忘れないでね 読んだこと。

せっかく読んでも忘れちゃ勿体ないってコトで、ね。

Iターン 読書感想

タイトル 「Iターン」(文庫版)
著者 福澤徹三
文庫 402ページ
出版社 文藝春秋
発売日 2013年2月8日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

・「すじぼり」
・「怪談熱」


<< ここ最近の思うこと >>

金をガッツリ稼ぐならどんな仕事をやればいいのか?もちろん資格や学歴なしで。
漫画「GTO」ではマグロ漁船で働く鬼塚が描かれていて、時代が進んだ昨今の漫画「ウシジマくん」では板橋が蟹漁へ身売りされていた気がする。もうないだろうけど、一時期は原発作業員で稼がされるってのもネタとしてあったようななかったような・・・。
はたして次はどんな仕事が現れてくるんだろうねぇ、危ない仕事をしなくて済むようにお金は大切に使いましょう。

てなわけで今回は福澤作品の三発目。
極道青春モノ、怪談モノときてこれから読むのは新たなカテゴリーの極道サラリーマンモノだ。
なんかどこかで聞いたことのあるタイトルだけど思い出せない、と思ったらドラマ化しているからCMとかで名前を聞いてたのかも。メディア化に恵まれている作家さんだなぁ。
ではでは、会社とヤクザの間で揉みくちゃにされてももがき続ける中年男性を刮目するぜ(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

広告代理店に勤める47歳マイホーム妻子持ちの狛江は、人生初の単身赴任を言い渡され北九州市のQ市へ向かう。
不況のあおりを受けた広告代理店の中でもQ支店はリストラ対象の弱小支店で、狛江は会社から見捨てられつつあることを確信した。
自分の築き上げてきた人生を守るために業績の回復を目指す狛江だったが、強引なやり方が祟って間違った広告が流れてしまう。しかもその顧客がヤクザ組だったので無茶苦茶な謝罪金を要求される始末。
会社にも家族にも知られないようカード会社で金を作った狛江だったが、その翌日に今度は違うヤクザがQ支店に押しかけてきて責任者を出せと吠え立てた・・・。

文化果つる地、田舎っすから、5本だな、お前を売って銭を作る、ホルモン道場、お前は即逮捕じゃ、蟹や、スターダスト、おぞましい写真、当番、陰険な気持ち、赤い染料の殺人、表の顔ばかりじゃないよ、エス、失格だな、拳銃密売事件、ないけどあるよ、C4、カチコミ、旨いッ、ぶち殺してやる、辞令、こういうときのために、単身赴任や・・・。

本社の上司からはリストラのプレッシャーをかけられて、ヤクザ組の対立に巻き込まれて、警察からも目付けられて、家族も部下も頼れない狛江はどんどん危険なドツボにはまり込んでいく。
絶望の中を歩き続ける狛江に未来はあるのか!?


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///記録こそ最大の防御///
竜崎とDM仕事の打ち合わせを終えた狛江は、岩切への金を用意するために融資をしてほしいとお願いする。ことの経緯を聞いた竜崎は、岩切相手に金など払う必要はないと言い切った。
87Pより。
―――「あいつとの会話を、ICレコーダーか携帯で録音しろ」
「えッ」
「恐喝の言質をとって、警察にチクるんだ。それでいっぺんにカタがつく」―――
なるほど録音ね!読んでいておじさんも狛江と同じようにワタワタした気持ちになっていて思いつきもしなかった。テンパっている時っていい考えがまったく浮かんでこないよね。
今ではドライブレコーダーが当たり前の時代。
今後は一人に一台の常時レコーダー装備が当たり前になってくるのかも?

///知られざる極道の世界///
ヤクザ事務所にて初めての当番をした翌日、狛江はやけに旨い朝食をとりながら部屋住みヤクザの桜井や、他の組員に極道社会のルールや常識を教えてもらう。
198Pより。
―――「この世界じゃ仕方ないんです。組を移ったら、ほとんどは一から出直しです。それでも家業を続けられるだけましで、破門や絶縁になったら、どこの組にも入れません」―――
極道系エンタメ作品の中でよく破門やら絶縁やらという言葉を聞くけど、まさかこんな意味があったなんて知らなかったわ。一般人の世界に順応するか一匹狼で裏社会を生き抜くか、どちらにしても相当に辛い思いをするだろうなぁ。

もひとつコチラ。
200Pより。
―――つるつる男はお辞儀について熱心に解説をはじめた。つま先は開き気味に、両手を膝にあてて、直角に腰を折って頭をさげる。その際に眼は正面を見ろという。―――
極道系エンタメ作品の中でよくみる独特な姿勢の挨拶にはこんな理由があったのね。
身内の者以外には一切隙を見せてはいけない、常に臨戦態勢であれってことか。
なんだかお侍さん時代の名残り味を感じる。

///言われてみればたしかにどうなんだろう///
祇園祭を控えたある日、当番をしている狛江は突然拡声器から放たれた大声に驚く。
暴力団追放を叫ぶ群衆を眺めながら西尾が語る疑問に耳を傾ける狛江。
250Pより。
―――「でも、暴力団は悪い、だから街をでていけっていうのは思考停止ですよ。外の連中がやってることも一種の暴力ですが、当人たちはそれに気づいていない」―――
物理的な暴力と精神的な暴力、多数派への便乗、ことごとく排除する論理、なるほど確かにヤクザも一般人も「暴力」ってのはどこかで一様に使っているんだろうね。
最近はドラレコの普及によってヤクザまがいのことをする一般人がポンポン発見されるようになってきたし、その反動で反社会的勢力の人たちをもっと一般人が叩き付けて・・・。
でも反社会的の人たちが一切悪くないかと言われるとそーでもないわけで、なんだかなぁ(´-ω-`)


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///読書好きとしては信じられない行動///
のぞみで東京からQ市に向かうまで五時間弱かかる為、買ってきた週刊誌や文庫本に目を通して時間を潰す狛江。
11Pより。
―――時間潰しに文庫本も買ってあるが、シークレットなんとかという題名からし推理小説かと思いきや、念じれば幸福になれる、などと教訓めいたことが書いてある。―――
小説好きのおじさんからしたら、こんなのあり得ないような選び方でしょ。
普通は裏側に書いてあるあらすじだとかを確認して選ぶもんじゃん。
わざわざ推理小説っぽいの選ぶくらいだから、狛江は少しくらい読書を嗜む人間だと思っているんだけど、出発までに時間が無くて急いでいたのかな?

