いてくれてよかった

どうもおかしいと思っていたんだ。

昨夜、息子と夫を居間に残し8時半に2階に上がった。

会話もわずらわしかったのだ。けれども熱があるわけでもなく、自分が意味もなくテンションが低いのだと思い、不機嫌そうになるくらいなら引っ込もうくらいに思っていた。

布団に入ってYouTubeを音だけ聞く。

なんか暑苦しいなと窓をあけた。

風が入って気持ちいいなあ。

そう思っていたはずが、あれ?あれれ?なんか寒い。

窓を閉めても寒い。震えがきた。次第に震えがとまらない。意識が遠のく。

YouTubeの音が煩わしくて止めた。その指先も震えで定まらない。

だめだ。これは、まずいやつだ。

階段を降り、羽毛膝掛けと毛布を頭から被り、ホットカーペットにうずくまる。

息子はすでに部屋に引き払い、夫が一人、ドラマを観ていた。

どうした。

寒い。

床に這いつくばっても体がガタガタとまらない。

大丈夫かと夫がそれを見つめる。

どんどん悪寒が強くなり意識もあやしくなる。唸る。揺れる。息が荒くなる。

夫が背中をさすってくれる。

だいじょうかぁ。

こ、こいつ。さすりながらテレビドラマを見続けやがって。

しかしそんなことどうでもいい。奴がテレビをやめたところでこれが治るわけじゃない。

そういやこの人は私が陣痛で苦しんでいる時も天丼を食べに行ったのだ。

今から生まれると言ったのに。

遠のく意識でそんなことを思い出す。

そばにいようがいなかろうが無事出産した。今のこれだってそうだ。

だいじょうぶかぁ。背中をさする手がときどき止まり、動かなくなった。

疲れたのだな。さするって意外と疲れる。

また、手が動き出した。だいじょうぶかあ。まだ寒い?

ハッとする。数分、意識を失っていたのか。眠っていたのか。

エンディングの主題歌がながれていた。

終わったからまた私をさすりはじめたのだな。

すると今度は体がカーッとしてきた。

熱か。

しんぱいだなあ。しんぱいだなあ。

テレビ画面を観ながら心配だなあという夫の姿が、目を閉じているのに見える。

まちがいない。彼は、今、テレビを観ている。

うなり声が止まらない妻をさすりながら、テレビを眺める夫。私は自分で自分の身を守り、しっかり生きていかねば。

1時間ほど経ち、発作は治った。

よろよろと2階にあがる。布団に傾れ込んだ。

その後もういっかい、発作はきた。

こんどはそれほどでもなく、なんとかやりすごし、気がついたら眠っていたようだ。

朝を迎えた。

おはよう。とんさん大丈夫ぅ?

あたしゃ、これは救急車を呼んでもらわないとダメかと思ってたよ。心の中で呟く。

それを言ったところでこの人には響かない。愛情や関心がないのではない。

どうしたらいいのかわからないのだ。どうも命にかかわるほどじゃないようだということだけはわかる。そんなときの対処のしかたを知らない。

もう事は済んだ。今は気怠いだけでなんともない。

今日はトンさんのんびり過ごしてヨォ、無理しないで。

そう言いながら携帯のオセロに夢中の夫の背中に向かって言った。

人がうめいてる時、背中さすりながらテレビを観てたよな。

ちがうもーん。

あたしゃ、わかる。あれは、そうだった。

ちがうもーん。ちゃんと心配してたもーん。

笑ってる。

それでも、背中に手を置いてくれた。あれは心強かった。

 

それも言えばよかったかな。

 

 

