Chikirinの日記さんの難民関係の連載のおかしなところを逐一指摘してみる 第七回
この連載は、「Chikirinの日記」さんの難民関連の連載のおかしなところを逐一指摘する連載第七回目です。
Chikirinさんは現在第八回まで連載され、この連載は完結されています。
私のこれまでの連載はこちら
こんかいはちきりんさんの連載第七回のおかしなところを探していきます。
外国人労働者・移民・難民の違い
これらは、ちきりんさんを含め、多くの識者やSNSでも正確に理解されずに語られていることが多いです。
今回は、ある程度明確にこれらを定義づけます。
難民ってどんな人?
これは、これまでの復習です。
難民とは、狭義には難民条約に規定される難民を指します。条約難民と言われます。
人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有す るため に、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者
また、その他にも内戦や紛争などで避難した避難民などを含めた強制移動させられた人という概念があり、広義に難民という場合はこれらを含めることが多いです。
いずれにせよ、私たちが奉ずる平和・平等・人権といった価値観からすれば、それらが誰からも保証されることのない人々ですので、難民を保護するかどうかは、私たちが自らの価値規範を守り抜くことと同一線上にあります。
さて、これまで触れてありませんでしたが、難民問題の最終的解決は3通りあります。
- 帰還
- 避難国定住
- 第三国定住
です。
また、紛争や内戦を解決することで、難民の発生そのものを抑止する考えもあります。
基本的に、国際的な保護の法的枠組みが整備されているのは、条約難民の帰還と避難国定住です。
条約難民が避難してきた場合、当該国は保護しなければなりません。
これは難民条約に加盟している国すべてに言えることで、日本も例外ではありません。
広義の難民の保護や第三国定住は、各国の個別的な取り組みとして行われつつありますが、未発達な部分も多くあります。
日本も、広義の難民への保護は行っていますが、基準が不透明であることなど、課題は多くあります。
日本における第三国定住は、タイの難民キャンプからミャンマー難民を数十名ほど受け入れていますが、まだまだ規模も小さく、制度としてはパイロットケースの範疇を超えてはいないでしょう。
ちなみに、ある年は受け入れが決定した難民が第三国定住を辞退したため、受け入れ人数が0ということがありました。
タイのミャンマー人の難民キャンプは、そこで生まれ育った人がいるなどして、それはそれで複雑なのですが、難民自身が日本を選ぶか?という問題もあります。
日本に来る難民はそもそも多くはいないため、大規模に難民を受け入れる場合は第三国定住が主な施策となるでしょう。
あとは、金銭的な支援ですね。金は出すけれどっていうよくやるアレです。
まとめると、日本に逃げてきた難民は保護しなければなりませんが、他の解決策は政策上、選択の余地がありうる、ということです。
ただ、大規模な難民受け入れは、一時定住先となる地方自治体や地域コミュニティが難色を示すと思われますので、政治上は不可能でしょう。
ちなみに、難民の定住国での定着プロセスは重要です。
受け入れるだけ受け入れてほったらかしにしても、難民自身も困りますし、社会不安にもなりかねません。
一時的な居住先の確保や、語学・生活習慣などの研修、就労支援など継続的なサポートが必要になります。
特に就労は重要視されており、難民の自立を促すとともに、就労を通じ尊厳を回復できること、地域社会への統合が促進されることが挙げられます。
多くの場合、難民は経済的に困窮している確率が高く、難民であると同時に経済難民でもあります。
つまり、難民は外国人労働者としての側面を持ちうるし、持つことが望ましいということです。
移民について
実は、移民について世界的に合意された定義は存在しません。
最も言及されるのが国連統計委員会に1997年に提出された国連事務総長報告書による「通常の居住地以外の国に移動し少なくとも12ヵ月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」という定義です。
