popoのブログ

超短編(ショートショート)

プロとして生きる

激しい雨の中、少年は倒れていた。

膝から血が流れ、痛みで顔を歪めている。

それでも、彼の目には諦めではなく、

再び立ち上がる決意が燃えていた。

 

少年の名前はアスカ。

彼は幼い頃からサッカーに夢中だった。

どんなに転んでも、どんなに痛くても、

彼は立ち上がり、ボールを追いかけ続けた。

 

アスカは順調に成長し、

高校時代には全国大会で優勝を経験する。

しかし、その直後、彼は残酷な運命に翻弄される。

膝の靭帯断裂。

医師からは「もうサッカーはできない」と宣告された。

 

「そんなはずはない!」

「まだ出来るに決まっている!」

アスカは諦めなかった。

リハビリに励み、痛みを克服するために努力を続けた。

それは想像を絶する苦痛だった。

それでも、彼は夢を諦めることができなかった。

「ぼく、いつかプロのサッカー選手になるんだ!」

母との…父との…そして友達との…誓いだった。

 

数か月後、アスカは再びピッチに立った。

かつてのようなスピードとパワーは失われていた。

しかし、彼はそれを補うために、頭脳と精神力を磨いた。

 

彼は試合に出続けた。

たとえ控え選手であっても、彼はチャンスを待った。

そして、そのチャンスが訪れた時、彼は全力でそれを掴んだ。

 

アスカは学校卒業後、プロのクラブからオファーを受けた。

彼はプロの世界で生き残るために、

さらに厳しいトレーニングを積んだ。

そして、ついにレギュラーポジションを勝ち取った。

 

アスカはどんな時も試合に出続けた。

怪我をしても、病気になっても、

彼は決して諦めなかった。

彼は自分の全てをサッカーに捧げ、頂点を目指し続けた。

 

アスカは30歳半ばを過ぎても、現役選手として活躍し続けた。

彼は数々のタイトルを獲得し、

レジェンドと呼ばれるようになった。

しかし、彼は決して驕ることはなかった。

「まだできる」「やり残したくない」

「俺はプロなんだ!」

彼は常に自分自身と向き合い、

サッカーへの情熱とプロとしての責任を持ち続けた。

 

それから数十年後の今。

 

「怪我を克服する強さ」

「スポーツ選手としての身体造り」

「プロとしての在り方」

 

それらは全てのスポーツ選手の礎となって

彼の物語と共に、今も尚、語られている。

666の誘惑

都心の片隅にある古いアパート。

その一室で暮らす青年は、

退屈な日常に虚しさを感じていた。

 

そんなある日、彼は古びたノートパソコンを手に入れる。

起動してみると、奇妙なゲームがインストールされていた。

タイトルは「666の誘惑」。

 

そのゲームは、プレイヤーに選択を迫り

その選択に応じてストーリーが展開していく。

 

最初は些細な選択だった。

道で拾った100円硬貨を

ポケットに入れるか、交番に届けるか。

 

彼は100円硬貨を「ポケットに入れる」を選択した。

するとゲーム画面に「あなたは最初の誘惑に負けた」と表示された。

 

それから奇妙な出来事が起こり始める。

彼は些細なことでイライラしやすくなり、

周囲の人間関係が悪化していく。

 

次の質問はこうだった。

少女の前に大好きなケーキがある。

あげるか、食べるか。

 

彼は「食べる」を選択した。

するとゲーム画面に「あなたは2つ目の誘惑に負けた」と表示された。

翌週、彼は仕事でミスが続き、解雇されてしまう。

 

仕事を失った彼はゲームに没頭した。

ゲームは彼にさらに選択を迫ってくる。

お金を盗むか、正直に生きるか。

彼は「お金を盗む」を選択する。

するとゲーム画面に「あなたは3つ目の誘惑に負けた」と表示された。

そして翌月、父親が亡くなった。

 

彼はどんどん追い詰められていく。

 

そして遂に、ゲームは最後の選択を迫る。

このゲームに

命を捧げるか、抵抗するか。

 

現実世界で嫌なことが続いていた彼は、

人生に絶望していた。

そして「命を捧げる」を選択してしまう。

 

すると、パソコン画面が真っ暗になり、

同時に彼の部屋の電灯も消えた。

部屋の中は不気味な静寂に包まれる。

 

