ファザー・テレサ

poqrot2006-01-24

自民党武部勤幹事長が昨年の総選挙中、堀江貴文容疑者を「私の息子です」と後押しした件で党としての責任を問われ「私はどんな若者にも父親のような気持ちで接している」と釈明した。
弁解に終始するあまり、つい「日本国民のお父さん」の座に名乗りを上げてしまった彼の唐突過ぎる売父宣言にはただ驚かされるばかりだが、こうなった以上は今後ありとあらゆる場面で徹底したお父さん役が求められて然るべきだ。思春期にあたる大勢の娘達から臭いと罵られたり、非行に走った大勢の息子達から財布を物色されたりと、嘘をお父さんで塗り固めて送る余生はもはや避けられないものとなった。

あの人の忘れ形見

poqrot2006-01-23

ふとした拍子に誰かを思い出すという事はままあって、その数秒後には思い出した事すら忘れてしまうなんて事もまた僕にはままあるのだけれど、今年に入ってから思い返す頻度が尋常でないせいで、遂には恋煩いと錯覚しそうなほど出ずっぱりの存在となってしまった大野和三郎という町長が滋賀県豊郷町にいる。
もちろんこれが戌年と無関係であろうはずはない。
人の死を他者の記憶からの消滅と定義すれば、大野町長はその犬然とした髪型ひとつで既に十二年おきに甦る命を手にした火の鳥である。
個性的とはこれほどまでに他の追随を許さない、あるいは許されたくないと思うほどの圧倒的な突出をして初めて口に出来る言葉だ。

僕も人々の記憶に留まり続ける道を選ぶのであれば、髪型を干支に似せる努力をしてみるのもいいとは思うが、それは生前の思い出がヘア一色に塗り変わるオセロゲーム的リスクも孕んでいて、とてつもなく躊躇われる。



ライブ初め

諸々の用事で大阪に出た。その諸々の一つがシングルズの鍵返却だったのだが、貸し出し日が昨年8月という管理票の書き込みひとつで、マスター歴13回の中堅にしてなぜ僕がお荷物的存在であることが伺い知れようものだ。これをお読みの関係者のみなさん、本当にごめんなさい。僕はバケモノダメ男ですが今年は悔い改めます。

大阪駅前第2ビルに立ち寄ったところ、昨夜上沼恵美子の番組でカレーうどんが紹介されていた四国屋というお店を発見。中途半端な時間だったがせっかくなのでカレーうどん定食を頼む。見渡す限りカウンターに並ぶのは9割方カレーうどん。これはちょっとしたオフ会だという気もしたが、あいにく上沼恵美子の名を口にする者はいなかった。誰一人としていなかった。
熱々のうどんを食べ終わると6時。見るつもりではなかったANATAKIKOU松浦正樹氏ソロにおあつらえの時間ということに気づいたので、急遽鰻谷sansuiへと向かう。これら全てが上沼恵美子の思し召しということだろうか。

松浦氏は「今日はありったけ暗い僕を見せる気で来た」という通り、しんみり調の選曲。とりわけリリーと同時期に作ったという「傘を渡して」のせつないメロディが胸を打った。

三十台も半ばに差しかかる僕が二十歳そこそこのオトナモードを見て、年齢について思うところがあるのは至極当然の帰結と言えるが、ライブ中そのことばかり思索せざるを得なかったのは、ボーカルがどう見ても高二にしか見えず、ギターに至っては中二にしか見えなかったせいだ。次に見る頃には彼らもすっかり大きくなって背丈も追い越されてしまうのかと思うと、見る側の叔父感や叔母感を焚き付ける新しいタイプのバンドではないかという気がした。

AUTAを観ずに帰宅。こちらも大変良いライブだったとのことで随分と勿体無い事をしたと思う。

大人割引

poqrot2006-01-09

エロビデオ店の売り上げが下降の一途を辿り、次第に経営を逼迫し始めたある日、オーナーが神妙な面持ちで話を切り出した。
それは地下鉄に「大人割引」という制度があり券売機で「特別割引」ボタンを押しさえすれば半額になる、だから今後の通勤手当は定期代ではなくこの割引後回数券の実用分としたい、と言うものだった。
真っ先にこの初めて耳にする「大人割引」なるものについて質問すると、オーナーも知人から聞いた話で詳しくは知らないとのこと。 しかし彼自身既にこの割引券を使用しているのだと言う。

大人割引。小人割引と一字しか違わぬというのに、その響きのなんと腑に落ちないことか。
字面を鵜呑みにして大人を無制限に摘要するとなれば、それは小人割引との併用から生きとし生けるものすべてが割引かれる事態を意味するのであり、平たくいえば人間割引である。その博愛に満ち溢れた精神性を重んじれば、人間だもの割引という極めてみつを色の濃い呼称に言い換えることだって出来そうだ。

