動で発生すると考えられる。」との記載がある。)。大飯原発の敷地に160ガル以上の地震が到来すると,原子炉は緊急停止することになるが(弁論の全趣旨・被告準備蓄面(3)8頁参照),被告においても,たとえば200ガルの地震が大飯に到来した場合,外部電源が断たれなければ外部電源で冷却し外部電源が断たれれば非常用ディーゼル発電機で冷却することになり,主給水が断たれなければ主給水で、冷却し主給水が断たれれば補助給水設備が冷却手段となる旨主張している(第6回口頭弁論期日調書参照)。

イ  施設損壊の影響

 外部電源は緊急停止後の冷却機能を保持するための第1の砦であり,外部電源が断たれれば非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なくなるのであり,その名が示すとおりこれが非常事態であることは明らかである。福島原発事故においても外部電源、が健全であれば非常用ディーゼル発電機の津波による被害が事故に直結することはなかったと考えられる。主給水は冷却機能維持のための命綱であり,これが断たれた場合にはその名が示すとおり補助的な手段にすぎない補助給水設備に頼らざるを得ない。前記のとおり,原子炉の冷却機能は電気によって水を循環させることによって維持されるのであって,電気と水のいずれかが一定時間断たれれば大事故になるのは必至である。原子炉の緊急停止の際,この冷却機能の主たる役割を担うべき外部電源と主給水の双方がともに700ガルを下回る地震によっても同時に失われるおそれがある。そして,その場合には(2)で摘示したように実際にはとるのが困難であろう限られた手段が効を奏さない限り大事故となる。

ウ  補助給水設備の限界

 このことを,上記の補助給水設備についてみると次の点が指摘できる。証拠(甲14・21ないし22頁,甲16の7)によれば,緊急停止後において非常用ディーゼル発電機が正常に機能し,補助給水設備による蒸気発生器への給水が行われたとしても,①主蒸気逃がし弁による熱放出,②充てん系によるほう酸の添加,③余熱除去系による冷却のうち,いずれか一つに失敗しただけで,補助給水設備による蒸気発生器への給水ができないのと同様の事態に進展することが認められるのであって,補助給水設備の実効性は補助的手段にすぎないことに伴う不安定なものといわざるを得ない。また上記証拠によれば,上記事態の回避措置として,下記のとおり,(ア)のイベントツリーが用意され,更に(ア)のイベントツリーにおはる措置に失敗した場合の(イ)のイベントツリーも用意されてはいるが,各手順のいずれか一つに失敗しただけでも,加速度的に深刻な事態に進展し,未経験の手作業による手順が増えていき,不確実性も増していく。事態の把握の困難性や時間的な制約のなかでその実現に困難が伴うことは(2)において摘示したとおりである。

    • (ア) イベントツリー
      • a  手法
        • ①高圧注入ポンプの起動,②加圧器逃がし弁の開放,③格納容器スプレイポンプの起動を中央制御室からの手動操作により行い,燃料取替用水ピットのほう酸水を注入し,1次系の冷却を行う。注入の後,再循環切り替えを行い,④高圧注入及び格納容器スプレイによる継続した1次系冷却を行う。
      • b a が成功した場合の効果
        • この状態では来臨界性が確保された上で海水を最終ヒートシンクとした安定,継続的な冷却が行われており,燃料の重大な損傷に至る事態は回避される。
      • c a が失敗した場合の効果
        • ①高圧注入による原子炉への給水,②加圧器逃がし弁による熱放出,③格納容器スプレイによる格納容器徐熱,④高圧注入による炉心冷却及び原子炉格納容器スプレイによる再循環格納容器の冷却のうち,いずれか一つに失敗すると,非常用所内電源からの給電ができないのと同様の非常事態(緊急安全対策シナリオ)に進展する。
    • (イ)イベントツリー((ア)cの場合の収束シナリオ)
      • a 手法
        • ①タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生器への給水が行われ,②現場での手動作業により主蒸気逃がし弁を開放し,2次系による冷却が行われる。③蓄圧タンクのほう酸水を注入し,未臨界性を確認し,④蓄電池の枯渇までに空冷式非常用発電装置による給電を行うとともに,蓄圧タンク出口隔離弁を中央制御室からの手動操作により閉止する。また,復水ピット枯渇までに海水の復水ピットへの補給を行うことにより,2次系冷却を継続する。
      • b  a が成功した場合の効果
        • この状態では未臨界性が確保された上で、海水を水源とした安定,継続的な2次系冷却が行われており,燃料の重大な損傷に至る事態は回避される。
      • c  aが失敗した場合の効果
        • ①タービン動補助給水ポンプによる蒸気発生器への給水,②現場での手動作業による主蒸気逃がし弁の開放,③蓄圧タンクのほう酸水の注入,④空冷式非常用発電装置による給電のうち,いずれか一つに失敗すると,炉心損傷に至る。

エ  被告の主張について

 被告は,主給水ポンプは安全上重要な設備ではないから基準地震動に対する耐震安全性の確認は行われていないと主張するが(第3の2被告の主張(3)ア),主給水ポンプは別紙3の下図に表示されているものであり,位置関係を見ただけでも,その重要性を否定することに疑問が生じる。また,主給水ポンプの役割は主給水の供給にあり,主給水によって冷却機能を維持するのが原子炉の本来の姿であって,そのことは被告も認めているところである。安全確保の上で不可欠な役割を第1次的に担う設備ほこれを安全上重要な設備であるとして,それにふさわしい耐震性を求めるのが健全な社会通念であると考えられる。このような設備を安全上重要な設備ではないとするのは理解に苦しむ主張であるといわざるを得ない。

オ基準地震動の意味について

 日本語としての通常の用法に従えば,基準地震動というのはそれ以下の地震であれば,機能や安全が安定的に維持されるという意味に解される。基準地震動Ss未満の地震であっても重大な事故に直結する事態が生じ得るというのであれば,基準としての意味がなく,大飯原発に基準地震動である700ガル以上の地震が到来するのかしないのかという議論さえ意味の薄いものになる。

(4) 小括

 日本列島は太平洋プレート,オホーツクプレート,ユーラシアプレート及びフィリピンプレートの4つのプレートの境目に位置しており,全世界の地震の1割が狭い我が国の国土で発生するといわれている。1991年から2010年までにおいてマグニチュード4以上,深さ100キロメートル以下の地震を世界地図に点描すると,日本列島の形さえ覆い隠されてしまうほどであり,日本圏内に地震の空白地帯は存在しないことが認められる。(甲18・756,778ないし779頁,訴状31頁参照)。日本が地震大国といわれる由縁である。

 この地震大国日本において,基準地震動を超える地震大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上,基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば,そこでの危険は,万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。

6  閉じこめるという構造について(使用済み核燃料の危険性)

(1) 使用済み核燃料の現在の保管状況

 原子力発電所は,いったん内部で事故があったとしても放射性物質原子力発電所敷地外部に出ることのないようにする必要があることから,その構造は堅固なものでなければならない。そのため,本件原発においても核燃料部分は堅固な構造をもっ原子炉格納容器の中に存する。他方,使用済み核燃料は本件原発においては原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に置かれており,その本数は1000本を超えるが,使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない(前提事実(5)ア)。

(2) 使用済み核燃料の危険性

 使用済み核燃料は,原子炉から取り出された後の核燃料であるが,なお崩壊熱を発し続けているので,水と電気で冷却を継続しなければならないところ(前提事実(5)イ),その危険性は極めて高い。福島原発事故においては,4号機の使用済み核燃料プールに納められた使用済み核燃料が危機的状況に陥り,この危険性ゆえに前記の避難計画が検討された。原子力委員会委員長が想定した被害想定のうち,最も重大な被害を及ぼすと想定されたのは使用済み核燃料プールからの放射能汚染であり,他の号機の使用済み核燃料プールからの汚染も考えると,強制移転を求めるべき地域が170キロメートル以遠にも生じる可能性や,住民が移転を希望する場合にこれを認めるべき地域が東京都のほぼ全域や横浜市の一部を含む250キロメートル以遠にも発生する可能性があり,これらの範囲は自然に任せておくならば,数十年は続くとされた(甲31)。

