黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

人は誰も夢破れ笛を吹く

ユニオン UPS-5217-J

時には母のない子のように

発売: 1969年8月

ジャケット

A1 時には母のない子のように (カルメン・マキ) 🆃

A2 雨 (ジリオラ・チンクエッティ) 🅲

A3 長崎は今日も雨だった (内山田洋とクール・ファイブ) 🆀

A4 涙の日曜日 (ザ・スパイダース) 🅲

A5 行かないで (スコット・ウォーカー) 🅱

A6 心の裏窓 (浅丘ルリ子)

B1 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🆅

B2 ふたりだけの夜明け (クロード・ボラン) 🅱

B3 星のみずうみ (布施明) 🅴

B4 くれないホテル (西田佐知子) 🅴

B5 青空にとび出せ (ピンキーとキラーズ) 🅳

B6 グッドバイ (メリー・ホプキン) 🅱

 

演奏: ユニオン・クール・サウンズ

編曲: 無記名

定価: 1,700円

 

ジャケット(すみません、こうするしかなかったもので…)からは窺い知れないけれど、まさかのフルート大フィーチャーアルバムである。解説でも、フルートがいかに進化したかの歴史が綴られており、正にこの時期に注目度急上昇だったのが窺い知れるが、やはりピンキラの貢献度がでかかったのだろうか…GSメンバーにも、大ちゃんやマチャアキ、チャッピーを初めとして吹ける人は相当いたし、決して「お嬢様の嗜み」というイメージは当時なかったのだろう。ただ、やはり出てくる音には清涼感というか、浜辺を駆け抜けるさわやかな風の印象を抱いてしまう(ブルコメの「マイ・サマー・ガール」に相当洗脳されてるな自分…汗)。このジャケットみたいな、プライベートな誘惑は似合わない音なのだよね…ついでだけど前身であるリコーダーは水のない場所のイメージ。若草の髪かざりを付けた森を駆ける乙女たち、みたいな。

例の如く、演奏者の顔は見えてこないし…ホセ・ルイスのアルバムと同様、ラテン・リズムを強調しているのだが、沢村和子ではないだろう(汗)。二人以上奏者がいるのも確実だし、恐らく経験豊富な達人の方々が結集しているに違いない。まぁ、安心して聴けますからね。トップの「時には母のない子のように」に決定的な既聴感があって、特にイントロを省いているところと、2番で転調するところが、一昨年11月14日紹介した『愛して愛して』のヴァージョンと瓜二つ。ということは、この盤のアレンジも池田孝氏確定でしょう。穏やかに始まり、高々と舞い上がるプレイが心を躍らせる。「雨」は冒頭がアルト・サックスで綴られるので、第2フルートのパートはサックス・プレイヤーが兼ねてるのかもと憶測できるし、これら洋楽曲4曲は全て、21年7月20日取り上げた「インペリアル・サウンドが歌う シバの女王」とアレンジを兼用しているようだ(「タッチ・ミー」も演ってほしかったな!)。何よりも痛快なのは長崎は今日も雨だっただ。陽気な8ビートのラテン・サウンドにフルートが舞いまくり、長崎に希望の雨を降らせる。昨年12月27日のヴァージョンバトルは平行線に終わりましたが、これの登場で圧勝決定。「風」も爆走モードのイントロで始まりつつ、曲に入ると優しいサウンド、と思いきや2コーラス前の間奏で爆走。意表をついたアレンジにやられる。「くれないホテル」はリズム面で斬新な試みをしていてなかなかのユニークさだし、「青空に飛び出せ」もオリジナル以上の爆走ぶり。「涙の日曜日」「心の裏窓」の選曲もフルートの特性を生かしていて素敵だ。最後もメリー・ホプキンの澄んだ歌声に負けていず、最高の幕引き。

こういうのを聴いていると、オーケストラ・グレース・ノーツの小型版のような楽団を組織して、今流のやり方で完全人力歌無歌謡アルバムを作りたいと妄想してしまう…当時は人材的に無理だっただろうけど、今じゃ全く別の理由で無理なんだろうなぁ…

誰かさんと誰かさんがレコード上で…あれっ?