しかしこども全てに適用される小人割引とは異なり、大人割引からは大人の振る舞いをした者だけに贈られるフェアプレー賞的なニュアンスがそこはかとなく汲み取れないでもない。
それは二人掛けの椅子では必ず奥につめて座るといった些細なものから、今まさに痴漢行為に手を染めんとする青年の震える手を掴んで視線でたしなめる、といった防犯チックなものまで多岐にわたる。
賞の性質上それは自薦より他薦が望ましいし、キャンペーンの際にはたった今、僕の脳内で名演を見せた長塚京三の起用を強く推す。

さて、合点のいく説明もなくどこか後ろめたい思いを抱えながらも、翌日僕はこの割引回数券を購入した。そこにはまだ広く知られていない裏技を試すことへの高揚も確かにあったように思う。
始めの数回は伏し目がちに改札を通り抜けていたので気づかずにいたのだが、ある時自分の通った改札だけランプが光っているのに目が止まった。
ハッとして遠く離れた駅員に目を向けると咎めるような目でこちらを凝視している。
この瞬間僕はこのマル秘お得情報が完全に違法であり、かつ筒抜けであるとを確信した。
そもそも「子ども」ボタンの英語表記が「CHILD」なのに対して「特別割引」は「DISABLE」と有無を言わせぬスタンスで不可なのだから最初から推して知るべしだったのだ。

検索しておぼろげながらに把握出来たのは、どうやらこれは身体障害者の方や原爆被災者、母子家庭の方、定時制高校の生徒らに摘要される割引らしいという事だった。
翌日、僕はオーナーにこの検索結果と共に今後は使わない旨を伝えた。
オーナーは「俺はもし止められても母子家庭の子やって言い張る」と手を引くつもりはないようであった。
確かに日頃からチェーンをじゃらじゃらさせた彼はこれみよがしに鍵っ子と言えたのかもしれないが、彼の母子家庭感が通用するとすればそれは彼が親サイドの場合に限るのであって、当時42才の彼が子サイドに扮していくら細やかな心の機微をも熱演してみたところで、それは押しつけがましいバックボーンに過ぎず功を奏すとは考えにくい。

その後ほどなくして閉店へと追い込まれため、後日談を聞くことはついぞなかったのだが、彼の一人芝居の出来映えが未だに気になっている。

年賀メール

poqrot2006-01-03

戌年ということで愛犬を素材にした年賀状が日本全土を飛び交ったに違いない2006年元日。
僕宛に届いた僅か2通の年賀状の両方が犬写真だったことからしても、そのワンワン狂騒のし烈さが看てとれようものだ。 中にはこの愛犬家特有の押し付けがましいファミリームードを鼻持ちならないとお感じになられる方も少なからずいらっしゃるに違いないが、そこは十二年に一度と思えば、犬の寿命を鑑みて一生に一度かもしれない晴れ舞台と大目に見て頂けるのではないかと思う。

さて今年も年賀状を書かなかった僕だが、愛犬家らしく戌年にちなんでみるのも悪くないと思い、年賀メールの返信業務を愛犬マシューに委託してみることにした。


「まなきなたまゆはまなまやらはやはやなみやなた゛ゆたやまわ゛たにやまゆまたにやまやをにまゃまちにやにやはたなや」


肉球と爪をランダムに押しつけて仕上がった文体はどことなく古文のそれに通じるものがある、と感じるのは果たして気のせいだろうか。


「やあゆたまよ あなきちなきさはにて」


それが証拠にマシューの手(前足)によって初めて書かれた(書かせた)上記メールの一文を、僕は今でも「はるはあけぼのやうやうしろくなりゆく〜」と同じようにして諳んじる事が出来る。
この機会にモバイルを介する動物とのコミュニケーションをお勧めしたい。あなたも普段聞くことのない彼らの本音にきっと肝を潰すはずだ。

さよなら2005、さよならポチクロ〜ポチミツとクローバー

poqrot2006-01-02

晦日をシングルズでマスターとして迎えた。昨年に引き続いて2年連続のことであり、これはもうサザンと並んで恒例カウントダウンのひとつに数えられてもいいのではないだろうか。

それにしても前日シフト申請とは急にもほどがあった。 慌てて載せたプロフィール内の告知やダイレクトメールは、目的とする宣伝効果以上に晒し者効果として強く機能していたような気さえする。

