しんせつかいせつ英文法

英文法をていねいに解説いたします。

第1章 5文型 ― Lesson 5: 句と節(2)―前置詞句

前回までで、品詞、句、節という考え方が理解できていれば、これでやっと5文型のレッスンに入る準備が整ったことになるんですが、その前に最後にもう1つ、「前置詞句」について説明しておきたいと思います。

 

前置詞句

in や on や at、to や from や with や by …… などを前置詞というわけですが、その前置詞で始まるひと固まりの語句を前置詞句といいます。

 

たとえば、at は前置詞ですが、

  at the station (駅で)

 は前置詞句です。

 

同様に、in は前置詞ですが、

  in the morning (午前中に)

は前置詞句です。

 

それだけのことなんですが、このような前置詞句は、文中では「形容詞句」もしくは「副詞句」の働きをします。

したがって、文の構造を考えていく際には、前置詞句は、形容詞句か副詞句のどちらかとしてとらえていく必要があります。

 

具体例で見てみましょう。

 

 

前置詞句=形容詞句

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       (彼は箱の中のリンゴを食べた)

 

in the box という固まり(前置詞句)は、前の apples という名詞を修飾しています。

ここで、Lesson 3 の形容詞の話を思い出してください。

 

riki-english.hatenablog.com

 

名詞を飾るのは形容詞の働きでしたよね。

上の文の in the box も、apples という名詞を飾っているのだから、働きは形容詞と同じです。

そして、2語以上の固まりですから、語ではなくて「句」です。

従って、in the box という前置詞句は、形容詞句であると言えるわけです。

 

(補足:形容詞は、delicious apples のように修飾する名詞の前に置きますが、形容詞句は、apples in the box のように後置するのが原則です。)

 


前置詞句=副詞句

前置詞句はまた、副詞句としても働きます。

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               (私は駅で彼に会った)

 

at the station という固まり(前置詞句)は、「駅で → 会った」という風に、met(会った)という動詞を修飾しています。

ここでまた Lesson 3 の副詞の話を思い出してください。

 

riki-english.hatenablog.com

 

名詞以外を飾るのは副詞の働き、でしたよね。

上の文の at the station という固まりも、met という動詞を飾っているのだから、働きは副詞と同じです。

(「いつ」「どこで」「どのように」を表すものはすべて副詞です)

そして、やっぱり2語以上の固まりですから、「句」です。

従ってこの at the station という前置詞句は、文中の働きとしては副詞句であると言えるわけです。

 


まとめ

前置詞句の働きは、形容詞句もしくは副詞句である。

このことをよく理解し、覚えておいてください。

 

さあ、これでOKです!

準備運動は終わりました。

次回からいよいよ本格的に5文型のレッスンに入っていきたいと思います。

第1章 5文型 ― Lesson 4: 句と節(1)

さて、まだ文型の話には入れないんです。

その前に、次は「句」と「節」という考え方を理解してください。

 

(「句」と「節」を理解するには、名詞、動詞、形容詞、副詞といった品詞の基本的な働きを理解している必要があるので、そのあたりがまだあいまいな人は、Lesson 23 に戻ってやり直してください。)

 

さあ、ではまず「句」からはじめましょう。

 

 

英単語1つ1つは、「語」とか「単語」とか言ったりします。

その「語」が2つ以上の固まりになったものを「句」と言います。

 

例えば、

camera

は「(単)語」ですけれども、

an expensive camera (高価なカメラ)

という3語の固まりは、「句」です。

 

さらに言うと、an expensive camera は、

 冠詞 + 形容詞 + 名詞

という組み合わせの固まりですが、全体としては「1つの高価なカメラ」というモノを表しているわけですから、固まりとして1つの名詞の働きをすることになります。

そこでこれを、「名詞句」と呼びます。

 

同様に、

I play baseball.(私は野球をします

の play は動詞ですが、

I can play baseball.(私は野球ができます

の can play は、動詞として働く2語の固まりですから、「動詞句」と言えます。

 

