べっこう色の記録

かつては日記でしたが、現在は数学のことを多く書いています

分散の加法性が成り立たない例

例.
確率変数 X, Yを以下のように定める.

 X 0 0 1
 Y 0 1 1
 P \frac{1}{2} \frac{1}{3} \frac{1}{6}
このとき
XY 0 1
P \frac{5}{6} \frac{1}{6}
である.ゆえにそれぞれの確率変数の期待値はE(X)=\frac{1}{6},E(Y)=\frac{1}{2},E(XY)=\frac{1}{6}である.
つまりE(XY) \neq E(X)E(Y)で,V(X+Y) \neq V(X) + V(Y)である.(終)

上記だけでは解説が不十分という場合もあろうかと思うので,いくつか注意を述べる.

注意.
(1) 最初の表の意味はP(X=0,Y=0)=\frac{1}{2}などという意味である.
P(X=0)は,確率の和でP(X=0)=P(X=0,Y=0)+P(X=0,Y=1)=\frac{5}{6}で求める.
同様にP(Y=0)=\frac{1}{2}と計算できる.これは2つの確率変数X,Yが独立でないことを意味している.
確率変数が独立であるとはすべてのX,Yのとりうる値でP(X=a,Y=b)=P(X=a)P(Y=b)が成り立つことである.
(2) 最後のつまり,以下の部分がさらりとしすぎかもしれない.このようなやや冗長な計算があるからである.
V(X+Y)=E( (X+Y)^2)-(E(X+Y))^2
     =E( (X+Y)^2)-(E(X)+E(Y))^2(期待値の加法性)
     =E(X^2+2XY+Y^2)-(E(X))^2+2E(X)E(Y)+(E(Y))^2
     =E(X^2)+2E(XY)+E(Y^2)-(E(X))^2+2E(X)E(Y)+(E(Y))^2
     =V(X)+V(Y)+2(E(XY)-E(X)E(Y))
そういうわけで,最終項のE(XY)-E(X)E(Y)が0になるかどうかで加法性の成立が調べられるのである.

驚かされた参考書の紹介

旺文社から出版された毎年出る! センバツ40題 理系数学上位レベル[数学I・A・II・B・III] (大学入試)を見て,大いに驚いた。
今の時代とは思えない参考書だったからである。
内容は問題が40問あり,少々の解説ののちに解答が書かれている。
この解説にはくせがありそのまま飲み込むにはなかなかつらい。
また解答には一切注釈や補足はなく淡々と答案が書いてあるのみである。
近年の参考書はとにかくわかりやすく,徹頭徹尾寸分のすきもなく書かれるのが普通である。
前回書いた箕輪先生の参考書などはそのなかでも群を抜いてすばらしい。
この参考書にはそういった,読む人のことを考えるという気持ちは感じられず,
付いてきたい者はついてくればいいというように言っているかのようである。
硬派?といえば聞こえはいいが,まるで教科書傍用問題集のように書き手が見えてこない。
この参考書をあえて購入する意義はいったいどこにあるのだろうか。
編集者も困ったことだろう。心中お察しする。
購入を検討する方は実際に書店で中を見てみてからのほうがいい。

ちなみに

は現代的な参考書で,書き手の森谷先生のパワフルさがそのまま感じられこれはおすすめできる。
こういった参考書で勉強して数学の力を身につけるのがいいだろう。

ある命題への広義リーマン積分の例

新装版 数学公式集をながめていたら,次の記述を見つけた。

f,gが広義リーマン積分可能であっても,2つの関数の積fgが広義リーマン積分可能とは限らない。

確かにそのとおりになりそうな命題であるが,具体例を挙げなければ理解した気にはならないだろう。
ここしばらくの間,遠方,つまり\int_a^\inftyでの例を考えていたのだが,なかなか難しい。
残念だが一旦保留し,解析入門 (岩波全書 325)を参考にして有限区間で例を作ることにした。

