本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第8回 ベストヒットおとの日♪・40 ミドリムシのミドリムさん

 ミドリムシのミドリムさんのおとの日のお歌は24首ありましたので3首ご紹介します。

 

 

咲くだけで足りずにいずれ舞うことを強いるわたしの花は重たい/ミドリムシのミドリム

 

2022年2月28日・お題「舞」

 

 すごく詩的な抽象的なお歌だと思います。

 

 人によっていろいろな読みになりそうですが、私はこのお歌の「花」は愛の比喩なのではないかと思いました。

 

 咲くだけで足りずというのは、愛するだけでは足りないということで、舞うことを強いるというのは、主体と呼吸を合わせて踊るかのように、主体と同じくらいに相手にも主体への愛を求めてしまうのかなと思います。

 

 自分の愛は重たいとちゃんと自覚しながらも、主体はそれを美しい想いだと思っているからこそ、綺麗な花に例えたのではないでしょうか。それがいつか散ってしまうことも覚悟しているのだろうとも思いました。

 

 

新章を始めるために必要な暗転として真夜中はある/ミドリムシのミドリム

 

2022年7月11日・お題「真夜中」

 

 一日をひとつの演劇のように見立てて詠まれているのがとても素敵です。

 

 「暗転」は、演劇で幕をおろさずに舞台を暗くしている間に場面を換えることですが、人生は死ぬまで幕がおりることはないと考えた時、真夜中を暗転に例えたのは秀逸だと思います。

 

 真夜中に暗転して新章である朝は訪れるし、誰もがそれぞれの舞台に立つ主人公なのだなあと気付かされたお歌でした。

 

 

手鏡を額縁としてよくできた今日のわたしの鑑賞をする/ミドリムシのミドリム

 

2022年11月30日・お題「縁」

 

 ここまで自分の容姿に絶対的な自信を持っている主体はすごく清々しいです。

 

 毎日お化粧するたびに、主体は手鏡の中の自分の美しさに満足して、人物画を鑑賞するかのようにじっと自分の顔を見つめるのでしょう。手鏡を額縁に例えたのがすごく独特でいいなあと思います。

 

 女性としてとても羨ましくなるお歌でした。

 

  

第8回 ベストヒットおとの日♪・39 晴架さん 

 晴架さんのおとの日のお歌は78首ありましたので選ぶのが大変だったんですが3首ご紹介します。

 

配線を間違えたかな伝わったはずの気持ちに反応がない/晴架

 

2021年5月10日・お題「自由詠」

 

 発想はユニークなんですがとてもせつない片想いのお歌です。

 

 よく短歌では人間以外のものを擬人化することがありますが、このお歌ではそれと逆で人間である主体、もしくはその片想いの相手を機械化しています。

 

 主体は相手に告白をしたんだけれど反応がないので、配線を間違えたかなと思い込んで現実逃避しようとしているのではないでしょうか。もし、自分や相手が人間ではなくロボットだとしたら最初から心というものはなく告白に対する反応もプログラミングされているものだと割り切ることができます。配線の間違いなら次は正しい配線にすればいいのです。

 

 でも、おそらく、相手から告白に対する誠実な返事さえあれば、主体は自分たちを機械化してまで自分の心を守ろうとする必要はなかったのではないかと思います。

 

 一見明るいお歌のようで、実は救いのない恋だと思います。しかも、一度は伝わったはずと信じていたのですから、より一層せつないです。

 

 

刃にも光にもなるひとだから壊れない距離のままそばにいる/晴架

 

2023年1月13日・お題「にも」

 

 このひとは、主体の恋人なのか、友人なのか、家族なのかは明らかにされていませんが、主体にとってとても大切なかけがえのないひとなのだろうなと思います。光はともかく、刃にもなるひとだとわかっていてそばにいると決意しているので、壊れない距離を保とうと気をつけているとはいえ、相当な覚悟が必要だろうと思うからです。

 

 相手の長所だけではなくて短所もちゃんと受け入れて、適度な距離で付き合える主体はすごく大人だなと思いました。

 

 また、刃物も光るものですし、光りも強烈だと暑すぎたりまぶしすぎたりするので、長所と短所は表裏一体だなと考えさせられました。

 

