マトモが受かりマトモが辞める

探偵になりたいと思っている方には朗報なのだが、探偵は「マトモ」な人間なら誰でもなれる職業である。
もちろん求人と応募のタイミングが合致することが前提であるが、面接の場までたどり着くことが出来れば、探偵としてやっていくことはほぼ確実だろう。

探偵は、以前のエントリーで書いたようにかなり激務であり、故に人材の入れ替わりが激しい。なので、「運転免許がない」「会話が成り立たない」などの事由が無ければ探偵会社側も積極的に採用してくる。

このように、「マトモ」であれば容易に探偵にはなれるのだが、一方で継続して探偵をやり続けるためには「マトモ」では難しい。

矛盾しているようだが、探偵業界とはかなり特殊な世界であり、一般的な常識がまかり通る社会で「マトモ」であればあるほど、そのギャップに耐えられなくなり辞めていくことになる。

一例を挙げると、探偵会社はそれぞれ独自の慣行や伝統が蔓延っている。これは挨拶の面であったり、仕事に対する考え方といった面で顕著である。かなり理不尽な内容もあり、就職セミナー等で汗水垂らして学んだ社会のマナーや常識は音を立てて崩れさる(就職セミナーで教わることに価値は無いとは思うが)。
探偵会社は、いわゆる中小企業の分類に入り、その中でもかなり会社内の規模は小さい。そのため社長や所長といったトップのワンマンになりやすく、企業としての合理的な考え方というより、トップ個人の考え方がかなり仕事に反映される。
このような内情から、探偵業界を一歩出てしまえば通用しないような「教え」を叩き込まれることになる。

また、労基法なんのそのな仕事内容。
仕事に対して「マトモ」な考えを持っている人は早々に見切りをつけて、より良い職場環境を求めて飛び立っていくのである。
現に僕の職場でも、3ヶ月〜1日で辞めていった人はゴロゴロいるらしい。

「探偵なんてそんな仕事。給料だって良い方なんだから我慢しろ」という現役探偵の方々からお叱りを受けそうだが、探偵にだって労基法は適用される。
「探偵だから〜」なんて言い分に合理性は全く無く、理不尽な労働環境をむりやり納得させるための詭弁でしかない。
一労働者として探偵一人ひとりが声を上げることで、労働環境も良くなり、結果的に勤続年数も上がる。それは探偵会社側にとってもメリットのあることだ。

「人件費が〜」という経営者側の意見もあるだろうが、労働者側を酷使しないと回らない会社など長くはない。キズが浅い内に畳んでしまったほうがいい。


と、まあ少し話が脱線したが、以上のことが全く気にならないという変人ほど探偵歴は長くなり、疑問を感じるマトモな人間ほど辞めていく。それが探偵なのだ。

休日の考え方


この仕事をしていると、その不規則な労働時間と労働基準法が忘れ去られている環境から、自分の時間というものが段々と無くなっていく。
ちなみに現在の僕の休日は月6〜7日ぐらいだろうか。数としては平均的なのかもしれないが、僕はこれでも少ないと感じる。
そもそも1日の拘束時間が他業種に比べて長いし、有給のシステムが存在しないからだ(これは明確な違法なので何かしらのアクションは起こしたい)。

休日も、その前日に言い渡される事がほとんどで、計画的な休日ライフを送ることはほぼ不可能である。連休もなく分散しているので遠出にもいけない。


この休日の現状について他の方々はどう思っているのか?
残念ながら「これが当然」という考えの探偵諸君が多いのである。
その言い分として、
探偵はそういう仕事。
仕事があるだけ幸せ。
休みを気にしすぎると嫌われる。

などなど、小学生もビックリの超理論である。先進国日本といえど、探偵業はまだまだ未発達な職種であることが伺える。

探偵といえども労働基準法はしっかり適用される。これは明記されていることで、守らなければならないことだ。

また、「会社」という枠組みの中で「社員」の形で我々探偵を雇っているのだから、しっかりと社員を保護するのが会社の義務でもある。

探偵だから〜、雇ってやったんだから〜、といった論理は通用しない。社員に仕事上の責任があるように会社側にも社員に対する責任が生じる。どちらがえらいではなく、対等な立場なのだ。

