みずから書き、みずから滅ぶってこと。

中田満帆 / a missing person's press による活動報告

things for nothing

幻冬舎ルネッサンスの人間と喋った

送った本について話す予定だった

おれは長篇小説を以前、

講評してもらい、

その完成版を送ったんだ

ついでに詩集と掌篇集、歌誌も送った

日村勇紀の女版みたいな担当者と話した(以前の講評者はもういなかった)

たった15分で終わった

型どおりに褒められ、型どおりに商売の話

終わっておれは失望した

ほんとうに文学がわかる人間なんていないことに

金に飼い慣らされた豚どもしかいないってことに

出版業界が最近くだらない啓発本ばかり出版する意味がわかった

ともかくおれはそうして失望を獲得した

それでも電子版をだすことに

間口をひろげることに腐心した

以前、PDFで挙げた原稿が出来損ないだったから

全作品をKindleで販売停止した

なんとかPDFをEPUBにできないかと模索

でも、だめだった

諦めた

しかしおもいたって「一太郎 EPUB エラー」と検索

どうやら固定でなく、リフローにすればいいらしい

験しにやってみたら数秒で原稿ができた

ビューアで確認しても、そこそこうまくいった

惜しむらしくは画像の挿入が乱れることぐらい

読めた代物になってくれた

さっそく入稿

終わって一息

幻冬舎ルネッサンスからメール

見積もりで、電子書籍に¥2,000,000だとよ。

ふっかけすぎだ

莫迦らしい

金儲けしか考えらない阿呆だ

ひとはけっきょくブランドでしかものを買わない

本だってそうだ、どの出版社、だれの評価、そんなもので判断する
純粋に作品の内容、価値で判断できる人間はおれも含めてわずかなんだと

気づかされる

あーあ、またも胸糞だった

おれは読者を獲得するためにツイキャスをやることにした。

Alone Again Or

 

 折れた、
 夏草の茎の
 尖端から
 滴る汁、
 突然静かになった水場
 あのひとが愛の、
 愛の在処をわかっていると誤解したままで
 おれは死ぬのか
 麦を主語に従えた季節は終わって、
 世界の夏で、
 いまは微睡む
 そして無線の声
 "The less we say about it the better"
 でもちがうって気づく
 おれはあまりにも
 語りすぎたと
 いままでずっとそう、
 いまだってそう、
 そのまま埋められない距離を
 いやいやして応える、
 子供みたいに
 雲が鳴きだしたあたりで、
 ようやく針が動いた
 運命でもないひとのためにおれは多くを喋り過ぎた
 それがまちがいだと気づくのが遅れて
 この地平、その起源すらわからず、
 死んでしまうのか
 折れた、
 茎の
 尖端から
 滴る汁、
 静かになった水場よ
 産まれた場所には2度と帰らない
 舞踏病に罹ったハイカーたち
 バスのアナウンス、
 警笛の回数、
 永遠、
 そんなものを抱えて、
 去ってしまってしまうんだ、
 またひとりで。

 

   *

 

注釈:題名と最終行はLove”Alone Again Or”から。当初はキャロル・キングの”home again”を使う予定だったが、和訳を読んで断念。途中の英文はTalking Headsの歌詞から引用した。


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野菜幻想

 

