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【動画翻訳】ジゼル・ショウ、パワーを取り戻すための旅

 

プライドマンスということで、Impact Wrestlingで活躍中のトランス女性の選手ジゼル・ショウのドキュメンタリーを翻訳してみました。

Youtubeで無料公開中、20分ちょっとくらいのインタビュー中心動画なので、動画を開いて流しながら読んで頂ければと思います。


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ジゼル――

毎日毎日、今いる場所でなんとかその日を生きている。

他のみんなは、私がやれたことのない「その場その場じゃない生き方」を知っているのかな?

プロレスリングは、私がスタートラインに立つための切符だった。

 

ジゼル――

生まれはフィリピン。12~13歳ごろ、家族でカナダのノースウエスト準州イエローナイフに引っ越して、10代をそこで過ごした。

幼い頃は…子供時代は、簡単には行かなかった。

私はいつも、何かが違うと考えていた。ひとにはあなたはゲイかレズビアンだろうとか言われたけど、私にはなぜそう言われるのかわからなかった。ただずっと、自分が間違った体で生まれてきたということはわかっていた。

 

ジョイサ・マヨルド(ジゼルの姉妹)――

(子供時代に)何が起きていたのかは、私にも直感的にわかっていました。私が言えることは、彼女はその皮膚の中の居心地が悪いまま、歩んできたということ。

 

ジゼル――

嘘の人生を生きて行かなければならない。囚人のようだった。私は自由に振る舞えない。自分がしたいやり方で、自己表現することなんかできはしない。

 

ジニーヌ・マヨルド(ジゼルの姉妹)――

私は彼女が「その問題」に取り組んでいるのを見て来ました。でも私たちは子供の頃はフィリピンに住んでいて、その頃は物事がよくわかっているとは言えなかった。カナダに引っ越してから、彼女が本当に迷い、混乱しているのが私にも感じられたし、見て取れるようになりました。

 

ジゼル――

高校に入った頃、めちゃくちゃいじめられるようになった。本当に最悪。友達もいなくて、最悪だった。

 

ジョイサ――

彼女は何でもないようにふるまうのが上手かった。でも思い返すと、彼女の高校に頼れる人はいなかったし、親友と呼べるような近しい仲の友達もいませんでした。

 

ジゼル――

講堂に向かって歩いていると、連中は私を汚く罵り、食べ物を投げつけてきた。バスの中でも構ってほしくないのに絡まれて水をかけられたり……。

高3の時、フライトアテンダントの仕事を見つけた。その時の私はほとんど限界で、自分自身の抱えたものを放り出してでも、自分の人生を生きたいと願っていた。

 

ジニーヌ――

彼女が出て行ってしまって、私は打ちひしがれました。彼女がいつ戻ってくるのか、私たちが彼女のところへ行けるのかもわからなくて……。でも私はわかっていました。彼女が出て行ったのは、ここでは彼女の自己実現ができないからだってことは。

 

スコット・ダモア(ジゼルのレスリング指導者/Impact Wrestling副社長)――

僕がここでジゼルが子供の頃に味わってきたことについて、芯から理解しているようなことを言うことはできない。ただ言わなくてはならないのは、彼女の半生には多くの絶望があったということ……それから彼女は、人間の人生よりも大きな「プロレスリング」というものに出会い、心を奪われたということだ。

 

ジゼル――

間違いなくレスリングは、私を現実から逃がしてくれるものだった。全てのものに背を向け、私だけの時間をくれるもの。

 

ジニーヌ――

プロレスリングは、ずっと彼女の夢でした。彼女は子供の頃からずっと情熱的なファンでした。

 

ジョイサ――

私たち家族は子供の頃から一緒にプロレスリングを見てきて、それはひとつの家族の絆みたいなものでした。でもジゼルだけは観点が少し違っていて、彼女はプロレスリングをエンターテインメントとして楽しむだけではなく、レスラーの一人になりたいと願っていたのです。

 

ジゼル――

メディアの描き出すトランスジェンダーの人々は、シリアルキラーか心の病気かのようなものばかりだった。悪しきスポットライトしかあてられていないように見える。

ノックアウツ(Impact Wrestringの女子部門)を見た時、なんてカッコイイんだろうと思った。全員自信に満ちていて、セクシーで素敵。それがほんとに魅力的だった。

 

スコット・ダモア――

レスリングは、自分が自分らしくいられるという性質を持つ世界だ。ジゼルにとってのレスリングは二つ意味がある。一つは希望を与えるもの、もう一つは目標を与えるものだ。

 

ジゼル――

私は(プロレスリングを)学校に通ってトレーニングして身につけられるものだと知らずにいた。
フライトアテンダントになってから、私は友達とジムに通うようになった。その友達の相棒が、レスリングを見に行かないかと誘ってくれて、私はその時初めてインディー団体の興行を直接見て…更なる恋に落ちたの。私は彼らに、どうやったらレスラーになれるのか聞いた。そしたら評判のいい学校を探して、トレーニングを受けるんだって言われて…私はそうした。それが始まり。

 

ランス・ストーム(元レスラー/現プロデューサー兼コーチ)――

ジゼルをトレーニングしている時の一番大きな思い出は、最初の「プロモの日」のことだろうね。
身の内にある情熱を翻訳してエモーショナルな物語を語り、伝える――それがレスリングのプロモーションだ。
彼女のプロモは非常に力強く、何より彼女がそれを強く強く望んでいることが、彼女のことをよく知らない私にも伝わってきたんだ。

 

ジゼル――

プロレスリングの世界は、才能を求められる。

 

ミア・ヤム(元ノックアウツ王者)――

独立して考えれば、スポーツ。公平なスポーツだと思う。

ただビジネスとしては、キャラクターギミックを持たなければならない。

だからどうしても一定の人々は、「ミア、あなたは”韓国系の”"育ちの悪い"レスラーになる必要があるんだね」「ジゼル、あなたは"トランスジェンダーのレスラー"だね」という理解をする。
それはレスリングの歴史において「ステレオタイプ」なギミックが、大きな一部を担ってきたから。

 

ランス・ストーム――

「キャラクターになれ」とか「キャラクターを作れ」とか言うのは好きじゃない。それは自分自身を発見する必要のないものだからね。
一流のプロレスラーは、リングの中でこそ、自分が何をすべきなのか、何ができるのかを見い出すんだ。プロモーターが「こんな感じで行こう」と言ったら、それは君が「そう」だという訳じゃない。あくまで観客が「そういう感じ」で理解する糸口になるだけだ。

 

ジゼル――

これまでよく「フィリピン人のギミックはやらないの?」と訊かれた。それに対して、自分はもっとクリエイティブでありたいからステレオタイプのギミックは必要ないの、私はフィリピン人だけど、だからといってフィリピン人ならどう振る舞うものだ、というような定見は無いでしょうと答えると、「じゃあなんで"トランス的なやつ"をやってるの?」と言われる。

何なの? トランスはギミックじゃない。

 

ミア・ヤム――

ジゼルが業界に入るときは「OK、いいレスラーになりたいんだね。じゃあ何が君を際立たせるかだ。フィリピン人なの? じゃあそれを出したらいい。トランスなの? じゃあそれだ、目立つだろうね」でしょ。私にとっての「韓国系なんだ、じゃあ喋り方それっぽくしたらいいんじゃない?」みたいなやつね。ただのステレオタイプだけど、10人の良いレスラーがいたら、その中で"際立つ"ために、リングでそれをやらせようとする訳。不満しかないわ。

 

ジゼル――

「性別」で評価されるより、リング内での能力で評価された方が良いに決まってる。

 

スコット・ダモア――

ジゼルはリングの中に大きな野心を持っている。それは素晴らしいものだ。キャラクター作りは非常に自然な、私生活のキャラクターを拡大したもので、ファッションもメイクもコスチュームもシューズも、全部自分で考えている。

 

ジゼル――

多彩であることがカナダの魅力で、そこでトレーニングを積めたことは素晴らしいことだったけど、カナダはあまりに広すぎて、それに対してレスリング興行は多くない。
だから私はイギリスに渡らなくてはいけなかったの。コンパクトで、レスリング興行がたくさんあるから。興行に足を運ぶ熱心なレスリングファンも多い。
家族や友人から離れて、生活を再出発させなくていけなかった。でも新生活には慣れられたし、何より私を成功に導いてくれた。
プランがあったから、毎週末ごとにプロモーターにメッセージを送った。木金土日と働いて、やり遂げるか壊れるかって感じ。

 

スコット・ダモア――

ジゼルの核心に居るものはアスリートで、リング内でもリングサイドでも、すべてにおいて的確だ。

 

ジゼル――

イギリスで誰もが為し得なかったことをやり遂げたかったの。

 

ミア・ヤム――

他人と比較して目標を決める時、自分自身に賭けられれば花開く。

 

ジゼル――

その時点で私はイギリスの二つの大手団体でベルトを獲ったけど、特に誇るべきものではないように思えてしまった。団体がよそ者にタイトルを獲らせたのは初めてのことだったとしても。その気持ちが私を打ちのめし、自分自身の為すべきことと、「次」を考えさせたの。

 

ミア・ヤム――

ひとつの目標を達成すると、その先にあるものが見えて来る。みんながお前にはできない、成し遂げられないと言っていたもの、もっと大きくてもっと良いものが見え、頂点を狙う気概が生まれる。

 

ジゼル――

プロレスリングは私がスタートラインに立つためのチケットだった。
でも私の人生はそもそも、いつも移動し続けて、そのたびスタートラインに戻って別のことを新しく始める繰り返しでもあった。要は悪循環――ああ、人に知られてしまった、もう荷物をまとめて去る潮時ってことね、了解……って。

 

ミア・ヤム――

興行に出るたび彼女が沈黙の中で耐え、精神的な戦いを強いられ、そしてそれを憂い続けなくてはならなかったということが分かった時は、本当に酷いと思った。

 

ジゼル――

毎日毎日、今いる場所でなんとかその日を生きている。
みんなわかってるのかな?
みんながトランスジェンダーについて議論する時、体の話にばかりフォーカスされる。
けれどまず現実の問題として議論すべきなのは、トランスジェンダーには平等な機会が与えられていないこと、虐待の犠牲者になっていること、そして何より暴力の標的とされていることではないの?

 

ジゼル――

いつも想像してしまう。誰かがやってきて、私に今日死なないのか、と訊くんじゃないかと。

 

スコット・ダモア――

巨大な乗り越えられない壁があったとして、そのさらに向こうにあるのは「日常」だ。巨大な壁のこと自体を認識することはできるが、日常それ自体を捉えることはできない。

 

ジゼル――

――そういうことを、いつも頭の奥で考えている。言ってしまえば、そういうことが私の中で否定的な思考停止を起こして、「今その瞬間に生きる」ということをできなくさせているの。

 

ミア・ヤム――

彼女が秘密を打ち明けてくれて、ありのままの彼女の身体性を理解することができた。彼女とは色んなことを議論したけど、このことは必要以上に彼女の重荷になっていると思う。彼女はイカしたレスラーで、めちゃくちゃ素晴らしい人間。それが全てでしょ。

 

ジゼル――

心の中の声は消えない。
ただ私は、自分のことを伝えることで、この不安から解放されたかった。そしたら、自由になれるんじゃないかって。

 

スコット・ダモア――

彼女が話してくれた不安の一部は、レストランでもカフェでも公園でも、座ることができないという話だった。誰がいるのか、誰が自分を見ているのか、誰が自分のことを考えているのか、絶えず警戒し続けなくてはならないと。

そんなの……そんなの最悪だ。

つまり僕の理解では、彼女は他人の目を気にせずに振る舞うことも、リラックスさえできないということだ。

 

(インターネット記事の画像)

見出し:プロレスラーのジゼル・ショウがトランスジェンダーであることをカムアウト「私のパワーを取り戻す」

 

ハイライト:「カムアウトに最適な時期なんか無い」とマヨルドは語った。

 

ミア・ヤム――

彼女がトロントのプライドパレードについて尋ねてきた時のことを思い出すに、彼女はナーバスになってた。その期間である週末に、一体どんな記事が上がってくるものかと。
私は彼女が不安に囚われすぎないよう、現実的な目や耳になって助けようと思った。アンタには助けが必要だ、って。

 

スコット・ダモア――

彼女の物語、真実を記事として世に出す過程で、僕が何度も何度も繰り返し言わなければいけなかった言葉がある。「軽すぎる」だ。
これらのことは全て、彼女が自分自身として快適でいられるようにするためのものだ。他のことは関係ない。

 

ジゼル――

今までプライドイベントに行ったことは無かったし、始まる前は確かにナーバスになってた。でもイベントのワクワク感で記事が出ることも楽しみになったし、記事によってこうして話を共有することもできた。

 

プライド・トロント(2022年6月22日)

司会「彼女はレスリングの世界にいるトランス女性としてカムアウトしただけじゃありません。今ここに、私たちの一人として来てくれました。本日のゲスト、ジゼル・ショウ!」

ジゼル「初めてこうしてたくさんの人たちの前でスピーチをする機会に恵まれたことを誇りに思います。私はプロレスラーです。これまでいつもトランス女性だと声に出すことを恐れ、そのことで自分を責め、ストレスに思うことで不安を増大させていました。
けれど今日の朝、すべてが変わったのです」

ジゼル「隠れるのはもう終わり。真のジゼル・ショウになります。私はディーバ、強くて自信に溢れ、賢明で、そして「本物(オーソリティ)」」

ジゼル「私は今、パワーを取り戻しました。これからみんなにパワーを与えていきます!」

 

スコット・ダモア――

このことは重荷となり、不安やストレス、鬱や様々な身体的症状を引き起こしたと思う。けれど、彼女はそれらから手を放すことができた。人々が彼女に望むことをしようとするのではなく、ただ彼女自身として、あるがままに居ることで。

トロント・プライドに参加するにあたって、彼女が引きずり、背負っていた重荷を減らすことができたことを望むし、少なくとも僕が見るに、彼女は重荷や軛を粉々に粉砕し、二度と背負わなくて済むようにしたと思う。

 

ジェニファー・ルメイ(元レスラー)――

完璧で、美しくて、私は彼女のその姿を見るだけで幸せな気持ちになった。
楽しんでいたし、自由に話せていて……何より、そこに恐れは無かった。

 

スコット・ダモア――

今回のことが彼女に与えた影響を見て行きたい。彼女があらゆる物事に際して望んできたことであり、彼女を思い遣る全ての人が望んだことだったから……彼女が真に自分自身を愛せるようになるということは。

 

ジョイサ――

プライドへの初参加は、彼女が言葉を行動に移す方法を得る機会になりました。

 

ジョイサ――

私たちは彼女のために、いつでもここにいます。
でも、彼女にはもっと多くのサポートを得て、もう独りじゃないと安心できるようになって欲しい。

 

ジゼル――

今の気持ちは、「パワーを取り戻した」という感じ。トランスという言葉を受容することで、快適さと活力を取り戻せた。

私は言葉で傷つきたくなかった。思えばそれはずっと私の足枷になっていたと思う。いつもビクビクしていたの、他人が私に「やあ、君って男の子かい?」「君ってトランスかい?」と訊いてくるんじゃないかって。

でも今は違う。

「だから何?」って感じ。

 

スコット・ダモア――

今大切なことは、彼女はジゼル・ショウで、ノックアウツの一員であるということ。それはつまり、彼女が成功するのもしないのも、彼女のリングパフォーマンス次第ということなんだ。

 

ジゼル――

この仕事で成功するも失敗するも自分次第。自分がどれだけレスリングに打ち込み、努力できたかということだけ。人種や性別の問題じゃない。

 

ミア・ヤム――

ジゼルはずっと私たちの一員だった――ノックアウト部門は高レベルの女子プロレスラーばかりで、ジゼルはそこにピッタリの存在。トランスであることは関係ないし、アジア人だとかそんなのも関係ない。私にとって、彼女は最高にイカした女たちの一員で、リング上ではパートナー。

 

ジゼル――

自分がノックアウツと呼ばれ、ノックアウト部門の一員だってことは興奮するし、何より誇りに思う。次世代の灯火を託されているということだもの。

女性がバリアを破壊し、歴史を作りあげるところを見るのは、ものすごくエンパワメントされる。まして私がその仲間で、シスターフッドの中にいると心底思えるのは本当に素晴らしいこと。私は私の家族を持つことができたし、家族に癒されてもいる。途方もないことね。

 

ミア・ヤム――

(Impactの)ロッカールームの良いところは、誰も別の誰かを偏見の目で見たり判断したりしないこと。大切なのはここ(頭)とここ(心)。

 

スコット・ダモア――

団体が多様性とリプリゼンテーションを持つということは、どこかに座っている次のジゼル・ショウに「君を待ってる、ここに道がある」と示すということなんだ。

 

ランス・ストーム――

これは子供たちにとって非常に大切なことだ。自分自身について感じていることが間違っているのではないかと疑うことは、恐ろしい。自分のような人間が見当たらないのは、自分が間違っているからなのかと。
けれど彼女のリプリゼンテーションによって、ひとりでも子供が救われたなら、千人の子供たちが安心し、「自分は一人じゃない」と思えることにつながる。

 

スコット・ダモア――

どこかにいる、まだ小さな存在がジゼル・ショウを見て「私もこの人みたいになれる」と知る、その瞬間が来るんだ。

 

ジゼル――

私がこの仕事で成功するということが重要なのは、自分のように働ける人間がまだ多くはないから。
私は今、注目を集めることに集中している。もっと私のような立場に置かれている人々が、私の足跡を辿って来られるように。

 

ランス・ストーム――

レスリングは自分がなりたいと思う自分になることができるし、そのことでより能力を発揮することができる。本当の自分を表現し、観客に受け容れられることで、快適さと自信を手に入れ、さらに多くのことをできるようになるんだ。

 

ジゼル――

今、私はただ自分自身でいるだけと感じている。それはつまり、私の時間、私の人生を手に入れたということ。とても幸せ。

 

ミア・ヤム――

レスリングはジゼルに、彼女の味方をし、サポートし続け、彼女が必要な時には手助けをする人々がいるということを気付かせた。100%自分自身でいることができる、心配することは何もないって。

 

スコット・ダモア――

彼女はトランスジェンダー? ――そうだ。

彼女はフィリピン人? ――そうだ。

彼女は痛みを抱えている? ――勿論そうだ。

けど今、これらのことは彼女が誰であるかという側面の一部に過ぎない。これらの要素だけで彼女を外側から定義することは、誰にもできはしないんだ。

 

ジゼル――

プロレスリングは間違いなく、私という個人を救った。私のエネルギーのはけ口となってくれたから。プロレスリングを愛している。

自分の夢や目標を、本気で追いかけてはいない人もいる。でも夢を追っている多くの人は、人生に一度の最高の瞬間を狙っているもの。1000%の力を振り絞ったら、その夢や目標はさらに望ましく愛しいものになる。

 

ジョイサ――

自分の愛するもののために立ち上がり続け、戦い続けることができれば、いつかトンネルの出口を見ることができる。
彼女は勇敢で強く、自信を持った自分になれた。今最高の環境にいるのは、人生のどんな逆境にも負けなかったから。どんな時でも正しい心を持ち続けたから。

 

ミア・ヤム――

レスリング業界がどこに向かうかは誰にもわからない。この出来事は6カ月前では起こらず、今でなくてはならなかった。ジゼルのカミングアウトは、レスリング業界全体の軌道を少し変えたと思う。

 

ランス・ストーム――

誰かが葛藤と戦わなければならなかったことを知らない人々は、こうしたことがどれだけの慰めになるかわからないと思う。

自分がこの世界で独りではないと知ること。

とりわけ――レスリングファンならこんな感じかな、「彼女がいるから成功できた、歓迎されるようになったんだ」と思ってもらえること。

それは本当に素晴らしいことだ。

 

ミア・ヤム――

レスリング業界は、ジゼルと共に変わって行くし、その変化を必要としている。ジゼルには感謝しないと。

 

ジゼル――

公私共に「始まった」という感じがする。経験したことのない、人生の新しい側面が。
人生が変わって、私はひとつ成し遂げた。でも今は新しい創造が始まっている。

現実に向かい合い、それがどこに向かうかを見届ける。

 

 

 

 

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Youtubeの字幕機能を参考に訳したので、文字が出なかったところはヒアリングというか推測みたいな感じです。意訳的なところもあるので「大体あってる」くらいの着地点だとは思うのですが、大幅に間違っているところに気づいた方がおられましたら教えてください。

プライドマンス中になんとか訳し終えることができました~!

翻訳ラストスパートの最中にさらに良いニュースが入って来ました。
Impact Wrestlingは来月7/16にカナダのオンタリオ州ウィンザーで、ウィンザーエセックスプライドナイトの開催を決定。
これはプロレス団体が主催する初のプライドイベントになるようです。
興行後はジゼルとチームメイトでもあるジャイ・ヴィダルのミート&グリートが企画されており、チケット売り上げの一部は98年の創設以来、LGBT+の若者の自殺防止のために活動を続けて来たトレバー・プロジェクトに寄付されるそうです。

impactwrestling.com

 

トランス女性の選手がいるのはImpactだけではないですし、AEWなどもチャリティーTシャツの販売をしてきましたが、プライドナイトの興行合同開催決定というのは本当に歴史的な出来事だと思います。

途中でミア・ヤムが言っていたように、プロレスは歴史的に、ステレオタイプと偏見を煽るキャラクターギミックに表されるように、セクシズム、ナショナリズムエスノセントリズムといった差別的意識に依拠したエンターテインメントでもあり続けて来たという事実があります。これはアメリカでも日本でもメキシコでもイギリスでもどこでもそうです。
Impact(旧TNA)は2002年の創立以来、良い意味でも悪い意味でもカオスな団体ではあり続けてきましたが、基本的にはWWEへのアンチテーゼであることを常に意識し続けて来た団体だと思います(まあホーガンとネイチを押さえてた2010年代初期以外は)。

WWEがワールド・レスリング・エンターテインメントの名前を捨てた時は「我々が"レスリング"だ」と名乗っていましたし、何よりジゼルが憧れていたノックアウツは、WWEがずっと「ディーバ」路線をやっていた時に、ゲイル・キム対オーサム・コングを(通常放送の、とはいえ)メインイベントにしたりしてましたからね。

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セクシー路線のタッグチーム「ビューティフル・ピープル」(入場シーンが常に最高視聴率)からこうしたバチバチの試合までやっていたのがノックアウツの魅力で、私の中途半端な観測ではECWで活躍していたジャクリーン(ジャッキー)が来た2006年あたりから空気が変わったようになんとなく思っているのですが、いわゆるディーバ体型ではないODBもすごく人気あったし、WWEの女子部門とは違うテイストにしようとした結果、個性と個性が凌ぎを削る実力主義的な世界を創り出していたように思います。

ただ別に当時のトップに思想があってやってたのかというと、まあまあ現場主導で転がって行った結果という感じでしたし、ほんとずっと経営が安定せずフラフラしていたので、今のスコット副社長体制になってからは改革やひとつひとつの方向性に明確な意志が感じられるのでそこはほんと良かったな……と思っています。
ランス・ストームからもそういう雰囲気を受けるのですが、プロフェッショナリズムをきちんと持っている人は、偏見を排して物事を見られるんだなあという感じがしますね。

この先、プロレス業界全体が変わるかどうかというのは、それはもうひとえにファンの意識が変わるかどうかに尽きていると思います。
エンターテインメントを動かすのは、トップの意志も必要ですが、一番はそれを支えるファンのパワーあればこそです。

毎日命を懸けて戦う選手たちがより称えられ、尊敬される世界を望むのであれば、どうかこの変化を応援してみては頂けませんでしょうか。

より多くの人が希望を持てる世界になるように。

ゲーム備忘録(という名のSwitchで買えるお勧め海外インディゲーム)

2020年2月、コロナ禍が本格的に始まる直前に妹からSwitch本体をもらった。
会社の忘年会で当たったらしい。ゲーマーの妹は既に自前のSwitchを所持していたため、2台は必要ないとのことだった。売ったらそれなりのお小遣いになりそうなのに、太っ腹だ。

以来3年ほど、Switchでゲームをやる生活を続けている。妹と共通話題が増えたことはとても嬉しい。新しいゲームへの興味が広がったため、PCにもSteamを入れたのだが、PCでゲームをプレイするという習慣があまり続かず、結局Switch偏重のままだ。

先日購入した「INSCRYPTION」で72本購入またはDLした形になったので、一旦ここでこれまでにプレイしたゲームの寸評メモみたいなものを書いていこうと思う。別にキリの良い数字じゃないじゃん、と思われそうだが、Switchのタイトル一覧の1行が6本なので、ちょうど12行になるのだ(60本の時点だともっと収まりが良かったね)。

これがそのタイトル画面サムネ。「最近プレイした順」なので、↑が新しく、↓が古い。
購入順に並べたかったのだが、なぜかそのソート基準がない。

2020年以降Switchで購入したゲームタイトルのサムネイル画像

圧倒的海外インディゲームという感じだ。むしろ右下に『ポケットモンスター ソード』が入っていることに違和感さえある。
というわけで、以下の備忘録は半ば以上「Switchで買えるお勧め海外インディゲーム」という内容になると思う。海外インディゲームのファンには言わずと知れたタイトルばかりで目新しさはないと思うが、これからインディゲームタイトルをやろうかな、でもいっぱいありすぎて選択肢が絞れないな~という方は是非参考にしてほしい。
お勧め度は★5は万人に強くオススメ、★4は惹かれるものがあればマスト、★3は時間があるならオススメ、★2はあえてやるなら止めはしない、★1はあんまり勧められません……というくらいの気持ちです。あと私自身アルファベットマフィアの端っこの方にいる者なので、LGBTQIA+が登場するゲームにはクィア性チェックもついております。
備忘録ということで半ば私のゲーム日記を圧縮した感じなので、積みゲーにしているものもたくさん出てくるし、3D酔いとの戦い日記でもあるんですが……。