 

不本意に淋しそうだと思われて一人称ではっきり喋る/晴架

 

2023年5月24日・お題「一人」

 

 お題の「一人」を最大限に活かしたお歌だと思います。

 

 不本意に淋しそうだと思われてしまったということは、その時、主体は一人で行動しているところを誰か知人に見られて、勝手に淋しそうだと決めつけられたのではないでしょうか。

 

 けれど、一人でいるのが淋しい人もいれば、気楽だったり、心地よいと思う人もいて、主体も決して淋しくはないのだと思います。

 

 はっきりと喋る一人称に、主体がしっかりと自分がどうしたいのか、嫌なことは嫌だと伝えることのできる性格であることが表れているように感じられ、とても気持ちよかったです。

 

 一人といえばなんとなく心細そうなイメージなのが、一人称というと自分の意志をきちんと持っているイメージになるのも面白いと思いました。

 

第8回 ベストヒットおとの日♪・38 牧角うらさん

 牧角うらさんのおとの日のお歌は、元の筆名の蒔どきさん名義で2首、牧角うらさん名義で24首の計26首ありましたので3首ご紹介します。

 

この部屋の靴下ぜんぶ裏返す世界の真理をずらしたい夜/牧角うら

 

2022年3月26日・お題「裏」

 

 すごく魅力的なお歌だと思います。

 

 まず、上の句で主体は部屋の靴下をぜんぶ裏返すというちょっと狂気じみているのに可愛い謎の行動をしているんですが、何故こんなことをしているんだろう?と気になって仕方ありません。

 

 そして、下の句で、それは世界の真理をずらしたい夜の出来事だと明かされています。すごく壮大な動機なのですが、世界の真理をずらしたいと思ってしまうくらいの絶対に受け入れられない大変なことが主体の身に起こったのだろうか?と想像させます。

 

 けれど、世界の真理をずらす方法なんてそう簡単に見つかるわけなく、真理に対する精一杯の抵抗が靴下をぜんぶ裏返すことだったのではないでしょうか。

 

 初句で「この部屋」と表現されていますが誰の部屋なのかはわかりません。この部屋を主体自身の部屋だと思って読んでも面白いのですが、主体以外の恋人や友人や家族の部屋だったとしたら、それぞれに物語がありそうだなと思いました。

 

 

でもこれはストッキングの伝線で流星じゃない願ったりしない/牧角うら

 

2022年5月31日・お題「願」

 

 すごく見立ての独特な面白いお歌だと思います。言われてみれば、写真に撮ると線をシュッと描いている流星は、ストッキングの伝線と似ています。

 

 主体には今、流星に願った方がいいんじゃないかと思うくらいのピンチが訪れているのではないでしょうか。だから、ストッキングも伝線してしまっているのでしょう。一瞬伝線が流星っぽく見えたくらいには主体も願い事をしたくなる状況なんだけれど、ふと我に返って「でもこれは」と冷静に否定から入る初句も効いています。

 

 今は流星が見えないのだから、なんとか自分自身の力で解決しなければという主体の強い意志も感じられます。

 

 伝線したストッキングを穿いたまましっかり自分の足で歩き出す凛とした女性の姿が目に浮かぶようです。

 

 

慣れてないくせに馬鹿とか糞野郎みたいな語彙で怒ってくれる/牧角うら

 

2023年1月16日・お題「野郎」

 

 すごく心温まるお歌です。

 

 今、主体のために怒ってくれている人の性別や関係性はわからないんですけれども、この人は、普段は決して口にすることのない「馬鹿」とか「糞野郎」という下品な表現で、主体のことを傷つけた相手に対して激怒していることが想像できます。

 

 常日頃から毒舌で他人の悪口を言っているような人だったら短歌にはならないと思うんですけど、この人が激しく怒ってくれていることがとても珍しいからこそ主体も感動したのではないでしょうか。

 

 自分のことを思って真剣に怒ってくれる人のいることが、どれだけ主体の心を励ましたことでしょう。とても素敵な関係だと思いました。

 

 

第8回 ベストヒットおとの日♪・37 T・G・ヤンデルセンさん

 T・G・ヤンデルセンさんのおとの日のお歌は23首ありましたので3首ご紹介します。

 