さらに、

He speaks slowly.(彼はゆっくり話します)

の slowly は副詞ですが、

He speaks very slowly.(彼はとてもゆっくり話します)

の very slowly は、副詞として働く2語の固まりですから、「副詞句」です。

 

いいでしょうか。

 

繰り返して整理します。

 

・2語以上の単語の固まりを「句」と言います。

・その固まりが、全体として名詞の働きをすれば「名詞句」。

・その固まりが、全体として形容詞の働きをすれば「形容詞句」。

・以下、同様に、動詞句副詞句があります。

 

具体例で確認してみてください。

 

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 (私の兄は間もなく新しい携帯を買うでしょう)

 

名詞句の文中での働きは名詞と同じ。

形容詞句の文中での働きは形容詞と同じです。

このことが文型を考える上では大変重要なので、よく覚えておいてください。

 

 

 

次に「節」です。

語が2つ以上の固まりになると「句」になることを見てきたわけですが、その固まりの中に、主語と動詞の関係、つまり、「~が……する」「~は……である」といった関係が含まれている場合は、「句」ではなく「節」と呼びます。

 

例えば次の3文を比べてみてください。

 

a)  I know him. (私は彼を知っています)

b)  I know his sister.  (私は彼の姉を知っています)

c)  I know that she goes to a famous school.

 (私は彼女が有名校に通っているということを知っています)

 

この3つの文はどれも、

 I know ✕✕✕. (私は ✕✕✕ を知っています)

という同じ構造を持つ文です。

 

そして、その「知っている」内容はそれぞれ、

a) の場合は、him「彼」という(代)名詞

b) の場合は、his sister「彼の姉」という名詞句

c) の場合は、that she goes to a famous school 「彼女が有名校に通っているということ」という大きな固まり。

です。

 

この c) の大きな固まりの中には、she goes という、主語+動詞の関係が含まれていますから、このような固まりを、「語」でも「句」でもなく、「節」と呼ぶわけです。

そして、文全体の中では、 a) の him や、b) の his sister と同じように、「✕✕✕を知っている」の「✕✕✕」として名詞の働きをしているわけですから、さらにこれを名詞節と呼ぶことになります。

 

同じことですが、副詞節もやってみましょう。

 

a)  I saw him today. (私は今日彼に会った)

b)  I saw him the day before yesterday.  (私は一昨日彼に会った)

c)  I saw him when I was shopping. (私は買い物している時に彼に会った)

 

a) の today は、動詞 saw を修飾しますから副詞、

b) の the day before yesterday は、同じ働きで2語以上の固まりですから副詞句、

c) の when I was shopping は、同じ働きをする2語以上の固まりで、なおかつその中に I was という、主語+動詞の関係を含みますから、副詞節です。

 

他に、同じリクツで、形容詞の働きをする節 = 形容詞節もありますが、これは少し話がややこしくなるのでいったんおいておきます。

 

さて、これで8つの品詞と、句・節という考え方が理解できたでしょうか。

ここまでに出てきたキーワードをいかにまとめますので、それぞれの言葉が表すものをちゃんとイメージできるか確認してみてください。

 

品詞

 (代)名詞

 動詞

 形容詞

 副詞

 前置詞

 接続詞

 間投詞

 

 名詞句

 動詞句

 形容詞句

 副詞句

 

 名詞節

 副詞節

(形容詞節)

 

 

第1章 5文型 ― Lesson 3: 品詞の基礎の基礎(2)

はい、では前回のつづき。

形容詞と副詞の違いです。

 

形容詞と副詞が紛らわしいのは、この両方ともが「他の語を飾る品詞」だからでしょう。

「きれいな → 花」

とか、

「上手に → 描く」

といったふうに、形容詞と副詞は、他の語を修飾します。

(逆に言うと、他の語を飾る働きをする品詞は、形容詞と副詞のみです。)

そうすると、何をどんなふうに修飾すると形容詞なのか、はたまた副詞なのか、という話になってくるわけで、そこをちゃんとやっておかないと区別ができないことになります。

形容詞と副詞の区別ができないと、5文型はちゃんと理解できません。

 

