夜に駆けるの原作「タナトスの誘惑」の続編、「夜に溶ける」の考察です。
「タナトスの誘惑」を簡単におさらいすると…
自殺願望のある彼女に一目惚れした主人公。
ですが彼女は、いつも死神(死への欲望を持つ人間だけが見える幻)を見つめ、恋をしている女の子のような表情をする。主人公は、自分のことを見てくれない彼女に、辛い思いを抱えます。
そんなある日、主人公は彼女につられ、「僕も死にたいよ!!」と口にする。すると、彼女は初めて笑った。
彼女は、主人公と共に死にたかったのです。彼女の願いを叶えるために、主人公は、彼女と手を繋ぎ飛び降りた。
主人公にとっての死神さんは、彼女だったのである。タナトスに支配されていたのは自分だったのだ。
という内容が描かれています。
…では本題の「夜に溶ける」の考察に移りましょう。
まず、「夜に溶ける」は、二人で飛び降りた後のお話が、彼女視点で描かれています。
お話自体は非常に読みやすいものなのですが、読了後に、
「ふむふむ…主人公にとっての死神は彼女やったんやな!
…あれ?でも彼女にとっての死神は?
…主人公。。ではないよな、だって死神はその人にしか見えない幻のはずやのに普通に会社で働いて生活してるし、、、、あれれ?じゃあ誰?」
と、疑問に思ってしまったので、今回は
彼女にとっての死神はなんだったのか。
彼女はいったい何を見つめていたのか。
を中心に考察していきたいと思います。
まず手がかりとして、
ー死神は、それを見る者にとって1番魅力的に感じる姿をしているらしい。いわば、理想の人の姿をしているのだ。ー
死神は見る者にとって1番魅力的に感じる姿をしています。
では、彼女にとっての魅力的な姿とは?
ーあなたは外から帰ってくる時、いつも疲れた顔をしていた。でも、私と一緒にいる時、たまに嬉しそうな顔を見せてくれた。
私は散々あなたを苦しめていたというのに、どうしてそんな顔を見せてくれていたのか今でも不思議でしょうがないけれど、
私は、あなたのその表情が大好きだった。ー
ほうほう…彼女は主人公の嬉しそうな表情が好きなのね!
しかし、主人公は仕事から帰ってくる時、いつも疲れた顔をしています。
ー私は、「死にたい」というあなたの思いから生まれてきた、あなたの目にしか映らない幻想に過ぎない。
あなたを殺すこと、それが私の役目だった。ー
主人公は心の底で、「死にたい」と願っている。そうでなければ、主人公にとっての死神である彼女は生まれなかった。
ーあなたが「死にたい」と思ってくれなければ、私は生まれなかった。
私があなたの救いになれていたらいいなと思う。ー
主人公のことが好きだからこそ、あなたの願い(死への願望)を叶えたい。
〜主人公を殺すという役目を終えた彼女は、夜空を見上げながら来世についてこう願います。〜
ーでも、やっぱりまた人間に生まれ変わるのも捨てがたいなと思ってしまう。
人間でいることは苦しいと思っていたけれど、あなたと一緒なら大丈夫なのかもしれない。
そしたらいつか、あなたが心から幸せそうに笑う姿を見てみたい。もちろん、私の隣で。ー
つまり…。彼女にとっての死神さんは、来世で笑う主人公の姿だったのです。
彼女はずっと、二人笑い合っている姿を見つめていたのかもしれません。
彼女が、彼氏を死に導いた理由は大きく2つ。
・「死にたい」という気持ちを抱える主人公の死神として生まれたから。その役割を果たすため。
・彼女の見つめる死神の姿が、来世で幸せそうに笑う主人公の姿であったから。
主人公は、彼女の「共に死にたい」という願いを叶えるために。
そして彼女は、「死にたい」と願う主人公のために。
お互いがお互いのことを想って心中したわけです。
ちなみに、二人がはじめに出会ったのは彼女の一回目の自殺の時。
つまり、二人が出会う前からすでに彼女には、来世で幸せそうに笑う主人公の姿が幻として見えていたのです。
そこへ、現世の主人公が、現れた。
いや、彼女は彼が生み出した幻なのですから二人が出会うことは必然だったのです。
そして二人の物語は始まります。