例.
\displaystyle f(x)=g(x)=\frac{\sin x}{x^\frac{3}{2}}として,区間(0,\frac{\pi}{2})で広義リーマン積分可能か調べる。
上端\frac{\pi}{2}は問題ない。
下端は
\sqrt{x}f(x)=\frac{\sin x}{x} \to 1 as x \to +0
より0でも広義リーマン積分可能である。

一方f(x)g(x)=(f(x))^2=\frac{\sin^2 x}{x^3}ジョルダンの不等式により
\sin x \geq \frac{2}{\pi} xであるからf(x)g(x) \geq \frac{4}{\pi^2} \cdot \frac{1}{x}となる。
与えられた区間での最右辺の積分
\int_0^\frac{\pi}{2} \frac{4}{\pi^2} \cdot \frac{1}{x} dx =\frac{4}{\pi^2} [ \log x ]_0^\frac{\pi}{2}=\inftyで発散するから,fgも発散する。

新装版 数学公式集解析入門 (岩波全書 325)

東北大学2020理学部数学系AOII第4問を解く

3)が不思議なくらいやっかいである.こんな解き方でいいのだろうか.
3乗根の記号がブログの仕様で出力できないので,x^{1/3}で表す.

[4] i虚数単位とし,\omega = \frac{-1 + \sqrt{3} i}{2}とする.
1) 次の連立方程式を満たす複素数の組 (y,z)をすべて求めよ.
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      y^3 + z^3 = 4 \\
      yz = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
ただし,正の実数xの3乗根である実数を {}^3 \sqrt{x} と記し,分母の有理化はしなくてよい.
2) a,b,cを相異なる3つの複素数とし,a,b,cが表す複素数平面上の3点を線分で結ぶ.
このとき,正三角形が得られる必要十分条件は,複素数a,b,c
a+ \omega b + \omega ^2 c=0 または a + \omega ^2 b + \omega c=0
を満たすことである.このことを示せ.
3) 1)で求めた組(y,z)のなかで,yzがともに実数であるものの1つを(q,r)とする.
pを3次方程式
x^3-3x+4=0
を満たすxのうち実数でないものとする.このとき,p,q,rが表す複素数平面上の3点を線分で結ぶと,正三角形が得られることを示せ.

解)
1)
yz=1からy^3 z^3 =1である.
y^3 +z^3 =4と連立すると(y^3)^2 -4y^3 +1=0が得られる.
y^32次方程式と見て解くとy^3 =2 \pm \sqrt{3}となる.
正と負の方程式をそれぞれ解くと,
y=(2 + \sqrt{3})^{1/3},(2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega ,(2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega ^2,
 (2- \sqrt{3})^{1/3},(2- \sqrt{3})^{1/3} \omega ,(2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2となる.
yz=1に代入することで,次の6組を得る.
(y,z) = ( (2 + \sqrt{3})^{1/3},(2- \sqrt{3})^{1/3}), ( (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega, (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2),
   ( (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega^2, (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega),( (2- \sqrt{3})^{1/3}, (2 + \sqrt{3})^{1/3}),
   ( (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega, (2 + \sqrt{3})^{1/3}\omega^2), ( (2- \sqrt{3})^{1/3} \omega^2, (2 + \sqrt{3})^{1/3} \omega)

2)
複素数が表す点をA(a),B(b),C(c)とおく.
ABCまたは△ACBが正三角形であるとする.
複素平面の点を幾何ベクトルとみると,\vec{OC}=\vec{OA}+\vec{AC}であって,
\vec{AB}を始点を動かさずに\pm \frac{\pi}{3}回転したものが\vec{AC}であるから
c=a+(b-a)(\cos (\pm \frac{\pi}{3}) + i \sin (\pm \frac{\pi}{3}))
 =a+(b-a) \cdot \frac{1 \pm \sqrt{3}i}{2}
 =\frac{1 \mp \sqrt{3}i}{2} \cdot a +\frac{1 \pm \sqrt{3}i}{2} \cdot b
である.ここで\omega^2 = \frac{-1 - \sqrt{3} i}{2}であるから,この式は
c=- \omega a - \omega^2 b または c=- \omega^2 a - \omega b
となる.前の式には両辺に\omega^2,後の式には両辺に\omegaをかけると
a+ \omega b + \omega ^2 c=0 または a + \omega ^2 b + \omega c=0
が得られる.逆にこの2式が与えられれば,上の式変形を逆にたどれば正三角形であることが示される.

