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【2019年版】超厳選、初心者を本格ミステリーフリークにする30冊!!

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本格ミステリーとは

 

じゃあ本格ミステリで調べれば必ず謎解きが楽しめる小説に出会えるのかというと、残念ながらそうなってはいません。

 

というのも、 「本格」という紛らわしい呼称のために「本格的なミステリーってことかな〜」という風なぼんやりした知識でまとめられた記事がごろごろあるからです。 私も何度騙されたことか・・・。 

 

そこで今回は、ガチで謎解きを楽しみたい、でもどれを選んでいいかわからない、という初心者の方へ、のびさくが今まで読んできた本格ミステリーを厳選してズラズラっと紹介していこうと思います!! 

チャートの見方

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  • 公平性・・・実際に解くことのできる問題か。答えをみて、確かに謎を解くための材料は揃ってたな〜と納得できるか。
  • シンプルさ・・・話の構造を複雑にしすぎたり、登場人物を増やしすぎたりして、本質的でない部分で謎解きの難易度をあげていないか。
  • 衝撃度・・・伏せられていた事実や、謎の答えが明かされた時に、どれだけ衝撃をうけるか。
  • ゾクゾク感・・・衝撃度の「ええええーーーー!!!!」に対して、「えっ」「ひっ」という感じ。
  • ドラマ性・・・恋愛要素や感動、ドロドロした人間関係、メッセージ性など、謎解き要素以外のエンタメ要素。謎解きの動機付けに繋がっていれば最高。
  • 読み口の軽さ・・・文章が今風かどうか。格式張ったり古めかしい文章でないか。まあこれは好みの問題。(軽い文章の本格は正当に評価されにくい傾向がある気がするのであえて)

超厳選本格ミステリー小説30選!!

これが本格だ!! 問答無用でまず読んでほしい10冊!!

そして誰もいなくなった - アガサ・クリスティー
 
 

例えるなら、携帯電話が普及し始めたときにいきなりスマホを発表する感じでしょうか。時代を先取りしすぎてるんですよね。一部では、ミステリーでできることはクリスティがもう全てやったと言われるほど。

 

昔の作品にも関わらず、堅苦しさなどは全くなく、なんなら下手なラノベよりキャッチーで抜群に読みやすいのもポイント。

 

ただ一つだけ欠点をあげるとすれば、邦題がよくない。この作品は先の展開への先入観を全く持たずに読む方が絶対におもしろいのに、タイトルで大事な結末のひとつを言ってしまうとは勿体ないにもほどがあります!! 間違いなくこの作品の本来の衝撃度を下げています。

 

友達に勧めるときは、題名や作者名の部分は破るか黒マジックで塗りつぶすかして、何の本かわからないようにして貸してあげるとよいでしょう。

 

一生感謝されます。

十角館の殺人 - 綾辻行人
 
 
本格ミステリー黄金時代の著者の名前がいろいろ出てくるので、この人の本も読んでみたいなーというような、ミステリーへのモチベーションアップが期待できるのも初心者におすすめしたいポイント。
 
クリスティの「そして誰もいなくなった」の後に読むと一層楽しめます。
占星術殺人事件 - 島田荘司 
 
今の日本の本格ミステリーを打ち立てたと言っても過言ではないすごい方の代表作です。
 
細部の伏線やトリックの線密さはもちろんのこと、この大仕掛けなトリックがクセになってしまうこと請け合い。トリックの規模感で島田荘司に敵う方は古今東西いないのではないでしょうか。
 
さらに特色をあげるとすれば、重厚な文章です。私個人は文章が多少つたなくてもミステリーとしての面白さが充実していれば全く問題はないという考えですが、普段読書に馴染んでおらえて、軽い文章が目についてしまうような方には特におすすめできます。
アクロイド殺し - アガサ・クリスティー
またまたアガサ・クリスティーです。とにかく早い段階で読んでほしいのがこの作品。
というのも、本格にハマってくると嫌でも色々な情報が入ってくると思いますが、特にリスクが高いと思うのがこの作品なのです。ぜひ変な先入観が入ってくる前に読んでいただきたいです。
 
この作品はとにかく衝撃度がヤバい。「えええええーーーーー!!!!」となりたければまずはこの本。そのために当時「これは本当にフェア(公平)なのか」という論争が起きたほどです。
 
意見が割れているという点で、公平性は不本意ながら9にしました。僕はフェアだと思いますが、まあそれはみなさんが各々判断していただければ。
 
僕はフェアだと思いますが!
 屍人荘の殺人 - 今村昌弘
最近話題の大型新人。こういうのだよ!!と膝を打ちました。
 
本格を非常に意識しており、正面からどっぷり本格に浸れる、でもそれだけではない作品。ミステリーのトリックは枯渇したと言われて久しいですが、その発想があったかと目から鱗が落ちました。多くの作家さんが絶賛されるのも大納得です。
 
構造も非常にシンプルで、文章も軽快で読みやすく、初心者の方も大変面白く読める作品だと思いました。
リラ荘殺人事件 - 鮎川哲也
50年以上前に書かれた作品ですが、読みにくさなどは全く感じさせません。
 
本格ミステリのいろいろな要素が詰め込まれていて、細部の描写も丁寧で、展開の衝撃的な変化もあって、流石といったところです。この作品で本格に引きずり込まれた方は数知れずおられることでしょう。
 
今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」は、この作品の著者の名を冠した「鮎川哲也賞」受賞でデビューですね。
 
先ほどの「屍人荘の殺人」、作中にチラッと名前が出てきたり、トリックとはあまり関係のないところで似た展開があったりして、間違いなく意識されている部分があるなと思いました。
 
日本の本格ミステリ最初期の名作と、新進気鋭の大著「 屍人荘の殺人」、読み比べてみて日本本格ミステリーの歴史を感じてみるのもおもしろいのではないでしょうか。
ギリシャ棺の謎 - エラリー・クイーン
 
「読者への挑戦」を最初にやったのがこの人で、著者と読者の知的ゲームという本格ミステリーの形式を世の中に定着させました。
 
中でもこの作品の切れ味のいい論理的推理と二転三転する展開は、今でもエンタメとして100%通用することでしょう。
 
日本のミステリーを牽引している有栖川有栖さん、法月綸太郎さんはクイーンの大ファンを公言しておられ、作風ももろです。
 
(豆知識ですが名探偵コナンに登場する服部平次もクイーンのファンです)

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月光ゲーム - 有栖川有栖
クローズドサークル、ダイイングメッセージ、読者への挑戦と、これでもかというくらい本格好きの心をくすぐる作品です。ワクワクさせる出だしで一気に引き込まれます。ロジックも言うことなし。
 
本格ミステリーには、
  • フーダニット(Who done it? 誰が殺したか)

  • ワイダニット(Why done it? なぜ殺したか)

  • ハウダニット(How done it? どうやって殺したか)

という3つの要素があるのですが、有栖川有栖さんの作品は特にフーダニットが意識されているように感じます。

 

殺人者はこの中にいるのに、だれかは全くわからない。次は誰がいつ殺されるのか。あの人には死んでほしくない。

 

そういうゾクゾク感を味わいたければこの作品の右に出るものはありません。

 

この作品は「江神二郎シリーズ」の第1作にあたるのですが、面白ければ、ぜひシリーズ3作目「双頭の悪魔」までは騙されたと思って読んでみてください。

密閉教室 - 法月綸太郎
クオリティの高いトリックが惜しげも無く投入されている贅沢な作品。
 
文章で賛否が分かれがちですが、それを補って余りあるトリックと衝撃のラストは、やはり歴史に残る名作という言葉がふさわしいと思います。
 
探偵のあり方、必要となる事件の関わらせ方など、決して「小説だからそんなもんか」で終わらせない、曖昧さを許さない徹底的な線密さで、本格ミステリーに対する哲学のようなものまで垣間見えます。
 
ネタにされがちなミステリーのわざとらしい形式美で普段モヤモヤしている方は、この作品で「こういうことなんだよ!」と膝を打つはず。しかし新たなモヤモヤもまた生まれるはず。法月さんと共に悩み続けましょう。
三つの棺 - ジョン・ディクスン・カー
「密室のカー」「通といえばカー」という異名をもち、本格ミステリー好きな人でジョン・ディクスン・カーを知らない人はまずいないというほどの人の作品。
 
この作品は密室ミステリーの最高傑作という呼び声が高いのですが、その他に作中の「密室談義」というパートで有名でして、
「われわれは探偵小説の中にいる・・・」
といった感じで、小説の枠をぶち壊して密室殺人のあり方について講義を始めるんですね。
 
本格ミステリー好きは必ずしも古典を読まなければならないかというとわたしはそうは思いませんが、この歴史に残る考察は一読の価値があります。
 
ただし、談話の中で、ガルトン・ルルーの「黄色い部屋の秘密」のネタバレがあるので、気になる方は先にこちらを読むことをオススメします。
黄色い部屋の秘密〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

黄色い部屋の秘密〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

少し説明しますが、これは「オペラ座の怪人」と同じ著者の作品で、私は創元推理文庫で読んだ時にいくつかのトリックの部分で「なんだそれ?」と思ったので本格ミステリーとしては強くは勧めませんが、探偵同士の対決、法廷での論戦など、エンタメ部分は熱い展開があって普通に楽しめました。

最近ハヤカワから新訳版が出たので読みやすさも問題ないと思います。

これが密室の原点。

騙されたと思って読んでほしい、ライトな文章で目立っていないが超絶本格な10冊

神様ゲーム - 麻耶雄嵩
これは衝撃を受けると思います。この作品を紹介したくてこの記事を作ったと言っても過言ではありません。
 
著者の麻耶雄嵩という方は作風に一癖ありまして、本格ミステリーファンが読めば麻薬のようにハマるのですが、そうではない一般の方が読むと、消化不良というか、「これで終わり?」となる作品が多いように思います。Amazonレビュー等でわかりやすく賛否が別れていますので。
 
その普段隠れがちな長所が、この作品では「どーん!!!」と表面に出ているんですよ。
 
ページ数が少なく、推理しやすいのもポイントです。ぜひ真剣に犯人を当てるつもりで読んでみてください。そこには規格外の衝撃が・・・。
 
ぶっちゃけわたしの一番好きな作家。
 

 続編もあります。「神様ゲーム」の後であれば、ぜひ読んでくださいみたいなことは言わなくても読みたくなっているはずです。

さよなら神様 (文春文庫)

さよなら神様 (文春文庫)

 

 

珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を - 岡崎琢磨
この作品は、私が本格ミステリーにどっぷりハマる前に読んだ作品で、個人的に思い出深い作品です。
 
短編が何本かあって全体の形を作っているという構成で、推理しやすいです。
 
一つ一つのトリックはいってみれば平凡かもしれませんが、その演出の仕方がうまい。
提示される謎が本当に不可解で、人が死なないにも関わらず、先が気になって仕方なくなります。そういう作風は近年流行っているように感じますが、この作品は突出しているのではないでしょうか。最後の方で誰もが驚くはず。
 
