舞台「あんちゃん」を観て (ネタバレあり)
2017年7月18日(火)
北山宏光主演舞台「あんちゃん」昼公演の感想ブログです。
ネタバレに触れる部分もありますので、観劇前の方はお控えください。
とうとう待ちに待った18日(火)北山宏光くん主演の「あんちゃん」を観劇できました。
凄まじいチケットの争奪戦でFC枠も、プレイガイドも全滅。挙句詐欺に引っかかりかけたり、ずっと年下の中学生に私の月給分の値段を提示されて「払えるんなら一緒に入ってもイイYO☆彡」って言われてみたり、観劇に至るまでこんなに精神的に落ち込んだのは初めてかも知れません。
若きヲタク達よ履き違えるな、相場理解という言葉。
そんな最中、「その人詐欺です!だめー!」って声をかけてくれる同担さんがいたり、貴重な貴重なチケットなのに「よかったら入りませんか…?」
ってお声がけして下さったフォロワーさんもいて、無事に観劇することが出来ました。
本当に、この事に関しては感謝してもしきれないというか…今までどうしてもヲタクごとでトゲトゲせざるを得なかったんですけど、ここにきて久しぶりに人の純粋な優しさに触れて涙が出るほど有難かったです。本当にありがとうございました!!!
自分も、ヲタ活する時もちゃんと周りに対して気配り心配りをして接していこうって思いました。
ヲタク is Beautiful !
今回の舞台、本当に観るまで楽しみで楽しみで。なるべく純な気持ちで舞台上の役者さんの感情を受け取りたかったのでネタバレも回避して、ふんわりしたものだけTL上で眺めていました。
そんな中でも度々聞こえてくる感想は「家族についてコンプレックスがある人は見ると苦しいかも」「家族について悩む人には特に刺さる」「まるで自分の様で苦しかった」と言うものでした。
今回の舞台は、ある家族について描かれています。
主人公は北山宏光くん演じる凌くん30歳。8mmビデオなどのテープをDVDに焼き付けるアルバイトをしています。幼い頃に父親が経営していた会社の経理の女性と不倫して家を出ていってから、母親の瑛子が女手一つで凌と2人の姉の冴と准を育て上げました。
早くに結婚した冴は夫と息子の快と3人暮らし。准はキャリアウーマンで、化粧品会社の営業の仕事をしています。
姉2人が実家を出た後も、凌だけは残って母親と2人暮らしをしていました。
そこにひょっこりと居なくなったはずの父、国夫が現れるところから物語は始まります。
姉2人はカンカンになって「今さら話すことなんてないから!」と拒絶します。
そんな2人を何度も、お母さんの瑛子はふんわりした表情で「お姉ちゃん、そんな事言わないで」「またお姉ちゃんはそんな事言って…」とまるで受け流すように宥めます。
作品全体を通して、お母さんはずっとふわふわと、話がわかっているのかわからないのかこちらもピンとこない柔らかい態度で子供たちに接していきます。
白黒はっきりつける事を全くしないキャラクターに、恐らくモヤモヤしてしまうひとも居たのかなあと思います。
良くいえば「可愛らしい雰囲気の人」、反対に悪くいえば「はっきりしなくてイライラする人」だったのではないでしょうか。
私も、この手のタイプの年配の女性はどちらかと言うと苦手で。
以前、地元に出来た新事業の管理業務(といってもぺーぺー)の仕事をしていた時、地元では考えられない高待遇の条件で門戸を広く開いて募集をかけたら、凌くんのお母さんみたいな年配の女性ばっかり集まってしまったことがあって。
クライアント相手でも白黒はっきりつけずにふんわりと「あらあら、困ったわね」「そんな事言わないで〜」「あらあら、まあまあ」といった具合で、いくら注意しても改善されずほとほと困り果てた事がありました。
本当にその時期の私はカリカリしていて、毎日つり目になってひと回りもふた回りも年上のその人達を睨みつけながら必死に仕事をしていたんですけど、その時の直属の上司に言われたのが「でも、こういうお母さん達だからこそ家庭内はふんわりして上手くいってるんじゃないかなあ」という言葉でした。
たしかに白黒はっきりつけることに関して、彼女達は機能しなかったけれど、家庭という狭いフィールドに置いて善悪をきっかりとつけることは必ずしも正解ではないんですよね。
やんわり、ふわふわとした瑛子さんだからこそ、お父さんの国夫が居なくなっても凌や冴、准と家族として居られたんだなと思いました。
凌は幼かった日のことを思い出します。
自室でゲームをやっていると、ビデオカメラを持ったお父さんとお母さんが大はしゃぎで部屋に乱入してきます。
「見えないよ、邪魔しないでよう〜…」さっきまで30歳のアルバイターとして舞台に立っていた彼が、このシーンでは幼い喋り方で小学生の凌くんを体現します。
少し拗ね気味の凌に、お父さんお母さんは「弟か妹が欲しいって前に言ってたろ?できるかもしれないぞ」「順調にいけばお正月くらいに会える」と赤ちゃんが出来た報告をします。
目をぱあっと輝かせて「本当!?」「僕、弟がいいなあ!」と嬉しそうに話す凌。
お父さんは、弟妹が出来たら凌の呼び方は「あんちゃん」になるんだと言います。
「ママ、頑張るからね!」と瑛子もはしゃいで、すごく幸せに溢れた家族がそこにいました。
でも、この後で家族は変化していってしまうんですよね。
国夫が浮気をして出ていった後、瑛子は昼職とかけ持ちしてスナックで働き始めます。
凌は、小学生にしてひきこもり。頭が痛いと学校を休んでずっと自室でドラクエをやっています。
そこに訪ねてくるのが、担任教師の芹沢。
コイツがまた暑苦しい先生!!
ドアの向こうで全く話を聞いていない凌に、延々と九九を教えたり、未来の選択肢は一つではないと小学生の興味を引くかのようにマンガの一文を持ち出して諭したりします。
現代よりも少し昔の設定なので、まだこんな熱血教師が居た時代なんですね。
先生の熱に押されて、お母さんも一緒に九九を唱えるのですが、瑛子さんは計算が苦手なのでうまく唱えられず…麦茶を飲みながら聞いていた凌くんが思わず「ぶへえ!」と吐き出してしまいます。
このシーンがめちゃくちゃ可愛い!日によっては噴き出しすぎてむせちゃったり、お客さんにかかってしまったりした様ですが、私が入った公演では噴き出した麦茶の量は多くないものの、顔にたくさんかかってしまったようでティッシュでほっぺたもギュウギュウと抑えて拭いてました。
麦茶を噴き出して汚した畳を凌くんがちゃんと自分で拭くのですが、その拭き方もまさに小学生男子の幼い拭き方なんですよね。
たしかに北山くんは成人男性のがっちりした体型なのですが、どんどん小学生の可愛い男の子に見えてくるんです。
熱く語る芹沢に、凌はドアを少しだけ開けて「違う未来を選んでも、不幸になったらどうすんの」と言い放ってまたピシャリとドアを閉めます。
まさにその通りだなって私も思います(笑)
正直、私の家も凌の家庭とはまた違った環境で幼い頃から苦しい気持ちをたくさん味わって来ました。
上手く言えないけど家庭が、家庭として機能しなかったんですよね。
そして、芹沢先生みたいな熱い言葉を投げてくれる人も幼い頃からたくさん見てきました。
みんな鼻高々に「こうしろ」「ああしろ」って言うけど、じゃあ失敗したらどうするの?怒られたら?そうやって今は言ってるけどあなたは帰る家があるじゃない、帰ったら温かいご飯があって、食卓があって、笑って話す家族がいるじゃないっていつも幼い小さな頭なりに思って拒絶していたんですよね。
凌と似た、じとーっとした目つきで周りを見ている子でした
…扱いにくかったろうなあ(笑)
でも、大人になった今なら芹沢の態度もそうするしかないのが何となくわかります。
経験した事の無い痛みって、あくまで想像するしかないんです。どれだけ相手を思っても、手を差し伸べようとしてもその尺度が体感したこと無かったら、自分のものさしで何とかするしかないじゃないですか。
芹沢は、熱い言葉に背中を押された経験があったんだろうか…私が幼かった頃、所詮は机上の正論と思っていた大人が投げた言葉も、その人にとっては大きな糧だったのかも知れません。
「きみは可哀想なんかじゃない」その言葉に救いを得る人もいれば、「逆に可哀想ってこと?」と思ってしまう人もいます。
こればかりは、環境の差は埋められないって、芹沢なりのやり方で凌と向き合うしかなかったんだって大人になった今、この舞台を通して思いました。
そうこうしているうちに、姉達が学校から帰ってきます。ただいまという声とドタドタした足音にビクッとして、両手で耳を塞いで縮こまる凌くんがこれまた不憫で可愛かったです。
帰ってきたお姉ちゃんに無理やりドアを開けるよう言われて、開けたらランドセルを投げ込まれたり、凌ばかり甘やかしてずるいという声を聞いてビクッとする様子はまさに姉2人に脅かされる末っ子そのものでした。
お姉ちゃんって、理不尽な所あるよね。
現代にシーンは戻って、凌のアルバイト先を聞いた国夫が早速、凌の店を訪ねてきます。
「DVDに焼いてほしい」と、ずっと持っていた家族のホームビデオを凌に託します。
この舞台には、生活感がみっちり詰まった凌の家がセットとして組まれています。
古い型の冷蔵庫や炊飯器が並び、最近発売された食器用洗剤が置かれているキッチンに、家族団らんが想像できるテーブル、年季を感じるソファーやテレビ、そしてくたびれかけの布団と学習机、ファミコンが置かれた凌の部屋である和室。
セットの展開はなく、そのままの配置で物語の場面は展開していくんです。
凌は国夫が帰ったあとの家の様子を話します。
舞台上にはお姉ちゃんとお母さんが出てきて、アルバイト先にいるはずの凌とお父さんが居るのにそのまま再現シーンが演じられます。
国夫を拒絶して、とことん責め立てる姉達に時々現実の国夫は追いかけられます。このシーン、狭い空間をフルに活かして登場人物の過去と未来の表情を一気に見せてくれるんですね。めちゃくちゃ素敵な演出やん?セット展開も無しにわかりやすいっていう省エネ演出やん?