   *


 夏の花おうまがときに咲き誇るパークサイドの街灯のなか


 まなざしの光りのおおく吸われゆく雨期の花咲くみどりの小径


 うそがまだやさしい真昼 緊縛のバニーガールをひとり眺むる


 歌碑を読む老人ひとり古帽のかげに呼ばれてやがて去るなり


 十七音かぞえながらか指を折るひとりの少女図書館に見る


 季語忘る冬のベッドよなぐさみにならぬあかときわれを焼くのみ


 視るたびに顔がちがってゐるくせにおなじ声音で話すかの女ら


 ところどころ干割れたるものわれに寄すわが誕生日なり 石眺む 


 そしてまた深き穴もて傷埋めんとするに落陽遠く


 おもいでもあらじといいてさみしさもうつくしいのはきみのやまなみ


 みささぎにかかる光りかおれたちの過去などまるでなかったようだ


 夏の夜の大聖堂の寂しさに祈祷台よりじっと手を見る


 海を売る少女ありしか炎天にかかる雲さえきょうは悲しい


 夏の夜の観察日記閉じられてたがいちがいに芽吹く朝顔


 かなたにて涙するひとひとりゐるそんな予感のつづく午睡よ


 宇宙という裁きもありぬ銀河にて名づけられたる朝の咎人


 愛すらも誤植に過ぎぬ真昼間の星を指さすような偽り


 われを験す使者ばかりなり平日の業務スーパー望む奇貨なし


 雨期だれを救わんかと口にするみどりばかりの激しい図鑑


 いまなれば紫陽花ひとつ好ましと撰ぶ手のひら光る貧しく


 下校する小学生の足ひかる露草色のためらいのなか


 われのみのひめごとあらぬ蟻塚のうえを流れる雲いつ滅ぶ


 灰語など舌もてあそぶ巡礼の角の女はひとたび嗤う


 ユカコ過去すなわちすべて蹴りあげるようでおもいつわれの実存


 夏の海 天金の書をいまだ見ず灯台守の男が消える


 光りやら暮らしもなくていよいよに昏くなりたるわれの祝祭


 待機する死のモジュラーよいままに吊さるるものに現在を捧げよ


 耿々と星の餉を漂えるぼくはいまだにきみを識らない


 夏の夜話 われらの未来なんぞ識る空中ブロンコ静まるばかり


 しかれども雲もはざまに現れる光りの道はすべてきみなり


 夏来たり葡萄の房よ別れすら愛しくなりぬ岩彩の色


 土地測るひとよひとしく貧しかる情景のなか失う釦


 霧の発つ湖水のまえで口遊むfOULの歌の歓喜はあらず


 まさにいま衣擦れみたくつづく朝 われは朝寝に見蕩れてゐたり


 うきわれを悲しがらせてひとりのみ餌をやりたり郭公たちよ


 沈む山 いま光りたり夏日照り男たち食む港湾労働


 うかりけるかの女の瀬波暴れだす住所不明の手紙の数多


 うしとのみおもえでひとり樹を掴む果実などなき枝のなかまで


 やがてまだ育たぬ果実うたがたも室の窓にて太りたるかな


 夏の野のきわみはまだか叢にぬいぐるみのみ朽ちかけてゐる


 幾千の記憶は呼びぬ幼さ日のなづさいしものいまはなかりき


 真夜沈む冷蔵庫や魚光る われはや恋いむかの女の電令


 語りとは声の残滓かものがたるひとのかげ読む通訳士たち


 くだる坂 性格なんて知りはしないやつを忘れて駈けだしたりぬ


 沖つかぜ われの風街吹くときを待つはやさしい午後の潮鳴り


 かぜまじる初夏の嵐よひとびとの営みなどがわれを惑わす


 大石の夜が暮れゆく由良之助などと渾名すパンピーの群れ


 花くさしみどりもあらじ荒れ地にて入れ眼のひとつ土に植えたり


 かぜわたる 区画整理の跡地にて老夫のひとり杖を投げたり
  

 海濁る 澱のなかにてわれを見るような仕草よさらばさらばか


 かこつべき父よあなたの海路にはもはや愛しきものなどあらず


 かごやかなりぬひとの世ばかり不燃物残されてきょうも生きぬ


 とことわの花野のありしか炎天の素人土工の頭蓋啼きおり


 わが水の深さたしかむ両の手よだれに与うかこの千百秋を


 陽はやさしこの生き方がつづくかといつものようにうつむく午よ


 終わりなきものなどあらず冷凍の鰯の頭噛みつぶすなり


 遠くとおくいおえなみする海よまだ飛び落ちるには温かいかな


 花々に教わったのだ 再会がおきえぬことが未来であると


 青嵐来るにまかせて夏草の束をくすねてわれを慰む


 やまなみに光りが降りる せめてまだきみの在処をめぐってゐたい


 かたっぽうの足を鳴らして待っていて いますぐ夜をつれてゆくから


 老犬のまなざしやさしおれがいま犯した罪をなだめすかすか


 亡霊一家 闇の手配師 ちぎり絵のなかにまぎれて輸出されたし


 ベルボトム逆さに吊す夏の夜の卑語のごとくか愛しきものら


 はつ夏の水を眺むる凡夫たるゆえを知らぬか布引の滝よ


 歌碑めぐる道は険しくつづくものやがて来りぬ死者たちのため


 主はいつも留守なり この庵にたどり着くものに否を告ぐため


 われもまたあたまさげさしひとにみな死ねと祈りし清正人参


 道泥む テールランプの群れがいま花の季節に踏みとどまりぬ


   *

 

