歯がなく、口は内側に向かって閉じている。目は小動物のようなパッチリしたやつ、図体は大きくて少しぷるぷるしている。バーパパみたいなものを想像して貰えば一番近いだろう。

歯がないそいつはひとりぼっちだ、最初からずうとなので寂しいなとどということはない。ただ夜中になると そうあの七丁目の煉瓦造りの建物の裏なんかからよく顔を出して歓楽地を眺めたりしている。親父が小さい頃なんかは、そいつを見かけて話しかける奴も、ゴミを投げたりする奴もいたらしい。歯がないそいつが喋るのを見たことがあるやつは俺の知る限り居ない。そうしている間に皆、害もないし益もないとただ存在を認めつつも気にすることはなくなった。

普段、どこで寝ているか 食事はするかなどはきっとだれも知らない。たぶんかなり長寿だとは思う。この街の夜にはそいつが一番深く馴染む。