 

初めての人にも甘えて腹見せる我が家の愛犬名前はセコム/T・G・ヤンデルセン

 

2022年1月11日・お題「犬」

 

 とても微笑ましい可愛らしいお歌です。

 

 犬好きにとっては、初めてでも甘えてお腹を見せてくれるような人懐っこい犬は大歓迎なのですが、番犬になってくれることも期待していた飼い主さんとしては複雑な気持ちになることでしょう。

 

 特にその願いの込められている結句の「セコム」という名前が効いていて、思わず大笑いしてしまいます。セコムちゃんに会ってみたくなりましたのでセコムしておいてください。

 

 

生まれ変わるなら花がいい好きな人に嗅がれてみたい踏まれてもいい/T・G・ヤンデルセン

 

2022年5月14日・お題「好」

 

 まず、このお歌は定型ではなく、6音と5音で句またがりして、さらに6音で字余りの上の句と7音と7音の下の句でできていて、声に出して読むとすっと読むのが難しいのですが、それがとてもプラスに働いているように感じます。

 

 生まれ変わりたいものが花だということなので一見美しいお歌なのですが、その動機である三句から結句にかけて読むとかなりアブノーマルな願望を主体が抱いていることがわかります。ちょっと、谷崎潤一郎の小説の一節を読んだかのような感じです。

 

 この主体の歪な愛情表現には定型の整ったお歌にするよりも、破調でひっかかりの多いこのお歌の方が断然いい!と思いました。

 

 

まっしろい小さな箱を撫で祖母はおかえりなさいといつもの声で/T・G・ヤンデルセン

 

2022年11月22日・お題「夫婦」

 

 昨年のいい夫婦の日に出された「夫婦」というお題で詠まれたこのお歌は、とても静かなんだけれど、究極の夫婦愛だなと思いました。

 

 主体のお祖父様のお葬式の日の出来事が詠まれているのだと思います。まっしろい小さな箱は骨壺で、思わず撫でたくなるくらいにお祖母様はお祖父様のことを愛おしく思っていらっしゃるのでしょう。

 

 おかえりなさいの声を「いつもの声で」と強調した結句もすごくいいなと思います。おそらく、いつもの声を取り戻すまでに、お祖母様はたくさん泣かれたのだろうなと想像が広がります。

 

 理想の夫婦の姿がここにありました。

 

 

 

 

 

 

第8回 ベストヒットおとの日♪・36 みよおぶさん

 かなり間が空いてしまい申し訳ありません。大変お待たせいたしました!

 

 36人目のみよおぶさんのおとの日のお歌は29首ありましたので3首ご紹介します。

 

二人から三人になる日の空は高くて深くて広がっていた/みよおぶ

 

2022年2月2日・お題「二」

 

 きっと、主体と愛する人との二人暮らしだったおうちに、新しい命が誕生した日の空の描写をしたお歌なのだろうと思います。

 

 物理的には空の高さや広さが変わることはないし、空に深さがあるという考え方も独特でおもしろいなと思うのですが、これから赤ちゃんが生まれてくるというこれ以上ないくらいの喜びで空を見上げたら、主体にとっては今まで見たことのないくらいに高くて深くて広い空に見えたのでしょう。

 

 このお歌の空の描写は事実ではないかもしれないけれど、確かな真実なのだと思います。

 

 感情を表現する直接的な言葉は使われていないのに、とても大きな幸せが伝わってきて好きです。

 

 

飽きられる前に桜は散るでしょう、だから私もそろそろ行くね/みよおぶ

 

2022年3月28日・お題「桜」

 

 思わずドキッとさせられる上の句なのですが、どこまでも優しい雰囲気なのは、このお歌が愛する人に話しかけるように詠まれているからだと思います。

 

 大学生の頃、地元に帰省していた時に、近所のおばあちゃんに

「女はね、追いかける恋をしてはいけないよ。男に追いかけられるような恋をしなさい。そうすれば、ばあちゃんみたいに幸せな結婚ができるよ。」

と言われたことがあったのですが、このお歌の主体の姿とぴったり重なるような、強くて潔い女性が幸せになれるのだなと思っていました。

 