ソート順はかなり悩んだのですが、最近プレイしてない順(画像右下→左上)です。買った順ではないので、2番目くらいに買ったホロウナイトがだいぶ後の方に行ったりしてます。

 

ポケットモンスター ソード

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ジャンル:RPG(ていうかポケモン
価格:DL版6578円
お勧め度:★★

当時、仕事で急に関連企画書を書く必要が生じたため、ポケモン未プレイだとまずいな~という職業意識で購入した1本(後日企画書は書いたけど部署自体が無くなりました)。
私は完全に世代から外れているため、過去作は一切触っていない。なるほどこれがポケモン…という感じで、新鮮な気持ちでプレイしたのだが、ポケモンの戦闘ってカメラアングル移動はあるものの、基本的に自分のポケモンの尻を眺めるアングルなんだな~と思った。眺めている時間が長い分、ゲームの総合的な印象はピカチュウの黄色い尻がプリプリしていたな、というものに。
とにかくポケモンどうこうというよりはキャラクタークリエイト要素で自キャラをギャルにすることを頑張っていた(プリパラ欲を持て余していたので)。しかし親友キャラが全くそれに言及しないので、そのことにだいぶ理不尽な怒りを覚えていた。お前茶髪のおかっぱが町に出てしばらく会わない間に金髪クルクル化粧濃いめで白レザー上下着てたら、なにか変化について台詞があれよ。お前初期ポで炎ポ選んでおいて、オレの水ポに勝てると思っているのかよ。なんか何度も突っかかってくるので、毎回ボコボコにボコしてやりました。モブにいる片側刈り上げみたいな髪型もできるようにして欲しかったなぁ。
初期ポといえば、メッソンに慕われるのはいいのだが、人型っぽいインテレオンに重たい愛情を向けられるのがつらく、めちゃくちゃ強いけど預け屋に行ってもらったりした。オレはトレーナーであってお前の恋人ではないんだよ。
あと全体的にUIがあんまり良くなくてびっくりした。天下のポケモン様がこれ……?
戦闘中にいちいち出る天候とかポケモンの機嫌とかの表示が飛ばせなかったり、預け屋のソートが無かったり、なんなの? やりこみ要素以前にその辺なんとかすべきでは。
ストーリーについては……なんというか……なんや……この……子どもだましの話は! と思ったけど、子供向けだからいいのか……? 良くは無い気がする。

ポケモンというコンテンツがもともと好きならお勧め。そうでないなら他のゲームをした方がいいと思う。

 

ABZU

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ジャンル:3D探索アドベンチャー
価格:2468円
お勧め度:★★★★

深海探索ダイビングアドベンチャー。一応海の遺跡の謎を解く物語が主軸ではあるのだが、とにかく世界観が美しく、魚と戯れるのが楽しい。夏にお勧めのゲームだ。
アクション要素も皆無ではないが、まず失敗しない程度のことしか要求されない。
3Dでめちゃくちゃ酔う私がなぜか全然酔わずにプレイできた。

塊魂アンコール

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ジャンル:アクション
価格:3520円
お勧め度:評定不能

昔気になっていたけどプレイできなかったタイトルのリマスター版ということで購入したが、30分ほどでトイレに駆け込んで吐いてしまった。
自分が地獄の3D酔い持ちだということに気付かせてくれた作品。
冒頭のソート画像を見ればわかるように、一応体験版も落としてプレイしていたが、最初の10分くらいは平気なのでわからなかった……。解像度を落とす、カメラを固定するなどである程度軽減されるらしいが、とにかく吐きたくないので再プレイできていない。

 

深世海

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ジャンル:アクション
価格:1990円
お勧め度:★★★

カプコンの海洋2D横スクロールアクション。難度ノーマルならアクション初心者にも優しい設計のため、気負うことなく海中探索を楽しめる。水の音にかなりこだわって作られたとのことだが、それがよくわかる素晴らしいゴボゴボ音。できれば良いヘッドフォンでプレイするとさらに没入感が上がるだろう。酸素が無くなりそうな時の焦燥感や、陸地に上がった時の安心感から、自分は陸上生物なんだな……と実感する。言語によるストーリー説明を行わないなどの演出も大変良かった。

 

UNDERTALE

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ジャンル:RPG(戦闘は弾幕シューティング)
価格:1620円
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

世界中で大ヒットした本タイトルを今更勧めたりするのも気恥ずかしいものがあるが、未プレイであれば絶対にやった方が良い! と断言できる一作。
……ではあるのだけど、私は購入してから最初のウィンターフェルの町あたりまででなんとなくダルくなってプレイを一旦やめていたのも正直に言っておく。ノリが気分に合わなかったんだと思う。その後ある海外インディゲーム紹介Youtuber(ソーシキ博士氏・現在はYoutubeアカウント削除済み)の動画見たさに再開し、アンダインが登場したあたりから前のめりになった。弾幕シューが苦手な友人は戦闘で躓いたようだが、回復アイテムをいっぱい用意しておけば全然平気なので、そこまで気負うことは無くプレイできると思う。
このゲームには3つエンディングがある。N(ノーマル)ルート、Nルートをクリアすることで行けるP(パシフィスト)ルート、G(ジェノサイド)ルート。それぞれ重層構造になっており、一応Pルートが真EDとされてはいるものの、物語上の謎解きという意味では全てのルートをクリアする必要がある。
……いや、私はGルートやってません! やらないとこのゲームを遊びつくしたことにはならないのもわかるけど、無理なものは無理! かわいそうでしょうが!
いわゆる美男美女のいない世界観で、クィアな展開が自然に出てくるこのゲームが世界中で愛されていることには涙が出るほど嬉しい。インディゲームのみならず、ゲームを始めとするオタク・カルチャー界の希望の星だ。

 

Return of the Obra Dinn

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ジャンル:謎解きアドベンチャー
価格:2250円
お勧め度:★★★★★★★★★★

人を選ぶかもしれないけど、これまでプレイした72本の中から1本選んで勧めろと言われたらこれを選ぶ。こんなに面白く、かつまったく新しい体験を与えてくれるゲームに出会えたという喜びを嚙み締めた作品は、多分PS1のタイトル『KOWLOON'S GATE クーロンズ・ゲート-九龍風水傳-』以来だ。カメラワークもちょっと似てるかも。
舞台は19世紀初頭。東方へと航海に向かったものの、5年後イギリスのファルマス港へ無人で戻ってきた船「オブラ・ディン号」に何が起こったのかを、特殊能力を持つ保険調査員が調べるというストーリー。とにかく3Dの表現が美しく、かつ謎解きが本当に面白い。
作中では判明した船員の名前や死因等を手帳に書いて埋めていくのだが、いくつかの場面ではプレイヤーである私自身もリアルにメモを取って記録・推理する必要もあった。
とにかく記憶を失くしてもう一度プレイしたい。今からやる人がうらやましくて仕方ない。

BAD NORTH

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ジャンル:リアルタイム戦略SLG
価格:1690円
お勧め度:★★

箱庭っぽいマップでバイキングと戦うリアルタイムストラテジー系シミュレーション。
リアルタイムシミュレーションでもあるんだけど、その場対応には限界があるので詰将棋的に自軍編成をきっちり作らないと終盤はキツい(当たり前っちゃ当たり前だが)。育てた部隊が全滅して、なんとなく愛着が湧き始めたランダムデザインのキャラがパラパラ死んでしまう。あとなんか血だまりの表現とかが小さいデフォルメドットとはいえ妙にリアルで怖い。
面白いし嵌ればポチポチやってしまうのだけど、終盤キツくてクリアしてないです。

I Am Dead

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ジャンル:アドベンチャー、パズル、謎解き
価格:2100円
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

死後の世界で、自分が生きてきた島シェルマ―ストンに噴火の危機が迫っていることを知った博物館長モリスが、愛犬と共に島の守護者となりえる死者を探して島を巡る物語。
死者たちの遺品や周囲の人々の話などから死者の情報を集めると、散り散りになっていた死者の意識が戻り話ができる……というシステムの説明だけ聞くとちょっとまがまがしさを感じるかもしれないが、実際は大変この上なく温かい世界観でストーリーが展開される。死後も世界に残り続ける、こまごまとした物体、物質のひとつひとつに、亡き人の記憶と残された人たちの思いが宿っているのがわかる。皆に慕われて死んでも、独りで死んでも、それは同じ。誰かが世界に関わり、生きてきた証はどこかに残っていく。死をこんなに優しく、未来への希望あるもの(!)として描いた作品はそう無いと思う。

「魚人」や「鳥人」などがいる、ちょっとファンタジーな世界観も含めて素晴らしく、次第に見えてくるシェルマ―ストンという島の歴史や文化もいとおしくなる。

ただ、死者のうち一人の一人称がノンバイナリーの「they」だったのが、そのまんま複数形で訳されているなど、テキスト数が膨大なだけに翻訳ポカも散見されるのが残念。
意味が通らない日本語にぶち当たったら原文をチェックすると吉(そんなに難しい英語じゃないです)。

それ以外のことは本当にオススメです。

 

Creaks

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ジャンル:パズルアドベンチャー
価格:2200円
お勧め度:★★★

絵本のようなビジュアルが最高~に素晴らしいパズルアドベンチャー
ステージごとに主人公をゴールまで連れて行くためのピタゴラスイッチの仕込みをする感じのパズルですね。後半は結構難しいです。
「犬っぽい生き物に追いかけられて死ぬ」があるので、犬が苦手だと辛いかも。犬自体は死にません(椅子になったりはする)。

 

Katana ZERO

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ジャンル:2Dアクション
価格:1580円
お勧め度:★★★★★

・敵も自分も一撃死
・アクションをステージごとに一筆書きのように構築して進める
・失敗したら即やり直しだがその速度とテンポがめちゃくちゃ良いので「死に覚え」が苦にならない
といういわゆる「ホットライン・マイアミ」の影響下にあるゲーム。個人的にはHMより楽しくプレイできた。HMの方がプレイの自由度は高いと思うが、こっちはより一筆書き感に特化している感がある。
HMと最も違うのは、いわゆるスーパースピードの能力が使えて、敵や自分の動きをゆっくりにするというお助けシステムがあること。ジョン・ウー的な演出を任意に出せるというか。
薬物依存のサムライ(のコスプレをしている男)が主人公で、軍での過去、マフィアとの絡みなどストーリーもなかなか中二病的な面白さがあるのだが、クリアしても話がすごい途中でぶっちぎれるのでそこは覚悟して欲しい。でも面白いから是非プレイして、続編DLC待機仲間になってくれると助かる。
DLCの情報は、2022年9月に「チラ見せ」があったきりまだ動きがない。はよ頼むわ……。音楽も良いです。オススメ。

 

resolutiion

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ジャンル:2Dアクション
価格:1680円
お勧め度:★★

「Hyper Light Drifter」のモロな影響下にあるドットアート2Dアクション。
ドットアートが非常に美しく、アクションはさほど難しくはない。
巨大な猫や特に意味もなくついてくる猫など、ポストアポカリプス退廃SF+猫ちゃんが好きな人にはオススメ。
良くも悪くも、すごくインディゲームだな~! という説明しにくいプレイ感がある。
Hyper Light Drifterをやる前にこっちを触ってしまったので、Hyper Light Drifterの画面を見て「元ネタだ!」という驚きがあった。いやこっちも面白いし、印象深い雰囲気のステージとかいっぱいあるので全然オススメもできるんですが……なんというか……内輪ノリを感じる……? みたいな……?

 

NIGHT IN THE WOODS

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ジャンル:アドベンチャー
価格:1980円
お勧め度:☆☆☆☆☆
クィア性:◎

勧めたいが勧めにくい、という気持ちで☆を透明にさせていただいた。
大学を中退して故郷の田舎町ポッサム・スプリングに戻ってきた猫の少女メイを主人公、町中を歩き回って人々と交流したり、友達とバンド活動をしたりしつつ、やがて巻き込まれることになる失踪事件を追っていく物語。
ゲームとしては間違いなく傑作で、スティーブン・キング的なアメリカン田舎ホラーの物語としても、苦しみ多き青春の物語としても素晴らしく、「田舎から出て帰らない」「田舎に一番の親友がいる」という私としては、メイと高校時代の親友ビーのやりとりの全てに心を抉られすぎた。
全方位あまりに(現実的で)シビアなポッサム・スプリングの閉塞感の中で(ディフォルメ動物キャラでなくては受け止められなかったと思う)、主人公メイのバンド仲間でもあるグレッグとアンガスというゲイカップル二人の愛だけが灯火のように輝いて見える。特にアンガスは本当に素晴らしいキャラクターだ。誰より穏やかで優しい彼がここぞという時に表明する怒りが、この作品に強い熱を与えている。


……とはいえ、なぜこのゲームを勧めにくいかというと、傑作だ! というプレイ後の興奮と共に制作者の名を検索すると、そのうちの一人が亡くなっており、またその死は非常にどうしようもなくやりきれない顛末を持っているという現実を知ることになるからだ。ただなんとなくゲームをプレイしただけの人間が背負うには耐えがたく重い苦しみと、例えその情報を読んだ一瞬であろうとも、向き合うことになる。
このゲームは確かに、インディゲームの、ことに文学性において一里塚のひとつではあるし、特にクィア性を持って生きる人にはプレイして欲しい作品ではあるのだけど、そのためにこの事実……事件と言っていいだろう……を共有し、背負うことになるかもしれないと思うと、気軽には勧められない。

制作者の件については以下のブログに詳しいが、モラル・ハラスメントや精神的虐待、自殺などの直接的な話になるため、興味本位で読むことは勧められない。間違いなく心が傷つくので。読むならば精神的余裕と覚悟のある時にお読みください。

共同制作者という名の悪夢:『Night in the Woods』の制作とアレック・ホロウカの死【翻訳】 - 名馬であれば馬のうち

ゲームは真に傑作で、音楽も素晴らしいということは再度強調しておく。上記のことを全てのみこんだ上でやれそうだ、という人にはぜひプレイして欲しい。

 

ART SQOOL

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ジャンル:お絵描きアドベンチャー
価格:1199円
お勧め度:★★

かんわいい世界観のお絵描きゲー。箱庭のような世界を歩き回って絵具や筆を集め、AI先生に出されたお題の絵を描いて採点してもらう。
和訳されていない上にお題の文字がめちゃくちゃ小さくて可読性が低かったり、AI採点の基準が全然わからなかったりするけど、とにかく作者であるアーティスト、ジュリアン・グラインダー氏のポップでカワイイCG世界をちょこちょこ歩き回れるだけでも楽しい。セールで199円とかになったりしているので、買ってSwitchに入れておけば、いつでもあの世界に行けるぞ、という安心感がある。

 

Baba Is You

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ジャンル:言語パズル
価格:1500円
お勧め度:★★★★★

傑作言語パズル。
「BABA(タイトルの下にいる白い生き物)」「IS」「 YOU(プレイヤーが動かす主人公)」をステージに設置されている言葉やモノに書き換えて、BABAを岩や壁にしたり、全く違うものをYOUにしたりしながら「YOU」をゴールまで連れて行く。
認識の角度を常に死角へ死角へと回していくような発想の転換の連続で、毎回アハ体験を得られる。脳が震える楽しさ。

 

Scott Pilgrim vs. The World™: The Game – Complete Edition (英語版)

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ジャンル:2Dアクション
価格:1980円
お勧め度:★★★★
クィア性:〇

大変よくできた現代版くにおくん
原作コミック『スコット・ピルグリム』シリーズが好きなので購入したが、想像以上によくできていてびっくりした。ブライアン・リー・オマリーの絵が動いてる~!
日本語翻訳はされていないが、プレイには特に問題ないと思う。
ラモーナの「元カレ」の一人が女性なので一応クィア性〇にしておいたが、別にそこは主題でも何でもないのであまり期待しないように。

 

Sundered:エルドリッチエディション

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ジャンル:2Dアクション
価格:2050
お勧め度:評定不能

序盤でやめてそのまま積んでいるので評定不能で申し訳ない……。
動きがモタモタしていて苦手だったのと、攻略見ても「通れる」ということになっている場所が通れなくて詰んでしまいました。私が何か見落としているのか、バグなのか……?

 

Genesis Noir

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ジャンル:アドベンチャー
価格:1520
お勧め度:★

見た目はめちゃくちゃ良いのだけど、最後の方バグが多すぎて何をしても強制終了が起きてしまい、あきらめてぶん投げた。確か修正パッチが来てた記憶があるけど、再開する気もないので直っているかどうかは不明です。
途中の「これがZEN(禅)…」みたいな話の日本文化解像度が低すぎて、さすがに差別的ファッションオリエンタリズムが酷すぎるだろ! とブチキレたりしたのであまりお勧めできません。ルックはほんとに良いですが。
このあたりから海外のゲームに出てくる日本とは……文化盗用とは……みたいなことを考えるようになった。

 

シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI

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ジャンル:文明発展ストラテジー
価格:3300円
お勧め度:★★★

世界地図まんまの位置設定でプレイするのに嵌っていました。日本とかメキシコとか北欧のあたりでやるとつらいやつ。めちゃくちゃ面白~~~~~いけど、異常に時間を吸い取って行くので一大決心の後にやめました。やめた後吸血鬼軍団とか作れるアプデが来たので、ものすごい誘惑があります。
それぞれのプレイに思い出ができるのも好きなところかな。インドで科学勝利した時は、ずっと友好的に外交を続けていたお隣のギルガメッシュが最後の方で急に裏切ったので、巨大ロボを量産してウルクを灰にしてやりましたわ、ガハハ(嫌なチャンドラグプタ)。

ただなんというかまあ、西洋中心主義的な物の見方で作られたゲームなので、それぞれの国のいわゆるお国あるあるネタスティグマ感や、そもそも無限POPする「蛮族」って、もう平気な顔で出していい概念じゃないよなあ……という感じ、現代においてはなかなか厳しい気持ちになります。次回作が出たらその辺はアップデートされるのかなぁ。ていうか世界地図まんま設定で、イギリスの土地マスが日本の倍もあるのはおかしいだろ!

時間を無限に吸われる覚悟がある歴史好きにはオススメ。

 

ジャストダンス2020

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ジャンル:音楽ゲーム
価格:6380円
お勧め度:★★★

2020はもう売ってないのか……(公式で検索しても出てこなかった)。
せっかくSwitchを持っているのなら、体を動かすゲームもやってみよう! ということで購入したゲーム。ちょうどコロナ禍の外出規制もあり、楽しく運動できた。
運動っていうか、好きな曲で踊ってるだけなんだけど。しかしアパート住まいなので飛び跳ねない楽曲しか選べなかったため、飛び跳ねなくていいフィットボクシングを買って以降はそっちにプレイ時間を奪われてやらなくなってしまった。たまに起動してKILL THIS LOVEを踊ったりはする。
飛び跳ねても良い家の人には大変オススメ。
2023にあるのはわからないけど、世界中のユーザーと同じ曲を同じ時に踊るダンスフロアシステムが楽しくて良かった。

 

What Remains of Edith Finch 『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』

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ジャンル:3Dアドベンチャー
価格:2200円
お勧め度:評定不能

ソーシキ博士氏の配信を見てすごく良かったので自分でもプレイしようと思って購入したのですが……3D酔いを起こしてしまい…………。内容はすごく良いです…それはわかっています……。

 

Neo Cab

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ジャンル:テキストアドベンチャー
価格:2050
お勧め度:評定不能

これも博士の配信で見てすごく良かったので自分でもプレイしようと思って購入したのですが、字が小さすぎて……目が…………(悲しき中年)。
多分これローカライズの問題もあって、英語だとそうでもないんじゃないかな。2バイト文字である日本語を小さいフキダシに詰め詰め表示してる弊害で字が異常に小さくなったとかもあるんじゃないかとは思うんですよね。
思うけど目が……もう無理できないので……。

 

PLANET ALPHA

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ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:999
お勧め度:評定不能

パズル系のアドベンチャーですね。ルックはいいんですけど、単調すぎるかも。進行不能バグみたいなのに引っかかってしまったので評定不能です……。

 

モンスターハンターライズ(体験版)

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ジャンル:3Dアクション
価格:3990円(体験版)
お勧め度:評定不能

3D酔いを克服するには有名タイトルが良いのでは……!? と急に思って体験版を落としたやつ。
でもなんか思ったのと45度くらい違う向きにばかり向いてしまうので、自信を失くしてそれ以上進めませんでした。PS5を手に入れたのでフロムゲーに手を出したいんだけど、思った方向に進めるんだろうか(3D赤ちゃん)。いや妹のエルデンリング触った時は結構イケたんですけど……。

 

鼠ちゃんの百科事典

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ジャンル:学習・教育
価格:1499
お勧め度:★★

絵本の中のような世界で鼠ちゃんを動かして、草むらや土の中、樹上の生き物や植物などのことを調べる図鑑的なゲーム。インタラクティブ事典? 別にパズルとかアドベンチャーみたいな要素はありませんが、ルックと雰囲気は本当に良いです。
タイトルの改行位置が変だな…と思って買ったのですが、中身も翻訳こそされてはいるものの、とてもではないが常用されていない漢字がバンバン出てくるので、別途国語辞典を手元に用意する必要があります。
誤訳とかではなく、とにかく漢字がすごい。大人で、かつ一応職業編集者だった私がそう思うのだから子供には勧められない。読めないって。

Narita Boy

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ジャンル:2Dアクション
価格:2570
お勧め度:★★★★

youtu.be

とりあえずこのナリタボーイのテーマに全部詰まっているのでお聞きください。
いかにもトンチキ解釈の日本文化が山盛り出てきそうな雰囲気がスゴイが、作者さんは子供の頃日本在住だったとのことで、意外なくらいしっかりした日本……いや成田(?)が出てくる。「Genesis Noir」より正しいぞ! ナリタボーイ!
剣を手にすると「テクノソーッ(ド)」とエコーがかかってボーイがひとしきり踊ったりするのもカワイイ。アクションとしても適度な難度で面白かったです。実際かなりオススメ。

 

Cave Story

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ジャンル:2Dアクション
価格:4070
お勧め度:★★

国産インディゲームの歴史を変え、世界に影響を与えた作品ということで、やっておいたほうが良いかな~と思ってやった一本。確かにゲームとしてはとても面白いんだけど、あのさー、女の子の下着を隠しアイテムにするのやめてくれよ! ストーリー的な必然性も皆無じゃん!
終盤に出てくるこのアイテムのせいでだいぶ気が削がれて、ラスボスまで行ったけど倒さず手を止めてしまいました。下着アイテム文化マジで滅んで欲しい。本当に気持ち悪い。長年疑問なんですけど、他人の使用済み下着を魅力的と感じるの、かなり特殊な関係性じゃないと無理じゃないですか? 誰の物だろうが基本的に触りたくないでしょ。
LIVE A LIVEのリブート版も、ゲーム自体は好きだったけど、近未来編の「妙子のパンツ」は往年のファンのために残してあるんだろうな~と思うと嫌すぎて買うのやめてしまった(近未来編が一番好きな往年のファンなのにな……)。

 

返校

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ジャンル:謎解きホラーアドベンチャー
価格:1296
お勧め度:★★★

台湾の制作会社のゲームで、映画化もされたタイトル。
私、ホラー苦手なんですよね。でもこれは驚かし系ではなかったので、結構普通にプレイできました。自分はどうも、音楽とかで急にびっくりさせられるのがダメっぽい。あと不潔感が強いやつ……。
1960年代の台湾、反共の高まりから行われていた白色テロが吹き荒れる時代のある高校を舞台としたホラーということで、なんとなく予想される通り、化け物より人間が怖いよ~という話です。台湾の民俗的習慣など色々出てきてその辺も興味深く面白かった。
とはいえ、女子学生に手を出す先生が、特にその観点では断罪されていなかったのはおおいに疑問です。クソ野郎じゃん。

 

Spiritfarer®

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ジャンル:アドベンチャー
価格:2980
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

大変なオススメゲーであるのだけど、上述したI am deadとは違うテイストで「死」を巡る物語なので、環境や精神的状況によっては「引っ張られ」すぎてしまう可能性が高いので、プレイするなら時期を選んで欲しい。実際お盆の時期に集中してプレイした私はだいぶ参ってしまった。とはいえストーリーテリングの良さと、キャラクターのいとおしさ、そしていわゆるファーム系ゲームとしての出来が大変に良いです。冥界どうぶつの森というか。

プレイヤーは死者を送る客船の主「ステラ」となり、船を操ってこの世界のさまざまな場所で出会う死者たちを船に乗せ、彼らをもてなし、願いを聞き届け、彼らがもう満足した、と言ったら世界の中央にある赤い海に連れて行き「成仏」させる。
死者たちのために船を改造し、食べたいと言うものを食べさせるために様々な食材を集め、畑を作り、レシピを編み出す工程は本当に楽しい。死者たちの願いは大概ささやかだが、それぞれの人生に刺さってしまった棘を抜くようなものだ。
舞台は多分、生と「本当の死(存在の完全消滅)」のはざまにある世界なんですね。キャラクターは動物の姿をしているけど元は人間で、それぞれの特性によって異なる動物の姿になっているという設定。
ではステラだけなぜ人間のままこの世界にいるのか、とか主人公自身の物語も色々あるのですが、とにかく出会う死者ごとのエピソードが重く、思い出すだけで若干つらいキャラもいます。いやみんな好きになるんだけど…好きになるからこそつらいというか……。レズビアンの蛇おばあちゃんとかほんと好きで船からいなくなって欲しくなかったけど、本人がもう成仏したいって言うのに引き止めるのもつらいんだよね……。あとギャングの兄弟も悪辣な言動の内部で揺れ動く表現が良かった(つらかった)。