すると、背後から不気味な声が聞こえてくる。

「ゲームは終わった。さあ、命を差し出せ。」

 

彼は振り向くと、そこには真っ赤な目をした悪魔が立っていた。

悪魔は不気味な笑みを浮かべ、彼の魂を引き抜こうとする。

彼は、最後の力を振り絞って抵抗しようと試みるが、

悪魔の力には敵わなかった。

 

部屋には、パソコンと空の椅子だけが残された。

 

退屈や虚しさを感じ、時に落ち込んでいると、

刺激を求めて危険な選択をしてしまうことがある。

 

彼は正にその象徴であり、

人間の心の闇を映し出したのかもしれない。

小さな寄席

浅草寺仲見世通りは、いつも活気にあふれている。

観光客や地元の人々が行き交い、

老舗の店が軒を連ねる。

そんな仲見世通りの一角に、小さな寄席「楽今亭」があった。

 

楽今亭は、落語好きが集まる、知る人ぞ知る名店だ。

舞台は簡素で、客席は数十席ほどしかない。

しかし、その舞台から生まれる笑いは、何物にも代え難い。

 

ある日、一人の老人は楽今亭を訪れる。

老人は、落語を聴くのが何よりの楽しみだった。

 

少年時代の老人は、貧しく、娯楽もなかった。

しかし、近所の寄席で落語を聴くと、

辛いことも忘れられるような幸せな気持ちになった。

落語は、老人に希望を与えてくれたのだ。

老人は少年時代を振り返りながら、

人生の喜びと悲しみを思い出していた。

 

ある日、一人の青年は楽今亭を訪れる。

青年は、落語を聞くのが初めてだった。

 

青年は至って普通の若者だった。

友達とカラオケ行ったり、飲みに行ったり。

普段はバイトをしていて、毎日は充実していたが、

「これ」といった趣味もなかった。

正直、落語は何だか難しそうだ。

勝手にそう思っていた。

 

客席には、老若男女、様々な人が集まっていた。

皆、落語家の言葉に耳を傾け、時には笑い、

時には涙を浮かべていた。

 

その時の噺は、まるで浅草寺そのもののように、

温かくて懐かしく、そしてどこか切ない。

そんな噺だった。

 

客は、いつの間にか物語の世界に引き込まれていた。

浅草寺で売っている人力車の車夫、

仲見世通りで煎餅を焼く老婆、

雷門の前で記念撮影をする観光客。

落語家の言葉によって、浅草寺周辺の風景が鮮やかに蘇る。

 

噺が終わると、客席からは大きな拍手が湧き起こった。

 

青年は、心晴れ晴れとした気持ちになっていた。

「これが落語かぁ。」感動で思わず言葉が出た。

 

「そうだよ。楽しいだろう。」

隣にいた老人は、にこやかに青年に声をかけた。

 

楽今亭は、今日も多くの観客を魅了している。

落語は、人々の心を繋ぎ、温かい笑いを与えてくれる。

そんな、かけがえのないものなのだ。

クヌギの木の下で

緑豊かな山々に囲まれたカブトムシの村。

今年も夏の訪れとともに、

カブトムシたちの活気あふれる季節がやってきた。

 

村のはずれにある大きなクヌギの木の下には、

カブトムシたちの憩いの場となる広場がある。

力自慢のオスたちが自慢の角比べをしたり、

子どもたちは木の実を拾って遊んだり、

いつも賑やかな声が響き渡っていた。

 

そんなある日、広場にいつもとは違う

小さなカブトムシが現れた。

その名はミノ。

他のカブトムシたちよりも体が小さく、

ちょっぴり臆病な性格だった。

 

ミノは村の他のカブトムシたちと

一緒に遊ぶのが大好きだったが、

いつも大きな体で押しのけられてしまい、

なかなか輪に入れずにいた。

 

ある日、村では年に一度の大きなお祭りである

「カブトムシ祭り」が開催されることになった。

 

カブトムシたちは、自慢の角で相手を押し倒し、

土俵から落とした方が勝ちという「角力大会」や、

カブトムシの背中に子どもたちが乗って競争する

「カブトムシレース」など、様々な競技で盛り上がっていた。

 