3)
q=(2 + \sqrt{3})^{1/3},r=(2- \sqrt{3})^{1/3}とする.
x^3-3x+4=0の解はx=-q-r, -q \omega - r \omega^2, -q \omega^2 - r \omegaである.
実際,1)の連立方程式を満たすので-q^3 -r^3=-4, qr=1であるから,
 (-q-r)^3 -3(-q-r)+4
=-q^3-3q^2 r -3 q r^2 -r^3 +3q +3r +4=0
 (-q \omega - r \omega^2)^3 -3(-q \omega - r \omega^2)+4
=-q^3-3q^2 r \omega -3qr^2 \omega^2 +3q \omega +3 r \omega^2+4=0…(★)
-q \omega^2 - r \omegaを代入した場合は(★)で両辺の複素共役をとると\omega^2=\overline{\omega}に注意すると従う.
3次方程式は高々3個の複素数解を持ち,相異なる3個の方程式を満たす解が見つかったのでこれらが解である.
pはこのうちの実数ではないものをとることでp=-q \omega - r \omega^2 または p=-q \omega - r \omega^2である.
p=-q \omega - r \omega^2ならばp+q \omega +r \omega^2=-q \omega - r \omega^2 + q \omega + r \omega^2=0である.
p=-q \omega^2 - r \omegaならばp+q \omega^2 +r \omega=-q \omega^2 - r \omega + q \omega^2 + r \omega=0である.
2)よりp,q,rを線分で結んだ三角形は正三角形であることが示された.

注意
1)について
実際には複号同順の\pmを使って書くと,解答用紙をたくさん使わずに済む.
問題文にある分母の有理化が不用,という話はおそらくyz=1に代入するわけだが,
z=\frac{1}{y}に代入することで分母に3乗根を含んだ値が出てくる.これを有理化しなくてもいいということだろう.
上の解答では積が1だから,3乗根の中身がa^2-b^2の形で1になることから値を導いたので,
有理化の話が出てこなくて戸惑った.

2)について
幾何ベクトルとみなして回転させるお馴染みの解である.

3)について
問題はここである.上の解答では急にこれらが解だ,と断定して代入して確かめた.
なぜ思いついたか,という話である.
ただ眺めているだけでは厳しい.この方程式は因数定理を用いて解くことができないからだ.
そこで私はカルダノの公式のように考えた.
高校数学の範囲を逸脱しているが考え方そのものはそれほど難しくないので書く.
x=u+vと(突然)おく.3次方程式の解がこのように書けると仮定するのだ.方程式の左辺に代入すると
 (u+v)^3 -3(u+v)+4
=u^3 +3u^2 v +3uv^2 +v^3 -3u -3v +4
=(u^3 + v^3 +4)+3(u+v)(uv-1)
となる.これは
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      u^3 + v^3 = -4 \\
      uv = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
であるu,vが存在すればよい,ということになる.
問題文で与えられたy,z連立方程式によく似ている.和の部分の符号が逆である.
この連立方程式を次のように書き換える.
\begin{eqnarray}
  \left\{
    \begin{array}{l}
      (-u)^3 + (-v)^3 = 4 \\
      (-u) \cdot (-v) = 1
    \end{array}
  \right.
\end{eqnarray}
つまり,u,vは,1)で求めたy,zの符号を取り替えたもので表せることがわかった.
ちなみに1)は6個の組が求められたがy,zは可換なので,u+vは3個決まる.
あとは解答のとおりである.