本当に素晴らしいゲームではあるので、心に余裕のある時に是非。
’ただ個人的には死の受容の形としてはI am deadの方が優しくて落ち着くかな…とは思います。
あと『指輪物語』の最後とかもそうなんですけど、キリスト教圏の人がキリスト教に拠らず宗教的な世界観を描くとき、「死」への行きつき方が「船に乗ってどこかへ行く」になりがちなのはなぜなんでしょうか。この辺の研究書とかないのかな。

 

If Found…

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ジャンル:テキストアドベンチャー
価格:2100
お勧め度:評定不能
クィア性:◎

クィアも何も、主人公がトランス女性です。
そしてすみません、序盤も序盤で親とそのことで喧嘩してしまうシーンがあまりにつらくて、そこでプレイを止めてしまいました。親揉めトラウマのあるLGBTQIA+にはオススメできません……。
アートとかめちゃくちゃオシャレで続きはきっと希望があるはずだからやろうと思いつつも、親揉め見たくなさ過ぎて無理でした。
もっと最近のタイトルだと、こういうトラウマ喚起表現にも警告入れてくれるので、このジャンルも進化しているんだな~と思います。

Carto

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ジャンル:パズルアドベンチャー
価格:2050
お勧め度:★★★

「地図」を操る少女「カート」となって、おばあちゃんを探したり、行き会う住人の悩み事を解決したりするパズルアドベンチャー。これも台湾の制作会社です。
マップを動かすことで行けない場所に行ったり、条件を整えたりする感じですね。
難度は優しめで、絵本のような可愛い世界をウロウロするのが楽しいゲームでした。ネイティブアメリカンっぽいけどそうでもない、中立性が高い民俗表現が独特ですね。

 

Minute Of Islands(ミニッツ・オブ・アイランド)

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ジャンル:アドベンチャー
価格:2050
お勧め度:★★

思いっきり「アドベンチャータイム」なデザインが気になって購入したタイトル。実際内容もダーク路線に振り切ったアドベンチャータイムという感じで、デザインも演出も良いけど、話が……話がつらすぎる……オススメできないつらさ……。

もしかして私はバッドENDルートをやっちゃっただけなのかなあと思ったんですけど、どうもルート分岐は無いっぽいのでそういう話なんですね……。
滅びゆく世界を一人で救うことはできない、それはそう……としか言いようがないです。一人に責任を負わせてはいけないし、みんなが滅ぶ前に努力していないとダメなんだよね。それはそうすぎる……。

 

ラジィ 古の伝説

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ジャンル:3Dアクションアドベンチャー
価格:2200
お勧め度:評定不能

すみません、評価するには序盤すぎるのでは……というところでプレイを止めて積んでいるので評定不能です。
インドの制作会社が作ったヒンドゥー神話ゲームということで、かなり丁寧なヒンドゥーの神々描写とインド習俗描写が見られ、それだけでもかなり価値があると思います。なので、なんでヒンドゥーの神々が英語喋ってるんじゃというツッコミは野暮かもしれないけど、逆にインド国内のいくつかある言語のどれかで喋るよりは中立性があると言えるのかなあ。でもあんまり英語は喋って欲しくないですよね。旧宗主国の言葉だし……。
見下ろし型の3Dアクションで、武器を選べて…ってちょうど同時期に同じようなシステムでかつ操作感最高なHADESをやっていたせいもあり、こっちの癖の強い操作感にあまり慣れられずに止めてしまったので、なんか申し訳ない。

DELTARUNE Chapter 1&2

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ジャンル:RPG
価格:無料
お勧め度:★★★★
クィア性:◎

「UNDERTALE」の制作者トビー・フォックス氏が、コロナ禍で外出制限を受ける人々を励ますために、新作の一部を無料配信したもの。「UNDERTALE」の続編というか、パラレルっぽいシリーズという感じですかね。「UNDERTALE」をやっていなくても面白いと思いますが、プレイ済みの方がより楽しいはず。1&2だけでも十分面白いのでオススメですが、かなり強めの気になる引きで終わるので、この先あと何年待つんだ……という待機がしんどい人は後回しでもいいと思います。これもGルート的なやつがあるけど、やってない……。私の精神力はその辺が限界です。

 

Boyfriend Dungeon

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ジャンル:恋愛ADV&2Dアクション
価格:1999円
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎◎◎◎◎

最高の恋愛アドベンチャーゲームでは?
まず主人公の性別が男性・女性・ノンバイナリーから選べます。加えて「母からのメール」の有無も選べます。攻略対象も男性、女性、ノンバイナリー、猫など多様。ストーカー表現などのトラウマワーニングもあり。
そして個人的に一番重要なこととしては「別に恋愛にしない」という選択や展開も選べた上で、望めば複数人とも問題なく付き合えるというアセクシャル⇔ポリアモリーまで幅の広いプレイが可能という仕様です。
複数人付き合えることに関しては、Steamの日本トップレビューで「倫理観が狂ってる」とか書かれていて読んだ瞬間顔がひきつったのですが、ポリアモリーという恋愛形態の知名度の無さゆえなのか……。
私自身はアセクシャルですけど、二次創作を自分で書くと若干時間差ポリアモリーな感じになるタイプでして(お付き合いのタイムラインが複数あって、時々ラインが被ってる)、なんでなのか自分でも説明できないけど、複数人交際の話が昔から書くのも読むのも好きなんですよね。「Boyfriend Dungeon」はシステム的に攻略対象同士の絡みというかステータス参照を放棄しているっぽいので、結果的にポリアモリーなだけにも見えるんですが(別にポリアモリー肯定世界でなさそうなのはヴァレリアのバックストーリーで少し感じられる)、とにかく結果オーライで最高です。
まあとはいえ、私はアイザックがあまりにも好みだったので、アイザック以外とは付き合うけど寝ないプレイ方針で進めましたが……(ギリギリで拒否る選択肢も選べるんだよ! すごいね)。ていうかメンタルヘルスに問題を抱えるK-POPアイドル(セブン)とか炎上が怖くて寝れないべよ……。
一応説明すると、武器に変身できる人間とそうでない人間がいる世界で、主人公は攻略対象の武器人間達と一緒に街にできたダンジョンを攻略兼デートをして仲良くなるという話です。文字で書くと意味がわからなすぎるな~。武器人間は出会った初回にセーラームーンみたいな変身シーンが入るのでそれも楽しみになる。
2Dアクションも難しすぎず簡単すぎずで楽しかったです。追加キャラ分まだプレイできていないので、後でやろうっと。

 

Sayonara Wild Hearts(さよならワイルドハーツ

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ジャンル:音楽アクション
価格:1400
お勧め度:★★★★★

ジャンルの説明がちょっと難しいけど、音楽レースアクションゲームみたいな感じ……? とにかく音楽が素晴らしく、失敗してもすぐやり直せて、スピードと没入感が途切れないシステムが唯一無二の良さです。説明しにくいので経験して欲しい。
ストーリー的には失恋した女の子が自分の内面を見つめ、悲しみを克服するさまを冒険の演出に置き換えた感じなのかな。まあでもあんまりそれは関係ないです。
森の狼面が曲も演出も好き。これはほんと万人にオススメです。

 

Cuphead

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ジャンル:2Dアクション/シューティング
価格:1980
お勧め度:★★★★

ぬるぬる動くレトロカートゥーン調横スクロールアクション&シューティング。
動きがとにかく気持ちよくて素晴らしい……けど難しい! 私は途中で止まっています。難易度下げてバーっとやった方がいいのかな、と思うけど下げたところで私の腕ではいかんともしがたいのではないかと不安が……。
2Dアクションの最前線を体感したいならまず外せないタイトルと言えるでしょう。
アクションに自信が無くても、ちょっと触ってみる価値は確実にあります。

 

アウター・ワールド (The Outer Worlds)

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ジャンル:FPS
価格:7480
お勧め度:評定不能
クィア性:◎(らしい)

えー……あの、ゲームの世界でもまだ珍しい、アセクシャルのキャラクターがいるらしいと聞いて頑張ったのですが……またも3D酔いでトイレに駆け込んだため、何もわからん初期地点から進めず…………評定不能です……。
キャラクリすごい頑張ったのに、FPSなので全然見えないことには疑問を覚えた。
何のためのキャラクリだったんだろう。もしかしたらストーリーが進行したら意味があったのかもしれないが、おれにはわからない……(3D赤ちゃんの感想)。

 

WINGSPAN (ウイングスパン)

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ジャンル:鳥カードゲーム
価格:2050
お勧め度:★★★

実在するドイツのカードゲームをゲーム化したもの。
鳥を適切な保護区に誘致し、繁殖を助ける上手さと速さと良さを競うゲームなので、勝敗がどうのというよりやればやるほど鳥に詳しくなり、鳥を守る気持ちが強まる環境保護活動促進ゲーと言える。実際のカードゲームとの最大の違いは鳴き声が収録されていることなのかな。可愛いです。

 

ikenfell

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ジャンル:RPG
価格:1980
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎◎◎◎◎

主人公は魔法使いが存在するファンタジー世界で、魔法を使えない「マホウレス」として生まれた少女、マリット。優秀な魔法使いである姉が魔法学院アイケンフェルで失踪したことから、姉を捜しに学院へと向かったマリットだったが、道中で突然自らの魔法の力に覚醒する。
魔法学院で知り合った仲間達と共に、姉の失踪事件と学院に渦巻く闇に立ち向かうこととなる……といういわゆる魔法学校ものRPG
キャラクターのクィア性がとことんまで高く、プレイアブルキャラクター6人中ノンバイナリーが2人、レズビアン3人、親友ポジションはアセクシャル。敵(?)として超かわいいゲイカップルも出てきます。
トランスジェンダーだ、と名乗るキャラは居ないのですが、トランスジェンダーじゃないかなあ……というキャラもいますし(アイマと、学院の先生でもう1人そうかな? と思うキャラがいます)、そもそもマリットのマホウレス→魔法使いへ変わる感じがなんとなくトランス的でもあります。ただ、出なくてもトランスが疎外されているという印象は無く、この作品内くらいクィアであることの取り扱いが丁寧かつ一般的だと、トランスだと名乗る必要性が無いんだろうな~という感じ。
フィクションで異性愛規範がさも当然のようにズルズルと押し付けられ続ける状況には飽き飽きしているクィアなみんなには、小さい楽園の箱庭にも見えるんじゃないでしょうか。
まあただこの作品世界の隅々までがクィアを肯定しているのかというと少し疑問で、アイケンフェルという魔法学院の中だけが特別に守られているのではないかという感じもあるんですよね。ぺルティシアの家庭描写の雰囲気とか、終盤のアイヴァンとバックスの会話とか、魔法学院の外に広がる世界(社会)は彼らを傷つけ続けてきたのかもしれない、という可能性が見え隠れします。だからもしかしたら、この魔法学院は院長エルドラ(彼女も女性の恋人がいるレズビアン)の強い意志が作ったクィアの優しい楽園なのかな、という。

魔法学校ものといえばハリー・ポッターシリーズですが、作者のJKRがトランス差別を皮切りに近年明確にLGBTQIA+差別に肩入れし始めてしまった現状を思うと、ジャンル自体をクィア性で上書きする作品はなんぼあっても良い! と思います。

ストーリー中もトラウマ喚起がありそうなシーンには警告があり、とても丁寧な作り。これが「親切」の最先端だというプレイを体験したいのであれば是非。

ただ戦闘の目押しシステムは切っておいた方が楽です。攻撃はともかく、後半防御が追い付かなくてかなりつらいので……。

三木那由他さんの書かれたレビューも併せてお読みください。

jp.ign.com

 

GRIS

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ジャンル:アクション/パズル
価格:1780
お勧め度:★★★★

とにかくめちゃくちゃに美しい2Dアクション/一部パズル。
難易度は低めで、美しい世界の中を動き回る楽しさを存分に味わえる。
キレイなアート表現に触れたいな~という時に大変オススメ。
女の子が自身の内面を旅していく、というストーリー、よく考えたら「Sayonara Wild Hearts」と一緒っちゃ一緒ですね。

 

Townscaper

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ジャンル:家を建てる
価格:620
お勧め度:★★★

家をポコポコと建てられるゲーム。それ以上でもそれ以下でもなく、アンロック要素とかもなく、最初からいろんな色の家を好きな高さで好きなだけポコポコと建て、つなげて巨大な水上都市を作ったりもできる。
本当にただただそれだけなんだけど、ポコポコ音がめちゃくちゃ気持ちいいのでいつでもやれる。Switchの中に入れておくと嬉しいゲーム。

 

Unravel Two

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ジャンル:アクション/パズル
価格:3024
お勧め度:★★★

糸でできたお人形「ヤーニー」を操作して旅をするシリーズの2作目。
きれいで可愛いグラフィック、適度な難易度のパズル、ちょっと難しいアクション……2体のキャラクターを操るシステム……あっこれ2人でプレイするのが最適なやつだな⁉ と買ってから気付きました。
1人でやってるとヤーニーの切り替えがもたもたしてしまって面倒な気持ちが勝ってしまうかもしれません。私はそれで途中で積んでおります……。

 

Unpacking

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ジャンル:パズル
価格:2090
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

引っ越しの荷物を開封し、部屋の適切な場所に配置していくパズルゲーム。これはオススメです。子供部屋から始まり、学生独り暮らし、ルームシェア、社会人独り暮らし、同棲…と一人の主人公の人生をなぞる形で各面があり、移り変わる所持品や荷物の中で、主人公が何を愛し、何を選んできたのか、今人生のどういう局面なのかがひとつひとつの荷物から俯瞰的見えてくる。
主人公はゲームや漫画の好きな子で、学生時代は友達とコスプレなんかもしていた。長じてデザインの仕事を始め……という人生の中で、服や靴がオシャレになったり、旅行に行った時のおみやげをずっと持ち歩いていたり、恋人ができたり、別れたりする。
クィア性◎がついていることから推測されるとは思いますが、この主人公はいわゆるヘテロセクシャルではありません。
ので、多少ネタバレになりますけど、「男性と思しき恋人と同棲する部屋」の面の嫌さ加減がすごかった。賞状をなんでそんなとこにしまわなきゃいけないんだ……!
その辺の流れも良いのだけど、とにかくひとつひとつドット絵で丁寧に描かれた荷物たちが本当に可愛くて、次に何が出てくるのかと荷ほどきするだけでも楽しいゲームです。

 

Subnautica サブノーティカ

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ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:3520
お勧め度:評定不能

もういちいち書かなくていい気がしますが、頑張ったけど3D酔いで吐きました……。

 

SINKING CITY

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ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:4980
お勧め度:評定不能

ウクライナの制作会社の作品で、戦争開始時期にちょうどセールになっていたんですよね。応援のために購入したのですが、3Dのカメラワークで頭痛くなって冒頭くらいしかまともにできませんでした……。クトゥルフものですが、雰囲気はほんと良かったです。

 

メトロイド ドレッド 体験版

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ジャンル:2Dアクション
価格:7600
お勧め度:評定不能

あ、これは体験版だけやってみたやつです。動きとかめちゃくちゃ面白い~と思ったけどなんかこの時精神的に「何かに追われる」というシチュエーションをやりたくなかったので結局本編を購入しなかったんだよね。
メトロイドヴァニア(探索することで次第に能力が成長し、行けなかったところに行けるようになったりする2Dアクション)というジャンルにはかなり親しんでいるものの、肝心のメトロイドキャッスルヴァニア(悪魔城)にはちゃんと触ってないな~という後ろめたさが多少あります。悪魔城は一応ゲームボーイでちょっとやったかな…なんかレッドアリーマーと二択で悩んで悪魔城を買った記憶がぼんやりある(どういう二択だったんだろう…)。

 

Yooka-Laylee(ユーカレイリー)

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ジャンル:3Dアクション
価格:4250
お勧め度:評定不能

3D酔い克服のためにはこういうポップなやつから入ればいいのでは…? と悩んで購入したタイトル。「バンジョーとカズーイ」のスタッフが作った精神的後継作みたいな感じなのかな。動きはだいぶ慣れたんですけど、3D慣れという作業自体が苦行すぎて続けられなかった。申し訳ございません。(私にとっての)苦行をやるには世界観やキャラクターにのめりこめないとダメだなと思った一作。

 

コーヒートーク

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ジャンル:喫茶店アドベンチャー
価格:1600
お勧め度:★★★★
クィア性:◎

カフェのバリスタとなってお客さんの注文に応えることでストーリーが分岐進行する、バリスタ+テキストアドベンチャー
上の公式説明に「このゲームでは、人種的ステレオタイプや偏見など、文化の多様性を描く際に直面せざるをえない問題を「ファンタジー」という設定で表現しています」とあるのですが、これは本当にその通りという感じです。
その多様性を見つめる視線が優しくて、このホッとするカフェに行きたくなってきます。
コーヒーに生姜を入れたりするアレンジも試してみたくなります。オススメ。

 

VA-11 Hall-A ヴァルハラ

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ジャンル:バーアドベンチャー
価格:2160
お勧め度:★★★
クィア性:〇

近未来のあまり治安のよろしくない都市・グリッチシティのバー"VA-11 Hall-A"のバーテンダーとなって、様々な個性を持つお客さんたちにカクテルを出すことで物語が分岐進行するバーテンダー+テキストアドベンチャー
そうですね、「コーヒートーク」の元ネタというか、こういうジャンルの最大ヒット作です。キャラクター造形は日本のアニメ文化の文脈にいる感じです。なので癇に障る人は障るかな~。私は日本のオタク系文物に居る「胸の大きさの話をぺちゃくちゃする女」が大嫌いなので、その辺はかなりイライラしました。でもまあその辺を踏まえても、オススメできる作品とは言えます。音楽がすごく良いんですよね。ジュークボックスを自分で設定できるので、お気に入りの曲を設定していつもそれをかけていました。
制作会社のあるベネズエラの政情を反映したかのようなハードな環境に生きる一市民のお話なので、何か上の方で起きていることに関わっているっぽいお客さんが来ても、その大きい話には直接関われない距離感とか、あくまで生活ベースの中で進行する感じが物語の雰囲気としては良かったです。色々知ることはできるけど、関われないという……。まあ関わって欲しいですけどね。というかもうこの先「政治には関われないんで…」とか言ってたら死あるのみなんだよな(現実の世界の話)。
女性同士のカップルっぽいキャラが居たり、主人公(女性)も女性の店長に片思いしていたりするのでクィア性にをつけてはいるんですけど、日本アニメの文脈を背負っていることを考えると、あんまりここを推すことは難しいかなあ。日本アニメの文脈を背負うと、クィアじゃなくてただのシス男性による百合消費なっちゃうんだよな。私はもう現代ではこの二つを混同させない方がいいと思っているタイプです。ドラマ『ピースメイカー』でピースメイカーが、同僚のレズビアン女性に「オレのPCのエロフォルダ、レズものばっかだぜ! お前達を応援してるよ!」って言って呆れられていたけど、ほんとそういうことなんだよな(日本のオタクはピースメイカーと違って現実のLGBTOIA+を差別したりするのでピースメイカーの方がまだマシまであるが……)。

 

TOEM

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ジャンル:パズル/アドベンチャー
価格:2180
お勧め度:★★★★★

とにかくすべてが可愛かったですね……。
おばあちゃんからもらったカメラで写真を撮る旅に出かけた主人公が、行く先々で写真を活用してパズル的に問題を解決したり、謎を解いたりするゲームです。世界観と音楽が大変に可愛く、なんかモフい犬とか猫とかのゆるいデフォルメもほんと良くて猫の写真を無意味にたくさん撮ってしまいました。冬場に遊びたい雰囲気。
パズルとしての難度は簡単なものから少し考えるものまで色々で、でも全部解かなくても次に進めるようにはなっています。

 

Hotline Miami Collection

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ジャンル:アクション
価格:2570
お勧め度:★★★

音楽がめちゃくちゃ良いバイオレンスアクション…! システム関連の話は「Katana ZERO」のところで書きましたけど、ほんと面白いです。面白いんだけど、私が特にメンタル的に残酷表現NOの時に買ってしまったせいで、あまり進められずに止まっております……(そういう時がある)。めちゃくちゃ「ブラスフェマス」やってる今ならできるのかな。全体的にちょっと不潔そうな世界観でのバイオレンスなので……まあ近年のゲーマー的には見慣れた世界観なのかもしれないけど、そうでない人(自分とか)には飲み込むのに少し時間がかかるような気がする。他の積んじゃったゲーはあまり再開意欲が無いのですが、これは時間を見つけてどこかで再挑戦しようとは思っております。

 

モスメン 1966

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ジャンル:インタラクティブアドベンチャー
価格:1210
お勧め度:★★

モスマンが出てくるテキスト主体ホラーアドベンチャー……とかそういうことより、作中でできる特殊ルール地獄ソリティアが面白くて延々やってた(クリアするとメニュー画面からもプレイ可能)。最高で残4枚までしか行けなかったんですけど……。
内容もまあまあ面白かった気がするけど、ソリティアの記憶で塗りつぶされてしまったのでソリティアのことしか書けません。ソリティアのオタクにオススメ。

 

Pikuniku(ピクニック)

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ジャンル:アクションアドベンチャー
価格:1380
お勧め度:★★★★

長丸に足の生えた「ピク」の挙動がとにかく面白い。
この足のうにゃうにゃ動く挙動のプログラムが先にできて、そこから肉付けしてゲームを作ったというインタビューを読んだ記憶があるけど、それもわかるような独特さです。
ほんわかした世界をウロウロしているだけでも楽しいんだけど、どうもこの世界を経済面から牛耳り、ほんわかしない世界に変えようとする悪の社長がいることがわかり……というストーリー運びもなんか独特でよいです。たまに出るパロディネタのこの世界観とマッチしていなさ加減がすごくてむしろ笑ってしまう(ミミズくんの『シャーロック』ネタとか)。
あと音楽もいい! 手放しで楽しい一作です。

 

ムラカ(Mulaka)

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ジャンル:3Dアクション
価格:2050
お勧め度:評定不能

メキシコ神話を丁寧になぞって作った3Dアクションゲー。メキシコ政府から援助が出ているらしいです。「ラジィ」とかもそうでしたが、自国文化の継承と宣伝のために公的なところがゲーム化を推奨するというのは、近年の流れとしてあるのかなという感じ。
雰囲気はかなり良いのですが、これも進行不能(ここに絶対アイテムがあるはずなのに無い的なやつ)になってしまって止まったので評定不能です……。
3Dだけどあんまり酔わなかったのはローポリっぽくてカメラもあんまり動かさなくていいプレイ感だったからかな。回復アイテム使うと一定時間踊るの可愛かった。
翻訳はかなり厳しく、マジで何が何の用語なのかわからなさすぎるのと、あとねーこれ中文フォントになってるせいなんだけど、句読点が真ん中に来ちゃっているんですよ。たまにあるけど、見るとほんと勘弁してくれって思いますね。
ローカライズの観点では結構厳しい作品です。

 

テラリア

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ジャンル:アクション
価格:4180
お勧め度:評定不能

名作に評定不能を付けるのってかなり申し訳ないのですが、Switchの操作と相性が悪すぎて厳しかったです……。絶対これSteamでマウスでやるべきだった……!

