kotoko’s blog

映画や本の感想。「内容」にはオチまで書きます。

ザ・スイッチ

あらすじ

女子高生と連続殺人鬼の体が入れ替わっちゃってキャー大変

感想

面白かった。『ハッピーデスデイ』の監督。期待通りのものがみれた。終始下ネタが下品で笑ってしまった。冒頭の金髪の子の「あんた遅いから私のヴァギナが疲れちゃうんだもん」とか、ヒロイン(中身殺人鬼)がチンピラに絡まれた時の3つの穴があるよねーとか、色々。

面白とスプラッタと、女の子はちょっとビッチじみたほうがお洒落でかっこいい、みたいな感じと、友情は最高、みたいなやつで「あ、これのちのち中身を証明するためのやつですね」というあたりとかことごとく予想通りに展開していくんだけど、それでも楽しい。もっとやれ。

ゲイの友人が縛った女子高生(中身殺人鬼)をお母さんに見つかった時の言い訳で「これまでずっと言えなかったけど、ストレートなの!」って言ったら「それだけはない」って言われるところとか、ウヘヘヘって声が出た。「しゃぶるから!!」も面白かったね。殺人鬼(中身女子高生)がトイレでビタンビタンして遊ぶところとか。

PCのありかたとか、これくらいのラインが私は好きだなぁ。

入れ替わった後の女子高生と殺人鬼、それぞれの「中身が入れ替わっている」感を出すためのお芝居が好きだ。

女子高生の日常とバイオレンスだと私は『アナと世界の終わり』が圧倒的に好きなんだけど、これも観て良かった。

ミナリ

あらすじ

韓国からのアメリカ移民の話。50エーカーの農場を持つことを夢見るお父さんジェイコブは、家族を連れてカリフォルニアからアーカンソーに引っ越してくる。新しい家がトレーラーハウスであることに喜ぶ子供たちと、話が違うと憤るお母さんモニカ。

水を出すためにダウジングをすすめてくる業者。ただの木のダウジング棒がめちゃくちゃ高いことに「韓国人はちゃんと理屈で考える」と自分で井戸を掘る場所を決めるジェイコブ。無事に水が出て、畑を開墾する。

近所のヒヨコの雌雄判別所(?)で夫婦で働きながら、ジェイコブはがんばる。そこにトラクターを売りに現れるポール。身なりは汚く、どこか普通ではなく偏執的な感じがして怖い。

心臓の弱い息子デイヴィッドと娘アンの面倒をみながら仕事もすることに疲れたモニカのためにジェイコブはモニカの実母スーンジャを韓国から呼び寄せる。大量の香辛料と漢方薬花札をもって現れるスーンジャ。

子ども二人は祖母を「韓国臭い」などと言って嫌がるが「おばあちゃんらしくない」スーンジャに、やがてなついてゆく。スーンジャは心臓の弱いデイビッドに「strong boy」と呼びかけ、清流にミナリ(セリ)を植える。

ポールの協力もあって、ジェイコブは畑で作物を作ることに成功する。

圧倒的な孤独と貧困の中で、家族以外との交流を求めてモニカは教会に行きたがり、家族で行くことになるが、そこでも安寧を得ることはできずに終わるが、デイビッドは友人を得る。帰り道、一家は十字架を背負って歩くポールをみかける。それが彼の信仰の在り方だった。

あと少しで収穫というところで、ジェイコブの畑は井戸の水が枯れてしまう。お金のかかる公共の水道水で水やりをしてしまい、やがて水道を止められてしまう。約束していた店に納品ができなくなったりと、先行きは暗い。

一家はポールを夕食に招き、ポールは謎のお祓いの儀式をしてくれる。

祖母と寝ているデイビッドは夫婦の不穏と未来の暗さを感じ取り、夜中、死ぬことが怖いと泣く。「大丈夫」と抱きしめてくれる祖母。デイビッドが目覚めるとオネショは治っており、かわりに祖母スーンジャに異変が起きていた。

