ちいさなねずみが映画を語る

すきなものを好きなだけ、観たものを観ただけ—

『ブリジット・ジョーンズの日記』第4弾制作決定 - 気になるおヒューとコリン・ファースの行方

1週間くらい前だが、ブリジット・ジョーンズの日記第4弾映画の製作が決定したと噂になった。主演のレネー・ゼルウィガーに加え、第3作に登場した産科医のエマ・トンプソン、そして第2作まで登場したヒュー・グラントの再登場が報じられている。なお、ブリジットにとってのダーシーさまことコリン・ファースのキャスティングは発表されておらず、ちょっとどきどきな結果だ。

theriver.jp

variety.com - THE RIVERが引用している典拠記事

当日にも匂わせで呟いたが、原作にわりかし忠実だった前2作とは違い、映画化第3作ではほぼオリジナルストーリーと言ってもよいような独自脚本が採られた。このため、映画第4作では、原作回帰するのか、はたまた再び独自路線に走るのかという点も含めて目が離せない。また、気になるおヒューとコリン・ファースの行方も深掘りしたいところだ。

 

!!! この記事には『ブリジット・ジョーンズの日記』原作・映画版のネタバレを含みます !!!

  • そもそもの前提
  • 原作を下敷きにした2作目まで、大きく外れて現代的な内容にした第3作
    • 第3作は、映画も原作も衝撃の展開
  • とすると、映画第4作の筋書は?

 

そもそもの前提

大河ドラマ『光る君へ』で源氏物語をはじめとした平安文学への本歌取りが話題になっているところだが、実は『ブリジット・ジョーンズの日記』もそういった構造になっている。主人公のブリジット・ジョーンズは、1995年にアラサーに差し掛かった冴えない行き遅れ。通りから人が消えたことで有名なBBC版『高慢と偏見』に胸を躍らせるが、自分にとってのダーシーさまが近くにいることには気付かない。1997年のダイアナ妃事故死に大きく心をかき乱され、ふとするとプチ事件が起こる自らの人生に叫喚しながら生きていくのだった。

 

ちらっと書いた通り、この作品は原作者のヘレン・フィールディングが、1995年に放送されたBBC版『高慢と偏見』の大ファンで、そこから着想を得て執筆されたものである。この作品で国内知名度を一気に上げたのが我らがコリン・ファース。一躍セックスシンボルとなり、本当に通りから人を消し、作品も今までで最高の映像化と呼ばれるようになった。ブリジットとぶつかりながらも惹かれ合っていくマーク・ダーシーの名前は、勿論『高慢と偏見』のダーシーから採られており、フィールディングも(さながらブリジットばりに)ファースを想定して書いたキャラクターであった。それ故彼のキャスティングも、原作者の望み通りだったのである。

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実際、物語の流れも『高慢と偏見』の筋書を基にしている。ブリジットにきょうだいはいないが、30代を過ぎて仕事も恋愛もあまり上手く行かず、オールドミス一歩手前の人生を密かに嘆いている。『高慢と偏見』のエリザベスは、父親が娘たちの結婚や財産の行方に無頓着なので、結婚先も決まらずに放置されている状況だ。

何より『高慢と偏見』らしいのは、主人公の女性とダーシーの出会いが最悪ということである。『高慢と偏見』では、ダーシーがずけずけ言うエリザベスへの文句が本人に立ち聞かれて第一印象は最悪。『ブリジット・ジョーンズの日記』でもブリジットとマークの初対面は最悪で、お互い恋人になる未来など1mmも見えない。映画版では更にアグリーセーターまで着ていて本当に最悪だ。

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原作を下敷きにした2作目まで、大きく外れて現代的な内容にした第3作

ファースを起用したキャスティングに原作者の意向が反映されていたように、続けて制作された第1作・第2作は原作小説の影響が色濃く、原作の重要なエピソードをしっかり押さえて制作されていた。ブリジット役にはイギリス人ではなくアメリカ人のレネー・ゼルウィガーが起用されたが(レネーの起用に関しては一悶着あるものの)*1、蓋を開けてみればゼルウィガーはイギリス人よりもイギリス人らしいと言われ、アカデミー賞主演女優賞ノミネートなど賞レースで大健闘した。

