国内キャリア向け通信機器メーカーの危機

一時はi-modeで海外進出していた国内の携帯端末メーカーも、今やその市場をAppleに奪われてしまいました。まだ開発が続くであろう、スマートフォンも、Googleが開発するAndroid OSでほぼ独占されており、その中で存在感を示している国内のメーカーは、もはやXperiaを擁するSONYくらいになってしまっています。そして「ガラケー」の終焉を迎えるというこのニュースです。
 
日本の携帯端末メーカー、「ガラケー」の生産を2017年以降に中止。NECはドコモに供給しているガラケーの新規開発を16年3月にやめ、17年3月に生産を終える。NECはすでにスマホ事業から2013年に中止しているので、すべての携帯電話端末事業から撤退する。
 
これは、2015年4月24の日経新聞の記事です。
 
スマートフォンもいわゆるガラケーも、その機能の大半は「ソフトウェア」で実現していますから、この「撤退」は国内の携帯端末メーカーが「ソフトウェア開発力」で海外の携帯端末メーカーやOSを開発するメーカーに負けてしまったということを意味します。
 
なぜ、このように国内の携帯端末のソフトウェアの開発力がAppleGoogleに負けてしまうのか?
その理由を明確に述べている本を見つけました。
 
マイクロソフトWindowsの開発に携わり、いまは米国ベンチャー企業の経営者であり、プログラマーでもある、中島聡さんの著書「エンジニアとしての生き方」の 「第二章 日本のエンジニアは大丈夫か?」 に「 ITゼネコン」の副作用 という項があります。
 
その一部を紹介します。
 
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官僚主導で作られた産業

 

 

日本におけるソフトウェアビジネスは、官僚主導で作られたといっても過言でない。旧郵政省・通産省の主導のもと「日本のエレクトロニクス産業・IT産業育成のため」という名目で海外の企業を締め出し、官庁や旧電電公社のような特殊法人が、国内の選ばれた数社からほとんど競争もない形で平等に「調達する」というやり方(いわゆる「護送船団方式」)は高度経済成長の時期に作られた。

 
しかし、そのビジネススタイルが21世紀の成長株であったはずのNTTドコモにまでも継承され、先進的でありながら世界市場での競争力を持たない「ガラパゴスケータイ」を作り出したことはよく知られている。
 
建築業界のような構造を持つ日本のソフトウェア業界
 
ITゼネコンビジネスモデル」
 
プライムベンダーと呼ばれる巨大なIT企業が官庁や特殊法人から大規模なソフトウェア開発を受注し、実際のプログラミングは「下請け」と呼ばれる中小のソフトウェア企業が行うという、まるで建築業界のような構造である。
 
この「ITゼネコンビジネスモデル」は、いくつかの副作用をもたらした。
 
(1) 「労働集約型」のビジネスモデル
(2) ウォーターフォール型のソフトウェア開発
(3) IT関連企業の海外での競争力の低下
(4) ベンチャー企業を立ち上げにくい環境
(5) ソフトウェアエンジニアの地位の低下
 
下請け任せでは、絶対にアップルに勝てない
 
この問題の根底にあるのは、本来ならば「知識集約型産業」として成長すべきだった日本のIT産業を、道路工事やビルの建築と同じように「労働集約型産業」として育ててしまった一点にある。
 
「国内のIT産業を育てる」という名目で政府や特殊・公益法人からメーカー(特に、旧電電公社の傘下のメーカー)やITベンダーにお金が流れる仕組みができてしまったために、そこに土木建築業界とまったく同じような「ITゼネコン」が作られ、そこが下請け・孫請けに仕事を丸投げし、そこで雇用が促進される、という産業構造が確立してしまったのだ。
 
この弊害が、IT産業だけにとどまっていれば良かったのだが、それが携帯電話メーカーや家電メーカーにまで波及しているから始末が悪い。
 
メーカーにとっては、社内にソフトウェアがバリバリと書ける人材を育成することが最優先。
 
「社内の人間は仕様書だけを書き、コーディングは下請けに任せる」などというソフトウェアの作り方では、絶対にアップルには勝てないということを日本のメーカーの経営者は認識すべき。
 
