『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

実技に特化したテキストを執筆中の備忘録

 これを打ち込んでいるのは2024年04月28日、ゴールデンウィーク前半の連休中ですが伝統鍼灸学会の理事会が開催されるということで、新年度から理事会の体制がかなり変わるので初顔合わせになるため東京へ出かけている新幹線の中です。ということで、往路の新幹線の中で打ち上げねばならない時間限定ルールの第二弾です。
 滋賀漢方鍼医会版の実技に特化したテキストを現在製作しているのですけど、早起きして作業しているといいながらも漢方はり治療全体を扱うテキストなのですから一朝一夕に進むというわけには行かず、四ヶ月半で主要部分がやっと出来上がったというところです。脈診と証決定の天王山の二つは完成してからでないと出された意見に従っての修正が困難になることが分かっていたので、完全に一人で作業をしてきました。この執筆作業の中で学んだことがいくつもありますから、今回はその備忘録になります。

 まず打ち込みについてですけど、パソコンは鍼灸院と自宅どちらでも作業をするのでデータが常に最新である必要があります。ずっと以前はUSBメモリへファイルをいちいちコピーして持参していました。XPまでの時代なら仕方ないことですけど、家族のことを書いていたブログで「まだ書きかけです」ということでデータを途中でアップすればもう片方のパソコンでそれをコピーして続きが書けるので、ネット経由の便利さを知ってしまいました。
 Windows8.1からワンドライブの扱いが明瞭となり、ブログ用というテキストファイルへ書きかけのものは授受する方法となり、途中のものを見せなくてもよくなりました。ところが今回はファイル数が非常に多く、いくつもを同時に編集していたりもします。どのみちワンドライブ上のテキストファイルを上書きしていくのですから、エディタでワンドライブのファイルを開いてやれば随時更新され、何もしなくても二つのパソコンは常に最新の状態になるのでは??と、どうしてこんな簡単なことを今まで気付かなかったのでしょうか。
 ドロップボックスが最初にこのようなことをやり始めたのでしょうけど、早朝に自宅で作業していた内容を鍼灸院のパソコンで開いたなら何もしなくても見られるようになっているというのは想像以上に便利でした。最初は感動さえしましたね。いつ頃改善されたのか分かりませんけど、ワンドライブとの同期には結構時間が掛かっていたのに瞬時に完了するようにもなり、手軽に上書きもできるようになりました。今回の執筆作業、クラウドの便利さがなければこんなに速く進行していなかっただろうと思います。

 困ったことは、古典の条文でも原文がなかなかないこと。古典というくらいですからとっくの昔に著作権は消滅しているのですから引用してくることに何ら問題はないのですけど、本が直接読めない私では「難経」の本は何冊も持っていてもそこから打ち直すことができません。大学図書館で貴重な本がデータとして公開されているのですけど、PDFであり画像処理しかされていないケースがほとんどでしょうからこれも私には使えません。ほんとタブレットで気軽に必要な古典が手元に持ってこられる晴眼者は、うらやましいです。
 ネット上を探しても書き下しの原文を掲載しているところはなく、自分たちで現代語訳しているのでこれは意味そのものが違っていたりしますから使えません。特に五難の菽法脈診の解釈については様々で、単純に五臓はそれぞれの高さがあるというものから皮毛・血脈・肌肉・筋・骨と菽法は合致しているのだということだけ書いてあったり、ひどいと文章が紛れ込んだのではないかと書いてあるものさえありました。一応、素問に菽法脈診の原型に読めるものがあるらしいのですが、決して妄想ではなく菽法の高さピッタリの脈状を作ることこそが漢方はり治療の真髄なのです。浮・中・沈を基準とした長年お世話にもなった脈差診が悪いわけではないのですけど、菽法の高さで診察と検脈ができてしまうのですから、菽法脈診ほど便利なものはないと私は実感しているのですけど・・・。
 小児鍼ではしっかりした診察ができるわけではないので治療は六十九難の「虚すればその母を補い」を、つまり呼吸器症状なら肺虚証として肺経・脾経と連続で補うことを未だに多用しており、六十九難というのは実によくできた治療法則だとこれも未だに感心するのですけど、脈診の項目を書いていて祖脈を飛ばしてしまおうかと思いましたがそれはどうしてもできないことから小児鍼のことも考えていたなら、単按だと小児でも菽法の高さが結構分かるものなのだと今回発見しました。赤ちゃんだと示指を脈と平衡に当てますし三歳くらいまでだと指が二つくらいしか当てられないので若干きつい面はありますけど、それでも分かるものなんだと自分で感心してしまいました。ただ、臨床としては六十九難をそのまま用いて問題になることがないので、今までと同様に行ってはいますけど。小学校高学年の女子であれば、初潮を過ぎているケースもあるので子供でも菽法脈診をこれからは気を付けようと思っています。