続編も安定感があり、もっと評価されるべき、という作品のひとつです。
体育館の殺人 - 青崎有吾
この作品はだれがどう言おうと本格!!
注目していただきたいのが章題です。
  • 第一章は事件とともに始まる
  • 第二章において探偵役が登場する
  • 第三章は容疑者絞りに費やされる
  • 第四章の末尾で全てのヒントが出そろう
  • 幕間 || 読者への挑戦
  • 第五章は解決編である

興奮してくるでしょう。

わたしも最初開いてみて、「おおおおーーーー!!!! きたーーーー!!!!」と歓喜したのを覚えています。

内容もラノベチックな文章とは裏腹に、ひとつの手がかりから展開される論理的推理は必読です。これぞ本格。

アニメネタも出てくるので普通に世代の方ならニヤニヤできます。

「読者への挑戦」ゆえに、「平成のクイーン」と評されていますが、本物のクイーンの作品は後ほど。

恋と禁忌の述語論理 - 井上真偽
わたしはフェアか・アンフェアかというのは突き詰めると結局読者への説得力だと思うのですが、この作品はそれが飛び抜けています。反則的に説得力があるんですよね。というのも謎の解明に数理論理学の数式が登場するという・・・。
ちょっと意味がわからない、という方はぜひ手に取ってみてください。本当です。そのままの意味です。
で、他の作品と一線を画したその論理武装ゆえに、テンプレ的なミステリーを軽くディスるメタミステリ的な部分もニヤッとさせられます。
この作品も、面白さと評価にギャップがあるなぁ、もっと評価されるべきなのに、というもののひとつです。
『クロック城』殺人事件 - 北村猛邦
本格ミステリーの本質的な楽しさというのはやはり謎解きになるわけですが、この作品の著者、北山猛邦さんは物理トリックにこだわりをお持ちで、界隈では「物理の北山」と呼ばれております。
これの何がいいかといいますと、近年、文章の書き方で読者の勘違いを誘う「叙述トリック」というのが大流行しておりまして、大体の有名になる作品で使われているんですね。叙述トリックは、ミステリーをあまり読んでない人が初めて体験すると、確かに強いインパクトを与えられるのは間違いないと思うのですが、推理するとなると、疑う範囲が広くなり過ぎてしまって、作品によってはどうもアンフェアな気がしてしまったり・・・。
その点北山さんは物理トリック好きを公言しておられまして、安心して推理をすることができるわけです。
もっとも、これは読み手や環境の問題ありきの長所でして、この作品の良さはもちろんそんなところだけではありません。
最大の魅力は、物理トリックにこだわる代わりに、世界観がとても自由に設定されていて、大規模なトリックを最適な形で味わえる点です。難易度もちょうどよく感じました。
「早い段階でわかってしまって、読む気が失せた」といったレビューがネットで散見されましたが、それはおそらく中盤まで読んで、これが全ての真相なんだと勘違いしているか、推理そのものを楽しむ気がないかのどちらかでしょう。
間違いなく一読の価値ありの、正真正銘本格ミステリーです。
 
臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族 - 古野まほろ

最近Twitterで炎上しちゃった作家さんですが(笑)、作品自体に罪はありません。非常に切れ味の良い論理展開で気持ちのいい本格です。

 

主人公は「言葉のウソとホントを見抜ける」という特殊な能力を持っているのですが、その設定がミステリーと非常に相性がいい。というより、ウソかホントかわかるだけなのが非常に丁度いいんですよね。「あれ? これならちょっと計算すれば解けるんじゃない?」と期待しちゃうんですがそう簡単にはいかないという、理想的な塩梅です。

 

謎解き部分も詳しくは言えませんが驚きに次ぐ驚きで、ドラマ性もあり、非常に読み応えがあります。

 

数学好き、論理好きな方はハマること間違いなし。

眼球堂の殺人 ~The Book~ - 周木律

 数学と建築と本格ミステリーへの愛が詰まった作品。ただし数学と言っても哲学的な内容に止まっているので(次作からは止まっていません)、数学アレルギーの方も問題なく楽しめると思います。

 

密室、クローズドサークルでそそられますし、やはり館ものはトリックが壮大でいいですね。発想を大きく飛び越えてくる感じがたまりません(間をすり抜けてくる感じも好きですが)。

 

で、ラストがめっぽう面白い。詳しく書けないのが辛いところです。

すベてがFになる - 森博嗣

この作品は何と言ってもセリフ一つ一つが奥深いのが味です。と書くと、「本格ミステリーの紹介なのに文学的要素褒めてどうすんだよ!」とお思いになるかもしれませんが、もちろんそれだけでは終わりません。単なる文学作品の表現の多義性とは意味が違ってくるんです。

 

というのも、推理においてセリフのひとつひとつのセリフの本当の意味というのは、そのまま謎をとく手がかりになりうるからです。例えばこちらのセリフ。

「ほら、7だけが孤独でしょう?」真加田女史が言った。「私の人格の中で、両親を殺す動機を持っているのは、私、真加田四季だけなの。ですから、私の肉体が両親を殺したのなら、私が覚えていないはずはない。私だけが、7なのよ......。それにBとDもそうね」

意味深ですよね。

  1. ミステリーという形式が必然的に手がかりを見逃さまいと注意深く読ませる
  2. するとその副産物として森博嗣さんの印象的な文章の深さを存分に味わえる

という構造になっており、奥深い言葉と謎解きが理想的に融和してるんですよね。

 

もちろん、ミステリー部分も非常に繊細かつ大胆で高クオリティ。推理せずに表面的な部分だけをさらっても楽しめますが、ぜひ本気で推理して、深い部分まで楽しんで欲しいと思います(私が書いたみたいな偉そうな言い方になってすみません 笑)。

 

浜村渚の計算ノート 3と1/2さつめ ふえるま島の最終定理 - 青柳碧人

ラノベですが、読者への挑戦付きの正真正銘本格作品。シリーズものなのですが、番外編という感じなので今作だけ読んでも全く問題ないかと。

 

数学好きが集まる奇妙なホテルで起きた事件の話で、フェルマーの定理と言う難題をテーマに、シンプルできれいな本格ミステリーに仕上げているのがすばらしいです。解説もわかりやすい。

 

作中で張られた伏線が一つの形になっていく過程は読み応えがあり、本格に対する作者の意気込みが感じられます。

 

他にもシリーズを通して、四色問題や、ポアンカレ予想、モンティ・ホール問題といった割とマニアックな数学の豆知識を得られながらライトなミステリーを味わえます。

 

興味を持たれたらぜひ!!

浜村渚の計算ノート (講談社文庫)

浜村渚の計算ノート (講談社文庫)

 
氷菓 - 米澤穂信

少し前にアニメになったりしてすっかり有名になりました。今もっとも売れていると言っても過言ではない米澤穂信さんも、昔はライトなミステリーも書いていたんですね。

 

この作品に関しては「氷菓」にはじまる<古典部シリーズ>全体をオススメしたいです。

 

ホームズのような古典から、新本格の綾辻行人さんまで、様々な名作ミステリのパロディが仕込まれていて、、初心者の方が知りたい情報がわかりやすい形で詰まってるんですよね。ミステリーの見本市といった感じでしょうか。基本はここで学べます。

 

しかしただそれだけで終わるのではなく、解釈が難しい一石が投じられがちで、ネットで議論になることもしばしば。

 

アニメでふわふわしたイメージをお持ちの方は多いかもしれませんが、意外とシリアスで大人な作品です。それがクセになります。

 

シリーズの中でも2作目の「愚者のエンドロール」は必読!

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

  • 作者: 米澤穂信,高野音彦,清水厚
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2002/07/31
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謎解きの良さがわかってきたら読んでほしい、まぎれもない名作10冊

 グリーン家殺人事件 - ヴァン・ダイン

 推理小説の元祖はエドガー・アラン・ポーですが、本格ミステリーの祖はヴァン・ダインだと言われています。もちろん少し前から本格と言えなくもない作品もあったのですが、彼が区別を明確にしたという感じです。

 

ヴァンダインの打ち立てた、推理小説を書く上での規則『ヴァン・ダインの二十則』をしご紹介しましょう。

  1. 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
  2. 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
  3. 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
  4. 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
  5. 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
  6. 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
  7. 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
  8. 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
  9. 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
  10. 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
  11. 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
  12. いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
  13. 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
  14. 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
  15. 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
  16. 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
  17. プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
  18. 事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
  19. 犯罪の動機は個人的なものが良い。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。
  20. 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
  • 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
  • インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
  • 指紋の偽造トリック
  • 替え玉によるアリバイ工作
  • 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
  • 双子の替え玉トリック
  • 皮下注射や即死する毒薬の使用
  • 警官が踏み込んだ後での密室殺人
  • 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
  • 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法

15. の「スポーツマンシップ」なんて言葉からも、ヴァンダインが推理小説を純粋なゲームと捉えているのが伝わってきますね。

 

これ以降、どれほどのミステリー作家がこの『ヴァン・ダインの二十則』に影響を受けたことでしょうか。

 

そんな彼の代表作がこの「グリーン家殺人事件」でして、館モノの古典です。フェアなのはもちろんのこと、館に住む一家の狂った雰囲気にゾクゾクし、天才探偵「ファイロ・ヴァンス」の頼もしさにしがみつくたくなりました。

 

スリルとサスペンス性が非常に優れた作品です。

 

なお、次作「僧正殺人事件」も、今作と一、二を争う名作ですのでぜひ。

僧正殺人事件 (創元推理文庫)

僧正殺人事件 (創元推理文庫)

 
 Yの悲劇 - エラリ・クイーン(バーナビー・ロス)

ヴァンダインの影響をもろに受けているのがこの作品です。

 

世界最高のミステリー作品候補の筆頭にあるのがこの作品。 

 

古今東西の本格を志す数多の作家が、この作品のパロディーに挑戦していますので、読んでいれば様々なミステリー作品を深く楽しむことができるようになります。

 

なおこの作品は「ドルリー・レーン悲劇四部作」に2作目にあたるのですが、ぜひ全部に目を通してみてはいかがでしょうか。1作目「Xの悲劇」も最高峰の作品です。

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

 
本陣殺人事件 - 横溝正史

 日本家屋は鍵がちゃんとかからないので日本で密室ミステリーを作るのは難しいのではといわれていたのですが、この作品が初めてやってのけました。

 

金田一耕助の初登場作。といっても、もう知らない方も多いでしょうか。

 

「金田一少年の事件簿」ってあるじゃないですか。

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一ちゃんがよく口にするこの「じっちゃん」こそ、横溝正史の小説で活躍する名探偵、金田一耕助なんです。