真・解法への道!/数学IAIIB(箕輪 浩嗣)の紹介

まったくもってすばらしい参考書である。
全問解いたが、どれも一筋縄では解けないが、解けた後はすがすがしい気持ちになる。
難しすぎず、かといって簡単ではない。すべてが良問である。
ページ数は600ページ近くあり一瞬ひるむが、恐れることはない。
とっつきやすい、箕輪先生のやさしい語り口で書かれた最高の解説のためにそうなっている。
この解説、他の参考書では語られることがあまりない話にも踏み込んである。
第1章の必要十分条件の話、第7章の軌跡と領域の話などは、こんなに読者の目線に立って書かれてる本は珍しいと思う。
教科書と傍用問題集を終えて、難関大へ十分な力をつけるためにこの参考書が強い味方となるはずだ。

ここで注意を。
はじめに、にあるがこの本は箕輪先生の過去の書籍、数学IAIIB解法の極意の加筆修正版であるから、こちらを買えばよい。
またフリマアプリで高額で出品されているのを見かけたが、定価は2,300円+税なのでこれ以上のものを買ってはいけない

2次関数が切り取る線分の長さ

2次関数y=ax^2+bx+cが直線と2個の共有点を持つとき,
それらの共有点を端点に持つ線分の長さを考える。これを切り取る線分の長さという。

例題.
y=x^2-x-6x軸から切り取る線分の長さを求めよ。

解)
x^2-x-6=0
(x+2)(x-3)=0
x=-2,3
与えられた関数はx軸と点(-2,0),(3,0)という共有点を持つ。
線分の長さは共有点のx座標の差で計算できるので
3-(-2)=5
である。

この例題を見れば分かるとおり,x軸との共有点の場合は
与えられた関数の零点を求めてx座標の差を計算すればよいので,
容易に因数分解できるときは何も問題にならない。
したがって因数分解しにくい,平方根が混じる場合が問題となる。

例題.
y=2x^2-3x-4x軸から切り取る線分の長さを求めよ。

解)
2x^2-3x-4=0として,この方程式を解く。解の公式を使って
 \displaystyle x=\frac{-(-3) \pm \sqrt{(-3)^2 - 4 \cdot 2 \cdot (-4)}}{2 \cdot 2}=\frac{3 \pm \sqrt{41}}{4}
これは与えられた関数のx軸との共有点のx座標であり,
その差が切り取る線分の長さであるから
\displaystyle \frac{3 + \sqrt{41}}{4} - \frac{3 - \sqrt{41}}{4}=\frac{\sqrt{41}}{2}
である。

最後の式を見れば分かるが,2次関数がx軸から切り取る線分の長さは\displaystyle \frac{\sqrt{b^2 -4ac}}{|a|}である。
分母に絶対値がついているのはa<0の場合も考えているからである。
センター試験で覚えていると使えることもあった公式だが,共通テストではどうなるだろうか。

この方法以外にも解と係数の関係を使う方法もある。書いておこう。

解)
2x^2-3x-4=0として,この方程式の解を\alpha , \betaとする。ただし\alpha < \betaとする。
求めるx軸から切り取る線分の長さは \beta - \alphaである。
解と係数の関係より\alpha + \beta = \frac{3}{2}, \alpha \beta = -2である。
対称式の計算(\beta - \alpha)^2=(\alpha + \beta)^2 -4 \alpha \beta=\frac{9}{4}+8=\frac{41}{4}となるから,
2乗を外して\beta - \alpha =\frac{\sqrt{41}}{2}を得る。ここで\alpha < \betaを使った。

身の丈、のこと

昨年、当時の萩生田文科相大臣が「身の丈あって勝負」すればいいとのたまった。

どういう意図だったとかは後付であって、本音なんだろう。
地方のどうでもいい連中のどうでもいい戯言はくだらないと切り捨てているわけである。

自分はその地方に生まれて、今も住んでいる。
都会との格差を感じない日はない。

ここはすっかり数学ブログになっている。
ありがたいことに色々な方に見ていただいているようだ。
地方で塾や予備校に通えない高校生や、数学がネックになっている大学生も見ているかもしれない。
私はそんな皆さんの味方になりたいと思っている。

このサイトがどれぐらい役に立つかは未知数であるが、
無料で見られることこそインターネットの素晴らしさであることを強く意識して、
格差を跳ね飛ばすかのごとく多くの情報を提供したい。