素晴らしいTAKA(高橋君2)
「高橋君、おっはー」
「高橋君、ちょりーっす」
「高橋君、今日もすがすがしい天気だね。」
「高橋君、どうしたの、機嫌悪いの?生理?」
「おい、高橋、てめえ俺様のこと無視してんじゃねえぞ。ケツの穴に指突っ込んで腹話術の人形みたいに眉毛カタカタ上下させんぞ。」
「僕が佐藤さんと付き合いだしてから、一つわかったことがあります。」
「え、私たち、付き合ってたの?
これって、付き合っているって言っても、いいの?
周りのみんなに、話してもいいの?
私たち、結婚を前提に真剣にお付き合いしているって?」
「佐藤さんが喪黒福造のような顔をして僕に近づいて来た時には、無視をするのが一番得策であると。」
「なんだてめえ、てめえこそギニュー特戦隊のリクームみたいなツラしやがって。」
「ご用件は。」
「君さ、今社内で不穏な噂が流れているんだけど、それについて何か聞いてる?」
「寡聞にして知りません。」
「俺は既に色々聞いてきたんだけど、高橋君はそれについて聞きたい?」
「いえ、別に。」
「別にって、てめえはいつから沢尻エリカみたいな口の利き方をするようになった。やはりケツの穴に指突っ込んで高橋から指尻に改名させるぞこの野郎。」
「では、言い方を変えます。いえ、特に。」
「本題に入ろう。昨日、休憩室にあったチョコレート、一人で全て食べたひどい奴がいるらしい。」
「らしいって、あんた。」
「で、犯人はあいつじゃないかって、社内でとある人物が噂になっている。」
「続きを聞きましょう。」
「聞き込みの結果、そいつのイニシャルが判明した。」
「実に興味深いです。」
「そいつの名字の頭文字は、T!」
「T。」
「二文字目は、A!!」
「A。というか2文字目まで判明しているのであれば、既にそれはイニシャルではいのでは。」
「続いては、K!!!」
「佐藤さん、その西城秀樹のYMCAみたいに全身でアルファベットを表現するのやめてもらえますか。周りの人が見ていますよ。」
「A!!!!」
「つまり、名字のアルファベットが、ティーエーケーエーで始まる。」
「素晴らしいT A K A!たたらたらたらT A K A!」
「佐藤さん、落ち着いてください。」
「結論を言おう、高橋君、君が犯人ではないかと疑われている。
その件で、僕も色々な人から事情を聴取された。
だが安心したまえ高橋君、僕は君の味方だよ、今までも、これからも、いつまでも。
だから、今朝、僕を取り囲む女子社員を前にして、こう言ってやったんだ。
はい、確かに昨日の午後、僕は高橋君を休憩室で目撃しました。
はい、そうです。僕が休憩室に入った際、部屋にはゴヂラのチョコレートの箱がありました。
はい、その時は箱の中のチョコレートはまだ一つも食べられていませんでした。
その後はよく覚えていないこともありますが、はっきりしていることが2点あります。
1点目は、僕が休憩室を後にしたとき高橋君がチョコレートを食べていたこと
2点目は、そのときにチョコレートの箱は空になっていたことです。
そうそう、休憩室を出る高橋君は、こんなことを言っていました。
『まずい。これは非常にまずい。』
せっかく女子社員の皆々様からのご厚意で頂戴したゴヂラのチョコレートを食べておきながらまずいまずいと言う高橋君の卑しむべき品性を僕は見てしまいました。
さらに彼はこうも言っていました。
『とにかく逃げましょう』
その時私は彼がなぜそのようなことを言うのか、皆目見当がつきませんでした。
しかし今ならば分かります。彼は自分一人でチョコレートを食べ尽くしたことが露見することを恐れていたのですね。
つくづく見下げ果てた男です。
みなさん、これからは高橋君にチョコレートをあげるのはやめましょう。
代わりと言ってはなんですが、高橋君に上げる予定のチョコレートがありましたら、すべて僕が受け取ります。
ご清聴、ありがとうございました。」
みなさんで召し上がってください。一同 (高橋君1)
「佐藤さん、ちょっとよろしいですか。」
「ん?高橋君か。しっ、しっ。俺は今忙しいんだ。」
「水着を着た女性の画像を凝視しているところ失礼しました。改めます。」
「なんだ君は。それは俺に嫌味を言っているつもりか。君にはわからないだろうが、俺はこうやって右脳を刺激するイメージを閲覧しながら左脳を使って高度な論理的思考を展開しているんだ。」