姉達は「あの人を許さない」「今さらなんのつもりだ」と国夫をとことん拒絶します。
「あの人なんて言わないで、あなた達のお父さんなのよ」「ねえ、お姉ちゃん」と瑛子は怒る2人をおさめようとお茶を飲みながらふんわりと話します。
家族っていう縛りは、私は本当に勝手な鎖だなあと思っていて。
あんまり家族や家庭に良い思い出を作れなかったので、余計にそう思うのですが本当に勝手なシステムじゃないですか?
確かに、お父さんとお母さんはスタンダードな展開でいえば好きだから付き合って、お互いを愛して、それで結ばれる。
そして、そこに子供が生まれる。
でもそれって、ある意味勝手に2人の関係性の中にぶっ込まれるのと同じだと私は思っています。親も子供を選べないけど、子供だって親を選べなくて。
確かに、血を分けて私達はこの世界に生を受けるけれど、だからって100%お父さんともお母さんとも意思疎通が取れて、趣味嗜好や知能レベルが同じで、物事の善し悪しから味の好みまで、似ているところはあれど全く同じって事は有り得ないと思うんですよ。
でも、ある日突然オギャーと生まれて、2人の関係性の中にぶっ込まれるわけです。
それって、すごい勝手なシステムだなあって。
だからって上手くいかないと、世間一般のレールに乗り切れてない気もするし、かといって傾いた家庭という建物をどうこうする力が幼い子供や上手く運営できない親にあるかと言うと、みんな難しい。
そんな中で、下に兄弟や姉妹が出来たら「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼ばれるし、逆にもう上にいたら「弟」「妹」と呼ばれるんです。生まれた時から。
家庭内で与えられる「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」「弟」「妹」ってすごく勝手に巻き付けられた役割だって私は思います。
劇中でお母さんはお姉ちゃんふたりをなだめる時「ねえ、お姉ちゃん」と何回も優しい声で言います。
ふんわりと、優しく諭すようで、それはある意味無意識に重い重い鎖をきつく縛っているのではないかと、お母さんの優しさを見ながら少し苦しかったです。
怒って時に叫び散らす娘達を見ながらも、お母さんは「もう昔のことはいいのよ、この歳になったらどうでもよくなっちゃったの」とお茶を啜ります。
昔、スナックで働いていた瑛子の元にひょっこり現れた国夫がこんな仕事なんかやめろと借金を全額返してくれたお陰で、准は大学に行けたのだと言う瑛子。たじろぎながらも、それはもともと国夫が作った借金だと怒るお姉ちゃんふたり。
「まずは謝る所から、それからじゃないと話が進まない」そう姉達が言っていたと凌は国夫に伝えます。
ビデオテープを預け、店を出ていく国夫。凌は1本のDVDを国夫に渡します。凌が監督を務めた自主制作の映画で、小さな街の映画祭で賞をもらった作品なのでした。
さっき家に来た時に言っていた、1杯飲みに行くなら今日行かないかと誘う凌。
「今日は、いい」としどろもどろに断ろうとする国夫を無理に了解させて、2人は居酒屋「天狗」でお酒を飲むのでした。
多分ここだったと思うのですが、凌が途中で国夫から預かったテープをDVDに移しながら映像を見るシーンがあるんですけど、劇場いっぱいに学校行事である運動会や学芸会、マラソン大会の様子や卒業式の様子が映し出されます。ただ立ち尽くしてそれらを眺める凌の背中と、それぞれ反響する子供たちの音声、重なり合って映し出される映像達がすごく美しかったです。
場面は変わって、凌の子供時代。
おそらく職員室でしょうか、テーブルに揃う芹沢先生と小学生の凌。
どうだこの劇、面白いだろうと芹沢は凌に聞きます。芹沢先生の作った台本で学芸会で劇をやる、主役は凌にやらせたいと凌に頼むのでした。
「…つまんない」
口を尖らせて、目を合わせずにテーブルの隅を見ながらぼそっとつぶやく凌くん。さっきまで30歳のアルバイターだった彼。でも、もうそこにはランドセルにリコーダーを挿してむすっとしている小学生が居ました。
芹沢先生はおでんをモチーフにした劇「おでん はじめて物語」を書いて来ました。主人公は「ちくわぶ」です。味もせず、ちくわにもなり切れない。そこで実は父親であるちくわに勇気をもらって、そんな彼がたまご大王に挑んでいく、みんなは最後仲良くおでんになるという話です。
……凌くん、コレつまんないわなあ(笑)
「いやだぁ…やりたくない」とぶすくれて、凌は芹沢先生を拒否します。
黄色い帽子にランドセルの自担が拗ねる、ドチャクソに可愛いです。
なかなか主役を演じる事に同意しない凌に、芹沢先生は「お父さんに主役をしている姿を見せてあげないか」と提案します。
芹沢先生は直接お父さんと連絡が取れた訳では無いものの、今働いている現場を知り合いに教えて貰って居場所を知っていたのでした。
正直、芹沢先生のこの行動は本当にずるいなと思いました。
乗り気ではない子供の気持ちを向かせるために、目の前にニンジンをぶら下げることは効果的なのかも知れません。
ただ、今回の凌くんに父親をニンジンとしてぶら下げるやり方は本当にずるいなと思いました。
凌くんに前を向いてもらう為にはそうする他に、なかったのかも知れませんが…一時は引きこもってしまうほど両親の離婚で心を痛めた凌くんに対して、芹沢先生がした事はずるくて、無責任で、まるで大人の勝手だと私は思いました。
舞台は現代に戻ります。
お母さんが出かけて、姉2人と凌くんだけの実家。
姉2人は、凌くんが父親を擁護しすぎていることが気に食わないので非難をします。
凌くんはそんな事ないと反論しますが、ずっと父親に会いたかったから仮病を使って頭が痛いと学校を休んでいたんだろう、ドラクエの主人公の名前が「くにお」だったとまくし立てられます。
その後も続くお姉ちゃん達からの説教は、ちゃんと生活費を収めているのか?将来母の介護をするのは凌なんだからしっかりしろ、国夫が金の無心をしてきたらきっぱり断れという内容でした。
それに言い返す凌くんの一言「もう30だし…頑張ろうかな」
ハイ説得力の欠片も無い〜〜〜☆彡☆彡☆彡
凌には、映画監督になる夢がありました。でも、実際は難しく小さな映画の助監督をやったり、自主制作で映画を作ってYouTubeに載せたりしているのでした。
居酒屋で、スマホを片手に「(周りが騒がしくて)音が聞こえねえな」と言いながらも息子の作品をどこか嬉しそうに眺める国夫。「パケホーダイ入ってる?お金かかっちゃうよ」と照れくさそうに心配する凌。
「ううん、いいんだ…あと2、3分だから」とスマホをずっと眺めている国夫と「さっき24年振りの再開って言ったけど、俺とは22年振りだよな」と凌は乾杯します。
「…えっ、そうだったかな」「忘れたの?」なんて2人が話します。
「ぼくは、絶対あきらめませ〜ん!」
凄まじい棒読み&死んだ目でちくわぶを演じる小学生の凌。
芹沢先生と、お母さんもはんぺんやたまごの役を代わる代わるやって練習に付き合っています。
もうこのシーンがすごく可愛い!とにかくやりたくない雰囲気満載の凌に、ノリノリのお母さん、そんなお母さんの頭についている紙製のはんぺんを付け替えてあげる芹沢先生。
みんなに酷いいじめに遭っていた主人公の「ちくわぶ」が偶然「ちくわ」に出会って助けられる。実は「ちくわ」は「ちくわぶ」の父で…という脚本。
その中ではんぺんちゃんに略奪愛をしかけたり、「僕には使い道は無い」というちくわぶの台詞があったりして宿題をしながら姉達が「これ、本当に小学生がやっていいの?」と口にします。
だんだん白熱してくるお母さんと芹沢の演技に、凌はぽつんと「やりたくない」と言います。
姉達がお使いを頼まれて家を出ていくと、お父さんに会ってきた話を「順番が違うだろ、凌」と芹沢に止められるのも聞かずにお母さんに伝えます。
「パパに、会ってきた」「パパんとこ、行きたい!」
たどたどしい話し方で、凌はお母さんに伝えます。
混乱気味の瑛子は芹沢先生に「国夫の事を忘れて生活できていたのに」「私たち家族のことは放っておいて」「凌を可哀想だなんて言わないで」と責め立てます。
そして凌に「行かないで、お願いだから…お母さんとずっと一緒に居て!」と泣き縋るのでした。
この時の凌くんが優しくて、切なくて、まだ幼い小学生なのに全てを諦めたような表情をするんです。
お母さんを見つめて、少し眉を下げてふわっと笑って「…行かないよ」と凌くんは言うんです。
このシーンの凌からは、覚悟が感じられました。
まだ幼い彼に、泣いて縋る母親が背負わせた覚悟です。
なんだか印象的なシーンがこの後にあって。
それぞれのお姉ちゃんとお母さんが話をするシーンなんですけど、見ていると常に「お姉ちゃん」として家庭内で機能してきた2人が、1対1でお母さんと話をする時だけ純粋に「母と娘」になる気がしました。
子供を夫に預けて実家にやってきた冴。お茶を淹れてお煎餅をお母さんと一緒に食べます。ソファーに移動して、足を伸ばしながら冴はポツリポツリと自分の家族について話します。「旦那が冴に出張だと偽って浮気をしていたこと」「会社に確認したら出張について把握していなかったこと」「それについてわかり易い言い訳をされた事」をお煎餅を食べながらどこか寂しそうに話すのです。
離婚する、と言う冴の肩を優しく揉みながら「そう言うけど離婚なんてね、しないわよ」と瑛子はふんわり語りかけるのです。
同じように実家に顔を出しに来た准とのシーンも印象的でした。
准が何気なく母親と話す中で、准は「ごめんね…」と最近仕送りが出来なかったことを詫びます。