///何かありそうな気がする///
岩切に指定されたミニクラブへやって来た狛江と深町。
不安になる外観とは違って店内は洒落た作りになっており、接待する女性達もレベルが高い。
二人を出迎えたのは背の高い切れ長の眼をした美女だった。
151Pより。
―――ボックスに腰をおろすと、女は万事心得ているといいたげにウィンクした。深町に差しだした名刺を横目で見たら、彼女がママの麗香だった。―――
スターダストのママである麗香と岩切の間になにがあるのか、あったのか気になるね。
二人が直接なにかを話していた場面はなかったと思うけど、おじさんの考えとしては岩切は麗香を大切に思っていて、麗香は岩切に惚れている・・・なんて浅はかすぎる妄想をしながら読んでいたはぁ。
その辺についてもいつかどこかで、ふらっと語られたりするんだろうか。

///これも極道の流儀?///
岩切に指示された通りスターダストへ出向いた狛江は、立て続けに起こる事態に驚きながらも理解していく。そしてすべてが終わった後で、岩切は狛江と盃を交わした酒を用意するように指示した。
391Pより。
―――「この酒でした」
意味がわからぬままにそういうと、岩切はボトルの首を逆手に握った。
殴られるかと身構えた瞬間、―――
岩切が行ったこの行為に一体どんな意味があったのか気になったので調べてみた。
おそらくなんだけど、「水杯」って儀式だったんじゃないかと思う。闇金ウシジマくんにも出ていたな)
いやぁ~、一切何も語らない岩切の漢っぷりに痺れるねぇ。


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
最初から最後まで狛江の一人称視点で語られる作り。
北九州にあるQ市ってとこが舞台なんだけど、ヤクザ文化の濃い地方都市という設定どおり欲望と危険が潜む街って雰囲気がよく伝わってくる。北九州地方にお住いの方の人ならどのあたりかわかるのかな?

おじさんは中間管理職でもないし家庭も持っていないけど、狛江と年齢が近いこともあって常にシンクロ率80%超えでハラハラドキドキがたくさん味わえた。
特に仕事関係のトラブルが起こる場面なんて、狛江のストレスに共感しすぎて内臓が重くなってしまうくらいだよ。

///話のオチはどうだった?///
今まで読んできた福澤作品と比べるとかなりマイルドで大円団って感じの結末になっていた。
(でもまた大問題になりそうな要素はしっかりのこっているけど、読者としては楽しみ要素の一つだね)
こんな晴れやかな物語も悪くない、アリですな。
さすが極道ジャンルのプロである福澤徹三
ヤクザ社会とサラリーマンの結末として、ちょうどいい落としどころを用意したって感じかと。

基本的に狛江視点だから『Iターン』は最後まで大衆向けに感じたけど、作中の見えないところでは『すじぼり』のような恐ろしい事がきっちりと行われているんだろうなぁ。
チラリと見せるリアルな暴力の影にヒヤッとさせられたし。
297Pの階段を使った制裁場面とかね。

///まとめとして///
ヤクザ社会と普通の会社、どちらが良いかと聞かれたら平凡なサラリーマンを選ぶけど、そっちのほうがマシってだけでやってることはヤクザもリーマンもあんまり変わんないじゃないのって思った。
やっぱり事業主、自営業が一番なのか?なんにせよ属するのは自分自身だけでいい。
学生を卒業して社会人になったみなさん、理不尽な世間に揉まれて自分を見失っていませんか?
ヤバイもう限界ってなったら後先考えずIターンしてみると、案外うまく回るかもよ。(うまく回らない場合がほとんどかも知れないけど)

暴対法が施行されて暴力団はなりを潜めたけど、いなくなったわけじゃないんだよね。
街には半グレが増えたり外国人犯罪が目に付くようになってきた現在、日本の治安は今後どうなっていくのかね。良いヤクザだけ残ってくれたら助かるんだけどそんな都合のいい話は・・・あ、それが国営ヤクザと言われる方々なのかな?
いつも国民と国家の治安と平和を守っていただき、ありがとうございます(`・ω・´)ゞ

ではいつもの〆で。
濃厚な香りの豚骨ラーメンを平らげてから、レバ刺しをしゅるっと口に入れて生ビールをグイっとやりたくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

なんと『Iターン2』という続編があるみたいで。
本編ではあーゆー終わり方をしたから、狛江さんはきっとまたトラブルに巻き込まれるんだろうなぁ。

『Iターン』はムロツヨシ主演でドラマにもなっているみたいね。
ムロツヨシは狛江のキャラにピッタリ合っている気がするけど、もう少し老けた感じが欲しいかも。
岩切はもう少し大柄な役者の方がイメージにあるような。
でもなんだかんだで、機会があれば見てみたいドラマですたい。

155Pより。
―――「本日はお忙しいところ、お運びいただきまして、誠にありがとうございます。不肖、深町智博、ただいまより死人のカンカン踊りをご覧にいれます」―――
「かんかんのう」は日本の俗謡で、江戸時代から明治時代にかけて民衆によって広く唱われていた。
別名「看々踊(かんかんおどり)」っていうみたい。
落語の「らくだ」にて語られるのが死人のカンカン踊りってやつみたいで、そういやアニメ「うちの師匠はしっぽがない」でもやっていた。
どんな踊りなんだろうか、九州の人なら知っているのかな?

