しろくまの缶詰

人には言えない本の感想などを書いていきます。

桜庭一樹『私の男』 大好きなのに憎い

 ネタバレ注意!!というかネタバレしかありません!!

 

私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

 

 

 

 この桜庭一樹『私の男』直木賞受賞、映画公開と結構有名な作品なのですね。私は割と最近知りました。そもそも知ったきっかけは、YouTubeにあがってた映画のCMからでした。なんだこのアブなそうな映画!見てみたい!と思ったまますっかり忘れ、原作小説のほうに図書館でばったり会って、初めて内容を知るに至りました。そのときに、えっ桜庭一樹のだったの?!ラノベっぽい作風じゃないの!?と思いました。なにしろ桜庭一樹は、『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』しか読んだことがなかったもので…

 

私の男

私の男

 

  私はこういうの好きです!!どろどろしたの大好き!!読んでて、絶対人を選ぶ作品だなとはお思いましたが、読後に感想を見ましたら、やっぱり、気持ち悪い等の感想多数…ですよねー  近親相姦だし、まあでも最初は、そうは言っても育ての親とだしなーとおもってたら実の親子だし、二人とも確信犯だしで…そりゃそうだ 大塩さんに「ありゃあ、獣のすることだ。」と言われてしまうのも宜なるかな でも、だって、だからこそ、好きなんだもん!みたいな。思いの強さは誰の目にも明らかでしょう。なりたいとは思わないけど、異常な関係ゆえの異常な愛みたいなものにあこがれる。そういう人もいるんじゃないでしょうか…えっいるよね?

 そんなにも淳悟のことが大好きな花ですが、時がたつほどに"憎い"と言う感情を持ち始めます。私はここに引っかかりました。大好きと憎いと言う相反する感情を持っているのは何なのか?以下考察のようなもの

 まず、好きのほうから。そもそもなんで好きなのか。震災のひどい状況から助け出してくれ、衣食住を与えてくれたとしても、結局淳悟が花にしたことはレイプと言えなくもないわけです。淳悟がしたことは社会的に見てひどいことでしょう。しかし、当時9歳の花にそれがひどいことで、いけないことだと分かるでしょうか。なんとなくは分かるかもしれませんが、むしろ(友人関係についての記述はありませんので分かりませんが)家族からも疎外感を覚えていた花にとって、そんなスキンシップをとられるというのは、他者と親密な関係になることはむしろ嬉しいことだったのではと思います。そして淳悟は花を選んだ、と言うこと話たびたび口にします。淳悟は花にとって、初めて親密な関係になた他者といえるでしょう。初めての男とでも言うべきでしょうか。(最初で最後の、になるでしょうが)そりゃあもう死ぬまで、死んでも一緒にいたい、何をされてもかまわない、と思うのも当然です。両親に愛されなかった(たぶん)ゆえに異常ともいえるほどに好きになってしまった。

  さて、そんなに淳悟のことが大好きだったのに、時がたつにつれ憎しみが生まれていきます。なぜか。それは、花自身、またそんな大好きな淳吾との関係を普通でなくしたからだと、私は思います。成長するにつれ、父を愛する(恋愛的な意味で)と言うことは普通ではないと言うことを花自身実感していくでしょう。それゆえに自分は普通ではない、汚れているからみんな(章子たち)とは違う、そんな自覚が引っ越し直前、章子に本当のことを話せず、結局生涯誰にも本当の意味で心を開くことが出来なくさせてしまったのだと思います。(本文にこんな記述はありませんがおそらくそうなのではないかと)自分を普通ではなくしたのはほかでもない淳悟です。また、あんなにも大好きな淳吾のことを普通ではない関係ゆえ、誰にもいえなくしたのも淳悟です。そして二人の関係は非常に閉塞的なものになっていきます。自分にはあなただけ、あなたにも私の代わりはいない。熱に浮かされているときはとてもとても甘美かもしれませんが、そんなにずっと同じ感情を抱き続けることは困難です。熱が冷めて、普通へのあこがれが芽生えてきたらそんな関係ははっきり言って重いでしょう。普通になろうとして結婚して… くっつこうとしたり離れようとして疲弊して、絡まってとれなくなって、二人ともだめになってしまう。作中にあったチェインギャングそのものです。