ただでさえ激務から離職率が高い職種で、いちから探偵技術を教え直す手間を考えれば、社員の待遇を改善して長く働いてもらえるような環境作りをする方が長期的に見てメリットが大きいのだが。


そして、よく訓練された社畜は「忙しいことは幸せなこと」「休みを求める奴はやるきがない」などとのたまうが、これらは奴隷根性が隅々まで染み込んだ可哀想な結果である。

忙しいことは仕事があるということで、このご時世では凄いことで会社全体で喜びを共有しましょう、ということなのだろうが、社員の休みをギリギリまで削った結果、なんとかやっていける忙しさの先に喜びはない。

全速力でマラソンを走っているようなもので、計画性がなく、目先のニンジンに必死に飛び付こうとしているのと同じだ。いずれ体力はつき、レースから脱落していく。

社員全体が余力を残した状態で、忙しさを乗り切るのが正解であり、疲労困憊で乗り切った忙しさから得るものは少ない。失うものの方が大きい。

それは貴重な時間であったり、健康であったりと様々だ。


利益や生産性を追求するために休みを削り仕事をする、その考え方は一概に間違いではないのだろうが、自分の時間をしっかり確保しつつ仕事をするという考え方も間違いではない。多種多様な人材が集まるのが会社であるし、そこに多種多様な考え方が存在するのは当たり前である。勘違いしてはいけないのが、休日を求める人間を排除する考えは間違っているということだ。

人それぞれ仕事のモチベーションを高める方法も違うし、仕事に求める価値も違う。必要なのは仕事の価値観は画一的なものではないと理解することだ。

休日は大事にしたい、休日も返上して仕事したい、残業代が出ないなら定時に帰る、皆が残ってるから自分も残るべきだ、色々と考え方はあるだろう。

だが、自分と違う考え方だからといって排除することはおかしいと断言出来る。

自分のやり方に自信があるのなら他人など気にせず貫き通せばいいし、他人を攻撃する必要はどこにもない。


しかし悲しいことに、出る杭は打たれるのが現在の日本社会である。一人一人が周りに流されず個々の価値観を尊重出来るようになるのはいつだろうか。


探偵は何をやるのか③

探偵はドラマのように自由に捜査して自由に仕事出来るものだと考えるのは大間違いである(自分がそうでした)。


前回まで探偵の仕事内容について綴ってきたが、今回はその最後であり、最大のめんどくささを誇る仕事内容について書いていきたい。

それは報告書作成である。


「そんなのどこの会社でもあるだろ」とお考えになる方もいるかもしれないが、探偵業の報告書は想像を絶する面倒臭さである。

まず、調査中はビデオカメラやデジカメで撮影をするのだが、それら何十何百というシーンをパソコンに落とす。
撮影した中から使えそうな場面をチマチマ探して抜き出していくというわけだ。

その後、報告書の元となる文章を書いていくのだが、正確な出来事と時刻を書かなければならないため、これもカメラをチマチマ確認しなければならない。

お次は文章の内容と合致する写真を、文章に合わせて貼り付けていく。

最終的に上司に報告書を提出し、厳しいチェックを受ける(依頼者が調査の経過、結果を知る事が出来る唯一の物なので当然ではあるが)。



「言うほど大変そうじゃないな」と思う方をいるだろう。
しかし、ただでさえ拘束時間が長く休みの少ない探偵業。この報告書作成を仕事中にやることは少なく、専らプライベートを削ってやらなければならないのだ。この仕事さえなければ、もう少しゆとりを持って生活が出来るのだが…

そもそもプライベートの時間を削ってまでやること自体がおかしい。やるならば業務時間内が適当ではないか?まあ、残業という概念がない探偵業ではいくら仕事をしようと給料が増える訳ではないのだが。