「リコールが職場で起きて関係がないのにその余波で営業成績が伸びなかったこと」「おかげでチーフマネージャーという地位を下ろされて平社員になってしまったこと」を告白します。
「いいのよ、それにもらったお金には手をつけていないし」お茶を飲みながらお母さんである瑛子はやっぱりふんわりとした口調で受け答えをしていました。
「悪は排除する」
「悪には罰を与える」
「悪には報いを打つべき」
白黒はっきりさせることは、現代社会において当たり前です。毎日のようにニュースでは誰かが謝ったり、失言や失態について言及されたりしています。
でも、この家族の母親である瑛子は一切そういう事をしないのです。
演出の福田さんは「この物語はグレーだ」という旨のことをパンフレットの中で仰っていました。
確かに悪には天罰があるべきです。誰かを傷つけたり、悲しませたり、苦しませたりするなら、それをした当人にも必ず跳ね返ってくるべきであるし、だからこそ社会の秩序が保たれているのでは無いでしょうか。
でも、「家族」という小さな社会の中でなんでもそうして線引きをしてしまったら、苦しくなってしまうのかも知れません。
「家の中ぐらいグレーだっていいじゃん!」「何事にも線引きしてたら息が詰まっちゃうよ!」「家族の中ぐらい、たまには世の中で許されなくても足を伸ばしてゴロゴロしてたっていいじゃん!」
そんな風なテーマもあるのかなと観ていて感じました(あくまで個人の見解です)。
お母さんに姉2人が揃うと、話題はやはり出ていった父親のことや、30歳にしていまだアルバイトの凌の事になります。
その中で瑛子は国夫が会社を立ち上げた際に経理をお願いされたのを引き受ければよかった、それなら経理をの女の人と不倫してこんな事にはならなかったのでは…と話します。
そして「やっぱり凌には弟か妹を作ってあげればよかったのかしらね」と呟きます。
この時のお姉ちゃんの表情やお母さんの肩を優しくさする仕草から、もしかしたら、冒頭妊娠していたはずなのに凌くんの下に兄弟がいないのは、自分の意思で産まなかったのかも知れないと思いました。
昼の仕事と夜の仕事を瑛子がかけ持ちしても、子供達を養うのがやっとだったと作品中でも描写されていました。
冴と准は「そんな事ないよ」とお母さんを優しく慰めるように話しかけます。
「いつまでもそう思うのはあのぬいぐるみがあるからだ!もう処分しよう、するからね!」
冴は奮起すると、まだ幼かった凌が弟か妹の練習にと、オムツ替えをしたり一緒にお風呂に入れてヒタヒタにしてしまったりしたテディベアを表に捨てに出ていきます。
「ねえ、凌が“あの人“と一緒に来るんだけど」
しばらくして冴が強ばった表情で玄関から入ってきます。
凌が、父親の国夫を連れて帰宅してきたのでした。先ほど「謝罪しないと話が前に進まない」と言った姉の言葉を受けて、国夫に「言うことがあるんだろ?」と謝罪を促します。
「…すまなかった」
ただそればかり伝える国夫に、お姉ちゃん達は苛立ちます。当時借金があり出ていったら家族に迷惑がかかると思わなかったのか、子供を捨てて出ていって平気だったのか、自分なら絶対子供を捨てるなんてありえないと責め立てます。
それに対しても「ごめん」「すまなかった」としか返答できない国夫。
「もういい!何も考えてなかった事はわかった!」と突っぱねる姉に、凌は国夫が店に持ち込んできたホームビデオの束を見せます。
「これはマラソン大会の時に必死な顔で冴が走っているのが映っている」「その後ろをダラダラ准が走ってくるのも映っていた」「これは学校のバザーで准が全然値切らないもんだから売れ残って結局200円しか儲けが出なかった時」「中学校の卒業式で、冴が大泣きしているところ」
国夫は、子供達に隠れて学校行事などを密かに撮影して、テープに残していたのでした。
「何にも考えてなかった訳じゃない、見ててくれたんだよ俺達のこと!」
嬉しそうに姉達に言う凌ですが、姉達から帰ってきた言葉は「…キモ。」という返答でした。
「なんなのこれ、盗撮じゃない」「こんなので許さると思わないで、私たちの気持ちなんてわからないくせに!」冴は激怒します。
中学に上がったら陸上部に入りたかった事。でも、スパイクが買えないし放課後は早く帰って幼い凌や妹である准にご飯を食べさせる支度をしなければならないので諦めた事。
マラソン大会で必死の形相で走っていたのは、小学校で足の遅かった子が中学で陸上部に入って、抜かされて悔しかったから。
卒業式で大泣きしていたのは、中学卒業後は調理師の資格を取るために住み込みで働くことを決めたから。みんなは高校生になれるのに自分はなれないので悔しかったし学生生活が終わるのが本当に悲しかったから。
准がバザーで値切らなかったのは、少しでも家にお金を入れたかったから。ガラクタばかりで結局売れ残って、200円しか儲けが出なくて本当に悔しかった。だから、もう二度とこんな思いはしないと誓って一生懸命勉強した。
塾なんて当然通えないから、朝から晩まで勉強した。マラソン大会でダラダラ走っているように見えたのはそのせい。
怒りに任せて、思いっきりぶちまける姉2人の姿に会場から観客のすすり泣く声が漏れていました。
「あのさ、人の為って書いて“偽“って読むんだよ」
凌くんは呆れたように立ち上がります。
瑛子はそんな事しなくていいと言ったのに、卒業後は住み込みで働いて調理師の免許をとる、学校に通うより早く資格が得られるとすぐに家を出ていく選択をしたのは冴。
家を出た後、准にも「早く家を出た方が楽だよ」とアドバイスして2人で住み始めた。
バザーで儲けた200円だって、瑛子にお小遣いにしていいと言われてちゃっかり准は貰っていたこと。
家から大学に十分通える距離だったのに、そんなことしなくていいと瑛子が言ったにも関わらず実家を出て冴と住み始めたこと。
凌は姉を追い回し、怒鳴りながら自分の視点で見てきた姉2人の行動について責め立てます。
「なんで母さんがしていいって言った事はしないで、出てくなって言ったのに出ていくんだよ!!」
ニュアンスですが、この様に凌くんが怒って怒鳴ったところで、瑛子が泣き崩れます。
「すまなかった」と国夫が地に両膝をつけて謝ろうとします。
「もういい、もういい、ごめんね。母さんが悪かった。母さんが謝るから。」
本当に苦しそうに、絞り出すように背中を丸めて瑛子も土下座をしようとします。
必死に止めようとする姉達は「父親が今更帰ってきたからこんな話をしなくちゃいけないんだ」「そうだ、帰ってきたのが悪い」と再び国夫に恨みをむけます。
そこで国夫の口から出てきた言葉は「俺はお前たちのことを忘れてる、だからお前たちも俺のことを忘れてくれ」というものでした。
あまりにも酷い言葉に激怒する子供達。
「違うのよ」と説明をする瑛子。国夫は、交通整備のバイト中に穴に落ちて健忘症となり、記憶の一部が欠けてすっかり子供達の事を忘れてしまっていたのだと伝えます。
最初にお見舞いに行った時は、瑛子の事も忘れてしまっていたこと。しかし会ううちにだんだん記憶が戻ってきたので子供達にも会わせて思い出させてあげようとしたこと。
「すまなかった」と帰ろうとする国夫に、凌は「だから、帰ろうとするなよ!」とそれでは解決にならないと声を荒らげるのでした。
舞台は、凌の小学生時代に戻ります。
芹沢先生と一緒に、国夫が働いている現場に行く凌。
芹沢先生は「ぜひ主役をやるから凌くんを見に来てください!」と国夫に伝えます。しかし授業は金曜日。仕事が休めない、やらせて欲しいと言った現場だから休めないと理由をつけて国夫は断ります。
凌くんは、俯いて別に見にこなくていいと言うのですが…本当にその燻ったような態度が切なくてたまりませんでした。
「悪いな、あんちゃん」と謝る国夫に「もうあんちゃんじゃないから」「お腹の子は、天使になって飛んでったんだって」と俯きながら言う凌くん。
芹沢先生は、凌と国夫にキャッチボールをするように提案し、ボールとミットを押し付けて二人っきりにしてあげます。
気まずそうにボールを投げられずにいる2人でしたが「お前、ボールの持ち方も知らないのか」「こうやってボールは握るんだ」と国夫が凌にボールの持ち方を教えて、投げ始めます。
父親がいなくなった家庭にはお母さんと姉2人。凌とキャッチボールしてくれるような同性の家族って本当に父親だけだったんですよね。
「主役をやらなかったら、こうしてパパに会えなかった」と凌がボールを投げながら言えば、国夫は「ふざけた野郎だな」「なんかあいつ(芹沢)嫌いだな」と投げ返します。
お前も嫌いだろ?という問いに「…うん」と言いながら凌くんは返ってきたボールをまた投げます。
劇の内容と、凌が演じる役が「ちくわぶ」だと聞くと国夫は「俺はちくわぶ好きだけどな」「ちくわぶは、ちくわだよ」と優しくボールを投げます。
「ちくわぶは、ちくわじゃないんじゃないの?」と聞く凌に、細かく説明はしないけれどちくわだよと言う国夫。正確な答えになっていないかもしれないけれど、凌にとってこうして大まかにでも肯定してくれる父の愛は大きかったのでは無いでしょうか。
「ちくわぶって凌のことだよな」「父ちゃん居ないんだろ」と学校でみんなに言われて、もう学校に行きたくないと言う凌。
そんな凌を見て「パパのところに来れば転校もできる」「ママに了承を貰ってこい」とボールを投げ返す国夫。
こんな状況を生んだ要因は、国夫なわけで。国夫がこんな事を言うのは筋が通っていないとは思います。現実的に考えてなんのプランも無しに一度は手放した子供を可哀想だからと母親と引き離して育てるだなんて、第三者から見たら無責任な国夫には出来ないと考えるのは当然です。