祖母と両親が病院に行く間、アンとデイビッドは二人で教会に行く。その帰りのバスで、十字架を背負って歩くポールが子どもたちに悪し様に言われていることを知る。

友人の家で、デイビッドは前の農場の持ち主が水不足による作物の不作が原因で自殺していたことを知る。

デイヴィッドの病院に行くときにも、納品先を求めて野菜の箱を持っていくジェイコブ。モニカはジェイコブに「農場をやっていってうまくいくと思えない」「あなたは家族よりも農場を優先している」と別れを宣言する。

その矢先、病院でデイビッドの症状が今の環境のおかげで好転していると告げられる。また、野菜をもっていった新しい店が野菜を仕入れてくれることになる。

うまくいきそうだ、と前向きな面持ちで帰宅する一家の目の前に黒煙があがる。役に立ちたい一心でスーンジャがゴミを燃やそうとして誤って野菜の積まれた倉庫を火事にしてしまっていた。

必死で野菜を運び出そうとするジェイコブとモニカ。しかし無情にも火はまわり、ほとんど運び出すことはできない。ふらふらとどこかに歩き出すスーンジャ。孫2人が行く手を遮り「帰ろう」という。

水の出る場所をダウジングで探す男と、それに付き添うジェイコブ&モニカ。

 

感想

つい先週みたのに、もう物語の時系列があやふやだなー。でも大体こんな内容だった。

底抜けに優しくて、ちょっと独特の匂いがして、絶対に味方のお婆ちゃん、ああ、そう、おばあちゃんって、こういう感じ。そのおばあちゃんが取り返しのつかない火事を招いてしまうことがとてもきつかった。

でもそれによって火事から必死で野菜を救出しようとするところにつながって、デイビッドの体のためにもモニカは出ていかない結論になるんだろうな。

韓国の人とキリスト教というイメージがなかったので「教会に行きたい」と言い出した時には「へえ」と思った。工場の同僚のおばさんが「このへんにいる韓国人はみんな何らかの事情があって教会に行きたくない人たちよ」というのも「そんなにみんな行くものなんだ」と驚いた。

ポールがとにかく不安で、偏執的な感じはあるし、お祓いしたり虚空に呪文を言ったりするし、でも優しくて献身的で、なかなか安心できなかった。最終的に彼のおまじないや、ダウジングに頼るようになった夫婦がオカルト寄りになっているようで衝撃的だったのだけど、それでも結果的に幸せになればそれでいいのかもしれない。

なんだか色んなことを感じる映画だった。

デイビッドに不幸になってほしくなくて、同時にアンの描写がほとんどないことが不思議で(あらすじを書いていても書くことがほぼない)、みおわってから解釈を求めてネットをさまよってしまった。

ツイッターに書き散らした当時の感想

 雄のヒヨコはいらないから燃やしている、男は役に立たなければいらないんだ、と息子に教えるシーンとか、子どもに尊敬される父親になりたいんだ、とか、そういう、韓国の家父長制の話でもあったんだろうな。おばあちゃんも「母なるもの」の上位だもんな。

 

モンスターハンター

あらすじ

海のような砂漠を駆ける一層の船。ディアブロスに襲われて一人落船する。

ミラジョボビッチご一行は砂漠で音信不通になった別隊を捜索しにきて、謎の砂嵐に巻き込まれてMH世界に移動してしまう。

ディアブロスに襲われ(重火器通用せず)て命からがら逃げたご一行は、洞窟のような場所で一息ついていると、今度は巨大蜘蛛的なやつに襲われる。ミラジョボ以外全滅。

ミラジョボは船から落ちたクンとなんやかんや拳でわかりあって同行することになる。

ディアブロスぶっ殺して、砂漠を移動して、謎の塔を目指している時に冒頭の船の人たちと合流。なぜか言葉の通じる大団長(ロン・パールマン)がいて、こっちの世界とあっちの世界があってあの雷の塔のとこで行き来できるっぽいよということを知る。

そこにいくためにはリオレウスを倒さないといかんということで、みんなで倒しに行く。倒してる途中でミラジョボこっちの世界に移動。砂漠でミラジョボ隊を捜索にきていた軍の別動隊に救助されて「やれやれ」と思ったらリオレウスもこっちに来ていて、やられまくる。