 

続く☞☞☞

*1:BJの第1作・第2作は当時のミラマックスが制作に関与しているが、ミラマックスと言えば、かの有名なハーヴィー・ワインスティーンが率いていた制作会社である。アカデミー賞生産装置と呼ばれるほど賞レースでは常勝チームだったが、一方で女優たちへ自らへの枕営業を強いたとも言われ、#MeToo運動が始まるきっかけにもなった。ゼルウィガー本人はワインスティーンに関して口を噤んでいるものの、前後して『シカゴ』の主演を務めるなど、彼と制作上の蜜月を築いていたことは間違いない。おまけに両作品でオスカーにも絡んでいる。ザ・イギリス人女性のブリジットへゼルウィガーがキャスティングされたことへ、憶測が沢山飛ぶのはしょうがないと思う☞

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アンビバレントさを至極丁寧に描き続ける - #PICU小児集中治療室 SP2024

4月13日に放送された『PICU 小児集中治療室 スペシャル2024』を観た。2022年に放送された同名連ドラの新録特別編だ。このブログでも幾度となく取り上げた『監察医 朝顔』と同一制作陣であり、静かに、それでいて丁寧に人物描写するさまはふたつに共通している。SPでもその丁寧さは健在であり、是非このキャストで第2シーズン以降も制作してほしいと思うばかりである。

 

ネタバレの無いあらすじ

札幌丘珠空港に隣接し、広い道内をチャータージェット(本編中では"ドクタージェット")でカバーもする丘珠病院PICU。北海道のため招聘された科長・植野(演:安田顕)を筆頭に、小児科、小児外科、救急科などが集まって結成されたPICUは、開設から暫くが経ち、新たな後期研修医2名を受け入れるに至っていた。

 

開設当初は覚束ない様子だった志子田武四郎(しこちゃん先生、演:吉沢亮)も、初の後輩登場に腕を鳴らすが、やってきた瀬戸と七尾(演:小林虎之介、武田玲奈)とはすれ違いの日々になる。PICUの同士である河本舞(演:菅野莉央)、再び僻地医療へと旅立った矢野悠太(演:高杉真宙)、そして子育てに奔走する涌井桃子(演:生田絵梨花)との関係も少しずつ変化していくのだった……

tver.jp - 暫くはTVerで配信中です(240413放送、240415現在)

 

!!! この先では物語の筋書をネタバレありで考察します !!!

 

  • ネタバレの無いあらすじ
  • この丁寧さよ、戻ってきてくれてありがとう
    • こんないけすかない後期研修医いるか?
  • 今回取り上げられた疾患
    • 稚内からの緊急搬送(HCM)
    • 新生児の臍はちゃんと消毒してくれ - 新生児臍炎からの壊死性筋膜炎
    • ALLガールの感染症 (恐らくカテ感染)
    • 自動車事故による多発外傷のきょうだい
    • 思い詰めた様子の桃子 (すわマルトリートメント騒動)
  • おしまい

 

この丁寧さよ、戻ってきてくれてありがとう

いやあまあこの通りである。『監察医 朝顔』の時も思ったが、この制作陣は静かな筆致で人物描写を丁寧に描くのがとても上手い。医療ドラマは得てして飛び道具的な展開になりがちであるものの(例えば悠太役の高杉真宙が出ていた昨季のあれとか☞)*1、『監察医 朝顔』もしかり、ドラマの中では医療従事者も全ていち人間として描かれているのが特徴だ。若い医者が理想と現実の狭間で思い悩み、折り合いを付けていく苦しい作業を、その葛藤も含めて丁寧に描いている。

 

連ドラ版で新米空回りボーイだった志子田は、独り立ちして患者を診ることができるPICUの立派な戦力になった。その成長の背景には、生死の狭間で薄氷を踏むこどもたちに接し、悲しみも喜びも両方知ったことがある。以前ならば理想のために突っ走っていたところ、現実とのバランスを取るために一歩引くこともできるようになった。とはいえ、目の前の患者を全て救いたいという熱血さは健在で、それはそれで志子田の良さでもある。『青天を衝け』で既に大河ドラマ主演を務め、美形俳優の名を欲しいままにしている吉沢亮をもって、「顔はいいけど中身はちょっとイマイチ、でも患者思いのよき医師」というところに落ち着けているのがよい*2