 平成23年3月11日当時4号機は計画停止期間中であったことから使用済み核燃料プールに隣接する原子炉ウエルと呼ばれる場所に普段は張られていない水が入れられており,同月15日以前に全電源喪失による使用済み核燃料の温度上昇に伴って水が蒸発し水位が低下した使用済み核燃料プールに原子炉ウエルから水圧の差で両方のプールを遮る防壁がずれることによって,期せずして水が流れ込んだ。また,4号機に水素爆発が起きたにもかかわらず使用済み核燃料プールの保水機能が維持されたこと,かえって水素爆発によって原子炉建屋の屋根が吹き飛んだためそこから水の注入が容易となったということが重なった(甲1・159ないし161頁,甲19・215頁ないし240頁)。そうすると,4号機の使用済み核燃料プールが破滅的事態を免れ,上記の避難計画が現実のものにならなかったのは僥倖ともいえる。

(3) 被告の主張について

 被告は,原子炉格納容器の中の炉心部分は高温,高圧の一次冷却水で満たされおり,仮に配管等の破損により一次冷却水の喪失が発生した場合には放射性物質が放出されるおそれがあるのに対し,使用済み核燃料は通常40度以下に保たれた水により冠水状態で貯蔵されているので冠水状態を保てばよいだけであるから堅固な施設で固い込む必要はないとするが(第3の3被告の主張(1)),以下のとおり失当である。

ア  冷却水喪失事故について

 使用済み核燃料においても破損により冷却水が失われれば被告のいう冠水状態が保てなくなるのであり,その場合の危険性は原子炉格納容器の一次冷却水の配管破断の場合と大きな違いはない。むしろ,使用済み核燃料は原子炉内の核燃料よりも核分裂生成物(いわゆる死の灰)をはるかに多く含むから(前提事実(5)イ),(2)に摘示したように被害の大きさだけを比較すれば使用済み核燃料の方が危険であるともいえる。原子炉格納容器という堅固な施設で核燃料を閉じこめるという技術は,核燃料に係る放射性物質を外部に漏らさないということを目的とするが,原子炉格納容器の外部からの事故から核燃料を守るという側面もあり,たとえば建屋内での不測の事態に対しでも核燃料を守ることができる。そして,五重の壁の第1の壁である燃料ベレットの熔解温度が原子炉格納容器の溶解温度よりもはるかに高いことからすると(被告準備書面(14)7頁によると,①核燃料ペレット,②燃料被覆管,③原子炉圧力容器,④原子炉格納容器,⑤建屋の溶解温度は,それぞれ,①が2800度,②が1800度,③及び④が1500度,⑤が1300度であり,外に向かうほど溶解温度が低くなっている。),原子炉格納容器は炉心内部からの熱崩壊に対しては確たる防御機能を果たし得ないことになるから,原子炉格納容器の機能として原子炉格納容器の外部における不測の事態に対して核燃料を守るという役割を軽視することはできないといえる。なお,被告はかような機能は原子炉格納容器には求められていないと主張するが,他方では原子炉格納容器が竜巻防御施設の外殻となる施設であると位置づけており(甲68・35ないし36頁),被告の主張は採用できない。

 福島原発事故において原子炉格納容器のような堅固な施設に固まれていなかったにもかかわらず4号機の使用済み核燃料プールが建屋内の水素爆発に耐えて破断等による冷却水喪失に至らなかったこと,あるいは瓦擦がなだれ込むなどによって使用済み核燃料が大きな損傷を被ることがなかったこと(甲1・159ないし161頁,甲19・215ないし240頁)は誠に幸運と言うしかない。使用済み核燃料も原子炉格納容器の中の炉心部分と同様に外部からの不測の事態に対して堅固な施設によって防御を固められてこそ初めて万全の措置をとられているということができる。

イ  電源喪失事故について

 上記のような破断等による冷却水喪失事故ではなく全電源が喪失し空だき状態が生じた場合においては,核燃料は全交流電源喪失から5時間余で炉心損傷が開始する。これに対し,使用済み核燃料も崩壊熱を発し続けるから全電源喪失によって危険性が高まるものの,時間単位で危険性が発生するものでない。しかし,上記5時間という時間は具常に短いのであって,それと比較しても意味がない。

 被告は,電源を喪失しでも使用済み核燃料プールに危険性が発生する前に確実に給水ができると主張し,また使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスとしてはBクラスであるが(別紙4・別記2第4条2二参照),安全余裕があることからすると実際は基準地震動に対しでも十分な耐震安全性を有しているなどと主張しているが(第3の3被告の主張(2)),被告の主張する安全余裕の考えが採用できないことは5(2)オにおいて摘示したとおりであり,地震が基準地震動を超えるものであればもちろん,超えるものでなくても,使用済み核燃料プールの冷却設備が損壊する具体的可能性がある。また,使用済み核燃料プール地震によって危機的状況に陥る場合にはこれと並行してあるいはこれに先行して隣接する原子炉も危機的状態に陥っていることが多いということを念頭に置かなければならないのであって,このような状況下において被告の主張どおりに確実に給水ができるとは認め難い。被告は福島原発事故を踏まえて使用済み核燃料の冷却機能の維持について様々な施策をとり,注水等の訓練も重ねたと主張するが,深刻な事故においては発生した事象が新たな事象を連鎖的に招いたりするものであり,深刻事故がどのように進展するのかの予想はほとんど不可能である。原子炉及び使用済み核燃料プールの双方の冷却に失敗した場合の事故が福島原発事故のとおり推移することはまず考えられないし,福島原発事故の全容が解明されているわけでもない。たとえば,高濃度の放射性物質が隣接する原子炉格納容器から噴出すればそのとたんに使用済み核燃料プールへの水の注入作業は不可能となる。弥縫策にとどまらない根本的施策をとらない限り「福島原発事故を踏まえて」という言葉を安易に用いるべきではない。

 本件使用済み核燃料プールにおいては全交流電源喪失から3日を経ずして冠水状態が維持できなくなる(甲70・15-14頁)。我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼすにもかかわらず,全交流電源喪失から3日を経ずして危機的状態に陥いる。そのようなものが,堅固な設備によって閉じこめられていないままいわばむき出しに近い状態になっているのである。

(4) 小括

 使用済み核燃料は本件原発の稼動によって日々生み出されていくものであるところ,使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え,国民の安全が何よりも優先されるべきであるとの見識に立つのではなく,深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。

7  本件原発の現在の安全性と差止めの必要性について

 以上にみたように,国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると,本件原発に係る安全技術及び設備は,万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず,むしろ,確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち得る脆弱なものであると認めぎるを得ない。

 前記4に摘示した事実からすると,本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運転差止めによって直ちに消失するものではない。しかし,本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギーを発出することになる一方,運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていくのであって,時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり,破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき,また運転停止によってその増加を防ぐことができる。そうすると,本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を軽減する適切で有効な手段であると認められる。

 現在,新規制基準が策定され各地の原発で様々な施策が採られようとしているが,新規制基準には外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるまで強度を上げる,基準地震動を大幅に引き上げこれに合わせて設備の強度を高める工事を施工する,使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む等の措置は盛り込まれていない(別紙4参照)。したがって,被告の再稼動申請に基づき,5,6に摘示した問題点が解消されることがないまま新規制基準の審査を通過し本件原発が稼動に至る可能性がある。こうした場合,本件原発の安全技術及び設備の脆弱性は継続することとなる。

8  原告らのその余の主張について

 原告らは,地震が起きた場合において止めるという機能においても本件原発には欠陥があると主張し(訴状第5の3,第2準備書面第3,第4準備書面第2),また,冷却材喪失事故発生時において冷却水の再循環サンプが機能しないという安全技術上の欠陥(訴状第5の1,第7準備書面1),3号機における溶接部の残留応力によるクラック及び冷却水漏洩の発生の危険性(訴状第5の2,第7準備書面2),津波による危険(第5準備書面,第9準備書面),テロによる危険(第1準備書面第3の3,第16準備書面第5),竜巻の危険(第1準備書面第3の3,第16準備書面第4)等さまざまな要因による危険性を主張している。しかし,これらの危険性の主張は選択的な主張と解され,上記の地震の際の冷やすという機能及び閉じ込めるという構造に欠陥が認められる以上,原告らの主張するその余の危険性の有無について判断の必要はないし,環境権に基づく請求も選択的なものであるから(第6回口頭弁論期日調書参照),同請求の可否についても判断する必要はない。

