日本の医療を最も求めている国は?
前回、訪日外国人が日本で治療を受ける場合は結構高額になるという話をしました。
それだけ高額にも関わらず、日本の医療を求める外国人は着実に増えています。
特に2011年に医療ビザが発行されるようになってから急増しており、2012年には全体で2万7000人だったのが、2020年には中国人だけで30万人に達すると言われています。
日本は医療目的の訪日外国人に関するデータを取っていないため正確な数字は不明ですが、中国人の急増ぶりは目を見張ります。
以前は日本人のみで閑古鳥が鳴いていた30万近くする高級人間ドックは、数年前から中国人であふれかえるようになりました。中国側の政策によって勢いは衰えてきましたが、高級人間ドックはいまだに人気があります。
では中国以外の国はどうかというと、医療に関していえばあまり増えていません。
2016年の訪日外国人観光客の数を見てみると
1位 中国 637万人
2位 韓国 509万人
3位 台湾 416万人
4位 香港 183万人
5位 米国 124万人
6位 タイ 90万人
*出典:日本政府観光局(JNTO)
このような結果であるにも関わらず、韓国と台湾、香港から日本の医療を求めて来日するケースは多くありません。
しかし、なぜ中国人ばかりが増えていくのでしょうか。
それにはいくつかの理由があります。
まず国民の裕福度と医療費という観点から見てみます。
2015年の各国の1人当たり名目GDPを比べると
香港 507万円
日本 389万円
韓国 326万円
台湾 267万円
中国 97万円
これだけ見ると、なぜこんなGDPで中国人が増えるの??となりますよね。
しかし、中国はとても偏りがある国です。
中国で1000万元(1億5千万円)以上の資産を持っているのは160万人~360万人(*データによってマチマチです)いると言われています。逆に年収8万元(120万円)以下が人口の90%以上(約12億人)を占めているという、激しい格差があります。
医療目的で訪日する中国人は基本的には超富裕層ですから、100万円以上する医療ツーリズム商品(人間ドック30万円+観光や通訳代など)でも飛ぶように売れてしまいます。
ちなみに、2015年の各国の1人当たりの医療費はこんな感じです。
日本 47.6万円
韓国 22.6万円
香港 22.3万円
台湾 16.2万円
中国 不明
中国国内は 医療費は高くないのですが、公立病院でも国内で料金が異なりますし、不正も多いので、データを出すのは難しいのかもしれません。
もっとも、中国に関しては医療費云々というより、医療の質の問題が大きいのですが、その話はまた次回に。
さて、香港に関しては、GDPで日本をだいぶ上回っていてゆとりがある人が多く、観光で訪日する香港人は非常に多くいます。
香港は公立病院の医療費がとても安く、また質も高いため、美容外科手術を除いてはわざわざ日本の医療を受け来ません。
ちなみに、先進医療(心臓バイパス手術)で比べた場合、香港の公立病院の場合は日本の1/10以下の料金で受けることができますし、私立病院だと日本より少し安いくらいです。
日本よりGDPの低い台湾は、基本的には高額な日本の医療を受けに来るのは難しいと考えます。ただ台湾には日本のような皆保険制度があり医療費は1/3程度ですみます。
また先進医療(心臓バイパス手術)で比べた場合も日本の約3分の1くらいと、高度な医療でも安く受けることができます。
ちなみに、美容整形と言えば韓国を思い浮かべるかもしれませんが、台湾の美容整形も高い技術を持っています。ちなみに、私の知り合いのドクターが2人ほど台湾で美容外科の研修に行きました。
韓国については私はあまり詳しくないのですが、こちらも皆保険制度があり、1人当たりの医療費は日本の約半分なので、わざわざ訪日することはないのだろうと思います。
先ほどの先進医療(心臓バイパス手術)で比べた場合、日本の約8割の値段で受けることができるようです。
おまけに韓国の超富裕層はおそらく財閥系の超一流病院を受診するでしょうから、日本には目を向けることはないでしょうね。
次回は、医療の質という点から比べてみたいと思います。
日本の医療は高額?!
日本の病院での治療を希望される外国人患者さんは多く、私もよく話を頂きます。
そこで治療費の概算をお話しすると、多くの外国人患者さんは「そんなに高額なのは無理!」と言って日本での治療を断念されます。
日本には皆保険があるため、医療費は通常3割、高齢者で1割の負担ですみます。
手術や抗がん剤治療の場合には日本人でも医療費が高額になってしまいますが、高額医療費制度のため自己負担額に限度があり、高い水準の医療を世界で最も安価で受けることができます。
では外国人の場合はどうでしょう。
・日本在住だが保険証を持っていない外国人の場合 10割負担
・日本に在住していない外国人の場合 15~30割負担
15~30割というのは、訪日外国人の場合は自由診療にあたるため、病院によって設定が異なります。
一般的に、大学病院やがんセンターなどの専門病院は最も高く30割負担で、中規模の総合病院や民間病院は15~20割負担となっています。
医療ツーリズムで外国人が日本の病院を受診した場合、受診する病院によって2倍の料金格差が生じるという問題があります。
ここで日本人の場合と外国人の場合の医療費をいくつかの例で比べてみましょう。
<大腸がん>
①腹腔鏡手術
*全国平均の入院期間17日で、合併症がなく順調に退院するという前提です
*差額ベッド代は含みません
・日本人
3割負担 約48万円、1割負担 約16万円
・外国人
320万~480万円
ちなみに、日本人の場合は、高額医療費制度が使えるので、以下の負担ですみます。
70歳未満 約10万円(一般的な収入の場合)
70歳以上 44000円(一般的な年金受給者の場合)
*mFOLFOX6+Panを2週間おきに投与した場合の1か月の医療費
・日本人
3割負担 約24万円、 1割負担 約8万円
・外国人
160~240万円
高額医療費制度を使うと、以下の負担ですみます。
70歳未満 約9万円(一般的な収入の場合)
70歳以上 44000円(一般的な年金受給者の場合)
抗がん剤治療の場合は、手術のように1回きりではなく投与が続くので、日本人でも最終的な自己負担額はかなりの金額になってしまいます…
1年間使用したとすると、日本人で約108万円、外国人で1920万~3840万円かかります。
さて、ここで、「1年間で3500万円かかる抗がん剤」と昨年話題になった、オプジーボ(免疫チェックポイント阻害剤)のケースを見てみましょう。
ちなみに、2017年2月に薬価(薬の値段)が改定になり、半額になりました。
<肺がん>
*オプジーボを2週間おきに投与した場合の1か月の医療費
・日本人
3割負担 約33万円、 1割負担 約11万円
(薬価改定前は、66万円と22万円!)
・外国人
165~330万円
1年間使用したとすると、日本人(高額医療費利用)で約120万円、外国人で2000万~4000万円かかります。
*薬価改定前の2017年1月までは、外国人では約4000万~8000万円かかっていました。
ちなみに、
一般的な肺癌の抗がん剤治療(CBDCA+PTX)の1か月の費用を計算してみると
・日本人
3割負担 約6万円、 1割負担 約2万円
・外国人
38~57万円
このスタンダードな抗がん剤治療ですともっと安価に治療できますが、それでも1年間治療するとなると、400万円以上はかかってしまいます。
手術で300~500万円、抗がん剤で数百万~数千万、それに毎回の渡航費などがかかるとなると、なかなか日本で治療を受けられる外国人というのは限られてきます。