233Pより。
―――「わしの舎弟が銭貸しごときにイモひくんかい」岩切の台詞が終わらぬうちに、ごきん、と頬が鳴った。―――
「イモを引く」とは怖気づいて尻込みする、及び腰になる、という意味で用いられる言い方。
暴力団がらみの業界用語で、芋の蔓を引いてへっぴり腰になっている姿になぞらえた表現とのこと。

263Pより。
―――「お客様がご注文になったのは、ドンペリのエノテーク、俗にいうブラックでございます。原価でも四万円ですので、良心的なお値段かと—————」―――
ドンペリ エノテーク」とはシャンパーニュを代表する大手メゾン、モエ・エ・シャンドン社が世に送り出す、プレステージ・キュヴェのドン・ペリニヨン
ドンペリニョン自体が良いブドウが収穫できた年にしか作られないのに、エノテークはその中でも特に優秀なブドウを使って長期熟成させて作る最高の作品とのこと。
うーん、宝くじさえ当たればおじさんも飲んじゃうよ(´Д`)

274Pより。
―――「さっきの無銭飲食やけどな」城島がにやにやしていった。―――
無銭飲食における詐欺罪になるほど。
お会計の時に金が足りない!って気付いてもとりあえず詐欺罪にはならないのね。
もし焦って逃げたとしても現行法上では特に犯罪が成立するわけではないらしい。(実際の所どうなのかは不明)
けれどそんなことはしたくないから手持ちの金には気を付けよう。

360Pより。
―――「そいつはミルウォール・ブリックちゅうて、即席のメリケンサックや。もとは第二次大戦中にアメリカの諜報部員が考えたもんやが、最近はテロリストやフーリガンが使っとるらしい。おまえの腕力でもチンピラくらいは倒せる」―――
Wikipediaには「ミルウォール・ブリック」がサッカー試合から使われ出したって書いてある。
メリケンサック的に使ってたけど、棒状や塊状態にして使ったりもするのね

391Pより。
―――ボトルの文字に目を凝らすと、リシャールヘネシーだった。高級クラブでキープをしたら百万円はするという、バカラ社製のボトルに入ったブランデーである。―――
ヘネシー リシャール」はヘネシー社が誇るフラッグシップコニャック。
100年以上熟成された原酒を100種類以上ブレンドし、複雑極まりない至高の味わいへと昇華させたコニャック界最高峰の1本となっているとのこと。
宝くじが当たったら、高級クラブで堪能してみたい一本だはぁ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
殴るシーンで印象的なのは漫画「ろくでなしブルース」に描かれていた前田太尊のパンチね。
殴った相手が勢いで一回転してしまうほどのパンチって、そんなの死んじゃうでしょうに(笑)
でもめちゃめちゃカッコイイのよ痺れるのよ。(たしか葛西編だったような気がする・・・)
やっぱり絵にはノリと勢いってのが大切なんだなぁ~、なんて思い出に耽ったり(;´∀`)


374Pより。
―――「おれの部下を首にするのは、おれが許さんッ」狛江は喉の奥から絞りだすような声で怒鳴った。次の瞬間、高峰の顔めがけて、思いきり拳を打ちこんだ。―――

 

 

夏の口紅 読書感想

タイトル 「夏の口紅」(文庫版)
著者 樋口有介
文庫 280ページ
出版社 角川書店
発売日 1999年9月1日

 


<<この作者の作品で既に読んだもの>>


・「風の日にララバイ」
・「遠い国からきた少年」
・「少女の時間」
・「風景を見る犬」
・「魔女」


<< ここ最近の思うこと >>

女性と映画を見に行く時ってどんな作品を選べばよいのか?
おじさんの記憶を探ってみると『ターミネーター4』、『スカイクロラ』、柳広司の『ジョーカーゲーム』、『カイジ2 人生奪回ゲーム』ってなもんを観に行った覚えがある。
(ちなみにその時の女性らとは何の進展もなく・・・)
初デートで映画は止めておけと知り合いから聞いたけど、なるほど確かにそれほど盛り上がらない。
トーク自身アリな陽キャだったら問題ないだろうけど、陰キャ気質の男性は場を盛り上げられずにデートが終了してしまう。ならシャレオツな作品だったらいい雰囲気になるのかな?
いやそれ以前にある程度の仲になってから映画デートしろってことなんだろうけど、じゃあある程度とはどれくらいってなるわけで、まずある程度仲良くなることがすでにハードルで・・・(´-ω-`)

はい、つーわけで今回は樋口有介作品を読んでみよう。
2022年の11月で夏は過ぎてしまったけど読書の秋だから問題ないっしょ。
ではでは夏休み、美女、青春の黄金比で構成された樋口ワールドへいざ飛び込むぞい(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

母親と二人暮らしをしている大学生の笹生礼司。
デザイナーの香織という年上の彼女もいて、始まったばかりの夏休みは穏やかに過ぎていく。
かと思っていたら、十五年以上前にいなくなった父親が死亡したとの連絡を受ける。
葬式を上げた高森家を訪ね二つの遺品を受け取った礼司は、もう一つを姉の方に渡して欲しいと頼まれてしまうのだが、礼司は今まで実姉の存在など一切見たことも聞いたこともない。
その日から名前すら知らない姉探しが始まった。

わたしが誰とフィジーへ行くか、やばい気配、あんたも知らないのかい、ばかでかい蝶、今夜のお祝いは盛大に、日本ミノムシ学会、蛸の生殖行動、わたしの運命ね、迷い蝶、夏の色だし、デートの礼儀、今夜は帰らないで、仏滅なのよねえ、男を見る目、資質、ルール違反、頑張ってちょうだいね、だいっ嫌い、宿命的な相性・・・。

適度な距離感でお付き合いしている美脚の美女香織と、高森家で知り合った無口過ぎる美少女の季里子。二人の存在にゆらゆら迷いながら礼司はほとんど覚えていない父親の痕跡を訪ねて、見たこともない姉に珍妙な遺品を渡す義務を全うしようとする。
大学三年生の笹生礼司にとって、初体験の夏休みが始まろうとしていた・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///無口系ヒロイン高森季里子の魅力///
本作ダブルヒロイン?の一人である高森季里子。
不登校の女子高生でちょっと病気?のある無口な美少女の魅力にやられちゃった。
個人的にグッと来た場面を紹介いたす。

初めて高森家を訪れた礼司は季里子に案内されて、父親の周郎が使っていた部屋に通される。
無口な美少女だが、意外にも反応はしっかりしてくれるし意思の疎通も文字で答えてくれる。
そして年齢を訪ねたときついに・・・。
44Pより。
―――鉛筆を握った季里子の細い指がこまかく震えて、もう少しで便箋に文字があらわれるかと思った瞬間、意外にも飛び出したのは文字ではなく、ちょっとかすれた、小さい拗ねたような声だった。錯覚でなければ季里子は自分の口で「十八」と言ったらしかった。―――
ハイでましたよ季里子カワイイ(*´ω`*)
何考えてるのか全然わかんない女の子が急に頑張って喋ってくれた瞬間。
この時点でもうおじさんはハートブレイクしちゃいましたわ。
でもなんで初めて会った礼司に対して急に喋ったりしたのかって?それは後々に明かされるから読んでのお楽しみよ。