それでは順に見てみましょう。

 

 

形容詞

形容詞の基本的な働きは、「名詞を修飾する」、です。

置かれる位置は、通常、名詞の直前です。

 

具体的に見てみます。

 

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 これは高価なカメラです。

(高価な → カメラ)

 

an expensive camera(高価なカメラ)の expensive(高価な)は、camera(カメラ)という名詞の前に置かれ、その camera という名詞を修飾しているのがわかると思います。

このように、名詞を飾るのが形容詞の主な役割です。

 

繰り返します。

形容詞が修飾するのは名詞だけです。

それ以外のものは飾らないでください。

それが形容詞を理解する最重要ポイントです。

 

ところが、形容詞には、もう1つの使い方があります。

例えばさっきの文は、少し作り変えますと、

 

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 このカメラは高価です。

 ( カメラ = 高価 )

 

とすることができます。

この場合の形容詞 expensive は、名詞に直接くっついているわけではないので、さっきとは使い方が違います。

しかし、結局はこの expensive も、主語である名詞 camera のことを説明していることに違いはありません。

このように、形容詞には、名詞の前に直接くっつかずに、間接的に主語や目的語(← 後に説明します)になっている名詞を説明する使い方もあります。

 

名詞にくっついて飾る方を限定用法、くっつかずに説明する方を叙述用法と言いますが、そういう細かい話はまたいずれ。

とりあえず、形容詞は名詞を飾ったり説明したりする、ということをしっかり理解してください。

 

 

副詞

 では、副詞の働きとは何でしょうか。

 

副詞が飾るのは、形容詞、動詞、他の副詞、文全体、などです。

そう言われるとややこしいでしょうけれども、要は、名詞以外を修飾するのは全部副詞と考えればOKです。

 

もう一度整理します。

他の語を飾る働きを持っているのは、形容詞と副詞だけ。

そして、それぞれは……

 

 形容詞 = 名詞を修飾

 副詞 = 名詞以外を修飾

 

これだけです。

 

副詞の働きは、「名詞以外を飾る」ということが全てで、他の用法はありません。

名詞以外を飾るものは何でも副詞。

それが副詞の全てです。

 

具体的な例をあげておきますので、イメージをつかんでください。

 

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このカメラはとても高価だ。

( very は expensive という形容詞を飾る副詞)

 

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彼はゆっくり話す。

( slowly は speaks という動詞を飾る副詞)

 

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彼はあまりにもゆっくり話す。→ 彼は話すのが遅すぎる。

( too は slowly という副詞を飾る副詞)

 

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幸いにも雨は降っていなかった。

( Fortunately は、it was not rainy という文全体を飾る副詞)

 

このように、名詞以外のものを修飾していれば、すべて副詞です。

 

さらにもっと端的に言ってしまうならば、「いつ」「どこで」「どのように」などの内容を表すのはすべて副詞、とも言えます。

I went to the zoo yesterday.

私は昨日動物園へ行った。(いつ)

 

I met him there.

そこで彼に会った。(どこで)

 

He can play baseball well.

彼は上手に野球ができる。(どのように)

たいへん大雑把ですが、差し当たってはこような理解でもかまいません。

 

 

さて、これで8つの品詞について、だいたい理解できたでしょうか。

特に、(代)名詞、動詞、形容詞、副詞、前置詞の概念は重要です。

 

それをふまえた上で、次は、句や節という考え方に移りたいと思います。

第1章 5文型 ― Lesson 2: 品詞の基礎の基礎(1)

5文型理解のために、品詞の基礎の基礎から始めます。

 

英単語は通常、

 ・名詞

 ・代名詞

 ・動詞

 ・形容詞

 ・副詞

 ・前置詞

 ・接続詞

 ・間投詞

の8品詞に分類されます。

 