江戸川乱歩の影響でおどろおどろしい設定が流行っていた当時にして、非常に美しい描写の目立つ作品です。

 

漫画、ドラマもあります。

本陣殺人事件 1

本陣殺人事件 1

 
本陣殺人事件 [Blu-ray]

本陣殺人事件 [Blu-ray]

 
刺青殺人事件 - 高木彬光

金田一耕助、明智小五郎とならび、「日本三大探偵」と称されるのは、高木彬光が生み出した名探偵、神津恭介です。

 

「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」と評される、イケメン天才探偵。 

 

この作品も密室を扱っているのですが、作品後半に登場したかと思うと、彼が登場してスッと解いてしまいます。かっこいいんですよこれが。

 

謎も完全にフェアですし、ゾクゾク感と納得感では「本陣殺人事件」に全く負けていません。

 

これが日本の本格。

11枚のトランプ - 泡坂妻夫

泡坂妻夫さんは、紋章上絵師、プロマジシャン、ミステリー作家という多彩も多彩な方でして、本そのものが手品になってたりするんですね。そんなミステリーは泡坂妻夫さんにしか書けません。

 

この作品も例に漏れず、自身のプロマジシャンの性質を存分に発揮されている傑作です。というのも本書そのものが手品的です。

 

まず、本書「11枚のトランプ」が、そのまま作中作としてⅡ部に登場します。Ⅱ部全体がそのまま短編集になっていまして、ひとつひとつのクオリティが非常に高い。

 

で、それをはらんだ本書全体が、かっちりした関係性で1つの大きなトリックを形作っているわけです。

 

謎の贅沢さでこの本に敵う作品は、今後も出ることはないでしょう。

 

泡坂妻夫さんはこの他にも、本自体にユニークな仕掛けがある作品があり、その斬新なアイデアは、たとえ思いついたとしても実現不可能だろうと思ってしまうものばかりで、知らずにいるのは人生の損失です。

 

本格マジシャンが本格ミステリーを書くとどうなるのか? その答えがここにあります。

 どちらかが彼女を殺した - 東野圭吾

本格ものをあまり書かなくなった東野圭吾さんですが、それでも以前執筆された本格ものはことごとくおもしろいです。非常に安定感がある作家さんのように思います。

 

そんな中、めずらしく賛否が分かれているのがこの作品。推理好きと推理嫌いで分かれているのは言わずもがなです。

 

この作品の特殊なところは、ずばり終わり方です。これが推理嫌いな人は納得がいかないようでして。

 

逆にいうと、推理の面白さを見出している方にとってはアドレナリンが吹き出る演出です。もちろん謎はちゃんと解けるように書かれています。 

 

巻末はなんと袋とじになっているので(ミステリー小説ではちょいちょいあることですが)せっかくなら新品をお買い求めください!

毒入りチョコレート殺人事件 - アントニイ・バークリー

この作品の歴史的に偉大な点は「多重解決」という手法を最初に提示したことです。新製品のチョコレートをある夫婦が試食し、夫は一命を取り留めますが、妻は死亡します。しかし、そのチョコレートはもともと別の人物に送られたものでした。

 

警察は愉快犯の無差別攻撃として捜査を切り上げてしまうのですが、アマチュア探偵が集まる秘密クラブ「犯罪研究会」のメンバー6名が、それぞれ独自の推理を展開していきます。

 

おもしろいのが、その6人全員キャラクターが立っていて、大変ユーモラスなんですね。おもしろそうでしょう。おもしろいです。

 

この形式はある意味ミステリー界へ革命を起こしました。この作品以降、数多のミステリー作家が、この作品の手法をベースにして作品を執筆しています。

 

最近だとパッと思いつくだけでも、青柳碧人さんの「浜村渚の計算ノート」、米澤穂信さんの「古典部シリーズ」に使用されていました。そういう作品を見つけた時、この作品を読んでいれば、この一言が言えるようになります。

 

「ああ、これは『毒入りチョコレート』だね(ドヤ」

 樽 - F・W・クロフツ

「やけにパラメータが低くない?」 「厳選したんじゃねーのかよ!」という声が聞こえてきそうですが、もちろんわけがあるんですね。

 

著者のF.W.クロフツは、カーやクイーン、クリスティと同じく、黄金時代を代表する作家のひとりです。

 

その代表作がこの作品なのですが、どうも退屈という声が多いんですね。

 

しかしはっきりいって、そういう方はこの本の楽しみ方を間違えていると言わざるをえません。ぶっちゃけ本格は公平性が高けりゃいいんです。余計なエンタメ要素など邪魔というものです。

 

かの江戸川乱歩は彼の作風を「リアリズム小説の最高峰」とたたえました。登場人物の性格や心理、恋愛などの要素に煩わされることなく、純粋な謎解きを楽しむにはこれ以上の作家はいません。

 

もしこの本を読んで「おもしろい!!」と感じたあなたは、すでにまぎれもない「本格ミステリーフリーク」です。

 火刑法廷 - ジョン・ディクスン・カー

 カーの最高傑作と名高い作品です。密室が3つ登場し、そのどれもがハイクオリティ。さまざまな怪奇現象を見事本格ミステリに落とし込んでいます。

 

ただの事件ではなく、実は本当に怪奇現象なのでは? という演出が、ゾクゾク感を刺激して、謎を解きたい欲求を駆り立ててきます。

 

この作品に関しては、先入観を持たずに読んで欲しすぎてもう何を書いていいかわからないのです。とにかくチャートを信じて読んでみてください。

 

そして最後の最後まで、あきらめずに推理してみてください。

隻眼の少女 - 麻耶雄嵩
 
大トリはこの作品です。 マニアの方からすると「初心者向けならもっと他にあるだろ」となるかもしれませんが、これだけは譲れません(わたしが大ファンなのです)。なんなら全作品勧めたいのですが、初心者向けということなので、麻耶雄嵩さんの作品の中では比較的初心者向けなこちらの作品をもってきました。
 
初心者向けといってもそこはやはり麻耶雄嵩。少しマニアックな題材を扱っているので題材だけ紹介しておきます。
 
悩める作家、法月綸太郎さんが提議した「後期クイーン問題」について。

探偵Pは証拠A、証拠B、証拠Cという三つの証拠をもとに結論Xを導き出したとします。しかし、真実は証拠Cは犯人がわざと残した「偽の手がかかり」でした。ということは探偵が論理的にたどり着いた結論は間違えだった、ということになります。
つまり、この場合だと証拠Cは犯人が残した「偽の手がかかり」であるということを証明する証拠C´が必要となります。しかし、証拠C´の存在すら探偵はわからない。ましてや、証拠C´も犯人が残した「偽の手がかかり」だと証明する証拠C´´が存在するかもしれない…、また別の証拠Dが…、C´´´が…。こうやって、際限なく推理の元になるデータが増える可能性をいくらでも含んでいるわけです。
これを防ぐためには探偵に「現在保有しているデータ」が「真相を導き出す推理に必要な全てのデータ」である、という情報を提供しなければなりません。読者に対しては、それは基本的に「読者への挑戦状」という形で行われます。それに対して、探偵にそれを示す方法は…ありません。従って、探偵は論理的に唯一無二の真相にたどり着くことができない、という壊滅的な結論に達します。これが俗に言われる「後期クイーン問題」です。

後期クイーン問題入門(http://rrm.fc2web.com/report/queen.htm)

 本格ミステリーに真面目に向き合うとどうしても付いて回るこのジレンマを、逆手にとって巧妙に作品に組み込んでいるんですね。しびれるでしょう。好きな人にはとことんハマる、という意味がわかってきたでしょうか。
 
この作品について考察が述べられたならマニアの仲間入りです。ようこそこちら側の世界へ。

おわりに

 ずらずらと並べましたが、興味のある作品はありましたでしょうか。

 

むやみに紹介しすぎても混乱を招くかと思い、今回は30冊に留めましたが、涙を飲んでここに入れなかった作品は何冊もあります。

 

この記事が好評でしたら、また別のジャンルでおもしろいミステリー作品を紹介してみたいと思っています。ご質問、ご感想ぜひお寄せください。

 

長々と失礼しました。最後までありがとうございます。

あみだくじは仕組める! - 『生き抜くための高校数学』 part 9 「3.2 写像と2次関数」

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最近むちゃくちゃ忙しくて(マイクラ実況動画を作りたくなったりとか)むちゃくちゃ更新遅れましたが、帰ってきました!!

もう更新が遅くなるのなんてなんともない体になってしまいましたが、せっかく広告もついたことだし、これからもちょいちょい更新していくのでよろしくお願いいたします。

3.2 写像と2次関数

はじめに色々言葉の定義が載っていますが、今回はそこまで難しいものはなさそうですね。
 
ひとつ気になった言葉が。
 
 2次関数を応用として考えるときは、定義域や値域をつけることがむしろ普通なのです。
 
基礎をやっていると忘れがちですが、現実に即したら全部応用になるんですよね。
 
単に受け身で学ぶのではなく、今までの知識と組み合わせるとどうなるのか、少し発展させてみるとどうなるのかなどを考える意識を忘れないようにしたいですね。

例1

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式だけで考えるとややこしく感じるかもですが、グラフで見ると一目瞭然ですね。
 

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とくにひねりのない直球問題でしたね。グラフが上に凸になるのか下に凸になるのか、定義域は頂点のx要素を含んでいるのかどうか、といったポイントを判断できれば頭の中のイメージでも解けそうです。
 
さて、今まで関数の話でしたが、次はひとつ上の概念である写像についてですね。
 
「元の集合A」と「Aの元をある法則で変化させた集合B」があるわけですが、個人的に勘違いしやすいのかなと思うのは、写像はBを指すのではなく、Aを変化させた法則そのものであるという点です。自分でもこんがらがりやすいのですが間違わないようにしていきましょう。
 
詳しい説明は各々読み込んでいただくとして、定義域や値域の意味が今までより本質的にわかるのがおもしろいなと思いました。
 

例2(逆関数)

 (1) X = Y = R (実数全体の集合) で、関数 f(x) を f(x) = 2x と定めるとき、f の逆関数を求めよ。

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 (2) X = Y = {0以上の実数全体} で、関数 f(x) を f(x) = x2 と定めるとき、f の逆関数を求めよ。

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いよいよ今回のメインディッシュ、あみだくじの話です!

例3(あみだくじのしくみ方)

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今回はふかーーーい事情があって、Aさんが図書委員に、Bくんが給食委員になるようなあみだくじを作ることを想定します。他の人はまあ適当にこんな感じで。

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このとき線が交わった点にそれぞれわかりやすく名前を付けます。

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そうしましたら、点を次のように変えます。

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するとこんな感じに。

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あとは整えるだけ。

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いやーおもしろい!!
 

