山本ユキコの子育てフィロソフィ

子育てを会社でシェアしよう。子育ての体系的な知識と知見を会社でシェアして、働きやすい企業文化を育成

北九州の企業内学童が提供する、先進的アクティブラーニング #2:株式会社プロデュース

子育ては、チームで行うもの。子育てフィロソフィ代表 山本ユキコです。

“社員の子育ても企業の責任である”と、意識改革を。企業から子育てへの理解と知識を広げていく活動を始めています。

 

それと同時に、九州の実際の企業の現状のインタビューを九州の派遣会社九州スタッフさんと一緒に始めました。

 

九州はまだ“遅れている”?

私が「企業から、子育ての知識と価値観を発信する活動を始めたい」と相談すると、多くの人が口をそろえて「九州ではまだ無理だ。東京に行った方がいい」と言われます。

私が父親向けの子育て本を出すときに「九州の書店では、父親向けの育児書の売り上げがほかの地域にくらべて売れない」といわれたり。

九州のトップの進学校の一つでは「女は勉強せんでいいやろ」と教諭に言われる、驚くような文化が、少なくとも最近まであったり。

 

本当に、九州はそんなに男女共同参画、企業の子育て支援、後進地域なのでしょうか?

まずは現状を見るために、九州で子育て支援に理解のある、実際の企業の取り組みや考えをききとりを始めました。

 

北九州の企業内学童が提供する、理想のアクティブラーニング

今回は、そんな思いがすべて吹っ飛ぶような、先進的なアクティブラーニングを実施している、北九州の企業、株式会社プロデュースを紹介します。インタビュー中、何度も心が震えました。

 

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株式会社プロデュース

pro-kirameki.com

 

 

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中原社長と、きらめキッズのメンバー。*1

 

御社の仕事について教えてください

 

認知症対応のデイサービス、グループホーム、小規模多機能ホームを運営しています。重度の認知症の方たちを見ることができることが事業体の特徴です。介護保険法の地域密着型の事業に特化しています。制度の関係で北九州在住の人しか使えないという縛りがありますが、その分、大手にはできない、きめ細やかな対応がウリです。

例えば「デイサービスを使いたい」と家族は思っていても、行った先の施設に馴染めず続かない。そのような人を紹介してもらうことがあります。私たちの職員はそちらの家庭に数カ月訪問して、人間関係を作ってから、利用者としてサービスに来てもらったりもしています。

人材活用について、働く環境面で工夫されている事はありますか。

1.多様な人材の採用
私が採用面接の時に自己開示ができる「場」を作るのが得意なのですが、そこで、虐待を受けたなどの厳しい人生経験のある人を優先して取っています。仕事ができる目立った人は入れません。発達障害のある職員の家族の方にも仕事ができるときだけ来てもらっています。

社員とパートさんが半数ずつで、年齢は17歳から75歳の人が働いています。70を過ぎても社員として頑張ってくれているスタッフもいます。スタッフの子どもで高校に行けない子も働いてもらっています。

17・8の子で、カレーライスを作ったことのない子がほかの年長のスタッフに教えてもらい、できるようになっていくことがありました。祖父母の世代のスタッフは孫のように指導してくれて、スタッフが一つの家族のような温かさがあります。

 

2.徹底した人材育成
職員に対して「何のためにこの仕事をしているのか」「何にこだわって仕事をしているのか」について、様々な機会で考えることを行っています。

介護ファシリテーションプログラム研修、「理念と経営」の社内勉強会など、任意でいろいろな勉強会をします。どの研修でも、「自分の会社としてはどうか」と必ず引き付けて考えてもらいます。

社内の研修だけではなく、社外の研修や、(一社)人材開発推進機構の「こだわりカンファレンス」参加など、社外の学びの機会も作っています。

ファシリテーションなどのスキルが育った職員には、同友会会員企業内や、別の企業の研修に講師として活動する機会も作り、スタッフの手取りを上げるための試みとしても進めています。

 

3.ヨガなどの教室開催で施設間の人材の連携
月に二度のわくわくサークル(社内レクレーション)、毎週ヨガ教室の開催といった身体を動かす教室を事業所全体と地域の方にも告知をして行っています。事業所が全部で4施設あるのですが、同じ施設の人以外なかなか顔を合わせる機会がありません。こういった機会で顔を見知りになっておくと、人事異動の時などいろいろスムーズです。

