目盛りメモリーズ(旧One Click Say Yeah 2020)

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悪は存在しない - 濱口竜介監督の新作見に行きました

GWのとんでもない人混みを掻き分け、移転中の渋谷Bunkamuraル・シネマに濱口竜介監督の「悪は存在しない」を見てきました。

SNSで見ると評判がすこぶる良すぎて、かなり期待値上げてみたわけですが、安易な予想を見事に打ち砕くような、不穏さ漂う、呑気にしてる場合じゃない作品でした。

 

私は濱口竜介の作品でも、特に「ハッピー・アワー」が好きなんだけど、あれは濱口監督が才能の塊であることを突きつけられた映画でした。ハッピー・アワーに出ている俳優は濱口監督のワークショップに参加した無名の人達で、その後も俳優としてお目にかけることもほとんどない人たちばかりなので、そのレア度がまた映画の魅力を高めてたりするわけです。「悪は存在しない」には、なんとハッピー・アワーの主要メンバー3人が出演しており、これはファンとしては上がりました。こうやって再び濱口監督の作品で元気な姿が見れるっていうのが嬉しかったです。

 

で、肝心の映画の内容ですが、濱口監督の作り出す「会話」については本当に上手いなと改めて感心しました。私は雑なテレビドラマで「そこでそういう言い方は絶対しないだろ!」とかで冷めてしまうところが結構あり、濱口監督の映画の演者たちは、難しいことを言わせてるとかではなくさらっとセリフ言ってるように感じてしまいますが、相当綿密に練られていると思いますよ。会話劇の観点だけでも十分に映画の強度がある感じ。

 

それと、さすがと思ったのが、映画のテーマがようやく浮かび上がってくるグランピング事業に対する「都会VS田舎」の対立構造みたいな、割と分かりやすいといえば分かりやすい構図が現れるんですが、都会側の2人を「悪」として描くのではなく割と真っ当に会社に従属し、時に抗いながら悩む、ちゃんとした人間として描いているところが「あ、そこの視点も丁寧に描くんだ」と感じてむちゃくちゃ面白かった。まさか会社に持ち帰ってリモート会議するシーンまで描かれるとは思わなかった。

 

この辺り「悪」というのが単純な構造では無い部分はさすがと言えばさすが。

しかし、この映画ではもっとその先を行っているというか、我々の想像するような展開にはならないのが、やはりこの映画の評価につながっているように思える。

 

 

正直なところ、初見だとラストの展開は唐突すぎて「そこまでやるだろうか….」という気持ちのまま呆気なくエンディングを迎えてしまった感じはした。しかしネットでのレビューを読むと、既に映画の序盤から至る所に伏線が貼られていると書いてあるので、2回3回見ることでだいぶ理解が追いつくかもしれないと思っている。なのでこのモヤモヤは映画を長く堪能するための要素と捉えている。

 

濱口監督の最高傑作かどうかはまだ判断できないが、今年の重要な日本映画であることは間違いなさそう。

 

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