でも、凌にはそれが嬉しかったんですよね。細かい訂正なんてふっとばして、凌にはただ、その大まかな受け止めてくれる存在が嬉しかったんだと思います。
「行きたい、パパのところ!」凌は国夫にボールを投げ返すのでした。
「だから、帰ろうとするな!」
出ていこうとする国夫に凌がそう叫んで、場面は現代に戻ります。
ここで初めて凌が、映画監督になりたかった事、映画を密かに自主制作していた事を家族に告白します。
でももう、30歳。いつまでもフラフラしていられないので、最後に1本映画を撮ってそれが評価されなければ終わりにしたいと言いビデオカメラを手に取ります。
凌が撮るのは、健忘症に陥った男が家族を思い出すまでのドキュメンタリー。
「あなたの捨てた家族を紹介します」と、まず母親の瑛子にカメラを向けます。
「母、瑛子」少し計算が苦手だけれど、昼も夜も働いていつも朗らかで笑っていてくれた。一番辛いのは母なはずなのに。
「長女、冴」しっかり者の姉。運動会や遠足で、お弁当を用意してくれたおかげでばかにされずに済んだ。
「次女、准」ガラが悪くてある意味一番国夫に似ていた。だけど、不登校だった凌が勉強についていけたのは、准が居てくれたから。でも実は准の仕送りは、困った時に凌が拝借していた。
「長男、凌」自分は未だにどうしようもなく、母親に甘えて暮らしている。
頭が痛いと学校を休んで不登校になれば、母親が父親に連絡を取ってくれると思っていた。初めて父親としたキャッチボールが忘れられず、一度はこの家を離れようとしたけどできなくて、父親と会うことも無くなってしまった。
「どうか思い出してください」「あなたにはこんな家族がいるんです!」
ビデオカメラを片手に、鼻周りを赤くしながら悔しそうに、悲しそうに、それでも一生懸命に国夫に詰め寄る凌くん。
その背中に今まで積み重なってきた家族の寂しさが全部乗っかっているようで、切なくて、悲しくて、可哀想で、それでも必死に家族に向き合おうとしているのがわかって涙が止まりませんでした。
姉達が家を出ても、ずっとずっと実家にいた凌くんは、ある意味ずっとこの家を見てきた人なんですよね。
姉達も家を出るまでずっと過ごしてきた家庭ではあるけれど、ずーっと今の今、最新の状況まで見続けてきたのは凌なのかなとこの時思いました。
ステージが暗転して、場面は居酒屋「天狗」に変わります。
ちくわぶを頬張る国夫を見て「ほんとに好きなんだね、ちくわぶ」と少し笑う凌。
相変わらず「あんちゃん」と自身を呼ぶ国夫に、もうやめてくれないかなと伝える凌。
「昔あんちゃんって呼んでた気がするんだ」という国夫に、ビデオカメラを向けながら「思い出した?」「撮られるの、慣れてきたね」と言う凌。
家を出て言った時に瑛子が妊娠していた事を告げると「ひどい男だな、俺…ほんとにそんな事したのか?」とショックそうに言う国夫。
凌は、そこで「初めてあんちゃんと呼ばれた日の映像」を国夫の前で再生します。
聞こえてくる「弟か妹が欲しいって前に言ってたろ?できるかもしれないぞ」という国夫の声や「僕、弟がいいなあ」という凌の声。
それを眺めながら、国夫は「なあ、もう少しあんちゃんって呼んでいてもいいか?」と凌に聞きます。
凌が「…分かったよ」と優しく答えて、この物語は幕を閉じます。
思い返すと、本当にこの物語はグレーです。国夫の記憶は完全に戻ったわけじゃない。辛い思いをした子供達の過去は変わらず、戻ってこない。国夫が前のように何の違和感もなく家族に戻れるかというと、それはなかなか難しい。冴は離婚しそうで、准は仕事が上手くいっていなくて、相変わらず凌はアルバイターで。
なんで父親が出ていったのかも、お腹の子についても明言されている訳では無いから、Twitterなどで流れてきた感想の中には「えっ、ここで終わり?」というものもいくつかありました。
でも、この物語はあくまでグレーなんですよね。
最後の終わり方も、ピリオドを売ったわけではなくてこれから先、凌は「あんちゃん」とまた呼ばれていくんだなと想像させる終わり方だったと私は感じました。
きっとこれからもこの家族が、喧嘩しようといがみあおうと、助け合おうと感謝しあおうとずーっと続いていくからなんですよね。
何一つ解決はしていないけれど、これからこの家族がどんな風に過ごしていくのか、ぼんやりと浮かぶような舞台でした。
完全に白黒つける今の世の中は、確かに当たり前だけれど、グレーがあったって良いじゃない。
完全に白黒つけてしまったら、酷い事をした国夫は健忘症を患いながらも老後は孤独に過ごさなくちゃいけない。
瑛子は辛い思いをさせた子供達と天使になってしまったお腹の子についてもずっとどこか抱えたまま生きていかなくちゃいけない。
凌はとっとと就職をして夢を諦めなくちゃいけない。
冴は浮気された夫と離婚して子供を抱えて生きていかなければならない。
准は会社が起こしてしまったリコールの件で収入が下がって生活が辛い思いをしながら働かなければならない。
たとえ家族が元の形に戻ったとしても、この事実は変わりはないと思います。でも、くっついたり、離れたり、あるいはその中間でたゆたっても良いんじゃないのかなと今回の舞台から伝わってくるグレーの雰囲気を見て私は思いました。
許す許さない、白黒つける事が全部では無いんですよね。
今回、本当に久しぶりにグローブ座に行くことが出来て良かったです。
グローブ座は初めて自分で稼いだお金で舞台を見た劇場で。その時まだわたしは高校生でした。
生のお芝居を見る機会って、田舎の高校生にはそんなになくて、お芝居がどんなものなのか、どんな風に展開していくのか等、本当に当時の私には未知の世界だったんですよね。
そして、初めて目にしたお芝居という世界に心を奪われて今に至ります。
私が初めて北山くんという存在に惹き付けられたのはコロコロ変わる表情から目が離せなくなったからです。
彼の瞬時に変わる表情は、見ていて本当に飽きなくて、心を揺さぶられて、たくさんの人を惹き付けるんだろうなって思います。
だから、こうやって思い入れのある劇場で舞台に立っている姿、しかもスタンドプレーが見れたことが本当に嬉しかったです。
こんな日が来るなんて、思っても見ませんでした。
本当に、本当に、1回きりではあるけれどこうして彼の姿を見ることが出来て、この上なく幸せでした。
今回チケットをお譲り頂いた方には感謝してもしきれませんし、こうやって観劇するまで拡散の手伝いをしてくれた方やなんとか入れないかとチケットを探してくださった方、詐欺にあいそうになった際に注意してくださった方、本当に色んな人の関わりがあってこうしていられるんだと改めて実感しました。
私も少しでも、誰かに何かをしてあげられるようになろうって心に刻みました。
本当に、ありがとうございました。
素敵な夏を体験させてくれた「あんちゃん」に心から感謝を。
沢山の人の心にこの作品が響きますように。
デストラップにはめられた話③(ネタバレあり)
デストラップにはめられた話②はコチラ↓
デストラップにはめられた話②(ネタバレあり) - 飛んでけすなぎも
舞台デストラップ7月8日(土)昼公演の感想を綴るブログの続きです。
鍵のついた引き出しから、クリフォードが隠していた原稿を手に入れたシドニー。
新しい作品をタイプライターでクリフォードが打ち込んでいるその横で堂々とグラスを片手にソファーに座りながら読み始めるのです。
そこには、登場人物の名前は違えど私たち観客が先ほど1幕で観たデストラップと全く同じストーリーが書かれていました。
家の中の家具の種類や配置、壁にかけられた手錠やナイフなどの小道具についても隅々まで設定が書かれています。皮肉にもシドニーが講義で「細かいメモやプロットを最初に書け」と言った通り忠実に。
原稿を声に出して読みながら、シドニーは激昂します。まるで犯罪を自ら自白しているようなものだ、これが世に出たら言い逃れができない、どうするつもりだとクリフォードを責め立てます。
クリフォードは、若さゆえかどこか楽観的で「記者に質問されたらノーコメントと言う」「あの時観客であるマイラは本当に心から騙されたのでこの話は成功している」「この作品は主人公が劇作家じゃないとトリックが成立しない」と声を荒らげて言い返します。
彼はデストラップという作品を本当に大事にしていたんだなと思います。
初めて書き上げた大作が、尊敬しているシドニーに評価されて、あろう事か実際の殺人に使われてなおかつ成功し、こうして2人で働くきっかけともなったのですから。
クリフォードにとってデストラップは大事な人に捧げる愛情表現でもあったのではないでしょうか。
押し問答の末、シドニーがデストラップという作品を認め、クリフォードの才能も嫉妬しつつ認めます。
夜が近づくにつれて、シドニーの自宅近くに嵐が近づいてきます。窓の外からは風と雨の音がしてきました。
そこに、占い師のヘルガが停電時に使うロウソクを2本借りるためにやってきます。そこで初めて、ブーツを履いたクリフォードとヘルガが顔を合わせるんですよね。
「ブーツを履いた男がシドニーを襲う」と予言していたヘルガ。あわや一触即発かと思いきや、ここでも佐藤仁美さんの可愛らしいコミカルなスパイスが活かされます。
「ああ〜〜〜!!おまえ〜〜〜!!!!」「私の事、裏で若い頃は可愛かったって言ってただろ!?聞いたぞ!?」
「今でも可愛いわ!コンチクショウめ!!!」
片言の日本語でプンスカ怒りながらクリフォード演じる橋本くんに詰め寄る佐藤さん…と、一瞬何を言われているのかわからなかったのかキョトンとして受け答えをする橋本くん。2人の対比が可笑しくて、客席からくすくす笑う声が漏れていました。
ああ、橋本くんめちゃくちゃ可愛がられてるやんけ〜!!