クラウン GW-5182

ドラム・ドラム・ドラム 傷あと

発売: 1971年2月

ジャケット

A1 傷あと (ジャンニ・ナザーロ) 🅱

A2 誰かさんと誰かさん (ザ・ドリフターズ) 🅰→21/6/14

A3 誰もいない海 (トワ・エ・モワ) 🅼

A4 生きがい (由紀さおり) 🅵

A5 愛でくるんだ言訳 (安倍律子)☆ 🅴

A6 貴方をひとりじめ (和田アキ子) 🅱→21/6/14

A7 別れたあとで (ちあきなおみ) 🅱→21/6/14

A8 すべてを愛して (内山田洋とクール・ファイブ)☆ 🅵

B1 めまい (辺見マリ) 🅳

B2 京都慕情 (渚ゆう子) 🅰→21/6/14

B3 中途半端はやめて (奥村チヨ) 🅱

B4 誓いの明日 (ザ・タイガース) 🅱

B5 冬の停車場 (布施明)☆

B6 ビューティフル・ヨコハマ (平山三紀) 🅱

B7 おんなの朝 (美川憲一)☆ 🅰→21/6/14

B8 できごと (弘田三枝子)☆

 

演奏: ありたしんたろうとニュービート

編曲: 福山峯夫、小杉仁三(☆)

定価: 1,500円

 

昨日に続いて炸裂するドラム…1曲目に幾分と地味な曲持ってきたな…なんとイタリアの超大物、ジャンニ・ナザーロに平尾昌晃が書き下ろした曲。一応オリコン33位とかなりのヒットになっていて、当時の歌謡界とカンツォーネの親和性を物語る。藤本卓也ボビー・ソロに「さよなら恋人」を提供していたり、活発な交流があったのだな。実はこの曲の歌無盤は既に73年のポリドール盤に入っているのを紹介していて、そこでは美樹克彦の曲となっていたが、そちらはチャートインせず。ちょい時間差があったので、新鮮に受け取られなかったのだろうか…

既に他の盤に流用されたのを紹介した曲もあるが、安定のありたしんたろう節で全編駆け抜ける。派手に走りすぎないものの、終始自己主張するドラムで70年モード。「誰もいない海」「生きがい」のようなソフトな曲が決してぶっ壊されず、屋台骨としてのドラムを聴かせるモードに徹しているのがいい。グルーヴだけを求める人に解ってたまるか…ベースも恐らく寺川氏だろうか、なかなかの走りっぷり。「別れたあとで」「おんなの朝」の過激なアレンジはやはり痛快だな。逆に派手に盛り上げることを期待してしまう「誓いの明日」「ビューティフル・ヨコハマ」は、安定したプレイが曲を支えるのみ。後者のイントロとか、間奏に「ブルー・ライト・ヨコハマ」を挟んでくるところとか、憎めないのだけど。それらの異なる印象が上手くブレンドされている「めまい」がベストトラックだろう。クラウン盤なのに西郷さんの選曲がないのは、奇遇としか言えない…藤圭子もないし(余計なお世話…爆)

冒頭3曲で早々と崩壊するラブストーリー

アトランティック L-5026~7

ひとりじゃないの 華麗なるドラム・ベスト・ヒット40

発売: 1972年5月

ジャケット

A1 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅹→22/3/31

A2 ひとりじゃないの (天地真理) 🅺→10/18

A3 別離の讃美歌 (奥村チヨ) 🅶

A4 太陽がくれた季節 (青い三角定規) 🅸

A5 初恋の頃 (淡路まさみ) 🅱

A6 さようならの紅いバラ (ペドロ&カプリシャス) 🅰→21/5/28

A7 ふたりは若かった (尾崎紀世彦) 🅳→21/5/28

A8 北国行きで (朱里エイコ) 🅰→21/5/28

A9 あの鐘を鳴らすのはあなた (和田アキ子) 🅱→21/5/28

A10 新しい冒険 (フォーリーブス) 🅰→21/5/28

B1 青い麦 (伊丹幸雄) 🅱

B2 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅳→21/5/28

B3 お嫁に行くんだね (水原弘)