Celeste

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ジャンル:アクション
価格:2160
お勧め度:★★★★
クィア性:◎

すみません、4面で止まっています。難しいよ~!
2Dアクションのアスレチック的な要素(タイミング良くジャンプしないと死ぬ、とか)だけを煮詰めに煮詰めたゲーム。お話としては、主人公マデリンは自己受容の旅としてセレステ山を登る中で、もうひとりの自分と出会い……という感じなんですが、周辺情報から察せられるに、マデリンは多分トランス女性なんですよね。アスレチックアクション苦手民の率直な感想としては、トランスジェンダーの自己受容がこんなに…こんなに…こんなに…こんなに…こんなに! 困難でなくて良い世界になりますように……頼む……という感じです。実際これくらい大変なのはわかるんですけど……。世の中が良くなればセレステ登山も楽になるんじゃないかなあ。

 

Hollow Knight (ホロウナイト)

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ジャンル:アクション
価格:1480
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

これは絶対的にオススメです(虫がディフォルメされていようがなんだろうがどうしても無理という人以外には)。
そもそも妹がSwitchをくれた時にオススメしてくれたのがこの「Hollow Knight」と「Katana ZERO」でした。おかげでもともと2Dでもアクションは苦手だった私もだいぶマシに戦えるようになりました。終盤近くはほんとキツいですけど、とにかく一度触ってみて欲しいタイトルです。ディフォルメ虫たちみんなカワイイよ。
いわゆるメトロイドヴァニア型2Dアクションなのですが、なんというか、インディゲームにあまり触れてこなかった人には、今のインディってこんな安い値段でこの高クオリティ大ボリュームなの……⁉ という衝撃があるはず。アクションとしての操作性も最高です。動かして背景の草をザクザク斬ってるだけで気持ち良くなるので、いつまででもこの世界をウロウロしていられる。

舞台は虫たちの滅んだ王国。主人公は言葉を話さず、また自分が何者なのかもよくわからない状態から始まります。探索によって次第に謎が明かされ、世界が見えてくるのも面白いですし、アクション難易度設定が絶妙で、だんだんプレイヤーの腕前も上がって難しいアスレチックにも対応できるようになっていくのが楽しい……楽しいんですが、まあ私は「白い宮殿」(真ENDのためには行かなくていけない最終盤激むずダンジョン)の途中で動けなくなって2年経ってるけどね!
動けなくなっているプレイヤーが言うのもなんですが、ほんと面白いです。ボス戦より探索が楽しいかな。ムカデがいっぱいいるとこ以外……(個人的に足が多い節足動物はちょっと苦手なので……)。
ノーダメージでマップの端から端まで行く、お花お届けイベント(これは普通にクリアしたよ)の恋人たちが女性同士だったり、クィア性も◎。
続編として予定されている「シルクソング」も待ってるよ~。

 

The Artful Escape

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ジャンル:アドベンチャー
価格:2200
お勧め度:★★

多少ゲームっぽさがあるオシャレ系インタラクティブムービーみたいなゲームですね。
音楽は良いし、偉大なカントリー歌手である叔父の跡を継がされそうになっている青年が宇宙を旅して自らのスタイルを見い出す…というお話も好きなんですけど、ゲームとして面白いかと言われると別に……という感じ。
というかオリジナル衣装を着るところが面白いので、アレをもう少し手前でやらせて欲しかった。できればステージクリアで衣装がアンロックされる方式が良かったかな……と色々ゲーム的には微妙なんですが、気持ちいい音楽に合わせて飛び跳ねたりしたいならオススメです。
あとこれね、翻訳が悪いです!
どこの会社なのかメモらなかったけど、この後紹介するMutazioneと同じタイプのミスをしているんだよなあ(直前に喋っていたキャラの口調が続いてしまったりするあたり)。訳漏れもいっぱいあるし、意味がギリわかるくらいのクオリティです。ゲームローカライズ業界って納品された翻訳文をチェックしたりしないのかなあ。まあ最近は出版業界大手でもプルーフリーディングをやらないところが増えているので、近年の人件費節約で真っ先に切られる仕事なんだよなあ……という感じですが、言葉をおろそかにすると、文化の将来を考えた時にマジで良くないですよ。

 

Valfaris (ヴァルファリス)

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ジャンル:アクション
価格:2500
お勧め度:★★★

途中までで積んでて申し訳ないんだけど、割と雰囲気の良い(?)2Dアクションです。
雰囲気が良いっていうか、ヘヴィメタル! クソデカ武器! 血みどろ内臓まみれ! グロめSFチック世界観! 男らしすぎてアホみたいな台詞を真っ直ぐに喋り続ける主人公! という一本芯の通った作品というべきですかね。とにかくすべてがバカバカしすぎて、遊びに来た妹と交代でプレイしてゲラゲラ笑いました。難易度はそこそこです。
クソデカ剣(ソード)を手に入れるとヘッドバンギングしながらギュインギュイーン! みたいな効果音と一緒に踊ったりするので、「Narita Boy」の親戚かもしれない。

 

ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット

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ジャンル:ロールプレイング
価格:4939
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

これに関しては別途長文の感想を書いているので、書き終わり次第ここにリンクをつけます。
とにかく大傑作なので、文字を大量に読むことに抵抗が無い人には強くオススメしたい。このゲームのジャンル「ロールプレイング」というのは文字通りの意味で、「戦闘がないRPG」という解釈は間違っている。
プレイヤーは主人公の性格や行動様式について、どのような「ロール」をするか方針を決め、数多の選択肢の中からそのロールに沿って選び取っていく……という意味の「ロールプレイング」だ。多分ほとんどの人は1周目、相棒のキム・キツラギ警部補に嫌われるのを恐れて「良さそうな選択肢」を選び、「面目ない刑事」の称号をアンロックするだろう。でもあなたはこの主人公を絶えず飲酒喫煙薬物摂取をし続ける自堕落で救いのない妄想症の男としてもロールできるし、相棒が被差別側にいるにも関わらず最低最悪なレイシストとなることもできる。ロールプレイによってアンロックされ分岐発生する「政治思想」は大まかに4つあり、1周につき1つの固有イベントをプレイすることができる(やり方によってはセーブで同じデータを使うことも可能っちゃ可能)。ゲーム冒頭、主人公は記憶を失いまっさらな状態となっている。周囲の人間達に聞き込みを続けるにつれて、浮かび上がってくる人間像は哀れでみじめだ。しかしあなたは彼がこの後どんな人間になるか決めることができる。そういう意味での「ロールプレイング」だ。なので、一旦「そういうヤツ」と決めたら貫くプレイをしてみて欲しい。

 

HADES

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ジャンル:アクション
価格:2800円(DL版)
お勧め度:★★★★★
クィア性:◎

とにかくめちゃくちゃ面白いので絶対やった方がいいよ! という雑な一文で終わらせたいくらい、そうとしか言えない傑作です。10万ワードとかなんかものすごい量の台詞バリエーションがあってしかも全部アテレコされているのですが、これインディーゲームなんですよ。
まずアクションとして、ものすごく操作性もゲーム性も楽しくて面白いです。武器は剣、槍、盾、弓、双拳、銃の6種。そこに神々の「功徳」で特殊能力を乗せて戦うのですが、バリエーションが恐ろしく多いので飽きません。私は双拳にゼウスの功徳つけて突っ走るのが楽しかったなー。槍とか盾ならアレスの出血、弓ならアフロディーテという感じでお気に入りのシナジーがそれぞれ生まれると思います。ダンジョンも自動生成。一定条件をクリアすれば、自ら「縛りプレイ」の設定もできるようになるので、なんかもう無限に遊べるよね。画面やアートもめちゃくちゃ良い。
お話はギリシア神話をベースに、冥王ハデスの息子ザグレウスが行方不明の母ペルセポネを探して地上に出るため、地獄の4層を登っていくというもの。なぜかそのことを知ったオリンポスの神々がザグレウスに加護を与えてくれるものの、神々も一筋縄では行かず……という物語も本当に面白いです。
親友タナトスや幼馴染メガイラとの恋愛(3人で付き合うこともできる…!)のクィア性の高さもさることながら、白人として描かれがちなギリシア神話の神々をきちんと当時のギリシアの状況を踏まえた多人種的なデザインにしているのも特筆すべきところと思います(『青銅のアテナ』の解釈…!)。キャラ的には愛すべき酔っ払いのディオニソスが可愛かったな……。ディオニソスは若い神だからか、少しザグレウスに目線が近いんですよね。
個人的にザグレウスの師匠アキレウスとその親友パトロクロスをきちんと恋人同士として描いていて、かつ自分が二人をもう一度結びつけるよう働きかけられるのもほんとに良かったですね……。パトアキ小説のバイブル、マデリン・ミラー『アキレウスの歌』Kindleで読めるので是非HADESと並行してお読みください。

HADESⅡの制作も発表されたので、楽しみに待っております!

 

 

Slay the Spire

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ジャンル:ローグライクカードゲーム
価格:2570
お勧め度:★★★★

これ本当は5つ星にして良いのですが、無限に時間を吸い取ってくる恐ろしいゲームとして現在封印中(データ削除)しているので、胸を張ってオススメできません。Civと同じタイプ。
それぞれ特性を持つ3人のキャラクター(誰かで最後まで行くともう1人増えます)を選んで、道中でデッキ構築をしながら敵と戦ったりしながらマップを進めて行くのですが、とにかくデッキ構築が上手く嵌った時の気持ち良さがスゴイ! 個人的にはサイレントの毒デッキが作ってて楽しいですね。
でもとにかく時間を無限に……無限に吸い取ってくるので怖くて封印を解けません。時間を無限に吸い取られてもいい人(どういう人?)にはオススメ!

In Other Waters

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ジャンル:アドベンチャー
価格:1520
お勧め度:評定不能

サブノーティカのテキスト主体版というか、マップと記号で表された異星の深海を探索するゲーム。主人公である海洋学者の女性がこの星で行方不明となった親友(パートナーかも)が遺した手がかりを追い、惑星の謎を迫る物語なのですが、プレイヤー視点はその海洋学者の女性ではなく、彼女のガイドAIみたいな存在。なので画面がデジタルデータでしか無いんですね。
すみません、これも途中でプレイが止まって積んでいる状態なのですが(Switch版は本当に字が小さくて……)、大変雰囲気が良いです。いずれプレイ再開したらちゃんと評価しようと思います。

 

Fit Boxing(フィットボクシング)

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ジャンル:トレーニン
価格:6380
お勧め度:★★★

コントローラーを握ってボクシングをするやつ……ですね。
あすけんに項目があるし、カロリー消費エクササイズとしては良いと思うのですが、足をあんまり使わないのはネック。10分で汗だくになるので、着替えをきちんと用意してのプレイ推奨です。
もしかしたら2では改善されているのかもしれないけど、あんまり音楽とテンポが合ってなくて、音楽の意味が無いんですよ。なのでプレイ中ずっと無駄に色んなことを考えてしまうので、私はなんか……やると憂鬱になるというか……あんまり相性は良くなかったです……。あと敬語を使ってくれるトレーナーさんが1人しかいなくて、ため口聞かれるとイライラするタイプな私としては彼女以外のトレーナーを選べないのもなんか…敬語の男性トレーナーがいないのはなんなんだろうか。2ではいるんかな?

 

メタルブラック

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ジャンル:シューティング
価格:838
お勧め度:★★

91年にタイトーが発売した名作シューティング。いやー9回死んだだけで元が取れてしまうな!(ゲーセン世代)
今やっても面白かったです。なんかバランスがいいんですよね。

 

リングフィット アドベンチャー

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ジャンル:トレーニン
価格:8778
お勧め度:★★★★

これ、丸いリング型コントーラー考えた人すごいな~。
足と腹筋メインでセットを組んでクリアしました。運動するために場所作ったり着替えたりするので手軽に…というほどではないけど、まあ外に出かけるよりは手軽に運動ができます。
ストーリーも割と面白い……のか? なんか上半身が異様にムキムキなドラゴンとリングの精霊……? の痴話げんか? に巻き込まれてひたすら運動するみたいな話ですね。でも1周クリアしてお話が無くなったらあんまりやる気が無くなったので、トンチキな話とはいえ物語がゲーム推進の力になっていたのは確か……多分。
あとまあ健康と若さバンザイな世界なのでしょうがないのかもしれないけど、エイブリズムとかエイジズム的な台詞がちょいちょい出てきて……いやしょうがなくないわ……任天堂大概にせえよ……という気持ちになります。

 

Mutazione

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ジャンル:アドベンチャー
価格:2050
お勧め度:★★★
クィア性:◎

舞台は隕石の墜落によってミュータント化した島民たちが暮らす島。そこに住む祖父(つまり祖父はミュータント化している)に呼び出された人間の少女カイとなって、島民たちの間にある秘密や島の謎などを探りつつ、祖父に託された使命である植物園の再生を計るアドベンチャー。植物園パートの、種を集めて植物を育てるところがすごく良い雰囲気です。植物はそれぞれ固有の「音」を持っていて、植える組み合わせでアンサンブルが形成されるんですが、これがほんとに聴いてて気持ちが良い。ゲーム本編ではそこまでバリエーションを付けられないけど、ゲーム終了後に植物園モードが解放されるのでそこで色んな組み合わせを試してみよう。
お話は結構メロドラマだな…! って感じだけど面白いです。ただメロすぎたり、カイの反応が極端だったりして、感情移入はしづらいかも。カイはどうも学校に好きな女の子がいるレズビアンぽいのですが、さらっとその情報が出てくるだけで特に主題にはなりません。でもこうさらっと出てくるの、私は好きなんですよね。普通にその辺にいる性的マイノリティもまあ、こうさらっと何気にいるものなので……。
お話の展開で、私の好きな「3人で付き合う話」が出てくるので評価が高いです。なんだろうね。好きなんですよね。
本当に残念な点としては、これもあんまり翻訳が良くないです。
カイの反応がYESなのかNOなのかよくわからない選択肢が多いのは翻訳のせいもありそう。
「The Artful Escape」のとこでも書いたけど、前の人の口調が残ったまま違う人の台詞に移行しているの、どういう現象なんですかね。翻訳にあたってexcelで一括データもらってて、セルの区切りが元々変だった……とかなのかな?
あとこれもtheyを複数形に訳しちゃってますね。性別の無い菌類のキャラの台詞だからノンバイナリーのtheyだと思うよ……。
ローカライズはアクティブゲーミングメディアさん。結構ローカライズ品質に気を使ってます! みたいなことがHPに書いてあるのに、正直ちょっとこれは無いんじゃないですか……というレベルでポカが多いです。
インディゲームのローカライズプルーフリーディング入れるのは予算的に無理というのもわかるんですけど、ちょっとポカが目立ちすぎます。誤訳はともかく、誤字脱字はせめて訳した人自身が1回見直そうよ? ローカライズのポカがゲーム体験の妨げになるのはやっぱ良くないですよ。
日本翻訳大賞にも推薦された「ディスコエリジウム」は膨大なテキスト量のテイストが統一されていて大変すばらしかったですけど、それでも名称統一が若干されていなかったり、変な訳文も皆無という訳ではなかったので……。あの文字量だと抜けも出てしまうとは思うんですけど、ただでもあんなに時間と熱量を割いてローカライズしているのだから、もう1回くらい見直してくれれば……という気持ちは無くもないです。
HADESは結構意訳になってるところもあったけど、意味が通らないとか完全に違う意味になっている台詞はパッと思い当たらなかったのはすごいですね。

 

Dead Cells

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ジャンル:アクション
価格:2480
お勧め度:★★★★

私はこれでパリィができるようになりました!
買った後ちょっとやって寝かせていたのですが、去年他の有名インディゲームとのコラボDLCが出るというのを見てプレイ再開したら、システムとかも色々やりやすくなっていて、なんか楽しかったのでクリアまで頑張れました。とはいえ1周クリアしただけなので、まだまだ全然未踏破のステージも残っているのですが……。とりあえず今年出る悪魔城コラボDLCを待ってまたプレイ再開したいです。
ジャンルはローグライクメトロイドヴァニア型2Dアクションですが、とにかく武器の種類が豊富。ある程度固定もできるのですが、ランダムに出てくる武器を使って1回限りのシナジーを試すのが本当に楽しいです。
「ブラスフェマス」の悔悟者くん(主人公)がなんか仲間みたいな顔して他ゲーのみんなと並んでるコラボDLCのイメージ絵面白すぎなんだよな。そんな感情あるんだ……っていう。

 

A Short Hike

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ジャンル:アドベンチャー
価格:850
お勧め度:★★★★★

心がささくれた時、癒しを求めて開いてしまうタイトル。そういう時はとりあえずオーロラの見える山頂から滑空して魚を釣ります。
主人公は鳥の女の子。親戚のおばさんに自然に囲まれた島へと連れてこられたものの、お母さんに電話がしたいのにこの島は電波が入らない。山頂なら電波が入るかも? ということであちこちにある「羽」を集めて高く飛べる能力を育て、登頂するというのが一応の目的としてあります。
でもこの島をうろうろして、島民たちと遊んで、釣りをしたり、追いかけっこをしたりするのが楽しいんですよね。空を飛ぶ時の、滑空の挙動が本当に気持ち良いです。登頂した後も別に「クリア」という概念は無いので、一番高く飛べるステータスのまま島で遊んでいられるのも最高。

 

Blasphemous(ブラスフェマス)

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ジャンル:アクション
価格:2750
お勧め度:★★★★★(グロOKなら)

これも買った後ちょっとやってしばらく寝かせていたのですが、Dead Cells再プレイの後、今ならできるかも……と思ってやったらパリィができるようになっていたのでプレイ再開。なんかどっぷりハマってしまい、今2周目で真ENDを目指しています。
メトロイドヴァニア型探索アクションで、死ぬと制約がつくダークソウルライクでもあります。陰惨な世界観も相まって、2D版ダクソとか言われているのを見かける。
制作はスペインの会社で、なんというかゲームでは割とふんわりとしがちな宗教要素がガチの元ネタ付きで、地に足がついているんですよね。さすがキリスト教異端信仰の本場……って言ったら失礼なのかもしれないけど、カトリック信仰の読み替えや信仰の本質を問うような物語部分が本当に素晴らしいです。

国中に歪んだ「奇蹟」が降り注ぎ、人間の持つ罪業が自身を飲み込み、怪物と化した者たちが跋扈するようになった世界クヴストディア。主人公「悔悟者」は、罪業を悔悟した存在として、この「奇蹟」を止めるため神に試される……という感じなのかなぁ⁉ 正直わかるようなわからないようなストーリーなのですが、多分悔悟者くんはこの世界を支配する「教会」の神の異端信仰者なんじゃないですかね……と思ってやっています。多分プレイヤーそれぞれに独自解釈を持ってそう。アイテムなどに付随するテキストがいちいち良いです。
検索すると巨大赤ちゃんに悔悟者くんが引きちぎられる動画とか出てきてグロさに引くかもしれませんが、別にそこは主題ではないと思う……いや悔悟者くんのフェイタリティ処刑ムーブ(雑魚敵を倒すとランダム発動する)とかもすごいグロだからまあ主題なのか……?
アクション難易度としてはパリィゲーなのでパリィを覚えるとサクサク行けると思います。ボス戦が割とロジカルで、覚えて倒すのが作業になりすぎなくて楽しいんですよね。
これも今年2が出るとのことなので、楽しみに待っています。その前に真ENDに到達してクリサンタ(色々事情のある中ボス)を助けなくては。クリサンタは久しぶりにゲームのキャラで「好きなキャラ」になりました。

 

Inscryption

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ジャンル:カードゲーム/ホラーアドベンチャー
価格:2310
お勧め度:★★★★

何を書いてもネタバレになってしまう気もするし、ネタバレを見てからプレイするとあんまり面白くない気もするので何を書いたらいいのか悩みますね。
まあなんというか、主題はホラーアドベンチャーで、クリア後はさらにもっと違うジャンルでもあったことがわかります。カードゲームだと思って買わないこと! それだけは言っておきます。
面白いんだけど、個人的感想としては制作者の目線がちょっと壮大すぎて、そこまでプレイヤーを信頼するのか…! という感じで若干引いてしまいました。アーティスト肌の人なんだなあ。

 

まとめ

それぞれ価格も書いたのですが、ほぼほぼなんらかのセールの時に購入しているので、そのままの値段で買ったゲームは結構少ないです。HADESとディスコエリジウムは気に入りすぎてパッケージ版とDL版両方買ったりしてますが……。
インディゲームはセール対象になりやすいので、気になったやつをリストに入れておき、定期的にセールになっているか見る、みたいなウォッチ購入がお勧めです。
セールで購入すると途中で積んだり、プレイ不能になってたりしても、そこまで悔しい気持ちにならないというのは、ゲームを楽しむのにあたって個人的にかなり大きい要素です。フルプライスだとよっぽど合わない限り投げだせないじゃないですか。

世界に娯楽は色々ありますが、世相や新しい感性の反映速度が一番早いのはコミックと小説(特にヤングアダルト系ノベル)、その次がインディゲームなんじゃないかと思います。その後ようやくAAAタイトルのゲーム、ドラマや映画などの映像作品……という風に波及していくイメージですね。ビッグバジェットほど遅いのは仕方ないと思いますが。
インディゲームは今や作品数が膨大で、一発当てるにはレッドオーシャン化しているとも言われ始めていますが、とはいえまだまだ挑戦者が現れる、表現の先端ジャンルのひとつだと思います。
新しい感性に触れたいと思ったら、ちょっとこの海に入ってみてください。

プロレスファンから観た『ピースメイカー』

※映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の大枠ネタバレと、ドラマ『ピースメイカー』の微ネタバレがあります。ストーリーを楽しむ邪魔にはならない程度のネタバレに抑えているつもりですが、気になる方は以下をスクロールしないようにお願いいたします。

 

ドラマ『ピースメイカー』とは

2023年1月現在、U-NEXTで配信されているドラマ『ピースメイカー』は、DCコミックスのヒーロー映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場したキャラクター「ピースメイカー」(演:ジョン・シナ)のスピンオフドラマシリーズ(全8話・シーズン2制作予定アリ)。Youtubeでも購入視聴できます。

 

脚本・監督は映画同様ジェームズ・ガンが担当。映画撮影の途中から企画が進行していたとのこと。
ピースメイカーというキャラクターは、DCコミックスに1966年に登場した同名マイナーキャラクターがデザインの元ネタではあるものの、キャラクター性はほぼ映画オリジナル。現在コミックに登場しているピースメイカーは、映画をきっかけにコミックに設定等が逆輸入された形のちょっと珍しいキャラクターになっています。スーサイド・スクワッドメンバーの中では、アニメオリジナルでコミックに逆輸入されたハーレイ・クインと少し似た経緯と言えるかも。
映画でのピースメイカーの活躍は以下の通り。

ピースメイカー(本名:クリストファー・スミス)は、父親によってあらゆる兵器と戦闘のプロフェッショナルへと育てられた、「平和のためなら女子供も殺す」暴力的な自称スーパーヒーロー。
その行き過ぎた自警行為によって収監されていた彼は、合衆国の極秘任務を担うタスクフォースXのメンバーへと抜擢され、南米の反米独裁国家で行われている宇宙生物兵器実験「スターフィッシュ計画」の施設破壊任務へと就く。だがその任務の途中、そもそも計画自体が合衆国政府の差し金で行われてきたものであることが発覚。上陸チームαのリーダー、リック・フラッグ大佐はこの事をアメリカのマスコミに暴露すると決意し、任務からの離脱を宣言するが、それを止めたのはピースメイカーだった。ピースメイカーは大佐を殺害し、仲間達をも手に掛けようとするが、βチームのリーダー、ブラッドスポートとの戦闘で敗北。狙撃を受け、塔の下敷きとなった。
……が、ピースメイカーは一命を取り留めていた。生き延びた彼にはタスクフォースXから新たな指令が下る事となる……

で、彼の新たなる任務「バタフライ計画」と、アサインされたチームの顛末を描いたのがドラマ『ピースメイカー』ということになります。

ピースメイカー、その見た目は原色のガンダムカラーコスチュームに銀色のヘルメット、親友の白頭鷲アメリカの国鳥)「ワッシー(原語ではEagly)」を連れた謎のマッチョ男性。戦闘のプロフェッショナルだが超能力的なものは無し。白ブリーフでウロウロしたりするような奇行に類する行動を平気でする、他人から見れば何を考えているのかいまいちわからない性格。本人自体に悪気は無さそうなものの、性差別、人種差別を始めとしたあらゆる差別的言動と陰謀論を信じ込んだいわゆるオルタナ右翼言動が凄まじく、故に現代では口を開くたびに他人とのコミュニケーションに躓く。時代遅れの差別用語を普通に使い、下ネタや外見のいじりで他人をからかい、「男らしさ」を誇示するような会話しかできない。本当に困ったどうしようもないヤツなのだけど、ただなぜかいつもどこかに寂しさ、繊細さを感じさせるようなところもある……というキャラクター。
『ピースメイカー』はジャンルとしてはヒーローものであり、SFアクションに分類されるだろう。そのジャンルムービー(ドラマ)としてのストーリーの軸となるのが、「人間に寄生する異星人の侵攻を食い止める極秘任務」とすれば、感情劇としての軸はピースメイカーの生い立ちを巡る物語と言える。
ピースメイカーに殺人と戦闘の訓練を施し、オルタナ右翼的な言動を刷り込み、特殊ギミックの付いた銀色のヘルメットや、派手な原色のコスチュームなどの装備を与えたのは、父親のオーガスト・スミス。
物語の進行と共に、この父親はただ単に差別的で攻撃的な人間というだけでなく、多数の信奉者を持つ白人至上主義の凶悪ヴィラン「ホワイトドラゴン」という正体があることがわかる。そしてその破綻した家庭でピースメイカーがいかに虐待的な扱いをされていたのかも……。
当初は、彼曰く"出来損ない"の息子ピースメイカーに協力的と思われたオーガストだったが、ある事件をきっかけに信奉者たち(KKKそっくり)と共に息子を殺すために動き出す……という流れに。
ピースメイカーは父親からの圧力を克服し、多様なチームメイトと協力して異星人の侵略を止めることができるのか?

 

youtu.be

ドラマ観るのめんどくさいな~という人はとりあえずこのOPだけでも観て帰ってください。カワイイから。

 

オルタナティブジョン・シナ」としてのピースメイカ

これは『ザ・スーサイド・スクワッド』を観た時からずっと思っていたことなんですけど、ジェームズ・ガン監督はこのピースメイカーというキャラクターを「裏ジョン・シナ」として当て書きで作ってますよね?