逆写像をもつ写像の例としてあみだくじがありますが、あみだくじはリクエストに応じてどのようにも簡単にしくむことができます。20年間近くにわたる小・中・高校への出前授業の中で、たくさんの生徒にとても喜んでもらった題材です。

写像、逆写像といった専門用語だけきくと、自分に無縁な物のように感じてしまいがちですが、逆写像をもつ写像の例としてあみだくじを持ち出すことで、一気に身近に感じますね!
 
数学って、案外そういう抽象的な表現を身近に感じることができれば、大体の人は楽しめるものになるんじゃないかなーと思いました。
生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

 

 

突発性小林秀雄地獄 - 『ジョン・レノン対火星人』 part 4 「2章 十九世紀市民小説」

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part 1 はこちら

part 3 はこちら

2章 十九世紀市民小説

こんばんは。

すっかりご無沙汰しておりました味付け海苔です。

さて、冒頭は例によってノートの断片ですが、なぜかポパイが登場します。

ポパイというと、ほうれん草を食べてスーパーパワーを発揮することでおなじみのセーラー服の小男ですが・・・。

一昨日までぼくは雑誌だったんです。正確に言いますと、ぼくはマガジンハウスで発行している『ポパイ』の通巻69号すなわち一九七九年十二月二十五日号だったんですが、どういうわけだか急に人間になっちゃったんです

ふむ、なんだかカフカの『変身』を彷彿とさせますね。

こっちは雑誌が人間になっちゃったわけだけど。

話から察するに、女の子がこれから同棲する男の子のことをアパートかなにかの管理人に紹介するところみたい。

「ねえ管理人さん、ポパイ、、、ったら可笑おかしいの。その雑誌に載っていることしか知らないのよ。GSグループサウンズのことは詳しいのに、おはし、、、のもち方も知らないんだから」

「本当に困っているんです。『ポパイ』じゃなくて『大百科事典』だったら、こんなに苦労しなかったと思うんです」

そんな「ポパイ」に、「管理人」はとってもあったかい言葉をかけてくれます。やあ、いい人だなあ。

『大百科事典』が人間になんかなりますか? あなたはその・・・・・・『ポパイ』とかいう雑誌だったから人間になったんですよ、きっと。

つづけて、こんなアドバイスまで。

わたしはあなたを気に入りそうだから、ひとつだけ助言してあげます。わたしはもう六十年間も瞑想メデイテートしつづけています。あなたもわたしのように、時々でよろしいから、瞑想メデイテートしてみることです。きっと楽しくなる筈です。

そう言えば、のび作も一時期瞑想にハマって、しきりに俺に勧めてきました。

なんでも、マインドフルネスがいいんだとか。

わたしはノートを広げたまま瞑想メデイテートしていた。わたしは目を閉じ、まっくらなわたしの内側をのぞいていた。わたしの創造した老管理人はどうやらただのうそつきかはったり屋だったらしい。わたしはちっとも楽しくなんかならなかった。

うん、まあ、楽しくはないわな。

まっくらな、まっくらな、まっくらな、わたしの内側で、だれかがわたしの肩をたたいた。

「よお、社長しやつちよういいいるよ」

わたしは瞑想のなかでぽんびき、、、、に話しかけ、いちゃもんをつけますが・・・

おい、なんだお前、めちゃくちゃ楽しそうじゃねえか。

わたしは悲しかった。瞑想メデイテーシヨンがわたしに与えてくれるのはいつも悲しみだった。

まっくらな、まっくらな、まっくらな、まっくらな、まっくらな、わたしの内側でサラミソーセージが発酵するげっぷ、、、の音を形象化することは十九世紀市民小説では不可能だとわたしは思った。

<まっくらな>言い過ぎじゃね? ってのはさておき、ここで唐突に標題である「十九世紀市民小説」が登場します。

シュムペーターは「景気循環の動態学ダイナミクス・オブ・ビジネス・サイクル」の中で「十九世紀市民社会は文躰の私有を神聖視する 」と言った。

十九世紀市民小説は文躰の私有を神聖視する

シュムペーターをググったところ、オーストリア・ハンガリー帝国の経済学者らしいです。

十九世紀市民小説・・・なんだそれは?

わたしは二十世紀の現在いまも繁栄し、おそらく二十一世紀にも細々とではあれ延命するだろう十九世紀市民小説の特徴を瞑想空間メデイテーシヨナル・スペースに箇条書きにしてみた。

(1) 十九世紀市民小説はその文躰・主題・方法・コンセプトによって分類することが可能である

(2)十九世紀市民小説には作者が必要である

(3)十九世紀市民小説の言語機能は不充分であり、そのために実在しないものと実在するものの混淆こんこう がしょっちゅう起こる

なるほど、つまり・・・小説のことね。

<わたし>はその後もしばらく瞑想をつづけていましたが、そこへ「片方の足の機能が損なわれている人、、、、、、、、、、、、、、、、、」もとい「ヘーゲルの大論理学」が到着したことで、瞑想を中断します。

「遅いぞ! 四十七分の遅刻だよ」

「ヘーゲルの大論理学」はにっこり笑うと、破壊された右膝みぎひざ関節を軸とし、かれの上半身を y=sinx のグラフのように振動させながらわたしに近づいて来た。

う~ん、さすが「ヘーゲルの大論理学」!

「ヘーゲルの大論理学」はヘーゲルの『大論理学』を読んだことは一度もない。

どないやねん。

さて、それから「ヘーゲルの大論理学」の人となりの説明が一通りなされた後、三杯目のココアをかき混ぜながら「ヘーゲルの大論理学」はやっとこさ本題に入ります。

「ヘーゲルの大論理学」によると、「すばらしい日本の戦争」は殺人犯だということです。

でも、その殺人犯がなぜ<わたし>に手紙を送ってよこすのかや、いったい誰を殺したのかなどについては「さあね」とにべもありません。

「おどろくじゃないか、君にハガキでメッセージを送って来た『すばらしい日本の戦争』はあの『花キャベツカントリイ殺人事件、、、、、、、、、、、、、、をおこした、、、、、花キャベツカントリイ党、、、、、、、、、、、のリーダー、、、、、なんだ」

衝撃の新事実! と思いきや・・・『すばらしい日本の戦争』についての話はそれで終わり、「偉大なポルノグラフィー」の話題へと移ります。

「君の『偉大なポルノグラフィー』はどうなってんだい」

まあまあ、、、、だよ」

わたしは、本当は次のように言いたかった。

わたしの「偉大なポルノグラフィー」は最初の二十世紀小説になるだろう。そして「偉大なポルノグラフィー」の出現によって十九世紀市民小説は消滅の運命を余儀なくされるだろう。

ああ、いるいる、こういう人。こんな啖呵なかなか切れるもんじゃないもんね。

そんな話をしていると、「ヘーゲルの大論理学」は突然顔を歪めて<「もう秋かロトン・デジヤ・・・」>と呟きます。

どうやら突発性小林秀雄地獄の症状が再発したようです。

「ヘーゲルの大論理学」は小林秀雄の文躰でひとしきりブツブツ言った後、発作はすぐにおさまったものの、すっかりセンチメンタルジャーニー、泣き出してしまいました。

それから唐突に断片が挿入されます。

「ねえ」とわたしは言った。

「あなたのみわざ、、、は割といいかげんに思えるんだけど」

ジーザス・クライストはパンを増やすのに気をとられていて、わたしの訴えをよく聞いていなかった。

「何? もう一回言ってみて」とジーザス。

「だから、あなたのみわざ、、、には不公平が・・・・・・」

「そんなこと言ったってねえ、大雑把おおざつぱにしかできないものなんだよ、またあとで話を聞いてあげるから、そこで待っててよ」

う~ん、「神の沈黙」ですね。

遠藤周作の『沈黙』でも同じテーマが扱われていました。

最近(つっても2年前)マーティン・スコセッシ監督によって映画化もされて話題の作品です。

「ヘーゲルの大論理学」の小林秀雄地獄も、ジーザスのみわざ、、、だと、そういうことでしょうか。

はいはい、大丈夫ですよ。俺はこういうノンクリスチャンの率直なキリスト教批判にも真摯に耳を傾ける系クリスチャンですから。

さて、そして「ヘーゲルの大論理学」は帰っていきました、と。

少し飛んで、帰り道。

「花キャベツカントリイ党」のリーダーである「すばらしい日本の戦争」からの死躰の詰まったメッセージは何を意味するのか?

それはわたしが東京拘置所で暮らした三年間に関係があるのだろうか?

それはわたしや「ヘーゲルの大論理学」にくさいめしを食わせた「マザー・グース大戦争」と「花キャベツカントリイ殺人事件」の秘められた関係を暗示しているのだろうか?

どうなっているんだい?

わたしには見当のつかないことだった。

それは・・・・・・

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不意に挿入されるポップなイラスト

そんなことを考えながら帰宅すると、パパゲーノのブーツのとなりに見知らぬ運動靴が。

<わたし>はパパゲーノに訊ねます。

「君の友だちかい?」とわたしは言った。

「ええ⁉ ちがうよ! だって、・・・・・・ぼくは、てっきり・・・・・・」

「名前を聞いたのかい?」

「胸に名札をくっつけてたよ」

わたしは目を閉じ、大急ぎで「マントラー、マントラーマントラー」と呟いたのだった。

「『すばらしい日本の戦争』だってさ」

ええ⁉ ど、どうなっちゃうの??

文躰が気になるなら「美少年倶楽部」など読まずに「文學界」でも読むことだ。

とか書いときながら、これを群像新人賞に応募するあたり、高橋さんやっぱりさすがっすね。

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

Ankiカードにネイティブ音声を追加する - 『英単語の語源図鑑』 part 2 「Chapter 2 con-, com-, co-(共に)」

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part 1 はこちら↓(イラストの取り込み方なども解説しています)

Anki用単語帳作ってみた - 『英単語の語源図鑑』 part 1 「Chapter 1 ad-(〜の方へ、〜の方を)」 - 読書実況BROS.