が、これら1つ1つについてじっくり考えるのはずーっと後にしまして、ここではまず5文型のレッスンに向けた、必要最低限の理解だけを目標とします。

気楽に考えてください。

それぞれの品詞がどういうものなのか、ものすごーく大雑把にわかってもらえればとりあえず大丈夫。

 

ではいきましょう。

 

名詞

モノやコトにつけられた名前です。

apple(リンゴ)や、desk(机)、water(水)など、目に見える「モノ」もあれば、war(戦争)や、peace(平和)、love(愛)のように形のないものもあります。

はい、以上。

とりあえずそれだけにしておきましょう。

 

代名詞

名詞の代わりをします。

John のことを「he(彼)」と言ったり、the camera を指して「 it(それ)」と言ったりする。

つまり、I(私)や you(あなた)、he(彼)、she(彼女)、it(それ)、they(彼ら、それら)……などが代名詞です。

名詞と代名詞の文中での働きは同じで、いちいち分けて考えるのは煩雑なので、ひとまずは「名詞」と言えば「代名詞」も含んでいると考えておいてください。

 

動詞

ヒトやモノの、動作(~する)、状態・性質(~である)を表す語です。

eat(食べる)とか、sing(歌う)とか、know(知っている)などです。

「be動詞( is, am, are ……)」と、それ以外の「一般動詞」に分けられます。

はい、とりあえずは以上で。

 

前置詞

in とか at とか on とか、to とか from とか、before とか after とか、for とか with とか……です。

名詞の前に置かれ、時間や空間の位置関係などを表します。

 

 

接続詞

語と語、文と文などを接続します。

and や but, or などの他、when(~の時)や、because(~なので)、if(もしも~)なども接続詞です。

 

 

間投詞

Oh! とか、Oops! 等、喜びや悲しみ、怒りなどの感情を表す語のことです。

文法の勉強には、ほとんど何も関係ないですね。

 

 

……さて、ここで小休止。

すごく大雑把なんですけど、ここまでどうでしょう?

 

ここまでの品詞の区別がわからない、できないという人は、あまりいません。

名詞と動詞の概念の違いがわからない、とか、名詞と前置詞の判別ができない、とかいったような質問は受けたことがありません。

 

でも、あと2つ残っています。

形容詞副詞

問題はこの2つです。

 

形容詞と副詞の違いがわからない、という人は、たぶんすごくたくさんいます。

中には、この2品詞の違いがわかっていないということ自体に自分で気がついていない人もかなりいるはずです。

そして、形容詞と副詞の見分けがつかないということは、英文を解釈する上で、後々致命的な弱点になります。

 

5文型のレッスンに入る前に品詞の話から始めたのも、そこに主な理由があります。

 

では、次回はその形容詞と副詞の違いを確認したいと思います。

 

第1章 5文型 ― Lesson 1: はじめに

さて、英文法のレッスンは、まず5文型からです。

 

5文型、すごく大事です。

5文型の重要性は、いくら強調してもしすぎではありません。

 

SVO だとか SVOC だとか言われただけでもうやる気がなくなる……っていう人、多いと思いますが、どうか我慢してください。

ていねいにやりますから。

 

文型がわかれば、あとが格段に楽になります。

受動態の理解が曖昧なのも、分詞や不定詞がいまいちすっきりしないのも、関係詞がよくわからないのも、文型をきちんとやっていないからだと私は思ってます。

 

ある意味、文型は英語のハートそのものです。

だって、文の組み立て方なんだから。

それをまずやらなくてどうしますか。

 

最近は、文型、不人気です。

高校でも文型に割く時間がどんどん減っています。

もうやってない学校もあるかもしれません。

だから余計にわからなくなるんでしょう。

でも、私に言わせてもらえるなら、文型は何よりも重要で、文型がわかるようになるまでは、半年でも1年でもやり続けるべきだと思っています。

 

英語のセンテンスは、原則的に、すべて5種の文型に分類することが出来ます。

たった5つです。

日本語よりもはるかに明快に、英語のあらゆるセンテンスは、5種類のうちのいずれかに分類できるんです。原則的には。

 

