Hyggeligt

見て聴いて読んで描くよ

希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話

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希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話
編訳:頭木弘樹

 

「絶望名人カフカの人生論」もおもしろくて何度もニヤっとしてしまったけれど、この本も何度もニヤっと。

相対するページにまばゆいゲーテがいるから、よけいにカフカの暗さが際立っていて見事。

ゲーテカフカも、突き抜けてしまっている。なのになぜか共感できてしまうのが不思議だった、もしかしたら自分の中に両方が居るのかもしれないな。
ゲーテの底抜けの明るさにも頷いた直後に、手の施しようのないほどのネガティブなカフカに安堵しちゃう。
どちらもその時々で励ましとなって、また来る明日を受け入れることができる。

編訳、というお仕事がこんなに生きているのもこの本の魅力。
よくもこんなに見事ぴったりと二人の言葉を組み合わせたなあと、どのページをひらいてもうっとりため息をこぼしてしまいます。
寄木細工みたい。

絶望名人カフカの人生論

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絶望名人カフカの人生論 /カフカ 編訳:頭木弘樹

 

今はもうあまり見ない顔文字「orz」これがぴったりな一冊。

どん底に居ながらも、刻銘に詳細に自分の心情を書き残す精神力。
超ネガティブ、もそれをあますところなく「絶望」を味わっている。
嫌な現実から逃げつつ、でもやせっぽちの自分と向かい合い、とことん己を追い詰めてしかもそれを他人(や父親)に手紙で伝えようとしちゃう。
自分の嫌な所って隠したくなるものじゃないのか。
カフカの自意識のメーターってどうなっていたのかなあ。こんな根暗な俺を知られるのは恥ずかしいという意識はなく、書かずにはおれないと切迫感がぎゅうぎゅう。
昨日を明日を嘆く言葉をスプリンクラーのように撒き散らす。
カフカの時代にツイッターがあったら、ツイ廃となってたんじゃないかと想像してしまった。

鬱蒼としたこころの闇のなか、書くことで言葉を依るがに生きていたのかな

太陽のひかりをみじんも感じさせないのに、沢山の汗をかいた後のようなデトックス感。
不思議と読み終わったあとはほがらかになるのでした。
ありがとうカフカ。横たわっていてもいいよと(は書いていないけど)認めてもらったような気持ち。
へこたれそうなひと、読んで。
たちゆかなくなったひとも。ぜひ。

昔聴いた深夜ラジオの、メールテーマが「だめな自分」だった時
全国から集まるとにかくダメなエピソードを
DJのひとと一緒に笑い飛ばすことで
本当に楽しくて、心が軽くなったことを思い出した。

 

***

 

もうふたつ読んだ

 

妄想力 / 茂木健一郎関根勤

少し前の本だけれど、そんなに古さは感じない内容。
妄想大好き関根さんの、ディティールの細か過ぎる妄想が秀逸。
発想もいいなあ、好きな子とデートするという定番妄想だって
きっと色鮮やかに脳内再生しているんだろう。
バナナになったら、誰に食べられたいかという妄想や
自分の体の臓器との会話まで、ふつうは辿りつけない妄想の境地へのいざないが満載。
相手の気持を察したり、誰かの思いを汲んだりする
その妄想がどういうふうにこころに(脳に)作用するかも指南してあって
笑えて気持ちが明るくなる本でした。
わたしも妄想は得意なほうだけれど、バナナになったことはないので
ちょっと明日からバナナになろう。

 

ごはんぐるり / 西加奈子
身近なごはんの事から、想像できないような場所での食事のお話も。
エジプトでの食(生活)事情もちらりと。
「活字ごはん」の章がとくに気に入ってしまった。
そうなのよ物語の中の文章であらわされたごはんは
しらない食べ物だったとしてもどんどん想像が膨らむんだ。
文字から匂い漂う経験を思い出させてくれる。
飲んだこともないお酒の銘柄から、味へのあこがれを膨らませたりした。
気になったのは去年ネットで流行していた10分どんべえをすでに実践していたこと。
この本は2013年の発行で、連載はそれ以前のはず。
あの流行はこの本が発祥なのかしら。