 

丁寧さという点ではドラマのもうひとつの主人公たちである小児患者の描き方にも向けられている。ALL患者の日菜(演:小吹奈合緒)、DCM; 拡張型心筋症で移植待機中の圭吾(演:柊木陽太)*3はSPにも再登場するが、大人とこどもの狭間でアンビバレントな彼らの姿を丁寧に描いている。

持病を抱え入退院しがちなこどもたちの精神は、周囲よりもちょっと大人になっていて、その成長は我々外の大人が考えるよりずっと早い。一方でこどもであることも確かであり、精神の奥底には甘えたい気持ちが隠れている。こども扱いは嫌だけれど大人でもない、そんなアンビバレントな様子が物語の隠れた軸にもなっているのだ。その姿は、目の前の患者を全て救うという理想にまだ甘えたい若さと、経験を重ねて時には諦めが必要と学んだ姿と、その狭間にいる志子田の姿とも同じなのだろう。

 

まだまだ続く☞☞☞

*1:どうでもいいけど、『となりのナースエイド』でつんけんした外科医大河先生、大河ドラマ『光る君へ』で「姉様(=紫式部)が男だったらなあ」と嘆かれるちょっとぽんこつ弟・惟規、そして今作で演じる悠太と、高杉真宙の見せる役柄の幅はとても見事だと思う

*2:大事なので『光る君へ』の実資(演:ロバート秋山)ばりに2度言うけれど、吉沢亮の顔なのに、完全に「中身がちょっとイマイチなんだよね〜」と思えるキャラなの良すぎませんか???

*3:どうでもいいけど検査入院のシーンで、意味無くベッドサイドモニタがあるのと、ずーっとHR80bpm, sinus & SpO2 99-100 %(r.a.)なのが気になった。ペースメーカではなく補助人工心臓なので、彼の心拍数は会話などで揺らぐはずだし、普段元気に過ごしている彼に、ベッドサイドモニタを付ける意味はあまりない

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ドラマ版『透明なゆりかご』一気観レビュー③ - シーズン後半を深掘り

2018年のNHKドラマ『透明なゆりかご』深掘りネタバレ記事後半。今回は第6話から。第2弾はこちら。

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

※この先は各話の主題に触れるため大ネタバレ記事です。※

 

  • 第6話「いつか望んだとき」:闇医者KAと不妊症治療
  • 第7話「小さな手帳」:児童虐待と、アオイの発達特性の開示
  • 第8話「妊婦たちの不安」:キャリアパスと妊娠の両立
  • 第9話「透明な子」:性虐待
  • 第10話「7日間の命」:生存が難しいほどの重度合併症児
  • 安達脚本は原作改変しているが
  • おしまい

 

第6話「いつか望んだとき」:闇医者KAと不妊症治療

望まない妊娠と望んでも得られない妊娠を対比させてくる1話。アオイはひょんなことから、格安でKA*1を受けさせてくれる闇医者のところへ連れて行かれる。闇医者がイッセー尾形というのが如何にも胡散臭くてよい(笑)。ドラマは小田原でメインロケが行われているが、本当に小田原の坂はきっついのでそこもまたリアルだ。一方、由比産婦人科では不妊症治療の末にぎくしゃくしてしまった夫婦(演:西原亜希/村上新悟)と、望月(演:水川あさみ)の両方が、密かに思い悩んでいた。

 

倉田夫婦に横たわるのは男性不妊無精子症)で(さらっと描く割には重い)、妻は悪くないにもかかわらず姑からの圧は最悪、おまけに折角妊娠したと思ったのに、児は初期流産となってしまう。初期流産は受精時の染色体異常が大半なので、運が悪かったに過ぎないのだが、いやでも本人たちは本当に凹む。不妊症治療を何年も続けていた仲睦まじい夫婦ならば尚更だ。おまけに、進行流産ではなく稽留流産というのが余計に辛い*2