 

4.子連れの出社・子どもへの先進的なアクティブラーニングの機会提供
一つの施設では、小学生の子供がいる職員は、職場に連れてきてもらっています。学校が終わったら職場に子ども達が帰ってきます。託児のための特別なスペースなどはなく、ミーティングや来客のある部屋などで子供も過ごしてもらいます。そこで、大人の仕事を自然と見てもらっています。子供達は、研修やミーティングなども一緒に聞いて、来客のお茶出し・茶碗洗いなどもしてくれます。

施設の利用者も子どもがいると一緒に遊んでくれて、和やかな雰囲気を作ってくれます。

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小学生の子供たちは「きらめキッズ」という名前で自主的なグループ活動をしています。年度初めには自分たちで規則を作り、やりたいことも自分たちで決めています。

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夏祭りと合宿が特別な行事として楽しみにしているようです。大人は場を作って見守るというスタンスです。

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イベントのためのバザーの品物を募るポスターを張ったり、チラシをポスティングをしたり、バザーではお客さんの対応などもしました。大人の研修で見聞きした、PDCAなども考えて、活動の後は改善点なども子どもたち同士で検討しています。

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10,000円を活動経費として渡しましたが、活動の中で40,000円にまで増やしていきました。そのお金は自由に使っていいと言うと、卒業生達がスペースワールドに行くのに使っています。自由にしていいということで、逆に責任を持ってきちんと使っています。

また、大人のスタッフ同様、外の行事に参加する機会も作っています。具体的には「私がぼくが市長になったらプレゼンテーション大会」に出場しました。高校生や大学生に混じって頑張っていました。「今日は楽しかったね!大人の人と同じ場所・同じテーマでお話ししてもいいんだ」と終了後に言っていたのが印象的でした。


このような子ども達がいることで、新人研修も速やかに進むという利点もあります。

 

有休の消化は何割くらいですか

平成28年3月~29年2月までで、89.1%です。
有休の消化は当たり前として、100%を目指しています。毎日の休憩時間もお互いが声かけして、取り合うように気を付けています。

 

女性の平均勤務年数はどのくらいですか

施設自体ができてから、一番古いもので13年、新しいもので2年ということもあり、新しい施設は入れ替わりがまだ多いです。全体としては7~9年の勤務年数の人たちが多いです。立ち上げ当初からの13年のメンバーも2名います。

 

育休の取得は男・女ともにどのようになっていますか

男性育休も一昨年、嫌がる男性職員に半ば強引に取らせました。1週間とってもらいたかったのですが、3~4日でしたけど。
個人的に夢は、社内結婚で男性に育休を取ってほしいと思っています。「男性が育休もカッコいいよね」となってほしい。60代・70代のおばあちゃん世代の職員が「(自分たちが業務を何とかするから、育休を)取りなさい、取りなさい」と言ってくれる。家族のような関係がありますので、事業所としてはとりやすいと思います。

育休あけに、どのような職種に戻るのでしょうか

パートさんになる人も、社員で戻る人もいます。仕事内容は特に変わりません。

 

育休の時短勤務は可能ですか。その時はどのような仕事になりますか

子育て中の事務員さんは10:00~13:30 や、10:00~15:00といった勤務にも就いてもらっています。

 

採用において、どんな人物像が求められますか

学ぼうとする人・向上心と素直さです。なかなか面接の段階で、「ビジョンがある人」を求めるのは難しいので、学ぶ意欲のある前向きな人を求めます。

採用において、どんなスキルが求められますか

資格というなら介護福祉士ですが、なくても大丈夫です。

なかなかいませんが、コーチングとファシリテートのスキルもいいですね。リーダーになる人に必要なスキルですが、トレーニングすると5年はかかるので。身に付けている人が来てくれると助かります。

 

御社の必要とするような人材を次世代に培うため、子育てと教育に必要なことは何だと思いますか。

意識して日本の子ども達に仕事を見せることだと考えます。「仕事は疲れるし、苦しみもあるが、楽しいものでやりがいがあること」を実際に見てもらうことです。大人の考えで押し付けてはいけない。

大人たちが経営の勉強会をしていることも、見てもらっています。楽しいものだけではないが、子どものころから社会に巻き込むことだ必要だと思います。

 