・強権的な父親に装備と原色のコスチュームを与えられた

・正義を志しているが権力に盲従する一面があり、自分の良心を裏切ってでも権力に「忠誠」を尽くしてしまう

差別まみれの言動は完全に「WWEスーパースター、ジョン・シナ」が言いそうにないことだけで構成されてはいますけど、原色カラーの社畜根性マッチョというキャラの根本は一緒じゃないですか。父親はどう見ても元WWECEO、強権で団体を支配し、スポーツエンターテインメント界を牽引してきた帝王、ビンス・マクマホンでしょう。
ちょっと待って、いきなり「社畜」とか酷いこと書くなよと思った人もいると思いますけど、これはまあシナがWWE王座を延々保持していた絶対王者時代に「CENA SUCKS!」とチャントしていたアンチ側はみんなそう思ってたと思うよ。
そう、私は現地観戦でしっかりCENA SUCKS側でチャントしていた者でございます。なぜなら試合が本当にシャレにならないくらいつまらないので……。
どんなハードスケジュールもこなす真面目な性格で、ビンス・マクマホンのお気に入りだからという理由で長々とRAWのメインを張り、WWE王座を持ち絶対王者として君臨していたシナ。当初はともかく、あまりに長く続くその予定調和ぶりに多くのファン……特に観戦歴の長いファンは飽き飽きし、次第にアンチが増え……というか爆増していった。
全然知らない人のために一応補足すると、2010年ごろのWWEテレビ放送は、『RAW』でも『SMACK DOWN』でもなんでも、とにかくシナが登場すると、「CENA SUCKS」のブーイングが起きて、それに対抗するように「LET'S GO CENA」の声援が高まり、交互に掛け合いのようなチャント合戦をする状態だったんですよね。SUCKSの声量が多すぎる会場の大会を放送するときは、音声編集でLET'S GOを足していたという噂がありますが、現地観戦した時の感じだと放送音声は毎度編集されてたんじゃないかな(お祭り的に人がいっぱい来るレッスルマニア本戦はともかく、オタクが多いRAWはさすがにSUCKSが勝ちすぎてた)。
シナはこの罵倒と声援が入り混じる状況に、「いずれにせよ自分を対象とした声である以上、両方プラスとして考えている」という感じのポジティブメッセージを出していた記憶がありますが(実際、シナが嫌いなら対戦相手の応援をしろよという真っ当なご意見もあるのだけど、どうせ会社の意向が~と思うと対戦相手に感情移入もしにくいのだ)、でもまあ数万人に「最低クソ野郎」みたいな罵倒されて楽しいわけないんだよな。
なのでドラマ内でピースメイカーが独り「本当は誰もオレのことなんか好きじゃないんだ」と涙ぐんでいたシーンを見た瞬間、私はこれらのことがぶわっと脳裏によみがえり、初めてSUCKSとか言って大変申し訳なかったと思いました。でも当時のあんたの試合はマジでシャレにならないほどつまんなかったし、何が嫌って「どうせビンスの意向は覆せない」という諦念を抱えて番組を追い、試合を観ることが嫌だったよ。こちとらサラリーマンとしてサラリーマン社会を忘れたくてプロレスとか観てるんで……。
WWEってずっとそうじゃん! と言われればそうだし、私の海外で一番好きなプロレスラーであるクリスチャン・ケイジはビンスに嫌われていたため、WWE王座に次ぐ第二の王座、世界ヘビー級王座すらデビュー14年後に親友エッジ引退の棚ぼたというチャンスが来るまで待たねばならなかった。PEEPS(クリスチャンのファンの総称)としてこの辺の恨みも勿論ある。実力、会場人気に申し分のないクリスチャンは、それまで延々と他の中堅用王座を獲り続けていたため、彼以降あまり出そうにない(今はもう廃止された王座とかもあるので)グランドスラム保持者となっている。ビンスの好き嫌いは絶対。でも失敗したな~と思ったらすぐ引っ込める理性がゼロ年代半ばまではあった。アンダーテイカーの偽物みたいなギミックの人とか(名前忘れた。ブライアン・リーではない)。比して、シナ政権はあまりにも長すぎた。

寄り道になるが、CMパンクという大変困った人の話も少ししなくてはならない。
CENA SUCKSというチャントが会場の大半を占め、観客のシナへの不満が度を超えて高まっていたものの、相変わらずビンスが自らの意向を変える事が無かった2011年、前年より禁欲主義を謳う「ストレートエッジ」のギミックに転向したパンクは、その標的をシナに定める。得意のマイクを先鋭化させ、作られた王者シナとビンスを始めとしたマクマホン・ファミリー主導のWWE上層部批判を展開した。その「リアリティ」、観客の大半がWWEを観るにあたり当然のこととして受け入れていた暗黙の前提「ビンス・マクマホンの意向」を改めて公然と批判したパンクは、WWEにおける一種の革命を起こしたと捉えられ、アンチヒーロー的な人気を博した。

元々CENA SUCKS派である私がこの流れに喜んだかというと別にそんなこともなく、この仕掛けも含めてアンチシナの感情を宥めようとするガス抜きでしかないじゃん……というかなり冷めた反応だった。なぜなら私はTNAのオタクだったので。
PPVマネーインザバンクでシナの保持するWWE王座への挑戦権を手にしたパンクは、戴冠の暁にはベルトを持ったままROHか新日本に行くと発言した。んっ? おかしいですよね? WWEを辞めた人は大体TNA(現Impactレスリング)に行くじゃん。元祖ビンスへの反逆者、ジェフ・ジャレットが設立した団体TNAは当時、WWEに規模こそ全く及ばないものの、フロリダのユニバーサルスタジオ内に常設会場を持ち、テレビ放送やマーチャンダイジングの全国展開も行う米国第二のプロレス団体だった。準WWEクラスの給与と待遇があるのはTNAしかない。World Wrestling Entertainmentから「WWE」に名前を変え、放送内からも「レスリング」「プロレスリング」の言葉を徹底排除したWWEに対し、「プロレスリング」であることを強烈に打ち出したTNAは、その番組冒頭のオープニングで毎回こう宣言した。"TNA, WE ARE WRESTLING"と(これは2007年くらいの話)。
2005年のジェフ・ハーディーを皮切りに、クリスチャン、カート・アングル、ブッカーT、その他たくさんのWWEでの待遇に不満を持った大物WWEスーパースター達が続々とTNAに移籍して行った(クリスチャンはTNA登場の初マイクで「オレはレスリングを愛しているからここに来た、観客の皆と同じだ!」と叫んだ)。2009年にはハルク・ホーガン、2010年にはリック・フレアーの2大巨頭すらTNAに行ったのだ。
そういう団体があるのに、なぜ名前があがらないのか。おかしいですよね。
当時のWWEは絶対的鎖国体制を敷いており、番組中で他のプロレス団体の名前が出ることは一切なかった。だからROH、新日本の名前が出たのも画期的な出来事ではあるのだけど……それでもTNAの名前は出せないんだよな! マーチャンダイジングの競合だからROH、新日本はウォルマートのおもちゃコーナーには出展していないから名前が出たのだ。大手おもちゃメーカー、マテルと契約してアクションフィギュアをガンガン作ってたTNAはダメ。そりゃそうだ。ちょうどホーガンとネイチ(フレアー)のおもちゃめちゃくちゃ売ってる真っ最中だったからな。
要するにパンクは、決められた範囲の中でしか上層部批判をしない、作られたキャラクターだ。本物の革命家なんかじゃない。シナが作られた王者なら、パンクもまた同じだ。
確認するまでもなく、彼の型破りなマイクは入念な打ち合わせのもとに作成されたシナリオだ。それに命を吹き込み、多くの人に「シュートだ」と信じさせたのは彼の才能だろうが、本当のところはTNAの名前も出せないような虚構でしかない。
パンクの抗争相手はシナから次第にブレていき、それでも人気を博した彼は1年以上王座を保持した(勿論、ベルトを持ったままROHにも新日本にも行きはしなかった)。

ただ、シナへの不満のガス抜き役には本命スーパースターがいた。パンクはレギュラー出演者ではないそのスーパースターの代理、場繋ぎ的な役だったとも言える(が、アンチシナの勢いが強すぎて異常にハネてしまった)。本命がパンクと違うのは、結構な長期計画の元に「ガス抜き兼シナの格上げ」のアングルが構築されていたことである。
その本命こそ、アティテュード期の超カリスマスーパースター、ハリウッドに活躍の場を移した後はドウェイン・ジョンソンとして知られるザ・ロックだ。
2011年4月の年間最大PPVレッスルマニアに突如特別ホストとして召喚され、WWE復帰を果たしたロックは、シナを「子供向けの安っぽい男」としてこき下ろし、レッスルマニア本戦で行われたWWE王座戦シナ対ミズではミズに加担(試合がつまらなすぎてマジでシーンとしていた会場がロック様登場で大沸きしたのを覚えている現地組)。翌日のRAWでついに翌年、2012年のレッスルマニアで決着戦を行うことが早々に決定する。個人的には1年後のメインイベント決めるのってほんとどうかしてると思うし、実際批判も多かった。その1年誰が何をしても意味がないことになるからね。
「ONCE IN A LIFETIME(人生でただ一度)」と銘打たれたアティテュード期のスター対視聴年齢制限PG13のスターという構図は、ちょうどその10年前、2002年に行われた旧世代のスーパースター、ハルク・ホーガンザ・ロックにあやかろうとしているのもなんとなく透けて見えた(ホーガン対ロックで敗北を喫したロック様は、プロレス界でやることは終わったとばかりに映画界に去って行ったのだが……)。
そして予定通り行われた2012年のレッスルマニアXXVIIIメインイベントで、ロックはシナを破り、多くのファンの溜飲を下げた。ただそこで終わらなかったのがホーガン対ロックとの大きな違いのひとつだ。
翌年、2013年のレッスルマニア29で、再度リベンジマッチが組まれたのだ。ONCE IN A LIFETIMEとはなんだったのか。そこでシナはついにロックを破り、WWE王座を戴冠。二人のスーパースターは対等になったのだ、ということになった(少なくとも上層部はそうしたかったのだろう)。ファンがどう思ったのかは想像にお任せする。

時のスーパースター、ロック様が敗けてみんなガッカリして終わったホーガン対ロックよりはだいぶアップデートされたガス抜き&シナ格上げアングルではあるが、もうひとつ、ホーガン対ロックの過去対未来という単純なアングルとは別の構図がロック対シナにはあった。というか、アンチシナで結集したファンの中にあったひとつの「潮流」と言ってもいい。
このアングルの中でロックから飛び出したシナへの悪口の中でも特に印象深く、いまだによく覚えているものがある。

「紫色のTシャツ、その前は緑、その前はオレンジ、貴様はまるでクソデカい皿の中で走り回るフルーティ・ペブルス(カラフルな小石)だ!」

フルーティ・ペブルスというのは、アメリカにはそういう名前の子供向けシリアルがあるのだが、これは是非を超えて大変上手い表現だったと思う。

常に黒いコスチュームで巌のように硬い「岩(The Rock)」と対比した時、シナは安っぽいTシャツの子供向けな「小石」でしかない……要は「大人の男じゃない」という皮肉だ。「男達が支持するロック」対「女子供が応援するシナ」という構図である。率直に言ってかなり「女子供の客」をバカにしたアングルでもある。今思えば。
当時はシナの試合があまりにつまらんということでそういう観点を持てなかったことを反省しております。

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男らしさとは何か?
自惚れ野郎をぶちのめし、パイを喰らい、道を切り開き、片眉吊り上げ全てを打ち負かす、万人に選ばれし王者、ザ・ロックのことだ!(The jabroni beating, pie eating, trail-blazin', eyebrow raisin', all around, smack it down People's Champ, The Rock!)
そう謳いあげるロック様に深く頷いたファンも多いだろう。

 

……でもその「男らしさ」、本当に良いものなのですか? というのが『ピースメイカー』の主題だ。
男らしいザ・ロックの言動を煮詰めに煮詰めて有害さだけ残したキャラクター、それがピースメイカーだ、という言い方をしても良いだろう。
えーっと、そんなキャラクターを他ならぬジョン・シナが演じて、WWE的には大丈夫ですか?

 

『ピースメイカー』作中での倒置的言及

ここでようやく『ピースメイカー』の話に戻るが、第1話のファミレスでのチーム集合シーンで、遅れてきたピースメイカーがウェイトレスを「sweet cheeks」と呼びかけ、仲間達に「今時そんな表現使う?」と大顰蹙を買う場面がある。字幕では「ピーチちゃん」と訳されていたが、cheeks(sなので、ほっぺふたつ)のスラング的意味合いと会話の文脈を考えると「桃尻ちゃん」みたいなニュアンスですかね。ウェイトレスさんにそんなん言ったら普通に一発アウトのセクハラ表現。仲間達は「何を急に尻とか言ってんだ」と非難するが、自分がいきなり世間のアウトラインを踏んだことに逆に慌てるピースメイカー(出所したばかり)は「ほっぺがピンクだろ」と嚙み合わない返答しかできない。
このシーンでは続いて「シュガーパイって言うのと同じくらい失礼だよ」と言われて「不適切だぞ! 彼女はシュガーパイ=貧乳じゃない。シュガーパイって言うのは彼女のことだ(仲間の一人を指して)。あと厳密には彼もだ」とピースメイカーが返す「不適切」ギャグが挟まる。
かつてWWEWWF)の名物日本語訳会社ルミエールは、ザ・ロックの「pie eating」をそのまんま「パイを喰らい」としか訳さなかったが、きちんとpieのスラング的ニュアンスを拾えば「群がる女達をコマし」くらいが妥当か。それこそ『ピースメイカー』の作中内で発せられたら、仲間達にめちゃくちゃな顰蹙を買うセクハラ表現なのだ。それと似た台詞をジョン・シナが演じるキャラクターが言う。これは特に深読みせずともWWEザ・ロックへの倒置的言及のシーンと言っていいだろう。

アティテュード期的な男らしさは、言うまでもなく性差別や人種差別、労働搾取、様々な種類の(主にパワー)ハラスメントの上に成立していた。
近年それが非常にゆっくりとではあるものの揺らぎ始め、ついには2022年、女性部下との不倫騒動とその口止め料を会社の金で払ったとのことで、ビンス・マクマホンその人がWWEを辞任する展開ともなった。これは外部からのすっぱ抜きだったが、内部で通用していたことが、社会的に通用しなくなったということのひとつの証左でもあるだろう。
ロック様自身は潔白だろうとも、彼が君臨した「男らしさ」の文化は、もはや過去のものとなりつつあるのだ。

そしてもうひとつ、さすがにこれも倒置的言及だろうというシーンが『ピースメイカー』にはある。
オルタナ右翼のクソ男、ピースメイカーの愛すべき一面、それは音楽好きというところ。ピアノを弾くシーンもある。ちなみに実際シナ自身もピアノが弾けるため、吹替ではなく本人が演奏しているとのこと。
同じく第1話、刑務所から出所したばかりで性欲が溜まっていた彼は、チームメイトのエミリアに粉をかけようとして振られ、同じバーにいた女性をナンパして彼女のマンションへ行く。この流れで、全裸で腰を振りながら「フリーダム!」と叫んで射精する役をやるジョン・シナ、という衝撃シーンがあるのでWWEファンは皆見たらいいと思う。
事後、彼女の収集していたレコードの棚を見つけたピースメイカーは、その中にプリティ・ボーイ・フロイドの一枚を見つけて「趣味が合うな」と大喜び。
そう、ピースメイカーの音楽の趣味はグラム・メタルなのだ。髪を伸ばし、化粧を施し、愛についてブルージーに歌い上げ、見た目が厳ついヘヴィメタルに比べれば女性的で、かと言ってグラムロック的なオシャレ感とも無縁な音楽ジャンル。
同じくグラム・メタル系のバンド、クワイアボーイズの「I Don’t Love You Anymore」をプレイヤーにかけ、白ブリーフ一丁のまま踊りながら歌い出すピースメイカー。ここはほんとに美しいシーンなので是非見て欲しい。ていうか『ピースメイカー』を見て欲しくて書いてるんだよこれ。
まあSFアクションドラマなので、ナンパした彼女は異星人に寄生されており、白ブリーフのまま戦うハメになるという展開なのだが、それはさておき、後の回でピースメイカーがグラム・メタルを好きなのは、亡き兄の影響だということが明かされる。
幼い頃、レコードをかけながら兄が言った言葉をピースメイカーは覚えている。

「女々しいけど、これもロックだ」

フルーティ・ペブルスもまたロックである……ということを、ジェームズ・ガンは10年の時を超えてザ・ロックに申し上げているのだ。
「女々しい」は原語だとBitchって言ってますね。併せて言及するなら、ロック様のシナ物真似は総じてなよなよした「女らしい」動きを伴うものだった。
ピースメイカーというキャラクターは、WWEの子供向けスーパースター、ジョン・シナが絶対にやらない、やってはいけない言動を踏み抜いて行く裏バージョン的な当て書きで造られているのではないかという仮説を上に書いた。
2011年、ロック様はシナに言った。「オレ様と貴様はやることなすこと正反対」と。
ハリウッドスターになってからは寡聞にして存じ上げないが、かつてのロック様は共和党支持のタカ派として知られていた。WWE自体、陸軍慰問公演がトリビュート・トゥ・ザ・トループスとして年間行事に含まれているゴリゴリの保守、共和党とは昵懇にしてきた歴史がある。トランプ元大統領もHOFだしね。
ピースメイカーは、要するにWWEの「そっち側」の要素の集合体だ。
保守、家父長制、性差別、LGBTQ+差別、人種差別、民族差別、ありとあらゆるトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)。シナが彼岸にいないような書き方をしてきたが、当然WWEスーパースター、ジョン・シナもこうしたことには加担してきている。PG13になって以降のスターなので、アティテュード期に比べれば多少マシなだけ。
そしてWWEとスーパースター達、ピースメイカーを支配してきたのは、ビンス・マクマホン、彼にそっくりの強権的な父親。

そしてネタバレになるが、最終的にピースメイカーは父親を殺す(一応文字色反転)。自らの決断で。
作られた男らしさと決別し、人間らしく、自由に生きていくために。

 

……これ、どう思います?

ジョン・シナWWEを心から愛し、自らのホームとして規定する男が、どういう心境、どういう役解釈、演技メソッドでこのピースメイカーという役を演じたと思いますか?

フルーティ・ペブルスもまたロックである。「男らしさ」を捨てても、人間の男性として在ることはできる。そういったWWE在籍時には決して発することが許されなかったメッセージを送る作品を主演することについて、彼はどう考えていたのだろう。

肯定的……だったのではないだろうか。
というかそういったジェームズ・ガンが織り込んだであろうメタレベルの暗喩込みで役理解をしていないと、できないような繊細な感情表現をできているのだ、俳優ジョン・シナは。
『ピースメイカー』の中盤、彼の過去が明かされるあたりから加速度的に増していく切ないシーンの繊細な演技については言うまでもないが、一通り見終わった後には再度『ザ・スーサイド・スクワッド』に戻ってほしい。既に『ピースメイカー』を想定した演技が行われていることがわかるので。
市内での移動シーンで、ブラッドスポートとラットキャッチャー2の悲しい生い立ちを聞きながら、なんとも微妙な顔をしているピースメイカー。彼は無言だが内心ではブラッドスポートと同じ苦しみを背負う者として悲しみを抱き、またラットキャッチャー2に対しては哀れな子どもに優しくしたいと強く願っている。
職務に殉じ、大佐を殺そうとする時の見開かれた目。ピースメイカーは、本当は大佐のような人間が好きなのだ。
シナの演技は言外にそのことを視聴者に伝えてくる。

演技者としてのジョン・シナは、いつも同じ「ロック様」テイストを求められ、それに応え続けるドウェイン・ジョンソンよりも、かなり広いバリエーションを持っていると言えるだろう。
というか私の中では、演技という場においてはシナが圧勝している。
WWEファンこそ、『ザ・スーサイド・スクワッド』『ピースメイカー』を観て欲しい。

プロレス/格闘技業界は、日米問わずトキシック・マスキュリニティの坩堝だ。
2022年も、サイバーファイトはDV前科持ち性犯罪者を招致して挙句になんか事件を起こされて帰し、UFCデイナ・ホワイトは大晦日に妻を殴った。
勝者と敗者がいるスポーツ全般、基本的にはそうなのかもしれないが、勝負を「興行」としているプロレス/格闘技業界は、とみに強さ=男らしさを強調し続けている。そして男ではないもの、男らしくあることができないものを蔑み、何よりも自分自身の傷つきや間違いから目を逸らし、貶めることで傷を広げている。
トキシック・マスキュリニティ=有害な男らしさって結局なんなんだ、と思っている人もいるかと思うんですが、ものすごく単純・平易化して言うと、「無神経」ですよね。
「誰かが傷ついても気にしない」「自分が傷ついても見ないふり」で、自他の傷をどんどん悪化させていくのが有害な男らしさです。

少しだけ話を戻すが、そもそもなにゆえWWEがロック対シナのアングルを組み、2011~2012年の丸2年をかけてまで「シナをトップで居続けさせる」というビンスの意向を守らなくてはならなかったのかと言えば、失敗を認められなかったからだ。客の気持ちに添っていない、情勢を見極められなかったという過ちから目を逸らし、「無神経」で押し通そうとしたかったということに他ならない。その間、傷つき続けたのは勿論、矢面に立っていたジョン・シナ一人である。


2022年もプロレス業界にとことんまで傷つけられた私は、男らしさよりも優しい人間らしさを選ぶ物語『ピースメイカー』を、元WWEスーパースターにして絶対王者ジョン・シナが演じたという事実にだいぶ救われた。
ありがとうシナ。
ありがとうフルーティ・ペブルス

彼が自覚的であったかどうかは勿論わからない。自分が主演した『ピースメイカー』という作品の在りようとその方向性に対して自覚的だったとして(そもそもジェームズ・ガンオルタナ右翼が大嫌いでレスバしすぎていることでも有名なので、そこを無視するのは難しいと思うが)、WWEのリングに帰ればここが故郷、ここを一番に愛していると高らかに叫ぶ彼もまた、イチプロレスファンである私同様、引き裂かれているのだと思いたい。他の何に対しても「男らしく」鉄面の無神経であることができたとしても、その裂け目は事実として存在し、痛み疼き続けるだろうから。

 

 

一応言い添えると、『ピースメイカー』はR15作品です。残酷表現、性的表現あり。

ジェームズ・ガン特有のやりすぎで嫌~な部分もあるし、あんまり万人向けとは言えないかも。
でも上記のような「ジョン・シナ」の抱えるテーマの他、ピースメイカーの人間の友達ヴィジランテとの関係や、黒人レズビアン女性アデバヨとの友情が築かれていくようす、それにもちろんヒーローもの、SFアクションとしても面白いので、興味を持った方は是非ご覧ください。『ザ・スースク』は観ておいて欲しいけど、まあ観なくてもわかると思います。

 

www.wwe.com

※ちなみにフルーティ・ペブルスはその後、シナとコラボしている。


2023/1/6 追記1:

この記事を書いてアップして寝て起きたらビンス・マクマホンWWE復帰宣言の一報が目に入り、大変に頭を抱えています。
復帰宣言というか、彼はいまだにB株(議決権等の権利強化株)の大株主なので、自分を執行役会長に戻す+子飼いの二人を取締役に据えないとメディア関連権利の承認を通さないと脅してきた感じですね。
まあ好き勝手に戻れるわけではなく、WWE現理事会の承認も必要なのですが、理事会は例の会社の金を愛人口止めに使った件の公式捜査が完了するまでは復帰を許さない、またそもそも復帰は株主の最善の利益にはなりえないということを全会一致で確認したとのこと。となると、展開によってはB株売却があるかも……ということで、WWEの株価が急上昇!
ビンスは自分が戻るという噂で株価が上がった~と喜んでそうだなあ。違うよ。
ていうかよもやのWWE分裂もあるかという展開を元CEOというか他ならぬビンス・マクマホンが仕掛けてくるとはですよね。しかも自分の愛人口止め料がきっかけというクソさがすごいな~……。

一応念のために書いておくと、私は一時期までのビンス・マクマホンのスターピックアップのセンスやスポーツエンターテインメント団体経営者としての体の張り方等々には一定以上の評価を持っております。でももうさすがに時代遅れなんだよ。戻ってきても良いことないよ。若者文化だって全然知らないらしいじゃん(インタビューソース失念して申し訳ないが最近そういう証言があった)。

あとロック様のことも大好きですよ。でも自分が客観的には「女子供の客」に分類されるという自覚を持ってからは、私のところに降りては来ないスターとして見ています。寂しいけど仕方ないですね。プロ格に限らずスポーツはとかくそういう人が多いです。

株価の話が出たので、ついでにロック対シナ期というか、シナ絶対王者期についてもう少し補足を入れます。
当時、会場で嵐のごとくCENA SUCKSチャントが起きていたのに対し、ビンスの意向一本鎗でシナを押し通していた訳ではありません。勿論ビンスの意向最優先だったことには変わりませんけど、一応別の理由づけもあったんですよね。
LET'S GO CENAの声援も一定以上あったことからわかるように、当然ながら彼は子供たちのスターです。
女性ファンもいたけど、基本的には子供というかファミリー層の支持が絶大だったという感じだったと思います。
シナはPG13のメイン視聴世帯、つまりファミリー向けのパッケージに最適化されたキャラクターでした。
言動の安全さ、試合内容も卑怯なことや残酷なことはしない保証つき(倒れた相手にストンピングすらしないで立ち上がるのをじっと待ってるからね)。カラフルな原色Tシャツは、黒赤白のWWEロゴに華やぎをもたらします。
親御さんとしても、スリーブタトゥーがびっしり入ったランディ・オートンのおもちゃは買い与えにくいけど、その点もノータトゥーのシナなら大丈夫。
PG13企業の顔として、汚いスラングと暴力、猥雑なソープオペラ的なドラマが混淆とするスポーツエンターテインメント、かつてのアティテュード期WWEのイメージを拭い去る超健全キャラクターだったわけです。
いやまあシナもちょくちょく下ネタとか、小学生レベルのいじりとか(近年ではセザーロことクラウディオ・カスタニョーリの乳輪がでかいみたいなしょうもないこと言ってたよな……)してたし、潔白では全然ないんですけど、ともかく上にも書きましたが、アティテュード期の大人向け不健全ネタの応酬に比べたら全然マシなので……。

だから、シナがトップにいると株主も安心。WWEの株価も安定。

これですよ。ビンスの意向+株価。他の人に王者を変えると株価が……と言われ始めたのはシナの頃からだったと思う。アティテュード期でそんなこと言ってるの聞いたことなかったよ。
ゆえに、シナのアプローチ対象外にいる成人オタクからしたら、何が悲しゅうてパワハラ上司の意向+経済的理由! みたいなサラリーマン社会の縮図をエンターテインメントの場で見せられなきゃいけないんだよ……! というムカつきが煮凝りのように溜まっていくわけですよ。ふざけんなよマジで(『ピースメイカー』台無しの思い出し怒り)。


しかし今こうして時系列に沿って思い返すと、シナの子供向け路線はある意味ではトキシック・マスキュリニティ緩和路線であったとも言えるし、ロック様をそこにぶつけたのはその揺り戻しだったと感じます。その流れを作ったのは、強権的なビンスの意向と、ファンの中に強く有り続けたマスキュリニティへの渇望。地獄のホモソーシャル組織とトキシック・ファンダムが相反する展望を持ちつつも有害な男らしさ満点の最悪スパイラルを作っていたという……言葉にすると改めて嫌すぎるな。
2023年現在はどうなんですかね。
正直、2013年にクリスチャンが半引退状態になってから、それまでのように詳しくは観ていないので、その後このWWEのトキシック・マスキュリニティを巡るバランスゲームがどのように遷移したのか、語ることはできません。
女性スーパースターが「ディーバ」という名称ではなくなったり、ウーマン王座戦レッスルマニアのメインイベントになったり、時代に合わせた変革は広がっているとは思います。ただその一方で、毎年なんらかの不祥事はあるし、ビンスの件の処理はだいぶ生ぬるかったし、そのせいで復活宣言もされちゃうし、ほんと一歩進んで二歩下がるじゃないけど、常に反動の波が吹き荒れ続けている世界であることには変わりません。少し気を緩めればすぐ前時代に戻ってしまう。

だから繰り返しになるけど、ほんとこの業界を長く見れば見るほど、ジョン・シナ主演『ピースメイカー』は奇跡のような出来事に思えるのです。
シナファンや、シナの動向をもっときちんとウォッチしてきた人からすれば、もう少し違う感想も出るかもしれません。でもそういう人が『ピースメイカー』を観てここまで長々文章を書いてくれる可能性は低そうなので、代わりに書きました。
あとこのエントリでは「シナの試合は超つまらない」を前提としていますが、そんなことはない、エキサイティングだ、彼の試合こそ至高だと言うファンもいるでしょう。いるだろうけど、まあ、正直つまんないよ。他の何を譲ろうとも、そこを譲る気はないな(トキシック・オタク)。

 

2023/1/6 追記2:

上で書いたアンダーテイカーの偽物の名前、わかりました。

「モルデカイ」だ!!!!!