同じ頃、望月も「今回もダメだったかー」という顔をしているが、この妊娠を望んでいるが上手く行かない、という状況も、女性の側には結構辛い。望月のようにキャリアを積み重ねている場合は尚更だろう。

 

対するハルミ(演:モトーラ世理奈)は望まない妊娠でKAのために山を登る。空気の読めないアオイはずけずけと「子ども作って堕ろせばいいやなんて無責任だ」と騒ぎ立てるが、ハルミもハルミで苦しんでいた。最初の妊娠はレイプの末であり、家庭環境のせいもあってグレた上に、また妊娠したというのが真実だったからだ。あっけらかんとしているように見せかけて、密かに傷付く女子を描く辺り、安達脚本は本当に細かい。

 

同じ流産手術でも*3KAとSA(自然流産)では医療者側の心構えがちょっと異なるのは事実だが、アオイに「いつか望んだときに、望んだ妊娠ができるため」と言わせるのは大変大きい。KAなんて簡単にできるんでしょとは思ってほしくないが(そんなこと考えるならちゃんと避妊してくれ……)*4、望まない妊娠をする人は今の世でもゼロではないし、思い悩んで自殺を選ぶ女性もいるのだろう。望んだ人のところにいい時に来なくて、望まない人のところに困った時に来る、それが妊娠なのだということは、第8話でも繰り返される。

 

この話は望まない妊娠と不妊症を対比させているが、望まない妊娠を終わらせる側に角替和枝、望んでも得られない妊娠の側に、望月の夫として柄本時生*5を配しているのはよくできた演出だ。かあちゃんと子の対比が本当に上手いし、このドラマの直後に角替が亡くなったことを考えると、よい親子共演だったのではないかと思う。

 

>>続きます>>

 

第7話「小さな手帳」:児童虐待と、アオイの発達特性の開示

アオイがなりふり構わずやかんを磨く、即ち過集中のエピソードを出してきて発達特性をばばーんと提示した1話。折しも小学校の同級生が由比産婦人科に入院してきて、アオイは昔を急に思い出す。

*1:人工妊娠中絶、ドイツ語でKünstlicher Abortなので

*2:進行流産→胎児娩出が始まっている状況。稽留流産→児は死亡しているが娩出が始まらず、母には自覚症状がない段階。自分の中から出て来ないので、児が生きているという一縷の望みに懸けたくなる気持ちも分かる

*3:やる手技はKAだろうがSAだろうがおんなじ。母体保護法で認められている妊娠22週ぎりぎりになると、娩出される児の大きさが違うだけで、経腟分娩と何ら変わりない。普通に母体負荷の大きい手技。

*4:また妊娠したんでKAお願いしまーす(何にも悩んでない)みたいなテンションの人は実際いて、いやヒト、というか胎児ひとりの未来を奪ってるのよ……とあきれ果てることは実際ある

*5:というか何度でも思うけど柄本時生柄本明のDNAが強すぎる顔をしているのよ

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ドラマ版『透明なゆりかご』一気観レビュー② - シーズン前半を深掘り

2018年のNHKドラマ『透明なゆりかご』沖田×華原作、安達奈緒子脚本、清原果耶主演)を一気観した。1990年代末の地方産院を舞台に、沖田本人をモデルとする准看護師のたまごが奮闘する話である。既に第1弾記事も出しているが、ネタバレ記事として、由比先生のお隣の領域のひよっことして感じたことを出力しておく。今回は半分の第5話まで。第1弾はこちら。

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  • 各話の主題がこれまた苦しい
    • 第1話「命のかけら」:未受診妊婦・添い寝の問題
    • 第2話「母性ってなに」:中絶を勧められる合併症妊娠と、望まない若年妊娠
    • 第3話「不機嫌な妊婦」:誰も攻められない事故とABR
    • 第4話「産科危機」:母体死亡/産科危機的出血と地方産院の行く末
    • 第5話「14歳の妊娠」:若年妊娠と、その後
  • おしまい

 

各話の主題がこれまた苦しい

コウノドリ』だったと思うけれど、産科の醍醐味は「おめでとう」、「また来てね」が言えるところ、という話があった。そのおめでとうすら苦しい、そういった姿を、「他人の心が読めない」と自覚するアオイの目を通して描くのが秀逸な脚本だ。筆者としてはアオイの発達特性が精緻に描かれていてしんどかった、という話は第1弾記事でも述べたが、翻って本来の主題である周産期医療としても、この作品は胸が苦しくなるようなテーマばかり取り上げてくる。

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!!! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! SPOILER ALERT! !!!