 原告らは,上記各諸点に加え,高レベル核廃棄物の処分先が決まっておらず,同廃棄物の危険性が極めて高い上,その危険性が消えるまでに数万年もの年月を要することからすると,この処分の問題が将来の世代に重いつけを負わせることを差止めの理由としている(第3の4)。幾世代にもわたる後の人々に対する我々世代の責任という道義的にはこれ以上ない重い問題について,現在の国民の法的権利に基づく差止訴訟を担当する裁判所に,この問題を判断する資格が与えられているかについては疑問があるが,7に説示したところによるとこの判断の必要もないこととなる。

9  被告のその余の主張について

 他方,被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性,コストの低減につながると主張するが(第3の5),当裁判所は,極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり,その議論の当否を判断すること自体,法的には許されないことであると考えている。我が国における原子力発電への依存率等に照らすと,本件原発の稼動停止によって電力供給が停止し,これに伴なって人の生命,身体が危険にさらされるという因果の流れはこれを考慮する必要のない状況であるといえる。被告の主張においても,本件原発の稼動停止による不都合は電力供給の安定性,コストの問題にとどまっている。このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。

 また,被告は,原子力発電所の稼動がCO2(二酸化炭素)排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが(第3の6),原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって,福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害,環境汚染であることに照らすと,環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。

10  結論

 以上の次第であり,原告らのうち,大飯原発から250キロメートル圏内に居住する者(別紙原告目録1記載の各原告)は,本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があると認められるから,これらの原告らの請求を認容すべきである。

 原告らは,本件原発で大事故が起きれば,周囲の原子力発電所の従業員も避難を余儀なくされること等によりその原子力発電所が事故を起こし同様のことが繰り返される結果,日本国民全員がその生活基盤を失うような被害に発展すると主張している。また,チェルノブイリ事故においては放射性物質に汚染された地域がチェルノブイリから1000キロメートルを超える地点まで存在するから原告ら全員が木件請求をできると主張している(第3の7)。これらの主張は理解可能なものではあるが,ここで想定される危険性は本件原発という特定の原子力発電所の法的な差止請求を基礎付けるに足りる具体性のある危険とは認められない。したがって,大飯原発から250キロメートル圏外に居住する原告ら(別紙原告目録2記載の各原告)の請求は理由がないものとして,これを棄却することとする。。

 福井地方裁判所民事第2部

   裁判長裁判官 樋 口 英 明

   裁判官  石 田 明 彦

   裁判官  三 宅 由 子

悪化する東京電力福島第1原発の海洋汚染

悪化する東京電力福島第1原発の海洋汚染

2013年3月に次のような警告が発せられている。

セシウム17兆ベクレル流出か 原発港湾内濃度から試算

 東京電力福島第1原発の港湾内で海水の放射性セシウムの濃度が下がりにくい状態が続いていることに関し、汚染水の海への流出が止まったとされる2011年6月からの約1年4カ月間に、計約17兆ベクレルの放射性セシウムを含む汚染水が海に流れ込んだ恐れがあるとの試算を、東京海洋大の神田穣太教授がまとめた。

 東電は、11年4月に1週間で意図的に海に放出した汚染水に含まれる放射性物質の総量を、約1500億ベクレルと推計しているが、その100倍以上に当たる。

 神田教授は「現在も地下水や配管を通じて流出が続いている可能性がある。すぐに調査すべきだ」と指摘している。

2013/03/23 18:29 【共同通信

2013年7月10日

2013年7月。警告にもかかわらず無策で放置した結果。経緯から考えうる最悪の事態は、17兆ベクレルの100倍がこれから一年半の間に流出すること。

高濃度の汚染水 海に拡散か 7月10日 17時10分

東京電力福島第一原子力発電所の海に近い井戸の地下水で放射性物質が高い濃度で検出されている問題で、原子力規制委員会は「高濃度の汚染水が海へ広がっていることが強く疑われる」という見解を示し、専門家も参加したワーキンググループを立ち上げ、原因を究明し対策を検討することになりました。

福島第一原発では、ことし5月以降、海に近い観測用井戸の地下水から放射性物質が高い濃度で検出され、2号機近くで新たに掘った井戸では、採取した水に含まれる放射性のセシウム137の濃度が9日、1リットル当たり2万2000ベクレルと、4日間で100倍余りに上昇しています。 東京電力は、事故直後のおととし4月に2号機の近くで海に流れ出た高濃度の汚染水が地面にしみ込み検出された可能性があると説明していましたが、原子力規制委員会は、10日の会合で、土に吸着されやすいセシウムが3号機や4号機近くの井戸でも検出されているとして、おととしの汚染水だけを理由とするのは疑問があるとしました。

そのうえで、放射性物質が港で採取した海水からも高い値で検出されているとして、「高濃度の汚染水が地中に漏れ出したうえで、海へ広がっていることが強く疑われる」という見解を示し、近く専門家も参加したワーキンググループを立ち上げ、原因究明や対策を検討することになりました。

規制委員会の田中委員長は、記者会見で、「原因を突きとめないと適切な対策ができない。最優先で対策を立てるために、専門的な検討を重ねていく必要がある」と述べました。 東京電力は「規制委員会の指摘に対し今後、真摯に対応したい」と話しています。

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更に次の日2013年7月9日の測定で2号機海側の井戸でセシウム濃度が二割増加。危機的な話なのだが、あまり騒ぎにもなっていないし、東電には過小評価ばかりしてダダ漏れをとめる気がないらしい。「厳密に証明されるまではなにもしない」というのは、この二年なんども主張され実行されてきた「科学的態度」であるが、被害が拡大し多くの被害者が出てから科学的証明がなされたとして、はたしてそのことに、特にこの件においていったいどんな意味があるというのだろうか。

セシウム濃度さらに上昇 福島第一原発2号機の地下水

東京電力は10日、福島第一原発2号機の海側の観測井戸で9日採取した地下水から、1リットルあたり3万3千ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。8日に採取した水に含まれていた量から約2割増えた。

検出されたのは、事故直後の2011年4月に高濃度の汚染水が海に流出した2号機取水口の近くにある「1―2」の井戸。セシウムの内訳は、セシウム134が1万1千ベクレルセシウム137が2万2千ベクレルだった。ストロンチウムなどの値は90万ベクレルで、8日の89万ベクレルからほぼ横ばいだった。

東電は同じ井戸で5日に水を採取。セシウムの量は309ベクレルだったが、8日に採取したところ、約90倍の2万7千ベクレルに増えていた。 2013年7月10日1時46分 朝日

「測定した水に汚染された土が混じってたから高くなった」とか突然東電がいいだしたりしているが、原子炉建屋から地中へ漏れた汚染水が地下水と混ざり、海側へ流れて汚染拡大が生じている、という恐るべき状況が起きていないか、調査するのが当然の態度であろう。そういえば、「海までは拡散に何年もかかる」ってなものすごい意味のないシミュレーションをみせたりしていたなあ。地下水は流れているのである。地中の拡散ではない。

高濃度汚染水、海に拡散か 規制委、地下水混じった疑い

東京電力福島第一原発の観測井戸の地下水から高濃度の放射性物質が検出されている問題で、原子力規制委員会は10日、原子炉建屋にたまった高濃度の汚染水が、地下水と混じって海に今も漏れ出て拡散している疑いが強いと指摘した。規制委は近く作業部会を立ち上げ、原因究明と対策を検討する。

東電は10日、2号機タービン建屋と岸壁の間の「1―2」井戸で9日に採取した水から、セシウムが過去最高の1リットルあたり3万3千ベクレル検出されたと発表。4日間で100倍以上高くなった。3日には港湾で採取した海水から2300ベクレルトリチウムが検出された。

9日に採取した井戸水には土が含まれていたとし、濾過(ろか)して再度測ったところ値が100分の1に減った。このことから、東電はセシウムは土壌に吸着され、地下水には流れ込んでいないとみている。 2013年7月10日21時23分