続いてコチラ。
季里子と原宿デートをする約束をした礼司は、待ち合わせ場所に少し遅れてやって来た。ガードレールに尻をのせて一人でいる季里子は輝きを放っており、その気持ちを悟られぬようスラっと声をかける。
120Pより。
―――「デートの相手が遅れたときは、もう少し怒った顔をしてるもんだ」
季里子がガードレールから飛びおり、白い前歯を隠すように、口をへの字に結ぶ。―――
デート相手を見つけただけで嬉し顔しちゃうって、季里子ちゃんは犬かいなイッヌかいな(*´Д`)
きっと弾けるようなニコニコスマイルをブチかましてくれたんだろうなぁ~おじさんも見てみたかったなぁ~。その様子を描写するんじゃなくて、礼司のセリフで表現するテクニックも洒落てるね。

///強烈な個性の女達///
朝帰りをした礼司は、自宅で何らかのお祝い的な準備をしている母親を発見する。
ドレスのようなワンピース姿でテーブルに花を飾りワインを並べ、「新世界」を流しながらちょっとしたお祝いだと母親は説明する。
21Pより。
―――「あかかぶのケーキを焼いてみたの」
「なんのケーキ?」
「赤カブ、知ってるでしょう?よくお漬物なんかでいただくじゃない」
「そんなケーキ、なんで焼いたのさ」―――
もう見た目のインパクトが強すぎる礼司の母親はその性格もかなりクセが強い。
ケーキ研究家で赤カブを使って作ろうってのがまず凡人には思いつかないし、それから始まる過去の作品や厄介事を全部礼司に押し付けていくスタイルも非凡人の特権(笑)
ひとつ気になるのは、なぜ元夫をそれほどまでに恨んでいたのか憎んでいたのか、女心はわからんねぇ。

もう一人の個性強すぎおばさんがコチラ。
父親が最後に暮らしていた高森家にやってきた礼司。
二階から現れた少女に案内されて奥の部屋に入ると、見事に太ったおばさんが鎮座していた。
34Pより。
―――「初めまして、この度は父が、お世話になりました」
おばさんが、うーんと唸り、青や赤のおはじきみたいな指輪が並んだ指で、浴衣の襟をぱたぱたとふり扇いだ。首には犬の首輪かと思うほど太いネックレスが、異様な光を放っている。―――
またまたとんどもなく容姿のインパクトが強い女性がでてきたわ。
思わず思い浮かべてしまったのは「千と千尋の神隠し」に登場した湯婆婆だね。
客人が来るから宝石類を身につけていたのか、普段からそれらを付けているのか、とりあえず見た目通りの強烈な性格なのかどうかは読んでみてのお楽しみ。
読了後に読んだ米澤穂信の解説に納得だわさ。

そして思わずドキワクしたのが181Pでこの女性たちがいきなり対面する場面。
二大強キャラが出会うとき一体何が起こるのか、好奇心が膨らむし184Pのガチ動揺する礼司母も面白いし、ほどよい笑いを提供してくれる作りが素晴らしいわ。

///相変わらず羨ましい主人公の笹生礼司///
樋口作品の様式美、羨ましすぎる主人公設定をご紹介。
ただモテるからモテている訳じゃあない、その細かなテクニックを覚えておこう。

いつものように香織の部屋でまったりしている礼司は、少し前に二人で観た映画の感想を聞かれる。
映画に登場した二人の女性のうち、どちらが良いと思ったのか?と。
17Pより。
―――「礼司くんは、結局どっちがよかったの」
「画家と、写真家?」
香織がうなずき、その顔を見ながら、頭の中だけでぼくは深呼吸をする。―――
このあと礼司が返す言葉に脱帽したわ。なるほどこれは巧いごまかし方法だね。
こんな答えがスルっと出てくるような人間におじさんもなりたかとです(´Д`)
あと一緒に観た映画に対してあれやこれや感想を言い合うシチュも羨ましい。

続いてコチラ。
二人で原宿を散策し、季里子が下着を選んでいる間にプレゼント用の口紅を購入した礼司。
デイパックを背負ったまま荷物をしまおうとする季里子にたいして、礼司はアドバイスをするのだが彼女は頑として聞き入れない。
130Pより。
―――「わたし、背負ったまま物をしまうの、得意なんだもの」
面倒臭くなって、ぼくは季里子の頭に拳骨をくれ、怯んだ隙に、パンティーの紙袋と口紅の包みをデイパックへ押し込んでやった。―――
デートから帰って荷物を取り出していたら見慣れないモノが出てきて、中身は洒落た色の口紅だった時はアンタもう・・・男のおじさんが想像しても惚れてまいそうになるやり口じゃねえか!
こーゆーことがスラっと出来ちゃうなんて、笹生礼司・・・まったくスマートなヤツだぜ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///共通点が多い気がする///
樋口作品は前回『魔女』を読んだんだけど『夏の口紅』と似たような展開がちらほらとあった。みかんと季里子の性格やキャラクターとか、墓地でお話しするシチュエーションとか、251Pの展開とか。
偶然にも二つの作品を連続して読んでしまったからより一層強く共通点が気になっちゃったのかも。
まあ別に悪いって訳じゃないし、まるっきり同じでもないし、楽しめたから無問題なんだけどね。

///それほど重要アイテムじゃない?///
読み終えて思ったんだけど、タイトルにもなっている『夏の口紅』がそれほど重要アイテムって訳でもなかったように感じた。まあ作品タイトルが小説の内容とあまり関連性がないってのは珍しいことじゃないと個人的に思ってるしいいんだけどさ。
と言いつつネットで口紅をプレゼントする意味を調べてみたら、なんとなんとまさかそんな意味合いが!
ごめんなさいね、「夏の口紅」は充分タイトルに相応しい言葉でしたわわわ(^^;)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
「柚木草平シリーズ」と同じく最初から最後まで笹生礼司の視点から第一人称語りで進んでいく作り。安定した読み心地でちょっとしたミステリー要素?が含まれている本作にはぴったりのスタイルだね。

今回も夏の情景や東京の街並みの描写がしっかり語られている。昔は細かい風景描写とか苦手で読んでいても退屈に感じたけど、今では想像しながら読むゆとりが持てている気がする。
樋口作品の新作がもう世に出ないと知ってしまったから、少しでも味わって読んでおこうって思考に切り替わったのかもね。