せっかく理系の大卒エンジニアを毎年何十人も何百人も採用しているのだから、彼らを「ソフトウェア作りの精鋭部隊」として育てるべき。
 
(2010年9月20日)
 
 
「IT企業のエンジニアは上流工程の仕様書だけを書き、下流工程は下請けに丸投げ」の日本方式でAppleGoogleに勝てるわけがありません。
 
最後の日付が示す通り、これは5年までに書かれたものであり、この中島さんの「予言」とも言うべきことが、まさに事実として起こっているのです。
 
私は、「キャリア向け通信機器のソフトウェア」の開発を仕事としています。このキャリア向け通信機器のソフトウェアの世界にも携帯端末のソフトウェアで起こったことと同じことが、いままさに起こり始めています。
 
これまでドコモ(=キャリア)は、国内のキャリア向け通信機器メーカーからのみ「調達」をしていましたが、ここにきてグローバルベンダーである「エリクソン」がドコモ市場に入り込んできているのです。
 
 
キャリア向け通信機器のソフトウェア開発もまさに「ITゼネコンビジネスモデル」の上に成り立っており、このままでは、日本の携帯端末メーカーがたどった道をなぞることになってしまいます。
 
では、どうすれば良いのか?、これをこのブログで考えていきます。

それぞれの価値観

人は40代を越えると「それぞれの価値観」が出来上がってきます。人はその価値観に基づき「あれが好き、あれは嫌い」「こうすべき、ああすべき」「変えるべき、変えぬべき」といった思いが生まれ、それが日々の行動につながっていきます。

 
こういった「出来上がった価値観」は、人が長年かかって、人の内部で作り上げられたものだから、それを外部要因(上司の命令とか、妻の文句とか?笑)によって簡単に変えられるものではないものだと思います。
 
この「40代や50代の価値観」が、他人から見たときの「がんこさ」であると思います。よく「がんこおやじ」って言いますが、これって年を重ねて出来上がった価値観の結晶みたいなものではないでしょうか。「がんこおやじ(がんこおばさん)」て、一般的に自分の行動をなかなか変えようとしない人と思われていますよね。なぜ変えないかというと、「出来上がった価値観」があるからだと思います。(ただし「がんこ」に変えていく、という価値観もありますから、がんこ=変わらない人、というわけでもありません)
 
このような価値観を持った(持ってしまった?)40代50代であるため、自分の仕事を進める上でも、その価値観にマッチしているかどうかで、仕事の取り組み姿勢が大きく変わり、その結果である、成果に大きく影響を与えることになると考えます。
 
もちろん、組織の中のすべての人に対して、価値観にマッチした仕事をアサインすることは実際にはできません。だからこそ、仕事をアサインする役割を持つ、組織のリーダーが「全員が価値観にマッチした仕事に就く」ことを目指して、日々努力していかなければなりません。
 
このことから、その会社その組織の中で、40代50代に対して一様に「同じような成果」を期待して「同じような振る舞い」をしなさいということがどれだけ「効率が悪いこと」であるかがわかると思います。しかし、このような一様な行動を求める会社、組織って結構あると思います。
 
だからこそ、組織のリーダーは、日々、部下の行動や言動、また部下との対話を通して、その人の持つ「価値観」の理解に努めることが、とても重要なことであると言えます。
 
実は、このことを一言で言えば「適材適所」であり、これは物事をうまく進める上での鉄則として昔から言われてきたことあり、あたり前のことといっても良いことです。にもかかわらず、この「適材適所」が、「組織の都合」によって忘れさられてしまうことが往々にして起こっているのです。これは非常に残念なことだと思います
 
いまの時代、「組織の都合」を押し通し続けていると、会社の存続さえ危うくなってきます。だからこそ企業は「組織の都合」でなく、「市場の都合」で動かなければならないと思っています。