クリフォードが席を外したあと、こっそりとヘルガはシドニーに「あの男、今夜中にでも追い出した方がいい、本当に」と深刻そうな表情で告げます。
そしてそこでシドニーは「ああ…近いうちにクビにしようと思ってたんだ」と不敵に笑みを浮かべながら言うのです。そう、さっきデストラップを認めたのは本心ではなく全くの嘘なんですね。
愛之助さん演じるシドニーは、物語全編を通してステージの上にずっと居るのですが、飄々と嘘をつくというか、まるでその時は心から本心のように表情を纏ってコチラに語りかけてくるのに、次のシーンではころっとそれを翻すことをする印象がありました。
落ち着いてスマートに、当たり前の様に相手を欺く。魅力的な悪い男ですね。
観客も本当なのか、嘘なのか、見ていても読み切れないぐらいさらっと欺くので本当に「さっき右って言ったのにええ、左に行くの!?!?」って感じでめちゃくちゃこのイイ男に転がされます。
ヘルガが帰った後、壁から外した劇の小道具で使われたピストルを手元にそっと置くシドニー。
クリフォードを呼び出して、新しい作品の場当たりを実際にやろうと誘います。実際に動いてみて可能なら作品にも真実味が増すからです。
登場人物は片手の使えない者と自由に両手が使える者。
弱者である片手の使えない者が、自分よりも自由に動ける者を力づくでも意図した所に移動させて、殺せるかという実証でした。
まずは「シドニー=片手」と「クリフォード=両手」に役を設定し、場当たりをします。
お芝居ながら、本当にこのシーンの二人の動きは激しいです。髪を振り乱しながら相手をソファーに押し付けたり、本棚にぶつけたり、必死の表情で息を荒らげながら成人男性がぶつかり合うんですよね。ッフゥ〜〜〜!!!!眼福〜〜〜!!!!背負い投げ〜〜〜〜!!!!!
結果は、片手よりも有利なクリフォードが簡単に背後を取られて負けてしまいました。シドニーが壁にかけてあるナイフに手をかけて「もっと本気で当たってこい、こんな簡単じゃ検証にならない」と言うのですが、この時点でだいぶ2人とも息が上がっています。
ハアハアしながらクリフォードが「ごめん、ケガをさせてしまいそうで」「君のことを引っ掻いた…」とどこまでもシドニーの事を気遣うんですけど、この台詞回しで疲れたOLの白米が何故か715倍は美味しくなりますありがとう。
続いて、両者の役を入れ替えて「クリフォード=片手」と「シドニー=両手」の役として再び場当たりをします。
「本気でぶつかってこい」とシドニーに言われるとしっかり片手を固定して、相手にぶつかっていくクリフォード。先程よりもさらに激しく両者はぶつかり合って、もみくちゃになりながら激しくぶつかり合います。
しばらくやりあった後に「別のシーンも検証しよう」とシドニーは言い、武器や場面を変えて二人の検証は続きます。
クリフォードに斧を持たせて、シドニーを襲わせる場当たりをしていた時でした。
先程準備していた銃をシドニーはクリフォードに向けます。
この時の両者の表情キングオブ最高!!!(語彙力)
「お遊びはここまでだ」と急に冷たく言い放つシドニーに、「え…?」と最初は何が起こったかわからず固まるクリフォード。
銃には早朝に実弾を込めておいたこと、ここでクリフォードを撃っても、警察を呼んで「斧で襲いかかられた」と正当防衛を主張することなどを淡々と伝えます。
クリフォードは、尊敬し愛する恩師に裏切られて命をも奪われるその寸前、跪いたまま絶望した表情を浮かべます。
乱れた髪と、汗ばんだ額に、悔しさや悲しさからいまにも零れそうな涙目になって鼻の周りがほんのり赤くなった表情が本当に本当に、絶望的な瞬間なのに美しかった。
特にその涙が光るのを見た時に「橋本くん、こういう場合のお芝居で泣く人なんだ…」と私の頭には浮かんできました。
泣き顔と大きな身振りで号泣してるように見せる舞台もあるし、泣くことも演出の意向なのかもと思いますが、本当にその瞬間彼は「クリフォード・アンダーソン」として感情を抱えて、そこに存在していたんですよね。
こんなに絶望的な状況を切り取っているのにその姿は美しくて、いつもどこかふんわりして、甘えたな表情ばかりの同い年の男の子が、心の引き出しにこんなに豊かな表現を持っていたんだと気づいた時、心を撃ち抜かれました。
クリフォードへ、捨て台詞のような別れの言葉を呟いて冷酷にシドニーは引き金をひきました。
大きな発砲音も大嵐の中に紛れて周りには聞こえなかったのでしょう。バタン、とクリフォードが地面に倒れます。
全てが終わったと不敵な笑みを浮かべるシドニー。デストラップの原稿の始末や、警察の手配をしようとしたその時でした。
「アッハッハッハッハ!!!!」
高笑いをしながら、クリフォードが起き上がります。
シドニーが使った銃の実弾はすり替えられていたのでした。
これがクリフォードの、デストラップ!!!!
そして、シドニーに今度こそ実弾の入った銃を向けながら、壁にかけてあった手錠を嵌めるように命令するんですね。
全ジャニヲタに言いたいのですが「自担×拳銃」って最高じゃないですか? それと「自担×手錠」っていうのも最高じゃないですか?
クリフォード、それどっちもやりま〜〜〜す!!!!
片手に手錠、片手に拳銃を構えながら「自分でつけろ」と手錠を付けさせるんですね、尊敬して、愛している恩師にやらせるんです。しかも冷酷な顔で相手を睨みながら。
お母さーーーん!!白米が美味しいよーーーー!!!
悔しさをにじませながら手錠を片手にはめるシドニー。もう片方の手錠は椅子に固定されて、身動きが取れなくなります。
その姿をみて嘲笑いながら貶すクリフォード。大好きな相手を縛り付けて、動けなくして、今やその相手の命さえも自分の手中にあるその状況に喜んでいるようにすら見えました。
シドニーは全く身動きが取れません。
クリフォードは原稿を奪還し、2階へ一旦上がっていきました。
悔しそうにため息を吐くシドニー。
そして、気だるそうに手錠を引くと、あっさりと外れます。
1幕で引っ張ると外れる言うとったのは、本当なんか〜〜〜い!!!!