///話のオチはどうだった?///
殺人事件があるわけでもない、推理とかがあるわけでもない。だけど小さな謎だったり想定外の展開などはしっかり組み込まれていて、終盤には諸々の風呂敷もしっかり語られて畳まれている。
詳しくは言えないけど、色々なことが判明する場面がまたおセンチな気分にさせられるのよ。
さすが男性向けロマンス小説作家だね。(←個人的に勝手に思っているだけなんです)

あと小説全般に言えることだけど、最後の締め言葉はその本の後味を決める一手だからめちゃめちゃ重要だよね。『夏の口紅』はそこんところも良かった~。
若者の未来と胸躍る夏休みが一気に広がるイメージが湧いてくる、印象深い締めだったよ。
読み終わって思わず聴きたくなったのがゆずの「夏色」とか織田哲郎「いつまでも変わらぬ愛を」だね。
つーかこれらの曲は大体どの夏系作品にも合うか(笑)

///まとめとして///
ちょっと切ないけど爽やかに終わるこの物語。
でも柚木草平シリーズに慣れ親しんだおじさんにはもう少し苦味成分が欲しくなるかもって感じ。
よって樋口作品鑑定人(自称)として「夏の口紅」は・・・樋口小説初心者にお勧めしたい一冊かと!
もちろん既にに嵌ってしまった人にもオススメよ、若い頃のトキメキを一瞬でも思い出せるからね。
はぁ~、おじさんんもこんな夏休みを経験してみたかったわ(ノД`)・゜・。

上でも書いたけど、「魔女」と「夏の口紅」はなんだか似たお話で、詳しく思い出せないけど似たような小説がいくつかあった気がする。だから普通ならまた同じ展開かよって飽きてくるはず。
だけどおじさんの場合は1年くらい経つとまた似たような話が読みたくなってきちゃうのね。
中毒患者みたいにあの独特な文体を欲してくるのだ。
樋口有介にしか出せない雰囲気、世界感、後味がある。だから癖のある文章は強い。
解説では米澤穂信が「夏の口紅」の魅力について見事に語られておりますです。
(気のせいかもだけど、ホータローもどこか樋口作品の主人公に似ている?いや気のせいかな)
ではそろそろ、今回も作中の一品から。
ゴロゴロお肉のビーフシチューとフランスパンが欲しくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

8Pより。
―――ユニット式のバスタブは足がのばせるぐらい広くできていて、洗面台には薬草の石鹸や水歯磨やクレンジングクリームが散らばっている。―――
洗口液はすすぐだけで歯垢・口臭といった口内トラブルの原因となる食べカスやミクロの汚れ、ネバネバを洗い流してくれる。
水歯磨きはお口に含んですすいだ後にブラッシングして使用するみたい。
買う時は間違えないように気を付けよう。

13Pより。
―――香織が言っているのはぼくらが二時間ほど前に観た『存在の耐えられない軽さ』という映画のことで、そういえば香織はビデオを観ながら、主人公のトマシュに皮肉っぽい鼻の鳴らし方をしていた。―――
『存在の耐えられない軽さ』は1988年製作のアメリカ映画。 冷戦下のチェコスロバキアプラハの春を題材にしたミラン・クンデラの同名小説の映画化したもの。上映時間は171分とちょい長いようで。
洒落た映画をチョイスしてくるね~。

62Pより。
―――お袋はくどいほどカラオケを披露してくれたが、歌ったのは最初から最後まで『ラ・ノビア』だった。―――
「ラ・ノビア」はチリの音楽家ホアキン・プリエートが1958年に作詞・作曲した歌曲。本国だけではなくイタリアの歌手トニー・ダララや、日本の歌手ペギー葉山らがカバーし、世界中でヒットしたみたい。
歌詞の内容は、本意でない結婚を前にした女性の悲しみを歌っているとのこと。
うむむ、聞いたことない歌だわね。

187Pより。
―――「ねえ礼司くん、こちらの高森様、本郷に二つも家作を御持ちなんですって」―――
「かさく」とは作ってある家。特に、貸家にする目的で作った家。

189Pより。
―――「あたしが飲むのは実母散だけさ」―――
「じつぼさん」は数種類の生薬を配合した漢方薬
急な汗、ホットフラッシュ、イライラ・不安感、倦怠感・だるさ、肩こりなどのつらい更年期の症状にすぐれた効果を発揮するとのこと。命の母みたいなもんかな?

203Pより。
―――「あたしは巣鴨へ寄って、久しぶりにとげ抜き地蔵の塩団子でも食べて帰るさ。―――
巣鴨とげぬき地蔵通り名物の元祖塩大福みずの。
人気の秘密は小豆や餅の風味を生かした甘味と塩味の黄金比ってことらしい。
お餅と餡子の組み合わせは最強だわ。寒くなってきた今日この頃、熱いお茶と塩大福でほっこりしたいわ。
ところで塩大福ってやっぱりしょっぱいのかな?食べたことないのねよ。

216Pより。
―――「あなたの顔は絵に興味を持つ顔じゃないものね。増井さんもそうだったけど、あなた、プラグマチストでしょう」―――
「プラグマチスト」とは、プラグマティズムを信奉する人。 実用主義者。
実際に役立つことばかりを重視する傾向ってことなのかな?それなら絵に興味がないのも納得だわ。

237Pより。
―――礼司くんがその女の子に琺瑯のパーコレータをプレゼントしてあげて、それからあなたたちは映画を見にいった。あれは『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』だった。―――
マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は1985年のスウェーデン映画。
スプートニク・ショックに揺れ、ワールドカップに熱狂する1950年代のスウェーデンを舞台に、幸薄い少年の成長をユーモラスに描いている作品のようで。
学生デートでこの映画をチョイスするとは、中々に渋いセンスだ。


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
107Pのぽーんと帽子を放る場面もイイ感じだったけど、読んでいて思わずひやりとしてしまうニアミス場面をチョイス。修羅場の危険もあるけど一度くらいこんな経験もしてみたい!
年下キリコと年上香織、みなさんはどちらが好みだろうか?
個人的にはやっぱり香織派かなぁ~、しっぽり大人の魅力が好きですたい。
どちらにしても、今のおじさんにとっては年下になっちゃうけど。