2013年7月12日

2号機海側だけではなく、4号機海側でも。まさに汚染の拡大、である。

南側井戸で高濃度検出、汚染拡大…福島第一原発

東京電力は12日、福島第一原子力発電所3、4号機近くの井戸水から、ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質を1リットルあたり1400ベクレル検出したと発表。

「3号機近くの配管用トンネルからも汚染水が土壌に漏れ出した可能性がある」との見方を示した。

一連の地下水汚染は、1、2号機周辺の井戸で、法定許容限度(1リットルあたり6万ベクレル)を超える三重水素トリチウム)などが検出されたのが発端。東電は当初、2号機近くの配管用トンネルを汚染源だと推定した。しかし、今回の井戸はこのトンネルから南に約200メートルも離れており、推定への疑問が強まってきた。

二つのトンネルからは一昨年、高濃度汚染水が海に流出した。トンネルの汚染水は、周辺土壌へも染み込んだ可能性がある。

原子力規制委員会は、原子炉建屋などからも汚染水が漏れている可能性を指摘している。

2013年7月12日22時20分 読売新聞)

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こちらは同日の別の記事。井戸「2」でもβ線が増大していることが触れられている。井戸ごとの時系列の変化をプロットしてくれると非常にわかりやすいのだが。

南の井戸でもストロンチウム、福島第一の地中汚染拡大か

【木村俊介】東京電力福島第一原発の建屋近くの地下水から放射性物質が検出されている問題で、東電は12日、これまで高濃度の放射性物質が検出されていた観測井戸より200メートルほど南にある井戸からもストロンチウムなどの放射性物質が検出されたと発表した。建屋の海側の地中で放射性物質の汚染が拡大している可能性がある。

東電によると、3号機タービン建屋の海側にある観測井戸「3」で11日に採取した水から、ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が1リットルあたり1400ベクレル検出された。地中での汚染が発覚し、詳しい分析が始まった5月以降、この井戸では検出限界値未満が続いていた。東電は「継続してデータを分析しないと、汚染の拡大か判断できない」と説明している。

一方で、高濃度の汚染が確認されていた観測井戸「1」と「3」のほぼ中間にある井戸「2」でも同様の放射性物質が1400ベクレル検出された。9日の採取では910ベクレルだった。

2013年7月12日13時5分

7月15日

漏洩に関する新しい情報はないが、産みへの漏出を阻止する工事が8日にはじまったことが述べられている。また、経緯のよいまとめになっている共同の記事。ところで「土がコンタミ」とか東電の記者会見でいっていたのに、8日には工事始めてたって矛盾していないか。現場の判断かもな。

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【福島第1原発の現状】 井戸で汚染水相次ぐ 土の壁で海への流出阻止

東京電力福島第1原発敷地内の海側観測用井戸で、高濃度の放射性物質の検出が止まらない。原子力規制委員会は「汚染水の海洋への拡散が疑われる」とみており、東電は海への流出を防ぐため護岸付近を地盤改良し、「土の壁」を作る工事を急ピッチで進めている。

 ▽急上昇

6月19日、2号機タービン建屋海側の井戸の水で1リットル当たり千ベクレルストロンチウムと50万ベクレルトリチウムを検出したことが判明。昨年11~12月に設置した三つの井戸の一つで5月24日に採取した水だった。

5月以降、港湾内の海水のトリチウム濃度が上昇傾向だったため、地中の状況を調べようと約半年ぶりに測定、昨年12月からストロンチウムは約116倍、トリチウムは約17倍の急上昇だった。

東電は、この井戸の半径約40メートル圏内に四つの井戸を新たに掘って監視を強化。一方、原因については、事故直後の2011年4月に極めて高濃度の汚染水漏れが判明した2号機タービン建屋からの連絡通路につながる作業用の穴を汚染源と見立て、海への漏えいは否定的だった。

 ▽拡散

だが、1号機取水口の北側で6月21日に採取した港湾内の海水から、事故後最高値となる1100ベクレル(法定基準は6万ベクレル)のトリチウムを検出。その後も上昇は続き、7月3日には2300ベクレル検出した。

さらに新設井戸でも高濃度の放射性物質が出た。8日採取の水からトリチウムを63万ベクレル、別の井戸ではストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質を90万ベクレル検出した。

汚染源と見立てた作業用の穴から遠い井戸でも濃度の高いトリチウムが出たことなどから、規制委は「高濃度の汚染水が地中に漏れ、海洋への拡散が起こっていることが強く疑われる」と東電に疑問を呈した。

▽土の壁

海への流出を防ぐ工事は8日に始まった。2種類の薬剤を一定の割合で混ぜると瞬時に固まる「水ガラス」を使う。地中に浸透させ水を通しやすい地層を「土の壁」に変える仕組みだ。1、2号機東側の海沿い約90メートルにわたり薬剤を注入。壁は二重につくり、今月末までに完成する予定だ。

だが、ここにきて汚染がさらに広がっている恐れが出てきた。最初の井戸の南約210メートルにある3号機タービン建屋海側の井戸の水は、検出限界値未満が続いていたが、11日採取の水からベータ線を出す放射性物質が1400ベクレル検出された。

近くには11年5月、タービン建屋につながる連絡通路から高濃度の汚染水が漏れた場所がある。

東電は連絡通路にたまった汚染水が原因の可能性の一つとみる。こちらも井戸を新設して監視を強める予定で「土の壁」も検討中だ。

共同通信

2013/07/15 12:00

7月16日

井戸で高濃度の放射性物質を含む水がみつかった、というのがこれまでの話だが、この一週間の間に海水も80倍になっている、ということは、ゆっくりした拡散ではなく地中からほぼそのまま海に流出している可能性が高い、ということになる。文字通りのダダ漏れである。

福島第一原発近くの港湾、放射性物質が高濃度に

東京電力は16日、福島第一原子力発電所3号機近くの港湾で、ストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質が海水1リットルあたり1000ベクレル検出されたと発表した。

海水では、昨年12月に検出した同790ベクレルが、事故直後を除く最高値だった。現場は、放射性物質が周辺海域へ拡散するのを防ぐネット(水中カーテン)の内側。8日の測定では同72ベクレルだった。放射性セシウムの濃度も8日の40~50倍に上がった。

東電は「変動の範囲内の数値」とみているが、東京海洋大の神田穣太教授(化学海洋学)は「新たに放射性物質が陸側から漏れた可能性がある」と指摘。「濃度の変動が激しいので注視が必要だ」と話している。

2013年7月16日23時22分 読売新聞

7月22日

やっとこさ東電がダダ漏れを公認。でも水中カーテンがあるから、と弁明している。完全隔離すべきではないのか。「とめる、冷やす、閉じ込める」が原則だった、のも過去の話。”三本目の矢”はどこも腰砕けですなー。

放射性物質汚染地下水、東電が海への流出認める

東京電力は22日、福島第一原子力発電所の汚染水が地下水を通じて海へ流出しているとの見解を発表した。

5月以降、岸壁に近い井戸の地下水から高濃度の放射性物質が検出され、近くの海水に含まれる放射性物質の濃度も上昇したため、原子力規制委員会が「海への流出が強く疑われる」と指摘したが、東電は海への流出を認めていなかった。港湾外への影響はないと説明している。

海水の汚染は、1号機の取水口に近い場所で、放射性物質の三重水素トリチウム)が今月、1リットルあたり2300ベクレル(法定許容限度は同6万ベクレル)に達した。その現場に近い1、2号機タービン建屋の東側の井戸では、トリチウムが地下水1リットルあたり63万ベクレル検出されている。東電はこれまで「海への流出を示すデータがない」と説明してきた。

しかし、井戸の地下水位が潮の満ち引きと連動して上下しており、東電は22日、「汚染水を含む地下水と海水が行き来している」と分析、流出を認めた。取水口付近は防波堤や水中カーテンで囲われており、汚染はその内側にとどまるとみている。また、海への流出の総量は検討中としている。

(2013年7月22日21時15分 読売新聞)

