【アニメ考察】部長とドラムメジャーと転校生―『響け!ユーフォニアム3』5話【2024春アニメ】

『ユーフォ3』5話より ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 

   youtu.be●原作
武田綾乃響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(宝島社文庫)

●スタッフ
監督:石原立也/副監督:小川太一/シリーズ構成:花田十輝/キャラクターデザイン:池田晶子池田和美総作画監督池田和美/楽器設定:髙橋博行/楽器作画監督:太田稔/美術監督:篠原睦雄/3D美術:鵜ノ口穣二/色彩設計:竹田明代/撮影監督:髙尾一也/3D監督:冨板紀宏/音響監督:鶴岡陽太/音楽:松田彬人/音楽制作:ランティス・ハートカンパニー/音楽協力:洗足学園音楽大学/演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ/吹奏楽監修:大和田雅洋

・五話スタッフ
脚本:花田十輝/絵コンテ・演出:石立太一作画監督:徳山珠美

制作会社:京都アニメーション

●キャラクター&キャスト
黄前久美子黒沢ともよ加藤葉月朝井彩加川島緑輝豊田萌絵高坂麗奈安済知佳/黒江真由:戸松遥塚本秀一石谷春貴/釜屋つばめ:大橋彩香/久石奏:雨宮天/鈴木美玲:七瀬彩夏/鈴木さつき:久野美咲/月永求:土屋神葉/剣崎梨々花:杉浦しおり/釜屋すずめ:夏川椎菜/上石弥生:松田彩音/針谷佳穂:寺澤百花/義井沙里:陶山恵実里/滝昇:櫻井孝宏

公式サイト:TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』公式サイト (anime-eupho.com)
公式X(Twitter):アニメ「響け!ユーフォニアム」公式 (@anime_eupho) / X (twitter.com)

 

 

※この考察はネタバレを含みます。

 

 

概要_トワイライトについて

 第五話「ふたりでトワイライト」は、「トワイライト」に即した話数だった。「トワイライト」とは、日の出前、日没後にある薄明かりの時間帯を言う。本話であれば、二人で薄明かりに、二人で外に出ている主人公の黄前久美子高坂麗奈を指す。だが、本話全体を振り返れば、主に描かれたのは、久美子と麗奈だけではない。この二人を主に描いたのがBパートであるなら、Aパートでは、『ユーフォ3』から登場した、黒江真由が描かれる。

 明るさと暗さを、映像表現的として、比喩的として使い分け、豊かな映像言語でもって、久美子と二人の姿を描き出す。主に、京都アニメーションが得意な光の表現を手掛かりに、二人を見ていこう。

 

新入部員で転校生の日常

 真由の場合、彼女の立ち位置が、暗い影の部分を担う。彼女は、三年生という学年に、吹奏楽の強豪、清良女子から北宇治へ転校してきた。このような経緯から彼女は部活での立ち位置を決めあぐね、溶け込めずにいる。こうした真由の悩みが、真由の悩みに対する久美子の対応が、多様な表現で表現される。

 

音楽室の緊張感

 久美子たち幹部会の三人が、大会に向けて、今年度のオーディションの進め方を話し合い、その結果が吹奏楽部員の前で発表される。そのとき、ソリについて質問する久石奏に続いて、真由は、自分もオーディションを受けないといけないのか、と質問し、久美子や部員全体に緊張が走る。その様子は、日が照っているにもかかわらず、くっきりと明暗が付く画面に現れる。パートに分かれた後、低音パートのファーストショット(下右図)と比べるとわかりやすい。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 

繋がらない低音パート

 その直後、低音パートに分かれた様子が映る。先ほどとは異なり、適度な光が差し、明暗がそこまで激しくなく(上右図)、低音パートの和気あいあいとした雰囲気を醸し出す。ここでは、次の順番で人物たちの様子が繋がれる。川島緑輝と一年生三人、月永求と加藤葉月、鈴木美鈴と鈴木さつき、そして久美子・真由・久石奏のユーフォニアム組へと続く。ユーフォニアム組へのつなぎを除いて、他の三組でショットが被写体となる組み合わせが変わる際、一方の登場人物越しのショットで繋いでいる。そして、真由の足元のみのショット、すなわち他三組越しではないショットで繋がれることにより、前三組が醸し出した低音パートの中の良い調子をせき止めて、オーディション参加を悩む真由の話へと入っていく。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 