「アンダーテイカー 白」で検索したら出てきました。そのまんま、白い服のテイカーみたいなゴスいギミックです。
2004年にWWEデビューしたモルデカイ、あまりにウケなかったので3カ月くらいで引っ込められてOVW(当時のWWEのファーム団体)に戻されて翌年解雇。2006年に謎の吸血鬼ギミックキャラクター、ケビン・ソーンとしてWWEECWに帰ってきたものの、やっぱり1年で解雇。うーん……。
ちょっと調べたのですが、以降インディ団体で活動を続け、元祖(?)吸血鬼レスラーであるギャングレルと吸血鬼タッグを組んだりもしていたようですね。2010年以降はスポット参戦のみで、年に何回かインディ団体で試合しているみたい。
まあ端的に言って色物専門レスラーなんですけど、売り出しが派手だったんだよね。テイカーの二匹目のどじょうを狙ったものの、失敗してしまったという例でした。
でもなんかプロレスを続けているみたいで良かったな。

リプリゼンテーションの色々な形

 

gazesalso.hateblo.jp

 ↑のエントリを書いて、ずっと一緒に考えていたのが、リプリゼンテーションの必要性とその大きな影響力についてでした。
創作物や有名人の中にマイノリティ属性の人がいることで、その属性の人が「こういう風に生きていいんだ」と希望を持つことができるので、当然リプリゼンテーションは必要です。
トランスジェンダーのこれまでの創作物の中での扱いを総括したプログラムとしてNetflixが『トランスジェンダーとハリウッド(Disclosure)』を作ってくれたのは本当に大きくて、リプリゼンテーションの事については「これ見て!」で終了してもいいくらいになったように思います。
エグゼクティブプロデューサー兼語り部の一人として出演しているラヴァーン・コックスは本当に素敵な役者さんなので、みんなついでに『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』も見てねって感じです。

www.netflix.com

 

近年ゲイ、レズビアンは、昔の悪役or悲劇の二択からもっと豊かで多様な生活を送る存在として描かれるようになりましたし、トランスジェンダーにも光明は差してきているように思います。

しかしアセクシャルのリプリゼンテーション…と考えた時、あまりにもものが少なすぎるてまだ何も言えない、というのが現状ですよね…。まあAはLGBTにも入っていないので…。
あらゆる属性が出てきたかに思えるNetflixのアニメ『ボージャック・ホースマン』では、メインキャラクターの一人トッドがアセクシャルとして自覚、カミングアウトしていくところまでは良かったのですが、「性的に惹かれるという機微に全く無理解」だったり、最終シーズンで「アセクシャル同士の出会い系アプリ」を作って出会った人と同棲を始めているなど、いくつか疑問の残る表象になってしまったのが残念でした。
恐らくトッドは「ロマンティック・アセクシャル」で、他人に恋愛的な惹かれ方はするけど、性的に惹かれることは無いという属性だったんかな…とか想像することはできるんですが、主題じゃないせいもあって端折られすぎていたように思います。
それでも、トッドが両親に対して吐露する「僕は一人前の大人だ」という思いは、性的関係を築けないため独り身で生きるアセクシャルが受けたことのあるであろう「未熟な人間扱い」への悲しみや怒りとして、立派なリプリゼンテーションの役割を果たしていたとは思います。
創作物を見ていて、アセクシャルかなあ…と思うキャラクターはいないでもないのですが、ほとんどの場合明言されることはないですよね。それに異性に対してよそよそしいなーと思ったらレズビアンだったとか、別ルートの回収をされることもあって、明言されるまではリプリゼンテーションとして見ることはできないのですよね…。

個人的なつらみになってしまうのですが、『アドベンチャータイム』のプリンセス・バブルガムは、シーズン1くらいの頃の主人公フィンへの淡々とした態度から、当初はアセクシャルなのかなと思って観ていました。
最後にはきちんとマーセリンとのキスも描写されて、レズビアンカップルのビッグアイコンとなった彼女にそういうつらみを掛けてしまうのはこちらも申し訳ないのですが、「あ、違ったんだ…」というのはちょっとしたダメージも喰らいます。
あとは『アナと雪の女王』のエルサですね。エルサは作中明言されていないので、まだアセクシャルとして見させてくれ~! と思うのですが、世界では「エルサに同性の恋人を」キャンペーンをするファン活動が盛り上がったりしているので、割と戦々恐々としています。いやディズニーがそっちに梶を切ったら、立派なレズビアンアイコンになるしそれは素晴らしいことだと思いますが……でもほんと確定された瞬間にこっちの手元はゼロになっちゃうので…やるならその「傷つけ」を割り切る覚悟をもってバッサリしっかりやってくれと思います。

というか別に文句は言いませんから、レズビアン表象だって少ないんだから、アセクシャルはもう少し我慢しろみたいな、マイノリティの順位付けを言い訳にするのだけは、やめてください。こっちはもっと無いの! 我慢させられている間も、若いアセクシャルの子は自分を未熟な人間のできそこないだと思って苦しんでるんですよ。
少ないパイを奪い合うのは意味がないけど、さらに数が少ない連中はもうちょっと我慢しろよって論調だけはやめて欲しいです(これはそういうことを言うひとがいるから書いてます)。

最近知ったばかりなのですが、インディーゲーム『one night, hot springs』シリーズの3作目『spring leaves no flowers』が、もろにアセクシャルを主題としています。

youtu.be

私はこちらの紹介動画を見て、1作目からプレイ中なのですが、1作目と2作目がトランスジェンダー、3作目がアセクシャルを主題とした選択式ノベルゲームです。
まあ~~~なんというか、当事者としては「周囲が優しすぎるだろ!!」と思いますが、これは多分1作目、2作目をやったトランスの人もそう思うことでしょうね。
でも、優しい世界で丁寧に心の機微を描写してくれることで、当事者だけでなくより多くの人の心にリーチする作品になっていると思います。
トランス、アセクシャル当事者だけでなく、もっと多くの人に触れて欲しい作品です。
私はこの↑動画で本当に信じられないくらい泣いてしまって、自分がどれだけ同じ属性のリプリゼンテーションに飢えていたのかわかりました。

私はもうずいぶん前にこういうことを割り切り、独りでバリバリと、でも趣味をきっかけにした友達もいて(みんなありがとうございます)楽しく生きていて、自分を未熟だとも思っていませんが、誰かにこういう話をしてほしかったと心の奥でずっと思っていたんですね。

Twitterアセクシャルであることを書くようになってから、時折検索で私のツイートに行きついたであろう若いAの子に「いいね」をもらったりするようになったのですが、そういう子のホームを見に行くと、大概みんな自分は非人間的な魂の持ち主なのではないかという自責に苦しんでいます。いつも違うよ、そうじゃないよと声をかけたいと思いつつ、FF外から失礼しますで急にそんなこと言われても怖いだろうと思いとどまっているので、届かないとは思いますがここに書いておきます。

「あなたが他人に性的に惹かれることが無くても、非人間的なわけでも未成熟なわけでもありません。性的関係以外にも、人間の関係性はたくさんあります。あなたが人間社会の中でどのように生きていきたいのか私にはわかりませんが、人に関わるにしろ、極力関わらないにしろ、自分の尊厳=プライドをきちんと持つことで、同様に他人の尊厳も尊重していけば、あなたの望む生き方はできるはずです」

このエントリに特にオチはないですが、多様な生き方ができる社会になるといいね…という気持ちをここにおいて、またこのエントリが小さなリプリゼンテーションのひとつとなることを祈って、オチとさせて頂きます(オチがないと不安になるタイプ)。

非当事者なりのトランス差別への抵抗として

私はTwitterを運用するにあたって、「過去に差別発言をし、その訂正をしていないアカウントが正論を言っていてもRTしない」という自分ルールを敷いているのですが、これのおかげで最近どんどんRTできるアカウントが減っています。
民族差別をしない→病気や障がい者等の差別をしない→女性差別をしない→LGBTQAの差別をしないというように篩をかけていくと、普段反差別的言動をしているアカウントでもLGBTのTで引っ掛かるアカウントが爆増しているからです。その大半は女性です(男性はまあ、気にも留めていないので発言もしない人がほとんどだからでしょうが)。

LGBTQAの「A」の人間にとって、これは本当にキツいです。自分のとこまで判定基準が来てねえ。
私は性自認は女性のシスなんですが、性的指向はあえて言うならバイロマンティック・アセクシャルで、男女両方に愛情を抱くことはあるけど、性的には何にも惹かれないみたいなめんどくさいやつです。アロマンティックだったらもっとわかりやすかったんですけど、どうもバイなんですよね。これまで生きてきて明らかに「好み」の男性/女性がいたのでこれはそうだと思ってます(めちゃどうでもいいですけど、「推し」はこの「好み」の枠ではないです…)。20201102追記:用語が間違っていたので修正しにきました。デミって書いてたんですけど、バイですね。デミ性はあんまりないです私。ただバイロマではあるんですけど、とにかく相手からのリターンが無理なのでそういう意味ではリスロマンティックの方が優先されるのかな…優先とかなくて併記しておくのがいいのかと思うので、バイ/リスロマンティック・アセクシャルですかね。こういう定義づけってめんどくさいとは思うんですけど、定義によって認知が生まれるというか、結局定義しないと「ヘテロのできそこない」のまんまなんですよ。だから定義は大事です。アイデンティティになりますから。
だからシス女性一般が男性に対して感じる「恐怖」は十分に理解していますが(痴漢にあったことも、まだAの自認がなかったころにはいわゆるデートレイプ案件も何度も経験しています)、同時にシス女性の中で一般的な異性愛女性から異物のように扱われる経験もしています。人間的に未成熟なものとされたり、非人間的と断じられるやつですね。Aが受ける被害というのはこういう精神的なものが多いと思います。肉体的な被害は大概望まぬ性行為の強要なので、要するにレイプであり、犯罪被害に相当するのでA特有の被害とはちょっとカテゴリがズレるかもしれません(ただ、A自認がないころに恋人のような関係になった人に流されて関係を持ち、自認を持った後にそれがずっとトラウマになってるとかはAあるあるな気もします…)。

トランス差別をするシス女性のほとんどは、トランス男性ではなくトランス女性を執拗に攻撃しているように見えます。おそらく、そういった女性達は、一度「男」という特権を持って生まれた人間が、それを手放すことなどあり得ないと思っているのでしょう(そしてトランス男性について深くは考えていなそうに見受けられます)。
でも、それは違います。
トランス女性は、女性です。
大枠の「女性」というカテゴリの中では少数の、多数の女性とは異なる背景を背負っている女性です。それだけの話です。
私も性自認ではなく性的指向の面でいえば、「多数の女性とは異なる背景を背負っている女性」です。でも普通に暮らしています。
それでも彼女達は、トランス女性には生理がないから、とか、女性として育てられた抑圧がないから、とか、いろいろ「ダメ出し」をしてなんとか「女性」のカテゴリからトランス女性をはじこうとすると思いますが、そもそもですね、子宮に障害があって生理がない女性もいますし、若くても病気で子宮を全摘した女性もいますし、逆にもうめちゃくちゃ健康でさらにご家庭が自由でメチャお金持ちだったりして想像しうる「女性的抑圧」が全くない人生を送っている「女性」もいるのです。
余談ですが、昔仕事で数人、男女雇用機会均等法以前に出世した女性にお話を聞く機会がありました。その時、いろいろあって生理の話を全員に聞いたのですが、全員生理がめちゃくちゃ軽かったんですよね。女性ならではの悩みにこたえる、みたいな趣旨でインタビューしたのに、生理痛もないし、出産も超安産だったし、実家が太くてバックアップもすごいので何も悩みはない、みたいな人もいました。
数人なのでサンプルとしては少ないのですが、男女雇用機会均等法以前に活躍している女性、ほぼほぼスーパーウーマンすぎて現代の女性と目線が合わないのでは…と困惑した記憶があります。これ、ちゃんと統計取ってほしいですね。

話が逸れましたが、要するに一口で女性と言っても、背景は様々です。
というか、肉体的な条件を基準にすると、あっという間に病人と障がい者がはじかれて、優生保護法みたいな話になるんですよ。
よく聞く「女装した男がトランスと言い張ってトイレで盗撮などをする」みたいなやつは、実際それ何件あったの?という点において、完全に女性専用車両の話をしているときに痴漢冤罪の話をする人と同じ藁人形論法です。あとそれ、「男性」が犯人の話ではないですか?「トランスと言い張って」の時点でトランスではないですよね。
こんな怖い発言をしている人がいた!もともと男だからこういうことを言うんだ!というのも、なんというか女性差別撤廃を訴えているときに、男性に男性器の写真を送りまくって罵倒を繰り返すタイプの攻撃的な女性(ツイレディとか)を指して「こんな下品で暴力的なやつがいるから女性差別はあって当然」と男性に言われたら「いや、そいつはさあ…」となりませんか。あと罵言を吐く人は女性にも死ぬほどいるので「男の証拠」にはなりません。
差別が起きている、と指摘されたときは、まず穏やかに語ってくれている人からで構いませんので、当事者の声を聴いてください。
それから、こちらのサイトの「トランスジェンダー」のカテゴリのニュース記事を読んでみてください。記事の半分以上が、暴力事件です。いやがらせ、暴行、殺害…トランスジェンダーが受けている実際の生々しい被害を、よく知ってください。

www.ishiyuri.com

 

人がたくさん死んでいるのです。
そして、死というリスクに直面しても、やはりトランス女性/男性は、己の自認を貫こうとしているのです。トランスジェンダーが、なにかよからぬ意図のために装っているだけなら、死を突き付けられた時点で普通やめませんか?
それくらいの想像力をもってほしいです…。

あと、女性差別が解決していないのにトランスの権利とか言い出すなみたいな言い方も、トイレの藁人形論法に関連して時々見かけますけど、そういったより大きな集団のために小さい集団に忍耐を強いるのって、政治運動の中で女性差別が起きた時のあるあるですよね。政治問題が解決していないんだから女は黙ってろという論法。
ひとつの差別を解決するために、他の差別を黙認するなどといいうことが、どうして許されるのでしょうか。反差別に例外を作ることは、原理的に不可能です。何かへの差別を許せば、自分が受けている差別にも道理があるということになりますから。
私はトランスジェンダー当事者ではありませんが、少し似た位置にいるマイノリティ属性の一人として、すべての差別に反対します。
そして繰り返し言うのは、トランス女性は女性、トランス男性は男性です。ついでに言えばノンセクは無性です。

Twitterで初めてフェミニズムに触れた人の中に反トランスが生まれてしまうメカニズムは、肌感覚で理解できます。女性の抑圧を再認識してしまうということは、そのあまりの無惨な歴史、加害の残した深い傷跡を、自分もまた負っているいうことを認識するということに他ならないからです。男性性への強い敵意も生まれるでしょう。それでそのまま被害者意識から動けなくなってしまうのも、わかります。でも、だからといって自分たちよりさらにマイナーな立場の人間を「雑に」(トランス女性を男性と決めつけて)抑圧しても良い理由にはなりません。

敵はそっちじゃない。敵は家父長制でしょう。

我々はともに家父長制の被害者です。労りあい、連帯すべきなのです。

至上の愛、に纏わるいくつかの断片

「試合をしている時は、いつでも、誰との試合でも、愛を感じます」

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潮﨑豪がそんな話をしたのは、2019年10月29日に行われた「プロレスリング・ノア写真展 PHOTO THE LIVE! encore+」の中で行われたトークショー「潮﨑と宮木」でのことだった。

来場者が書いた匿名質問に答えるというコーナーで、質問は「最近愛を感じた瞬間は?」というものだった。プロレスラーにかける質問としては珍妙な部類に入るが、質問者は恐らく、最近とみにタッグ愛を強調している潮﨑と中嶋勝彦のユニットAXIZに関連する答えを期待していたのではないかと思われる。

「試合をしている時は、いつでも、誰との試合でも、愛を感じます。だって愛が無かったら、相手の攻撃を正面から受けることも、相手を全力で攻撃することもできません。愛があればこそ、なんです」

詳細なメモを取っていなかったので、このエントリ内のカギカッコは記憶をべースにした要旨になるが、潮﨑は上記のような回答を、質問を聞いてからほぼ間を開けずに言い切った。ここで語られている「愛」をもう少し一般的でわかりやすい言葉にすれば「信頼」だろう。

続けて、彼が特別に激しい試合をしてきた相手である杉浦貴に関してはこんなことも言っていた。

「他の選手との試合と見比べたりするんですけど、杉浦貴、俺の時だけ特にエルボーきついですよね?」

これもまた上記の理論で言えば、杉浦の「特別な愛」ゆえであるということだ。そしてその「特別」なエルボーを受けるのも愛ゆえなのだと。ウェルターズオリジナルのCMフレーズのようだがキャンディではなくエルボーの話である。

「だから、清宮と拳王もね。拳王がああいう攻撃をしたのも、愛があるから……だと思います。清宮を信じているからこそ、ああいう厳しい攻撃をした。清宮は大丈夫ですよ。拳王の思いに答えて必ず立ち上がってくるでしょう」

このトークショーから遡ること1週間前、10.22浜松大会メインイベントの6人タッグで、拳王は清宮が稲村をタイガースープレックスホールドで投げたそのブリッジの腹にダイビングフットスタンプを敢行。首で姿勢を支えていた清宮は大ダメージを負い、担架送りとなっていた。年間最大のビッグマッチ、11.2両国大会でメインを争う二人の、最後の前哨戦で起きた事件は、ファンの間でも賛否両論分かれる…というより否の反応の方が多く、拳王は強い批判に晒される事態となっていた。
潮﨑はこの試合で中嶋と共に、清宮のトリオのパートナーとしてリングにいた。すぐ傍で担架で運ばれる清宮を見てのコメントである。清宮は必ず立つ。当事者間にしかわからないものがあり、当事者間では納得ずくなのだ。だからみんな不安だろうけど、信じて見守ってほしい。そんな言葉の後に、潮﨑はこう言った。

「三沢さんが言っていました。試合でケガをするのは、技を受けた方の責任だと。もし……清宮がこのまま………………ダメになってしまったとしても、それはあいつの責任なんです」

あいつの責任。なぜこのイベントの話を冒頭から書き連ねているのかと言われれば、この発言に辿りつきたかったからだ。ケガは受け手の責任。それは愛の話の流れで言えばつまり、愛に応えられなかった、愛に値する自分を用意できなかった側の責任ということだ。

試合中のケガは、プロレスにつきものだ。だがこれを完全に「受け手の責任」とするのは、実のところ現代のプロレス界ではやや珍しい意見であるように思われる。元週刊ゴング編集長小佐野景浩氏によれば、かつてジャイアント馬場は「ケガをする奴は二流、ケガをさせる奴は三流だ」と語ったという。一流はケガをさせないし、ケガもしないという前提の上での言葉だ。これはどの年代の発言なのか、私の手元にソースはない。70年代、80年代、90年代でそれぞれ全日本プロレスの試合の方向性は異なっているため、発言年代によってそのニュアンスは変わるだろう。
小佐野氏はDropKickでの連載コラムのうちのひとつ「多発するプロレスラーのケガを考える」の回で、この発言の引用した上で「馬場さんはアメリカでビジネスとしてのプロレスを学んできたから、ケガをさせたら相手の生活が壊れちゃうことの重大さがわかってる」と指摘している。*1

個人の狭い観測範囲ではあるが、確かにアメリカンプロレスにおいても、基本的には「かけ手の技量の問題」とされていることが多いように認識している。トリプルHがペディグリーのクラッチを相手によって変えるのは有名な話だ。相手の技量を測り、技の強弱を調整できてこそ「試合巧者」であるという観念が通底している世界であるためか、受け手の責任が問われている場面は寡聞にして存じ上げない。

ジャイアント馬場の考え方に影響を与えたアメリカンプロレスの基本的なビジネス哲学は、テリトリー制時代に発展したものだろう。かつて全日本プロレスも加盟していたNWAは、全米のプロモーター達の共同体だ。NWAの王者となったレスラーは、各地のプロモーターが主宰する興行で、その土地のトップ選手と戦うサーキットに出る。王者はその土地のヒーローであるトップ選手と「良い試合」を行わなくてはならない。おらが街のヒーローが、もしやチャンプに勝つのでは? と観客がワクワク期待するような「魅せる試合」だ。それには圧倒的な技量が必要である。相手をケガさせてはいけないし、自分もケガをすることは絶対にできない。王者は全米規模のビジネスを回している。やみくもに明日なき試合をするわけには当然、いかないのだ。

またもう一つ、アメリカンスタイルに関して推測を加えるとすれば、アメリカ・カナダには団体内において新弟子をイチから育てる「入門制度」「寮(合宿所)」が、基本的に存在していないことに起因するところが大きいのではないだろうか。AWAにおいて70年に後から開設され、幾人もの名レスラーを輩出したガニア・キャンプなどの例外を除いて、アメリカ・カナダの新人育成は団体外に独立して存在するジムや養成所で行われる。これらは月謝を払って通う職業訓練校に近いものであり、雑用をこなすことで給料をもらいながら、住み込みで下積みを行う日本のそれとは大きく形式が異なる。

83年にNWAから離脱し、ニューヨークを拠点に発展を遂げ、ついに全世界№1の規模を誇るに至ったWWF……現代の「プロレス観」において最大のヘゲモニーを持つ現WWEにおいても同様に、「入門制度」は存在しない。スーパースター達はスカウトによって集められている。ただ、団体のシステムや気風にアジャストさせるための一定の「訓練期間」は設けられており、例えばアティテュード期にはドリー・ファンクの道場にスカウトされた候補者を送りこんだりもしていたし、一時期のOVWなどの契約下にあるファーム団体で一旦デビューさせるなどということは行っている。現在のNXTもかなりこれに近いだろう。だが、いずれにしてもすでにある程度の実績を持った選手を集めたものであり、「新弟子」をイチから、というものではない。*2。もちろん、出会って後に次第に仲良くなり……という関係性はいくらも存在するものの、その膨大な競技人口もあって、基本的にそれぞれに経験を積んできたプロフェッショナルな他人同士が邂逅し続けるのがアメリカンプロレスだ。ただ、ビジネス哲学とリスペクトだけが、彼らの明日を保証している。

 

一方、日本の団体には、ほぼすべての団体に「入門制度」「寮」がある。相撲の部屋制度を日本プロレスが引き継いだからだ。この制度の絶対的なアドバンテージは、間違いなく相互理解の高さと言えるだろう。寝食を共にし、下働きとして朝から晩まで駆けずり回り、同じ道場で同じ練習メニューをこなしデビューした「同期」に至っては、相手が何が得意で何が弱点なのか、どんな性格でどういう癖があるのか、嫌でも把握する。
ただ、海外のスター選手を大量招聘し、外国人選手対所属の日本人選手という図式を長らく続けてきた80年代までの全日本プロレスにおいては、試合においてその「同じ釜の飯」効果が最高のレベルで発揮されたとは言えないだろう。全日本における日本人トップ同士の試合の先駆けである長州対鶴龍も、鶴田対天龍も、ジャンボ鶴田以外団体の「新弟子からの生え抜き」とは言い難い以上、除外される。「同じ釜の飯」効果が100%発揮されるには、90年代を待たねばならなかった。つまり、四天王プロレスの萌芽とその最盛期である。