ここまで3回に渡って探偵の仕事について書いてきたが、これを見て不安に思ったり憤りを感じた方は運が良かった。是非とも他の仕事をオススメする。
生半可な気持ちで続く仕事ではないし、自ら進んでやるような仕事でもない。
探偵になりたいと思っている方は、三日三晩よく考えて、少しでも不安要素がある場合は素直に他の仕事を見つけたほうが賢い。

探偵は何をやるのか②

前回の続き。


前回は皆さんがイメージする探偵の仕事について書いたが、今回はニッチな部分の仕事について触れていきたい。この部分が意外に大変でキツイ所かもしれない。


まずは雑用。
これは働く探偵事務所によって大きな差が出るが、参考として僕が働いている所での雑用内容を説明する。

一応僕がいる探偵事務所は支社がいくつかあり、規模としては大きい方にあるのだが、かなりの細々とした雑用を頼まれる(ましてや新人だし)。

その内容は、書類整理、買い出し、掃除、洗車、車の修理手続き、上司の世話、模様替え、ペットの世話etc…

書類整理→不要な書類をシュレッダーにかけたり、仕分けしたり。

買い出し→事務所常備の飲み物や、先輩の昼飯、備品など。お金は出してくれる。

掃除→事務所の清掃。床を雑巾掛けしたり掃き掃除したり…応接室のソファーをピカピカに。

洗車→調査で使う車を洗車。

車の修理手続き→忙しい調査の合間をぬって電話して対応して持ってって…

上司の世話→上司の私物を運んだりなんだり。お手伝いさんじゃないんだけど。

模様替え→デスクの位置替え程度なら納得いくけど、壁紙の交換とか観葉植物の調達とかまで普通やらせるか?

ペットの世話→依頼者の警戒を解くために熱帯魚や亀を用意するのはわかるけど、バカ高いのを買う必要はあるのか?そしてその世話をするのは僕たちなんだが?その分給料上げてくれ。



などなど、比較的大きな探偵事務所で働いている僕でさえ前述した雑用をこなさなければならないので、数人程度の探偵事務所ならばより多くの雑用を押し付けられて辟易すること間違い無しだ。
たまに依頼が無くて早く帰宅出来そうと思っていると、無限に湧き出る雑用の数々に労働時間の概念なんてどこ吹く風だ。


探偵=事務所の召使い

この方程式から抜け出すには自ら探偵事務所を開くしかない。
自分の好きな依頼だけを受けて、のんびり自分のペースで調査して、仕事の合間にBARで酒をあおれる探偵になりたい方々には是非とも個人事務所を開いて頂きたい。そして僕を雇って下さい(ただし上記が条件)。

探偵は何をやるのか①

今回は探偵の具体的な仕事内容について書いていく。



皆さんがイメージする探偵とはどのようなものだろうか?
金田一耕助の孫やら、身体は子供頭脳は大人だろうか?はたまたフィリップ•マーロウや濱マイクのようなハードボイルドな男だろうか?

実際はというと、探偵の仕事はかなり地味なものである。

殺人事件に巻き込まれることなんてないし、警察の捜査に協力することもない。
ギムレットを飲みながらBARで麗しい女性とロマンスを楽しむこともない。

そもそも事務所に舞い込んでくる依頼の8割は浮気調査である。
残りは人探しや、イタズラ•ストーカー被害の調査が占める。ペット捜しを請け負う探偵事務所は少ないのではないだろうか?

8割を占める浮気調査の簡単な流れとして
、対象者の情報収集→自宅や勤務先で張り込み→尾行→不貞の現場確認→浮気相手の自宅を探る

となる。張り込み中は何時間も車内等で、対象者が確認出来るよう気を張っていなければならないので結構キツイ。
尾行に関しても、対象者に警戒されないように気をつけながら、時には横道に逸れたり、視界から一旦消えて再開したりと色々と頭を使わなければならない。
それに付随して周辺の地理も把握しておかなければならない。