 おそらく、この主体にはもう、そろそろ自分は恋人に飽きられるかもしれないという予感があって、けれど、自分から心が離れそうな人を無理に引き留めるようなこともしたくなくて、恋人の元を去ろうと決めたのだと思います。心変わりしそうな相手を責めることもなく、桜が散る時のように最後まで美しくありたいのではないでしょうか。

 

 恋人と別れる時には男性に花の名前を教えなさいと言ったのは川端康成だったかと思いますが、別れ際にこんなに綺麗な言葉を残されてしまったら、きっと相手は桜の散る季節が来るたびに主体のことを思い出さずにはいられないだろうなと思いました。

 

 

教室の手紙はぼくを迂回して明るい場所だけ通りすぎてく/みよおぶ

 

2022年11月10日・お題「自由詠」

 

 本当は授業中に自分にだけ手紙が回ってこない悲しみを詠んでいるはずのお歌なのに、何故かとてもまぶしく見えて、読後感の爽やかなお歌でした。

 

 それはたぶん、主体が自分には手紙を回してくれない同級生たちに対する恨み言を言うことなく、彼らの席を「明るい場所」と表現することで、明るさに対する憧れも感じられるからなのではないかと思います。主体が明るい場所を見つめている目を通して、読者にもまぶしさが伝わってくるのだろうなと思いました。

 

 なんとなく主体は、同級生と比べて明るくないわけではなく、大人の考え方のできる少年なのではないだろうか?とも想像できます。

 

 淋しさや悲しさは美しいものだと改めて感じることのできるお歌でした。

 

 

 

 

 

第7回 ベストヒットおとの日♪・35 哲々さん

 哲々さんのおとの日のお歌は97首ありましたので、3首引かせていただきます。

 

 


いつもより半音高い音が出て転調してる君との時間/哲々

 2021年5月7日・お題「調」

 

 恋の喜びを音楽で表現したとても素敵なお歌だと思います。

 

 このお歌からは、主体と君は両想いでお付き合いしているとも考えられますし、主体の片想いとも考えられるんですけど、確かなのは、主体は君と一緒にいる時にはいつもより半音高い音が出ていると感じられることです。それは主体の感覚としてなのかもしれないし、実際に声が半音高くなるのかもしれないけれど、君と一緒にいられることが嬉しくて仕方ないのがよく伝わってきます。

 

 きっと、君との時間にはメジャーコードの明るいラブソングが主体の心の中に流れているのでしょう。

 

 


懐メロをのせた車で僕たちは時間旅行のように話した/哲々

 2022年6月12日・お題「時」

 

 このお題で懐メロを詠み込んで、かつ、「時間旅行」という言葉も詠み込んでいることで、松田聖子さんの隠れた名曲『時間旅行』を思い出しました。作詞が松本隆先生だからか、不思議とこのお歌にも松本隆先生の歌詞っぽさがあって素敵です。

 

 懐メロを聴くとその曲が流行っていた頃の記憶がよみがえり、まさに時間旅行したような気持ちになれますが、これはひとり旅よりも断然仲のいい友達や恋人と一緒の旅の方が楽しめることでしょう。

 

 このお歌の僕たちというのが友達同士なのか恋人同士なのかはわかりませんが、年齢の近い人たちであっても、離れている人たちであっても、その曲のヒットしていた当時に、自分はどんなふうに過ごしていたのかを語り合うのはすごく盛り上がるだろうし、自分とは知り合ってなかった頃の友達や恋人のことも知ることのできるきっかけにもなりそうです。

 

 一緒に時間旅行できる人がいるのは、なんて幸せなことだろうかと思いました。

 

 


あったかい、あったかいって無いものを分け合うように抱きしめあった/哲々

 2023年1月10日・お題「自由詠」

 

 このお歌は恋のお歌として読んでも、家族詠として読んでもとても素敵な心温まるお歌だと思います。

 

 「あったかい、あったかい」

と言いながら抱きしめあうのはたぶんふたりとも寒いからで、季節は冬なのでしょう。ただ冬だから寒いというわけではなく、次の「無いものを分け合うように」という表現で、おそらくふたりは貧しい暮らしをしているのではないだろうかと想像できます。