B4 嵐の夜 (にしきのあきら) 🅱→21/10/18

B5 若い涙はみな熱い (森田健作) 🅱

B6 恋人たち (ピープル)

B7 お別れしましょう (朝丘雪路) 🅱→21/5/28

B8 ハチのムサシは死んだのさ (平田隆夫とセルスターズ)☆ 🅰→21/5/28

B9 涙 (井上順)☆ 🅰→21/5/28

B10 今日からひとり (渚ゆう子) 🅳→21/5/28

C1 ちいさな恋 (天地真理)☆ 🅰→21/5/28

C2 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🅴→21/5/28

C3 雨のエアポート (欧陽菲菲)☆ 🅱→21/5/28

C4 友達よ泣くんじゃない (森田健作) 🅰→21/5/28

C5 さすらいの天使 (いしだあゆみ) 🅰→21/5/28

C6 かもめ町みなと町 (五木ひろし) 🅱→21/5/28

C7 許されない愛 (沢田研二) 🅱→21/5/28

C8 めぐり逢い (渚ゆう子) 🅰→21/5/28

C9 フレンズ (平山三紀) 🅰→21/5/28

C10 波止場町 (森進一) 🅹

D1 愛する人はひとり (尾崎紀世彦)☆ 🅱→21/7/4

D2 ピンポンパン体操 🅱

D3 水色の恋 (天地真理)☆ 🅴→21/7/4

D4 雪あかりの町 (小柳ルミ子) 🅷→22/4/6

D5 誰も知らない (伊東ゆかり)☆ 🅲→21/7/4

D6 雨の御堂筋 (欧陽菲菲) 🅶→22/4/6

D7 悪魔がにくい (平田隆夫とセルスターズ) 🅳→21/10/18

D8 夜明けの夢 (和田アキ子) 🅳→22/4/6

D9 長崎慕情 (渚ゆう子) 🅵→22/4/6

D10 二つのギター (小山ルミ) 🅲→22/4/6

 

演奏: 市原明彦 (ドラム)/ワーナー・ビートニックス

編曲: 原田良一、穂口雄右(☆)

定価: 3,000円

 

今回も所謂自分内での「4大楽団」は勢揃いしてます。当然ワーナー・ビートニックスも。まだまだコンプリートには程遠いですが、慎重に揃えていきますよ。ただ、このセットは9曲を除くと、既にここで語った盤と被っている…というわけで音楽的メリットに触れるのは困難。でも、特筆事項はありますよ。これは2枚組として初めてリリースされた盤なのですが(テナー・サックス盤「さようならの赤いバラ」も同時に出ている)、2枚組なのに普段の盤と同じように窓開きスタイルになっている。これはお店で買ったのですが、一体どういうことと、手に取った途端疑問符に襲われましたね。で、買いやすい値段だったので当然買い。ワーナー・ビートニックスを3桁台で買うのは、買い始めた頃から既に至難の技だったからね…で、どんな仕掛けになっているかというと、見開きジャケット内部の最初に写真を印刷したページが出てきて、それを貼り付けた形で1枚目を収納した紙スリーヴが綴じられているという仕組み。2枚目は普通にジャケットに収納されている。さすがにこのカラクリはコストが嵩んだのか、次の発売分からは通常のダブルポケットのジャケットで発売され、見た目だけふちどりというニュアンス。見た目ワーナー・ビートニックスなのは明白だけど、何枚持っていようが楽しいし、このスタイルはCD紙ジャケにすると相当興醒めしそう。