舞台「デストラップ」の何が良いかって、物語中の小さな出来事もしっかり伏線として存在していて、めちゃくちゃ綺麗に回収されるんですよ。
そことそこ、繋がってた〜!!みたいなのが随所にあってハッと気づく頃には我々観客も罠にはまってるんですよね。
何気ない事が2重3重のトリックのタネになっていて、めちゃくちゃ面白い。
手錠を外したシドニーは、壁にかけてあるボウガンを手に取ります。
そこに、1階へと降りてきてしまうクリフォード。
恩師を尊敬し、愛し、またその恩師に魅了されつくしてしまった青年は、呆気なくその矢を受けて倒れるのでした。
矢が刺さったまま、ふらふらと階段を降りてきて、そのままソファーの背もたれに突っ伏してしまうクリフォード。
この時の橋本くんも、本当に微動だにしません。
この時の体制、Twitterで「干したお布団」と言われているのを目にしたのですがそれ位すっごくピッタリ背もたれに沿ってお腹を折る形で倒れ込むんですよね。
あんなに激しく動いた後でかなり苦しい格好のまま、一切体が動かず、息を全くしていないかのような姿で居られる橋本くん。
今すぐえらいプロデューサーは死体役をこの子にください。
遂にクリフォードの息の根を止められたシドニーは、急いで警察へ連絡をします。
「秘書に斧で襲われて、思わずボウガンで売ってしまった、夢ではない本当だ!」「頼む、早く来てくれ…!」
本当に言う通り、一緒に働いていた秘書を殺してしまったように自責の念を滲ませながら連絡するその姿は、嵐で停電した真っ暗な部屋のように暗い闇で満たされているのかもしれません。
その、最中でした。
むくり、と静かに起き上がるクリフォード。
先程空弾で撃たれた時の様に高笑いするでもなく、怒りに震えて叫ぶでもなく、静かに静かにシドニーの背後に歩み寄ります。
暗闇ですらっとした彼の姿がすーっと移動するんです。ゾッとして一気に血の気が引きました。
雷鳴が響くその部屋の中で、シドニーに打ち込まれたボウガンの矢を己の体から引き抜いてメッタ刺しにします。
叫び声をあげながら逃げ惑うシドニーを何度も、何度も、刺す場所も選ばずに執拗に刺し続けるクリフォード。
本当に、全編通して一番このシーンが恐ろしくて息ができませんでした。
雷がけたたましく光り、雷鳴が轟く部屋の中でついに息絶えるシドニー。
そして、その姿を見届けたクリフォードも、ついに倒れて息絶えるのでした。
本当に、本当に壮絶なラストでした。アイドルの現場に行っているはずなのに目の前で起こっている凄惨な場面に息をするのも忘れてただ身を寄せて固まったのはデストラップが初めてです。
劇中クリフォードは「第1幕はうまく書けたんだ、問題は第2幕さ」「第1幕で盛り上がった分、第2幕で盛り上がりにかけたらよくない」という趣旨の言葉をクリフォードに話していました。
クリフォード、あんた第2幕も大成功だよ……
この後、コミカルなポーターとヘルガが再び舞台に現れて「ここで超能力で読み取った事実を劇作品にしたらもうけられるのではないか」「超能力で読み取ったのは私だ、報酬は8:2で私が貰う」「8:2では納得いかない」「お前、シドニーに土地を売る時わざと安く言って利益を中抜きしようとしただろう」とワチャワチャ言い争いをして、この舞台は幕を閉じます。
「どんなにいい人に見えても欲はあって、裏の顔もある」「欲に支配された時、人間は傍から見たら理解ができない狂人になってしまう」と最後に理解できるのかなと思いました。
この舞台を見るにあたって、テーマが「サスペンスコメディ」で演出があの福田さんと言う事だったので、まさかこんなにゾッとして背中が冷たくなるような思いを劇場でするなんて思いもしませんでした。見終わったあとは本当に体感気温が3℃ぐらい下がります。
このまさかの裏切りも、もしかしたら福田さんが仕掛けた「デストラップ」なのかも知れませんね。
今回、大好きな橋本良亮くんがこんなにハードな「クリフォード・アンダーソン」をやった事、本当にすごい事だしカッコイイなと改めて思いました。
普段はほんわかとして、口下手で、何か考えてもうまく表現出来ずに燻ったり、実直すぎて周りに勘違いされ易い彼がこんなに複雑な気持ちを持った青年を演じているだなんて、こんな一面を持っていたなんて、ますます彼に魅せられました。
素人が何を言ってるんだと自分でも思いますが、演技って例えば泣くお芝居があるとして、その人の心の引き出しに「泣く!」っていう小物入れが無いとどっか上手くできないんじゃないかなって思うんです。
人間だから、いくらでもなこうと思えば泣けるけど、その小物入れを開いてキラキラしたビーズをみつめないと、本当に見ている人も泣いちゃうような胸を打つ仕事にはならないって私は思ってて。
今回橋本くんのクリフォードを見て、橋本君の中に確かにこのクリフォードを構成するきらきらしたビーズが入った小物入れがあって、それがちゃんと引き出しの中にあるんだなあって思いました。
何を言ってるのか、わかりにくいかも知れませんが。
そんな彼の一面を舞台を通して知ることが出来て、ますます大好きになりました。
橋本くん、すごいよ!とってもかっこよくて、とにかく凄かったんだよ!橋本くんの仕事はこんなにも、人の心を震わせてるよ!
正直こんなに観劇後のブログが長くなる作品ってなかなか無くて、本当に良いものを今回見れたんだなって幸せに思います。
まだまだ、舞台デストラップは公演期間中です。この素晴らしい舞台が一人でも多くの人の心を震わせますように。
無事に、千秋楽を迎えられるよう心より祈って。
※ストーリーを追いつつ感想を書いてきましたが若干の前後や、より詳しいシーン説明に関して物足りなさがあるかもしれません。ご了承ください!
デストラップにはめられた話②(ネタバレあり)
デストラップにはめられた話①はコチラ↓
デストラップにはめられた話①(ネタバレあり) - 飛んでけすなぎも
舞台デストラップ7月8日(土)昼公演の感想を綴るブログの続きです。
第1幕で恩師シドニーと結託し、シドニーの妻であるマイラに心臓の発作を起こさせ、殺す事に成功したクリフォード。
マイラが居なくなった後は、シドニーの自宅で劇作家兼秘書として、作品を作りながら働き始めます。
第2幕からは、重々しい大きめのニットを脱ぎ、デニムの裾もブーツにinして衣装に変化が見られました。シドニーとクリフォードの会話も、まるで対等な同僚の様に終始タメ口で和やかに進んでいきます。
デスクにてタイプライターでひたすら作品を打ち込んでいくクリフォード。大型犬とファンによく例えられる橋本くんが、大きな体で少し背を丸めながらぺちぺち、ガッチャンとタイプライターを打ち込み続ける様子は正直めちゃくちゃに可愛いです。
本当に、橋本くんがデスクワークするお仕事に就かなくてよかった。通りすがりのOLに頭から食われる。
しかしアイデアが溢れて、タイプライターを打つ手が止まらないクリフォードと反して、相変わらずシドニーはスランプのまま。何も浮かんできません。
ずっと椅子でクルクルと回ってみたり、足をどーんと伸ばしてみたりする様子は、こちらも負けずに大きなワンコの様でした。
さすがにクリフォードの目にも余るようで「もしかして、何もしてない…?」と聞かれますが、苦し紛れに「考えているんだ!」と反論します。
その最中、シドニーの友人である弁護士ポーターが訪ねてきます。シドニーが売りたいと言っていた土地の取引について、話をしに来たのでした。
この坂田聡さんが演じるポーターも、この物語にとってかかせない、コミカルで深みのあるスパイスなんです。
あまりにも早すぎるクリフォードのタイピングに「あいつ本当に打ってる!?」と突っ込んでみたり(最初は両手で打っている→だんだん早くなる→最終的に人差し指でぺぺぺぺぺぺ!!と連打するだけになり客席も大笑い)、家を出ていくクリフォードの挨拶が爽やかすぎると突っかかってみたり、10分超えたら相談料を貰うと言った途端に、シドニーに凄い剣幕で家の外に出されそうになってみたりと「ああ、福田さんの作品に必ず出てくるキャラクターだな」と思いました。
アドリブが多いのか、思わず一緒にやっている演者も押され気味になるのが見ていてとても面白かったです。
ポーターは、家を出る際に誤ってドアノブではなく上の鍵穴の凸を掴んでしまったクリフォードを一瞬たりとも見逃さず「おい若手!!見逃さなかったぞ!!」と呼び止めます。
更にクリフォードはシドニーにおつかいを頼まれて家を出ていくのですが、お使いの内容が「夕飯のサラダの材料」と「乳酸菌が入っていないヨーグルト」なのに対し、クリフォードは食い気味で嬉しそうに「はい!!」と笑顔で答えます。「乳酸菌は必ず入ってるよ!?」「そんな爽やかに、乳酸菌入ってないヨーグルトに食い気味に返事する人いる!?」というポーターの度重なる突っ込みにとうとうムスッとして無言になるクリフォード。
福田さんは演出に普段の演者の姿やクセを入れてくださるのですが、これがまさにいつもの恥ずかしさからムスッとしている橋本くんそのものでした。
ポーターは「えっ、もしかして怒らせた?怒ってるの…?」とアワアワしていましたが、それがまさに小学生が好きな子をからかいすぎて怒らせてしまったような慌てっぷりで、緊迫していた会場中が笑い声に包まれ、とてもほっこりするシーンでした。
爽やかにクリフォードが買出しに出かけると、シドニーとポーターだけの会話が始まります。
ここで、2人だけの間でクリフォードの話が出るのですが、シドニーが「どうやらあいつ、ゲイみたいなんだ」とポーターに言うのです。
シドニーもポーターも「仕事に個人の性的嗜好は関係ない」といった結論に落ち着くのですが、今回結末までこの物語を追うと、クリフォードが恩師のシドニーに抱いている感情は性愛だけでは表せないのではないかな、と私は思いました。
クリフォードは、シドニーを尊敬していて、存在に感謝していて、それでいてどこか独占欲というか、占有したいし思うように動いてほしい、支配したいという思いがうっすらと見える部分も感じられました。存在自体を崇めながら、大事に大事に隅から隅まで愛するようなその気持ちは、決して「性愛」という括りだけでは言い表せないのではないかと思います。
私は気が付けばもう10年近く、地方でアイドルのヲタクをやっています。
こうして今回の観劇の様にチケットを取り、交通手段を手配し、当日は目いっぱいお洒落をして、スケジュール帳には次はどこで〇〇くんを見ようと書き込んだり、こうして作品を受け取った感想を文章として書き留めたりしています。
多分周りのヲタク仲間もそうだと思うのですが、ヲタクをしていて1度は必ず言われたり耳にするセリフが「どんなに好きでもアイドル本人と付き合えるわけでもないのに…」という趣旨の言葉じゃないかなと思います。
実際私も非ヲタの人間やこうして日常的に何かを鑑賞することをしない人間からこの様な言葉を投げられることがあります。
ですが、単にアイドルヲタクといえどその嗜み方や好きの形は千差万別なのです。
