いろいろ備忘録 ー 西口一希

停止中だったブログですが、引っ越して再開することにしました。

本日4月1日付けで転職しました

3月末をもって、約9年間勤めさせて頂いたロート製薬を退社し、本日4月1日付けで、ロクシタンジャポン株式会社の代表取締役に就任いたしました。

ロート製薬では、素晴らしい9年間を過ごさせて頂きました。去っていく身ではありますが、これまで、一緒に働いて頂いたロート製薬の仲間とビジネスパートナーの皆様に感謝の気持ちで一杯です。

振り返ってみると、肌ラボObagiOXYデオウ、目薬、日焼け止め、リップクリームなど50以上の新ブランド導入やリニューアル、マーケティング戦略、営業戦略を担当させて頂き、またCM製作も100本近く関わらせて頂きました。マーケティングとして、これ以上ないと言えるくらいの数々の貴重な体験をさせて頂きました。

面白そうと感じるアイデアが出れば、あれこれ議論する前に、まず形にして実行してみる。そしてマーケットの反応をリアルタイムで見ながら、必要であれば、素早くプランを変更、時には戦略自体も変えていくといったビジネススタイルは、理屈よりも「現場現実現物』を起点とした「商売の原点」とも言えるものであり、多くを学びました。

前職のP&Gでは、ヴィジョン、戦略を基本に、お客様インサイトを起点とし、データに裏付けされた原理原則/グローバルレベルでのCBA/組織運営/リーダーシップなど、「形式知」化された知見を体系的に学ばさせて頂きました。

このP&Gでの17年で、ビジネスマンとしての基礎を身につけることが出来たかと感じておりましたが、ロート製薬での9年間は、新しい経験の連続でした。

分析に入る前に、面白いと感じるアイデアを起点として、毎日、まさに「現場現実現物」に身を置いて、その相互フィードバックから個人の「暗黙知」を積み上げ、次の実践に移っていく。理屈に縛られる前に、直感を大事にし、素早く形にして、新しい価値提案を行うスタイルは、まさにリアルであり、ライブ感、疾走感があって、非常に刺激的でした。

実際に実行したものの、失敗も多くありますし、後悔もたくさんありますが、こういった多くの実践を経験させて頂いたからこそ、多くの知見、「暗黙知」を得ることが出来たように思います。それらをどれだけ組織内に「形式知」として共有してこれたのか、心もとない部分もありますが、何度も議論を重ねさせて頂いて、今がその時期であると結論しました。
9年間、本当に有難うございました。

本日から担当させて頂くロクシタンは、個人的にも好きなブランドで、これまで新商品開発の際に、何度もベンチマークしてきました。巡り合わせとはいえ、今回、こういった機会を頂けたことに心から感謝しております。製造小売という業種経験はあまりありませんが、これまで私を育てて頂いたロート製薬、P&Gへの感謝の気持ちも込めて、全力を尽くして頑張っていきたいと思います。

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www.loccitane.co.jp

 

 

 

N1起点 『ピーターティールさんの話を聞いて』

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「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」

ティールさんのこの有名な質問を聞いて感じたのですが、結局、これってマス発想で付加価値は創造できないと指摘されているのですよね。

マスマーケティング経験が長い自分には、グサリと刺さりました。改めてN1起点で考えていかねばと。マーケ調査で、N1000とかで大量のN数で量的調査をしますが、それに対して個人1人という概念でN1起点としているのですが、具体的な1個人の価値観、ライフスタイル、インサイトを理解し共感することから始めないといけない。

1人の満足だけを考えて、他では手に入らない商品やサービスを企画し、コミニケーションし、継続的な信頼を構築していく。結果として、N1=1人という最小単位が出発点ではあるが、その価値観やライフスタイルに近しい方々に共鳴が広がり、それが数人になり、ミクロ集合になり、場合によっては、マスとも言える大集合になる

そもそも、世の中で一人しか満足しない商品提案をしたくても多分無理ですよね。1個人向けにカスタマイズした特殊提案であっても、それが欲しいと感じる人は、世の中全体でみれば絶対に数十人はいるでしょう。場合によっては数千万人いたりするわけです。

同様に、自分一人だけが満足する商品やサービスを創ってみれば、おそらく、それを欲しがる人は世の中にはかなりいるはずです。Appleのジョブスさんの物創りは、まさにこんな感じのように思えますし、デジタルで世界中の情報制限がなくなる中で、個人が大企業の役割を奪っていく理由はここにあると思うのです。