7月27日

セシウム、23億ベクレル検出 福島第1の地下道、汚染水漏洩源か

福島第1原子力発電所の汚染水が海に漏れている問題で、東京電力は27日、漏洩源とみられる敷地海側のトレンチ(地下道)にたまった水から、1リットル当たり23億5千万ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。事故直後の2011年4月、海に漏れ出た汚染水と同程度の濃度で、東電は漏洩源の特定を急ぐ。

トレンチは2号機タービン建屋の地下とつながっており、事故直後に建屋側から流れ込んだ汚染水がたまっている。原子力規制委員会は汚染水がトレンチから漏れて、底部に敷き詰められた砕石の層を通じて地中に拡散しているのではないかとの見解を示している。

東電によると、海から約50メートルの地中に穴を開け、下を通るトレンチの水を26日に採取した。セシウム134(半減期約2年)は7億5千万ベクレルセシウム137(同約30年)は16億ベクレルだった。ほかに放射性ストロンチウムなどベータ線を放出する放射性物質は7億5千万ベクレルだった。

11年4月に海洋流出した汚染水は、セシウム134、137ともに1リットル当たり18億ベクレルだった。今年5月以降、トレンチ近くにある観測用井戸や護岸付近の海水からは高濃度の放射性物質の検出が相次いでいる。

2013/7/27付

7月29日

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG29013_Z20C13A7CR0000/

原子力規制委員会の検討会は29日、東京電力福島第1原子力発電所から発生する放射性物質の汚染水問題の対策を協議した。27日には海に近いトレンチ(地下の坑道)で高濃度の放射性セシウムなどが検出。規制委はトレンチの下にある砕石層からの漏洩を指摘し、追加対策や監視強化を求めた。汚染水は海へ流出しているとみられるが、東電の対応は後手に回っている。

会合では事務局の原子力規制庁が、データをもとに汚染水の拡散経路の予測結果を公表。コンクリート製のトレンチからの漏洩だけでなく、トレンチの下にある砕石層を通じて放射性物質が広がっていると指摘した。

規制委は砕石層の周囲に井戸を掘り、汚染水の拡散状況の追加調査を早急に実施することを東電に要請。砕石層に薬液を注入して地下水への漏洩を止める対策も求めた。規制庁の担当者は「監視を強化し、海洋生物への影響も把握する必要がある」と注文をつけた。

福島第1原発では事故直後、放射性物質が敷地内の原子炉周辺にまき散らされたが、汚染調査は放射線に阻まれて進んでいなかった。最近になって海側の地下が高濃度に汚染されていることが確認された。

東電は護岸沿いに地中で固まる薬液を注入し、海への漏洩を止める作業をほぼ終えた。汚染源とみられているトレンチから水を抜き取り、トレンチを埋める作業も9月から本格化するが、砕石層を通じて汚染水が広がっているとすれば新たな対策を求められる。

福島第1原発では海側の汚染地下水問題のほか、原子炉の冷却水に地下水が混じり込んで発生する汚染水も増え続けている。保管場所などの問題を抱えており、東電は対応に忙殺されている。

2013/7/29 11:25

8月10日

土の壁越え、原発の汚染水流出 地下水上昇し海側に

福島第1原発の汚染水流出問題で、東京電力は10日、海への流出防止のため地下に設置した「土の壁」から約2メートル山側の地下水の水位を測ったところ、壁を越える高さだったと発表した。周辺の地下水からは高い濃度の放射性物質が検出されており、東電は「汚染された水が壁を乗り越えて海側に流出している可能性が高い」としている。

土の壁は護岸の地盤を薬剤で固めて、汚染水が海へ流れ出さないようにする仕組みだが、地表から深さ約1・8メートルまでは薬剤がうまく注入できず壁をつくることができないため水が通過する。これに対し、10日に測定された地下水の水位は地表から深さ約1・2メートル。

2013/08/10 22:25 【共同通信

子供の頃に運動場などの傾斜した所で川を作ってダムを作ったりしたことがある人ならばだれでもわかると思うが、せき止めれば水はあふれる。「汚染された水が壁を乗り越えて海側に流出している可能性が高い」というコメントが呆れるほど低能なのは、要するに子供が「ダム作ったけど水があふれちゃった」という程度の内容だからである。

原電のいう「海外の専門家」

【日本原電・敦賀原発】 海外コンサル、わずか1日の現地調査で「活断層ではない」 http://tanakaryusaku.jp/2013/05/0007139

「海外の専門家」ってどんな人だろう、ということで少々サーチ。

20130522 Niel Chapman氏の素性を追記

調べた結果の印象を先に。「リスクマネジメント会社の「SCANDPOWER」(本社ノルウェー)と英国シェフィールド大学のNeil Chapman教授をリーダーとする地質関係の専門家グループ」というのはかなり盛り過ぎ。

実態としてはリスク計算をするソフトの開発者である日本在住のエプスタインさんと、地震・断層の研究はおろか、地学部自体が25年前に閉鎖されたシェフィールド大学の客員教授で核廃棄物処理専門家のチャップマンさんのチームが現地調査を行い、ニュージーランドの地震学の権威ベリマンさんが一日だけ現場を見に行って「活断層かどうかわからない」という結論を出した、ということになる。

Steve "Woody" Epstein (Scandpower)

「駐日原子力コンサルタント・マネージャー」とのこと。

他の「グローバル原子力ディレクター」の人とかと並んで写真に収まっている。

専門は、というとリスクアセスメントの専門家で確率的安全評価のソフト(RiskSpectrum)を作っているらしい。(ブログ記事

発表パワポのスライド。外国向けには「日本通」としてふるまっているらしきことがスライドから伺われる。奥さんがおそらく日本人。

で、Vimeoでご本尊が東京の自宅(らしき場所)でしゃべっているところも見られます。 http://vimeo.com/39952746

Scandpowerというロイズ関係の会社の日本駐在員ということか、と思っていたら、他にもABSコンサルティングという会社の"Acting Operations Manager, Japan"、まあ、要はこれも日本駐在という仕事なのだろう。この会社の業務は

自然災害・人的災害のハザード及びリスク分析、評価、マネジメント/地震リスクデューディリジェンス/構造解析・設計コンサルティング/危機管理及び防災計画/確率論的安全性(信頼性)分析評価(PSA)/ソフトウェア/第三者機関として検査・検証/ボイラー・圧力容器指定代行検査・検証/マリンサービス/船舶及び港湾施設のセキュリティ計画作成支援及びトレーニング/土壌環境リスク評価

とまあ、なんでもやっているらしい。

住所は

〒221-0052 神奈川県横浜市神奈川区栄町1-1 アーバンスクエア横浜10階

一方でScandpowerは

Visit/Postal: Queen's Tower A, 9th/10th Floor, 2-3-1, Minatomirai, Nishi-ku, Yokohama, 220-6010, Japan

ということで、横浜に事務所が2つある、ということになる。

...断層を眺めてなにかわかりそうな人ではないのはともかくも「海外の専門家」ってなんかアレですな。

Kelvin R Berryman (GNS Science)

こちらは本格的な地学者らしく、サイエンスに2012年の論文。

Berryman, K.R.; Cochran, U.A.; Clark, K.J.; Biasi, G.P.; Langridge, R.M.; Villamor, P. 2012 Major earthquakes occur regularly on an isolated plate boundary fault. Science, 336: 1690-1693; doi: 10.1126/science.1218959

ニュージーランドでは「地震の権威」ということらしい。

APの5月21日付記事によると、「活断層かどうかまだ十分なデータがない」とこの方は言っているのだが。

The Associated Press Tuesday, May 21, 2013 | 9:30 a.m. Experts commissioned by the operator of a Japanese nuclear plant that faces possible closure because of a suspected active seismic fault say a decision should wait, citing insufficient data. Tuesday's request came a day before Japan's nuclear watchdog is to rule on the future of the Tsuruga No. 2 reactor in western Japan. The watchdog's own panel said last week that the reactor most likely sits on an active fault and shouldn't restart. Operator Japan Atomic Power Co. disputes that view. The decision is being closely watched as the pro-nuclear government moves to restart plants suspended since the Fukushima nuclear crisis. A geologist at New Zealand's GNS Science who led the utility's study, Kelvin Berryman, said neither side has provided enough data to determine whether the fault is still active.

