歌には二種類ある

孤独は孤独と引き換えに癒すことができる。
僕は世界に一人「歌」という孤独に落ちる。
影は深く泣きたいほどの寂しさが胸を締め付ける。
「夢のためじゃなく、自分のためじゃなく」
誰かの孤独と向き合うために僕は歌っている。

歌には二種類ある。
真実から目を背けさせる歌か。
真実に向き合うための歌か。
僕は器用にならなくていい。
真実を見つめ続けるシンガーになりたい。

死ぬまで続くこの道。
苦しみながら生きようと楽しみながら生きようと同じ一本道。
野に咲く花をいつくしみながら歩きたい。
照りつける太陽に影を落とし歩きたい。
それが正しいとか間違ってるじゃなく、愛したい。

前のめりになる自分を抑えて肩の力を抜く。
そこにはありふれた日常と奇跡のような日々が見える。
落ち着いて真実を描きなさい。
埃のような事実の下に潜む真実。
土を掘れ。

わがまま

僕が女の子にふられようが桜は咲く。
デビューしようが夢に敗れようが春は来る。
一喜一憂する間に季節は変わって僕はまた取り残された気分になる。
ラソンしていると急に街に冷たくされる気分になる。
それは僕がどうなろうと明日も同じようにネオンが瞬くんだろうとか。
ヘッドライトがまぶしく跳ねるんだろうとか。
こんなことを書いている僕はひねくれてるのかな?
最近昔の文学を読んだりしてる。
すると「すごいな」と思うばかり。
だってお金のために書いていないもん。
生活のためだったらもっと庶民に媚をうったようなものになるのに。
自分勝手だ。
なんて我儘なんだ。
いじらしいほど私的な文に心が共鳴して切ないよ。
僕はどうだ?
なんて媚を売った生き方をしてるんだろう。
僕の歌まで紫色のベトベトした奴に侵食されようとしている。
今の僕に歌はかけない。
このまま堕落の果てまで行ってみるか?
できるわけもないよなお前には勇気がないもの。
地下鉄に乗るたび頭をこすり付けて自分の顔を窓に映す。
無性に腹が立つのは何でだ?
このまま知らないホームに降り立って知らない街を歩こうか迷う。
みんな乗客はのっぺらぼうで孤独の殻に閉じこもっている。
僕もきっと同じなんだろう。
僕は26歳。
これからどうやって生きていくんだろうと思う。
妙に楽観的なのは直視できないから。
結婚?出世?それともミリオンヒット?
僕には夢がないんだろうか、まったくもって意欲がない。
ただ自分に歌が唄いたい。
いい子ぶって「人のため」と言うけれど、僕は結局。
なんて小心者なんだと思う。
ごめんなさい僕は自分のために歌を唄っています。
だから自分にわかる言葉で自分に言い聞かせるように唄います。
だからよく泣いてしまうのかもしれません。
歌はささやくように叫ぶのです。
「愛してる」って蟻んこに言うとき、大声で言ったら驚いてしまう。
吐息のように「愛してる」と言ったって気持はどうかな?
だからささやくように叫ぶんです。
話があっちゃこっちゃどうにもまとまらないけど今日はこんな気分です。
我儘になりなさいすべて脱ぎ捨てて。