※この先は各話の主題に触れるため大ネタバレ記事です。※

 

  • 各話の主題がこれまた苦しい
    • 第1話「命のかけら」:未受診妊婦・添い寝の問題
    • 第2話「母性ってなに」:中絶を勧められる合併症妊娠と、望まない若年妊娠
    • 第3話「不機嫌な妊婦」:誰も攻められない事故とABR
    • 第4話「産科危機」:母体死亡/産科危機的出血と地方産院の行く末
    • 第5話「14歳の妊娠」:若年妊娠と、その後
  • おしまい

 

第1話「命のかけら」:未受診妊婦・添い寝の問題

第1話に持ってくるのがこれかいというくらい重いテーマ。経済的な問題、今回のような家庭の問題から、未受診妊婦となるケースは今の世の中でも確実に存在している。母子ともに無事に出産に至ればよいのだが、実際には「陣発しました」とか言ってぽろっと来られると、産科も小児科も顔を真っ青にする*1水川あさみ演じる望月が「念のため児童相談所に連絡しておきましょう」と話しているが、こういうケースを地域に繋ぐのも周産期領域の大事な仕事なので、さらっと描いてくれていてよかった。

 

「田中さん」はそこはクリアして無事に出産に至るが、退院してすぐ、添い乳からの事故で子は命を落としてしまう。いやこれ!!!添い乳イズ本当にダメ!!!病棟でも本当に許しちゃダメ!!!筆者の歪んだ専門領域的にも声を大にして伝えたいポイント。

こないだTwitterでもやたら話題になっていたけれど、添い乳は母が楽な一方で、窒息事故リスクが大変高いことで知られている。SIDS; 乳幼児突然死症候群の症例解析でもリスク因子に上げられていたひとつだ*2。産科病棟で、赤ちゃんにモニタを付けながら添い乳させるところもあるけれど、1回でも許しちゃダメ。そのくらいなら、お母さんにしっかり休養を取らせてあげて、ちゃんと授乳できる元気を回復させてあげる方が余程マシ!!!!お母さんたちも添い乳大好きなのほんとダメ、妊娠中から口酸っぱく言っとくべき!!!

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こういうの、法医とか小児科から積極的にアプローチしなくてはいけないと思うのだけど、何分周産期領域は、リスクを伝える声より「今までの経験」という名の声が強いのも現状だ。第10話とは異なり、事故死というのは確実に「防ぎうる死」(preventable death) なので、ちょっとの不便でゼロにできるなら、そうしてほしいと思うばかりである。

 

>>続きます>>

*1:何てったって、ちゃんと管理されてたお母さんの早産とか母体搬送だけでもあわあわするんだぜ? 情報が無いなんて況んやでしょう

*2:日本と海外では布団文化vsベッドという違いがあるというのも大きいとされている

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専門分野のせいで、違うところが苦しい - ドラマ版『透明なゆりかご』一気観レビュー①

2018年のNHKドラマ『透明なゆりかご』沖田×華原作、安達奈緒子脚本、清原果耶主演)を一気観した。1990年代末の地方産院を舞台に、沖田本人をモデルとする准看護師のたまごが奮闘する話である。丁度沖田×安達作品として『お別れホスピタル』が放映されていたので、その絡みで観た人も多いかもしれない*1。この作品は清原果耶の初主演作で、彼女を見出したことは本当に素晴らしいのだが、何というか脚本と演出の解像度が物凄く高くて、違うところでとても苦しかった。色んな意味でとてもよく勉強している作品だと思う。ネタバレ記事です。

 

