大停電の夜
大停電の夜、私は歩き出した。
街灯もスマホもテレビも大好きなラジオまでもが役目を失い、上を見上げるとそこには夜空というより宇宙が広がっている。
「さようなら」という言葉は、私達の心の中でいよいよ現実味を帯び始め、冬色に変化する。
どうしてか、停電になりみんな生き生きとしているように見える。まるで何かから解放されたように。
みんな何に囚われているんだろう。
会社なのか、学校なのか、部活なのか、夢なのか、自分なのか。もしくはそれらすべてか。
私達は普段、周りの明るさに目が眩んで大切なモノを見落としているのではないだろうか。
それは暗い夜が続くことで初めて輪郭が見えるモノなのではないだろうか。
いや、そんなこと考えても分からないしどうにもならない。
ただ一つ言えるのは、こんな夜じゃないと考えないことがあったし、出会わない人もいたという事だ。
そんな風に想い馳せていると。街中に電気が戻っていた事に気が付かなかった。
光が走り、音が流れ、電車が響き、SNSが燃え上がる。
このまま世界が終わればよかったのに。
きっと今夜考えた事などすぐに忘れてしまうのだろう。
そして、私はベッドに潜り込んだ。
「はぁ、明日も学校か…」