そんな、パターン化されたビートニックス・ワールドが大好きなのですが、全部集めて改めてヴァージョンチェックするとなると、相当神経使いそう。なので、その盤だけに収められたユニークトラックが何かを検証していくしかなさそうですね。ミノルフォンの小梅ちゃんシリーズにしてもそうですけど。例えばA面は、他の盤でめちゃ聴いた曲が大多数なのですけど、例えば太陽がくれた季節は初めて聴くので、どうなっているか気になる。案の定ビートが効いていて、かっこよく演っているけど、この曲の決定版は山内さんのテイチク盤だという思想は揺るがないので、まぁそんなもんだなと。その意識のうちに続く「初恋の頃」を聴くと、はっとするのですよ。この地味な曲をこんな派手にやっちゃっていいのか?と。ちなみにこの曲、歌手名を伏せてプロモーションされたことも好き者の間では知られていますが、オリコン92位(そして「オリコン・チャート・ブック」では歌手名誤植という仕打ちに…)。B面も、今ではジャケットのインパクトが独り立ちしたような印象がある「お嫁に行くんだね」や、オックスの後身バンドが出した筒美作品「恋人たち」などユニークな選曲があるし、前者も面白いアレンジを聴かせる。2枚目に行くと、山内さんの当たり曲「波止場町」と、穂口氏による痛快なアレンジが楽しめるピンポンパン体操だけが独自トラック。続く「水色の恋」ともシームレスに繋げられそうな一体感がある。いっそノンストップミックス版にした方がいいのではとさえ思える、終始ドラムグルーヴが脈打つセットだ。

歌謡フリー火曜日その49: もしオルガン弾きが君の彼女だったら

RCA JRS-7307

愛の休日/森ミドリとレモン・ポップス

発売: 1974年

ジャケット

A1 ウェディング・マーチ

~オー・マイ・ラヴ (ジョン・レノン) 🅱

A2 オールド・ファッションド・ラヴ・ソング (スリー・ドッグ・ナイト) 🅲

A3 ミセス・ヴァンデビルト (ポール・マッカートニー&ウイングス)

A4 ラヴ (ジョン・レノン) 🅵

A5 愛の休日 (ミッシェル・ポルナレフ) 🅱

A6 マイ・ラヴ (ポール・マッカートニー&ウイングス) 🅱

B1 エスタデイ・ワンス・モア (カーペンターズ) 🅴

B2 モン・パリ (ミッシェル・ルグラン)

B3 想い出のフォトグラフ (リンゴ・スター)

B4 夢みるジン・ナテー (ロバート・マグニン)

B5 シェルブールの雨傘 (ミッシェル・ルグラン) 🅱

B6 ラスト・タンゴ・イン・パリ (ガトー・バルビエリ)

 

演奏: 森ミドリとレモン・ポップス

編曲: 小林南

定価: 2,000円

 

森ミドリさんのアルバムは、クラウンからの愛唱歌集と、RCAからの主にアイドル歌謡に的を絞った2枚を既に取り上げているが、その2枚目の紹介の時、惜しくも語れずじまいと述べた3枚目を無事救済。自らもアイドルモードに身を投げての若々しい作品集から一転しての、エレガントなラブ・サウンド大会。何せ1曲目にウェディング・マーチをもってきているだけあって、ロマンティックな語らいのBGMにうってつけの内容なのだが、ビートルズ絡みの作品が多めというのがミソ。現役おかっぱ世代がリアルでロマンスに目覚め、その恋心に火を付けるのにうってつけ。導き役としてのミドリお姉さんの優しさが、このジャケットに溢れ出ている。派手に自己主張するのではなく、あくまでもサウンドの一部としてのビクトロン。アレンジを担当したのは、前作「アルプスの少女」で派手目の曲を一手に引き受けていた小林南氏(ヤマハ系の仕事が多い人だったが、エレクトーンじゃないオルガンレコードにも駆り出されていたとは)だが、ここでは別人のように滑らかなオーケストレーションに徹している。

どうしてもプリンスのあの曲の影がちらついてしまうイントロから「オー・マイ・ラヴ」に導かれると、分厚く入ってくるストリングスがエコーに包まれ、メロトロンを幻聴(!)。そこに手堅くビクトロンが入ってくる。美しいピアノの演奏はミドリさんではないだろう。賑やかに盛り上げる「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」に続いては、まさかの「ミセス・ヴァンデビルト」。これは選曲自体が快挙。軽めのタッチでポップにこなすけど、乙女っぽさはあまり感じられない。「ラヴ」は派手目のビートも入って緩急取り混ぜてのアレンジだが、ダブルエンディングを取り入れているのが斬新。これは国文社「ラブ・サウンド」に入っているメロトロンヴァージョンの勝ちだな。