これがどうして「活断層ではない」(下の記事参照)になるのか、まあ、不思議なことである。

敦賀原発直下「活断層ではない」 第三者組織が報告書▼2013.5.21 19:22▼原子力規制委員会の専門家調査団が活断層と評価した、日本原子力発電敦賀原発福井県)の敷地内の断層について、原電の依頼を受けて第三者の立場から同断層について調査した海外の専門家などによる検討チームの中間報告が21日まとまり、公表された。中間報告では断層は活断層ではないとした原電の見解を「支持する」としながら、確定的な結論には「より広い範囲を調査する必要がある」とした。▼検討チームは海外の専門家を中心に12人からなり、今年3月から現地調査を行うなど、独自に断層の活動性の有無を検証してきたという。▼検討チームのメンバーの1人で、地質学者のケルビン・ベリマン博士は「非常に限られたデータしかないが、現時点では活断層はないと考えられる。活断層であることを示すデータは一切なかった」と述べた。 http://sankei.jp.msn.com/life/news/130521/trd13052119230009-n1.htm

Neil Chapman (Research Professor of Environmental Geology, University of Sheffield)

核廃棄物の専門家。シェフィールド大学教授、と紹介されているがこれは経歴的に盛り過ぎで、後述のように客員教授。メインは核廃棄物処理に関する出張講義を行うスイスの学校の経営らしい。なお、こちらのツイッター情報経由でいろいろ眺めた。

略歴▼現在スイスに在住のニール・チャプマン氏は、英国シェフィールド大学、土木構造学部、環境地質学科の教授であり、いくつかの国内及び国際放射性廃棄物処分計画の顧問を務めている。 「真に最終的な廃棄物管理法 非常に深いボーリング孔処分は、高レベル廃棄物や核分裂性物質のための現実的なオプションか?」ニール・チャプマン、ファーガス・ギブ Radwaste Solutions 2003.7-8

以下英語でもっと詳しく。

Personal Profile

Neil is an expert in the scientific and strategic aspects of the impacts of environmental pollution, drawing on extensive academic and industrial expertise. Through his expertise in the deep and shallow disposal of radioactive wastes, Neil has advised the highest levels within UK and international industrial and governmental organisations.

Neil brings invaluable specialist insight through his participation in numerous national and international committees concerned with the environmental impact of radioactive waste and in the technical management of internationally funded projects.

Neil’s career highlights

  • 30 years experience in scientific and strategic aspects of radioactive waste disposal

  • Leader of the Fluid Processes Research Group, British Geological Survey

  • Chairman, INSITE international advisory committee, tracking a site characterisation programme for Swedish used nuclear fuel

  • Advisor on the International Technical Advisory Committee, part of the repository project implementation project for Japanese High Level Wastes

Integral to the IDM team, Neil currently holds many eminent positions including Research Professor of Environmental Geology, University of Sheffield, Programmes Director of Arius (Association for Regional and International Underground Storage) and Chairman of the ITC School of Underground Waste, Storage and Disposal. He has been a member of the Natural Environmental Research Council’s Earth Science and Technology Board, and a visiting expert on behalf of the IAEA to South Africa. http://www.idmsolutions.co.uk/content.php?pageID=9

キャリア・ハイライトの部分は以下のごとし。

  • 核廃棄物処理に関する科学的かつ戦略的な面での30年の経験
  • 英国地学調査部の流体過程調査グループリーダー
  • INSITE国際アドバイザリー委員会委員長、スエーデンの使用済み核燃料の処理場分析プログラムの顧問
  • 国際技術アドバイザリー委員会アドバイザー、日本高レベル廃棄物処理場実行プロジェクトの一部

肩書きとしては

  • このサイトの会社Integrated Decision Management(IDM)のチームメンバー。核廃棄物処理の戦略を立てるコンサル会社。
  • シェフィールド大学環境地学の研究教授(リサーチプロフェッサー)
  • 地域および国際地下貯蔵組織(Arius)のプログラムディレクター
  • 地下廃棄物・貯蔵・廃棄処理ITC学校のチェアマン
  • 自然環境研究議会の地球科学技術役員
  • 南アフリカにおけるIAEA委託の客員エキスパート

大学教授かあ、と思って研究室のサイトを探したがどうもみあたらんので共同研究者の方面から探したらあった。

http://www.shef.ac.uk/materials/staff/visiting

材料科学・工学部(上記では土木構造、となっているがうーむ。)の客員教授として名前がリストされている。関係するとおもわれるのは、核廃棄物のガラス固化技術の研究だが、その関連で特に名前はみあたらない。まあ、断層の専門家ではないことは確か。そもそもシェフィールド大学の地学は1989年に閉鎖されており記念碑的なサイトしかない。化石学がかろうじて残っているとのことである。この大学に現在地層や地震の研究は見当たらない。

さて、客員リストにある所属先はスイスのITCとなっているので、そちらをみてみたが http://www.itc-school.org/ アクセスできない。まあ、なんか由緒不明な方である。 ITCに関しては日本語の書類がある。

筆者は、ITC(最終処分国際研修センター)注)が、2008年9月2日から5日に米国ラスベガスにおいて主催した放射性廃棄物処分に関する研修コース「高レベル放射性廃棄物の地層処分」を受講する機会に恵まれた。今回の研修コースでは、地層処分の基礎や諸外国における放射性廃棄物処分の検討状況の網羅的学習と受講者同士のディスカッションに主眼が置かれたものである。また、4日間の研修の初日に、米国の高レベル放射性廃棄物処分場であるユッカマウンテンへの見学ツアーが組まれており、米国の処分概念や検討状況について情報収集する機会があったので、本稿にて報告する。注)ITCの正式名は、ITC School of Underground Waste Storage and Disposalで2003年4月にスイスで設立された放射性廃棄物の最終処分に係る非営利の国際的な教育・トレーニング機関である。ITCに関する詳細は以下の英文サイト参照。 http://www.itc-school.org http://www.rwmc.or.jp/library/file/topics_No88_web.pdf

出張授業とかする学校であることがわかる。結論から言えば、断層が活動している否かを判断する専門家とはいえないだろう。

リンク

この件に関して調べている方々。

”「地図のない分野」で、必死にもがいている身から、一言だけ言わせていただければ”

以下、メモのため内部被曝 (扶桑社新書) 肥田 舜太郎のアマゾンのページから抜粋。id:sivadのブックマーク経由。地図のない研究をしたことのない研究者って結構いるんだよな、これが。


岩清水宏さんのコメント: 投稿日: 2013/02/26 0:56:59:JST 投稿者により編集済み(最終編集日時:2013/02/26 7:00:07:JST)

医学部を出て「詰め込み教育」を6年間もされてしまえば、いろんな意味で、現行の理論に異議をさしはさむ余地が少なくなってしまうのは、仕方の無いことですよね。同じく、医学の末席を汚すものとして、すこしだけ、コメントを残しておきたいな、と思いました。

1.鼻血に関して。これは、結論から言うと、原発事故で十分説明可能でしょう。目の前の鼻血の患者を目にしたときに、あなたのようなアセスメントしか、鑑別診断、メカニズムに想定が及ばない医学教育というのは、いったいどのような6年間を過ごされたのかな、と純粋に不思議に思います。鼻出血のメカニズムは、あなたの仰る凝固系のメカニズムは、全体のケースの中では、ごく一部で、そのほかにも、鼻粘膜局所の炎症(これが一番高頻度でしょうね)、高血圧などの循環器系の原因、などなど、鼻血と聞いた瞬間に、普通は沢山思いつくものだと思いますがね。大気汚染で鼻出血の頻度が上昇するのは、きちんと文献を勉強していただければ、古くは20世紀初頭のイギリスのスタディに始まり、主流学術雑誌をはじめ、各種の学術論文の明記するところです。したがって、放射能汚染粉塵による局所症状、と普通は瞬間的に思いが至る気もしますが。。。もちろん、定量的にも、きちんと説明できますよ。現行の「線量計算」に目隠しにあっていなければ、ですが。

そうそう、今回の原発事故のときも、次のような情け無い議論を耳にしました。事故当時、「超大量放射性ヨウ素投与療法で、1億ベクレルの放射性ヨウ素を投与しても鼻血はでないから、原発事故で鼻血なんて、絶対にありえない」 なんて議論をしていた人がいる、というのを、後から知って、あまりの雑な思考に、腰が抜けかかりました。