 

書いてみると書くまでもなかったなという感じですが…

 

 花に相当肩入れしているという自覚はあります。でも淳悟って結構いい男じゃないですか!まさに父的な男!前にどこかで男性にとって、セックスしてくれる母親が理想の女性像みたいなものを見ましたが、その女性版と言いますか。関係性のグロテスクさみたいなものに気をとられがちですが、いいと思うんですよね(いや、まあ私の好みなのですが)淳悟は人生において重要な役割の男たちを集約したものでしょう。父であり、兄的な部分も持ってるだろうし(未熟な父的な意味で)、恋人であるのですから。そりゃあはまるわ!

 しかし、こんなにねっとりと絡みついた関係でありながらも、左右対称(たぶん使い方間違ってますけど、あの、フィーリングで!)ではないんですよね。花と淳悟は最初っからすれ違ってるように感じます。花は(結局結婚してしまいますが)ずっと淳悟と一緒にいたい(普通へのあこがれとしての結婚=離別、一緒にいることの疲弊などはあると思いますが心の底から離れたいというのではなく一時的なもの)と思っていますが、淳悟は花ほどの執着はないのように思われます。花がいつか結婚して自分のもとを離れていくものとしています。

    また、二人の求められ方も非対称です。花にとって淳悟は初めて家族になってくれた人であり、実の父親で、(多分はじめて)自分を庇護してくれた人です。前者はともかく実の父親は一人しかいません。替えのきかない人なのです。また淳悟は、母に甘えたいのに母は死んでしまったので、自分の子供(母の血を受け継いでいる)に甘える。花は母の代替品なわけです。それに、親は(血が繋がってるという意味では)それぞれ一人しかいませんが、子供はただ一人というわけではありません。

 こうみると、花が報われない感じがします。しかし淳悟の本当の気持ちみたいなものは分からないわけです。前述のことと矛盾するようですが、淳悟のモノローグはないのです。(いや、あるのですが、そこでは花に対する思いというか淳悟の感情みたいなものはほとんど記述はないのでモノローグとしてカウントしないことにします。)行動とかでは推し量ることは出来ますがどう思っているかって結局分からないのです。本当に花のことが嫌になったのかもしれないし、責任から解放されたと思っているのかもしれないし、花のことをいい加減解放してあげようと思ったのかもしれないし、本当に花のことを母の代替品という以上に好きだったのかもしれない。分からないということにしておく、と言う救いなのかなと思いました。きっと好きだったんだと思うことで救われる人もいるのです。…そう私みたいに

 異常な愛というのは、そんなにおかしくなるほど、また、そんなにおかしくなってまで好きなのかみたいな謎解釈をしてしまうので非常に私の心にはヒットしました。

 

反論でも感想でも何かありましたらコメントいただけたら幸いです。

最期まで読んでくださりありがとうございました。お疲れ様でした!

ごあいさつ

はじめまして。もじ子と申します。

 

 趣味は?と聞かれたら、読書と答えるような人間です。また、他の人の感想とかを見るのも好きです。が!たまに、自分と他人とのずれに驚くことってありませんか?えっそう解釈するの?自分おかしいのかな、みたいな。でも正面切って自分はこう思うんで!とはいえない…そういうとき、こっそり、自分はこう思います…っていえる場所があればいいなと思ったのがこのブログを始めたきっかけです。

 と言うことで、人に言いにくい話(たぶん性的な話は多くなると思われ)をしていきたいと思いますw  いいわすれましたが私めはオタクでもあります。

 ふつつか者ですが(ほんとにな!)よろしくお願いします。