明暗分ける部長と転校生

 先ほどの低音パートのシーンの後、久美子は個人練習に映る。久美子の元へ、真由が現れる。真由の姿に影をうまく落とされる。そうすることで、光よりも影が、雄弁に語り始める。

 まず、真由と距離を取るように、久美子が日なたに出ることで、日なたの久美子と日陰の真由で明暗が付く(上段図)。また、この明暗は、真由の足元の二重の影、久美子の足元の太陽光で緑に反射して生じる明るさによって、足元のショットでも強調される(下段図)。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 それに、特に本作で特徴的なのは、窓である。窓が多い学校を舞台にする『響け!ユーフォニアム』では窓が効果的に使用されてきた。ほんの一例だが、下図上段の左から『ユーフォ』(一期)一話、七話、二期四話である。本話では、真由が背にする廊下側の窓が、何も映しも通しもしない灰色の壁と化している。ただでさえ、真由に影がかかっているのに加えて、背景の灰色の窓ガラスが彼女のいる場所を暗くし、息苦しさを与える。

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 最後に、久美子と真由の間にある明暗を、同一ショット内で、実現する。それが以下のショットだ。画面の中心に位置取り、光が当たる久美子と画面に背を向け影をかかっている真由。二人の様子が印象的なショットである。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 彼女の悩みを打破するきっかけになったかもしれない、吹奏楽部全体・低音パート・久美子との一対一、すべてで真由の悩みをやわらげ、彼女が北宇治吹奏楽部になじんでいくことにはならなかった。明暗、そして低音パートのつなぎ方により、緊張感や息苦しさをうまく作り出していた。

 

真由が立てる場所

 そうした真由だったが、二度目に低音パートで集まっている際、彼女の立場を象徴するカメラを持っている。カメラを持つ彼女は、特定の立ち位置にいる。撮影者の位置である。現在の彼女を象徴する立場である。同楽器のユーフォニアム、低音パート、吹奏楽部、そのどれとも疎遠で、離れた位置から見ているのが、真由だ。彼女はそのどのフレームにもきっちりと収まってはいない。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 転校生の彼女の立ち位置は、カメラが持ってきたカメラに象徴される。一緒にいるけれども、その輪に入るのではなく、同行しその輪を見つめる撮影者の立ち位置である。しかも、三年生で転校してきた彼女は、友人関係の面でも、オーディションで大会メンバーを選出する実力主義の部方針の面でも、その輪に入りたくても、その輪に入るのが難しい状況に置かれている。そうした真由の現状が、息苦しさが、表現されたのが主としてAパートだった。

 

日常・特別な光のグラデーション

 Bパートでは、久美子と麗奈はあがた祭りに行かず、二人で麗奈の家で過ごし、演奏し、川のほとりを散歩する。そうして描かれるのは、暗さの中にある光、久美子との関係において不安を感じている麗奈の心に光が灯る過程である。

 

切り取られる光ある日常

 暗いところに光、というのはAパート二人で下校する電車内で描かれる。電車が動くにつれ動く影、それに車窓から差す光が、電車の運動に合わせて、ゆらぎ、形を変えていく様が丁寧に描かれている。進路について話す二人の何気ない日常が、瑞々しく切り取られる(上段)。電車を降りた二人の生活を照らす、窓の夕陽、駅構内の看板の光、信号の光も画面に取り込まれる(下段)。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 

特別な光演出のグラデーション

 Bパートに入り、あがた祭りではなく、久美子は麗奈の家を訪れ、麗奈が久美子へ音大を勧めていた真意が判明するラストシーンでは、二人の盛り上がりは極点に達する。麗奈の家訪問から段階を踏んで、光と影の演出はクライマックスへ向かっていく。そして、この段階を踏むというのが、ラストシーンの劇的さを生むうえで重要となる。麗奈の家のシーンから順に見ていこう。

