ある日
久しぶりに彼に会った。彼は構内の掲示板を見上げていて、わたしもその後ろで同じ姿勢で板に貼ってある時間割を確認していて、その文字があまりに小さいものだから、前に立つ人の肩に顎を付押しつけんばかりに首を伸ばして目を細めていた。
前の人がふと手もとに視線をおとし、何かが顎に触れた。反射的に身を引くと、私のあごを撫でたゆるいシャツが揺れている。色褪せて苔色になった緑のTシャツと、同じ色ののキャップ。そこから覗く頬骨のかたち、細い顎、眼鏡。
「ア、」
と思わずもれそうになった声は息となって彼の背中に吐き出された。彼だった。
気づいてしまうと触れそうに近い距離にいたことに動揺して汗がふきだす。
そんな私に気付かない素振りの彼は二度三度手帳のページを繰ったあと、門の方へ行ってしまった。…
スーパーマーケットでの思考
追いかけられると逃げたくなるタピオカ
自分のもとから逃げていくものを追いかけたくなってしまうのは人の性なのだろうか。
どうしても手に入れたいものが、あと少しで手が届きそうになった瞬間、指の間をするりとすり抜けて遠くへ行ってしまう切なさ。
次こそは君を手に入れて見せる…
これはタピオカの話です。
久しぶりに、タピオカ入りの飲料をコンビニで買ってしまった。
ココナッツミルクを始め、カフェオレやミルクティーといった不透明の液体の中で息を潜めているブラックタピオカは、カップを振るとちらっと黒光りするその一部を見せて、また深いミルクの海に隠れてしまう。
その時点で私の狩猟本能がキュゥッと刺激され、もう気持ちはブラックダイヤモンドを狙うハンターである。
第一、ドリンク棚の一番高いところから我々を見降ろして鎮座しているところが一筋縄ではないぞ、という感じを与える。神を気取っている。
我々を挑発しているとしか考えられない。その挑発度は冬の自販機にあるコーンスープ缶とおしるこ缶とも肩を並べるレベルだろう(彼らも豆やコーンあとひと粒が取れそうで取れない、という秘技を使ってくる)。
ピンクぃ脂肪
2015年4月26日日曜日
6:38起床。
着替えてからインスタント・コーヒーをうすく入れてミルクでさましたあと、ティースプーン一杯のオリゴ糖を入れて一気に飲みほす。家を出る。
7:51発の電車に乗りこみ、ふと息を尽きたとき、違和感に気付く。
家を出る直前にリヴィング・ルームでみた壁掛け時計の針は7:43を指していて、玄関で靴ひもの絡まりを解きつつ見たデバイスのディスプレイは7:42を表示していた。家の鍵をしめ、30秒後にたどり着いた公共広場の時計台の針は7:48を指していたのだ。
すでに動き出した電車の中で、私は何を信じればいいのかわからなくなってしまった。
・・・
8:58分にタイム・カードを切る。
朝のスーパー・マーケットのバックヤードには、果物のにおいと、オレンジの果汁にまみれた包丁のにおいと、ダンボールと甘い埃のにおいがまざりあって淀んでいる。
働くという行為により人間の脳内に様々な種類の化学物質が生成されるが、私の場合大人になることを促進する化学物質の分泌量が多いようだ。
その過剰供給が私にストレスを与え、頭をぼんやりさせ、目を乾かし、つむじをかゆくさせる。
12:10分に退勤のカードを切り、図書館へ向かう。
最新刊雑誌を片端からぬきとって机に広げる。
人間の二十歳についての特集と、虐待による脳の委縮や視聴覚の拡大についての記事を読む。
読み終わったあと無性にいらいらとして、リュックサックの中にあったの見かけのレモングラス・ティーを金属バットのように右手にぶらさげ、お重さを感じながらずかずか歩いて図書館を出た。
階段脇に座っていた中年の男性は、「うつについて」の本を広げノートに書き写していた。
14:30、新宿駅のニューデイズのドリンク棚の前にいるとき、今日会う予定だった男の子から電話がかかってくる。
「ごめん。いま物凄くむかついていて。会ってまともに会話できないと思う。だからまたね。ごめん。」
そういいながら、カフェオレにグラノーラを入れた新発売の朝食一体型飲料の入ったペットボトル手に取り、振って眺める。底を見ると、どろどろした茶色い液体が怠そうに揺らいだ。煮込みすぎた味噌汁のようだ。
彼はまた誘ってください、などと言って電話を切った。
帰ってから葛・きな粉アイス・キムチチャーハン・納豆・卵・餃子・味噌汁・白米・サラダを食べた。
少し寝て、ラジオを聞いて、絵を描い0た.
時刻は一時四十五分。おやすみ。
2015年4月25日土曜日
朝起きて絵を描いた。
そのあと母の作ったから揚げ、レタスと温泉卵のサラダにシーザードレッシング、小松菜と大根とサツマイモの味噌汁、まぐろの照り焼き、白米を食べた。そのあとカフェオレ。
15:30に家を出る。16:25に新宿駅に着いた.新宿駅から初台まで歩く。
17時から21時までバイト。少しまえにデビューしていまは解散したバンドメンバー(たしかベース担当)がお人形みたいにかわいい顔の彼女と店にきて、その接客をする。すこし残業して21:55に店を出る。
初台駅でRitter Sportsのナッツチョコレートを食べる。このチョコレートは厚さが1センチくらいある。甘すぎる。本当はAndesのクリームミントが食べたかったがこれも甘すぎる。
23時に最寄駅に着く。駅まで父親が迎えにくる。
帰宅後、父親の作った醤油ラーメン(もやしとニンニクの芽とにらとひき肉を炒めたもの、メンマが乗ってる)にキムチをいれて食べる。
村上春樹の「中国行きのスロウ・ボート」を読む。
風邪をひいているせいか、味がほとんどワカラナイ。熱いということと、メンマの塩辛さと、ひき肉とスープのあぶらっこさだけが舌に残った。キムチの酸っぱさいつもより鈍く感じられた。
0:30、Ritter Sportsナッツチョコレートの残りを食べる。
インスタント・コーヒーをうすく入れて、そこに牛乳を2センチいれる。
キーボードで今日の出来事をそれが行われた時間と共に打ち込む。
眉間の右側と右ほほに、痛いはれものが出来てしまった。
明日は9:00~14:00勤なので6:45に起床後7:30に家をでなければならない。
そのあと友人と出かける。
これから4時間半の睡眠に入る。おやすみ。
電源を切った。コンセントを抜く。