 

 

Chapter 2 の単語帳作りました!↓

英単語の語源図鑑__Chapter 2 con-, com, co-(共に).apkg - Google ドライブ

 

Ankiカードに音声を追加する

アップしている単語帳ファイルは音声付きのものを用意していますが、part 1 のファイルをダウンロードした方はお気付きの通り、何箇所もミスがあります。(ごめんさなさい)

 

各自で訂正してくださった方もいらっしゃると思います。が、「単語」や「例文」の部分を修正すると、そのままでは音声が消えてしまいます。

 

しかしながら、音声の追加は1つのアドオンをインストールするだけでむちゃくちゃ簡単にできます。

  • 本の例文だけじゃ物足りない
  • 違う活用をしている例文も追加したい

そういったときも、例文追加後に簡単に音声をつけることが可能でとても便利ですので、今回はネイティブ音声を単語カードに追加する方法を解説していこうと思います。

神アドオン『AwesomeTTS』のインストール

ネイティブ発音付きの単語カードを簡単に作成できるアドオンです。これがないとAnkiは始まりません。

何かひとつだけアドオンを選ぶとしたら間違いなくこれ、というくらいの有能さです。

 

  1. Ankiを開く
  2. [ツール] -> [アドオン] を選択

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  3. [新たにアドオンを取得...]を選択

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  4. [コード] に『427598962』を入力して、[OK] を選択

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  5. Anki を再起動して、インストール完了。

で、使い方ですが、

  1. 初期画面で [ブラウザ] を選択

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  2. 音声を入れたい単語カードを選択

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  3. メニューバー [AwesomeTTS] -> [Add Audio to Selected] を選ぶ(2つ並んでいるのはおそらくバグです。機能は問題なく使えます)

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あとは、

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  • [Voice] で好きな国の発音、声色を選択(僕はイギリス発音のDaniel が好き)。
  • [Speed] で読み上げ速度を設定
  • [Preview] で適当な英文を入力して、声色や速度を確かめ、調整する
  • 大丈夫そうなら [Source Field] と [Destination Field] で、音声を入れたいフィールドを選択。どちらの欄も同じフィールドにする(今回の場合は『英単語』、『例文1』、『例文2』のどれか)。
  • Generate を選択

これで単語カードに音声が入ったはずです。

 

納得の語源

con(共に)+ gress(行く) -> 「みんなで行くところ」 -> 『会議』

みんなで行くところだから「会議」。複数人が同じ場所に行って顔を合わせるのが会議ですもんね。非常に納得です。

con(完全に)+ quest(求める) -> 「相手から全てを求める」 -> 『征服』

他国を征服するのって、その領土や国民といった他国の諸々の所有物を求めて行うことですもんね。これも言われて「なるほどなー」と思いました。

このインパクトですでに覚えてしまった感があります。

斜め上な語源

con(共に)+ fine(終わる) -> 限界を共にする ->『制限する、閉じ込める』

何かしらが共に終わることがなんで「制限する」になるのか。発想をつなげるのが難しいですねー。

僕はポケモンの技「みちずれ」で共倒れに誘うことで、相手のポケモンの行動を制限する、と考えるとストンときました(笑) 。

 in(中に)+ quire(求める) -> 「中に入って情報を求める」 -> 『尋ねる』

なんで情報を求める相手がなにかの中に入っていることが前提なんだよ!!(笑) 

まあでもなんだかんだ、このイラストの状況を考えるとシュールでおもしろかったので覚えちゃいました。

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最後まで目を通してくださりありがとうございました。

次回は単語カードの面面に「ヒント」を入れる方法を解説しようかなと思っています。

それでは!!

英単語の語源図鑑

英単語の語源図鑑

 

ニュートンの神学論文 - 『ジョン・レノン対火星人』 part 3 「1章 すばらしい日本の戦争」

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・part 1 はこちら

・part 2 はこちら


こんばんは。

part 3 にして、ついに1章突入です。パチパチ。

「わたし」が一通の手紙を受け取とったところから、物語が始まります。誰からの、どんな手紙なんだろう。ドキドキ。妄想が突拍子もない方向へ広がっていきます。

アマゾンのダンボール開けるときとか、中身わかっててもなんかわくわくしますよね。

住所はなく、消印は「葛飾」、そして差し出し人の名前は、

「素晴らしい日本の戦争」

となっていた。

その手紙の内容はというと・・・

グッロ!! うわ、グッロ!!!

往年の鬱ゲーのワンシーンかのごとき猟奇性。

さて、それを読んだ「わたし」は、さすがというかなんというか、作家としての業なのでしょう、赤鉛筆を手に文章の分析を始めます。

いやあ、プロだなあ~。

わたしはそのハガキに厳密なテクスト・クリティックを施すことにし、そのハガキのテクストが意味すると思われるものを箇条書きにしてみた。

(1)筆者は「死躰」に興味があるらしい

(2)一人称の主語がない

(3)「死躰」の性器が隠されていることが強調されている。なにか重要なメッセージかも知れない

(4)誤字が一つある

(5)「死躰」には首がなかったり、顔をつぶされたりしている。これもなにか重要なメッセージを含んでいるかも

(6)「死躰」はリンチされている

(7)自殺ではないらしい

(8)念のために字数計算をしてみたら、一行目に題名、最終行に「了」を補えば原稿用紙二枚ぴったりだった。

(9)「体」ではなく俗字の「躰」を使っている。わたしと同じだ

(10)「子宮」の代わりに「雛人形」が埋められている。なんとなく意味深げなメタフォアのようなきがする

「誤字が一つある」?

・・・あ、ホントだ。「校門」のとこね。最初わかんなかったわ。反省。ちゃんと読まなきゃ。

わたしは以上の点から、このハガキの作者は次の誰かではないかと考えてみた。

(1)帝国主義戦争に反対する共産主義者コミユニスト

(2)表現の方法を模索する前衛作家

(3)ただのアホ

(4)E・T

(5)志賀直哉

(6)落合恵子

う~ん、E・Tでないことは確か。

おてあげだ! 寺田透なら、たった一行読んだだけで「これはアイザック・ニュートンの唯一の神学論文『自然における神の栄光ザ・コート・オブ・クリムゾン・キング』をボリス・ヴィアンが仏語に訳した『狂ったウンコア・マン・ウイズ・ア・レフト・アーム』をネルスン・オルグレンが英語に訳した『だれかさんとだれかさんがライ麦畑ア・キヤツチヤー・フロム・セイブスタジアム』の中公文庫版69ページから70ページにかけての文章である」ことだってわかってしまうのだが、わたしにはまるで見当がつかない。

ウソつけ!!(笑) なんかいろいろ混ざっちゃってるし。

これぜったいわかんないと思ってテキトー書いてますよね。

さて、「すばらしい日本の戦争」からのハガキは翌日も届きました。

分量こそ半分くらいに減っているものの、昨日のに負けず劣らずすさまじい内容です。

例によって「わたし」はテキスト・クリティックに勤しみます。

今回はちょっと趣向を変えて「リカルドウやカルヴィーノのように」キイ・ワードを捜してみた、と。

(1)~をもいで

(2)バーベキューの金串

(3)双生児ソーセージ

(4)加工

(5)掻きだして

(6)ままごと

以上のキイ・ワードから、作者を予想してみたところ・・・

(1)青森のリンゴ農民

(2)ミュンヘンのビール売り

(3)志賀直哉

(4)落合恵子

なんでだよ!!(笑)

さっきからしれっと出てくる志賀直哉と落合恵子はなんなんだよ!!

さて、「わたし」は、「すばらしい日本の戦争」が送ってくる手紙が、自分が書いているポルノグラフィーよりずっと素敵だったことにショックを受けてしまいました。

それから連日ハガキが届きます。

どのハガキにも「死躰」がたくさん出てくるのだそうです。

もうだんだんイヤになっちゃった。

それが十二日間続いたすえ・・・

そして十三日目にはハガキが来なかった。

十四日目にもやはりハガキは来なかった。

ついにわたしは「すばらしい日本の戦争」の攻撃を粉砕することに成功したのだ。

それですっかり元気を取り戻した「わたし」は、放置していた原稿を三日間で書き上げ、ご無沙汰だったパパゲーノとのチョメチョメにも精を出し、もうばっちり本調子です。

そんなある日、郵便ポストのなかにハガキが。

よっぽど破り捨てようかと思ったんだけれど、気まぐれがはたらいてちらっと読んでみた、と。

文面は一行だけ。

「お便り下さい」

そして今度のハガキには住所が書いてあった。

「東京都葛飾かつしか小菅こすげ一~三十五~一

東2-2-23」

わたしにはわかった。本当にわかってしまった。なんてことだ!

その住所ならわたしも知っている。

わたしも三年間、そこ、、に住んでいたのだ。

「すばらしい日本の戦争」の住所を、省略を補って正確に記せば次のようになる。

「東京都葛飾かつしか小菅こすげ一~三十五~一

東京狗置所、、、、、

東2舎2階23房、、、、、、、

え~ なにそれ~

気になる~~

想像と批判は両立し難いものなのだ。

いかにも名言! という感じの名言ですね。

とか言いつつ、高橋さんも作家やりながら文芸評論家やってるんですけどね。

そこらへんのいい加減さがたまんないっていうか。

まあそれは置いといて、なに言ってるのかよくわかんないけど、とにかくなんかすごいことは確かだ、みたいなことってありますよね。

この小説がまさにそう。

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

偉大なポルノグラフィー-『ジョン・レノン対火星人』 part 2 「序章 ポルノグラフィー」

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part 1 はこちら


こんばんは、味付け海苔です。

早速ですが、扉のところに、イタリアのマルチアーティスト、ブルーノ・ムナーリの言葉が引用されていますね。

もっと詳しいことを知りたい人は、十八時以降に電話をくれたまえ

(ブルーノ・ムナーリ)

俺がこれを書いているただいまの時間は、午前三時半です。

十八時以降と言えなくもないですね。ピ、ポ、パ、ポ、ピ。

プルルルル、プルルルル、プルルルル・・・・・・。

出ねえや。

はい。こういうのってだいたい最後まで読んでも意味わかんないパターン多いですけど、これはホントに意味わかんないですね。

ブルーノ・ムナーリはいったいこのセリフをどういう文脈で言ったのか。

それでは、序章です。パチパチ。

「ちょっとお待ちください。××はただ今、××中であらせられます」

(中略)

わたしのノートにはこんな断片がぎっしり詰まっている。もちろん、わたしがいつか書く予定の「偉大なポルノグラフィー」のためだ。

さて、こんなふうに、太字ゴシック体と明朝体のフォントが入り乱れております。

たぶんですが、ゴシック体の部分はノートの断片でしょうか。

金子光晴の目は遠い過去、生起した一切をながめていた。いちごちゃんも感動していた。

っちゃん」

金子光晴はまだ遠くをながめていた。

唐突に金子光晴が登場しました。金子光晴といえば昭和を代表する詩人の一人ですね。

「おっとせい」という作品が有名です。ちょっとだけ引用してみますね。

そのいきの臭えこと。

くちからむんと蒸れる、

そのせなかがぬれて、はか穴のふちのやうにぬらぬらしていること。

こんなふうに、おっとせいをケチョンケチョンにけなしていきます。

俺はこれを読むとCV.立川談志で脳内再生されます。(同じ人います?)