子育て中の職員の声を聞かせてください

Aさん 小学校1年・4年の母

毎日、学校のあとに、子供たちが学童よりもお母さんがいるこの職場に「ただいま」と帰って来られるようにしたかった。

そのために先日引っ越しをして、今年度からこの校区の小学校に転校させました。子供たちも、きらめきっずの活動で今の学校に既に友達が何人もいるから「この小学校なら転校していい」と受け入れてくれました。

この会社は、社長の発想力がすごいのだと思います。ただ、年長のスタッフの方々が子連れで働くことに抵抗感があるのが実情です。子どもが職場にいることで私が集中できないことを案じて、子供たちに「下の部屋に行きなさい」と、私が仕事をしている部屋に近づかないようにしてくれます。善意だとは分かるのですが、子供達はいつもは、その部屋の利用者さんたちと遊んでいるのにと思うと、子づれで働くことに気後れしそうです。確かに下の子はまだ、母親に構って欲しがることがありますので、気が散ることがありますが、少しずつ理解しています。

でも、これで私が子供たちを学童など、どこかに預けて働くことに戻ってしまったら、これから「子供を職場に連れてきて働きたい」と、続く人の妨げになってしまいます。子連れで働けることがもっと大々的にならないといけないと思っています。そのためにも、やめてはいけないと自分に言い聞かせて、子連れでの仕事を続けます。

子供たちもここに来ることが「楽しい」といって、表情が明るく変わってきました。ここ二年ほどで本当に子供たちも成長しました。人の役に立つことが心に良い影響があるように思えます。ここでは、私が体験をさせてあげられないことを与えてもらえます。さらにこれからの子供たちの成長も楽しみです。

今後、社長は保育園も設置する計画をしています。その時はうちの子供は、小さな子供達に教えてあげる役割をするのかもしれません。これから子供の人生の糧になるはずです。

私は今まではパートタイムで短時間勤務でしたので、社員として働くようにして慣れるまで毎日大変です。でも、子供のことは安心できる環境にいるので、すごくありがたいです。

 

 

聞き取りの印象

これだけのことを実践している企業があることに「ここが現代の北九州なのかどうか」インタビュー中に思わず疑ってしまうほどの衝撃を受けました。

教育の世界では2020年にセンター試験の廃止を肝とした大きな教育改革が行われるのですが、それを見越し一流の高校では、“アクティブ・ラーニング”と呼ばれる、討論や研究をしながら答えのない問題に取り組む学習がすでに増え、仕事に必要な力の獲得に、教育を近づける試みが行われています。

この“アクティブラーニング”が理想的な形で、北九州の一企業によってすでに行われていたことが本当に衝撃的でした。

きらめキッズの取り組みは、教育改革で伸ばすべき力とされている“学力の3要素”のうちの2つ「答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力」・「これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を伸ばすために、非常に有効で実践的なものです。

そして、ここで働く母親がその貴重さを実感し、強い意志をもって働いていることに感動しました。

この仕組みは、「子育てと女性の働き方」と「教育改革」という、日本全体で取り組む大きな課題への、企業の先進的な取り組みの一つのモデルになるでしょう。

 

*1:お顔を出す許可いただいています。

頭のいいだけの人が医師になる時代の終わり 医師として必要とされる二つのスキル

子育ては、チームで行うもの。子育てフィロソフィ代表 山本ユキコです。

これまでの教育では、ただ頭が良いというだけで偏差値が高い医学部が奨励され、その惰性で医師になることが奨励されていませんでしょうか。

これからはAI(人工知能)の進化で、「どのような医療がいいのか、どのような知識を提供できるのか」といった力やスキルは、AIの方が得意になってしまいますので、必要ではなくなっていくでしょう。では、これから医師を目指すためにはどのようなスキルが必要になるのでしょうか。


医療者による学校や地域教育の重要性を発信するNPO法人地域医療連繋団体.Needs代表・東京都立多摩総合医療センターの進谷医師は、これからは専門知識だけではなく「病気ではなくて人を診る力」と、そのための「コミュニケーション能力」という二つのスキルが医師として必要だと言っています。

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進谷医師 

病気ではなくて人を診る力

正直、病気は医者が治すものではなくて、患者さん自身の力で治すもの。医者はそれを手助けできるにすぎません。糖尿病があったとしても、医療によりその病気を抱えながら日常生活をおくるができます。病気と共存することができるようになります。そのうえで困ったことがあるときに、さらなる医療で助けることができます。