3種類でいい、という意見もあるし、6つとか7つとかに分けるべきだという学者さんもいますが、私は5つが好きです。

5つでいきましょう。

 

5文型でつまづく人はたくさんいます。

文型がわからないのは、たぶん「句」や「節」がわからないからです。

句や節がわからないのは、品詞の理解があいまいな場合がほとんどです。

 

そういうわけで、まずは品詞をざっと確認することから始めたいと思います。

 

面倒がらずに、ていねいに、じっくり行きましょう。

急がばまわれ、です。

 

どんな英文を見ても、5種類のうちのいずれかに頭のなかで瞬時に分類できる……

そうなったらもうこっちのもんですよ。

 

文型は基礎の基礎です。

基礎は何よりも大事。

 

では、次回から順を追ってていねいに進めたいと思います。

 

( Lesson 2 につづく)

雑記:I am a boy. ではいけませんか?

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その昔、中学校に入ったばかりの1年生は、

 I am a boy.

とか、

 This is a pen.

とかいったような、いささかシュールなセンテンスから英語の勉強を始めたものでした。

今はもうこのような英文が授業で扱われることはまずありません。

 

確かに、

"What's this?" ー "This is a pen.”

「これは何ですか?」「これはペンです」

 などという対話が現実場面で発生する確率は、一生に一度あるかないかでしょう。

そういう意味で、"I am a boy." や "This is a pen." というのは極めて「非現実的」なセンテンスではあります。

そして、そうした理由で、昨今の授業ではこのような例文が使われることはなくなりました。

 

しかし、こうした例文を使った文法レッスンを、「現実的な使用場面がない」という理由で否定する人たちは、かつてはあえてこのようなくだらない例文が何十年も使われ続けていたことの意味をよく理解していないように思います。

当たり前ですが、昔の英語教師は、現実場面で "I am a boy." と言えるようにするためにこの例文を使っていたわけではありません。

それは昔の先生をナメすぎです。

 

言うまでもなく、I am a boy. と習うのは、現実に "I am a boy." と発話するためではなく、She is a girl. や He is a student.  They are teachers.   That is a bank. へと応用、発展させるための土台です。

そしてそれができたら、今度は I'm not a boy. と否定文を作ってみたり、 Are you a boy?  と疑問文にしてみたりする。

 

I am a boy. には、中学1年生がまず最初に学ぶべき文法のルールがたくさん含まれています。

主語は me や my ではなく、I であること。

be動詞が is や are ではなく am であること。

可算名詞 boy の前には冠詞 a が必要であること。

語順は I a boy am. ではダメで、絶対に I am a boy. でなくてはならないこと……。

これらは、中学1年生にとっては決して簡単なことではありません。

 

そうした最も重要な英語の基礎を理解するための、最もシンプルな例文が I am a boy. です。

 

かつての英語教育は、こうした人称詞の格変化や be動詞の使い分けといった「文法」からスタートしていました。

そのためのレッスンとして、

I am a boy.

She is a girl.

He is a student.

We are friends.

They are teachers.

This is a pen.

Those are cameras.

…………

といった「味気のない」「非現実的な」例文を反復練習することで、身体化させていく。

そのためには、用いる例文が「実用的」であるかどうかよりも、そこに潜んでいるルールが、可能な限り鮮明に見えやすいことが重要です。

 

そうした意味で、I am a boy. は決してそれほど悪くない。

せめて I'm a junior high school student. にすればその方が遥かに実用的ですが、それだと生徒はおそらく junior high school student のスペルに気を取られすぎます。

 

語彙の習得は別の流れでやればいいのであって、まずは、

I am ✕.

Are you ?

He isn't .