対象者が県外へ移動した時は、浮気相手と密会する可能性を考えて、共に知らない土地へ行かなければならないケースもある。


次回はその他の仕事について記していく。


探偵は血肉と引き換えに金を得る

今回は、探偵の仕事がどのようにキツイのかという点について書いていきたい。



まず一つ目に、拘束時間が非常に長い
調査がある日は15時間以上かかることもザラ。しかもそのほとんどが、車内待機。対象者がホテルにでも入ろうものならあっちもこっちもお泊まりコースである。探偵の仕事は8割浮気調査になるのだが、この浮気調査が相対的に時間がかかるのも困りものだ。


二つ目は、出費が多いという点。
調査にはデジカメやビデオカメラが必須となるが、これらは自腹。大手探偵事務所でも自腹らしいので、基本的にそうだと考えていいだろう。
その他にバッテリーや周辺機器、変装用の服、帽子、カバン、そして地味に財布に響くのが張り込み中の飲食代。何時間にも及ぶ調査の場合はそれだけ多くなり、ストレスからタバコの本数も増える。


最後は、不規則な生活による健康被害だろうか。
昼夜逆転の生活を強いられることが多くなるので、それだけ肉体的に負荷が大きくなる。また、何時間も車内で過ごすことになるので、エコノミー症候群の危険性も上がる。歩いての調査というのは地域差もあるだろうが、車での調査に比べて少ないので運動不足になりやすい。
かくいう僕も、時間を見つけて運動するようにしている(そんな時間は滅多にないけど)。


大きく分けるとこんなところだろうか。
あとは休みが少ないので、友人と遊ぶ機会がグンと減る、彼女に振られる、出来ない等。
探偵は世捨て人にこそ向いているかもしれない。

いざ面接

前回の続きということで、面接について説明していきたいと思う。


まず面接前に準備しておくこととして、
普通自動車免許が必要となる。

バイクの免許も持っていれば尚良し。


探偵になると、皆さんが想像するように対象者を尾行することをいずれは任されるのだが、その移動手段としては大方になる(地域差はありますが)。

なのでどこの探偵事務所も普通自動車免許の所持が最低条件になると考えて間違いないかと思う。


後は筆記用具ぐらいは持っていこう。服装はスーツが無難。探偵事務所によって普段着が私服やスーツなどの違いはある。



準備が整ったらいよいよ面接。


面接で聞かれる重要なことは、
不規則な時間でも働けるか。この一点に尽きる。

この問いに対して大丈夫であるならば、よっぽどの奇人変人以外は採用される。


後は、何故探偵になりたいか?前は何をやっていたのか?などなど、ありきたりな質問が来るので答えていく。

ここで大事なのは、その場限りの建て前で答えないこと。

後々その建て前前提で仕事をしていくことになり、必ず自分の本音と建て前とのギャップが大きくなり、自分の首を絞めることになる。

本音の部分で探偵という仕事内容に不満があるならば、探偵はやめたほうがいい。それだけキツイ仕事なのだ。

そして僕は建て前で入社してしまい後悔している人間の一人なのである。


どうしても探偵になりたい、探偵になって人を救いたい、そう考えている人は是非とも本音と建て前を活用して立派な探偵になって欲しいと切に願う。


さて、事務所側からの尋問が終わると次は簡単なテストを受けることになる。

事務所によって違いはあるが、一般常識や地図を書かせるといったことは共通するだろう。

一般常識はかなり簡単なものなので全く問題は無いが、地図については見方、書き方、覚え方は勉強した方がいいかもしれない。

探偵になると知らない土地を歩き回ったり、車で走りながら、時には対象者の先回りをしなければならない。そうなると、いかに道を覚えるかが重要になる。

ちなみに僕は覚えられなくて苦労している人間だ。



簡単なテストが終わると、再度働く意思の確認がされる。それだけすぐにフェードアウトする人が多いのだろう。


再確認が済み、問題がなければ大体採用される。

探偵というのは、入口は広いが中はトラップでいっぱいである。

それだけの覚悟がなければボロボロになって戻ってくることになる。十分注意して臨んで欲しい。