注釈「野菜幻想」とは寺山修司による『詩学』の第一章である。以下に収録。

父殺し [04/14]

 


  詞書 此処に至っても、いまだ父を殺す夢を見てゐる


    *


 うつくしき仕事ありしか夏の日の父を殺せぬわが夢の果て


 ジャン・ギャバンの左眉かすめていま過ぎる急行のかげ


 地球儀を西瓜のごとく切る真昼 夏に焦がれた蟻が群がる 


 老犬のような父あり土を掘るだれも望まぬ無用のおとこ


 ヴィジョンなき建築つづく旧本籍地 夢の家なぞ落成はせぬ


 わが父の叱声やまぬ朝どきよ「にんげんやめて、ルンペンになれ!」


 薪をわる斧さえ隠語 ときとして虚にはあらざる代理の世界


 父さえも殺せぬわれをあざけりし世界夫人のエナメルの靴


 ポンヌフと渾名されてひさしい電話を手にひとびとの分断つづくものよ


 文学など識らないくせに語りたがる父の背中に降りる大雲


 水準器 水のなかにてゆるれもの示せるものみなわれを統べるか


 父殺し謳うよすがに残るかな数世紀もの猫の足痕


 男とう容れものありば生きる死を抱えてなおも夏日はきびし


 「父に似し声音」といわれ戸惑えるわれのうちなる血の塊りよ


 鏡わる 季節のなかの呼び声はいずれもだれのもまぼろしでなく 


 足の爪剪る真夜中にふとおもう遺影のなかの父の二重瞼を


 ドニ・ラヴァンを兄と呼びたきいちじつを生きて羞ぢることもなき夏


 わが死後に驕る父あり ひとびとの頭上をまわる薔薇卍かな


 少なくていいのだ だれも引き受けぬ如雨露のなかの残り水など


 「朝鮮!」と罵る父よ わが胸の38度を超ゆる夏蝶


 抱えては深くジャンプす 死の色はみなおなじなりあじさいの束


 やがて世が夢だと気づくこともあれ 革財布に護符を入れたり


 「死にたければ死ね」という声がしてふと父を懐かしむなり


 醒めてまだつづく夢あり 血だまりのなかに降り立つわが天使たち


   *

 

父殺し

父殺し

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ベルモンドの唇 [04/13]


   *


 ながゆめのねむりもさめて梁あがる涙まじりの淡いため息


 去るひとよものみな寂しかたときも放さなかつた希みもあらじ


 意味論のむいみをわらう線引きの多き書物の手垢をなぞる


 夏よ──ふたたび駈け抜けん未勝利レースきようも観るのみ


 桃のごと手のひら朱む水場にてだれかがいつたわるくち落とす


 アレックス夢見る真昼最愛もなくて贖う「汚れし血」なぞ


 鞭のように蛇ぶらさがる樹木あり「美少女図鑑」ふと落としたり


 はつ恋のような初夏汗滲む肉慾はなし さらば青春


 来訪もあらず室にて梨を食むこのひとときのむなしさを識れ


 方代の額髪青き時代なぞ午睡のなかにひとり現る


 雨踊る駅まで趨る終列車到着時間ぎりぎりの脚


 大父の死に誘われてひとり立つ断崖ばかり果てもなき夢


 日向にて游ぶおもいでひとり出の夏の真午に辞はあらぬ


 青草の臭うゆうぐれ敵と見てわれを襲うか椿象の群れ


 よごがきの思想ばかりが照らされて拝むひとあり 神の莫迦珍


 それだけのこととおもってあるきだす夏帽ひとつからつぽにして


 水交じる場所を求めてあじさいの束を抱えて急ぐ老母よ


 くりかえしあなたのいつたことをいま録音してるいちまいのレコード


 つむじから虫が鳴いたよ 縁日の夜がふたたびきみを呼ぶのに


 だとしたらきみのテレビを破壊する ようでやらない時計が止まる


 からみあう壮暑の吐息 室外機 おれがゐなけりゃただのおんなだ


 トム・トムの皮が剥がるる夜ふかくいつか遭つたねあいつの悲劇


 「まけいくさならば戦え 誉れなどなくていいよ」はおまえの美学


 このままに死ねたらいいな夏あざむ冷やし飴降る午後の弔問


 J・P・ベルモンドの唇のような花肉ひらかれており旧県庁前


   *

 


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