1億ベクレルって、一見、普通の人が聞くと、しり込みしそうなほど、「超大量」と錯覚するんだけど、こういうことを議論する際には、きちんと、体内分布密度などを考慮しながら、ちゃんと計算していかないと、変な結論になってしまうんです。 簡単に計算するために、ちょっと乱暴な数字を放り込んでいくけど、血液を5Lとしたら、まず、投与後、その5Lに均一に拡散されるんだけど、 その後まあ、1億ベクレルの大部分は、比較的早期に甲状腺などの特定臓器に再分布したり、大部分は尿中に排泄される。 議論を自分たちに不利にするために、仮に、ものすごーく多めに見積もって、1億ベクレル(10の8乗、つまり、10e8 Bq)の約半分が血中に、ある程度持続して残っているとすると、計算で、血液1cc中の放射能が出せます。割り算するだけです。 <<1億ベクレル投与、なんて言ってても、血液1cc中には、たったの10e4 Bq程度の放射能でしかない>>

今、鼻粘膜のことを議論しようとしてるんだけれど、鼻粘膜と、血液の接点は、毛細血管網という、細い血管のが張り巡らされた末梢血管の部分。 この部分の血管って、医学部、生物学部を出た人間には常識なんだけれど、ものすごーく血管床の表面積が広い。つまり、非常に多数の血管内皮細胞で覆われている。 ちなみに、簡単に試算することができて、毛細血管径を、ざっと7ミクロンとおけば、 <<1ccの血液を溜め込むのに必要な毛細血管の全長は、3x10e4メートルも必要になる>> で、この3x10e4メートルの毛細血管に、どれだけの 血管内皮細胞が張り付いているかと言うと、これに、分布密度の3x10e5個/メートルをかければいい。 <<つまり、1ccの血液を取り囲んでいる血管内皮細胞は、10e10個に上る>>

高々、10e4ベクレルを、10e10個もの内皮細胞が囲んでいるんです。細長い土管としてね。 <<つまり、1秒間に、一つの細胞が放射線でアタックを受ける確率はたったの10のマイナス6乗程度の低い確率でしかない>> しかも、均一に放射性物質が溶けていると仮定できるから、ほぼランダムに、このアタックが起こる。 (ま、ちょっと構造的な部分を計算外としているんで、すこし大目になるかもしれないけれど、桁はそんなにズレてない)

こんなにまばらで、確率の低い放射線だと、血管内皮細胞が細胞死に至るこもほとんどなければ、鼻粘膜炎症が起こることもないでしょう。 百歩譲って、たとえ内皮細胞が障害を受けても、ランダムな場所で内皮細胞がやられているわけだから、すぐに修復される。 だから、放射性ヨウ素超大量療法で、数億ベクレル程度を投与しても、ふつうは、全然鼻血になんかならない。 乱暴な計算だけど、こんなことは、計算すりゃ、すぐ分かるんです。

モデルとして、血液と内皮細胞のことだけ論じたけど、粘膜分泌を考えても、組織間液とか考えても、 粘膜細胞を対象に考えても、基本的には、考え方は同じです。うすーい濃度で、均一に分布しているモデルの場合には、 アタックがランダムに、薄い確率でおこる、ということ。

<<でも、一方、放射性物質汚染微粒子が、鼻粘膜に付着したら、その影響はどうなるか?>> 仮に、微粒子が花粉くらいの大きさだったとして、20ミクロンくらいと想定すると、これって、ひとつの細胞と同じくらいの大きさなんです。 この微粒子が、仮に、たった1ベクレルβ線核種に汚染されていたとしたら、 どういうことがおこるかというと、付着した局所、つまり、この微粒子のごく近傍で、1Bqつまり、1秒間に1回、かならず放射線が、同じ箇所ででて、まあ方向性もあるんだけど、 ほぼこの桁の放射線が、同一箇所をアタックし続けることになるんです。

方や1億ベクレルからスタートしたけど、アタックされる確率は、10のマイナス6乗のオーダー 方や、たったの1ベクレルだけど、1秒に1回とか、そんなオーダー。

そんな高頻度で、同一箇所をアタックされ続けたら、そこの粘膜細胞は死んじゃうし、修復も間に合わない。鼻血が出て当然なんですよ。

すごく乱暴な計算だけど、基本的に、掛け算と割り算だけで、きちんと計算すりゃ、簡単に、インパクトの大小がわかる。 同じ「内部被爆」でも、消化吸収で、均一に分布する場合と、粉塵付着での局所の影響とに、場合わけして考えないといけない。「濃度」なんて概念は、小学校の5-6年生で習うわけだから、小学生にでも十分理解できる思考過程ですよね。 それに、ここで計算に使ったのは、掛け算と割り算だけ。こんな簡単なことって、思考過程と呼ぶのもおこがましい。小学生でも分かるインパクトの大小なのに、 一番上に書いたような議論を持ち出す人って、そんな計算もしないで、「鼻血はありえない」 なんて、いったい、どういう了見なんですかね?

なんか、クソも味噌もごっちゃにして計算してしまうような「線量計算」なんかやっちゃってて、 「外部被爆も内部被爆も一緒です」なんてこと言ってて、体内局在も無視して「総量が大事だ」なんてこと言ってて、そんな計算を推奨するような理論信じちゃってて、大丈夫か~と心配になりますよ。 そんな前石器時代のような理論に、子供の将来を託しているのかと思うと、背筋が寒くなりますね、医学部出身者としては。有名大学を出た、偉い先生のみならず、あなたのような現場のお医者さんからしてこんな感じですから、日本の医学界はどうなってるのか、と暗澹たる気持ちになります。

あの当時、住民を安心させたい、という善意の気持ちから、安心論を伝えたいというのであれば、 頭ごなしに「鼻血はデマ」と否定しないで、「鼻血は、汚染粉塵の局所症状で一時的な問題ですから、安心してください」とか 「鼻血が出ていると言うことは、汚染粉塵を体外に排出しようとしている、良い反応だから安心してください」とか 「あくまで、局所症状で、全身状態に影響は無いけれど、鼻洗浄でもやっておけばいい」とか 「念のため、これ以上汚染粉塵を吸い込まないように、マスク着用を」など、言ってあげればよかったんです。

そういわずして、あまたごなしに、「デマ」と切り捨てていた人が多かったのは、間違いなく、 現行の、論理破綻した「線量計算」に、思考停止に陥らされて、まともな考えが出来ていなかったと言う証拠ですね。

鼻血のことだけを議論したけれど、実は、このようなパターンの内部被爆の場合、真剣に考えておかないといけないのは、 「慢性持続内部被爆」の影響、という問題なんです。時々、「低線量被爆」なんて言葉に、マスコミで置き換えられている議論。

「低線量」か「高線量」かが問題なのではなく、一番の問題は、「急性で終わってくれるか」「慢性に持続する内部被爆かどうか」という問題。

医学部を出た人間には常識だと思いますが、A型肝炎というのは、全く怖くない。 急性期に、ドカンと肝臓が炎症を起こすが、休んでいれば、肝臓も再生されて、元通り。肝硬変、肝癌なんかにはならない。 ところが、B型C型肝炎の怖いのは、たとえチョロチョロと持続する炎症でも、 長期には、肝硬変に至り、肝癌にも高率でなってしまう。 「急性炎症=全然怖くない」「慢性持続炎症=いろんな障害を引き起こし、怖い」ということ。 近年、癌に限らず、糖尿病研究でも、神経変性疾患でも、難病研究でも、「慢性持続炎症」が注目されている所以です。

にも関わらず、現行の理論を信奉する人間って、相変わらず、「急性大量被爆の方が危ない」なんて、とんでもないことを言っている。 ちょっと、医学者・医者としての常識を疑います。 もう少し、現行の理論をdisっておきますが、「預託線量」という薄っぺらい考え方があるんですが、あれなんかも、急性も慢性もごっちゃにして、全く人体へのインパクトを推測すらできていない。 あんな考え方は、見た瞬間に、マヤカシだと、卑しくも医学部を出た人間なら、気が付いてほしいです。