中には本当にお付き合いしたいと願って努力を続ける「本気愛型」や、数多くのデータを収集し自己で集計しナマモノであるアイドルを調べ尽くす「分析型」、賛否両論はありますが、アイドルの容姿やクセを面白くイジって笑わせる「貶し愛型」も居るし、あの子はご飯ちゃんと食べてるかしら…眠れてるかしらと心配しいつも寛大な心で温かく見守る「母親型」なんていうのも居ます。
本当に、好きの度合いや応援の仕方、掛け持ちの有無や同担との付き合い方まで分別していったら、途方に暮れる種類になってしまうのではないでしょうか。
1度ヲタクの海にドボン、と飛び込んだらそういう情報量の水圧を一身に受けるんですよね。
ですが、海には飛び込まずにずっと水槽を眺めるだけの人も世の中には存在するわけで。
それが、どれ位の割合なのかわからないけど、そういう傍から物事を眺める人にはどうしても水槽の中の魚の名前が欲しいんですよね。
自分で理解するにしろ、誰かに説明するにしろ、我々ヲタクが推しに抱いている感情をまず単調にカテゴライズして、噛み砕いてみないとその魚をもし食べるって事になった場合、調理方法もわからないじゃないですか。
だから今回、シドニーがポーターに言った「どうやらあいつ、ゲイみたいなんだ」という言葉は、あくまでシドニーなりのカテゴライズ、そしてクリフォードなりの自分の言葉で言い表せない気持ちのカテゴライズが具現化したものなのではないかなと解釈しました。
弁護士のポーターは、本当にカンが鋭く頭が良く回ります。
出かけ際にクリフォードが、鍵のついた引き出しに原稿を閉まった事に気づいて、去り際にシドニーに伝えます。
しかしこのポーター、なかなか去らない。
ここからが坂田聡さんの本領発揮という所なのでしょうか、玄関のドアを開けたはいいものの「これで出番が終わりなんだ、もう少し居させてくれ」と舞台の設定を無視して懇願し、部屋に戻ります。
従来壁がある設定でここまでやってきたのに、決まりを無視してセットの壁(という設定)の隙間から帰ろうとしてみたり、セットと演技の都合上で下手側にポーターの顔が見えなかったので見せたいと舞台の端までニコニコしながら顔見せに行ってみたり、挙句は「芝居の邪魔しないからここに居ていいでしょ!」とソファーの裏にしゃがみ込んだりと、コミカルに延々と行われるアドリブの嵐に客席は笑い声と拍手の嵐、対峙するシドニーをかなり困らせていました。
苦し紛れに「だ、誰に向かって話してるんだ…!」「いいから早く帰れよもう!」と困った様子で笑いを堪えながら言うシドニー役の愛之助さん、焦った様子がなかなか見れないので可愛らしく感じました。
シドニーは強制的にポーターを玄関に立たせ、役に戻って必死に別れの決定打となるセリフを話し送り出します。
(※ポーターはあーあ、決まりのセリフ言いやがって!と不服そうでしたが。)
そして、壁にかけてあるナイフや部屋の中にある鍵を使って、クリフォードが使っている引き出しの鍵を何とか開けようと細工します。
引き出しの下に潜り込み、両手を突っ込むと、指が挟まって抜けなくなってしまうのですがちょうどそのタイミングでクリフォードが帰宅してしまうんですね。
「にっ…298、299、500!!!」と腕を曲げ伸ばししながら誤魔化すシドニーに「僕より計算できない…」と呆れ顔のクリフォード。
なんとか難を逃れ、クリフォードが目を離した隙に引き出しのロックを解除してシドニーは中にあった原稿を手に入れるのでした。
第2幕、この時点でまだ序盤なんですよね。幕間が終わって、再び緞帳があがってからここまで、細かな演出やコミカル要素がたくさん入ってきて「サスペンス・コメディ」がいよいよてんこ盛りになってきたなあと思いました。
でも、舞台「デストラップ」にはまだまだ続きがあるんですね。
長くなってきたので続きはまた後ほど、更新させてもらいます。ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
デストラップにはめられた話①(ネタバレあり)
2017年7月8日(土)
橋本良亮くん出演の舞台「デストラップ」を東京芸術劇場にて観劇してきました。
観劇して生み出された感情を、しっかりこの手で文章にして形にする事が好きなのではてブに感想を書きます。
【注】ネタバレに繋がる事も出てくるのでご注意ください!!!観劇前の人はリターン!!本当に「押すなよ、押すなよ」っていうフリではなくて、絶対その方がめっちゃくちゃ面白いから!!!!
舞台「デストラップ」は第1幕と、第2幕で構成されています。第1幕の終わり、水を飲む事すら忘れて、ただただ呆然とロビーに出た私の耳に入ってきた声はみんな「橋本くんが怖かった」「びっくりした、ハッシーが怖い」という声でした。
今回、私の応援しているアイドル、橋本良亮くんが演じるのは「クリフォード・アンダーソン」という青年です。
デストラップのあらすじを簡単に追いつつ、感想を書きますね。
物語の舞台は片岡愛之助さんが演じる劇作家の「シドニー・ブルール」の自宅。シドニーはかつて、大ヒット作を世に送り出した劇作家です。でも、最近は連続して失敗作続きのスランプばかり。高岡早紀さん演じる妻のマイラはそんな彼に寄り添って、大丈夫よと励ましますが、すっかり気落ちしています。
そんな彼に、橋本くん演じる「クリフォード・アンダーソン」から「デストラップ」という処女作が送られてくる所から始まります。クリフォードは、シドニーの講座で台本の書き方を学び、いつか大ヒットを飛ばす劇作家になる事を夢見て処女作を書き上げたのでした。恩師であるシドニーにぜひこの作品を読んで評価し、必要があれば添削してほしいと頼んできたのでした。
シドニーはクリフォードの作品を読んでみます。それはスランプ続きのシドニーからは思いつかない、若い才能に溢れた素晴らしいサスペンスの物語でした。
シドニーは、この作品を奪ってしまおう、孤独なクリフォードの命を奪って隠蔽すればバレない…と考えます。
妻のマイラはそんな事をしてはいけない、作品は共作にすればいいと諭しますが、かつて大ヒットを飛ばした自身がクリフォードという駆け出しの作家と共作してやっと世に作品を出せるという事実がどうしようもなく恥ずかしくて、納得しません。
そんな事をしてはいけない、きっとこれから良いアイデアが浮かぶはずよと必死に諭すマイラにそんな事しないよ、と悪い表情でたしなめるシドニー。夫婦といえども男と女、いい男のズルさってなんでこうも言いくるめられてしまうんでしょうか。マイラは確信は持てない状態でしたが、シドニーに宥められてしまいました。
シドニーは作品の感想を伝えたい、添削したいとクリフォードを自宅に呼び寄せます。
シドニーを演じる片岡愛之助さん、テレビドラマやバラエティで目にすることが多かったんですけど、いつも柔らかな雰囲気をまとっているイメージだったので幕が開いた瞬間からいつもよりずっと低めの渋い声で演じられていることに驚きました。そこには大作をかつて書き上げて名声を手にしたシドニー・ブルールが居たんです。
さあ、初めてクリフォードが舞台に現れます。チェックのシャツに少し大きなニットを重ね、ジーンズにブーツを履いた素朴な青年が恩師の家の扉を開けた時、憧れと尊敬のたくさん詰まった眼差しで嬉しそうにひとつひとつの事に喜びます。
かつてシドニーが書き上げた劇で使われた小道具やアイデアの種になるイリュージョンショーで使われた道具が壁一面に飾られているのですが、それを見て「これは〇〇の時の!」「〇〇で使われていた…あの作品が再演されなかったのは理解できない」とはしゃいで話す姿はまさに私たちヲタクと被るものがありました。
「憧れの劇作家の家に行けばやっぱりヤンチャに見えるくらいテンションが上がるだろう、だったら登場した時のクリフォードは明るい青年のイメージだな」とパンフレットで橋本くんが言っていた通り、大事そうに書き上げた脚本を抱えながら、時には膝を曲げて大きな体を上下させてはしゃいだり、シドニーに褒められて嬉しそうに目を輝かせたり、はたまたシドニーに失礼な事をしてしまってあわあわと慌てて取り繕ったりするクリフォードは、とても快活で可愛らしい夢を追う駆け出しの青年そのものでした。
コピーは他にないか、作品の事を他の誰かに相談したのかと確認しながらシドニーは作品について話します。まさにデストラップに獲物がかかるのを慎重に慎重に確認している状態ですね。
シドニーの自宅の壁には、かつてシドニーが書き上げた作品で使われた小道具や、アイデアのタネになる手品に使われる道具が所狭しと飾られていると先ほど書きました。作風はサスペンスなので、凶器として使われたナイフや手錠、斧や銃、ムチにボウガンなど禍々しいものばかりです。
夫の殺意が冗談だと確信が持てないマイラは「二人の共作にすればいい、ほら握手をして!」と必死に2人の劇作家の間を取り持とうと奔走します。
しかし、シドニーに添削してもらった後は、セカンドオピニオンの様に多方面の先生方にもこの作品を見てもらうつもりだと無邪気に話すクリフォードに、シドニーはかつて手品ショーに使われた手錠を両手にはめてみるように促します。
妻のマイラは、シドニーに「上の階へ上がっていろ」と言われるも、最愛の夫が殺人を犯すことをなんとか止めたくてずっと同じ室内のソファーに座っています。震える手で針仕事をしているふりをしながら。
「その手錠は実は外れる仕掛けになっているんだ、引っ張ってご覧」とシドニーはクリフォードに言いますが、いくら引っ張っても外れることはありません。
手錠の鍵を探すふりをしながら、壁にかけてあるナイフを手に取るシドニー。
シドニーの本意に気づいたクリフォードは、必死に彼と距離を取りながら「今日ここに来ることを知っている人がいる、自宅にメモを残してきた、シドニーの電話番号も伝えてきた」とシドニーに訴えます。
「自宅にメモを残してきた所で、中に入れるのか?電話番号は新しくなっていて電話帳には載せていないし、講義をしていた大学には新しい番号を伝えていない…」と詰め寄るシドニー。
何も出来ず、ただ緊迫した空気の中怯えたように見ることしか出来ない妻のマイラ。
両手に手錠をかけられて、部屋の端に逃げ込みながら怯えた目で恩師を見つめて「大学から確かに聞いた!」というクリフォード。「〇〇という番号か…もしくは△△か?」とシドニーに言われて「〇〇、たしか〇〇です!」と必死に答えるクリフォード。
すっごい性的に興奮する状況ですけどコレやばいっすわあ。
クリフォードが言った電話番号は確かに新しくした方の電話番号でした。嘘だよ、私が君を殺すと思ったのかいといつもの優しい恩師の顔に戻るシドニー。小道具で使われたナイフを戻します。
本当の鍵はこれだよと鍵を渡されて、椅子に座りながらガチャガチャと手錠の鍵を解除するクリフォード。
「ああ、よかった…」と胸をなで下ろすマイラと同じく、私たち観客も本当に殺すつもりはなかったのかと安堵しました。
でも、手錠は外れません。
「本当に、この鍵で合ってますか…?」と焦り始めるクリフォードに、壁にかけてあるムチを手に取ったシドニーが背後から近寄ります。
次の瞬間、舞台にはピアノの不協和音が響き渡り、力いっぱいシドニーがムチでクリフォードの首を絞めます。
ここの橋本くんの苦しみ顔が最強!!!