でも、現代の医療ではすべての病気を治癒させることはできないですし、医療に100%を求められても困るわけです。

高齢者のがん患者さんでは、積極的に入院治療をするよりも、早い段階で症状緩和に徹して、自宅療養をした方が長生きする場合もあります。

病院での治療が必ずしも良い結果になるとは限らず、入院という環境の変化や治療による副作用など、治療することが逆に害になる場合もあります。しかし、決して、何もしないで医療を放棄した方が良いと言いたい訳ではありません。それぞれ個人の状況、病気の状態だけでなく、その人の年齢、生活・家庭環境、考え方などを見て、オーダーメイドでその人が幸せに暮らせるような医療を提供する。

これからの臨床医には、そのような力が必要となります。

コミュニケーション能力

また、自宅に退院する際には、訪問看護や介護などの十分な地域サービスが利用できるかという地域のサポート体制も大切です。看護士・介護士・理学療法士・薬剤師などの専門職が1つのチームとして、患者が地域で生活することをサポートする体制が必要とされています。臨床医には、これらの医療チームが最大限動けるように、キャプテンのようにチームをコーディネートする力が必要です。

僕はバスケットボールをしていたので、バスケットボールに例えると、医師は監督ではなくて、キャプテンだと思っています。キャプテンは一番バスケがうまい選手がなるものではなく、チームメートからの信頼が厚く、チームをまとめられる人間がなった方がいいチームになります。医師が監督ではなくチームをまとめるキャプテンのような立場になることが、これからのチーム医療の理想の形ではないかと思います。

 

医師の面接は地域の人で

医師の資質が変わって行く中で、医学部の入試も面接重視になってきているという流れがあります。

地域住民が面接官を担うという形式の医学部受験は面白い案なのではないかと考えています。

自分たちを将来診てくれる医師としてどうかと、学生をおじいちゃん、おばあちゃんなど地域住民が面接をする。「この子は良い。お医者さんになって将来自分たちを診てもらいたい。」と思える学生を地域住民が選ぶ。経済的に厳しい学生には、面接した地域住民が少しずつ奨学金を出すようにしたらいい。「この医師は自分達が育てる」と、地域の高齢者の生きがいになるかもしれません。

初期研修の時にも「わしらの子じゃから、わしらが育てる」と、みんな協力的になるでしょうし、医師も地域への恩義を持ち、地域医療への人材確保が目指せるシステムになるかもしれません。そのような患者さんとのつながりが、これからの臨床医として必要な「病気ではなく、人を診る」力を育てることに繋がるのではないでしょうか。

 


進谷医師のインタビューを通じて、医師は、偏差値競争の最高位のトロフィーのような進路から、「医者になりたい学生が医者を目指す」当たり前の進路へ回帰が見えてきました。

もちろん学力も必要ですので、勉強も頑張らなければいけません。ただ、それだけではなく、これから医師になりたい学生にとっての資質となるのは、地域コミュニティの大事な要としての役割を担うために必要なコミュニケーション能力。

最初からその様な人間である必要はないでしょうが、そのような医師に育つことができることは必要でしょう。「地域の患者さんたちから医師として育ててもらえる人間としての魅力」がしいて言うなら、資質として必要なのかもしれません。勉強だけでなく、チームスポーツでチームワークを体得する経験や、多世代の人と交流する習い事や地域ボランティアなどの経験が、そのような力を育ててくれるのかもしれません。

 

 

意外と九州にも子育てに優しい企業がありました#1:株式会社ドーワテクノス

子育ては、チームで行うもの。子育てフィロソフィ代表 山本ユキコです。

“社員の子育ても企業の責任である”と、意識改革を。企業から子育てへの理解と知識を広げていく活動を始めています。

 

それと同時に、九州の実際の企業の現状のインタビューを九州の派遣会社九州スタッフさんと一緒に始めました。

 

九州はまだ“遅れている”?

私が「企業から、子育ての知識と価値観を発信する活動を始めたい」と相談すると、多くの人が口をそろえて「九州ではまだ無理だ。東京に行った方がいい」と言われます。

私が父親向けの子育て本を出すときに「九州の書店では、父親向けの育児書の売り上げがほかの地域にくらべて売れない」といわれたり。

九州のトップの進学校の一つでは「女は勉強せんでいいやろ」と教諭に言われる、驚くような文化が、少なくとも最近まであったり。

本当に、九州はそんなに男女共同参画、企業の子育て支援、後進地域なのでしょうか?