というパターンを、文法構造を含めて理解し、身体化することに主眼を置く。

その入口が、I am a boy. であり、This is a pen. です。

 

しかし、今の考え方はそうではありません。

 

 例えばうちの娘の教科書をのぞいてみると、I am ✕✕✕. 型のセンテンスは、レッスン3まで出てきません。(最初に習うのは、I like ✕✕✕. です。)

そして、初めて出会う I am ✕✕✕. 型のセンテンスとしては、I'm Jack Smith. の後に、I'm from the U.S. が続きます。

 

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なるほど、"I'm from the U.S." は、I'm a boy. よりもはるかに「現実的な」センテンスでしょう。

(でも、よく考えてみると、中学生が現実に"Im from the U.S." という発話に接したり、自ら "I'm from Japan." と言ったりする機会だって、それほどあるとは思えないですよね。て言うか、そもそも日本人は、学校で習った英語の表現を現実の生活の中で使ってみるという機会がまずありません。それが、例えば東南アジア諸国などとの大きな違いでしょう。)

 

問題は、I'm from the U.S. というセンテンスのもつ意味の構造が、日本人には相当にわかりにくいということです。

 

つまり、いわゆる「直訳」では、"I'm from the U.S.” は「私はアメリカ出身です」にはなってくれません。

中1が最初に習うにはちょっと厄介なセンテンスであるように思います。

I'm from the U.S. が「私はアメリカ出身です」とか「アメリカから来ました」とか訳されるのは何故か。それを中1にわかりやすく教えるのは非常に難しいのではないかと心配になります。

 

事実、うちの娘は from の意味を、まず「~出身」と覚えていました。

教科書にもそう書いてあります。

実に不幸な from との出会いであると言わざるを得ません。

I walked from the station to the park. 

って言われても、「駅出身???」ってなってしまうわけですから。

 

もっと言えば、彼女は "I'm from ✕✕✕." を「私は✕✕✕出身です」と覚えていました。

主語「I」とは何か、be動詞は文中でどのように働くか、といったことを習う前に、です。

 

中学生用のある検定教科書に、

"For here or to go?" ー "To go."

「こちらでお召し上がりですか、お持ち帰りですか」「持って帰ります」 

 なんていうのが出たりして、少し議論になったことがあるそうです。

もちろん、これはさすがにやりすぎではないか、という議論です。

 

"For here or to go?” とか、"Long time no see.(久しぶり)" なんていうのは、確かに使用価値は高いかもしれませんが、そこから何も発展しない、つまり、一切応用の効かない表現です。

私は古い時代の英語教育を受けましたので、このような表現は大学生になるまで知りませんでしたし、実際、学生時代に初めてアメリカのハンバーガー屋に入った時は、"For here or to go?" に戸惑いました。

しかし、かと言ってそんな程度のことのために中学生のうちから備えておく必要はないでしょうし、私も「なんで学校で教えてくれなかったんだ!」などとはちっとも思いませんでした(笑)。

ハンバーガー屋で一度経験すれば済む話です。

 

翻って、I am a boy. は、そのまま使う機会は一生無いでしょうけれども、その文法構造の論理が理解できていれば、いくらでも応用が効きます。

The result of this imprivement is that the receiver can rapidly acquire a satellite and compute its position in environments where conventional, stand-alone GPS receivers cannot.

「この改善結果は受信機が迅速に衛星を捕捉して従来のスタンドアロンGPS受信機では不可能な環境内でその位置を計算できることである」

というような文だって、基本は I am a boy. の土台の上に成り立っています。

 

中学1年生が最初にである英文って、

I am a boy. 

ではいけませんかね?

雑記: もう学校で文法は教えてもらえない。

英語の授業がさっぱりわからない、と中1の娘が言います。

それ以外の教科は授業をちゃんと聞いていればよくわかる。でも、英語だけはどれだけ真剣に聞いててもわからない。

上の息子のときは、どの教科も全面的にわからないようだったので逆に油断してたんですが(笑)、娘はそうではなく、英語だけがわからなくて、家でも英語の授業の文句ばっかり言っています。

 

いまどきの中学校の英語はいったいどういうことになっているのか、あらためて娘に詳しい授業の様子を聞いてみると、なるほど、娘が文句を言うのももっともで、話を聞いているうちにだんだん腹が立ってきました。

 