 自宅のシーンでは、主に麗奈の部屋で二人の会話シーン、スタジオでの演奏シーンが入る。前者の会話シーンは、本話で最も特殊なシーンと言える。というのも、普通の画面だからである。すなわち、他の場所・時刻で見られるような、部屋は室内光により均一に照らされており、かつ明暗、それに伴う色の変化を楽しむような画面ではないということだ。だが、それゆえに、画面の雄弁さは鳴りを潜め、二人の話やオーディオから流れる自由曲に落ち着いて耳を傾けることができる。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 後者の演奏シーンでは、間接照明に照らされたスタジオ内が、麗奈の部屋に比して、複雑な光と影の関係を織りなしている*1

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

そして、二人が演奏を始めると、映像はあがた祭りを訪れる、二人以外の吹奏楽部員へと移る。夜空に舞う火の粉に始まり、男子部員たちが歩く薄明かり、夜の屋台の白熱灯のあたたかな光、明るい屋台の間で反射する服や髪、久美子と麗奈が現在隔絶されつつある外が映し出される。だが、この中で最も目を惹くのは、火の粉や屋台の白熱灯という光源の光である。

『ユーフォ3』5話より ©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 そうして、本話のクライマックスへ進む。暗い川のほとりを二人で歩く。卒業後、違った道を進んで疎遠にすることを心配する麗奈、しきりに音大を進めてきた理由が腑に落ち、麗奈の不安を取り除く久美子。二人のうるわしい友情が、先ほどの屋台とは打って変わって、派手な光源は隠れ、どこからともなく差す光が、川を照らして二人が話す舞台を整え、二人の髪や瞳や服を照らし、つややかに見せる。二人は均一なスポットライトに照らし出されるのではなく、何らかの反射光を受ける彼女たちは、彼女たち自身が光をまとい、輝かしい青春をまさに体現する。

 あがた祭りを「普通」に楽しむ様子を光源の光で照らし出すのに対して、「特別」な二人だけの時間を、反射がつややかに彩り、情趣ある雰囲気を醸し出してくれる。「特別」さは、こうした演出からも準備される。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 Bパートを中心に、麗奈の部分についても見てきた。特別な二人の姿は、複層的な光と影(暗さ)の扱いによって、描き出されていた。

 また、余談になってしまうが、明暗以外にも、二人の関係は、フレーム内フレームで描き出された。二人を手すり・つり革で囲まれた電車でのショット、真由と久美子のソリを聞いた後の久美子と麗奈を分割する窓枠のショット、そして最後に麗奈の不安を解消した後の柵によるショット、二人の関係性を簡潔に表現してくれる。

『ユーフォ3』5話より
©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

 

 

 以上で、光と影を中心にしつつ、久美子と真由・麗奈という何かを抱えた二人を、五話がいかに演出してきたのか見てきた。真由の定まらない吹奏楽部の位置、麗奈の進路によっては久美子と疎遠になるかもしれない不安、どちらもが影を持ち、光を持ちながらも雄弁に映像が語られる。京都アニメーションが得意の映像表現が発揮されていた。

 二人と対話してきたのは、主人公の久美子だった。久美子についても、一言すれば、久美子の素質、素らしさが出ていたのが本話だったように思えた。驚き・緊張・だれ、縮こまった様子、などバリエーションに富んだ声での反応が聞ける。過剰に演技的でない素そのものでしかないにもかかわらず、その演技のバリエーションは多い。こうした多彩な素こそが、部長に建てられる久美子らしさであり、それを作り出す黄前久美子を演じる黒沢ともよの力が大きい。

 

 最後に、フィルムカメラ、音楽、夏祭りの金魚、象徴めいたモチーフが出て来る。そのどれもが、短期間の一回性を特徴に持つ。一回きりの三年生、彼女・彼らがどのような青春の日々を送るのか楽しみである。

 

*1:右図は、後ほど触れるあがた祭りの模様からスタジオへ戻ってきた後のショットである。