  • あらすじというか背景というか
  • 専門分野のせいで、違うところが苦しい
    • 隠れた主題、主人公の発達障害
      • 1.過集中
      • 2. 対人関係のぎこちなさ
      • 3. 治療に乗ったのはフィクションなのだろう
  • おしまい

 

あらすじというか背景というか

作中清原果耶演じる主人公の名前は「青田アオイ」に変更されているが、原作で彼女に相当するのは沖田×華自身で、作中でも沖田の名前で描かれている*2。時代背景は1997年夏からの数年間に設定されているが、これは沖田が実際に准看護師の資格を取るべく高校に通っていた時期と重なっている。原作そのものも沖田の実体験を基にしている。

 

一方今作は清原果耶にとって初主演作品であり、なおかつ脚本の安達奈緒子は『おかえりモネ』でもタッグを組む仲間である。脇を固める由比院長こと瀬戸康史NHKが『グレーテルのかまど』で丁寧に育ててきた人物だし、その他の登場人物たちの人選も、NHKが至極丁寧に選んだ印象がある。清原果耶を若手主演女優の座にすっと送りつつ、俳優陣、演出・脚本という両面で、脇もしっかり固めている。

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安達脚本は震災10年で『おかえりモネ』を扱った時にも感じたが、大変精緻で思慮深く、勉強熱心という印象だ。地方産院を舞台にしながら、実のところこの作品は沖田が抱える発達障害を描いている。原作での沖田の描き口は当事者らしく実にぱたぱたしているが、安達脚本はその外に眼を置き、静謐に描いていくというのが、『おかえりモネ』との共通点だなあと思わされるのである*3

*1:ちなみに筆者は無精なので『おかえりモネ』放送前に録画していたものを今更観た

*2:沖田は別作品でリアルのまま描きすぎて親族とトラブルになったくらいなので、恐らく創作として他人を創り出すことが苦手なのだろう

*3:『おかえりモネ』では震災時に気仙沼にいたいないで家族が少しぎくしゃくしてしまうさまが描かれていたが、その様子が、アオイの感じる疎外感や「自分は分かっていない」という感覚によく似ているなあとおもうのである>>

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我々には決して分かり得ない葛藤だが、考える端緒にはなる - 『デフ・ヴォイス』

年末に放送されたNHK特集ドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』('23)を今更ながら振り返る。ある事件をきっかけに警察と手話から離れていた主人公が、ふとしたきっかけで手話通訳の仕事に戻り、事件の真相を追うというサスペンス仕掛けのドラマである。この作品では2つの人々の葛藤が描かれる。ひとつは音のない世界に生きる聾者たち。そしてもうひとつが、聾者の家族で「聞こえる」側として生まれてきたCODA; Children of Deaf Adultsたちである。

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CODAと言えばそのままずばり『コーダ あいのうた』が大ヒットして有名になったところだと思うが、『デフ・ヴォイス』でも『コーダ』でも描かれていたように、自分の意思とは関係無く、健聴者として通訳に駆り出されるのはなかなかしんどい経験のようだ。『コーダ』では、唯一のCODAたる主人公女子が、父のいんきんたむしやら両親のセックス事情を通訳させられて辟易するシーンがある。『デフ・ヴォイス』でも、主人公が反抗期で手話通訳を拒んでいた頃に家族の大病が発覚し、これが家族関係破綻のきっかけになるというシーンがある。

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今作に登場するCODAはどちらも俳優で(草彅剛、あともうひとり)、実際のCODAでないのは色々言われる面なのかもしれないが(実際言ってる人たちも見たが、NHKのプライムタイムで特集ドラマを制作するに当たって、流石に求めすぎな気がする)、その辺はドラマ制作のためにはしょうがない。それより、聾者たちに実際の聾者俳優たちを集め、聾者/CODAが手話の指導をしたというのが画期的だと思った。

聞けば、今作のCODA考証や手話指導に入った米内山陽子は、人気脚本家でありながら自分もCODAだったという。彼女の熱い気持ちが溢れるインタビューはこちらから。

note.com

 