リオレウスを倒して、そもそものポータルっぽいあの塔をぶっこわすべ、ということで、あっちの世界に戻るミラジョボ。塔に行く前にリオレイアをぶっ倒すぞーえいやーEND。

感想

面白かった。なんてくだらなくて最高なんだ。何も考える必要がない。なんかもうちょっとイヤンクックとかにも出てきてほしかったというか、ジュラシックパークみたいに他のモンスターたちが暮らしてるところとか人々の生活の姿とかみたかったけど、ま、いいや。

映画をみながら「なるほど同じ隊の絆、背中を預けあう一種の家族、軍隊の力でモンスターと対峙するの、ちょっと楽しいな」とか思っていたのにミラジョボ先生だけが生き残ったのでちょっと残念だった。軍仕込みの何かでハンターに「なかなかやるな」みたいなのほしかった。

ハンターの彼がワンコ属性で可愛いとか言われていたけどその通りだった。

あ、ディアブロスから剥ぎ取りした皮にのっけて引きずって砂漠を移動するのはものすごく良かったですね。あと、水の意地悪とか。

大団長に言葉が通じたとたんに面白くなくなって「えー困ったな」とか思っていたら、ミラジョボが現実世界に戻って再びグっと面白くなって、最後はとびかかるショットで終わって、かなり好みでした。

怒ったりガッカリする人たちがいるのもわかる。展開が雑だから。でも私は満足。展開が雑なハリウッド映画を求める人には最高。

『TENET』も『ドロステのはてで僕ら』も書いてねーのか。

どちらも面白かったです。

...…。

感想を書いてない映画メモ

『新解釈・三国志

福田監督のテイストとやりたいことはわかるけど、すべってたという感触。劉備大泉洋にして、諸葛孔明をむろつよし、というぼやきコンビなのは面白いけど、そうした意味が物語にあったのかどうかよくわからないというか。「本当は劉備はこういう人だったからこそ赤壁はこうなったのだ」みたいな物語としての必然性みたいなものが欲しかった。現実にいたらオッサンこんなもんだよね、ではなくて。

『ザ・ハント』

貧乏人を金持ちがハンティングする映画。序盤が一番面白かったかな。アマプラかHuluにきたらもっかいみたい。後半の家の中のアクションとかイマイチで。世界観がわかるまでの時間(用意された街とかそのへん)が最高だったな。

『羅小黒戦記』

中国語版も日本語版もみた。めちゃんこ良い。自分にとっての正義とはなんなのか、情と正義の葛藤、少年にとっての庇護者、色んなテーマが美しくまとまっている。原作の漫画も買いました。中国語を学びたい。こころざしはある。

鬼滅の刃 無限列車編』

半笑いで行って泣いた。原作既読のテレビアニメは未視聴で行ったんだけど、わかっていても泣けるってこういうことなんだなー。アニメによる肉付けって、こういうことなんだなーという感想。いやもうこれは受けますよね、でもこれが受けすぎて鬼滅の刃オワコン扱いになるだろうなと思う。コロナの時に本当によく消費を促してくださいました有難う案件かな。オワコンだとしても、原作完結してるしいっか。次が呪術廻戦だとしたらそれは納得いかない。

『罪の声』

こーーれは、めっちゃ良かったんですよね……。犯罪に使われた音声の子どものその後の人生の話。主人公はともかくとして、見つけ出した「他の声の子」がすごくて。辛い報われない半生を逃げ隠れるようにして過ごしてきた彼の発した「あなたはどんな人生でしたか」が重くて重くて。あなたほど不幸ではありませんでした、という話をしなくてはいけない瞬間のあの言葉に詰まる感じ......。野木亜紀子脚本の素晴らしさ。

『ドロステのはてで僕ら』

面白かった!絵の中に書かれた絵の中にも絵があって......というアレがドロステというものらしいんだけど、画面の中の画面は2分前の世界で、という設定で。今でもたまに考えちゃう。お店のモニターにうつる部屋のモニターの世界は2分前の世界。さすがのヨーロッパ企画

