インド映画にはまり、コロナ禍のためにしばらく宝塚に行ってなかったのですが、この度その「インド映画」が私を宝塚に召喚しました。その映画は、2022年に日本で公開され、今でも日本のどこかの映画館で上映されているという化け物級のヒットを飛ばした、S.S.ラージャマウリ監督の「RRR」という作品です。
宝塚版のタイトルの読み方がわかりにくいのですが、「アールアールアール バイ タカラヅカ ~ルートビーム~」と読むそう。数式かいな。
頭よさげ、と思ったら演出家の谷貴矢先生は東京大学の出身だそうで。なんか納得しました。面白いこと考え付きますね。
さて、人気作を原作にしたミュージカルは、集客ができる確約が取れる代わりに、下手なものを作れば反発され酷評され劇団や特に演出家の評判を地に落とす危険も孕んでいます。
現インド映画ファンとして楽しみ半分、元宝塚ファンとして心配半分でどんなものかと思っておりました。
そうしましたら、宝塚大劇場で公演を見たインド映画ファン、千穐楽のライヴビューイングを見た方々が口をそろえてTwitter(現X)で好評のツイートを投稿し出しました。それで思いました「これは大丈夫だ」と。だって、宝塚を知らない方々が「良い」というのだから本物だと。
さて、結論から申し上げますと「合格」です。いえ、そんな上から目線はいけません。
大変すばらしい!!
です。
東京宝塚劇場に見に行くことができて、心底私は幸せだと思いました。こんなにも素晴らしい舞台はなかなかありません。ほめすぎ?でもそれぐらい興奮して話したくなるほどに素晴らしかったです。
なぜなら、同じものにしようと無理に原作に寄せることなく省くところは大胆に省き、変えるところは適切に変更し、衣装は完全に宝塚仕様と、ここまで大胆にやっていると別物になりそうなのにちゃんと「RRR」である。そこが本当にすごいと思います。しかも、3時間ある原作を1時間半にするのは神業といってもよいのではないでしょうか。
脚本・演出の谷貴矢先生はインドまで行って監督に権利使用許可を取り付ける直談判をしにいったそうですが、その情熱からもわかるように原作の映画に対するリスペクトがあり、そのため研究しつくして「ここは外せない」ポイントを熟知しており、外せないけど舞台にしにくい部分はうまく改変している。原作付のものを舞台化した作品の中では、最高のものの一つではないでしょうか。
さて、そんな最高の脚本と演出をさらに最高に押し上げるのが生徒の皆さん。
その筆頭がやはり星組トップスター礼真琴。
歌良し、ダンス良し、演技良し、そして魅力にあふれている。万能型のトップスターで隙がない。それでいて、RRRのアクタルとして必要な憎めない愛嬌を表現できるかわいらしさ。あなたNTR jrですか?(映画RRRのビーム役の俳優。インド映画の主演俳優はダンスができないといけないことが多いので、ダンスが上手な人が多い。その中でも抜群のダンス巧者で有名。演技は言わずもがなピカ一で更に歌も上手)
宝塚としてはラーマを主演にあてた方が合うと思うし、ビームは宝塚で演じる上で難しさがあるように思うのですが、あえて礼真琴にビームをあてに来たのは、谷T先生からの信頼が厚かったのではないかと思います。どう考えてもビームは森で育った素朴さが魅力なので、宝塚の華やかさの中では沈む危険があると思うんですよね。素朴でも、極端にカッコをつけなくても、キメキメにキザらなくても光ることができるからこそできるビームだと思いました。
特に、「コムラムビームよ」のシーン(鞭打ちの場面)は圧巻で、これを最初に見たときは、「ぜひ、監督やビーム役のNTR jrに見てもらいたい」と強く思いました。言葉が違っても、絶対にこの素晴らしさは伝わると確信したからです。3月20日に監督が観劇されましたが、簡単な感想の記事ではなく、もっとたくさんインタビューした記事がどこかで出ないかな、と思っています。
また、このシーンは民衆の沸き上がり方も素晴らしく、数々の宝塚作品の中でも名場面の一つだとおもいます。
