かじかんだ指先は血が通っていることが信じられないくらい、自分のものとは思えなかった。同級生よりも細い指を見つめる。また爪が伸びてた。切らなきゃ。頻繁に台所に立つくせに爪を切るのをいつも忘れる。面倒くさい。爪なんて伸びなくていいのに。手袋は細かいことが出来ないから嫌い。スマホばかり触ってるわけじゃないけど、それでも手先という自分の感覚を細かく伝えられる部分が何かに覆われているのは気持ちが悪い。でも今日ばかりは、手袋をしないのはちょっと無謀だったかもしれない。

深く鋭く降り積もった雪は太陽の光を反射し、少年の美しい顔を照らしていた。眼を見張るほど端正な顔立ちの彼は、凍えた指先に自らの息を吹きかけ温めようとしているようだった。彼は美しかった。ここら辺では珍しい一面真っ白な景色も、彼の前では脇役だった。艶のある真っ黒で真っ直ぐ伸びた髪、絵に描いたように整った輪郭、大きな目鼻口。指は綺麗だった。

「あっ…」

少年が何かに躓いた。積もった雪の中へ盛大にダイブした。驚いて思わず声が漏れてしまった。助けたほうがいいかもしれないと近づこうとしたところ、ゆっくりと起き上がった。慣れたように服に付いた雪を払い、準備体操をするように肩を回した。特に心配はなさそうだった。できることならこのまま声をかけず、視界から消えるまで少年を見ていたいと思った。少年は走り出した。しっかりと足を地につけ、雪の寒さに負けずに元気よく。

転ぶのはいつものことだったから、むしろいつもより足元の悪い今日転ばない方がおかしなことだったと今ならわかる。もっと気をつけて歩けばよかった。かじかんだ指先にばかり気を取られていた。ボフっとした感覚だと思っていたら、べちゃっとしていた。雪ってこんなに水っぽいんだ。転ぶのには慣れてるから、特に痛いことはないけど、服が濡れてしまったことに落ち込んだ。家まであと少しなのに、空気がしんと冷えているからこの調子だと濡れたところからまた体温が下がっていく。急いで家に帰ろうと、今度は足元にしっかり気をつけながら走り出した。今日の夕飯は暖かいものがいいな、シチューかな、お鍋でもいいや。もう転ぶまいと、しっかり足を雪の下の地面につけているという意識をして、走って帰った。雪の下には地面、その下には春に咲く草花が今か今かと春を待ちわびているのかな、僕も同じ気持ち。はやく春が来て、誕生日がきて、大人になればいい。そう思って走った。