B面にはジョージとリンゴの共作「想い出のフォトグラフ」もあって、ポップに盛り上げているが、ビートルズ関係以外の曲は手堅いラブ・サウンドの域から出ていない。まぁそれでいいのだけど、前2作の個性全開サウンドに慣れた身にはちょい物足りないな。 

これを持ってない者に歌無歌謡を…なんて言わないで

コロムビア ALS-4297

ゴールデン・ヒット・メロディ (第3集)

発売: 1967年12月

ジャケット

A1 真赤な太陽 (美空ひばり) 🅱

A2 夕笛 (舟木一夫)☆

A3 マリアの泉 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)☆ 🅲

A4 小指の思い出 (伊東ゆかり) 🅲

A5 霧のかなたに (黛ジュン) 🅱

A6 知りたくないの (菅原洋一)☆ 🅲

A7 風が泣いている (ザ・スパイダース)☆

A8 ほれているのに (島倉千代子)

B1 バラ色の雲 (ヴィレッジ・シンガーズ) 🅲

B2 愛は惜しみなく (園まり)☆

B3 いとしのマックス (荒木一郎)☆

B4 恋 (布施明) 🅱

B5 たそがれの赤い月 (ジュディ・オング) 🅱

B6 カスバの女 (竹越ひろ子、他)

B7 渚のセニョリーナ (梓みちよ)☆ 🅱

B8 北国の青い空 (奥村チヨ)☆ 🅲

 

演奏: ゴールデン・スターズ

編曲: くるみ敏弘、大西修(☆)

定価: 1,500円

 

歌無歌謡屈指のナイスジャケット。67年当時はそのスタイルで日本に紹介されていなかった、ビートルズのファースト・アルバムを彷彿とさせますが、どこに帯を置いても3人の乙女に失礼な感じになっちゃいますね。真ん中の娘が着ている服が最高なのにね。

もう夏は遠くに行ってしまったみたいなイメージが漂ってくるけれど、選曲自体はサマー・オブ・ラブの雰囲気が満載。いよいよ日本もポップス革命に向けて動き出したかみたいな印象が、まったりした音作りの隙間から漂ってきます。顔のないアンサンブルというイメージがあるけれど、ここには高野譲二、秋本薫、道志郎、横内章次といった錚々たるメンツが集結していて、歌無歌謡の黄金律を体現。とにかく躍動感が半端ない。場末ムードの外に出てない感じはあるけれど、ポップスの新しい流れに食いついていこうという気迫がある。だからこそ、ジャケットに見合ったファッションミュージックと言う印象もついてくるわけで。やっとレコード会社専属制度という、ある意味では国境みたいなものを越えた喜びが伝わってくる。「真赤な太陽」も、決してブルコメに負けてはいないし、自社の財産を慎重に守ろうという気合が感じられるし、「夕笛」にもなぜかポップな印象が。このライナーで触れられているカバー満載の舟木一夫のLPこそ、「歌入り歌無歌謡」の走りみたいなものだろうか。その後、黛ジュンの曲に何食わぬ顔で触れているのも、不思議な因縁を感じさせるが。「小指の思い出」の盛り場ムードも違和感なく、この流れに溶け込んでいる。一方では「ほれているのに」でファニーなムードが炸裂。この曲にまで、ポップな感触を投げ込んでいるのだ。こんな風に、正に嵐の前触れという感じで進行していくけれど、遂に初登場となる「いとしのマックス」は、やはり松本浩がやったビクター盤の印象が強烈すぎるんですよね。解る人には解るネタですが。こっちはよりスピーディに攻めている感じで、捨て難くはありますが。

レコードマニアを焦らせる「神秘の丘」とは

ポリドール MR-3095

秋本薫のテナー・サックス 恋ひとすじ

発売: 1970年3月

ジャケット(隠蔽済)