さて、礼さんを褒めてるといくらでも書けてしまうので、この辺で切り上げましょう。
ラーマ役の暁千星。礼さんより下級生でありながらも兄貴と慕われるだけの風格を出さなくてはいけないのは大変だったと思います。(ちなみに、映画版もラーマ役のラーム・チャランはNTR jrより年下だったりします)そのあたり、「兄貴」と呼ばれ負けしなかったのがよかったですね。
ジェニー役の舞空瞳。透明感のある美しさがジェニーにぴったり!舞空さんは宝塚版のジェニーとしてふさわしく、可愛らしくありながらも背筋がまっすぐな女性でした。
ジェイク役の極美慎。原作では少しの場面でしか出番がない役ですが、宝塚版では大活躍!原作の嫌味ったらしさとどこか憎めなさを極美さんなりに表現していました。すらっとして目を惹くいい男役さんですね。
歌で支えていたのが、美稀千種と都優奈。このお二人なくして「運命(Dosti)」などの歌による盛り上がりは得られなかったと思います。また、他の生徒さんのコーラスも素晴らしかったです。
冒頭のダンスシーンなどで目を惹いたWATERRR女役の水乃ゆり。なんと言ってもしなやかな動きが美しかったです。出てきて動いた瞬間に「おお!」と感嘆の声を上げそうになりましたね。
FIRRRE男役の夕渚りょう。なんか表情豊かでした。よき。
衣装も素敵でしたね。ゴーンド族の衣装にゴーンドアートを取り入れつつも主要キャラクター(ペッダイヤ、ジャング、ラッチュ)は違う感じの衣装にしてみて分かるようにしたり、ダンスパーティの女性のドレスが可愛らしくて素敵だったり、衣装も楽しみました。
さて、三時間の大作を舞台化するなら1本もの(ショーがない)かと思っていましたが、なんと二幕目はショー。
しかも、RRRの素晴らしさに負けていません。
冒頭、寂しげな青年がスミレのランプに手を触れた後の演出が美しく夢のようでうっとりとして、瞬間「このショー好きかも」と幕開きから思いました。
とにかく夢のような美しさと儚さと奇妙さ。私の大好きな退廃の美。
え?指田先生大劇場デビュー作なの!?とパンフレットを買って読んでから驚きました。
そしてこのショーの素晴らしいところは宝塚のショーのあり方として最も大事な「トップスターの持ち味を生かして輝かせる」ことに成功していることです。
礼真琴というスターがずば抜けて表現力のあるスターであるということがよくわかります。
「青年」役の時はシンプルな飾りのない本当に目立たない衣装です。でも、淡い光を纏いながら寂しげな青年に心惹かれます。そこから色々な役を演じてゆくのですが、どれも足先指先まで感情が見えるし、身体の動きが言葉にならない言葉を紡ぎ出す。聞こえないはずの心の声を感じることができる。
これは本当にすごいことだと思います。
そんなすごいスターに負けない輝きの舞空さんや、魅力的な皆さん、星組はよく纏まった組だと感じました。真ん中だけよくったて舞台は成立しないし良い物にはなりません。一人一人が輝いてこそ。いい組ですね。
また、さすがの衣装、有村先生。指田先生の世界観に合った美しく上品で、しかし時としてビビッドだったりと見ていて嬉しくなるような衣装でした。
一幕二幕通しては、やはり生演奏っていいですよね。久しぶりに生演奏を聴きました。
もしかしたら、このブログに感想を書いていないのですが、礼さんのお披露目公演を観てる気がするのですよね。ストーリーとか調べたらどうも観てる。なんか良かったなぁという記憶がある。そして、それが本作を見る前に見た最後の宝塚だと思います。ということは最後に宝塚を見たのは4年前。
4年ぶりに宝塚を観て思ったのは…
宝塚ってやっぱりいいね。
もちろん、色んな問題が噴出しているのは知っています。
個人的には過去にも問題はあったのに、きちんとした対応を取らなかった結果が1人の生徒の命を奪ったのだと思います。
これだけの素晴らしいものを作り上げられる組織はありません。しかし、人の命には代えられません。
どうぞ、真摯に丁寧に、何よりも生徒はじめ働く人全てのことを考えた改善と改革を行なってほしいと思います。