ずっと不発の遺伝子

 
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ミツバチの実験がおもしろいんだ。
 
 

ミツバチは腐蛆病という細菌性の伝染病にかかるという。これは巣室内の幼虫をおかす病気である。

 
養蜂家に飼われているミツバチでは、ある系統が他の系統よりこの病気にかかりやすい。
 
そして、系統間のこのちがいは、
行動のちがいによることがわかっている。
 
衛生的な系統は、病気にかかっている幼虫をみつけて、巣室からひっぱりだし、巣の外に放り出し、急いで病気を撲滅してしまう。
感染しやすい系統は、この「幼児殺し」をおこなわない。

 

で、この行動がどんな過程を経ているかというと、

 

 

  1. まず働きバチは病気にかかったそれぞれの幼虫の巣室をみつけ、
  2. その巣室のろうのふたをはずし、
  3. 幼虫をひっぱりだし、巣の出入り口から引きずり出して捨てる。
 
という過程を経ているんだけども、
この行動についての実験がすっごく、奇妙な感じがするというか、感心するからメモするね。
 
 
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さあ実験をはじめよう

 
W・C・ローゼンブーラーは、
この衛生的な系統のミツバチと感染しやすい系統のミツバチを交配し、遺伝の実験を行った。
 
彼は雑種第一代のミツバチがすべて衛生的でないことを見出した。
つまり、衛生的な親の行動は失われてしまったようにみえた。
だが、やがてわかったのだが、衛生的な形質の遺伝子は、人間の青い眼の遺伝子と同様に、ちゃんと存在していた。
だが劣性だったのである。

 

そこでローゼンブーラーは、

雑種第一代のミツバチと、衛生的なミツバチとを「戻し交配」させると、見事な結果が出ることになる。

 

まず、生まれたミツバチは3つのグループにわかれた。

 

1つめのグループ
完全な衛生的行動を示す。
2つめのグループ
全く衛生的行動を取らない。
3つめのグループ
中途半端な行動を示す。
病気の幼虫のいる巣室のロウのふたをはずしたが、最後までやりとげて幼虫を捨てることはしなかった。

 

ここでローゼンブーラーは、

  1. ふたをとることに関する遺伝子
  2. 幼虫を捨てることに関する遺伝子
という2種類の遺伝子があるのだと考えた。
 
正常な衛生的系統はその両方の遺伝子をもっており、感染しやすい系統はその二つの遺伝子の対立遺伝子をもっている。途中までしか行わない雑種はおそらく、ふたをとる遺伝子を持っているが、幼児を放りだすための遺伝子を持っていない!!
 
 
そこでローゼンブーラーは、
2つめのグループ、
全く衛生的行動をとらなかったグループに対し、病に侵された幼虫のいる巣室のふたを自分で剥がしてやった。
 
するとなんと2つめのグループの働きバチは、せっせと幼虫を巣の外へ引きずり出す行動を示したのである。
 
 
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ぼく、遺伝子がこんなふうに明らかに行動レベルで作用しているだなんて思いもしなかったよ。
 
「このフタを外す遺伝子」と「引きずり出す遺伝子」はセットになってやっと生存戦略のために役立つけれど、それぞれ個別の存在だから、もちろんセットで遺伝するわけじゃない。
 
きっとぼくのなかにも相棒を失った遺伝子がいるんだね。
この肉体が死ぬまで不発の子が、ぼくのカラダの中にもいっぱいねむってるんだと思うと、その無為さにゾクゾクするなあ…。
 
 
今日のぼくらの選択は、もちろん環境や記憶に起因する部分もすっごく多いと思うけど、ほんのすこしでも遺伝子による意思決定(意思ってなんだろう?)が関与して影響を及ぼしてるのかと思うと、なんだかとってもヘンな気持ちになるよね。
 
 
 
さあ
遺伝子が眠りたいってさ
おやすみ。
 
 
参考文献:

 

 

 

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

 

 

 

 

 

 

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