新しいレッスンに入るとき、生徒は予習として新しい単語の意味調べを課されます。

単語の意味は教科書の巻末にリスト化されているので、それをノートに写すだけです。

授業では、それをもとに、まずは何度も反復して単語の発音練習をします。先生はフラッシュカードを使ったりゲーム形式にしたりもして、生徒が覚えるまで何度も声に出して発音させるそうですが、単語の意味や用例を詳しく説明したりすることは一切ありません。

娘のノートを見ると、

~ years old  ⇒ 「~歳である」

などと書いてあり、そのように覚えていましたが、year という単語の意味を聞いてみると「わからない」と言っていました。

単語の練習が終わったら次は本文ですが、全訳をすることはなく、生徒がわかりにくそうなフレーズなどを部分的に板書で説明したら、後はひたすら"Repeat after me!" で、音読を繰り返すのみなのだそうです。

それで終わり。

完全な「習うより慣れろ」式です。

 

中1ですから、もちろんどんどん新しい文法が出てきますが、文法の説明は板書もなく、口頭のみ。「否定文のときは am や is の後ろに not を置きます」等とさらっと言うだけだそうです。

3人称単数現在の -s ももう出てきてますが、系統立った説明は一度も受けていないようでした。

(娘は私が人称と単数・複数の概念を説明してやると、ものの5分で「なんだ、そういうことだったのか」とすぐ理解しました)

 

全訳はしてもらえないので、本文中にも一人では解釈できない部分がたくさん残ります。

「Tell me about it. ってどういう意味?」と娘が聞くので、「それのどこがわからないの?」と聞き返すと、「about って、”約~” っていう意味じゃないの?」と言っていました。

そもそも、命令文自体も習っていないようです。

 

そういう授業でみんなどうやって理解しているのかと聞くと、娘はずばり「塾」、と即答しました。

自分もかろうじてどうにかなっているのは、塾で文法を教えてもらっているからだ、と娘は言います。

「塾に行ってない子は何もわからないと思う」、とも。

 

5~6年前、中3になる知人の息子が英語が全くできないというので、一度見てやってもらえないかと頼まれたことがあります。

その子も、うちに来ると開口一番、「学校ではリクツを全く教えてくれない。リクツを教えてほしい」と言っていました。

「リクツ」というのはもちろん、文法のことです。

塾に通っていなければ、彼のようになるのが必然なのかもしれません。

 

高校で教えていても、異変には随分前から気付いていました。

もう何年も前から、高校に入ってきた時点での生徒の文法力がとにかく低くなっています。

進学校に入学してくる優秀な生徒でも、基本的な人称や数や時制の間違いが極めて多い。

学習初期におけるそうした基礎の不徹底はダメージが深く、簡単には修正できません。

大学受験間近になって高3生の英作文を添削し始めると、その基本的なミスの多さに愕然とすることがよくあります。

 

何よりも顕著なのは、昼休みや放課後に質問に来る生徒がほとんどいなくなったことです。

数学ほどではありませんが、かつての高校生は頻繁にわからないところを質問しに来ました。

高1~2年の間は、関係副詞がわからない、仮定法がわからない……等、そのほとんどが文法に関する質問です。

近年は、そうした質問がほとんどなくなってしまいました。

聞かなくてもわかっているから、ではもちろんありません。

英語を文法で理解していくという発想そのものが極めて希薄になっているからです。

英語は反復練習で、なんとなく、雰囲気で読む。

どうやら中学校の段階でそういった学習姿勢が刷り込まれてしまっているようなんです。

 

従来の、いわゆる「文法訳読」式の教授法が問題視されるようになってずいぶん経ちます。

日本人は文法や訳読ばっかりやってるからちっとも話せないんだ……といった言い分はもう耳にタコができるほど繰り返されてきました。

今や、英語教育のトレンドは、完全に「文法訳読」を害悪のように見なすようになっていて、その流れはおそらく今後もどんどん加速します。

 