 

それからはスープのことばかり考えて暮らした

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それからはスープのことばかり考えて暮らした 吉田篤弘

このお店、テイクアウトのみなんだよなーイートインできたらいいのに、と物語の中の店舗に希望をもってしまって、このような絵に。

スルスル読める文章は多分リズムが良いんだとおもう。あっというまに読んでしまったよ。大きくドラマティックな内容ではなくどちらかというと小さく地味。サンドイッチ屋さん、ラーメン屋さんも、映画館も、雰囲気が良くて主人公がどんどん店主と仲良くなっていくので、うらやましい。

すごく「ありそう」な町並み、人物、出来事。
小説の中のスープの匂いや、教会の影をじっくり思い出して、呼んだあとにまた味わうような
モノクロームの世界と行ったり来たりできるような、楽しい本でした。

 

もう一冊読んだ。

ちいさな言葉 俵万智
こどものことばの勘違いって、かわいい。本人が真面目なのでよけいに!
俵万智さんの息子さんとのやりとりを綴った本です。
かといって息子さんだけフォーカスしたわけではなく、季節や日常の事、小さなイベント事も丁寧に書かれている。
すっかり忘れていた言葉を思い出したり、慣れてしまった言葉を改めて見なおしたりできる一冊。
わたしは「なんで靴の中に履いてるのにくつしたなの」とか「ひざこぞうはあるのにうでこぞうはない」とか、そういう事を思っていたなあーと、自分の中のお子様を呼び起こすのが楽しいです。
「ちゅうしゃじょう」はぜったい注射するところだと思っていたし。
寝る前にちょっと読んで笑って、そのあとはノスタルジーな夢を見そう。

 

 

 

小川町セレナーデ

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三人でコタツに入るシーンは無いのだけれど。

 

小川町セレナーデ
長い思春期を患ったままの主人公が実家スナックの危機を救うためにオカマバーを開いて、巻き込まれる父も母も助けてくれる人たちもみんな数日で成長しちゃう気持ち良い展開。
私の中で安田顕さんは「ハイジさん」だったのですが、この映画のおかげでエンジェルが押し寄せてきています。どちらにせよ女型。あまり典型的なオネエキャラではなく静かに力強い役柄だったのは父親としての片鱗でしょうか。小夜子が美しすぎるのが残念。ぶさいくなら二股かけられるのもフラれるのも納得いくのに、あんなかわいい子が!!
導入部分モノクロからカラーに変わったり、小道具がその時代にぴったりだったり、こまかいところがツボにはまりました。なかでも「こたつ」がいい。コンセントをさして潜り込む、じんわりとぬくもりが伝わってくるのは映画のストーリーと沿ってるからかしら。全体的にあたたかで滋味がある、見終わった後はだいぶ温まりました。
ただ「東京に行く」っていうシーン感動的だったのに、ここの舞台が川崎あたり(架空の町)って!!近いじゃん!川崎から東京!と、地方出身者はそこで目が覚めてしまうのですよ。良い夢でした。

 

なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか

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なぜ日本人だけが喜んで生卵を食べるのか/伊丹由宇

52ページまでしか読んでいませんすみません。
タイトルに釣られて読みはじめてしまいましたが、これ以上は苛々が募るので無理。タイトルの答えになっている最初の章は読んだから、もういいじゃないと自分をなぐさめているところです。
個人が簡単に情報を引き出せる時代に、このような本に求められるのはその人らしい観点や切り口や、あとは気分よく読み進められる文字列など、だと思って本を手に取るのですが、週刊誌の見出しのような文章で乱暴な解釈(ミルクセーキに卵入ってるからフランス人生卵飲めるじゃん!っていう記述に、おっまえ醤油つけて寿司たべるけど醤油飲まねぇだろ!ってツッコミをいちいち入れたくなる)が続き、ところどころに「俺自慢」が挟み込まれる。そこは知りたくないし、あなたのファンが手にとったのなら知っていることでしょうし、バブルの頃の話なんざ振り返ってもページの無駄じゃ!申し訳ございません、これ以上は進めませんでした。
ネット情報切り取ってそのまま売るというのはもう不徳行為に近く感じてしまいます。更に不確かな情報を「~らしい」と書く、せめて裏付けを自分で取ってから記載したら納得ができましたのに。
ただこの文体、何かデジャブ感があるなあと記憶をひっぺがしてみましたら、以前勤めていた場所でお世話になったおじさんが大変優秀で素晴らしい人だったのだけれど報告書をつくらせると全文章がスポーツ紙の見出しみたいになっちゃうのを目の当たりにしたことがありました。ああ、これだ。
きっと、あの世代の人には、伊丹さんの文章は好まれるのかもしれません。型があると文字を埋めるのは楽なんですよね。
人を惹きつける言葉のチョイスはうまい。でもその後が続かない。
あと「北海道には卵の自動販売機があるらしい」という情報がとっておきのように書かれていたけれど、うちの近所(関東)にもずっと前からあるので、なにいってんだこいつ感が半端なかったです。
暴言失礼しました。たまごごはんは好きです。

 

 

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チョコレートドーナツ

 


実話を元に作られた映画だときいたのですが、ウィキ見たら発想の元となっただけでこのままのストーリーではないということなので安心しました。中盤幸せな映像で盛り上がっちゃうのでその分ラストの落ち込みがやりきれなかった。
ゲイの主人公はガッツリ「男性」の姿のままでしぐさや声色はちょっとだけ女性風、最初違和感があったけれど見ていくうちに引きこまれて優しいお母さんのような瞳をみてしまった。ささやくような声で眠る前の物語を語りかけるシーンは優しさにあふれていました。マルコは一瞬だけでも本当に満たされたのだろうと思うことで、少し救われます。
相手の弁護士や検事がどうして「家族」となった彼らを引き離そうとするのか、見ているときはまったく理解できず、ただの悪役にしか見えなかった。でもあの時代それが一般的な正義だったんだと気付きました。
疑問を投げるような終わり方なので、余韻がずっと残ってしまってしばらく気持ちが沈んでしまいました。疑問の答えはこれから世界中で変えていかねばならない、のです。マルコが大好きなハッピーエンドはもうすこし先です。

 

 

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英国一家日本を食べる

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マイケル(右)が持ってるのは、オカリナじゃなくて鰹節です。

 

 

英国一家日本を食べる/マイケル・ブース
続編のほうから先に読んでしまったので、この本の冒頭で軽く日本食をディスってるのが笑えました。最高だマイケル。
好奇心旺盛な胃袋をもったジャーナリストが日本中を食べ歩く記録です。
食べものの事だけではなく、地元の方とのふれあいが書かれていて京都でゲイにナンパされたり(見事に逃げ切った)蔵本の人にがんがん飲まされたり(途中からは「石油の味」としか表現できなくなるほど悪酔い)大阪で文字通り食い倒れたり、読みつづけるとお腹すいてきます。
「うまい」の三文字で済むはずの出来事に言葉の限りを尽くして表現しているので、ラーメンの章は文字から豚骨スープが溢れてくるかと思うし、粉物の章ではソースと青のりの香りが漂ってくる気がします。幻覚、、、じゃなくて幻匂?
夜に読むのは危険です、あと読みながらスマホで店舗検索してしまいます。いつか行こくブックマークが増えました。
かといって、賛美だけでは終わらずに日本の抱えている問題を斜めからすぱっと切って、疑問にざっくり串刺し。
住んでいる人からはあたりまえになっている部分も書かれています。
直接的な表現はなかったけれどシャッター街なども見たのでしょう。
全面的に「日本食リスペクト!」な方向に進んでほしくないなーって思っていましたので読み終わってスッキリ爽快。だって沖縄が長寿の国なんて、いつまでも言ってられないです。この本はアニメ化や漫画化もされているので、そちらも期待。おなかすいた。

 

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