さて、ここに至ってようやく本題に辿りついた。
潮﨑の…というより三沢光晴の「受け手の責任」発言である。
三沢は一体どのような心境で、そんなことを潮﨑に言ったのだろうか。
理解の補助線としてあげられるのは、三沢と同じく四天王の一人である小橋建太が、四天王プロレスこそ危険技をエスカレートさせた元凶である、というような批判に回答する形で主張した「自分たちは同じ釜の飯を食い、同じ道場でずっと一緒に練習を続けてきた。お互いの受け身を始めとした技量に対する圧倒的な理解と信頼があればこそ、激しい試合を行うことができたのだ」という旨の反論だろう。
これは逆に言えば、お互いの腹を知らない他人同士では、危険な試合はできない、すべきではない、ということだ。
つまり「かけ手の責任」を重く見るジャイアント馬場全日本プロレスに在りながら、三沢が「受け手の責任」という観念に辿りついたのは、お互いへの圧倒的信頼に支えられたこの環境……新弟子からの「生え抜き」で「ほぼ同期」の4人が、近しい立場で何度も何度もやりあい続けられる環境あってのことである、と推測できる。*3
97年1月、三冠ヘビー級王者として挑戦者三沢光晴を迎え撃つことになった小橋建太は、母親に「もし俺に何かあっても、決して三沢さんを恨まないでくれ」という電話をしたという。
何かあっても……という言葉の先に浮かぶのは「死」の一文字だ。
この試合は一線を超える必要があった、と小橋は言う。
一線を、死を超越するものはお互いへの深い深い理解と信頼……すなわち潮﨑の世界観に即して言葉を選べば、「愛」なのだ。

極限に高めた心技体、その上にある深い相互理解と信頼。
愛しているがゆえに全力の技を出し、愛しているがゆえに全力の技を受ける。
恐らく、これこそが四天王プロレスの本質的テーゼのひとつであった(少なくとも、三沢と小橋の間ではそうだっただろう)。
そしてそのテーゼは三沢光晴が旗揚げした団体、プロレスリングNOAHに受け継がれる。
ゆえにこそ、NOAHの所属選手はこのテーゼ…命題を共有している。しなくてはならない。そしてこの命題を核に作られた団体においてそれはもはや、「同じ釜の飯を食った」生え抜きだけの共有に留まらない。例え途中参加の選手であっても同様でなくてはならない。例えば齋藤彰俊であり、拳王であり、それぞれに出自を持った選手であるが、彼らもまた命題の共有者だ。

三沢が最後に受けた技……齋藤彰俊の美しいバックドロップは、それこそ三沢光晴が百万回も受けてきたであろう正確無比なバックドロップだった。齋藤彰俊に咎はない。齋藤彰俊三沢光晴を「愛して」いたからこそ、いつも通りのバックドロップを敢行した。

清宮海斗が首の負傷により担架で運ばれたという一報を目にしたプロレスファン、特にNOAHファンは、恐らく一様に三沢光晴を思い出しただろう。やりすぎだ。三沢を想起したファンの多くがそう思ったことは間違いない。2019年のプロレスファンの多くが、プロレスラーのケガに際し、「受け手の責任」ではなく「かけ手の責任」ないし「やりすぎ」を責めるのは、三沢光晴の死を通過しているということが大きいだろう。
だが、2009.6.13広島大会で、まさにそのリングにいた"三沢光晴最後のパートナー"潮﨑豪は、そうは思わなかったのだ。
そして多分、三沢本人もそう思わない。
責任は誰にあるのか。
それは、愛に応えられなかった受け手である、と。*4

この世界観においては、ただ愛だけが明日を保証する。しかしその愛は、無条件の愛ではない。愛するため、愛されるために己自身の価値を高め、維持し続けなくては破綻する、残酷な側面を持った愛だ。
2019年7月3日にタイトーステーション溝の口店/MEGARAGEで行われたYoutube配信番組「コテアニのなんか来た!」にAXIZとしてゲスト出演した潮﨑は、「一生プロレスがしたいか?」という質問に関して次のような発言をしている。
「思ったような動きができなくなった姿は見せたくないですね。引退試合もしたくないです。動けなくなったらある日こう……ドロンって。カード発表されて、あれ、潮﨑の名前が無いなって」「俺はいつの間にかいなくなっていると思うんで」
要するに、失踪すると言っているのだ。口調自体はいつものおちゃらけたものではあったが、その場で思いついて気軽に言うような内容ではない。*5横で聞いていた中嶋勝彦が「それはダメでしょ」「そうなったら俺が引っ張り出します」とツッコミながら、レスラーがそういった「ダメになる前にリングを下りたい」という心境に至る理由を丁寧に補足説明していたのが印象深い。明らかにあれは急に怖いことを言い始めた相方への「フォロー」だった。
愛される価値を維持できなくなった者は、愛に値せぬ者は、消えなくてはならない。何故なら、その先に待っているのは――……。

大回りをしたが、トークショーの話に戻ろう。このトークショーで語られた言葉から読み取れるのは、潮﨑が今、AXIZとしてパートナーや試合相手を対象に語る「愛」とは、そういった種類の愛であるということだ。キャリア15年目、自分のプロレスを成立させているのは「愛」だ、と彼は気付いた。死を超越し、永遠に至るものは愛だけだ。
Twitterの文字列として見る「愛を感じて欲しい」などといった言葉には、どこか軽い雰囲気があるゆえに「浮ついている」と思う人もまあまあいるだろう。だがこのトークショーを踏まえる限り、彼の「愛」の根底にあるのは浮つきとは無縁の、壮絶なものであると私は言い添えたい。*6

そして……また同時にこの話は、潮﨑豪が今まで語ることの無かった、三沢光晴の死に対する「折り合い」の話でもあるだろう。
私の知る限り、これまで彼は正面からこのこと……三沢の死に纏わる事柄について、ファンの前で語ったことはなかった。
2009~2012年のNOAH時代は、三沢の49日を過ぎてから行った齋藤彰俊との王座戦以降、6.13の出来事に関して殊更に言及することは、少なくとも表向きには無かった。
NOAHの生え抜きであるということを極力出さないように努めていた全日本時代は当然のように皆無である。例外的に2015年6月に発売された長谷川晶一『2009年6月13日からの三沢光晴』のインタビューで、かなり詳細に当日の出来事を語っているが、「どう思っているのか」という点に関しては特に言葉を費やしてはいなかった。
フリー時代、サムライTVの番組「バトルメン」に出演した時に、これまで経歴をまとめたVTRの後、6.14の博多スターレーンでの王座戦の心境について質問されたが、その答えは「全員が一睡もしていなかった。誰もケガをしなくてよかった」というものだった。

今、潮﨑がこうしてようやく三沢光晴の言葉を語れるようになったというのは、彼の中でひとつの覚悟が決まったという証ではないだろうか。それには10年の歳月を必要とした。今も十字架を背負う齋藤彰俊と同様に、潮﨑豪にも悔恨はあるだろう。タッグパートナーとして、「あの時、交代しなければ」「自分が代わりに受けていれば」そんなことを考えなかったわけがない。だがそれは言葉にしても詮無いことだ。
「人生たらればなし」
これも三沢光晴の好んで使った言葉だ。

2020年、「愛」を胸に闘う潮﨑豪の躍進を大いに期待したい。*7

 

「煙草の自販機の隣にある自販機に、クリームソーダが売られていた。それを買ってもらうために、煙草を買いに行く親父に付いて行ったのを覚えている」

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内省と心の整理、そして覚悟と言えば、潮﨑のタッグパートナー、中嶋勝彦も同様だ。ここ最近彼は「父親」に関して、言葉で語ることが増えたように思う(残念ながら私は過去の彼の言動を、潮﨑のものほどには追っていないので断言は全くできないが)。
上記の言葉は、2018年11月1日に行われたセイシュン・ダーツ青木泰寛主宰のトークショーにゲストで呼ばれた時のものだ。「最初の記憶は?」という質問に答えてのものである。3歳ごろの話だと言っていた。

微笑ましい子供時代の記憶だが、プロレス格闘技DX掲載の日記「勝日記」2019年11月29日更新分と合わせて読むと、全く印象は変わってくる。
有料コンテンツゆえ引用は避けるが、中嶋は5歳ごろ、このクリームソーダを買ってもらった実の父に捨てられた。*8取り残された母子家庭は貧困に苦しみ、彼は一刻も早く自らの力で稼ぐべく、15歳で格闘技・プロレスの世界へと入る。そこで「育ての父」佐々木健介に出会うが、やがて彼にもまた不意の引退という形で捨てられた。*9
拠り所となるはずだった父の愛の、二度に及ぶ喪失。だがその代わりに見出したのはリング上で感じる「愛」だったという話だった。ファンからの「愛」、信頼するパートナー、尊敬できる好敵手への「愛」。

ここに多く言葉を付け足す必要はない。
いくつかの断片的なエピソードを聞いた上で感じる佐々木健介中嶋勝彦の関係性は、まさしく父子であると同時に、明らかに社会通念上、未成年者への接し方として一線を超えているものがある……と思わざるを得なかった。中嶋は入門前から負けず嫌いで反骨気質があり、WJの中で出会った大人達の中で佐々木健介を選んだのは「一番練習が厳しかったから、一番間違いないだろうと思った」という、壮絶にストイックな理由であるほど個を確立した子供であったが、とはいえ、未成年者である。理不尽に耐え忍ぶため、この「父」の考え方に自分を同調させ、我を殺したところはなかったか。

弟子入りを希望して佐々木家に電話をした時、北斗晶に「茶髪だと(ファンの)おばちゃん達に嫌われるよ」と言われた彼は髪を黒くし、以来長年、純朴な「息子」、正統派ベビーフェイスとして闘い続けてきた。
そんな彼の突然のキャラクターチェンジは、2018年の春である。GTLの最中だ。私が最初に「あれ?」と思ったのは、4.9横浜ラジアント大会で、杉浦へのタッチを求める拳王を捕まえて、杉浦に向かって拳王の手をヒラヒラさせるというヒール的な挑発をしていた時だ。次第にそのヒールムーブは加速し、相手の気をそぐためのエスケープ、打撃合戦では相手の攻撃を嘲笑いながら避け、自分のキックだけは的確に入れるなど、バリエーションはどんどん増えていった。
この変化に多くのファンは驚いたようだったが、個人的感想としては「ついに素が出た」という感じだ。もともと、ベビーフェイス時代も、トークショーなどでたまに容赦なく厳しい発言をポロリとこぼしている側面はあった(大体「恰好だけで実が伴ってないヤツ」に対してめちゃくちゃキツい)。ただ優しく爽やかな青年というわけではないのだ、実際。
そして何より、この変化は過去からの解放でもあるだろう。自分で考えた方向性を初めて形にしたのだ。その姿は自由を得た喜びと充実に満ちて、輝いている。

 

「試合を通じて、会話したように思います」

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2年前、2017.3.12横浜文体で行われたGHC王座戦、王者として挑戦者潮﨑豪を迎え撃つこととなった中嶋勝彦は、同期デビューの潮﨑のことは13年前から意識していた、と述べつつも「今はライバル意識はない。今はない!」と「今」を強調しつつ思い入れを否定した。この当時、2015年11月にNOAH再参戦して以降、潮﨑は今一度信頼を再び得るため、愚直なまでにただひたむきに、己の色を殺して「優等生」として振る舞い続けてきていた。2016年6月13日に再入団を果たしてからも、そのキャラクターを変えることは無く、かつての明るい側面はなりを潜めていた。その大人しさを指摘した中嶋は「俺が目を覚まさせる」とも言った。

実際この試合は、もちろん悪い試合ではなかったが、二人のポテンシャルから考えれば、もう少し先があるのではないか、というような試合だった。潮﨑は敗れた後もしばらく優等生のままであったし、それは中嶋も同様だった。何故なら、これは静かな始まりだったからだ。試合後にマイクを手に取った中嶋は、ふと何かに気付いたような様子で「潮﨑、ありがとう」と声をかけた。
「潮﨑豪にはありがとうと、すみません。“覚悟が違う”って言ったことがありますけど、潮﨑の覚悟は十分にありました。だから、潮﨑、すみません」
二人のシングルはこの横浜文体までに3度あり、二勝一分で潮﨑が勝ち越している。だがこれらはいずれも、中嶋勝彦がヘビー級を主戦場とする前の、ジュニアヘビー級時代の試合だ。中嶋がヘビー級(本人曰く、体重はジュニアなので無差別級)に転向したのは2013年からだ。潮﨑がNOAHを退団したのは2012年12月末。潮﨑はヘビー級の中嶋勝彦を知らない。一対一ではこの日、初めて遭遇した。
中嶋は中嶋で、潮﨑のNOAHにおける空白の3年間、全日本プロレス時代のことを知らない。なにゆえ生まれ故郷を捨て、なにゆえ再び帰ってきたのか。放蕩息子の帰還。彼の変化の理由は語られない。3年の間に得たものは。失ったものは。
だが、それらを言葉で語る必要はなかった。バックステージでのインタビューで、中嶋は次のように語っている。
「今日の試合から潮﨑豪の気持ちは伝わったんで。試合を通じて潮﨑選手と会話したように思います」
同じ2004年デビュー、偉大な師匠の下で育ち、お互いを常に意識していた二人は、この日のシングルで出会い直し、リング上で腹を割って語り合い、そしてお互いに連なる縁を改めて見出した。
「俺たちはまだ美味しくないから。今日の試合をキッカケに、美味しくなると思います」

 

「すべて受け止めてくれて、ありがとう」

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 そして2019.12.3、15周年特別記念試合でのスペシャシングルマッチに至る。
15年分の思いと覚悟を乗せた試合は、お互いのキャリア屈指の激戦となった。潮﨑ファン、中嶋ファン、どちらに尋ねても、この試合をベストバウトとして挙げる者は多いだろう。

お互いが得意としている逆水平チョップとキックの猛打戦に留まらず、エプロンへの投げ落としや徹底した右手破壊など、エグい攻防でお互いの勝負への執念、怖さがしっかり出ていたのも良かった。
20分経過後のゴーフラッシャー、そこからの流れが白眉だった。
続く豪腕ラリアットを的確なハイキックですべて右腕に当てて阻止、リバースフランケンシュタイナーからの三角蹴りはキャッチされたが、その体勢を利用して一旦着地してから中嶋が出したのはカナディアンデストロイヤー。カナダ人レスラーピーティー・ウィリアムズが開発した難度Sの360度回転パイルドライバーである。中嶋がこの技を出したのは、GHC王者時代切っての死闘となったブライアン・ケイジ戦以来だ。あの時はこの技がすべての流れを変えた。
しかし潮﨑はこれを受けても倒れなかった。前後からのサッカーボールキック、ランニングロー、そして満を持してのヴァーティカルスパイク。
冒頭に書いた「特別にエグい杉浦貴のエルボー」の話に被るが、急角度、猛スピードの「特別にエグいヴァーティカルスパイク」だった。
決まったかと思われた瞬間、潮﨑はキックアウト。立ち上がって中嶋のハイキックを避けるや、次に出したのはスリーパースープレックスだった。
スリーパースープレックス! 師匠・小橋建太がビッグマッチでここぞという時に使った奥の手である。こういう時に普段使っていない師の技がスッと出てくるのが潮﨑だ。
畳み掛けるように豪腕ラリアット、しかし2発目のショートレンジは読まれていた。勢いを利用して抱え上げると、中嶋が久しぶりに出したのはダイヤモンドボム。
ダイヤモンドボムは、2014.7.21博多大会で丸藤の持つGHC王座に挑戦するに際し、開発した新技だった。師匠であり育ての親でもある佐々木健介の得意技ノーザンライトボムをアレンジした形の投げ技。初公開は前哨戦の7.18新発田大会。丸藤からこの技でスリーカウントを奪っている。技の命名由来は「DIAMOND RINGを代表しているから」だ。この年、2014年の2月11日に中嶋に敗れた佐々木健介が突然の引退を発表。3月9日の道場マッチを区切りに、所属3人のうち北宮はNOAHに正式移籍、梶は引退。ただ中嶋勝彦ひとりが所属として残っている状態だった。この新技を発表する5カ月前には、上述の通り「育ての親に捨てられた」という心境に陥っていたという中嶋は、いかなる思いを込めてこの技名を付けたのか。だがその後、2015年7月31日付でDRを退団して以降は、当然のなりゆきとしてこの技も封印状態にあった。*10その封印が解かれたということは、過去からの解放であると同時に、己の過去を捉え直し、受け止めたという証左でもあるだろう。
これを受けて四つん這い状態となった潮﨑の顔面を目掛け、追撃のサッカーボールキック。丸藤の言う「ひとでなしキック」だ。これで幾人もの選手からKOを奪っている。
ふらつきながらも立ち上がった潮﨑に、容赦なく左右のビンタを叩きこむ。ここで崩れたらもう終わりだ、というその瞬間、潮﨑の体がスッと下がって回転した。渾身のローリングエルボー。言わずと知れた、いま一人の師である三沢光晴の代名詞とも言える技だ。今年の6.9後楽園ホール大会、三沢メモリアルで丸藤を相手に出した“原型”エメラルドフロウジョンはまだ記憶に新しいが、潮﨑は三沢の技も(小橋の技同様に)引き出しに入れている。*11というか、ローリングエルボーに関して言えば、ヘビー級選手の中では屈指の使い手だろう。この一撃が流れを変えた。
よろめいた中嶋だったが気力で体勢を立て直し、25分過ぎに再び中盤よりも激しいチョップとキックの打撃戦。だがローリングエルボーの余勢で圧倒した潮﨑が、すかさず第2の必殺技リミットブレイクを敢行。ここでほぼ勝敗は決した。続く豪腕ラリアット3連発、しかしなおも立ち上がる中嶋を見た潮﨑は、意を決してコーナーへと上がった。
天高く弧を描いて宙を舞う、183cm、110kgの完璧なムーンサルトプレス*12
29分30秒、死闘に終止符が打たれた。
2年前の文体での王座戦ではまだ予兆を感じさせるに過ぎなかった、二人が持てる引き出し、持てるすべての力をぶつけ合い、互いのすべてを受け止め、試合の中でさらに高め合っていくような凄まじい試合だった。スウィング、共鳴する試合という言い方もあるが、ここまでのスウィングが起きる組み合わせは、過去のベストバウトを参照してもそう無いだろう、というレベルだった。しかも、ノンタイトルの記念試合なのである。
2年前から何が変わったかと問われれば、それはやはり対戦経験を積んだこと以上に、二人が組んだことが大きかったのだろう。
お互いをより深く理解し、より強く「愛した」こと。また15周年の区切りを迎え、二人が共にそれぞれの過去を捉え直したこと。
この12.3後楽園ホール大会15周年記念試合は、二人のキャリアの最後まで、そしてその後も語り継がれる一戦となるはずだ。
この先何が起こるかなんて、神ならぬ人の身には何もわからない。
だがすでに起きた出来事――過去の一瞬一瞬は不変だ。

愛はすべてを超越し、永遠へと至る。

 

途中のアメプロの話が無駄に長すぎて謎な文章になってますが、割とこう、整理はしたものの普段の思考を取って出ししたような内容です。こんなことを考えて生きています。観念連合野が無駄に働きすぎている気もする。
潮﨑がTwitterでこの試合に際し、「至上の愛」という形容を使ったので、コルトレーンのA Love Supremeやんけ……となってなんかこう……一文書いておこう……となっておりました。なんですかね。でもほんといい試合だった(語彙削減)。

 

そして1.4後楽園ホールでは、ついに現王者であり、前タッグパートナー清宮海斗への挑戦が決まったのです。この1年ずっと待ってたよ……。
ヘビー級生え抜きというだけでなく、三沢を知らずして三沢へ傾倒したスタイルの清宮。まるで潮﨑が三沢と組んだ2009年のGTLをなぞるような形で、2018年のGTLを制したタッグパートナー。

2009年6月13日の三沢逝去から約半年後の11月18日に発売された週刊プロレス1500号記念号で、潮﨑はNOAHのGHC王者として、当時の全日本プロレス三冠王者小島聡新日本プロレスIWGP王者棚橋弘至と鼎談を行った。
この時、司会者(タナ番の記者)が「潮﨑選手も初戴冠では泣きましたか?」というちょっと信じがたい質問をしている。
潮﨑の初戴冠は6.14博多スターレーン大会、三沢逝去の翌日だ。同じく13日に起きた、当時のGHC王者秋山準椎間板ヘルニアによる緊急入院を受けて急遽組まれた王座戦である。泣きながらアップをしていたのを見た杉浦貴に「泣くのは終わってからにしろ」と言われた潮﨑は、その言葉通り、力皇猛相手の激戦に勝利をおさめた後、バックステージで泣きじゃくりながらの会見をした。そのことを知らずとも、「三沢逝去の翌日」ということを認識していれば、まずこんな質問は出ないだろう。恐らく、腐っても週プロの記者、認識はあっただろうが、実際に目の前にした潮﨑の天性の明るさ、無邪気さから、それが頭からうっかり抜けてしまったのだと思う。
この時、この記者が一瞬浮かべていたであろう、「初戴冠で泣く潮﨑の図」を想像するに、「デビュー以来師匠の元で努力を重ね、海外遠征などを経て実力をつけ、苦労が報われる形でようやく最高王座を手にした若き王者。感動で思わず涙を浮かべる」というキラキラしたものだったのではないだろうか。

それはまさに、清宮海斗に他ならない。

潮﨑豪が、一切の影を背負うことなく、悲しみの涙に彩られることなく頂点へと昇り詰めていたら……。
清宮海斗はそう言った意味で、潮﨑にとってもう一人の自分のような存在である。
しかも、光の側の自分だ。
これに勝つのは彼がその15年の道程で積み上げた正負すべての経験と、そのすべての愛の重みによるしかないだろう。

今はただその愛を信じている。

 

 

 

小橋健太、熱狂の四天王プロレス

小橋健太、熱狂の四天王プロレス

 
2009年6月13日からの三沢光晴

2009年6月13日からの三沢光晴

 

*1:同じコラム内で永田裕志によれば山本小鉄は「ケガをする奴がダメなんだ」と語っていたという話も引用されている。これは「攻め」に重きを置く猪木的、新日本的な思想の現れであり、このエントリの本題である「愛(相互理解)」の問題ではないと思われる。同じく新日本でレフェリーとしても活躍した保永昇男は「プロレスは明日のある戦い」であるといい、受け身の取りにくい技を出した選手を指導したこともあったというが。

*2:例外として2004年に行われた新人オーディション番組「タフイナフ」があげられる(ザ・ミズがデビューした)。これに関しては、当時、自分たち自身で立ち上げたインディー団体「オメガ」からの叩き上げであるハーディーズの二人が「経験値が圧倒的に低いド素人」をリングにあげることに対し苛烈な批判をしていたことも付記しておくべきだろう(自伝『ザ・ハーディ・ボーイズ』参照)。

*3:ついでに言えば、三沢本人が元々「ガラスのエース」という不本意なあだ名を頂戴するほどケガが多かったというのもあるだろう。

*4:これは四天王プロレス及びNOAHにおいてのみ成立する論法だと私は思う。明らかに「かけ手が悪い」事例も、「やりすぎ」の事例もある。拳王と清宮の件の是非に関しても、私はなんとも言えない、という気持ちだ。ここに書いたのは、論法としてはそうなる、という話である。

*5:心構えのない客に突然聞かせる内容でもない。イベント現地におりましたが、ショックすぎて帰りの電車でボロボロ泣いておりました。

*6:それが言いたくてこのエントリを書きました。「本人そんなこと考えてへんやろ」というツッコミは承知の上で、例え本人が無意識だろうとも、そういう読み解きができるということ。

*7:ちなみにトークショーではこの回答の結びに「あれ? なんかみなさんリアクション取りにくい感じに…? ワ~!(両手を広げておどけるジェスチャー)」と無理やりカワイイポーズで話を切り替えていたことも書いておこう。そのあとは概ねカワイイ話をしていました。カワイイな~。頭が混乱します。

*8:という表現をしている。

*9:とこの当時は思った、と書いている。

*10:一応王座戦の類はざっと再確認したけど使ってないはず。

*11:若手時代の七番勝負では、三沢本人相手にウルトラタイガードロップを出したりしていた。

*12:潮﨑がムーンサルトで勝利したのは、全日本プロレス所属時代の2015.7.25の世界タッグ王座戦青木篤志相手以来である。この後、2018.8.18の川崎大会でも杉浦貴とのGHC王座戦で出してはいるが(入場曲がENFONCERに戻った試合だ)、これは剣山で撃墜されている。潮﨑は、2015年11月のNOAH再参戦以来、その前の全日本時代の3年間と比べて、時に新技を試しつつも、基本的には技を絞って厳選している様子があった。

2018年のベストバウトなど

久しぶりにまとめて文章を書けそうな気分になったので、2018年のベストバウト(映像での観戦含む)について書こうと思います。
最近はもう全日本とノアしか見ていないので、その中でのものです。ご了承ください。


【3位】
GHCジュニアタッグ王座戦石森太二&Hi69 vs 小川良成田中稔(3.11 横浜)