 執筆してきた部分で今までのテキストと絶対的に違うのは、正気論だけでなく邪気論を同列に扱っていること。滋賀漢方鍼医会では「切り分けツール」がありますから自動的に振り分けてくれるので非常に楽なのですけど、それでもできれば診察段階でどちらになっているのかが分かった方がさらにスピーディーになります。腹診を整理し治していて、肝腎とのの間で血反応が顕著でありさらに心窪部が付き上がっていたなら肺虚肝実証、逆に内臓下垂かそれに近い状態なら脾虚肝実証だとほぼ見分けられるようになりました。そして血の反応を探っていて、血滞があった時に重たい反応は邪気論の確率が非常に高いことも分かりました。でも、これらは確立の問題でありやはり「切り分けツール」を使って確実に振り分けるべきではあります。
 邪気論かどうかを最終的に確認するのに経穴を摂按するのですけど、摂按のやり方がみんな荒っぽいことを実技で知りました。時間を節約したいからなのか指先でペンペンと払っている人がほとんどなのですけど、これでは邪気論の判定もそうですが「切り分けツール」も綺麗に反応していないかも知れません。押し手は患者の皮膚からわずかでも全て離して経絡を垂直に横切る、この時に手首が動いていてはいけません。経絡流注を軽擦する時に、手首が動いていたり指先が弧を描く動きがダメなのと同じことです。今から手法の項目を修正です。

 腹診を整理し治して手の動きはかなりダイナミックで構わないというか、むしろダイナミックで短時間に済ませる方が確実というのも発見でした。症状が重い部類だと脈状もかなり変化してしまうのですけど、逆に脈状が変化しなければ安定しているということで継続治療での目安を付けやすくしてくれました。痛みが一向に変わらないと主張する患者さん、最初の脈診で胃の気が増して改善していることが分かるのに訴えは訴えですから何が悪いのか探してしまうのですけど、腹診をして脈状があまり変化しなかったなら「具体的にどんな場面で痛いのか」と突っ込んでみてしどろもどろになることがでてきています。これは強い武器を手に入れました。
 それから反省しなければならないことですが、腹診をダイナミックに行うようになって肺虚証がそれなりにあることを再発見です。寒い時期には呼吸器ということで陽経から小腸経を用いて肺虚証の治療を行うことはよくあることなのですけど、陰経から直接行うことを最近ほとんどしていなかったなら実は適当にありました。東洋はり医学会にお世話になっていた頃はあれほど肺虚証であり難病も回復できたのですから、三菽が捉えにくいだけでそれなりにあることを自覚すべきと反省です。

 そして執筆している中で最も反省したのは、陰実証をこれだけ滋賀漢方鍼医会では主張してきたのに四大病型をおろそかにしていたこと。四大病型そのものはカルテ記入で必ず付いて回るので忘れていたというわけではなく、標治法での差別化をおろそかにしていました。ゾーン処置ができ押し流す処置もでき、「押し流す奇経治療」も加わって標治法は言い換えれば誰でもできるレベルへようやく落とし込んでこられたのですけど、陰虚証と陽虚証が同じ標治法でいいはずがないのに新しいテクニックに夢中になって同じことをしていました。決め手は足の三焦経へ引き下ろすかどうかでした。これ一本だけで陰虚証での成績が顕著になることがあり、特に頭がスッキリするという感想はよく聞くようになりました。陽虚証での標治法、もっとコンパクトにせねばならないのですけど今の課題です。

 重箱の隅を突けばもっともっと発見したことが出てきますけど、まだ半分程度しか書けていませんしこれからも反省しながら発見することが続いていくでしょう。作業そのものは楽ではありませんし苦痛を感じる時期もあるのですけど、念願の単独執筆の出版であり頑張っていきます。