これは、体制をおっとせいに見立てて、それとなくバッシングしているわけですね。

「おっとせい」が収録されている詩集『鮫』の序文には、こう書かれています。

よほど腹の立つことか、軽蔑してやりたいことか、茶化してやりたいことがあつたときの他は今後も詩は作らないつもりです。

この反骨精神は、小説の雰囲気になにか通底するものがあるような感じがします。

金子光晴に続いて、ペンギン、風俗嬢、アブドーラ・ザ・ブッチャー、セールスマン、ヘンゼルとグレーテルの登場する断片が次々貼り付けられているんですが、内容がもう軒並みヒワイですね。

そりゃあまあ、ポルノグラフィーだから当然なんだけど、それにしてもひどい。

ヘンゼルとグレーテルの断片が特にひどい。もう笑えてくるくらいひどいですね。

これはひどい。全くひどい。ヒポコンデリイと分裂症と脱腸を併発した少女マンガ家のうわごとのようだ。

そういえば高橋さんってマンガ描くのうまいんですよね。お父さんは画家志望だったっていうし、芸術におけるポテンシャルが総合的に高いってことでしょうか。

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『さようなら、ギャングたち』より

わたしは、ほんとうに悲しい。わたしがこいつらをノートに書きつけた時には、たしかにこいつらは「偉大なポルノグラフィー」を形づくるモザイクの断片のはずだったのだ。おかしいな。どうしてこんなていたらくになってしまったのだろう?

文章書いた直後って、ゲシュタルト崩壊かなんかわからないけど、自分の文章の良し悪しがさっぱりわからなくなること、時々ありますよね。

後日読み返してみたら、思ってたより名文だったり、逆に、自分でも信じられないほどの悪文だったりする、あの現象。

深夜に文章書くとだいたいそうなるっていいますよね。

だからラブレターは朝に書くようにするといいとか。

でもラブレター書こうなんてクソ度胸って、深夜のテンションあればこそな気もするし、難しいとこですね。

さて、ダメ押しに「不思議の国のアリス」の断片が挿入された後、ママが電話をかけてきた、と。

余談だけど、高橋さんってリアルにお母さんのことママって呼んでらっしゃるんですって。講演会で言ってた。

なんかぶっ飛んでていいですね。

「もしもし、わたしがだれだかわかるかい?」

「ばばあの知り合いなんかいねえよ」

わたしのママは神さまに意地悪されたヨブのように怒り狂って悪態を吐きはじめた。もちろん、わたしは放っておいた。わたしのママは気のすむまで罵りつづけると、ぴたりと止んでしまうのだ。

聖書の話が出てきました。俺の得意分野です。えっへん。

ヨブっていうのは旧約聖書の、その名も『ヨブ記』に登場する人物です。

ヨブは、神さまと悪魔サタンの賭けに巻き込まれて、さんざんひどい目に遭わされる遭わされた人です。

最初のうちはめっちゃ敬虔な人だったんですけど、悪性の腫瘍で体中かゆくされて、その一週間後くらいから呪いまくります。

でも、最後は悔い改めてハッピーエンド、みたいなお話です。

ええ、まあ、それだけです。

「そうそう、用事を忘れていたよ」

「なんですか?」

「あんた、小説家、、、なの?」

「ええ、まあ」

「ほんとに?」

「ええ、まあ」

「ふうん。おまえもなかなかやるじゃん。ところで、今電話をとりついでくれた男の子はだあれ?」

召使い、、、です、ママ」

「ふうううん。おかねもちなのねえ。」

「ええ」

ホントににぴたりと止んだな。

あと、なんなんだろう、この乾いた会話は。

それからしばらくママのキャラクター描写が続きます。

わたしのママは日本で一番古い私立女子高フェリス女学院を戦争中に卒業し、現在いまは「エホバの証人」のパンフレット販売人、つまり、例の「魂のヤクルトおばさん」なのだ。

「魂のヤクルトおばさん」って表現がホント神ってますね。

わたしは衰退しつつある産業の労働者だ、と言うこともできる。ポルノグラフィーの寿命はよくもって今世紀一杯くらいだろう。

この「ポルノグラフィー」って明らかに純文学のことですよね。

そうか。もうこの頃から文学は終わったって言われてたんですね。

一方、作家の古井由吉さんはこう言っておられます。

「長い歴史を見ていると、文学はどうも必要なもののようですよ。社会が行き詰まったときを境に、また文学への欲求が出てくると思う。文学の生命は、東西の歴史を見る限りかなり強い。その点で僕は楽観的です」

前世紀一杯はなんとか乗り切った文学ですが、はてさて、今世紀が終わる頃にはどうなっていることやら。乞うご期待!

わたしはプロットを考えようとすると頭が痛くなる。時代背景や登場人物の服の色や柄や値段を考えるのは面倒くさい。わたしの思いつく会話デイアローグあほくさい、、、、、し、それに致命的なことだが、わたしにはリリシズムが完全に欠けているのだ。

それに、原稿用紙を見たら頭が痛くなる、と。

ストーリーとかキャラとか練ったってしょうがないんじゃない? ってことですね。

小説書こうとしたことある人はわかると思うんですけど、書いてると途中で、なんていうか、ばからしいというか、俺なにやってんだろう、ってフッと我に返ることあるんですよね。

その、ばからしい側面を鋭く突いて、バカにしてるんですね。ポルノグラフィーとか言って。

作家の筒井康隆は「小説とは何をどのように書いてもよい文章芸術の唯一のジャンルである」とおっしゃってます(『創作の極意と掟』講談社)。

この小説はまさにそれを体現していますね。

それから、先ほど「召使い」として名前だけでてきた「パパゲーノ」なる人物が登場します。

パパゲーノというと、オペラ『魔笛』に登場する鳥刺しの男ですね。

そして、「わたし」はパパゲーノと一緒に暮らしていると。

そのライフスタイルのいかがわしさが突き抜けてます。

にしても最後のラジオのくだり、ちょっと面白すぎますね。時事ネタほとんどわからんけど。

「ポルノグラフィーしか書けないからって泣くんじゃない。『偉大なポルノグラフィー』を書けばいいのさ。

プロットを考えるのが面倒くさくても、生活や思想や文体について考えられなくても、大丈夫なのだと。

ていうか、そんなの考えたってしょうがないじゃないかと。

そんなのにこだわってるヤツらなんかほっといて、わたしたちはわたしたちの『偉大なポルノグラフィー』を書こうぜ!ってことですね。う~ん。

グレートですよこいつはァ。

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)

パズルのように考える - 『生き抜くための高校数学』 part 8 「3.1 直線と円」

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part 0 はこちら

part 7 はこちら

3.1 直線と円

図形に入りました。

式と図の関係を理解しておくと、微積分とかで「今何をしているのか」が直感的にわかっていいですよね。

まずは平面での2点間の距離を求める公式を証明しています。

公式1

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次に、陰関数表示といういかにも専門用語な言葉がでてきました。

陽関数表示:y=f(x) といういつもの形
(例)y=2x+1
陰関数表示:F(x,y)=0 という形
(例)2x-y+1=0

という感じですね。

 

さて、次は直線に関する定理が2つ紹介されています。

定理1

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定理2

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普段当たり前に思っていることも、言葉で証明してみるとなるとながーくなったりしておもしろいですね。

次はようやく例題です。

例1

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解法1

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復習がてら、公式を使わない解き方も紹介されています。

 

解法2

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さて、次は内分と外分ですが、次の指摘がなされています。

内分という言葉を上手に使うことによって、外分に関する公式は使わない手がある

一方の公式だけで事足りるなら、それに越したことはないですよね。内分の公式を学んでみます。

公式2

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長々と書いていますが、図を見れば一目瞭然ですね。

間髪入れず例題です。

例2

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画像

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例3

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例3は三角形の重心を求める公式の証明問題になっていますが、綺麗な式ですねー。整然としています。

 


さて、いよいよ円についてです。

そもそも円とは、平面上で1点から等距離にある点の軌跡のことです。 

だからコンパスはあんなに作図に役立つんですね。

で、円を式で表すとどんなふうになるのか、というのが次の公式です。

 

公式

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実際に数字が入った例題を解いていきます。

 

例4

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次は領域について。経営数学の基礎になる、ということですが、何に活用できるのか示されているのがいいですね。

 

実際に y や r に、それよりも大きな数や小さな数を入れるとどこに図形ができるかを考えると、迷うことがなさそう、ということでしょうか。

 

例5

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さて、いよいよ最後の例題。こちらも経営数学の基礎にあたるということです。

「周囲」というのは「線の上」も動ける、ということですね。外側ではありません。

 

例6

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現実的には図6のようなきちっとした六角形ではなく、フニャフニャな図形を扱うけど、考え方は同じだよーということですね。

 

内分という言葉を上手に使うことによって、外分に関する公式は使わない手がある

高校数学って、ともすると与えられた公式を当てはめて解くという単調な作業になりがちですが、1つの問題に対していろんな解き方を試してみると、パズルのようなおもしろさがあり、理解も深まっていいかもしれませんね。

 

生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

 

 

Anki用単語帳作ってみた - 『英単語の語源図鑑』 part 1 「Chapter 1 ad-(〜の方へ、〜の方を)」

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先日この本を買いまして。

英単語の語源図鑑

英単語の語源図鑑

 

 いままで英語の「接頭語、接尾語」みたいなのに何冊か手を出したことはあったのですが、大学教材の硬い感じといいますか、なかなかキャッチーなものがなかったんですよ。

ところがこの本は構成が非常に凝っていて、イラストもあって、まあ分かりやすい。適当にパラパラめくっているだけでも楽しいんですよね。

近所のTSUTAYAで人気1位だったんですが、大いに納得でした。

それで、これはブログで紹介したいなーと考えたわけです。

 

・・・が、この本クラスの認知度と読みやすさになると、このブログがなくても読みたい人はもう読んでるだろうなーとも思いまして。

なんとか付加価値を作れないかなーと考えた末、今回、普段僕が使っているAnkiというソフトの単語帳ファイルを作ってみました。

 

こんな感じです。ちなみに単語、例文の音声付き。

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Ankiとは

Ankiは(使いこなせば)おそらく現状最強の単語帳ソフトです。

HTMLで表示をいじれたり、機能の拡張が行えたりと、自由度が頭一つ抜けて高いんですよ。

 

近年、質の高い「学習の研究」が世界中で行われており、日々効率のいい勉強法が更新されています。以下の本はデータがしっかりしていて超おすすめ。

(どれも学術論文がベースなだけあって、最終的には同じような結論になっているので、興味がある方はどれか1冊だけ読んでみるだけで十分かと)

使える脳の鍛え方 成功する学習の科学

使える脳の鍛え方 成功する学習の科学

  • 作者: ピーター・ブラウン,ヘンリー・ローディガー,マーク・マクダニエル,依田卓巳
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2016/04/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
 
勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意 (サイエンス・アイ新書)

勉強の技術 すべての努力を成果に変える科学的学習の極意 (サイエンス・アイ新書)

 
実験心理学が見つけた 超効率的勉強法: ~復習はすぐやるな! 思い込みで点数アップ!~

実験心理学が見つけた 超効率的勉強法: ~復習はすぐやるな! 思い込みで点数アップ!~

こういう本を読んで勉強法ににこだわりたくなった時、Ankiであれば、問題の出し方や復習のタイミングをどこまでもこだわることができるわけです。

しかもスマホとデータを共有でき、勉強場所を選びません。

パソコンで使う分には完全無料。iPhone版は少々値が張りますが、買って損はないな、と思うようになるはず。

Android版は公式アプリはないのですが、有志の方が非公式アプリを製作しており、こちらは無料で使うことができます。

Ankiの導入

Macでやっていますが、Windowsの方もほぼ同じ感じでいけると思います。

公式サイトからダウンロードし、初期画面まで進んでください。多分感覚で行けると思います。(適当すぎですかね 笑)

こういう画面になればOK。

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無事ここまできましたら、単語帳ファイルをダウンロード

drive.google.com

[ファイル] -> [読み込む] で単語帳ファイルを読み込みましょう。

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これで単語帳を使用していただける状態になりました!!

