daaishiのブログ

人生について鬱な時にしか詩的な表現が沸き上がってこない、底の浅い人間の詩集です

魚には仕事があった。
陸地に水路を掘る仕事だ。
その仕事は選ばれた者にしか与えられない。

魚は産まれたときから水路に住んでいる。
自分や仲間のために住処を作る、その仕事に誇りを持っていた。

魚はまだ経験が浅い。
水路に隣接する陸地や、水気の多い沼地にしか水路を掘ったことがなかった。

ある日、大きな陸地に水路を掘る仕事を任された。
魚はやる気に満ち満ちていた。
これまで仕事をこなしてきた自信もあった。

基本は分かっていた。
水路は目的地まで大まかに往路を掘り、目的地から戻る復路で綺麗に整備をしていく。

魚は一生懸命に仕事をした。
往路では余りある元気で大きく跳ねた。大きな陸地でも通用する。魚は嬉しくなった。雨がよく降る土地らしく、水気もあった。

大きく複雑な水路。往路は掘って掘って、また掘った。
複雑な水路はより複雑になっていった。

予定より大きくなってしまったが、なんとか往路は掘り終えた。
復路に差し掛かったときに気が付いた。ウロコはくすみ泥で汚れ、潤んでいた瞳は乾燥しかけている。時々雨は降るが、辺りは土や泥だ。

魚はもともと、水路に住んでいた。
 

復路は繊細な工程だ。
魚は神経を尖らせた。一つ一つ、着実にこなしていく。

予想以上に大きくなった水路は、復路のこれから先を考えると気が遠くなるほどだった。しばらく雨は降っていない。

水路の小道を一つ壊してしまった。仕方がない、疲れていたんだ。

小さなミスが重なる。
次第に魚は、次にやるべきことが分からなくなってきた。
思考は靄がかかったようにハッキリとせず、まとまらない。

魚は、早く故郷の水路に帰りたいと思うようになった。
ヒレは擦り切れて使い物にならない。

足取りがおぼつかない。体は熱に浮かされたように言うことを聞かない。
魚は復路を諦めた。自らが掘った水路をひたすらに戻る。水路に水はなく、故郷は遠い。


魚は何も考えられなくなってきた。
頭はショートした回路のようにうまく動作しない。
目は霞み、体は見えない粘膜に覆われているように重く、その思考には濃い霧がかかっていた。


遠くで、微かに水の流れる音がする。




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「今日からここが君たちの仕事場だ。ここは殆どできあがっていて、今いる水路からも近い。まずはここで各自水路掘りの経験を積んでほしい。」

輝く目をした若い魚たちは大きな声で返事をした。