Luke Randomwalker のブログ

経済と投資のこと

旧NISA枠の資産を売る → 非課税期間終了すぐでも多額の税金がかかる場合も?

5年の非課税期間が過ぎると課税口座に移行

2023年までのNISA制度(旧NISAと呼ぶことにします)では、非課税期間が5年までです。たとえば2019年のNISA枠(最大で簿価120万円)で買い付けた上場株式等は、2023年中に売却しない限り、2023年末に強制的に課税口座に払出されることになります。

だとしても、払出し時点の価格で取得したことになるのだから、すぐ売れば譲渡益はゼロなので課税されないのでは?

そう思っていた時期が私にもありました…

同じ銘柄を課税口座で既に保有していると合算される!

払出されるのと同じ上場株式等を課税口座で保有していないならばたしかに、すぐに売れば譲渡益は(数日ぶんの値動きはあるかもしれませんがほぼ)ゼロです。しかし、同じ銘柄を課税口座で既に保有していると、合算して平均取得単価を計算することになります。


具体的な例で考えましょう。NISAで保有している時価200万円の株式100株が非課税期間終了を迎えて課税口座に移行するとします。このとき、取得価額は200万円です。これをすぐに200万円で売却できたとするならば譲渡益はゼロで、税金もかかりません。


ところが、同じ株式を既に課税口座で、さらに100株保有しているとしましょう(このぶんの時価は同じく200万円)。この100株の取得の際には手数料含めて100万円を支払ったとしましょう。そうすると、NISA保有分と合わせて200株を、300万円で取得したことになり、合算した平均取得単価は300万/200=1.5万円となります。


もし、このうち100株をすぐに200万円で売却したとすると、譲渡益50万円が発生することになり、これに対して税がかかることになります。

すぐ売却したいなら、課税口座の資産と合算される前に!

今回の制度変更にあたっては、2019年のNISA枠の分をロールオーバーしてNISA口座にとどめるということはできません。2024年のNISA枠を使って資産を買い付けるにあたって、他に多額の現金を持っている場合は別ですが、「2019年のNISA枠の非課税期間が終了するので、それを使おう」と考えている方も多いのではないでしょうか。その場合、課税口座に既に同じ銘柄の上場株式等を保有していて含み益が出ている場合、課税口座に合算された後では、すぐ売ったとしても上述の通り多額の税金がかかる恐れがあります。

計算してみましょう
NISA枠から課税口座に移る資産 株数(口数)  n_1 一株あたり時価  X 取得単価  X
課税口座の同じ銘柄 株数(口数)  n_2 一株あたり時価  X 取得単価  x

合算後の平均取得単価 x'
 x' = (n_1 X + n_2 x)/(n_1 + n_2)

税率を tとして、合算後に価格 X n株( 0 < n \leq n_1 + n_2)を売却すると、税額は
 tn(X - x') = t n n_2 (X - x)/(n_1 + n_2)

となります。

一方で、非課税期間中に売却するならば税金はかかりませんから、課税口座で含み益が出ている場合( X > x'の場合)売る株数が n_1以下なら非課税期間中に(合算前に)売ったほうが明らかに得です。 n_1 以上の株数を売る場合も、NISA口座のぶんについては合算されてしまう前に売ったほうが得になります(下図)。

売却株数と課税対象額

2024年からの新NISA: 他の口座の資産を売ってNISA口座で買った方が得か考えてみた

2024年から新NISAで投資できる最大金額は、つみたて・成長投資枠合わせると一人あたり年間360万、合計1,800万。手持ちの現預金でこの枠を使い切れるなら悩む必要はない。しかしそうでなくて、すでに特定口座や一般口座など、売却すると売却益に課税される口座(以下、課税口座と呼ぶ)の資産はあるが、それを売却しない限りはNISA枠が余るという場合も考えられる。このようなとき、課税口座の資産を取り崩してまでNISAの枠を利用するほうが得なのだろうか。場合によって損得が変わるとすると、どういう条件で判断すればよいか。

ネット上では、具体的な数値例でシミュレーションしてどちらが良いといった解説をよく見かけるが、じゃあ数値が変わったらどうなのか、どういう条件ならどっちが得なのかよくわからないので、特定の数値にとらわれず一般化して考えてみた。

  • 今(2024年以降とする)、NISA制度の買い付け枠に余裕があるが、NISA枠で買い付けるためには課税口座の資産を売却しなければいけないとする。
  • 売却を考えている資産の時価 X、その購入価格を xとおく (X >0,  x>0)
  • 今から最終売却までの税引き前リターンを rとおく (r \geq -1)

つまり、税を考えないとすると:

購入時 最終売却時
資産価格  x  X  (1+r)X
仮定
  • 課税口座での売却時に、値上がり益にかかる税率は tで、最終売却まで変わらないとする (1>t>0)
  • 2つの選択肢の差は売却時の課税のみとする。他の違い(税以外の費用、運用途中での配当の課税の差、受け渡し期間が生じることによるリターンの差など)は無いものとし、課税口座でもNISAでも同等の税引き前リターン rが得られるとする。

(1) 今後も課税口座で持ち続けた場合


最終売却時の税引き前価格は (1+r)X.