今回の内容はChapter 1 までですが、以降のChapterも順次公開していきます。

イラストを取り込む

さて、このままでも少し高機能な普通の単語帳としてご使用いただけますが、イラストは入っていない状態です。

せっかくの「語源図鑑」ですので、語源を活用しないと勿体無いですよね。

ですので本のイラストを取り込んで暗記の効率をアップさせます。

 

「じゃあ最初からイラスト込みのやつを配布しろよ!!」とお思いの方がいるかもしれませんが、

  • この単語帳だけで完結してしまうと「みんなで本を読む」という当ブログの趣旨に合わない
  • そもそも著作権的にアウト

という理由からこういった形式にしました。

ものの20分くらいで終わると思いますので、 ぜひやってみてください。

十分リターンは見込めるかと!!

スキャナアプリでイラストを取り込んでいく

なんでもいいと思いますが、iOSの方はこちらがおすすめ。

CamScanner|文書スキャン & ファックス

CamScanner|文書スキャン & ファックス

  • INTSIG Information Co.,Ltd
  • 仕事効率化
  • 無料

で、すべてイラストを連続取り込み。全部で73枚なので、無心でやれば5分くらいで終わるかと。

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そのあとまとめて調整。 これは10分くらいかかりました。

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いい感じになりました。

で、適当なクラウドに全ての画像を保存して、パソコンから扱えるようにしましょう。

あとは、パソコンでAnkiを開いて「ブラウザ」を選択。

「画像」の中に対応したイラストをひたすらドラッグ&ドロップしていきます。

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ここは5分そこらで終わるかと。

これで完成です!

終わりに

さて、「英単語の語源図鑑」の紹介というより、「Anki」の紹介記事になってしまいましたが、次回以降はちゃんと本についても、楽しいんじゃないかな〜という企画を考えております。お楽しみに。

本だけでなくAnkiについての質問も、ぜひお気軽にコメントしていただければ。

それでは!!!!

英単語の語源図鑑

英単語の語源図鑑

 

【会話で読書感想】もはやエンタメの到達点 - 『クリスマスのフロスト』

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ねえ、お前今何歳だっけ?

え? えっとねえ26・・・ってお前双子なんだからわかるだろ!! お前と同じだよ!!

26かー、考えてみるとあっという間だよね。高校行ってた頃が昨日みたいだもん。

そうだよなあ、特に最近は時間が過ぎるのが早い気がする。

そうそう。知ってる? 歳取っていくと、だんだん年月が過ぎるのが早く感じるようになるらしいよ。

そうなんだ。じゃあ俺らは実質、人生半ばくらいなのかもね。

そういうスケールで考えると、1、2ヶ月の違いなんて誤差みたいなもんだよね。

ん? ああ、まあ捉え方によってはそういえなくもないかなぁ。

というわけでほぼクリスマスシーズン真っ只中の今日此頃に最適な本、『クリスマスのフロスト』を紹介していくぜ!!

いやおせーよ!! 2月をクリスマスシーズンと言い張るには無理があるわ!!あと「ほぼ真っ只中」ってなんだよ!! 

この作品の魅力はずばり、エンタメ作品としての総合的な完成度がめちゃくちゃ高いことだね。

もう始まってんのかよ!! まあきくけど!!

他と違うことをしてやろうとか、突飛なことをして当ててやろうというような、人を選ぶ感じとは真逆で、おもしろさの安定感が抜きん出てるんだよね。誰が読んでも楽しめるし、どこを読んでてもずーっとおもしろい。

へえ、誰が読んでもか。この本、この作家の処女作でしょ。そういう安定感を出すのって長年の経験が物を言うと思うんだけど、それが本当なら天才だね。

実はこの人は脚本家をやってて、完全な初心者というわけじゃないんだ。でもだからなのか、この本も映像がまるで眼に浮かぶ感じで、あんまり小説を読み慣れてない人でもTVや漫画みたいな感覚で楽しめるんじゃないかな。

でも、これだけすごいシリーズ作品を書き続けるんだからやっぱり天才なのは間違いないよ。『週刊文春ミステリーベスト10』っていうランキングがあるんだけど、歴代フロストシリーズの順位がこれ。

  • 1作目「クリスマスのフロスト」:第1位
  • 2作目「フロスト日和」:第1位
  • 3作目「夜のフロスト」:第1位
  • 4作目「フロスト気質」:第1位
  • 5作目「冬のフロスト」:第6位
  • 6作目「フロスト始末」:第2位

うわほぼ1位じゃん!!

そうなんだよ。6位が「あれ?」と感じるのは錯覚だからね。10位以内に入ること自体がすごいから。フロスト始末に至っては別のランキングで1位だし。こんなシリーズ他にないよ。

すげえなぁ。でも、何がそこまでこのシリーズを人気足らしめてるの?「総合的な完成度」ってなんか漠然としてていまいちピンとこないんだけど。

まずは個性豊か過ぎるキャラクターの面々だね。

  • 人間臭くて、下品なギャグを隙あらば滑り込ませてくる、主人公のフロスト警部
  • 能率主義の権化で、フロストと同じ警部のアレン
  • 気のいい部長刑事のアーサー・ハンロン
  • 愚痴ってばかりいるけどそれがユーモラスな万年巡査部長のウェルズ
  • ロンドンからやってきた新米エリート刑事で、今作フロストの相棒を務めたクライヴ
  • 上昇志向に凝り固まった俗物ぶりを遺憾無く発揮する、署長のマレット

キャラクターが魅力的な作品にハズレはないでしょ。

確かに。

次に、感情の高低差。バカらしいところはとことん下品に、シリアスなシーンでは何が正しいかを本気で考えさせられる。めちゃくちゃ人間臭いフロストが自分の考えに本当に正直に行動するから、その両方が破綻なく成立する。だからリアリティがあるんだよ。

否定の前に「一理あるかもな」と思わせてくれるんだね。

で、全く中だるみさせないストーリーテリング。特別奇をてらったり、近年よく騒がれる『衝撃の事実』みたいなものがなくても、これでいいんだよ!!と膝を打つことになるよ。

なるほどなー。でも今挙げたことってある意味、初心者向けってことにならない? お前ミステリーよく読んでるけど、物足りなさとかは感じなかったの?

ミステリーのおもしろさにもいろいろあるんだよ。確かにこれを本格ミステリーとして評価することはできないだろうね。

この作品はミステリー的には「モジュラー型警察小説」っていって、時間差攻撃みたいに事件が次から次へと起きて、それを刑事が追っかけていくような形を取ってるんだけど、この本はその王道みたいな作品で、その一つ一つの謎が、ページをめくる手を止めさせないんだよ。「やめどきがわからない」とはまさにこの本のためにあるのか、という感じ。

まあミステリーを話出すと長くなるからそれは今度語るとして、この本の良さをまとめると、

  • 映像が眼に浮かぶような描写の巧みさ
  • 個性豊か過ぎるキャラクターの面々の掛け合い
  • 感情を大きく揺さぶってくる、バカバカしさと感動の高低差
  • 全く中だるみしない話の構成
  • 隙あらば滑り込ませてくる、メモしておきたくなるようなフロストのギャグの数々

強いて言うなら、島田荘司さんや綾辻行人さんの作品を読んで、「ミステリーに目覚めた! ガチのパズラーで謎解きしたい!!」って人には向かないかも。

それ以外の全ての人類はぜひ手に取ってみてね!!

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

 

 本書を手に取り、「序章、日曜日」を読まれた方はこちら

実況シリーズ

 

 

過去に誇りをくれた息子へ - 『クリスマスのフロスト』 part 10 // 「水曜日6〜木曜日」

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今回はいよいよクライマックスです。

前回は肝心のところで終わってしまいましたねー。早速読んでいきましょう。

※今回は核心的なネタバレが含まれます。ご注意ください。

part 1 はこちら

part 9 はこちら

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

クリスマスのフロスト (創元推理文庫)

この難問、あなたは解けるか!? - 『生き抜くための高校数学』 part 7 「2.3 集合と論理」

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どうも、のび作です!

今回は集合と論理。この辺は数学の中でも興味を持っておられる方が多い分野ではないでしょうか。僕も好きなとこです。

クイズ感覚で楽しんでいただければ!

part 1 はこちら

part 6 はこちら

2.3 集合と論理

ある条件の集まりを集合といいます。ただし、ハンサムな男性の集合とか可愛い子犬のような、人によって解釈が異なる集合は集合の対象とはしません。

不意にくるお茶目な言葉がいい感じですね(笑)

ここは言葉の定義が目白押しで中々本題に入れないのが歯がゆいところですが、個人的には、高校数学の中でもっとも生活に役立ち、もっとも面白い箇所といっても過言ではないと思います。

しっかり理解するためにも、こういう基本部分はしっかり押さえていきたいですね。

ざっとまとめてみました。

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文字でみるとややこしい気がしなくもないですが、図にするとなんてことないですね。

例1

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2つの集合が重なっているところを1回ずつ引いて平らにすると、真ん中の3枚重なったところが3回引かれて全部なくなっちゃうので、その分を最後に足すわけですね。
※途中式は計算速度を優先してこういう書き方をしましたが、実際は「集合=要素の数」ではないので、そこだけご了承いただければ。

さて、次は論理です。まずは言葉の定義から。 f:id:nobi2saku:20190203224143j:plain
集合と似てますね。

例2(必要条件、十分条件、必要十分条件)

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ここら辺は具体例を考えて初めて腑に落ちるところがありますよねー。

次に、逆、裏、対偶について。ここは著者に何か以前思うところがあったのか熱く語られていますが、図を見れば一発だと思います。 f:id:nobi2saku:20190203225024j:plain 命題が成り立つ時、対偶だけは必ず成り立つというところだけ押さえておけばいいかなーと思います。

例3

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直感的にも、対偶だけ成り立っていることがわかりますね。
さて、次は否定文に関して興味深い言及がなされています。 f:id:nobi2saku:20190203225156j:plain 普通に考えると、否定文は「必ずしもどちらかに入っているわけではない」としてしまいそうですが、数学の立場ではこうなるよーということですね。
このようにして次の否定文を考えてみます。