この街をスプーンでえぐりとって

何だかわくわくが胸の内を駆けずり回っている。
それもこれも久々の路上ライブによるもの。
決して本格的にではなかったけど一年?いやもっと長い間押さえ込まれていた感情が溢れた。
岡山の倉敷と言う場所に行った。
夜の美観地区へ足を運ぶ。
普通は昼間行く場所の観光スポットだがそれはご愛嬌。
提灯に照らされた古びた町並みが鼻に懐かしい香りを運んだ。
スタッフとの解散後、僕は一人倉敷駅前へ。
いかがわしいネオンを横目に耳をくすぐる何かの方へ足を進めた。
そうそこには路上ライブ。
二組の歌い手がギターを抱え歌っていた。
一瞬ドキッ!
なんと女の子が松山千春さんの「恋」を熱唱してるではないか。
いったん通り過ぎる僕。
ここには恥ずかしさと後ろめたさが交差していたのだ。
「僕はもうプロだ」
つまらないプライド、カッコ付けだけのつっぱり。
僕はごまかしながらも自動販売機の前に腰掛ける。
彼女にボソリ「オリジナルって歌うの?」
彼女のオリジナルは力があった。
どこにも存在しない彼女のメロディーそして言葉。
僕はここで初めて知ったのだ。
「カバーは所詮カバー、オリジナルってスゲー!」
はたから見るからこそわかることもあるんだな。
上手い下手を通り越した「表現」って世界がそこには存在する。
「あ〜俺もオリジナル歌わなきゃ・・」
あたりまえのことを当たり前のように理解。
ピカーン!
僕の頭にランプ点灯、足はホテルに直行。
ルームキーをせわしなく差し込み背負ったのはマイギター。
「うおー俺も歌うぞー」
高鳴る鼓動が足を速める。
さっきまでの女の子は帰っちまったらしく、その位置に座り込む。
いや、座り込むまでに若干のためらいあり。
いやメチャクチャのためらいあり!
なんてったって僕を知ってる人はゼロ!
しょうがなく胸のドキドキに体を預けてギターケースを広げる。
チューニング、目線が気になる、誰も見ちゃいないのに。
ピックを探す、あせる、誰も待っちゃいないのに。
この孤独はなんだ?緊張は何だ?この不安感は何だ?
闇の中腰をすえ向かいの自動販売機にむけ声を発した。
思ったように出ない。
情けないことに僕は羞恥心を隠せなかった。
なんと僕は無力な、なんと僕はおごり高ぶっていたんだろう。
マイクもなけりゃ歌えねーのか?
お客さんは最初っからいるもんだと思ってたか?
当たり前にそんな歌は風にも乗らず誰の胸にも届かない。
「ぐぉぉぉー!!!」
マグマのような激しい何かが口から吐き出しそうだった。
悔しさか、それとももう一人の自分が身を乗り出してきたのか。
路上は過酷だ。
真剣勝負しなきゃ何も意味がない。
僕はケツの下にムズムズと怒りがこみ上げてくるのを感じた。
なんて俺は最低なんだ!
一曲、二曲と進むほど何か吹っ切れるようになる。
相変わらず自動販売機だけが僕の観客。
ニ、三十分だろうか、喉がイカれるのを感じて退散。
ホテルで上手く眠れなかった。
それは興奮。
確実に体に感じた次なる、いや人生をかけて挑むべき相手を見つけた興奮。
地べたから見た景色は違うんだ。
ステージから見える景色とは比べ物にならない現実のカオス。
喜怒哀楽じゃ表現できないような凄まじい臭気と混沌。
下水道の中を流れる快楽や幸福があり、笑顔の裏の卑屈や悲しみが肌を刺すのだ。
「この街この空気のスプーン一杯でもいい、えぐりとって歌にしなくちゃならない」
僕は思うんです。
爪先立ちの歌はもうお腹いっぱいだよ。
電信柱にゲロしそうなほど偽りの幸福はいらない。
真実を歌いたいじゃないか。
路上に響き渡る真実の歌をもう一度、いや初めてかもしれない僕は歌いたい。
街を見ろ、こんなに沢山の笑い声の裏に「死んでしまいたい」と涙を浮かべてる。
はしゃぐ女の子の声、目をつぶれば悲鳴に聞こえてくるのはなぜだろう?
真実の歌を。

空は青

リンゴを食う。
とにかくこの赤い果実に齧りつく。
一人暮らしになって一番重宝しているのは他でもないこれ。
「お!ギターのお兄ちゃん」
近所には活気のある商店街が朝から動いている。
その中でも八百屋のオヤジが僕は好きだ。
寒い日は「風邪ひかないでね」
暖かい日は「いい天気だね」
当たり前だけどこの会話が僕を笑顔にする。
レジでピっとやって「ありがとうございました」
なんだかお店って最近そんなイメージだ。
何でも買える夢の国もいいけれど、人情がある商店街もいい。
こないだリンゴを2つ八百屋で買った。
「これなんか美味しいよ」
指先で実を弾きながら食感のいいものを選んでくれた。
ギターを背負っている僕にいつもの口癖「今日仕事?」
はにかみながら答える僕はギターケースの脇ポケットにリンゴを入れた。
「あーリンゴも幸せだなぁ」
八百屋のオヤジのその一言が僕の空を青くする。
毎日はアップサイドダウン、気がめいる時もある。
けど何気ない言葉や優しさがその日一日を元気にするときがある。
あれいらい僕の中で密かなマイブームなのだ。
「ギターの修理おわりましたよ」
ギター屋さんに立ち寄り、新品のように磨き上げられたマイギター眺める。
「うわーギターもしあわせだなぁ」
青い空、白い雲がゆっくりと流れた。