3ヵ月以上12ヵ月未満居住する短期の移民という概念もあります。
これらは極めて広範な概念で、目的が要件になっていません。
多国籍企業の異動による長期赴任や、留学なども含みます。
一方で、国籍要件はなく、移民2世以下は移民とはされません。言葉遊びをすると、2世以下は移民としてのバックボーンを持つ、程度でしょうか。
世界人口の概ね3%ほどが、移民として通常の居住地以外に居住しているとされています。
日本には、移民という法的概念はありませんが、類似の概念として挙げられるのが、中長期在留者と特別永住者です。
中長期在留者とは
一 三月以下の在留期間が決定された者
二 短期滞在の在留資格が決定された者
三 外交又は公用の在留資格が決定された者
四 前三号に準ずる者として法務省令で定めるもの
以外の人です。
適法に3ヵ月より長い期間日本に在留する人、とでも理解しておけばいいでしょうか。
2015年末で、約188万人の中長期在留者がいます。
90年以降概ね増加しています。東日本大震災の影響で一時数を減らしましたが、復調傾向にあります。
日本政府が、徐々に門戸を広げていることに一因がありますが、グローバル化の影響もあるでしょう。
特別永住者とは
完全にイコールではありませんが、いわゆる在日の人がこれにあたります。
戦前から日本に居住していた、朝鮮半島と台湾の人で、サンフランシスコ平和条約の発効まで継続して日本に居住しており、同条約により日本国籍を離脱した人とその直系卑属です。
直系卑属については国籍要件がないことに注意です。
2015年末で、約38万人の特別永住者がいます。
この2者で、約223万人となり、日本に人口に占める割合は1.75%程度になります。
2世以下の人数はわかりませんので、上記の定義よりさらに広範なものになります。
また、不法滞在者も、移民に含めることができます。
不法就労移民とでも言えばいいのでしょうか・・・。
把握されているものだけで、2016年1月1日時点で約6万人程度います。
ちなみに最も不法滞在者が多かったのは、1993年ごろで約30万人です。外国人労働者というとこのころの不法就労者のイメージで語られがちです。
どの程度の期間滞在しているかまでは面倒くさいので確認していません。
日米地位協定者や、国連地位協定者を移民に含めるべきか分かりませんが、2013年3月31日時点で約10万人ほど日本に居住しています。
「日本に居住している外国人」でいえば約240万人程度になるということです。
この240万人が、日本では最も広範なものとして移民と定義しうる、ということができます。
なぜこのような言い方をするかというと、移民という言葉はぼんやりとした定義でしか使われていないからです。
ちきりんさんも例外じゃありません。
などなど・・・・。
「日本に住む」外国人はここ25年で大幅に増加し、また、多様化しています。
議論のツールとして、移民という言葉は有用ではないでしょう。
少なくともどのような人物像を指すのか明確にする必要があります。
外国人労働者
面倒くさいので、ここ見てね
特別永住者・外交・公用の在留資格を持つものは統計から省かれています。
日本政府の建前としては、単純労働者は受け入れないことになっています。
ただ、世の常として、大体裏口があるものです。
90年代は日系人が単純労働者として受け入れられてきました。
最近では、技能実習生が裏口として活用(濫用)されつつあります。
また、就労に制限がない在留資格は多数あり、単純労働に従事しても何も言われません。
永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者などの身分に基づく資格がこれにあたります。
永住の許可要件は、独立生計維持・国益合致・素行善良の3つであり、就労資格ですと10年ほどで取れます。
91万人が雇用されており、在留資格別では永住者が最大多数です。
永住者70万人中20万人が雇用されていますが、驚くべきは残りの50万人が何しているかいまいちわからないところです。自営業でしょうか?