(ア)クラスのすべての生徒は、数学Ⅱを履修している。
否定文「クラスのある生徒は、数学Ⅱを履修していない」

(イ)クラスのある生徒は、身長が190cm以上である。
否定文「クラスのすべての生徒は、身長が190cm未満である」

(ウ)次回の会議が25日に行われるならば、その会議にA氏は出席する。
否定文「次回の会議が25日に行われ、かつその会議にA氏は出席しない」

(ウ)がちょっと難しいかもしれませんね。25日に会議が行われない場合については何も言っていないため、否定でもなんでもなくなってしまうというわけです。
次は例題。ぜひクイズ感覚で解いてみてください。

例題4(否定文)

(1)「自然数nは、3と5の両方の倍数である」の否定文

「自然数nは、3の倍数ではないか、または5の倍数でない」

(2)「自然数nは、3または5の倍数である」の否定文

「自然数nは3の倍数でもなく、5の倍数でもない」

(3)「クラスのすべての生徒は携帯電話をもっている」の否定文

「クラスのある生徒は携帯電話をもっていない」

(4)「クラスのある生徒はバイクの免許をもっている」の否定文

「クラスのすべての生徒はバイクの免許をもっていない」

(5)「プールの水温が25℃以上ならば泳ぐ」の否定文

「プールの水温が25℃以上なのに泳がない」

(5)が一発でできた方は論理学の才能があると言っていいんじゃないでしょうか。


最後に恒等式の説明がでてきました。ここで恒等式の説明がくるとは思いませんでした。

  • 「ある〜」と「すべての〜」の関係関係性

  • 「方程式」と「恒等式」の関係性

    これが同じである、と言っているんですねー。その考え方は目から鱗でした。

    「高校数学の段階で、『すべて』と『ある』の用法をマスターすれば、大学の微分積分学や線形代数学は簡単である」

    論理学って、数学の中でも他との結びつきが薄い孤高の分野のようなイメージがあったのですが、むしろ他とつながりの強い、優秀な基礎といえそうですね。興味深い。
    微積分や線形代数とどう繋がってくるのか、今後注目していきたいところです。

    生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

    生き抜くための高校数学: 高校数学の全範囲の基礎が完璧にわかる本

  • 流行の顛末 - 『ジョン・レノン対火星人』 part 1 「東京留置所における流行について話そう」

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    こんばんは。味付け海苔です。

    大寒の候、いかがお過ごしでしょうか。

    今日からまた、新しい本の実況を始めさせていただきたいと思います。

    みなさん、俺にはわかっていますよ。

    『アルタッドに捧ぐ』 part 2 の「本日の名言」に潜ませておいた極めて巧妙なステマが功を奏し、今みなさんの手元に、一冊の本があるということが!

    というわけで、今日から高橋源一郎著『ジョン・レノン対火星人』の実況を始めたいと思います! パチパチ!

    「アルタッドに捧ぐ」は誰でも読んでスッとわかる小説でしたよね。

    でも俺はこういう小説をこそ実況してみたいと思っていたのですよ、みなさん。

    高橋さんは広島県出身で、実は俺の小学校の先輩にあたる人でもあります。

    広島県尾道市立土堂小学校です。

    俺の在校時には、同校出身の作家として林芙美子が猛プッシュされていました。

    それで、とある教室の一画には、林芙美子の白黒写真の等身大パネルが設置されていました。

    夕暮れ時にちらっと見かけようものなら、そこはもうリアル学校の怪談です。

    「林芙美子もいいけど、もっと高橋源一郎もプッシュすればいいのに。生きてるんだし」子ども心に何度そう思ったかわかりません。

    まあ、ご健在だからこそいろいろあるんだろうな、と今なら思いますけど。そりゃそうっすよね。

    ちなみに、NHK教育テレビの「ようこそ先輩課外授業」では、東京都世田谷区船橋小学校を訪れてらっしゃいました。

    ああ、そっか。転校してっちゃいましたものね。卒業したのは船橋小学校ですものね。

    いや、ぜんぜんいいんですけどね。

    俺べつに小学校になんの思い入れもないし。

    その後に「一億三千万人のための小説教室」っていう、授業の内容をまとめた本も書いてくれたし。

    ぜんぜん寂しくないし。

    ・・・と、そういうこともあり、高橋源一郎とは俺のなかで親近感が特別強い作家さんなのです。

    感覚的に身近すぎて、俺としてはもはや近所に住む競馬評論家のおじさんくらいの感覚でおります。

    しかし、それは世を忍ぶ仮の姿。

    その正体は、現代文学を牽引する、ものすんごい作家さんだったりするのです。

    ちなみに、俺が初めて読んだ高橋源一郎作品はデビュー作『さようなら、ギャングたち』です。

    「デビュー作には作家のすべてが詰まっている。」

    書評や小説論を読んでいると、作家や評論家や、その他文学者と呼ばれる先生方が口をそろえてそう言うので、そうか、と素直に読んだ遠い日の思い出。

    ところがどっこい、なんと実質的なデビュー作はこっちの方だというではありませんか。

    これはもう、読むしかありませんね。

    それでは満を持して、ジョン・レノン対火星人 part1 「東京留置所における流行について話そう」。

    これはもう隠喩の海のような小説なので、思いっきり自由に、大胆に、読んでいこうと思います! パチパチ。

    ・・・ん? ちょっと待って。東京留置所における流行について話そう?

    目次にはそんなの載ってないんだけど。

    いやはや、一筋縄ではいきませんね。まさかしょっぱなから、何の断りもなくこんな謎の断片をぶっこんでくるとは。

    まあ謎と言えば多分本編も全部謎なんだろうけど。 さて、気を取り直しまして・・・。

    冒頭で、一九七〇年、七一年、七二年と、一年ごとに留置所内で流行っていたものが列挙されていますね。

    マス●ーベーション小説を書くこと、そしてベースボール

    留置所って、やっぱりというかなんというか、シャバと比べてなかなかやることがないのかもしれませんね。わかんないですけど。

    まず、マ●ターベーション。まあ、女の子がいないんだから、一人でやるしかないですよね。

    しかしそれにしても「流行った」という表現が引っかかります。

    マスターベーションって流行とかそういうんじゃなく、生理的に、もっと常態としてみんなやってるもんだと思うんだけど・・・・・・。

    次に、小説を書くこと。これはなんだか異様ですね。

    識字に問題さえなければ、上手下手はともかく誰にでもできることではありますが。

    誰もが小説を書くことに熱中していた。

    とダメ押しされているのも印象的です。

    小説を書きたい! っていう衝動って、そんな局所的に自然発生するものでしょうかね。

    もしかすると、留置所内に特定のインフルエンサーでもいたのかもしれません。

    そして最後に、ベースボール。これについての記述がいちばん詳細ですね。じっくり読んでいきましょう。

    わたしは運動檻の中の幻のマウンドの上に立ち、いつかやってくる救援(リリーフ)にそなえ肩ならしのピッチングをつづけていた。

    そんな「わたし」の左隣で頑張っている「左ピッチャーの肩口から入ってくるカーブ」を打てない左バッター。

    「左ピッチャーの肩口から入ってくるカーブ」を打つことがおれの生涯の主題(テーマ)なのだ。

    そして右隣には、奇妙なサードコーチャー。

    奇妙なサードコーチャーはにやりと笑うと、右の鼻の穴に左手の親指をつっこみ、間髪を入れずに左の鼻の穴に右手の親指をつっこんだ。

    「これが、ヒット・エンド・ランのサイン」

    わざわざ「奇妙な」と言い添えるだけあって、ヒット・エンド・ランのサインも超絶奇妙ですね。

    ここまでがわたしの知っている「東京留置所ジャイアンツ」の姿である。

    わたしたちは保釈され、たった一人だけ残されたその奇妙な三塁(サード)コーチャーは、あいかわらず幻のコーチャーズ・ボックスからかれだけに理解できるサインを送りつづけていたのだ。

    幻のマウンド、幻のバット、そして幻のコーチャーズ・ボックス。

    全部幻だと。虚しさが偲ばれますね。

    みんな一生懸命にやっているだけに、いっそうせつない情景です。

    そして一九七三年。

    独房から精神科の病棟へうつされたその奇妙なサード・コーチャーは奇妙なサインを作り出した。(中略)

    左の睾●を二度。

    右の●丸を一度。

    それが、その奇妙な三塁(サード)コーチャーに使づこうとする全ての人間に出された「ジョン・レノン対火星人」のサインなのだった。

    その後、「わたし」と「左ピッチャーの肩口から入ってくるカーブ」を打てない左バッターは保釈になり、奇妙な三塁(サード)コーチャーが一人残されたと。

    それから奇妙なサードコーチャーは、独房で自殺してしまうんですね。

    その時に奇妙なサードコーチャーが身につけていたものが、これでもかというほど詳細に記述されています。

    その姿、まさにフル装備。

    もし仮に素っ裸で死んでたとすれば、どっちの方が救いがあるのかな。

    はたして奇妙なサードコーチャーは、幻から覚めて死んだのか、それとも幻を見ながら死んでいったのか。

    「左ピッチャーの肩口から入ってくるカーブ」をついに打てなかった左バッターがつぶやいた一言が印象的ですね。

    「だから、どうだっていうんだ?」

    諦念。それも『アルタッドに捧ぐ』のような積極的諦念ではなく、見るからに消極的諦念です。

    こうして読んでみると、最初に列挙されていたマス●ーベーション小説を書くこと野球って、なにかひとつのことの違う側面を表してるんじゃないかと思えてくるんですけど、どうでしょうか。

    わたしはそれ以来、自分で「左の睾●を二度、右の●丸を一度」握りしめては、「ジョン・レノン対火星人」のサインを送るようになったのである。

    えっと、誰に?

    ・・・・・・あ、俺すか。

    「ジョン・レノン対火星人」のサインを出されたバッターはいったいどうすればいいのだろうか? 打つ? 一球待つ?

    打つか、一球待つかの二者択一になっているのが目につきます。

    望むと望まざるにかかわらず、もう(幻の)バッターボックスに立ってしまっているからには、打つか一球待つか、どちらかしかないんだ!

    それ以外の選択肢は与えられていないんだ!

    いくら「ジョン・レノン対火星人」のサインを送られたって、もうどうしようもないんだ!

    そんなスクリームが聞こえてくるようです。

    ※ちなみに、ちょっと気になって調べたんですが、高橋さんがこの小説を群像新人文学賞に応募したのは一九八〇年でした。

    ジョン・レノンがなくなったのは同じ年の一二月なので、この小説が書かれた時点では、まだジョン・レノンは存命だったんですね。

    アルタッドに捧ぐ

    アルタッドに捧ぐ