もちろん、文法を教えるな、和訳するな、とまで言われているわけではありません。

しかし、そうした指導は「必要最小限に」とどめ、「実践的な言語活動」の時間を多く確保するように、とは言われています。

 

中学校は義務教育ですし、どうやら想像以上に、そうした文科省の指導に忠実な授業が実践されているようです。

 

教員が一方的に講義する従来型の授業はダメな授業で、生徒が自ら考えて主体的に活動する時間が多いほど良い授業なわけです。

もちろん、まだ単語も文法もほんの少ししか知らない中学1年生が「自ら考えて」できる活動など限られていますから、実際には「一方的な講義」を避けようとすると、音読でもさせるしかないのでしょう。

それで「Repeat after me!」地獄になっているのだと想像します。

 

公立高校の入試に対応するくらいでしたら、まあそれでも何とかなっているのかもしれません。

どのみち、教育熱心な家庭はみんな塾に通わせてますし。

「中学校の授業では何もわからなかった。塾で全部勉強した」みたいなことを言う生徒は昔からいます。

有名私立などを狙う生徒は最初から公立中学校での授業など当てにしてないし、都会だったらそもそも優秀な生徒は中学校の段階でもう私立に入っちゃっているでしょう。

なんか、意図的に格差社会を構築しようとしているのではないかという疑念すら持ってしまいますが。

 

もちろん、先生によって授業の仕方はある程度さまざまでしょうし、もっと言えば、自治体単位でも違うような気がします。

ベネッセがやっているスタディ・サポートというテストを、高校に入ってすぐに多くの学校が受験するのですが、その点数を見ると、毎年、出身市町村単位で違いがあるように感じます。

きちんと緻密に分析したわけではなく、あくまでも印象でしかありませんが、数学や国語にはそうした傾向はあまりないようなので、英語に関してはもしかすると市町村教育委員会の方針のようなものも影響しているのかもしれません。

 

ともあれ、今の中高生には、英語を文法で、すなわち論理で理解するという発想そのものがなくなっています。

その結果、実際の英語力が上がっているのであればそれで正解でしょうけれども、事実はそうではありません。

 

道端で外国人に道を尋ねられた時に案内ができる、とか、海外旅行でスムーズに税関審査を通過したり買い物したりできる、とかいった程度の英語力をゴールに設定するのであれば、今の英語教育はバッチリかもしれません。

「リクツ」抜きの反復練習で十分でしょう。

実際、いまどきの中高生は、そういうのは上手ですし、ごく基本的な会話表現のリスニング力は、昔に比べると向上しています。

 

しかし、最終的な目標が実用レベルであるというのならば、つまり、いわゆる「グローバルな」人材を育成するつもりで、そのための英語力を育てようというのなら、文法は必須です。

英語の基礎は、単語と文法です。

個人的には、中高6年間はそれだけやっててもいいんじゃないかとすら思っています。

 

その文法を、もう学校ではまともに教えてもらえなくなるかもしれません。

少なくとも、娘の通う中学校ではもう教えてもらえないみたいです。

 

高校でも、文法に割ける時間はどんどん減っています。

数年後の指導要領の改定は、これまでよりももっと抜本的な改定になりそうですから、さらに事態は深刻になるのではないかと思っています。

 

だから、文法を、イチから親切に、丁寧に解説する場を作りたい。

そういうつもりでこのブログを立ち上げました。

普段の授業できっちりイチから全部説明したいのに、どうしても時間が取れなくて説明できない。

そういう部分をしっかり書いてみたいと思っています。

 

高校英語が専門なので、中学校1年生くらいの、ごく基本的なこと(be動詞の使い分けとか、3単現の s とか、否定文や疑問文の作り方とか……)はだいたい理解している、というくらいの前提でスタートさせてもらいます。

想定しているのは、現役高校生や受験生はもちろん、もう一度英語を基礎からちゃんとやり直したい大学生や社会人、または若い指導者の方々にも参考にしてもらえるのではと思ってます。

 

忙しいので更新はゆっくりになると思いますが、どうぞご贔屓に。