(1+r)X \leq xの場合: 課税されないので(1+r)Xが得られる.
(1+r)X > x の場合: 値上がり益 (1+r)X - xtを乗じた税が差し引かれるので, 得られる額は:

 (1+r)X - t( (1+r)X - x) ※ ③と比較しやすい形
 = (1+r)(1-t)X + tx ※ ④と比較しやすい形

(2) 今いったん売却して得た額をNISA口座で同等の商品に投資した場合

 X \leq x の場合:  Xが課税されずそのままNISA口座に投資できるため, 最終的に得られる額は  (1+r)X.
 X > x の場合: 値上がり益 X-xtを乗じた税をXから差し引き, それをNISA口座で投資して(1+r)倍になるので, 得られる額は:

 (1+r)(X - t(X - x))
 = (1+r)X - (1+r)t(X-x) ※ ①と比較しやすい形
 = (1+r)(1-t)X + (1+r)tx
 = (1+r)(1-t)X + tx + rtx ※ ②と比較しやすい形

(1)と(2)の大小比較

① かつ ③ のケース: どちらでも同じ.
① かつ ④ のケース: ①の方が (1+r)t(X-x)だけ多い. (差は非負. また  (1+r)X \leq x < Xより r < 0).
② かつ ③ のケース: ③の方が t((1+r)X-x)だけ多い. (差は正.)
② かつ ④ のケース: ④の方が rtxだけ多い. (差の符号はrの符号による.)

結論

(1)の選択が結果的に得になるのは:

  • ① かつ ④ (今は含み益が出ていて, 今後のリターンがマイナスで, 最終的に売る際には元本以下まで下がる場合)
  • ② かつ ④ で、rが負の場合(今は含み益が出ていて, 今後のリターンがマイナスだが, 最終的に売る際に元本よりは多い場合)

のいずれかなので, 結局: (1)が結果的に得 \Leftrightarrow X > x かつ  r < 0 (つまり、今は含み益が出ていて今後のリターンがマイナスな場合)

補注

  • 「結果的に」と書いたのは、リスク資産のリターンrは最終売却時までわからないから。たとえば株式の場合、10年、20年と長い期間を取れるならrが負になる確率は小さいとまでは事前に言えるが、実際にどうかは事後までわからない。
  • rが負にならなければ(2)の方が得になる。繰り返しになるがリスク資産の場合、損する確率ゼロとは言えないので賭けの要素は残る。ただ、うまくやれば(適切に分散した対象に投資する手数料の低い金融商品を長期保有するなら)(2)に賭けるのはかなり分のいい賭けだと思う。
  • あるいは、rがまず負にならないようなリスクの低い資産ならまず確実に(2)の方が得になる。(だからといってせっかくの非課税口座でそういう期待リターンの低い資産に投資するのが得策とは言えないが。)
  • ネット上の解説で「含み益があまり大きくなければ(2)が良い」のような言い方を見かけたが、この検討結果を見ると、問題になるのは含み益やリターンの符号だけであって、含み益の絶対値を何か(たとえばリターンの額)と大小比較して有利不利が逆転するということはないように思う。たとえば「②かつ④のケース」でXを所与とすると、含み益が小さい(xが大きい)ほど(2)の有利が大きくなるのはたしかだが、逆に含み益がいくら大きくても(1)と(2)の有利不利が逆転することはない。
  • 今回の試算がどこまで役立つかは、仮定がどこまで現実的かに依存する。特に下線部が問題だが、途中で配当が出て課税されるような場合は(2)の選択がますます有利になる。つまり、そういう商品で(1)の選択をすると、実際には今回の仮定と違って(2)よりもrが小さくなると考えられる。個人的には、(1)か(2)か実際に自分が選択するならまず間違いなく(2)を選ぶことになるだろうと思っている。
  • 差がどのくらいのオーダーか、簡単な数値例で見てみると、② かつ ④ のケースで、xが100万円、rが20%とすると約4万円、rが100%なら約20万円の差が出ることになる(tは20.315%)。