A1 恋ひとすじ (森進一) 🅹

A2 恋狂い (奥村チヨ) 🅶

A3 愛の美学 (ピーター) 🅹

A4 私が死んだら (弘田三枝子) 🅼

A5 逢わずに愛して (内山田洋とクール・ファイブ) 🅻

A6 知らないで愛されて (佐良直美) 🅴

A7 帰りたい帰れない (加藤登紀子) 🅲

A8 新宿の女 (藤圭子) 🅴

B1 国際線待合室 (青江三奈) 🅹

B2 恋人 (森山良子) 🅿︎

B3 忘れた虹 (石原裕次郎)

B4 夜もバラのように (高田恭子)

B5 とまらない汽車 (中山千夏) 🅳

B6 恋人の讃歌 (ピンキーとキラーズ) 🅳

B7 予約 (岡田恭子)

B8 その時私に何が起ったの? (和田アキ子) 🅲

 

演奏: 秋本薫/ポリドール・オーケストラ

編曲: 川上義彦

定価: 1,700円

 

昨日のエントリでも秋本薫のアルバムの魅力に恋焦がれはしましたが、それと同時に手許に巡ってきたのがこの盤で、何よりもジャケットがいい。一糸纏わぬ姿を晒した写真とはいえ、芸術性の高さが現れていると魅力的としか言えなくなってしまうし、これはエロいとか率先して言う気もなくなります。でも、電脳空間上に晒せるか否かとなると、話は別。正に、「男をだめにする盤」の宝庫ですよね、歌無歌謡は。特にポリドールは。それを解ってか、7インチ6曲入り盤をも積極的に売ったんでしょうね。鞄に入れて持って帰れますからね。

しかしである。元の持ち主はそんなジャケットを目当てに買ったんでしょうか。自分が手にした盤は、「恋人」から「忘れた虹」(ちなみにこの2曲、作者コンビも同じなので兄妹関係にあるようなもの。確信犯的に続けましたね)にかけて、プレスエラーとしか思えない「丘」が発生しており、その部分で針飛びにならないのが不思議な位音にダメージが与えられている。なぜかグラモフォン盤に限ってあるあるなんですよね…(昨日触れた「涙でいいの」のケースは、恐らく放送局所有の盤だったため、シール貼りという処置がなされたと思われる) ただ、他の部分にもノイズが多いので、雰囲気作り盤として酷使されたかもしれないけど、そういう盤は返品してもいいと思うんですがね…

そんなこともあり、積極的に聴く気分が萎えるのだが、昨日のパヤパヤ満載盤を聴いた後だと、どうしても地味と言うか、普段のサックス・イージーリスニング盤モードから一歩先に歩んでない印象がある。なので、B面後半に固まった興味深い選曲にさっさと向かいたい。一応安全に再生はされるし。「とまらない汽車」「恋人の讃歌」も、ピースフルなムードが場末感の後ろに隠れてしまっている印象で、その場を盛り上げる感触がいまいち欠けてる感じ。「予約」は激レアな選曲だけど、これは取り上げられただけでも有難い。ムーディな演奏がきっちりはまっているし、躍動感からうまく揺り返してくれる。B面「どんなふうに」のせいで神格化が強まっているレコードだけど、その曲の歌無解釈も聴いてみたいもの。下世話なサウンドで演るとぶち壊しになりそうだけど。最後にファンキーに決めて無事一件落着。

3年前の今日は「さわやかなヒット・メロディー」を取り上げたけど、その主題にはもう戻れそうもありませんよね。「どんなふうに」なんか、その楽器で奏でられるとさまになりそうだけど。

パヤパヤで彩られる早すぎたシン・なんとか

ポリドール MR-3085

新・歌のない歌謡曲 黒ネコのタンゴ

発売: 1970年1月

ジャケット

A1 人形の家 (弘田三枝子)☆ 🅼

A2 愛の化石 (浅丘ルリ子)☆ 🅵

A3 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅻

A4 あなたの心に (中山千夏) 🅺

A5 いいじゃないの幸せならば (佐良直美)☆ 🅼

A6 青空のゆくえ (伊東ゆかり) 🅱

A7 夜と朝のあいだに (ピーター)☆ 🅷

B1 黒ネコのタンゴ (皆川おさむ) 🅶

B2 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子)☆ 🅿︎

B3 枯葉の街 (由紀さおり)☆ 🅱

B4 海辺の石段 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

B5 朝陽のまえに (はしだのりひことシューベルツ) 🅲

B6 星空のロマンス (ピンキーとキラーズ) 🅷

B7 私が死んでも (カルメン・マキ)☆

 