『TENET』

こちらはとてもとても複雑な時間逆行の話。えーーーっと、装置をくぐると逆行世界に入るんだっけ......。あまりにややこしいので途中で「考えるな感じろ」に徹してしまったので理解はおぼついてない。そろそろもっかいみてもいいかもしれぬ。

『Fukushima50』

友人に誘われてみた映画。あの時の福島を舞台にして、原発の中の人たちがどれだけ命をかけて必死にがんばったか映画。面白かったんだけど、うーん。

『チャーリーズエンジェル』

驚くくらい何も覚えてない。そのための!備忘録なのに!!

『初恋』

ああー!!これは!最高の映画なのに感想を書いてないのか!!『来る』に続く近年の邦画の最高傑作のひとつだと思うのに!三池監督のバイオレンスと、タイトルの甘さのバランスが最高で、染谷将太のヘラヘラしらキチガイっぷりと、毛糸のパンツで暴力をふるいまくるベッキーが最高で、窪田正孝目当てで観に行ってニヤニヤしながら映画館から出てくることになる素晴らしい映画でした。これも早くもっかいみなくちゃ。もう配信きてたよな。

 

 

シン・エヴァンゲリオン

エヴァ、公開初日初回に観に行ったのに感想を書いていなかった。人の影響を受ける前に書かないとね、と思ってメモったふせったーとついったーをせめて貼っておこう。

 

はーーーーー。なんだろうな、この、「全てが正しきところに収まった感じ」の、終わった感と、それでいいのか感。ちゃんと終わらせて偉いな、と、そうじゃない何かを期待していた、のはざまに、ずっといる。

エンドロールが途中からbeautiful lifeになった時に泣けて来た。ああ、終わったんだ、と思って。スタッフロールは中央で光ってなくて淡々と流れていて。序を見た日のことを思い出して泣いた。台風の日で、弟と衝動的に行ったんだ。

エヴァ感想アホアホ部あの起動させるとなんか周囲が汚染から守られる「人類の言語で制御しようというのが土台無理」みたいな便利装置はどこからきたなんなんですかね……アスカがちっこい版を目から出してたから使徒の...使徒の......?

あと、心狭い部門の感想として、エヴァ作中で出てくる絵本がモヨコの絵本だったことは許せない気持ちがあります

忘れないうちにメモマリがアスカの髪の毛を切るシーンがすげえ良かった

マリがアスカを姫呼びすることは若干引く気持ちでみてるんだけど、でも、マリがいてくれれば大丈夫!きっとマリはどうにかしてくれる!って思えるのはすごい。なんでそんなにマリの強さを信じているのか、私は。でもマリは絶対にシンジくんを迎えに行ってくれるって信じて安心してみてた。
あと、あの、ものすごく思った事なんで言いますけどユイ、なんなんだよお前
ミサトには加持くんがいて、子がいたけど、それを最後に託すのはりっちゃん。アスカにはかつて加持くんがいて、今ケンスケがいるけど、心の奥のやらかい場所を分かち合ってるのはマリ。それでいい。
 

映画単体として面白かったかというと、実は話は面白くなかったように思う。とにかく説明だったから。ただ、とにかく「終わった」。どうなるんだ、どうなるんだ、と思いながら画面を見つめ続けて、「終劇」の2文字にふーーーーーーっと大きく息を吐いた、そういう体験をさせてもらった。

 

映画を見た直後はなぜかとにかくアスカとマリだったんだけど、NHKのプロフェッショナルも観た上で、映画をみてから一ヶ月が経過した今、色んな人の感想とかみていて思うのはやっぱりシンジくんのことでありエヴァンゲリオンとはなんだったのか、みたいなことで。

破からQへの14年のタイムラグをシンジくんは無理矢理乗り越えなくてはいけなかった。そしてビックリするくらい成長(あれを成長と呼ぶのかは不明)した。

私たちはその間、ヴィレや村の人たちと同様、とにかくこの現実の中で生きた。

それぞれが「現実で生活した」上での(それは当たり前に庵野監督もわかっている)シンジくんの「エヴァのいない世界」という答えは、生きながらえてしまった私たちへの生きることの肯定、何も起きない現実世界の肯定だと私は思う。(つまらん結論だな、とも思うんだけどそれはさておき)