149Pより。
―――そのとき、ぼくらの横を通った女の人の腰がテーブルに当たり、ちょっとぼくは、顔を上げてみる。女の人はそのまま化粧室へ歩いて行ったが、ぼくの背中には寒気のようなものが這いあがる。どうでもよくて、どうでもよくはないが、いったいいつから香織は、この店にいたのだ。―――

 

 

黒い仏 読書感想

タイトル 「黒い仏」(文庫版)
著者 殊能将之
文庫 317ページ
出版社 講談社
発売日 2004年1月1日

 



<<この作者の作品で既に読んだもの>>

ブログ始める前に「ハサミ男」も読んだ

・「美濃牛」


<< ここ最近の思うこと >>

既に書いたことかもしれないけど、スポーツ観戦をまったく嗜まないおじさん。
気まぐれに応援していたチームが負けた時はストレスが溜まるし、勝ったとしても喜ぶというより無事勝てたという安心感しか得られない。(今のところ)
勝敗がわからないから良い、その過程にある興奮が堪らない、勝った時の高揚感・・・これってギャンブルそのものなんじゃないかと考えてみたり。
ギャンブルもスポーツ観戦もしないおじさんにとっては理解不能な世界だなぁ~ってちょい待ち!
読書も同じじゃね?読んでみるまで面白いかわからないし、カネでは買えない時間を賭けているし。
そう考えるならば、読書本ギャンブルにおいておじさんは基本安牌よ。独自の感性で勝率は高いし、なによりトータルでは勝っている、はずだと思う。

そんなわけで、2022年の10月とは思えないほど夏日になった16日に読み始めた今回の一冊。
感想を書いている10月末になると、気温はがらりと変わって真冬のように寒い寒い。
まるでこの小説の始まりみたいな季節で妙な偶然を感じるような。
前回の『美濃牛』が気に入ったので続編を購入してみたけど、今度はどんな不思議と謎が名探偵を待ち受けているのか早くも期待に胸がドキドキしてくる。
ではでは、秘宝と坊さんと身元不明死体が絡んだ日本シリーズに沸き立つ福岡にいざ向かわん(=゚ω゚)ノ


<< かるーい話のながれ >>

亀恩洞の事件で名を上げた石動戯作の下に一件の依頼が入った。
ベンチャー企業の社長から受けた依頼は、九世紀に唐から日本へ持ち込まれた秘宝を探し出して欲しいという内容で、福岡にある安蘭寺のどこかに隠されているらしいとのこと。
魅力的な報酬額に釣られて依頼を引き受けた石動は、助手のアントニオと供に福岡へ向かう。
一方、同じ頃に福岡のアパートにて一人の遺体が発見された。
生活感もなく指紋も一切見つからない部屋で絞殺されていた遺体は、身元を証明するものが何もなく警察は手がかりのないまま捜査を開始するのだが・・・。

謎めいた経典、人影らしきもの、宝探し、被害者の顔、真の姿、黒い仏像、幸せになれたのよ、くろみさま、化けもん寺、山法師、地獄に住む虫、朱天下捕猛虎、イエロー・サイン、正義の定義、祝杯、ふざけた野郎だ、時間が停まった、本物の名探偵、母親の顔、荒唐無稽な話・・・。

石動の助手であるアントニオは、依頼主の社長に会った時から何かを感じ取っており、今回の依頼は石動だけで安蘭寺へ向かわせるのは危ういと判断し、珍しく仕事に同行することにした。
アントニオが感じ取ったモノ、それは名探偵や警察ではどうにもならない類の危険だった・・・。


<< 印象に残った部分・良かったセリフ・シーンなど >>

///名探偵の助手アントニオの魅力に迫る///
前作『美濃牛』にて、最後に登場した助手のアントニオ。
今回は彼の知られざる過去や人間性がしっかりと語られていた。
まずはコチラ。HWRテクノロジー社長の大生部に依頼内容を聞きに行った石動とアントニオ。「アントニオ」という名前と日本人的な見た目に戸惑う大生部は、その名前の由来について説明を受ける。
27Pより。
―――「本名は徐・彬と申します。へんてこりんな日本語読みすると、<ジョ・ビン>です。だから、大将はアタシのことをアントニオって呼ぶんですよ」―――
アントニオという名前から南米とか欧米系を予測していたのに、まさかの中国人だったとは(笑)
しかもその名前の由来も石動らしくて納得。
いつも飄々としていて掴みどころのない性格で、石動に負けないくらい音楽の知識も深く、それに何かしら察する能力も?
初っ端から好奇心が高まるキャラクターだね。

続いてコチラ。
安蘭寺の書庫にて秘宝の在り処を調べている石動に食事を届けに来た瑠美子。
石動の持つ書を覗き込む彼女と、美女の接近にどぎまぎする名探偵。
そこへアントニオが助け舟?を出した。
110Pより。
―――石動が困り顔でにじり下がったとき、アントニオが突然、口をはさんだ。
「おなかの子供はいま何カ月なんですか」―――
絶妙のタイミングで予想外の言葉を放つアントニオ、どうして分かったのか謎だけスラっと石動を助ける様がカッコイイ。
警戒心を抱くような瑠美子の反応も気になるし、何か訳知りな雰囲気のアントニオも気になるし~!
面白さがグングン高まってしまうわい。
何も知らない純粋な石動が愛らしく感じるよ(笑)

///映像が目に浮かぶような文章///
絞殺された身元不明遺体事件の捜査で、初期段階から壁にぶつかってしまっている福岡県警。
中村警部補は冷めかけたコーヒーを飲み窓の外に目をやる。
そこには巨大な日蓮上人が鎮座していた。
62Pより。
―――いまは、遠く爆音を響かせながら、福岡空港発の航空機が、日蓮上人の頭上、よく晴れた青空を斜めに横切っている。なんともはや、シュールレアリスティックな光景だった。―――
行き詰っている捜査に悩むベテラン刑事が、ふと窓の外を見ると巨大な大仏がコチラをどっしりと見据えていて、その頭上を航空機が爆音で過ぎ去っていく・・・完全にパトレイバーの刑事パート部分じゃないすかね?(ほんとに福岡警察署の窓から大仏様が見えるのか気になるけど確認の仕様がないので残念)
読んでいて思わずアニメーションが脳内に流れてくる。こーゆー味の染みた描写は大好きなのよ。
好きな文章繋がりで186Pの「リーズナブル」を使った皮肉表現にもニヤリとさせられる。
殊能将之のセンス、お気に入りだなぁ~(*´Д`)