同日にCommon Cafeでは恒例カウントダウンイベントもあり当初から苦戦は予想されたが、案の定開店から2時間経っても誰も来る気配はない。
閑古鳥極まって一人でキリンジを熱唱していると、焚き付けた張本人ぎぃやまさん(id:yammy2)>がドアを開いた。挨拶もそこそこに「耳をうずめて」斉唱に戻り完唱後ようやく挨拶をする。
年越しそばにと差し入れて下さったどん兵衛を食べてケニーランキン談義に花を咲かせていると、Common Cafeからミゾブチくんとイデさんが様子を見に来てくれた。 すっかり髪の伸びたミゾくんに内心驚きを隠せずにいたがなぜかそれを告げることはしなかった。
日付をまたいでしばらくするとひーちゃんとakiyoさんがイブに
続いてのご来店。その後、イベント帰りのクロエさん、K-1帰りのたけたけさんが次々と来店してくださった。
たけたけさんは鶴瓶から格闘技とあちらこちらに飛ぶ話題を全て拾ってくださって知識が豊富な方だった。
先日の年齢当てクイズの件もあってクロエさんには腫れ物に触れるようなピリピリ感で接したつもりだったが、帰り際の口調からして僕はまだ贖罪された訳ではないようである。
「どちらにお住まいですか?」に対する返答では飽き足らず、必ずそこから詳細地域を問いつめるやり口がなぜか僕の心を捉えて離さないakiyoさんは、この日そこから話が広がり実を結んだ事に至極ご満悦の様子だった。
ひーちゃんさんもたけたけさんもお笑いに造詣が深く、かなりマニアックな話題が止まり木で飛び交っていた。 一つはっきり言えることはひーちゃんは笑ってはいけないハイスクールを繰り返し見過ぎであるということである。

朝6時過ぎに店を閉めると、SINGLES斜め向かいにある網敷天神社で初詣。
大阪駅の改札を抜けた場所で、手と手を重ねてなぜか、

「マイミクー」「オー」

と部活っぽく締めくくって銘々が家路に就いたのであった。

傷つけてしまった人へ

時に若さゆえの身勝手な振舞いで人を傷つけてきた。
周囲など目に入らなくて、ただがむしゃらだった全力投球の日々。
幸せを望む、その思いだけだったのに。

15年前の元日、家族で訪れた上賀茂神社
その年は野茂英雄近鉄バファローズに入団、タイトルを総ナメにしたシーズンオフの事だったとはっきり記憶している。 野茂になぞらえて覚えていたのは何も偶然ではない。また賽銭を投げ込む人垣から少し外れた所に立つ僕の佇まいが野茂の影を帯びていたのも決して偶然ではい。調子に乗りやすい若者はいつの世にも一定数存在するものだが、この時この境内でとびきりの存在がおそらくこの僕だった。

小さなアーチを描いて投げ込まれる賽銭を尻目に、一人豪速球を投げ込む気満々に息を整える高校生。その異変に妹はいち早く気がついたが、僕は制止を振り切るようにしてワインドアップで振りかぶった。
毎日鏡の前で小汗をかきながら入念に作り上げたトルネード投法。引き絞った弓のように身体をグイッと後方に捻るとその復元力を体重移動に乗せる。リリースの瞬間、僕はこれが生涯最速の投球であることを確信した。同時にその弾道があまりに低過ぎた事も。
しなやかな腕の振りから投じられた推定時速108km/hの5円玉は糸を引くような低い軌跡を残すと、次の瞬間「ガチッ!」と鈍い音を立てて地面に転がった。

「ウゥッ!!!」
新春の賑わいにこだまする明らかに場違いな打撃音と呻き声。
浮かれた空気は一瞬にして凍りついた。
被弾したのはよりによって頭部を保護すべきクッション材を一糸まとわぬ40がらみの男性だった。
猿人から進化する課程で人類が遺伝子レベルの判断で不必要としてきた体毛。その最期の砦として残された頭髪をこれまた遺伝子レベルで受け付けようとしなかったこのずるむけた男性は、僕の放った流れ弾(それは剥き出しのお年玉と言い換えてもいい)を受けて頭を抱えたまま身じろぎ一つ出来ずにいる。

群集が固唾を飲んで見守る中、男性は力ない所作でこちらを振り返った。
「お、おまえ、、、おまえええっ…!!!」
目に涙を浮かべた彼は、激痛のあまり自らが被った事件の全容を把握することもままならないのか、それ以上言葉を失った。 そして謝罪し続ける僕をひとしきり睨み終えると、彼は無言で背を向けて神前に向き直った。

再び露わになったその後頭部にはうっすらと血が滲んでいた。
クラッチカードのようにコインで頭皮を削られた彼が、一年の始まりを「残念」で迎えたことだけは間違いなかった。
僕はもう誰も傷つけたくないし、全力投球もしない。