結局、N1に焦点を当てない限り本質的な付加価値は出ないし、新しい市場創造とは、こういった過程を経てしか達成できないと思います。おそらく、マスビジネス、マスマーケティングといった考えが、人口が増えて経済が拡大し続ける中での一時的な流行だったように思うのです。そういった意味では、ピーターティールさんの指摘は、当たり前の商売の心得だろうなと。

最近のLookalike ターゲッティングや、ビッグデータ分析で目指しているのは、このN1からミクロ、マクロへの拡大ですよね。データ分析能力上がれば上がるほどに、いずれN1からの拡大はアルゴリズム化されてオートメーションになる

そうなると長年培ってきたはずの拡大の為のマーケティング手法や、その使い手のベテランマーケッターの相対的価値は下がって、まだ視えていないN1の潜在需要の洞察力、そして、そのN1に向けた独自商品やサービスのクリエイティブ能力が、企業の存在価値そのものになっていくのだろうなと思うのです。

 

西口一希

GAISHIKI LEADERS 寄稿


会議全廃のすすめ~御社の生産性を下げているのは無駄な会議です 西口一希・ロート製薬 執行役員|外資系リーダーが日本を変える|ダイヤモンド・オンライン

 


20代でキャリアは決まる GAISHIKEI LEADERSの共通点 | 西口一希

 

 

無意識が示唆すること ー 西口一希

無意識の理解から、ビジネスに示唆することをまとめてみます。

• 新アイデアイノベーションとは、独自性・差別性があって、明らかな喜びや便益があるもの、、、それが商品であれ、サービスであれ、広告であれ、建築物であれ、同じだと思います。それらの全ては、お客様の無意識内に存在している”情報”と”連想” - それらの組み合わせです。

• マーケッターが行わなければいけないのは、そういった連想の意外な組み合わせによって可能となる、”潜在需要”を発見し、それらを形にすることです。まあ、当たり前の話なのですが、消費者調査とかヒアリングとかデータ分析などで想像すべきことは、無意識下の連想です。経験則になりますが、AだからBで、よってCというようなロジカルな分析や思考ではなく、一人の具体的な人間の、頭の中身、その中の様々な連想の中身、要素と組み合わせに想像を巡らせると、新しい需要の糸口が見つけやすくなります。

• 普段は、無意識とその中に存在する、有形・無形の情報・連想を考えることはありませんし、そのように意識的に考えずとも、直観的に共感的にこれらを捉えることは可能ですし重要です。しかしながら、これら無意識の中身をあえて意識してみると、アイデアを出す際に大きく役に立ちます。タグボートの岡康道さんも似たようなアイデア発想方法をとられているそうです - ”6角形の多面体を埋めるように連想で考える”。興味があれば、彼の本を参考にしてください。

• 無意識への働きかけとは、イノベーションの創出、そのものであり、それを構成する全て - 商品で考えれば、製剤の色、質、香り、使い心地、形、パッケージの色・形、ネーミング、CM、使用するフォント、売り場イメージ、店頭POP、CMで有名人を使う?使わない?、、、、全ての要素は、お客様の無意識内に存在している”情報”と”連想”とのかかわりで決定されるとも言えます。

• 一番想像しやすい自分をお客様と考えて、自分の好みや喜怒哀楽の感情は何に左右されているのか、その連想の原因や、起因を考えてみるのも楽しいです。多くは、後天的で、なんらかの経験・知識に端を発していることが多いはずです。これを一つ一つ想像する癖を身に着けると、強い共感能力やお客様のインサイトを洞察する能力を高められると思います。意識で無意識を客観的に探るといったイメージです。

 

西口一希

知っているものしか認識できない ー 西口一希

そもそも、脳内に存在している”情報”と”連想”はどのように形成されたのか? ”記憶”の仕組みとともに様々な研究が進んでいます。これまでの研究では、これらの”情報”と”連想”形成は大きくは2種類のようです。

1)先天的 - 生まれつき、本能として持っている情報と連想と肉体へのフィードバックシステム
2)後天的 - 生後、生きてゆく中で得たもの。例えば、意識はせずとも経験(五感)を通じて、または、意識的に得た情報(本を読む。学校で学ぶ。親から教えられる。)。

 

例えば、一才の赤ちゃんでも熱いお湯が手にかかれば手を引っ込め、泣きます。熱いといった肉体刺激が起こすフィードバックです。ところが、赤ちゃんは、BBQの火などには警戒なしで近づいてしまいます。近づいて熱さを皮膚から感知するとそれ以上近寄らないか、泣きますが。