野菜野菜野菜

息子は来た。

安定の午後2時半起床。寝起きの声だった。

無理に顔見せなくちゃって来なくてもいいよ。来週おばあちゃんのお祝いで集まるんだから。

疲れてるんだったら自分の家で気ままにゴロゴロして過ごしてもいい。来たら嬉しいけど無理はしないでいいんだと伝える。

いや、今日こそ行く。洗濯済ませてから行くか夕方になる。

結果的に、排水溝のカビ取りとゴミ捨てがそこに加わってやって来たのは7時過ぎだった。

カレーに唐揚げに春雨サラダに山盛りトマト。

本当はこれらは保険で作っておいたのだが、体調が今ひとつでそのまま並べるだけになった。

もっと出来立てのほかほかを出してやりたかった。が、しんどそうにしないことが優先だ。

食事中、野菜をほとんど食べてないんだよねと笑う。

どうしたらいいかね。

トマトとか生で食べられる野菜たくさん買っとくといいよ。プチトマトでもいいから。

あと野菜ジュースでもいいから。

あ、それなら飲んでる。毎日ペットボトルの。

なら大丈夫だよ。

そこでその話は終わった。

なのに私の頭に妙にそれが残った。

夜、布団に入ってから考える。

持たせてやるつもりだった惣菜は力が出るようにと肉ばかり。

明日、野菜の何か作ろうか。何がいいだろう。毎日食べても飽きなくて、いろんな種類が食べられて。日持ちがするもの。ラタトゥイユ。。。でもそうすると彼はいつもおかず一品しか温めて食べないからな。それだけだとタンパク質が足りないしな。生協のウィンナーが届いたからあれ、入れるか。持たせてもいいけど。いっそのこと鶏肉も一緒に煮込むか。でも野菜は野菜だけの方が傷みにくいしな。キャベツ。キャベツを塩揉みにして鶏ガラと胡麻油のアレ、あれも持たせようか。明日作って夜出して、残りを持たせてもいいか。今週中に食べるように言えば大丈夫か。。

眠れない。

身体は疲れているのに頭が冴えてしまう。

もうよそう。

手放したのだ。一人で生きていくとはそういうことだ。

私は私に無理をしない範囲で支えよう。

息子が無理して気遣いからこっちに顔見せなくちゃと来ているのだったら、そんなことしないで欲しい。こっちはいいから、と言う。

同じことなのだろうな。

必死になってやることじゃない。自分のできることの少なさを受け入れよう。

まずは睡眠だ。

寝よっと。

朝、起きた。往生際悪くラタトゥイユ一品と決めて台所に立つ。

 

 

 

予定は未定

先週、隣駅に住む息子から三日からそっちに行くと連絡があった。

朝からカレーを作り、唐揚げを作り、鶏照り焼きを作り、ジャガイモを豚バラ肉で巻き甘辛煮にして、春雨サラダを作る。

何時ごろくるんだろう。昼もこっちで食べるのか、どこかに出かけた帰りに寄るのか。

おそらくたっぷり朝寝坊をして2時過ぎに起きて、これから行くとLINEが入る・・・というパターンだろうと、こっちからは連絡をしなかった。

すれば、だいたいでもこのくらいと言わせ、それがうっすら約束みたいになる。そうしたくなかった。

たっぷり惣菜を作った。数日いるのだとしたら、これくらいあれば慌てない。あとはその場その場ですればいい。

朝の散歩から帰って、そのままやっていたものだから足が、腰が痛い。

夫は友人との飲み会に出かけていった。遅い朝ごはんを食べ、横になる。

2時すぎ、携帯が鳴る。

今起きた・・洗濯とかあるから、夜行く。

ああよかった。それまで昼寝しよう。なんとなく背中がゾクゾクする。今から行くとかいうのでなくてよかった。

2階にあがり、ベッドに雪崩れ込む。

日差しの入った寝室は暖かかった。

連休の特番ラジオを聴きながら寝ていたようで目が覚めると暗い。

時刻は6時。

これは・・・。

携帯には着信もラインも記録がない。

さては。

「もしや二度寝では。笑 先にご飯食べてるね。急がなくていいから。」

送信。

・・・・。

「もし起きて、かったるくなってたら無理に今日来なくていいからね」

私が楽しみにしているから行かないとと思っているかもしれない。

息子にはそういうところがある。

来たら来たで嬉しい。しかし好き勝手に利用して欲しい。

義務じゃないんだから。

食事をしていると携帯が鳴った。

「まさかの二度寝をしてしもうた」

「疲れてるんだよ、きっと。今日、無理に来なくていいよ」

「じゃあ、明日にするかな」

声は笑っていた。

「オッケー。じゃあね」

そのあとすぐ、ラインで「すまぬ」と送信されてきた。

どこかでほっとする。

今日のコンディションでは辛かった。

明日になってよかった。

一夜明けて今日。現在時刻は12時17分。連絡はまだない。

彼は今日は来るのだろうか。まだまだわからない。