夜をしりぞける火の海に

だれもが忘れようとしている。いずれその死も歴史のなかに埋もれることになるだろう。しかし喉の奥の一番にやわらかく赤い場所にまとわりつくようにそれは彼を責める。
焼け跡もうっすらと消え、緑が点々と浮かぶようになった今でも、彼はここにはいない。彼だけが未だ、あの熱をもつ焼け跡に茫然とたたずんでいる。彼だけが、いまだそこに取り残されたままなのだ。