旧劇場版のラストが客席にいるオタクたちの顔ではなく、なんらかの方法(withoutマリで可能だったとは思えないけど)でストーリーの中で表現された「現実にかえろうぜ」だったとして、果たして受け入れられたか、ここまでのアニメになったか、というと、違うと思う。

エヴァは完結した。終わったんだなぁ。

ミッドナイトスワン

あらすじ


東京でトランスジェンダーとして暮らしている、もう若くはないショーパブダンサーの凪沙。母親からネグレクトを受けているイチカ。凪沙は従妹の娘イチカを預かることになる。不愛想で口をきかないイチカと、子どもが嫌いな凪沙。2人の生活はいびつで愛情のない綱渡りな生活だが、ある学校の帰り道にイチカがバレエ教室に立ち寄ることで大きく変わる。

バレエに魅せられたイチカは、教室に通っていた少女リンの力を借り、凪沙に内緒でこっそりとバレエ教室に通いだす。バレエ教室でめきめきと力をつけていくイチカ。やがて先生はイチカを夢中で育て始める。リンの家はお金持ち。母親も昔バレエをやっており、小さいころからずっとバレエをしていたが、イチカに敵わないことをわかっていた。リンはイチカに心惹かれつつ「コンテストに参加したいなら個撮のバイトしなよ」と声をかけ、そのバイト中に問題が起きてしまい2人とも警察沙汰となる。

屋上のキス。

自分の腕を噛む自傷癖のあるイチカ。凪沙はある日イチカが腕を噛むことに気づき、抱きしめて「一人にできない」とお店に連れていく。そこでイチカのバレエをみる凪沙。美しいイチカの姿に魅了され、イチカがバレエを続けられるように頑張り始める。

コンテストが近づき、凪沙は参加費と衣装代を稼ぐために就職しようとするもできず、体を売ろうとする。が、客と揉めて警察沙汰となる。リンは足の腱を痛めてしまい、踊ることはもうできないと医者に告げられる。凪沙は長い髪を切り、男として作業員のバイトを始める。

コンテスト当日、完璧な踊りをみせるイチカ。一方リンは家族で結婚パーティーに参加している。自分に無関心な父親と、自分よりも可愛がられるペットの犬。イチカがコンテストで踊る曲にあわせリンは屋上で舞い、そのまま飛び降りる。

コンテスト中に客席にリンの姿を見つけるイチカ。踊りを止めてしまうイチカの口から漏れた小さな「お母さん」の声に、客席から実の母親が駆け寄ってイチカを抱きしめる。

タイに渡り、性転換手術を受ける凪沙。

イチカは広島に連れ帰られる。バレエも辞め、荒れた生活をするイチカの元に凪沙が迎えに来るが、凪沙がいまどうなっているかを知らない実家は大荒れに荒れ、凪沙は追い返されてしまう。「私、体が女になったからお母さんにもなれるよ」

やがてイチカは中学の卒業を迎える。卒業式の日、友人たちの誘いを断ってイチカが向かった先は、東京から稽古をつけにきてくれているバレエの先生の元だった。イチカの元に届いた一通のエアメール。それを持ってイチカは凪沙に会いに行く。

そこで待っていた凪沙は性転換手術に失敗してほぼ寝たきりの生活をおくっていた。海がみたい、と告げる凪沙。息も絶え絶えの凪沙に「病院に行こう」とイチカは訴えるが、凪沙は「踊ってみせて」と言う。砂浜で踊るイチカ。動かない凪沙。

数年後、NYのバレエコンクールの舞台に立つイチカの姿があった。

 

感想


イチカがとにかく美しく、イチカがバレエを続けられるなら何もかもがどうでもいいと思ったので、広島に先生が行ってくれていた時、本当に嬉しくて泣いてしまった。クソみたいな母親だけど、ちゃんとバレエやらせてくれたんだ。きっと先生が一生懸命説得してくれたんだ。