演奏: ニュー・サウンド・オーケストラ

編曲: 川上義彦、早川博二(☆)

定価: 1,700円

 

このジャケットの絵、絶対著名なイラストレーターの画だと思うんですけど、クレジットも署名もないし…誰かヒントお願いしますね。いかにも万博イヤーという雰囲気で、ミノルフォンの小梅ちゃんシリーズとも違う魅力が出てるし、演奏者クレジットもポリドールでは見かけない感じで、相当な冒険盤の予感が漂ってきます。この時期のポリドールの歌謡レコードを聴くと、確かに独特のタッチがあって、特に何曲かでは最新型エレクトーンに搭載されたリボンコントローラーによるポルタメント効果がうまく使われてたりするし(秋美子「哀愁の花」とか。名曲すぎです)。さすがに、この盤にはそれを使用した曲はなかったが、ほぼ全曲に意表をついたアレンジが採用され、他では聴けないぞというオーラを表面に漂わせている。

手堅いなと思わせる「人形の家」にいつの間にか忍び寄るドラマティックな女性スキャットスキャットとまではいかない、最小限のシラブルを声に出しているのみなのだが、途轍もない抱擁力を発揮している。これでクレジットがないとはねぇ。絶対有名な人だと思うのだけど。対して、相当冒険的なアレンジをしている「愛の化石」には、ライトな感触を足している感じだ。2コーラスのBメロの最後に入れる「ふーっ」が何ともお茶目なのだけど、それだって職人芸。「恋泥棒」は相当のレア・グルーヴ・モードで聴かせ、所々に「雨」を連想させるフレーズ入り。そして、パヤパヤ歌唱に心を奪われる。「あなたの心に」も相当の再構築ぶりだ。この調子で、パヤパヤを軸に駆け抜けていくが、「夜と朝のあいだに」で聴けるサイケなギターとか、「悲しみは駆け足でやってくる」に「フォー・ユア・ラヴ」感を注入するパーカッションとか、歌無歌謡ではあまり体験できないサウンドも随所に。妙な楽器を使うことなく、音の調合加減で異色の世界を演出することも可能と教えてくれる名演が続出する。

ところで「海辺の石段」でやっとパヤパヤが出てこない展開に至るのだけど、これが何と、既に手に入れていたものの、この曲の収録箇所に傷がついてしまったせいでべっとりシールが貼られ再生不能になってしまい、泣く泣くここで語ることを諦めたアルバム『秋本薫のテナー・サックス 涙でいいの』の収録ヴァージョンを流用したものだった。苦心して同アルバムの再生可能な箇所に針を落とし、聴き比べた結果判明したもので、そんなこともあるんだと救われた気分。しかし、「懐かしの人」と「バラ色の月」は依然再生不能なので、ここに復活することはまだまだなさそう。他にも3曲が同じアレンジャーによる編曲で、同アルバムと重なっているが、これらはパヤパヤ入りで全然違うテイクになっている。何ゆえに「海辺の石段」だけそうしなかったのだろう?シンガーに抵抗でもされたのかな(爆)。最終曲「私が死んでも」は、一瞬「私が死んだら」と混同しそうだが、ユニークなアレンジで締めくくっている。最後の最後で炸裂するスキャットガールぶり。ほんと誰なんだこの人…

 

update: 「マンダム〜男の世界」の歌無版、何気なく買った通販盤バラ売りの1枚の中に入っていました。ここでは取り上げませんが、無事79年までのオリコン1位曲歌無版をコンプリートしたことを報告いたします。80年代からは茨の道ですね。特に87年はほぼ総倒れ…いっそおニャン子インスト集とか作りたいですね、もちろんリコーダーをフィーチャーして(瀧汗