ドラマ中最も印象的だったのは、手話通訳の訓練シーンで、「雑談を何故翻訳しなかったのですか?」と問われる箇所。これを手話から英日通訳に置き換えてみると、細かい雑談を訳してもらえずに置いて行かれる悲しさを想像することができるだろう。本人たちは大したことはないと考えていても、訳される側は、自分は通訳者というフィルターにかけられた情報を得ているのだと考えてしまう。

 

総じてこの作品で描かれる聾者やCODAたちの葛藤は、当事者でない我々には決して分かり得ない。分かった気持ちになってもきっと足りていない。だからこそラストシーンで主人公兄弟はあんなに喧嘩をする。だが、この作品は、聴覚障害を抱える人たちが活き活きと生きていくためには何が必要か、そういったことを考える端緒にはなる。NHKらしいよい作品だったなと感じた。

 

原作本発売中、ドラマもNHKオンデマンドで配信中。

 

関連:デフ・ヴォイス / 草彅剛 / 橋本愛 / CODA / 米内山陽子

紛れもなく、複数形 - 映画『哀れなるものたち』

エマ嬢×ランティモスの新作ということで映画『哀れなるものたち』"Poor Things" ('23)を観てきた。ふたりの蜜月は前作『女王陛下のお気に入り』('18)に引き続いてだが、系譜としてはランティモスの『ロブスター』に引き続く印象がある。また、ストーンが母になって最初の作品がこれ、というのも何とも興味深い。エマ嬢×ランティモスで3作品目が始動中のようだが、本当にいつまででも蜜月を築いてください。ネタバレ記事です。

 

あらすじ

医学生のマッキャンドルス(演:ラミー・ユセフ)は解剖学を教えるゴドウィン・"ゴッド"・バクスター(演:ウィレム・デフォー)から謎の仕事を頼まれる。バクスター邸にはベラ(演:エマ・ストーン)という娘がいたが、身体は大人なのにその行動は奇怪で幼稚だった。ベラの秘密を知ってその行動を実験ノートに記すうち、マッキャンドルスはゴドウィンの願いを受け入れてベラと結婚することを決意する。しかしながら、自分をバクスター邸に縛り付ける条文を知ってか知らずか、ベラは世界を見たいと言い出し、彼女を唆す悪徳弁護士ダンカン・ウェダバーン(演:マーク・ラファロ)と放浪の旅に出てしまうのだった……

www.youtube.com - 予告編

※以下「パンフレット」と記載する場合は、「サーチライト・ピクチャーズ issue Vol.26 哀れなるものたち」を指す。

 

  • あらすじ
  • これは間違いなく『ロブスター』の系図にあるランティモス作品
    • セックスの意味は、ベラが「発達」する中でどんどん変わっていく
    • ランティモス・ストーン両方と蜜月を築く陰の功労者
  • 哀れなひとは、複数形
  • 裏方にもご注目を
    • まーた気が狂いそうな音楽を
    • 時代を考えると有り得ないほどの衣装の奔放さ
    • セット作ったの?
  • おしまい

 

これは間違いなく『ロブスター』の系図にあるランティモス作品

奔放なベラの周りで繰り広げられる何ともグロテスクな、というかかなり醜悪なセックスシーンを観ながら、ああこれはランティモスの中では『ロブスター』の次にあるのだろうな、と思った。パンフレットを読むと、原作者であるアラスター・グレイにこの作品の映画化を頼み込んだのは2011〜2012年頃というので(パンフレットp.8)、実は『ロブスター』の方が『哀れなるものたち』の後にあるのかもしれない(『ロブスター』は2015年公開作品)。両作品のセックス描写は本当に似通っていて、きっとランティモスの中でのライフワークなんだろうなと思う。

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『ロブスター』はカップルでいないと動物に変えられてしまう世の中で、何とかしてパートナーを見つけなくては、と中年男性がもがく話であった。つまりは性的に成熟しきった大人が、求めていない性生活に舞い戻る話である。『哀れなるものたち』はこれと逆で、幼稚な知性がどんどんと目覚めていく中で、性生活を切り口にする、という筋書になっている。ランティモスの中で、性生活は飽くまで、人生を見つめるための切り口である。

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