凪沙さんの悲しみや切なさに、私は寄り添うことができなかった。ただただイチカをつぶしたら絶対に許さない、と思いながら見ていた。一瞬手に入れたイチカという娘。その娘の持つ幻想が美しすぎて、凪沙さんの足元をすくったんだろうか。体を女にする必要なんてなかったのに。指の間をすり抜けていった”夢と幸せの象徴”だったイチカが恋しくて恋しくて、ちょっと狂ってしまったんだろうな。

 

納得いってないところもある。

リンちゃん死なないでほしかった。屋上のパーティーが始まった時からこれはやばいと思っていたけれど、死なないでほしかった。(でも飛び降りる画は美しかった)

コンクールの時、イチカを抱きしめる母親の姿に耐えられずに凪沙さんは舞台に背を向けて去ってしまったけど、最後まで見守りなさいよと頭にきてしまった。娘のハレの舞台だぞ。あそこで最後まで客席にいて、イチカを自宅に連れ帰る胆力があったらよかったのにね。

 

そしてなにより、そもそも、中1の女の子を40代のオッサンのところに預からせるな、というのがある。

 

そう、その根本の根本の設定から、なんかちょっとズレている。このズレ方は、90年代くらいの漫画に似てるな、と思う。今ほどはあらゆるリテラシーが共有されていなかった時代。LGBTの抱える切なさ悲しさみたいなものは物語になっていたけれど、今よりもおとぎ話っぽかったあの時代の物語みたいだった。バレエを軸とした二人の少女の物語もそう。人がひとり生身で「生きて、死ぬ」ということよりも美しさが優先されている。

リンの自殺をイチカはどこでどう聞いて、どう受け止めたんだろうか。リンの自殺を経たイチカが、もう一度あの砂浜で凪沙さんの死を(実際にあの場で死んではいなかったとしても、死に近づきつつある寂しい一人の女性の存在を、血を膿にまみれた彼女の存在を)振り切って一人で受け止め、旅立たなくてはいけなかったとしたら、それはどれだけ辛く苦しいことだっただろう。

沖へ沖へと歩いていくイチカをみながら、ここでイチカが死ぬことはないとわかってはいたけれども、腹が立った。リンちゃんの死も、凪沙さんの切なさ悲しさエゴ全ても、イチカの美しさのための装置であるこの映画に。

 

美しさは全てに優先しない。今の私はそう思っている。

それでもNYでコンクールの舞台に立つイチカは美しかった。踊る肉体は美しい。

 

【追記】

エンドロールの後のラストカット、私はあれは心象風景的に捉えて帰ったんだけど、あれがNYでの二人の姿という説をきいて、それならアリだな、と思った。ら。15分のロング予告にばっちり「最期の冬」って出てたのでやっぱりナシ。

 

椅子を投げるイチカは良かった。

あと、床に座って書き物をする先生の姿、かつてスタジオでよくみたなって思った。ダンサーやりがち姿勢。

 

りんちゃんが屋上のパーティーで、イチカと時を同じくして同アルレキナーダを踊りだした時には、胸が震えて泣けて泣けて仕方なかったな、そういえば。

カラー・アウト・オブ・スペース

内容

ニコラス・ケイジ一家が暮らす田舎にあるガードナー家。

家族構成は、

野暮ったくて真面目で家族を愛する夫(ネイサン)

ほどほどに美人で厳しい母親の奥さん(癌にかかっている)(テレサ

優しくてちょっとどんくさい長男(ベニー)

ゴスに傾倒していて反抗期だけど家族愛もちゃんとある長女(ラヴィニア)

可愛い可愛い眼鏡坊やの次男(ジャック)

の5人。それに、愛犬のサムとアルパカたち。

ある日家の前に隕石らしきピンクに光る物体が落下する。なんだか不気味な落下物に一家は警戒し、警察にも連絡するが、隕石は数日で消えてしまう。

だがやがて井戸の周囲に謎の花が咲き、近所の変わり者のエズラ(ネイサンの叔父)が飼っていた猫のGスポットが行方不明になり、ジャックは見えない友人と遊びだし、テレサは何かに意識を乗っ取られ料理中に自分の指を切り落とし、事態は加速度的におかしくなっていく。