「でしたらなおのこと、休憩しませんか。そのお誘いにきました。」
「宮刑?君も随分と過激なことを言うね。で、誰を処すの。」
「おっしゃる意味がよくわかりませんが、休憩室にチョコレートがありますよ。」
「君、そんなチョコレートごときで俺を誘うなんて、小学生じゃないんだから。やれやれ、俺も安く見られたものだ。消えろ。」
「休憩室に、女子社員の皆さんから頂いたバレンタインのチョコレートがあるんですよ。佐藤さんが行かないなら僕一人で行ってきますが。」
「行こう。今すぐ行こう。おい早くしろ。走るぞ。」
「走りません。」
『みなさんで召し上がってください。一同』
「ふーん。これ?」
「はい。まだ誰も食べてませんね。こういうのって、誰かが手を付けないと食べづらいんですよね。」
「なんだ。みなさんで召し上がってくださいって、こんな少ししかないのに偉そうだな。大体なんだこのゴヂラって。」
「佐藤さん、これはゴヂラではなくゴディヴァです。よく見てください。」
「ごちゃごちゃうるさいやつだな。君はいつから俺に説教できるほど偉くなった。うーん、まあまあかな。うん、こっちはうまいな。」
「あっ、佐藤さん。だめですよ。何考えてるんですか。これ一粒いくらすると思ってるんですか。高いんですよ。それをもう3つも。」
「あっ、高橋さん!」
「ああ、坪井さん、こんにちは。」
「高橋さん、チョコレート食べてくれましたか?昨日の帰りに私が代表して買ってきたんですよ。私はトリュフ グランマニエが好きだから高橋さんにもそれを食べてもらいたいなあって。」
「ああ、グランマニエなら今佐藤さんが。」
「げ。」
「ん?ああ1坪3.3平米か。居たの。」
「さ、佐藤さんもいたんですか。」
「さっき、吉井さんから休憩室にチョコレートがあると伺ったので佐藤さんをお誘いして来たんですよ。」
「げげ。」
「これ初めて食べたけどまあまあ美味しいね。75点くらいかな。」
「キモ。」
「キモ?」
「いえ、気持ちだけですが。」
「うん、本当に気持ちだけだよね。こんなちょっとしか入っていないんじゃ。もうあとこんだけしかないよ。」
「佐藤さん、あんたいくつ食べたんですか。」
「高橋君、どうした。あんたって、君らしくもない。おや、1坪3.3平米、どうした。手がぶるぶる震えているよ。禁断症状か?」
「ブッコロス。」
「え?」
「なんだ急に。何を言っているんだ、君。やっぱり禁断症状で譫妄が出てるんじゃないのか。」
「失礼します。」
「高橋君、何だあれ。訳のわからないことを言ったと思ったら急にいなくなって。辛い担々麺食べて下痢でもしてるんだろうか。」
「佐藤さん、せめて僕にも一つくださいよ。」
「何だ君は、俺が坪の心配をしている時にさもしいやつだな。まあいい、食べたまえ。」
「って、これじゃあもうみなさんで食べる分がないでしょうが。」
「あ、ほんとだ。まあいいや。この張り紙ごと捨ててなかったことにしよう。」
「なるわけないでしょう。吉井さんがみなさんにアナウンスしてたんだから。坪井さんも佐藤さんが貪っているところを目撃したわけですし。」
「じゃあ、君、おかしのまちおかでダースかなんか買ってきなさい。」
「なんで僕が。そもそもゴディヴァのチョコがダースになってたらおかしいでしょう。」
「いちいち細かいやつだな。わかった、高橋君、君に大切なことを教えてやろう。このチョコレート、女子社員から男子社員への付け届けという体裁になっているが、その実、女子社員からこの俺ただ一人に贈られたものなのだ。女子社員たちはすべからく俺に渡したくて仕方がないが社内政治上止むを得ず全員に配布しているのだ。君たちはそのおこぼれにあずかっているにすぎない。」
「佐藤さん、言っていることが押尾まぶす元受刑者みたいですよ。」
「ほら、食え、高橋君。最後の1個だ。俺はもう食べ過ぎて食べられないから君にやる。食ったら行くぞ。俺は忙しいんだ。」
「最後の1個って、どういうこと、あっ、チョコレートをポケットに直接入れちゃだめですよ。」
「ほら食え。ほらほら。」
「うわ、無理やり口に突っ込まないで。あ、誰か来ますよ。これはまずい、非常にまずい。僕の責任ではないが、色々と非常にまずい。佐藤さん、とにかく逃げましょう。」
「だからさっきからもう行くぞって言っているじゃないか。おかしな奴だ。
おかしなで思い出したが、ちゃんとおかしのまちおかに行って代替品を用意しておけ。」
「困った人だ。」