しまなみ海道の旅
新幹線 往路
マイナーな駅(岐阜羽島)からマイナーな駅(新尾道)への切符手配に苦労したことは、先に書いた。こだま、のぞみ、こだまと二回も乗り換えがある。乗車時間2時間半。外国人の同乗者が多い。
トンネルをぬけて桜やまた桜
尾道ラーメン
新大阪駅での大慌ての乗り換えの果てにやっと着いた新尾道駅。申し訳ないが岐阜羽島駅より寂しい。駅前でレンタカーを借りて、まずは近くの有名ラーメン店で昼。「尾道ラーメン」は当地の名物とのこと。豚骨スープの醤油味で当方にはすこし辛い。背脂が浮いている濃厚な味で、麺は細麺。正午前だったのですぐに入れたが、出る時には待ち客がかなりあった。
新尾道駅
向島
いよいよ「しまなみ海道」である。片道約60キロ。五つの島を結ぶ高速道路だ。尾道水道をはさんだだけの「向島」にいきなり降りることにする。海なし県の者にとっては、ともかく海が見えただけで気持ちが高揚する。島の海岸道路に沿って車を走らせる。自転車で廻っている人もいる。案外女性が多い。「因島大橋」のたもとで橋を見上げる。
島かげの先に島かげ春の潮
因島大橋
生口島・向上寺の国宝三重塔
因島はスルーして三つ目の「生口島」に降りる。ここには「向上寺」という目当てがある。室町期の国宝三重塔だ。ところが「耕三寺」という今出来の寺の案内ばかりで、「向上寺」はでてこない。それらしきところで地元の人に訊ねて判明。ローで登らねばならぬほどの急坂の先に目当ての寺はあった。先の訪問者は老夫婦のみ。禅寺らしいが人の気配もなく、塔の拝観は100円とのみ。急な階段の先、山懐に朱の三重塔。昭和になって塗り替えが行われたようだが、創建は室町期(1432年)。ヤマツツジに囲まれた塔の眼下に桜と海が広がる。連れ合いがハンミョウを見つけたが、当方は見逃した。
向上寺三重塔
三重塔の朱塗や山笑ふ
大三島と多々羅大橋・大山祇神社
多々羅大橋
大三島は五つの島のなかで最も大きい。大三島と生口島を結ぶ橋が「多々羅大橋」で、世界一(完成当時)の斜張橋だということだ。橋のたもとでひと休憩。晴れているが、海風が強く寒い。この辺りは柑橘類の産地らしくレモンやはっさくが売られている。
島の反対側にある大山祇神社を目指す。ここは昔から気になっていた甲冑国宝館がある。大山祇神社の御祭神はオオヤマツミの尊。山の神であり海の神でもあり、軍神としての側面もある。戦での戦勝を祈願して、古来より鑑やら刀剣、甲冑などの武具が奉納されてきた。歴史上の著名な人々から奉納されたものが、国宝館に収蔵されている。古いものでは白村江の戦の時の斉明天皇奉納による鑑から、鎌倉期の武将の奉納品の数々。中でも河野通信や頼朝、義経兄弟の奉納甲冑が国宝である。弁慶や巴御前所用の薙刀などもあり、刃こぼれが生々しい。空調設備で厳重に管理された国宝館で実に見応えがあったが、見学者は我らだけであった。
義経の鎧にほつれ春深し
義経の甲冑は壇ノ浦の戦いの後、佐藤忠信の手で奉納されたとある。草摺部分に丸いほつれが二三ある。槍か弓傷かと憶測してしまう。
大山祇神社
今治で宿泊
さすがに疲れたので、伯方島と大島はスルーして宿泊地の今治を目指し、来島海峡に架かる世界最長三連橋の来島大橋を渡る。宿は「スーパーホテル今治」。温泉があり、無駄を省いたエコでリーズナブルなホテル。狭いが新しく気どらない。テレビは4Kが視聴可能だった。
夜は歩いて9分の居酒屋「陣」。予約をしていったのだが、ここがよかった。美味しかった上に、旅の者だと言ったら、大将が「サザエの唐揚げ」をごちそうしてくださった。
今治城 復路
二日目は今治発の復路である。連れ合いは若い頃商用で来たことがあるというが、当方は初めてである。「タオルの街」としか知らない。宿の近くに城がある。今出来の城だと聞いたので、ちょっとだけ寄るつもりで出発する。海水を引き入れたという堀と石垣が見事で、びっくりする。城内外の桜も見頃。
藤堂高虎と今治城
来島海峡展望館
今治最後に来島海峡と来島海峡大橋をしっかり見ておこうと展望館による。橋も海峡も一望できる。海峡の速い潮の流れに乗って船は行き交う。
大橋の果ては霞みて潮速し
来島海峡大橋
はや10時近い。レンタカーの返却は11時半。急がねばならない。復路は一挙に尾道を目指す。車は少ないし、野山は緑で気持ちのいいドライブだ。11時少し前、尾道に着く。
浄土寺
少し時間があるからと街の中心から外れた浄土寺による。浄土寺は真言宗のお寺で本堂・多宝塔が国宝。あと重文の建物もいくつかある。ご本尊は十一面観音で秘仏。
浄土寺多宝塔
山門の下は線路と海
しかし、時間がないのにここに寄ったのは失敗であった。境内の階段下を山陽本線が走り抜けるという狭さで、車で行くのは無理があった。早々に退散して少しだけ遅刻してレンタカーを返却する。
尾道商店街
新尾道駅に荷物を預けて、タクシーで山陽本線の「尾道駅」に戻る。
尾道は海沿いの狭いところに商店街と鉄道、道路が走り、住宅地は山懐にあるといったところだ。狭いのにやたらと寺も多い。タクシーの運転手さんの話では、昔は石見銀山の積み出し港で財を成した商人が多く、寺も彼らが競って建てたものらしい。
縁の文学者も多く、映画のロケ地にもなっているが、今は寂れた感じだ。駅前は「しまなみ海道」との関連で再開発されたと、これもタクシーのさんの言葉。
林芙美子像
商店街
「海が見えるレトロな喫茶店」なるところに入る。本当に古くて黴臭く失敗。懐かしい音楽が流れていたのだけよかった。
ゆく春や茶房にサイモン&ガーファンクル
坂道を登り、尾道らしさを体験する。「猫の小道」なる所を歩くが、たいしたことはなし。猫を三匹だけ見かける。ここは外国人も歩いている。上ったり下ったり、とにかく疲れた。
ふりむけば道は転げて春の海
向こうに海
ふ
二日間にわたる「しまなみ海道」の旅は、無事終わった。よたよたながらまだ頑張った我が脚と家族に感謝。
この間我がひいきチームは単独首位をキープ。八年ぶりである。