前哨戦からずっと「本気の小川」の恐怖に震え続けた一戦。
退団する石森への花向けか引導か不明ながらも、最後に小川良成がここ数年ずっとかけていたベールを落としてくれた事には意味があると思う。
新宿FACEで組まれた前哨戦で、Hi69の腕をすたすたと歩く速度で握手でもするように取り、ごく平熱な仕草でアームロックをかけていた姿は忘れがたい。
単にすばやいというより、人間の意識が流れる神経電流によって明滅するフィラメントだとして、その間と間にすっと滑り込んで隙をついているかのよう。
小川良成の本気の試合を見るときの心境を、あえて誤解を恐れず書いてしまうなら、超越者を見る思いに近い。
翌日の石森退団発表を受けての超絶身勝手なベルト返上も含めて、小川良成の世界に酔わせて頂いた。
2019年は戻ってきた鈴木鼓太郎と共にどのような世界を作り出すのか。
とりあえず20日の博多が楽しみです。

 

【2位】
三冠ヘビー王座戦/ゼウス vs 石川修司(8.26 流山)

ゼウスが2015年9月1日付けで全日本所属になって3年、数度の挑戦を経て、7.29後楽園ホール宮原健斗を下し、漸く掴んだ三冠王座。その初防衛戦である。
相手は体格、膂力に勝る石川修司
初防衛戦というのは、結果より何より内容が問われ、それによって選手としての資質が査定される試合だと思う。
そういう意味でこの試合は満点以上の素晴らしいものだった。
石川修司の猛攻を受けて受けて受けながら、要所要所で的確に大巨人のHPを削り、奥の手のハイキックで動きを止め、三度目のジャックハマーでピン。
途中石川修司が仕掛けたエプロンから場外へのブレーンバスターから、PWFルールの10カウント以内に戻った姿はまさに超人だった。
ここ数年の全日本プロレスで行われた選手権試合を通して考えても、個人的にはベストワンの激闘だったと言える。
ここからは少し私(潮崎ファン)の思いいれが入った話になるが、ゼウスという選手がそもそも全日本プロレス所属となったのは、大阪時代にタッグで対戦して以来、彼に多大な影響を与えた潮崎を追ってきたという側面が大きいと思われる。
彼が全日本所属となった2015年9月……の半年前、2.7大阪で当時三冠王者であった潮崎に挑むも返り討ちとなったという経緯もあり、所属になって潮崎ともっと深く戦うことを望んでいたであろうことは想像に難くない。まあその望みは叶うことなく、潮崎は同月28日に退団してしまうのだが……。
ゼウス本人も週プロの「ターニングポイント」で挙げていたが、この2015.2.7の潮崎との三冠戦こそ、ゼウスが一段階上のレベルへと覚醒した試合であった。2018.7.29の宮原との三冠戦はこの潮崎との三冠戦を下敷きに、この時の反省を生かしたものであるように見えた(使用技や組み立てにかなりの類似がある)。
7.29で2015年の雪辱を(違う相手とはいえ)果たし、当時から抱えていたであろうひとつの思いいれに蹴りをつけた形のゼウスにとって、流山でのこの試合はまた新たな段階へと辿りついたものとなった。
そしてそれは、必然的に彼が思いいれた潮崎がこの約一週間前に戦った試合と同種の流れにあるものだったのである。

 

【1位】
GHCヘビー級王座戦/杉浦貴 vs 潮崎豪(8.18 川崎)

杉浦貴と潮崎豪GHCヘビー級王座を賭けて戦うのは実に6度目のことである。
2009年12月9日、日本武道館
2010年9月26日、日本武道館
2011年7月10日、有明コロシアム
2016年5月28日、大阪府立第一。
2016年7月30日、後楽園ホール
GHCヘビー級選手権史上最多となるこの組み合わせは、四天王プロレスの流れを最も色濃く受け継ぐプロレスリング・ノアという団体において現在、きっての黄金カードであると自他共に認めるところだろう。
本人達にとっても、大きな意味を持つカードであることは間違いないと思われるが、しかしこれまでの5度の試合はいずれも好試合以上のものではあったものの、本当の意味で二人のポテンシャルを十全に発揮し尽くした試合であったかというと、実のところやや疑問が残る。
1度目、2009年末の試合は、6月14日の秋山のタイトル返上を受けて行われた力皇との決定戦で戴冠した潮崎の、2度目の防衛戦だった。半年の間防衛戦が2度しかなかったのは、ひとえに最初の齋藤彰俊との防衛戦を、前日6月13日に逝去した三沢光晴の49日が過ぎるのを待って行ったからである。
三沢光晴最後のパートナー」として戴冠した潮崎は、勿論ベルトに相応しい激闘を戦い抜いたが、それでもこの時若干キャリア5年(杉浦は9年目)。力皇戦、齋藤戦も好試合であったが若さ、未熟さゆえの「いっぱいいっぱい」な印象も強く、特にあたりの強い杉浦との試合は、打たれ弱さが目立つものであったことは否めない。
2度の予選スラム、ターンバックルジャーマンを経ての雪崩式予選スラムで王座は杉浦に移動。
2度目、2010年の試合は2009年末の戴冠以来防衛回数を重ねた杉浦の、5度目の防衛戦。
この年の潮崎はWK、G1と新日本へのゲスト出場を多く重ね、アウェイでの経験を積んできていた(そのせいかなんとなく潮崎のイメージがこの時期で止まっているプロレスファンが多い気がする)。
また個人的に特筆するところとしては、アマレス実力者である杉浦との対戦を見越し、本田多聞に教えを請うて回転地獄五輪を受け継ぐなどのユニークな行動も起こしている。
試合はのっけから猛打戦、最後は潮崎のナックルパートを受けてお返しとばかりの顔面パンチ乱打、マウントを取ってのパウンド式エルボー、後頭部キックからの予選スラムで杉浦が防衛。
杉浦にとって高山、秋山と実力者の先輩達を下して迎えたこの潮崎戦は、この当時において「ノアの未来」を見せるというテーマを持っていた。
そのテーマには相応しい激闘であったと思われるが、武道館の客入りは過去最低をマーク。今も時折引用される杉浦の「三沢さんがいない武道館、小橋さん、秋山さんが欠場していない武道館はどうですか!?」というマイクはこの時のものである。
「もっともっと俺と潮崎の試合で(団体の)価値を上げて満員にして、お客さんを呼べるようになればいいんじゃないですか」という試合後コメントが示すように、杉浦-潮崎が黄金カードとなる一里塚は、1度目ではなくこの2度目の時に築かれたと言えるだろう。
2009年の「お前サイコーだよ!」という試合後コメントもそうだが、一貫して杉浦は潮崎を買っている。
ハードヒットな自身のスタイルを全て受け止めることのできる受身の上手さ、そして体格から来る膂力の強さなどを鑑みて、団体内で最も拮抗する位置にいるのが潮崎だからと考えて相違ないだろう。だがこの時点ではやはりまだもう少し足りなさがあり(ゆえに勝てない)、伸びしろに期待しての「買い」であったと思われる。
杉浦はこの後、現在に至るも最多となる14度の防衛を重ねる。時代を作ったと言って良い活躍であり、2018年の杉浦が「まだ自分は時代を作っていない」という認識だったのは驚きがあった。しかしこうして武道館の客入りに関するマイクや、震災を巡る鈴木みのるとのやりとりなどを振り返ると、本人にとってはままならぬことの多い期間であったのかもしれない。
3度目、2011年の試合は、恐らく杉浦にとっても潮崎にとっても、不本意な部分の多い試合だっただろう。
潮崎がナビ初戦に行われた挑戦者決定戦である6.11有明の森嶋戦で負った腰、脇腹の負傷が癒えぬまま、王座戦に臨まざるを得なくなったのだ。厳重なテーピングでナビを乗り切ったものの、王座戦後に発表したところによれば、肋骨に罅が入っていたとのことだった。
そんな事情を勘定に入れるはずもない杉浦はあくまで非情に徹し、6.29横浜では八つ当たりのようにシングルを組まれた(当時若手の)宮原健斗をボコボコにした上で、「痛がりすぎ」という怒りのコメントを出している。
当日の王座戦も、杉浦は潮崎の腹部に攻撃を集中させ、幾度も幾度ももう潮崎は立ち上がれないのではないかという瞬間があった。それでも、弱弱しく呻きながらも潮崎はゾンビのように蘇り、最後は豪腕ラリアット、リバースゴーフラッシャー、ムーンサルトプレス、前後からの豪腕ラリアット、ゴーフラッシャー、そしてこのナビで初披露となった新技リミットブレイクで漸くピン。
こう書き出すと凄まじい消耗戦だが、印象としては負傷を抱えたままの潮崎の「辛そう」な姿ばかりが残るものだった。
このお互い本意ではなかったであろう試合を最後に、杉浦と潮崎の王座戦は5年の休眠期間を迎える。
2012年12月、潮崎がノアを退団したからだ。
退団を発表した5人に最も怒りを言明していた杉浦は、迎えた12.23の潮崎とのシングルマッチで凄惨なKO劇を観客に見せ付ける。
これまで奥の手として使ってきたナックルを最初から振るい、顔面、後頭部を蹴り上げ、マウントを取ってのパウンド式エルボーもほとんど殴りつけるようなもので、はっきり言ってしまえばプロレスとして成立するかしないかのギリギリのラインにあるような試合だった。これを受けてKOされた潮崎にとってそれは禊だったのか。杉浦もまた「こんな事」をせざるを得ない事態を招いた退団組に再度の怒りを燃焼させたような様子で、気が晴れることは無かっただろう。

そして5年後、4度目にあたる2016年の王座戦は、お互い想像もしなかったであろう形での再会となった。
2015年の9月に全日本プロレスを退団、11月に古巣ノアへフリーという立場で乗り込んだ潮崎。
折りしもプロレスリング・ノアは2015年初頭より始まった、新日本プロレスの独立ユニット「鈴木軍」による侵略を受けていた。
個人個人では確固とした実力を有しながらも卑怯な手段に徹し、乱入、反則を多用してのベルト独占。「試合内容の確かさ」を何よりの売りとしてきたノアは、まさに屋台骨を破壊された状態で、選手もファンも激しい屈辱と苦痛の只中にあった。
11.20後楽園ホールで登場した潮崎への観客の反応は、歓迎4割、困惑4割、激しい拒絶2割であったと記憶している。そう、実は歓声があったのだ。しかし翌日のプロレスマスコミや団体側からの「報道」は拒絶一色であったものとされた。そういうものだと断言されれば、そういう風に反応するのが「正しい」ものなのだろうと受け取るのが人間である。以降の半年、潮崎は当初の歓声など幻であったかのごとく、容赦ないブーイングと罵声に晒される事となった。
会場で見ていた限り、元からのノアファンと思しき観客のほとんどは、態度を決めかねていたように見えた。罵声を浴びせる層には、団体への衷心から「出もどり」を許せずにいる観客も居たが、はっきり言うと結構な割合で「ノアの選手はだれかれ構わず罵倒したい」愉快犯的な観客も居た(居たんです)。
その様子が徐々に変わっていったのは、かつてのタッグパートナーであるマイバッハ谷口と組み始めた翌年2016年の2月半ば頃からだった。この時期、潮崎は特別なコメントはほとんどせず、ただ「ノアの力になりたい」という言葉を繰り返す。一見芸がないとも取れるが、信頼を取り戻すという事は地道な積み重ねでしか為し得ないものである事を思えば、これは正しい選択であったと言えるだろう。
また4月14日に故郷熊本を襲った地震を受けてのチャリティー活動として、毎大会募金箱を持って会場に立ち続ける姿も、観客の心を動かすのに一役買ったと思われる。
そうして潮崎は少しずつ、古巣に受け入れられていった。
一方の杉浦はどうしていたかと言えば、潮崎が帰還して1ヵ月後の12.23大田区大会でノア側を裏切り鈴木軍へ加入。翌1月の横浜文体で、鈴木軍総動員の乱入劇を繰り広げて丸藤からGHC王座を強奪するという……わかりやすいヒールになっていた。
もしも鈴木軍の侵略がなければ、「2012年の続き」が杉浦と潮崎の間で始まるのが本来の流れであっただろう。
一度「裏切った」落とし前を今度こそつける。かつてノアの未来と嘱望されたエース候補であり「三沢光晴最後のパートナー」である潮崎が、一度故郷を捨てたという事実、その清算を果たすには、もう一度杉浦と武道館でやったような試合をするしかなかった……はずだった。しかしこの時、明確な「悪」となっていたのは杉浦の方だった。潮崎は、ノアの力になるため、ノア側の選手としてこの「悪」に立ち向かう、「善」……ベビーフェイスとなった。一部にわだかまりを残したまま。
こうして、非常にねじれた形で4度目の王座戦が組まれた。場所は大阪、府立第一。
2016年5月28日の大阪府立第一は、なかなか奇妙な雰囲気であった。
それもそのはず、この時期ノアの客層は、ノアファンと鈴木軍ファン(新日ファン)が混交としており、さらに言えばノアファンは1年に及ぶ「ろくな試合が見られない」状況に疲れ果て、観戦を取りやめる者も少なくなかった。
だがこの大阪の地の観客は……恐らく暴虐の繰り返された関東の観客よりはまだ、疲れてはいなかった。だが、昨年より続くこの状況に困惑は抱いている。この頃のノアの後楽園ホールは会場全体がささくれた雰囲気であったが、この日府立第一を支配していたのは、漫然とした不安感であった。それは、まだ期待が残っていた事を意味する。
個人的な思い出を入れるなら、この日私の隣に座った青年は、鈴木軍ファンであった。しかし関東の自ら悪辣な態度を取ることを楽しむようになっていた鈴木軍ファンと違って、彼はただの「ヒールユニットのファン」としてごく普通の声援を送るばかりだった。
結論から言えば、この日の王座戦は「さほど乱入されなかった」。パイプ椅子の使用はあったものの、乱入はノア側のセコンドによってほぼ防がれ、シェルトン・ベンジャミンが来てトラースキックを入れたくらいだった(「くらい」と言うのもおかしいが)。
つまり、試合時間のほとんどにおいて以前の武道館、そして2012.12.23の続きとしての杉浦対潮崎の試合が行われたのである。ゆえに、非常に変則的な形であったものの、この試合(とその次のベンジャミン戦)は、潮崎の禊として機能した。
この試合で潮崎は、ノア帰還以来初の「シオザキ」コールを受ける。観客が擦れ切っていなかった大阪の地であることも利したであろう。
コーナーでの激しい頭部へのエルボー、予選スラムは着地。スピアーを膝で迎撃。豪腕ラリアットは左のラリアットで返され、張り手の乱打を受けて崩れ落ちる。その間もコールは止まない。ナックルは中山レフェリーが阻止、その間に復活した潮崎が豪腕ラリアット、リミットブレイク、再度の豪腕ラリアットでピン。
気がつけば横の鈴木軍ファンの青年は、激しい試合に感嘆の声をあげ、「どっちもすげえ」と潮崎の勝利に拍手を送っていた。
当時ノアのマッチメイク権限を持っていたのは、キャプテン・ノアという名でノアの興行に帯同していた選手であるともっぱら言われている。それが本当だとして、一体彼が何を考えてこの大阪の試合を設定したのかはわからない。
潮崎の帰還を許した時点で、遠からず杉浦戦を迎えることは予定に入れていただろう。
だがこれは劇薬である。杉浦と潮崎の間にある物語は、鈴木軍が1年のうちに作った虚構のドラマではない。7年前から続く本物の「ノアの未来」の物語なのだ。一旦それを見せてしまえば、人々は虚構の幻から醒めてしまう。観客だけではなく、選手もだ。
試合後コメントで潮崎が語った「もう二度と手にすることはできないと思っていた」「長い道のりの半年間」「つらいことばかりだったが、それは俺が歩まねばならない、俺が選んだ道」「これまでこのベルトを巻いてきた人たちが築き上げてきた歴史」といった言葉に比べれば、続いて発せられたベンジャミンのWWEで培ったいかにもなプロフェッショナル精神を感じさせる挑戦の言葉はあまりにも作り事めいていた。
この半月後、6.13後楽園ホールでベンジャミンの挑戦を退けた潮崎は、三沢光晴の遺影の下で再入団を直訴。観客の声援の後押しを受け、丸藤にノアのジャージをかけてもらい、再入団を果たすのだった。
ちなみにこのベンジャミン戦に至っては、乱入ゼロ。鉄柵にジャイアントスイングの要領でぶつけまくったり、テーブルクラッシュも飛び出すハードコアめいたベンジャミンの試合には乱入の必要もなかったという判断かもしれないが、個人的には潮崎の持ってきた「本物」の感情を伴うドラマを前に、虚構がその威を失ったという印象を受けた。
5度目、その反動であろうか、7.30後楽園ホールで行われた杉浦のリマッチにあたる5度目の杉浦対潮崎GHC王座戦は、虚構の中の泡沫のような試合だった。
形式からしてランバージャックマッチである。マッチメイク権限を持っていた選手としても、潮崎入団を経て再度虚構のドラマの巻きなおしを計ったのかもしれないが、とにかく乱入とパイプ椅子が入り乱れる試合だった(この試合で最も納得がいかないのは、ヨネが杉浦にキン肉バスターをしてしまった事だ。潮崎側にはベビーフェイスに徹して欲しかった)。
終盤は杉浦のワンツーエルボー連打からの後頭部エルボー、豪腕ラリアットをエルボーで迎撃しての左ストレート、二回目の予選スラムでピン。はっきり言えば物足りない試合だった。それは5月6月に本物の物語を見てしまった観客としては、当然の事だ。
しかし一旦呼び起こされた本物のドラマの流れは、人を動かすのに十分な呼び水となったのか、この年の11月にエストビー株式会社に母体を移した新生ノアが誕生し、鈴木軍駐留時代は終わりを告げる……が、まあそれは憶測である。

やたらめったら前提が長くなってしまったが、かようにこれまでの杉浦潮崎戦は黄金カードのポテンシャルを備えていながらも、恐らく2010年のものを除いて、微妙に十全な状態ではない状況下での試合だったのだ。
そして2018年である。
昨年の心臓手術を終えてから絶好調、3月の文体から拳王、小峠、丸藤と下してのV4戦となる杉浦。
過去の自分のごとき若手の清宮と組んだGTLで、鬼神の強さを発揮し、ほぼ一人で杉浦拳王組を下して優勝した潮崎。
共に過去最強と呼べる仕上がりで、何の邪魔も無い状態。
前哨戦では潮崎が圧倒的な強さを見せつけ、7.31横浜大会では直接ピンフォールも奪っている。
キャリアによる経験の差もほぼ埋まり、9年かけて漸く、初めて対等の条件が整ったのがこの8月18日だったのだ。
この日の凄まじい試合の中で、ひとつ特筆すべき事があるとしたら、潮崎が過去の試合のように「痛がる」瞬間が事が無かったことだろう。全日所属時代、渕正信に「三沢光晴に匹敵する受けの上手さ」と言わしめたその受けの天才ぶりを十二分に発揮しながら、間を置くことなくすぐさま立ち上がり、反撃に転ずる……。恐らく過去の杉浦も潮崎に感じて来たであろう「後一歩の物足りなさ」を完全に解消した試合だった。
それは潮崎が全日本プロレスへの移籍によって……そしてその全日本プロレスが分裂の危機に見舞われて対戦相手の選択肢が無くなり、業界最高峰の「あたりの強さ」を誇る諏訪魔と激しい試合を繰り返し続けたことによって磨かれた打たれ強さだ。
そもそも、その諏訪魔との対戦は、ノア退団後の潮崎が真っ先に希望したものでもあった。誰との試合が最も自分を磨くものとなるか、感じ取っていたのかもしれない。
2011年9月23日、潮崎の持つGHCヘビー級王座に挑み敗れた高山善廣が「あの右手、名刀ってさ、焼かれて叩かれて強くなるものじゃん。あいつには焼くやつも叩くやつもいなかった」とコメントした事がある。これは潮崎二度目のGHC王座戴冠のV2戦だ。
潮崎にはずっと、ライバルとなる同期がいなかった。お互いの一勝一敗に感情を揺さぶられながら切磋琢磨していく相手、自分の力量を測る指標となる相手を持つ事ができないまま、キャリアを重ねていた。
諏訪魔は、同じ2004年にヘビー級でデビューした同期である。そしてそれ以上に、2012年6月23日の名古屋大会のお互いに吸い寄せられるような試合を見るに、胸に期するものを抱いたのであろう。
そして初めての「ライバル」との戦い、激動する全日本の荒波で自らを磨き上げた潮崎は、2015年1月2日、ついに三冠ヘビー級王座を戴冠する。この試合はまさに、かつて秋山準が彼に期待した大輪の花を咲かせた試合だった。だがその花を肝心のライバルであった諏訪魔は見なかった。潮崎が戴冠した三冠戦の相手は、ジョー・ドーリングである(彼はキャリアこそ違うが、潮崎と同い年だ)。諏訪魔は潮崎の三冠に挑戦しなかったのだ。ゼウス、宮原を迎えた防衛戦で、彼らを次の段階に引き上げるような試合をした潮崎は、チャンピオンカーニバル準決勝で脇腹を負傷、世界タッグ王座を奪取して五冠を達成するも、すぐさま曙相手に三冠を落としてしまう。そして……世界タッグの相手にも諏訪魔は名乗りをあげず、そのまま潮崎は全日本を退団したのだった。鈴木軍禍に揺れる方舟に帰還するも、虚構の中にあってはその実力を出し切れず、また新生ノア以降もまだどこか「引け目」を感じさせる立ち居振る舞いが残っていた。それが完全に払拭されたと感じたのは、清宮とのGTL優勝以降である。
そして8月18日、潮崎はすべての箍を外し、最強のチャレンジャーとして杉浦に立ち向かった。
中盤過ぎには、全日本時代以来封印していたトップロープ越えのノータッチトペ、(防がれたものの)ムーンサルトプレスも敢行。新技としてブラックタイガー式シットダウンパワーボム(スプラッシュマウンテン)も披露。30分を超えても試合はまだ終ることなく……試合は永遠に続くかと思われ、二人は不死身の人々であるかのようだった。ジャーマンの掛け合いから意地の頭突き合戦にエスカレート、だが豪腕ラリアットのカウンターで左ストレートを入れられ、再度の豪腕ラリアット敢行は堪えられ、左ラリアット、顔面へのニーからの二度目の予選スラム。カウント2で返すやコーナーにセットしての雪崩式予選スラムでピン。34分22秒の激闘に終止符が打たれた。
大輪の花、そして真の意味で磨き抜かれた名刀を受け止めたのは、やはり9年前からの因縁を持つ杉浦貴だった。
この日出された予選スラムは雪崩式も合わせて3回。フィニッシャーがフィニッシャーとして機能しない、命と魂を賭した究極の消耗戦。先述したように、一週間後ゼウスが流山で石川修司相手に行った試合も同種のものだった。潮崎を指標として邁進し続けたゼウスが結果としてたどり着いたのは、実のところ現在の全日本的というより、よりノア的な…つまりは四天王プロレスの世界に近しい試合であったというのは、必然であったとも言えるだろう。


杉浦は敗れてリングを去る潮崎に「俺がベルトを持っている間は、ずっとお前の前に立ってやる」と言った。
この日、「ノアの未来」は「ノアの現在(いま)」となったのだ。それは、現在のメルクマールだ。この杉浦と潮崎のGHC王座戦こそが、現在におけるGHC王座戦の指標である。
最高到達点とは言うまい。まだ先があるかもしれないから。

 

 

 

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ベストバウトの話にかこつけて、潮崎豪という選手のことをざらっと書いた感じになりました。もっと細かい話もいっぱい書けるのですが、大きな流れとしてはこういう風に彼を捉えているという史観……私観をどこかで書いておきたかったのです。

 

改めてまとめて思うけどやっぱり毎回終盤の左ストレートがなー。反則だから納得いかない気分にはなるけど、反則入れられたから仕方ないか……という諦めにもなるので、どうにもこうにも。
ベストバウト次点(4位)は4.11後楽園ホールのGTL決勝です。
2009年のGTL決勝を美しくなぞり、潮崎にとっては「三沢光晴最後のパートナー」としての業を昇華した、個人的にもこんなに他人の事で泣くことがあろうかというほど泣いた試合でしたが、タッグの試合としては潮崎が一人で頑張りすぎて清宮くんなにもしなかったなーという感じなので次点で。

あとやっぱりゼウスには、もう少し防衛記録を伸ばして欲しかったですね……。


プロレス大賞っぽく、他の部門を適当に書くなら以下のような感じです。
MVP&殊勲賞:丸藤正道
全日本との国交復活、WWEとの交渉成功という二つの大きな風穴を業界に空けた事以上の活躍があるでしょうか。20周年イヤーに相応しい大事業であったと思います。
敢闘賞:杉浦貴
約1年にわたって激闘を繰り広げてきたゴリラのお父さんに何か賞をあげたい。
技能賞:潮崎豪
明らかに経験不足な清宮とのタッグを優勝に導いた事をはじめ、高橋奈七永とのミクストシングルや、ほぼジュニア級選手ばかりのD王GP出場など、難しい試合にすべて完璧な回答を出した戦いぶりに、あえての技能賞を送りたい。永世技能賞は小川良成
ベストタッグ:野村直矢青柳優馬
この1年、アジアタッグ奪還以降の成長が著しかったので。それでも最強タッグではなかなか勝てなかったが、確実に良い試合をするところまでは到達していた。来年は非常に楽しみという意味でのベストタッグ。孫びいきではない。