ところが、ある一定期間を経て、大人になれば、BBQの火には視覚にはいれば、簡単には近づきませんし、火が見える時点でそもそも警戒します。一歳の赤ちゃんの熱さという皮膚刺激としての”情報”と”連想”は先天的なもので脳内に存在しており、また大人の視覚”情報”と”連想”またその反応は後天的で、生きている中での経験または知識として得たものです。

大人になるまでに、実際に火にさわって熱い思いをし、不快で苦しかった、または親に強く叱られた、このような経験が連想として脳に存在し、”近づかない”、”筋肉を緊張させ警戒する”との行動につながっているのです。もしくは、幸い、そのような経験が一度もなくとも、親から教えられたり、また、本から学ぶ(知識)として強く伝えられたものが、脳に残っている場合もあります。

しかしながら、多くの事例研究が示しているのは、経験なしに学んだ情報・連想よりも、経験として得た情報・連想のほうがはるかに大きな影響を、肉体的変化、行動変化、感情変化にあたえるようです。この経験が強烈な”不快”(痛みや悲しみを起こす肉体的変化)を伴った場合、いわゆるBBQの火へのトラウマになりますし、このような経験が、非常に楽しい”快”経験を伴えば(例えば、家族友人と非常に楽しく過ごした)、BBQの火は、一種のブランド化されたアイコンとなりえます。

このように、BBQの火がポジティブな連想としてブランド化されている場合、この人に、BBQの火を伴ってビールの新商品の広告をすると、この”快”連想にともなって、このビールへの愛着度が圧倒的に強くなります。よって、このビールの本当のおいしさはるかに超えた選好をCMだけで得る事ができます。人間誰しもがそれぞれの独自の情報と連想を無意識に持っているために、そもそも普遍的なビールの”おいしさ”評価は不可能ですが。一方で、トラウマとまでは無くてもBBQの火に、嫌な連想を無意識に持っていれば、このビールへの非選好が起こります。

そういった意味では、”私たちは既に知っているもの(情報と連想が脳内に存在している)ものしか認識出来ない”とも言えます。

 

西口一希

 

無意識を意識する実験 ー 西口一希

無意識を意識する遊びです。下記の絵のどちらが、”タギテ”という名前でしょうか?これまでのところ、9割以上の確率で、答えは一致します。多くの形や言葉は、それぞれの連想を脳内に無意識として持っており、誰にも共通する連想が多いです。

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実際に青い部屋にいるときと赤い部屋にいるときでは実際の体感温度が変わりますし、食欲も赤のほうが増進します。その意味では、食欲も赤の連想に近そうです。

この連想とフィードバックに仕組みは諸説ありますが、およその流れはこんな感じで間違い無さそうです。そのように考えると、焼肉レストランは赤い看板が多く、青い看板より、盛り上がり(興奮)を感じるし食欲も感じます。青い看板は食欲・興奮関連の連想になじまないので、おそらく独自性や驚きがあって目を引く可能性はありますが、食欲には遠いかもしれません。

この無意識の連想を焼肉屋さんのマーケティングで使うと、食欲は促進するが、ありがちな ”赤” 看板か、食欲は促進しないが、独自性があり、目立つことは出来る ”青” 看板か、いずれの選択肢もあるかと思います。

それ以外の様々なマーケティング要素を含めて総合的に考えて、それぞれの要素をどのように統合的に活用するのかの設計をマーケティングの責任者、プロデューサーは意思決定しないといけません。それぞれの要素ではなく、統合的にといったところが重要かと思います。

もうひとつ身近な例として、誰もが子供のころやってみた遊びです。”ピザ、ピザ、ピザ、って10回言ってみて。で、これは何(ひじを指差して)? - ひざ、じゃないよ” ”ミルクって10回言ってみて。で、牛が飲むのは? - ミルクじゃないよ!”。覚えてますか。言葉と音と脳内の連想(ひじという言葉とひじの部位のビジュアル ・ 牛という言葉とミルクの連想)。これらは、無意識下に固定化させた連想を使ってミスリードする遊びです。

無意識(脳)の中身(”情報”と”連想”)と外部から流入する”情報”の関係、それらが引き起こす肉体的変化、行動変化、なんとなくの気分、意識できる感情、意識できる解釈、これらの関係が理解できます。

 

西口一希