 

 気温に合わせて気軽に暖房を入れることのできる経済力のあるふたりなら、なんとなく、抱きしめあいながらわざわざ「あったかい」を連呼しないような気がするので、このお歌の場合は暖房を使わずに節約しているんじゃないだろうか?と思うのです。

 

 でも、ふたりはきっと、抱きしめあえる大切な人がいることが何より幸せで、お金や物が足りない暮らしであってもそれを嘆いてはいないのではないでしょうか。

 

 オー・ヘンリーの名作に『賢者の贈り物』という短編小説がありますけども、主人公の夫婦はとても貧しい生活をしているんですが、夫は祖父から父、父から自分に受け継がれた金時計が宝物で、妻はとても美しい髪が自慢でした。でも、クリスマスにお互いにプレゼントを贈りたい夫妻は、妻は髪を売って夫の金時計につける鎖を、夫は金時計を売って妻の美しい髪を飾るための亀甲でできていて宝石で縁取られている櫛を買います。哲々さんのこのお歌のふたりを、思わずこの物語の夫妻に重ねました。

 

 恋愛読みではなく、このふたりが親子の関係であるという読み方をしても、温かい光景が想像できます。

 

 わずか31文字で、とても精神的な豊かさを感じることのできるお歌だと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回 ベストヒットおとの日♪・34 音羽凜さん

 音羽凜さんのおとの日のお歌は、旧筆名の音羽凛さん名義のものと合わせて82首ありました。3首引かせていただきます。

 

 


伝わった手応えはなく履歴書の文字は小鳥となって飛び立つ/音羽

 2021年11月25日・お題「伝」

 

 下手すると、面接が上手くゆかなくて落ち込んだというだけの日記調の短歌になってしまいそうな光景をとても詩情豊かに詠まれていると思います。

 

 面接に不合格だった場合に履歴書はどうなるかというと、おそらく企業のシュレッダーで細かく切り刻まれて燃えるごみとして焼却され、灰になるでしょう。白い灰が空気中を舞う様子は、主体の心の中では白い小鳥が飛んでるように思えたのではないでしょうか。

 

 ただ気持ちが沈んでしまうだけの描写にせず、履歴書の文字は小鳥になった、と空想の翼を広げたことで、未来への希望も感じられるお歌になっていて、読後感が清々しいです。

 


永遠はないものだって聞かされてアイスケーキがうまく切れない/音羽

 2022年7月18日・お題「サーティーワンアイスクリーム」

 

 このお題でアイスケーキを選ばれたからこそ、ドラマチックなせつない恋のお歌になったのだろうと思いました。アイスケーキを食べる時というのは特別な時で、それが恋人同士だとお互いの誕生日やクリスマスやお付き合いをスタートした記念日などが思い浮かびます。

 

 お付き合いのある程度長いカップルだったら、そろそろ結婚しようかという話題にもなるかもしれないですが、おそらく主体もそれを願っていたのに、恋人に永遠はないものだと聞かされたのでしょう。

 

 だから、平常心であればうまく切れるはずのアイスケーキを切る手が震えてしまったり、力が入らなかったりしてうまく切れないのです。主体の動揺がとてもよく伝わってきて、胸が痛みます。

 


二名でと声震わせる予約ありきっとひとりで来るのだろうな/音羽

 2023年2月2日・お題「二」

 

 たぶん、この主体は飲食店、それもちょっと高級な、予約の必要なレストラン勤務なのではないかと思いました。

 

 予約の電話に応対した時に、二名でというお客の声が震えていることに気付いた主体は、きっとひとりで来るのだろうと思っています。

 

 それは、ひょっとしたら今までに他にもそういうお客の応対をした経験があるのかもしれないし、または主体自身もお客になった時にその電話の主のように声を震わせて予約したけれど相手は現れなかった経験があるのかもしれません。

 

 いずれにせよ、敏感にお客の心の痛みを感じ取ることのできる主体のことだから、予約当日にそのお客がひとりで来店しても、真心のこもったおもてなしをするのだろうなと想像が広がるくらい、主体のプロフェッショナルぶりも伝わってくるお歌でした。