日本人と婚姻していると永住許可要件が緩和されるので、専業主婦かもしれません。
でも日本人の配偶者等のうち、半分以上が雇用されています。謎いです。
移民について広範な概念を使用すると、外国人労働者は概ね移民の概念にすっぽり覆われます。
移民・外国人労働者・難民についてベン図を作ってみると
何この図、適当すぎた。
さて、ではおかしなところを探していきましょう
まずは外国人労働者について。
外国人労働者とは「働いてお金を得るために来日する人」です。
だから仕事が終われば or お金が貯まれば帰国するし、稼いだお金の大半は日本では使わず、貯金するか母国に送金します。
日本市場における消費者として期待することはできません。
随分乱暴な定義です。
正直言って、このイメージは90年代の不法就労移民のもののような気がします。
永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者など、身分に基づき日本に在留している人で就労している人は多くいます。
また、日本に留学して、そのまま日系企業に就職する外国人も大勢います。
最初は、日本で稼いでから、帰国してビジネスを立ち上げることなんかを考えていたけれど、様々な条件を考えて、日本での永住や帰化を考える人もいるでしょう。
ですので、外国人労働者の消費性向については一概に言えません。
資格外活動というのは、留学生や家族滞在(本来は就労負荷)の人が許可をもらいパートタイムジョブに従事することを指します。
日本である程度の期間就労してキャッシュインして帰国するのは、概ね技能実習生と専門技術分野のうちの一部でしょう。
また彼らは、仕事に必要なコト以外、日本について学ぼうとはしません。
言葉にしろ慣習にしろ、数年しか滞在しない国のことを深く学んでも意味がありません。なので日本にいる間も仲間内で集まり、本国とネットでつながりながら暮らします。
彼らは自分達を“よそ者”だと感じているし、日本人も彼らをそう扱っています。(お互いの期待値が同じです)
ですので、これについては根拠が不明です。
家族同伴できている場合、地元の保育園や学校に子供を通学させることはままあります。習得する言語か異なるため、親子間でのコミュニケーションに支障をきたす場合もあります。
私たち日本の仕事観も多様化している中で、外国人の働き方を一律に規定することは無理筋ですし、有益な定義とは思えません。
自営業や、日本でスタートアップしている外国人や、経営者層の動態も不明です。
移民について
ちきりんさんは移民を「日本に住むためにやってくる人」という何とも言えない定義を置いたうえで、日系ブラジル人がその一例としていますが、とんでもない。
まず、「移民」の定義が不可思議です。
日本政府は移民を受け入れていないとしていますが、上記の通り、日本に住んでいる外国人のかなり多くは移民として通常カウントされます。
日系ブラジル人は、就労資格を得難い人でも、日系であることを理由に在留することができるため、出稼ぎ目的が多いです。
ですので、日系ブラジル人は、景気動向などにかなり左右され、在留人数もかなり過敏に反応します。
リーマンショックを前後に、最大31万人在留していたブラジル人が、現在17万5千人まで減少しています。
移民は「働くため」ではなく「住むため」にやってくるので、外国人労働者とは、さまざまな点で異なります。
まずは働き手のみでなく、家族も一緒にやってきます。もしくは、日本で結婚して家庭を持ちます。多くの場合、子だくさんです。
稼いだお金は日本で貯金し、日本で使います。日本で家を買う人もいるし、地方なら車も買います。
もちろん子供の教育も日本で受けさせます。「子供にはこの新しい国で成功して欲しい」と考えるため、多くの移民は子供の教育に熱心です。
つまり彼らは労働力であると同時に、日本市場での消費者でもあるのです。
家族滞在という在留資格があります。就労資格や留学の在留資格で来日している人の、配偶者や子が子の在留資格で日本に住んでいます。
平成28年6月末で14万人です。資格外活動許可を得られれば、限定的ですが就労できます。
外国人労働者と移民を弁別する意義は薄いでしょう。住むためには働かなくてはなりませんし、働くためには住まなければならないからです。これらはかなりの程度重なり合っている概念といえるでしょう。
外国人労働者と移民は重複しています。弁別して語ることは不可能です。
ですので、それぞれの行動様態や、子女に対する教育の程度を云々するというのは、想像の範疇であると言わざるをえません。
結局は
これですよ。これが恐らくもっともベーシックな理解です。
ちきりんさんの今回の投稿は、他にも、いろいろ引っかかる部分はありますが、この程度にしておきましょう。
次回はまとめの回にします。