一方近くのダム建設のために水質調査(波紋調査?ハイドロなんとかかんとか、謎のことを言っていた)に来ていた男は異変を察知し、水を調べ、住民たちに水を飲むなと伝える。

ある晩、消えたサムの声を追って外に出たジャックと母親は「ピンクの光」に強くさらされ、融合してしまう。二階という名の屋根裏に運び込み、懸命にケアしようとするが、何をどうすることもできない。ネイサンは銃を持ち、子どもたちを部屋から出して決着をつけようとするが、結局撃つことはできない。

ラヴィニアとベニーはここを逃げ出そうと画策する。が、納屋のアルパカたちは融合して化物と変しており、ラヴィニアの愛馬もすでに「ピンク」に乗っ取られていて言うことを聞かず、ベニーは井戸に呼び込まれて消えてしまう。ネイサンはラヴィニアを屋根裏部屋に閉じ込め「母親を満腹にさせてやれ」と告げる。

水質調査マンと保安官たちがガードナー家に辿り着くが、ネイサンは家族の幻影と共にうつろな目で過ごしている。ラヴィニアの悲鳴を聞きつけて屋根裏にあがり、なんとかラヴィニアを助けるが、ラヴィニアは「誰もここから出ることはできないのよ」と告げ、最終的にラヴィニアもネイサンも「ピンク」に呑まれて死んでしまう。

生き残った水質調査マンが、ダムを眺めながら「俺は水を飲まない」と言ってEND。

 

感想

映画をみると「愛らしい子ども、可愛い女の子、最高の犬が出てきているけど、これはこれらが助かる系か……?」と、つい思ってしまうのだけれど、容赦ない系でした。

犬が助からない系の映画です。

ニコラス・ケイジ×ラヴクラフトを見逃してはならないと、感染者数の増える中映画館に行ってみてき。面白かった。事前に映画の好みがあう友人から「そこまでじゃなかったから期待せず」という情報をもらっていてハードルがうんと下がっていたのが良かったのかもしれない。

冒頭のラヴィニアが悪魔との儀式で「母親の癌を治してください」と祈っているところからすごく良かった。それをうっかり見て儀式を台無しにしてしまう水質調査マンが心惹かれるのもよくわかる。しかも白馬を駆って帰宅するときたもんだ。愛すべき反抗期の娘。兄をアゴで使うことが当たり前で、でも家族をちゃんと愛している。

子どもたちがみんな魅力的なの、すごく良かったな。ベニーのどこか間抜けないい奴感も良かったし、ジャックはとにかく可愛かった。眼鏡の可愛いみんなのジャック。

一番面白かったのは、何かが確実におかしくなっていく中でのネイサンの見せる怒り。アルパカを納屋にもどしていないベニーへの怒り、車のエンジンがかからないことへの怒り、どうにもならない妻と息子の惨状への怒り。そりゃ車の天井をガンガンに殴るよ。わかるよ、ネイサン。

ジャックとテレサは本当にひどかった。もうはやく彼らを楽にしてあげてよ……と思わずにいられない泣き声(鳴き声?)で、たまらなかったな。ネイサン、まじで撃て。しかしここで撃てないあたりが残酷でいい。最終的に娘を餌にしようとするし。あらすじを書きながら思ったけど、テレサが指を切り落とす事態になっても、病院には行けてたから、あの時ならまだ逃げることができたんだな。

「場」から逃げることができない、というのはひとつの恐怖の典型だけど、ちゃんと怖くてすごくよかった。馬……。

 

ただ、最終的にピンクの奴らの姿が見えて、水を汚染してるってなっちゃうのが個人的にはイマイチでした。生物としての概念が異なる侵略者による、悪意なき無邪気な探求の結果であってほしかった。理解できる範疇に降りてきちゃったぞ、という気持ちでした。

原作読もう。