まずは現状を見るために、九州で子育て支援に理解のある、実際の企業の取り組みや考えをききとりを始めました。

 

結論から言うと行った先は、女性が子育てしながら働きやすい職場でした

初回はご縁のあった、北九州の商社へ伺いました。結論から言うと、女性が子育てしながら働きやすい職場でした。

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一緒にインタビューに行った九州スタッフの方が「育休の時、周りに分かってもらえるための根回しなど何をされましたか?」と質問をしたときに「え?根回し?」と、女性社員さんは質問の意図が分からなかったのです。

多分根回しなど必要ない、子育て中の女性社員にやさしい風土が根付いているのだろうと思えました。

社長が社員を大切にする人格者。その流れをくむ、古き良き中小企業。

残業などの古き企業文化は残っているのですが、改善への取り組みの意欲を見せてくれました。これから、どのようにさらに進化していくのか楽しみです。また、伺ってお話しを聞きたい、株式会社ドーワテクノスさんです。

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株式会社ドーワテクノス

www.dhowa-technos.co.jp

 

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代表取締役 小野裕和 三代目社長さんです。今回、インタビューを快諾いただきました。ありがとうございます。

 


御社の仕事について教えてください

『ものづくり業界に特化した専門商社』です。
モノづくりをしている企業の要望にお応えして、様々な電気・機械製品を納めています。ただ単に右から左に製品を納める物売りだけではなくて、お客さまの成長と業績アップのためのアイデアを提供する、提案型のコンサルティング営業を目指しています。

 

人材活用について、働く環境面で工夫されている事はありますか

当社は経営理念やクレド(社員の行動指針)に「社員幸福の追求」を明文化し、社内浸透を図っております。創業以来、「社員満足なくして顧客満足なし」の考えで経営の舵を取ってきましたが、今後ますます多様化、複雑化する雇用問題に対応するため、「社員ファースト」の考え方で「働き方改革」に取り組む必要性を強く感じています。しかし実情は、まだまだ有給消化率の低さや残業過多の文化などこれから取り組まなくてはいけない課題も山積している状況です。

 

具体的にどのような取り組みをされているのかお聞かせください

(1)改善活動
全国の事業所で10年ほど前からスタッフ社員(女性社員)を中心とした改善活動に力を入れており、業務効率アップ、コスト削減、営業サポート業務の強化などの素晴らしいアイデア(改善提案)が出され、会社利益にしっかり貢献しています。年に一度、改善活動発表会と称して、全国の事業所から代表者(ほぼ女性社員)を集め、その事業所で行った自慢の改善テーマを発表しあう会を開催していますが、年々レベルアップしている内容に感心させられます。この取組のお蔭で社内のコミュニケーションが活性化し、良い企業文化形成に繋がってきています。

(2)準社員を正社員雇用へ切り替え
一昔前は営業アシスタントという職種の方は、準社員という契約社員のような雇用形態でしたが、社内で改善活動の取り組みを始めたときと同時期に、正社員に待遇替えを行いました。当時の準社員の方々は、正社員と同じ、もしくはそれ以上に素晴らしい改善提案をどんどん出してくれましたし、上司から言われた仕事をこなすだけでなく、自ら考え、会社に貢献しようという強い意志を持っていましたので、待遇改善は当然のことだと思います。

(3)夏期特別休暇制度
前述したとおり社員の有給消化率が低いため、その対策として夏期特別休暇制度を作り、6~11月の間に3日間の休暇を取得すること(お盆休みとは別)を強制しました。上司が率先して夏期休暇を取ることを推奨することにより休みやすい職場作りを実施したところ、近年ではほぼ100%に近い取得率になりました。

 

有休の消化は何割くらいですか

確認してみて愕然としました。3パーセントです。
今後の経営課題として真摯に受け止め、経営幹部とともに早急に対策を考えたいと思います。

 

残業はどのようになっていますか

以前に比べると若い社員の方は割り切って早く帰る人も多くなってきましたが、まだまだ残業過多の風土があることは、否定できません。24時間稼働の工場がお客様にも多いので、休日や夜中に対応することもあります。きちんと代休をとれるようにすることや、効率的に仕事を処理して時短を推奨していく風土づくりが今後の課題です。

