1ドル200円時代もそう遠くないのではないか……。これまでではあり得ないような話が、平然と飛び交うようになった。みんかぶプレミアム特集「1ドル200円時代のサバイバル」第2回は名物国際投資家の木戸二郎氏がドル円相場の行方とアクティビストが狙う激安日本銘柄を暴露する。「これから深刻な二極化が進む」。われわれはどう生き延びればいのかーー。
1ドル238円が4年あまりで137円に
さて、巷では出口の見えないエンドレスに続く円安状態でいつのまにか我々はかなりの変化を甘受させられているような気がしてならない。「オーバーツーリズム」や「観光客との共存」などという言葉はその最たるものだと思う。この聞き慣れない言葉でさえ、連日のようにテレビなどのメディアで聞かされているうちに何の疑問も持たずに常態化させられてしまっている。 今や、日本は大バーゲン国家であり、買い物、旅行はもとより不動産や株式に至るまでありとあらゆるものが外国人に買い漁られている。 思い起こせば日本も資産バブル時代には1985年当時1ドル=238円が、1989年にはわずか4年あまりで1ドル=137円なり、100円も一気に円高が進んだことがあった。この頃の私は千葉県の船橋にある小さな証券会社のサラリーマンであったが、空前のバブル景気に沸いていて、猫も杓子もハワイ旅行へ出かけてはハイブランドのバックやロレックスを買い漁る所謂爆買いを繰り返していたことを記憶している。
絶頂期の倍返しどころか5倍返しされる日本
そして、1995年にはいよいよ1ドル=94円台までに円高が進んだ経緯があった。このころの米国は大バーゲンセールだったわけで日本の三菱地所がニューヨークの象徴ともいうべきロックフェラーセンターを買収し、ブリヂストンは米ファイアストン社を傘下におさめ、ソニーは米コロンビア・ピクチャーズ・エンターテインメントの買収をする等、日本企業が海外企業をどんどんM&Aしていき、「日本は米国の魂を買った」とまで言われて、ほんのつかの間有頂天になっていたこと思い出す。このころの米国は財政と貿易の「双子の赤字」苛まれていて「ドルは紙切れになる」と揶揄された時代でもあったが、間もなく日本はバブル崩壊を向かえ、事態は一変していく。 そう考えれば三十数年前に我々日本人がしたことを今度は「倍返し」どころでなく、中国や欧米の富裕層も加わり「5倍返し」されているような気分だ。些か余談だが、現在もインバウンドのマナー違反や横暴で傲慢な態度が問題視されているようだが、我々も三十数年前に同じような指摘をハワイで受けたような気がする。
日銀は日本のリアルタイムでの経済状況を何も把握していない
さて、為替に目を向けると4月29日には1ドル=160円を付けたが、その後は30日に日銀による約5兆円規模の介入、5月2日にも約3兆円規模の介入が入ったことで今のところは1ドル153~155円程度で落ち着いている。仮に再度介入したとしても徐々に160円に寄せられていくことは避けられないであろうと思う。日銀にしてみれば米国利下げまでの時間稼ぎをしたいというのが本音だろうが、米国の経済指標もまちまちで利下げ観測も確定できる状況ではないのが実情だ。為替市場は米国の経済指標を巡ってこれから暫らく一喜一憂することになるであろう。今回、2回の介入で日銀の介入ラインの基準が160円となるであろうが、このまま日銀が金利差を埋めるだけの政策を出さなければ、いずれは1ドル=160円を超え、170円に向かっていくのは避けられないといわざるを得ない。さらにそれを超えてくる可能性も見えてくる。 植田日銀総裁は「円安による物価上昇が来年の春闘で高水準の賃上げにつながれば、基調的な物価の動きに影響する」と指摘し、「そういう動きが予想できるようになれば、来年の春闘よりもっと手前で利上げを判断できる」と述べた。ただし、「今のところ大きな影響を与えていない」として、現時点での政策対応の必要性を否定していたが、残念ながら日銀は日本のリアルタイムでの経済状況を何も把握していないという事だけは明白となった。
ドイツに抜かれて世界第4位と後退したが、来年にはインドに抜かれ5位
私が心配しているのは円安よりもむしろ円弱だ。名目GDPで日本は昨年、ドイツに抜かれて世界第4位と後退したが、来年にはインドに抜かれ5位に転落するようだ。インドの経済成長はさることながら円安によるドル換算での日本のGDPが目減りした点も原因としてはあげられるものの、日本の成長力の鈍化は否めないところであろうと思う。円安による度重なる値上げラッシュで33年ぶりに5%を超えた賃上げ分も1ドル=158円以上になればほぼほぼ帳消しになってしまう。 4月には実に2806品目、5月には417品目の食品が値上げされたばかりだが、このままの円安状況が続けば年間では7000品目を超えるといわれている。 日銀の円安放置は更なる値上げラッシュによる消費者の購買力の低下と二極化を進めてしまい、日本の家計はどんどん腐食していくことになろうと思う。 さらに言えば、好調な輸出産業でさえも、円安状態が長引けば長引くほど、海外から見れば日本製品がかなりのディスカウント価格で買えているのと同じことになるわけで、このこと自体、日本製品の国際競争力を明らかに低下させているともいえるのだ。
木戸次郎