///あれれ、物語がバグってるかも///
石動らと同じ宿に宿泊客として来た僧の夢求。
夕食を食べながら各々の目的を打ち明け、お互いに安蘭寺にまつわる品物を探しているのだと判明した。
そしてページは次へ移り・・・。
157Pより。
―――わたくしの役目は、本を閉じるにも、劇場から去るにも、もはや遅すぎると、皆様にお伝えすることです。―――
訳の分からないことが突然起こると人間誰でもぽかんとしてしまう。この部分を読み始めたおじさんも例外ではない。何がおこったの?何が始まるの?ってドキドキと不安と少しの恐怖が胸中に沸き立つのを感じつつ、落ち着いてゆっくり読み進めたわ。
この演出はほんと素晴らしいよ・・・・・からの~・・・なんだこれは!?
その先に待ち受けていたのは更なる混沌だった。
名探偵のミステリー小説なんでしょ、急にジャンル変わってませんかΣ(・□・;)
ヤバイよこの小説、もうおじさんは手遅れになり『黒い仏』の虜になり果てましたわわわ。


<< 気になった・謎だった・合わなかった部分 >>

///題名にもなっている仏像の謎///
住職の星慧に案内されて安蘭寺の本堂へやって来た石動とアントニオ。
須弥壇に並ぶ四体の仏像の一つ、中央の本尊は激しく損傷しており顔面は意図的に削り取られていた。
85Pより。
―――「おそらく、会昌の廃仏のときに、不敬の輩がやったのでしょう。仏難のおり、御仏のお顔が削り落されることは、よくあったんですよ。西城の摩崖仏にも、顔のないものがたくさんあります。なんともはや、畏れ多いことだ」―――
どうして仏像の顔が削り取られていたのか?
間違いなく物語の中心になるであろうキーアイテムなのだから、そんなことになった経緯とか理由があると個人的には思っていたんだけど、語られなかったってことは特に意味はないってことなのかな。
または星慧にもどうして削り取られたのかわからなかったということか。
う~ん気になるぅ(´Д`)

///その時、何がおこなわれていたのか///
ネタバレになるので詳しくは言えないけど、ある人物が時間つぶしの為にイエロー・サインへ出向き、楽しい時間を過ごしながら一夜を明かし帰路へとついた。
284Pより。
―――ハンカチを受けとり、頬についた血糊をぬぐった。若者は赤く染まったハンカチを捧げ持ったあと、ポケットにしまった。―――
ただの風俗店へ行ってなぜ血糊が付くのか?
この人物は一体どんなプレイをしてきたというのか、想像するにガクブルしてきそう。
まあ本編にはまったくと言っていいほど関係ない疑問なんだけど、こんな危険を匂わせる雰囲気を出されたら気になっちゃうじゃん。
(ひょっとして作中のどこかで語られていたりする?おじさんが忘れているだけかも?)


<< 読み終えてどうだった? >>

///全体の印象とか///
石動&アントニオの宝探し組と、殺人事件を追う刑事二人組を中心とした三人称視点で語られる作りで、その合間に他の登場人物達の三人称視点が散りばめられている。
まあ前作の『美濃牛』と基本同じだわね。

相変わらずするりと入ってくる文章が読んでいてい心地良く、思わずトロンと転寝しそうな気分になってしまうのはおじさんだけかな(;^ω^)
(つまんないとか退屈って訳じゃないんだよ!自分が文章の中に溶けていくような感じ・・・いや眠気じゃなくてね)
前作同様に音楽やスポーツや漢文やら、様々な小話がみっちり詰まっている内容。
こーゆー遊び心あるお話は個人的に好みだから受け入れちゃうけど、余計な話は省いて欲しいってタイプの読者にはオススメし難いかなぁ。

///話のオチはどうだった?///
身元不明死体の殺人事件については犯人もトリックも結末もきっちり説明されているからご安心を。
その説明に納得できるかどうかは人それぞれかと。
主人公である石動に関しても、『美濃牛』の時より名探偵として活躍していたと思う。
あんな推理を披露しちゃうんだから「一種の天才」と評されるのも納得かな(笑)

そんでもって、殺人事件よりももっとトンデモナイ事柄についてのオチは語られておらず。
むしろオチというか、終わりの始まりが静かに幕を開けて終劇ってやつだね。
なんなのこの『黒い仏』ってお話は!?普通にミステリー読みたくて購入した人はおそらく憤慨するんじゃないか心配だよ(; ・`д・´)
ちなみにおじさんはこーゆー系は大好きだから無問題よ。
一流のアカデミー賞受賞監督が作ったB級オカルト映画って感じでワクワクするし。

///まとめとして///
前回読んだ『ただ、それだけでよかったんです』の感想で、電撃ラノベでこんな話だったとは予想外って書いたけど、今回は名探偵が主人公のガチガチミステリー作品だと思ったら、こんな内容で大予想外。
これだから、こーゆーことがあるから、小説は読んでみないとわからないよねぇ(*´ω`*)
物語が面白いかどうか、合う合わないかは各々読者の運しだい。まさしくこれギャンブルじゃね?
もちろん今回もおじさんは「勝ち」ですわ。だって数百円と数時間でこんなにドキワク楽しめたし。

いやいや~これはもう完全に嵌ってしまいましたな石動戯作シリーズ。
もうすぐにでも続編の発注を入れておかないと。
好きになった作家には長生きしてもらいたいんだけど、そういう人に限って・・・なんでかなぁ~。
樋口有介先生に殊能将之先生、ほんと人生さよならばっかりだわ(ノД`)・゜・。
『美濃牛』の寄せ鍋に続き、今回は水炊き鍋をルビービールで堪能したくなる満読感、頂きました。
さぁ~て、次はどんな小説を読もうかな・・・。


<< 聞きなれない言葉とか、備考的なおまけ的なモノなど >>

ページ数のつかない最初に書かれている言葉。
―――ジェイムズ・ブリッシュに捧げる―――
ジェイムズ・ベンジャミン・ブリッシュはアメリカのSF作家で、ウィリアム・アセリング・ジュニア の名でSF評論家としても活動したらしい。
オリジナル作品では「宇宙都市」シリーズが代表作で、『悪魔の星』が1959年のヒューゴー賞を受賞しているとのこと。
殊能将之はこの作家がお気に入りだったのかな?