 

女性の割合と平均勤務年数はどのくらいですか

全社員164名中 40名が女性です。女性の方が勤続年数は長いです。
平均勤続年数 女性15.4年・男性12.6年

 

育休の取得は男・女ともにどのようになっていますか

法整備がはじまった1995年頃から育児・介護休業を就業規則に取り入れました。しばらくは対象者がいなかったのですが外国籍の社員が育休をまず取ってくれて、今までに5人が計6回取得しています。みんな女性です。今のところ男性社員からの希望は出ていませんが、育メンパパが出てきても対応できる会社にしたいと思います。

 

育休あけに、どのような職種に戻るのでしょうか

基本的には、元の職場に戻ります。二人目の育休職員は職種的に在宅勤務が可能でしたので、育休後は在宅で働いてもらっていました。社員全員の顔が分かる規模の会社ですので、対象者の事情を考慮しながら柔軟に対応しています。

 

育休後、時短勤務や在宅勤務などは可能ですか

時短は可能です。現在時短中の女性社員は16時に退社します。
別の社員は育休後、在宅勤務が可能な職種でしたので、在宅で働いてもらっていました。すべての職種で在宅ができるわけではないのですが、事情を考慮しできることは配慮しています。

 

転勤はどのようになっていますか

国内に19カ所の事業所があり、またロシア・タイにも現地法人がありますので、総合職の採用時には転勤は絶対条件にしています。しかし昨年入社した新入社員は0歳の子どもがいたので1年間は転勤させず地元での勤務にしました。介護や育児で家庭の事情がある社員にはできるだけ配慮します。大企業とは違い、社員皆さんやご家族の方々の顔が浮かぶところが中小企業の良さだと思っています。

 

採用において、どんな人物像が求められますか。

中小企業は大企業の下請けではなく、オリジナリティが出せなければ厳しい時代になっています。この時代を乗り切るためにトップダウンの経営ではなくて、各事業部門が自立したチームの集合体としての連邦経営を目指していますので、自らの仕事をデザインできるクリエイティブな人材を男女問わずに求めています。

 

採用において、どんなスキルが求められますか

電気や機械の知識・経験がある技術者。男女年齢の制限なく、理系的なスキル・センスを持っていて、仕事のデザインができる人を求めています。当社は技術商社ですが、営業だけでなく、SE(システムエンジニア)も大歓迎します。

 

子育て中の社員の声

Aさん(1歳7か月の子どもの母)

子どもが11ヶ月児のときに保育園に入れ、仕事復帰しました。以前、別の社員がすでに育休を取っていたので取りやすく助かりました。復帰後の業務負担についても産休に入る前から上司、同僚と打ち合わせしていたので特に問題はなかったです。子どもが3歳になるまで育児短時間勤務(時短)が可能ですので、現在は時短を利用して午後4時に帰宅しています。

時短を使うことで他の社員に迷惑をかけることの無いよう、業務を勤務内で終わらせるように心掛けています。

夫が育児にとても協力的なことや自宅近くに両親が住んでいることもあり、子どもが熱など突発的な事態も対応できるので、私は環境に恵まれていると感じています。どうしても休まなければならないときも上司、同僚の理解があるので助かっています。

子どもがいることや時短を利用していることで遠慮することはなく、とても協力的な職場で育児と両立しながら働いています。

 

聞き取りの印象

先代の社長さんが社員をよく把握し、人間的な経営を心掛けてきた風土がしっかりと根付いているところが伺えました。そして、3代目の社長さんもその良い風土をクレドなどとして明文化して継承されています。

子育て中の女性社員さんが、子育て中も気がねなく、しっかりと仕事ができる風土と仕組みが自然と回っていました。育児・介護中の無理な転勤を控えることも含めて、中小企業の家族的な経営を生かした利点と思います。

有休の問題も、まずは夏期特別休暇をとることから一歩ずつの試行錯誤がされています。残業しやすい雰囲気はあるもの、若手に押し付けることはないとのことで、そう言う意味での働きやすさもあるようです。

また、育休取得率を公開していいのか確認したところOKいただき、社長さんから「正直経営(がモットー)です」と言われたのが印象に残りました。受け入れづらいことも隠さず課題として受け入れる社長さんの雰囲気で、社内の風通しもいいのではないのかと思えました。