色は深く

真夜中に目が覚めた。
冷凍庫にある肉まんを温めミッドナイトランチ。
大阪の八代さんのファンの方にプレゼントされたものだ。
まだぬくい布団に足を突っ込んでコタツ代わり。
ほおばりながら最近を振り返ってみた。
デビューからもう一年が過ぎてすっかり季節は冬。
それもすぐ春は目の前。
例えるなら雪の下の花。
誰にも知られていないけれど確実に歌は育っている。
春になると凛と咲き誇る名もなき花。
つねずね路上ライブの頃を思い出す。
人と人が出会う不思議の魅力にとりつかれた。
手と手を握るその温もりに溢れ来る感謝の気持。
見上げた空にはいつだって星が瞬いていた。
みんな目の前は暗闇なんだな。
寂しくて一人布団にもぐりこんで泣くんだな。
僕もそうだもん。
けど思うよ、だから寄り添うんだろって。
だから優しくなれるんだろって。
今でも心はいっしょだ、あの時のまま。
誰かに冗談でこんなこと言われたのを思い出す。
「慎ちゃんは初心に戻ってばっかりでいつ進むんだろ?笑」
もちろんジョークだったけど、その通りだよな。
けどなんだか違うんだ、戻ってきてばっかりだけど確実に色は濃くなってる。
進んだ距離じゃないんだ、それはキャンパスに染み込む水彩絵の具のよう。
初心と言う布地に染まる深い色。
僕は歌っていくんだろうな、ずっとずっと。
自分の歌好き魂には驚かされてばっかり。
だって未だにどんどん好きになってるんだもん。
「才能は本当にそれが好きかどうか」
上手い下手を越えた歌がうたいたいな。
競い合うような心じゃなくそっとそっと。
差し出す心でいつもいたい。
肉まんも食べ終わってお腹も落ち着いた。
また眠気がそろりそろり近づいてきた。
今日はまたライブだ、それも久々の対バン形式。
燃える。
あぁ早く歌いたいよ、ニヤニヤしちゃう。
「ありがとう」
そんな気持でいつも生きていたい。

光のトンネル

朝焼けの中を列車は走る。
流れる雲を追い抜いて高速で過ぎていく広島の景色。
立ち昇る太陽が山の輪郭を赤く染め今日という日の始まりを燃やしている。
今日、僕は山梨へ行く。
昨日の広島でのコンサートを終え、つかの間の打ち上げの後ベッドに潜り込んだ。
熱いシャワー、湯の出てくる穴を見つめて立ちつくす。
心地よい疲れが皮膚の下を支配している。
朝5時起床。
ギターを背負った一人の男がまだ薄暗い街のショーウインドーに映った。
「どこへ行くんだろう?」
不安ではなく鼓動が乱舞する。
旅なんて言えたもんじゃないけれど待つ人の元へ歌を届ける感動。
なぜ僕はプロの歌い手を目指したか今ははっきり見える。
太陽が街を照らす。
こんなとき胸に米粒をこぼしながら弁当を食う自分の横顔が頼もしい。
線路は続く永遠に。
目を細めても突き刺さる太陽の破片達よ僕をもっと燃やしてくれ。
チリチリと焼けるハートが両手を広げ泣き叫ぶ。
命の衝動
赤子の時はじめて見開く眼のように視界を埋め尽くす無限の孤独を照らせ。

ビルの森

雨に包まれた有楽町を眺めている。
グレイの空と窓に映る自分の顔。
「ずいぶん雰囲気かわるもんだな」
自分の髪を指で弾く。
一週間後に控える写真撮影。
少し大人っぽいイメージと栗色から黒っぽく染めた。
急に映画が見たくなって途中下車する。
傘はない。
小走りで駆け込む映画館。
ヒソヒソと話しをする者。
寄り添い合うカップル。
紙コップのコーラをストローで吸うおじさん。
待合ロビーは静かな図書館のようで時間の流れがそこだけ遅かった。
気だるさが僕を包む。
街は傘の群れビルの影。
どこに向かうのかみんな濡れた靴を気にしてる。
小さい頃に傘を盗まれて泣いて帰った日があったっけ。
ビショビショになった服を母親は乾かしてくれたっけ。
イジメられちゃいなかったけど仲間外れにならぬよう気をつけた。
子どもの頃僕にとっちゃ学校は世界のすべてだった。
そこで無視に合えば生きていけない。
そこでイジメられれば未来はない。
防御の術を学ぶ。
イジメる側にならぬようイジメられる側にならぬよう。
醜いバランスを取りながらランドセルを背負った悪魔がいた。
そうやってごまかしながら社会に出た。
不意に舌打ちをしたい気分になる。
雨は降る。
身を守るハウトゥー本がコンビニではよく売れる。
テレビは今日も笑いながら「イジメられるぞ」と脅迫する。
みんな大人の顔した子どもだ。
誰があなたをイジメる?
誰をあなたはイジメる?
前回の映画が終わったらしい、扉から数人が出てくる。
ボンヤリとこんな日は孤独が心に擦り寄ってきて囁く。
「ソバニイテアゲヨウカ?」
ブザーとともに映画が始まる。
暗闇が僕の視界を奪った。
「結局俺は何を怖がってるんだ?」
エンドロールを眺め劇場を出る。
それぞれの場所に散っていく人。
まだ雨は降っている。
上を見上げれば街灯に照らされた雨が額を濡らす。
いったい何メートル上の空から落ちてくるのだろう?
ビルの森に降り注ぐ雫は行き場をなくしただただ寂しい。
引き裂くような電車の音に紛れて街のすすり泣く声を聞いた気がした。