放射能汚染粉塵の議論の場合、急性期のことだけを考えると、鼻血の問題を議論し、局所症状だから、と安心してもらえばよかった。

肺の奥の方に吸い込んだものがあったとしても、おそらく、9割は、一時的な炎症で終わり、痰として排出されるか、 寝ている間に、繊毛運動で、気管から排出され、消化管を下って、体外に排出される。

ただ、万一、肺の奥底に、沈着してしまう粉塵があったら、その局所で、慢性持続炎症の温床を作り出してしまう懸念が生じる。

鼻血のときに、1Bqでも鼻血につながる、と議論したけれど、同じことです。

現行の「線量計算」では、とてもじゃないが、インパクトの大小関係は推測すらできない。

ちょっと有名な、Tondelの論文というのがあって、統計処理に突っ込みどころも少々あるのですが、 スウェーデンの、汚染地区で、肺がんの発症率が、予想以上に上がった、というデータがある。 あのデータは、「線量計算」が大好きな人間には、とても理解できないデータだったので、浅はかな思考をする人間には 切り捨てられたんだけれど、何度も言っているように、人体へのインパクトって、 現行の「線量計算」では、まず、到底、正確には推測できないんですよ。まともな思考回路を持っていれば、こんなことは3.11以前に気が付かないとおかしい問題です。

大体、原発事故後の内部被爆は、上記のように、慢性持続内部被爆が問題になるだろうな、と少しの頭があれば、すぐに想像ができるはずなのに、 「慢性内部被爆」をきちんと実測して、発ガンとの関係をきちんと調べた調査がゼロである現状で、いったい、どうやってそんな、ゼロエビデンスの、正当性を担保されていない理論 を、大部分の医学者・医者が、信じることができているるのか、不思議でしょうがないです。そのゼロ・エビデンスの元で、何ミリシーベルトだとかなんだとか、ひたすら計算のための計算をやり。下手の考え休むに似たり、とはこのようなことを言うのでしょうね。 エビデンスがある、なんて馬鹿なことを言っている医学者は、もう一回医学部をやり直した方が良い。急性内部被爆のデータばかりを持ち出しても、全く原発事故のインパクトを推測する根拠にはなりえません。 いや、さんざん、学者の間で、100ミリシーベルト以下の発ガン率が何パーセントか、LNT仮説が、、、とかいろいろ議論してますが、すべて外部被爆のデータ、百歩譲って内部被爆のデータに関しては急性被爆のものばかりしかなくて、いったい、慢性内部被爆の何を知れ、というのでしょうね?あのような議論に時間を割いている識者がいるというのが、不思議でしょうがないです。

私に言わせれば、一生懸命、実行線量を計算して、線量計算なんてのをやっているのは、「字画占い」を信じているのと同じくらい非科学的な態度です。 ちなみに、姓を「馬鹿三」、名を「悪魔」と入れて、字画占いをやると、運勢は吉とか大吉とか出てきます。おかしな話ですよね。 字画の「総量」なんかより、名前に込める一字一字の意味のほうが大事だと思いませんか?

線量計算も同じですよ。どのような被爆で、どのような体内分布になり、それが局所的影響なのか、全身の影響なのか。急性期の影響なのか、慢性持続の影響なのか。 はたまた、消化吸収されるとすれば、生体内に分布されたあと、どの生体分子と、どのような相互作用があるのか。ひとつひとつ、丁寧に思考していかないと。 全部ごっちゃにして、「外部被爆も内部被爆も一緒です」なんて考え方、将来きっと、笑われちゃいますよ。

それから、核種によって、良いα線、悪いα線があるはずが無い、なんて、簡単に仰っておられますが、きちんと考えれば、いくらでも、そういうモデルは考えられるんですよ。 たとえば、ラドンのような希ガスは、体内に摂取されても、ひとところにとどまることなく、均一に薄い濃度で分布しますから、上記の鼻血(汚染粉塵)vs放射性ヨウ素の議論の喩えとおなじように、 生体に与える影響はα線核種の割には、極小でしょう。一方、トリウムなどは、肝網内系に沈着し、局所で持続的に慢性内部被爆の原因となり、局所慢性持続被爆の温床となってしまいます。 トリウム内部被爆で、高率に肝臓系の発ガン率が見られることの、ひとつの理解の仕方です。 決して、安易に、あやふやな前提の下に作られた「実行線量計算」なんてのに、頼らないで、丁寧にメカニズムを理解していただきたいなあ、と思います。

もっと言いますと、中途半端な知識の方は、原子核物理学の法則が、絶対不可侵のものだと錯覚しておられるかもしれませんが、現在の原子核物理学の法則は、 すべて、原子核が「気体」の状態での観測・実験データを元に作られています。 原子核が、固体中に、堅く足場固定されたときに、放射性元素が崩壊を起こすと、実は、現在の原子核物理学の理論の延長線上では説明のできないような、 非常に興味深い挙動を示すことが知られているのですが、こういった分野は、ほぼ、一部の例外を除き、全くの手付かずです。

つまり、上記に立て続けに、体内分布の問題を例にあげましたが、体内分布が同じ場合でも、つまり、たとえ、体内に均一分布をする核種同士であっても、 核種によって、当然、生体内分子との結合・相互作用という挙動が変わるわけですから、どの生体分子と結合している際に、 どういう崩壊を起こしたら、どんな影響が起こりうるのか、というのは、全くの未知の分野なのです。 医学の最新知識をもって、非常に丁寧に考察を重ね、今後、何十年かに渡り、実験・実証を繰り返し、新しい研究分野を切り開いていかないといけない状況なんですよ、内部被爆のことをきちんと理解しようとすれば。

実際、セシウムの極く微量の内部被爆で、心臓伝道路の障害が高率に起こる、というデータを、Bandazhevskyが発表していますが、 丁寧にメカニズムを考察していけば、彼のデータは綺麗に説明できる可能性が高く、やはり、現行の理論では、全く何も生体へのインパクトを推測できていない、という、実例のひとつになって行くでしょうね。

最後に、医学者として、別分野ではありますが、「地図のない分野」で、必死にもがいている身から、一言だけ言わせていただければ、「教科書に書いてあることがすべてはない」 特に、慢性内部被爆のように、ほとんど、調査もされていない学問分野では、沢山疑ってかからないといけないテーマが、山積みなんですよ。 ちょっと医学の常識があれば、放射線医学の教科書は、何も我々に教えてくれない、ということくらいは、すぐに気が付きそうなものだと思いますがね。

原子力災害対策指針(改定原案)に対する意見募集 (〆切・2月12日)

以下のパブリックコメント募集は、募集開始が1月30日、〆切が2月12日、つまり今日である。

原子力災害対策指針(改定原案)に対する意見募集について http://www.nsr.go.jp/public_comment/bosyu130130.html

かくなる重大なる案件に関してコメント募集期間の短さ。マル秘「放射脳対策指針」でもあるのだろーか。とはいえ、一点だけに絞ってコメントした。時間がないのでこのぐらいしかできない。


放射性物質による放射線被ばくの影響の大きさは年齢によって異なる。このために、年齢に応じた緊急時の対策をきめ細かく考じておくことが必要である。今回の改定案では、乳幼児に対して甲状腺癌予防のため優先的にヨウ素剤を処方する旨が記載されており、この点に関する配慮がなされている。しかしながら、2011年の福島第一原発事故を鑑みれば、それだけではなく、避難に関しても乳幼児・学童など、年齢に応じて優先的に避難させる措置が必要である。チェルノブイリ事故の場合には、学童を学校から直接バスで安全な遠方まで避難させたという記録がある。共産主義国家とは違い、日本においてはこのような保護者の同意をまたない迅速な措置は不可能であろう。とすると、家族との関係をどうするのか、ひいては福島で明白になった地域社会の崩壊、というということも視野に含めて徹底的に議論し、なんらかの対策を見出しておくべきであると考える。

以上、年齢に応じた避難の優先をいかに行うかということの詳細の検討、ひいては家族関係・地域社会を崩壊させないための方策の記載がなければ、事故の経験を生かしているとはいえない。目下の原子力災害対策指針の改定原案はこのままでは不十分である。