ミノも、お祭りに参加してみたいと心から願っていた。

しかし、他のカブトムシたちよりも体が小さく、

角力大会ではすぐに負けてしまうのは目に見えていた。

それでも、どうしても諦められなかったミノは、ある決意をする。

 

ミノは得意の工作を生かして、

小さなカブトムシでも勝てるような秘密兵器を考えた。

それは、ミノ自身の背中に小さな風車をつけること。

 

風車の力を利用して軽快に進めば、

カブトムシレースで優勝できるかもしれない。

ミノは夜通し作業を続け、

ついに風車を自身の背中に装着した。

 

カブトムシレースの日。

ミノが登場するとみんなは笑った。

「あいつ何か背中に刺さってるぞ!」

「扇風機の代わりでもしてくれるのか?」

ハハハハハ。と笑い声が会場に鳴り響く。

 

そして、いよいよレースは始まった。

最初は、大きなカブトムシたちに押されて不利な状況。

「邪魔だ!」「どけっ!」とはじかれる。

 

遅れを取ってミノだったが、

「負けない!」「勝って友達を作るんだ!」と

強い想いを抱いた時、突風が吹く。

 

ミノは風車の力を利用して軽快に追い上げた。

ゴールまであと少し!

ミノは小さな体を活かして、

前を行くカブトムシたちの間をすり抜ける。

そして、ついに一番でゴールテープを切った。

 

会場からは、ミノの大逆転勝利に大きな拍手が送られた。

小さな体でも諦めず、勝利したミノ。

その勇姿は、お祭り一番の盛り上がりを見せた。

 

「さっきはバカにして悪かった。」

「お前、すごいな。友達になってくれないか?」

 

臆病だった性格も克服して、多くの友達ができたミノ。

 

今では・・・

村の小さなカブトムシたちに、

考えるチカラと努力の大切さ、

諦めないという強い想いを、伝えている。

僕はポンコツサラリーマン

サラリーマンの彼は、

仕事の激務からミスが多く目立ち、

いつも慌てふためいてばかり。

 

付いたあだ名は「ポンコツ

 

しかし、彼は誰よりも情に深く、

困っている人を放っておけない性格だと周りは知っていた。

 

ある日、彼は取引先との重要な商談を控えていた。

しかし、当日の朝、資料を忘れてしまったことに気づく。

「どうしよう。」

慌てて自宅に帰ろうとするが、

電車では時間に間に合いそうもない。

そんな彼を見ていた同僚は、

「もぉーう。忘れたのか?」と笑って、

自分の資料を急いでコピーして、彼に渡した。

「ごめんね。ありがとう!」

同僚は彼の仕事ぶりはポンコツだと思っていたが、

彼の優しさにはいつも感銘を受けていた。

 

「今日は彼女の誕生日なんだろ?」

「僕がやっておくから帰りなよ。」

その日、彼は両親と食事する約束があったのを知ったのは後日のことだった。

 

ポンコツだけど、頼りになる奴だからね」と同僚は言う。

 

「はい。これ。」

「この前、両親が待ってたんだろ?」

「ここの料理美味しいから行ってみな。」

そう言って3人分のレストランの食事券を渡した。

 

商談はうまくいった。

彼はとても喜び、

同僚と笑顔でオフィスに戻る。

 

オフィスのドアを開けると、

パーン!パ、パーン!!と

クラッカーの音が鳴り響く。

 

「おめでとう!」

そう言って彼の肩を上司が叩く。

「やりましたね!おめでとうございます!」

そう言って後輩が握手を求める。

 

どうして…

 

「ごめん。俺が先に報告いれちゃった。」

「だって、みんなめちゃくちゃ気にしてたんだよ。」

「一人で残業してたのも知ってる。」

「後輩の資料が途中だと、お前が残って仕上げてただろ。」

「機械の調子が悪いって言ったら、次の日には直ってた。」

「あれはお前が直してくれたんだろ。」

 

「ありがとう。ポンコツ。」

 

「僕はすぐテンパっちゃうし、

 仕事は遅いし、ミスもする。」

「ほんと、どうしようもないポンコツだ。」

「だけど、だけど、みんなが居るから僕は頑張れる。」

「ありがとう。」

 

「そんな人だから好きなんです。」

 

彼は、周りの人々から愛され、支えられながら、

日々成長していくのだった。