―――寒椿黒き仏に手向けばや―――
明治28年正岡子規が作った一句・・・なのかな?
弘仁6年10月15日未明に、巡錫中の弘法大師が四国にある常福寺を訪れた際、流行していた熱病を杖と共に土に封じ込めた。その後、そこから椿の芽が出たという伝説が残っているらしい。
1859年に火災が起こった時も、焼けた株から芽が出て今では立派な椿になっているとか。
殊能将之は何を思ってこの句を引用したんだろうか気になるね。

10Pより。
―――円珍は、円載が国清寺の広修座主から得た解答に不満を持っていた。―――
「広修座主」がなんなのかネットで調べたけどわからなかった。
国清寺の一番偉い人ってことなんかな?

16Pより。
―――半開きのドアから顔を出したのは、腰の曲がりかけた老人で、コールテンのズボンに古びた茶色の上着を着て、まだ左手にヴァイオリンを持っていた。―――
コーデュロイとコールテンは何が違うのか?
日本独自の加工をしているモノがコール天ってことみたいだね。

30Pより。
―――石動の脳裏に、小栗上野介埋蔵金を探して、赤城山をショベルカーで掘り返していたコピーライターの顔が浮かんだ。―――
1990年にTBSのテレビ番組『ギミア・ぶれいく』で、糸井重里を中心とした徳川埋蔵金発掘プロジェクトチームを結成、約2年半にわたって計10回の発掘作業が行われた。
自称霊能力者や大型重機などを使用してガンガン掘りまくったけど、結局見つからずチームもかいさんしたとのこと。
むかし何度もTVでみたことあるなぁ~、平成のテレビ番組って雰囲気だったなぁ~。

49Pより。
―――円載が狷介だったせいか、円珍が生意気だったせいかは、わかりませんけどね。―――
「けんかい」とは自分の意志をまげず、人と和合しないこと。

79Pより。
―――だが、星慧はすぐに察したらしく、呵々大笑しながら、―――
「かかたいしょう」とはからからと大声をあげて笑うこと。

93Pより。
―――「いったいいくらくらいするんだろう。黒瑪瑙の上に金で模様が象嵌してあってね、たぶん純金でしょう。チェーンもゴールドでした」―――
石英の顕微鏡的な結晶が集合して、塊状になっているものを「玉髄」といい、オニキス(黒瑪瑙)は、黒色の玉髄とのこと。
ブラックオニキスまたはオニックスとも呼ばれており、昔から邪念や悪い気を払う魔除けの石として用いられてきたようで。あと感情が乱れやすい人が身につけると気持ちの昂ぶりを抑制し、理性的になれるといわれているみたい。
おじさんも身につけておこうかなぁ。

108Pより。
―――「嘘じゃありませんよ。李賀は世界最初のデカダン象徴派詩人なんです。ヴェルレーヌボードレールより千年以上早く生まれています」―――
デカダン派とは19世紀のヨーロッパ文学、とくにフランス文学の中の文学運動。
デカダンス」という呼び名は敵対する批評家らがつけたものだったけど、後にはそれに属する作家が19世紀後期の象徴主義あるいは耽美主義運動に関係し、初期ロマン主義のナイーヴな自然観の上で巧妙さを楽しんだ多くの世紀末作家に対して、この名を使ったとのこと。
う~む、さっぱりわからん。アニメ『デカダンス』くらいしか浮かんでこない。

181Pより。
―――世間一般では、親不孝通りという通称のほうが、圧倒的に有名だろう。―――
親不孝通りとは、福岡市中央区天神北西部を南北に走る市道の通称である。
治安悪化から名称を「親富孝通り」に変更するも治安回復ならず、月日は流れて治安が良くなるも若者は減少し、昔から愛着のある「親不孝通り」にまた名称を変更したと。
呼び方を変えただけで問題がなくなれば苦労しないわな。

215Pより。
―――「なるほど。赤ビールだから、ルビービールですか」
「ええ。銘柄はベルギーのローデンバッハです」―――
ベルギーの西フランダース地方で造られる伝統のレッド・ビールの代表格で、レッド・ビール独特の軽やかでフルーティーな酸味と深いコクのある味わいってことらしい。
『彼岸の奴隷』に出てきた「アンカー・スチーム」に続き、また一つ飲んでみたビールが追加されてしまった。早く通販で発注しないとって思うんだけど、いつも先延ばしになってしまう今日この頃。

253Pより。
―――「浦上伸介先生に頼みたいよ。おまえ、『週刊広場』編集部の電話番号を知らないか」―――
『事件記者 浦上伸介』は2001年から2008年までテレビ東京BSジャパン共同制作で放送されたテレビドラマシリーズで全6回の番組。主演は高嶋政伸
「週刊広場」編集部と繋がりのあるフリー・ルポライターが、推理ではなく地道な取材で事件を解明していく内容みたいね。

270Pより。
―――いまこの瞬間も、天台座主殿は転法輪筒を前にして、降魔調伏を祈祷していると?」―――
被蓋を持つ筒状の容れ物は、国家存亡の際などに怨敵降伏のために行われる密教修法の折に壇上に安置される仏具で、筒内に相手の姿や名を記した紙を入れておくと、その相手が・・・。
まさしく特級呪物の呪い筒じゃないですかΣ(・□・;)


<< 作中場面を勝手に想像したお絵描きコーナー >>

今回はコチラの場面を描いてみた(=゚ω゚)ノ
171Pより。
―――「さあ、捕まえたっと。もう逃がさないわよ。うふふ」
上鳥瑠美子は名探偵石動戯作の背中に馬乗りになって、色っぽく笑った。
「アントニオ、た、助けてくれ!」―――


全く関係ないことだけど、会社のJapanese Hip-Hop好きな後輩に初心者向けCDを貸してもらった。
年を取ると趣味嗜好がどんどん偏ってきちゃうから、それを少しでも遅らせる為に未知のジャンルにちょっとだけ手を出すようにしているおじさんなのです(^^;)
今回の絵を描いている時にさっそく聞き流してみたけど、思ったよりも受け入れやすかった。
一押しされた「最近の若いやつは」って曲が前評判どおり一番良かったのん。
またいくつかオススメしてもらおうかなぁ。

Blue Moon

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