必死に逃れようと、文字通り舞台中を苦しんで転げ暴れ回り、時に白目をむき出しにしながら絶命する様は「壮絶」そのものでした。
「最前で入ったらトラウマだよ………」幕間のロビーで巻髪のめちゃくちゃ細いお姉さんがお友達と話していましたが、照明の演出もあいまって後列だろうが、2階席だろうがトラウマもんです。
首を絞め続けられ、ついに動かなくなるクリフォード。
畑に埋めるために、シドニーがクリフォードを引き擦って運ぶのですが、橋本くんの死体姿が本当に凄かった。あんなに舞台中を所狭しと暴れたあとなのに微動だにしない。本当に息をしていないんじゃないかというくらい。
乱雑に扱われるので、ごろんと床に仰向けにされるのですが、その時にうっすら汗ばんだ額とふわっとめくれる前髪、長いまつ毛がとても美しくて、友達にも終演後連絡したんですけど凄くわたしの性癖にコミットしました。
クリフォードの死体を処理した後、近所に住む超能力者であるヘルガが訪ねてきます。椅子や小道具に残る殺意の念を感じ取ってシドニーに伝えますが、シドニーは「劇で凶器として使ったからだ」等、上手く言いくるめます。公にはしていない、マイラの心臓の病の事もヘルガは言い当てました。
このヘルガを演じる佐藤仁美さんが、コミカルですごくホッとさせてくれる存在でした。物語を進める上でうまく転がしていくことはもちろん、ちょいちょい演出の福田さん節が効いたコミカルなアドリブを入れてくれたり、本当にスパイスとしてすごくいい味が出ているなと思いました。
件のことで怯えきったマイラはシドニーと距離をとります。
でも、そのシーンのシドニーもこれまた悪くてずるくてイイ男なんですよね。
触ろうとするシドニーを避けるマイラに「僕もそんなつもりでは無かった」「どうしてこんな事をしたのかわからない」と許しを請います。いつかきっと警察が来てバレてしまう、そしたら牢獄の中だと怒るマイラにもずるく笑いながら「バレるわけがない、証拠は?」「1週間もすれば君も平常心に戻るさ」「(デストラップで儲けて)車を新しくしよう」と甘い声で話すのです。
片岡愛之助さん、ずるい男を演じさせたらめちゃくちゃシビれる役者さんだなあと思いました。愛って文字に全くひけをとらない。
宥めるように優しく妻を抱き寄せるシドニー。この時のマイラ演じる高岡早紀さん、華奢さもあいまって凄まじく女性的で美しい。抱き寄せられて腕に収まるって当たり前の動作ではあるけれど、こういう所作ひとつでもこんなに美しくて惹かれるだなんて女優さんってすごいお仕事だなと見とれました。
優しく妻を宥めて、心臓の心配をしながら優しくキスをするシドニー。不安そうな顔をしながらもそれを受け入れてしまう妻のマイラ。アア〜!ほんと男ってズルい!
優しく頬をなでて、立ち上がってスタンドの灯りをそっと落とすシドニー。細かい台詞回しは再現できないんですけど「さて、先程経験した様な恐怖心は性欲も掻き立てるのかな…?」的な事をニヒルに笑いながらスタンドに手を伸ばすんですよ。やばない?これ、エロない?
人生いつでも思春期なので正直「フゥー!洋画みたいなエッチなシーンくるぜえ!」って鼻息荒目にして見てました。
次の瞬間、勢いよく開くフレンチドア。
死んだはずのクリフォードが、泥だらけになり絶叫しながら棍棒を持ってシドニーを何度も何度も殴りつけます。あの憧れのたくさん詰まった眼差しで恩師を見つめていた快活な青年が、狂気の表情で絶叫しながら暗闇で何度も、何度も殴り続けるのです。
暫くして、全く動かなくなるシドニー。力尽きたのか床に這いつくばって、肩で息をしながらマイラを静かに見つめるクリフォード。
怯えて部屋の隅に追い詰められるマイラが「お願い、来ないで、やめて」と懇願しますが、クリフォードは狂った表情で髪を振り乱しながら棍棒を握りしめてフラフラとマイラに迫っていきます。
いよいよマイラを追い詰めてクリフォードが棍棒を振り上げたその時、マイラは病を患っていた心臓に発作を起こし、息絶えるのでした。
「デストラップ」という舞台の題名が示すのはこのどんでん返しかと、本当に驚きました。さっきまであんなに可愛らしい仕草で尊敬する人の傍にいた青年が、狂気を纏ったモンスターになって次々と人を襲う。本当に、このシーンは大好きなアイドルの現場なのに、恐怖で息を忘れて固まってしまいました。
でも、1幕はこれで終わりではなかった。
マイラの死を確認したクリフォードの横で、むくりと起き上がるシドニー。「スチロール製でも、棍棒でなぐられると痛いものだな」とクリフォードに笑いかけます。
そう、全てはここまでが狂言。シドニーとクリフォード共作の「デストラップ」だったのでした。
これは皆さんに伝えたいんですけど、この舞台の恐ろしいのがこの時点で、第1幕なんですよね。
正直今回の舞台は「サスペンスコメディー」と聞いていたので、人は死ぬことはあってもここまで壮絶というか、怖くてゾッとして背筋が凍る思いをしてしまうような事があるだなんて予想もしていませんでした。シドニーが言う恐怖心と性欲が関係しているのかというのと同じく、笑いやホッとする演出があるからこそこんなに怖かったんだと思います。
どんでん返しって言われてみればある程度心の準備ができるものだけれど、さらにそれを上回る良い意味での裏切りが幾重にもあるのがこの「デストラップ」という作品なんですよ。40年近く前に上映されていた作品なのですが、ジャンルとしてはスリラーだったんですって。本当に怖くて、幕間みんな呆然としながら「怖い…」としか言い表せなかったんですよね。それくらい衝撃的でした。
さて、この後第2幕も凄まじい展開と自担の演技が見れるわけなのですが、長くなってきたのと深夜まで時間がかかってしまったので一旦この記事はここまでとさせていただきます。
第2幕の感想も後ほど、随時アップします。
舞祭組ちゃんのハイタッチ会に行ってきた話。
2017年1月7日、私は早朝から仙台行きの新幹線に乗っていた。
深夜0時に「舞祭組ちゃんが名取でハイタッチ会を開く」という情報をavexさんのブログで読んだ数時間後の事である。
平日の仕事の際は15分早く起きるのですら苦痛なのにこの日は飛び起きて、仕度をして新幹線に飛び乗った。連休の初日、自由席に空きはなく二駅ぐらいならいいか…と連結部分で立ったまま外を眺めていた。地元の駅からすでにチラホラ団扇と愛叫魂のツアーバックを肩から下げた女の子達を目にした。田舎ではジャニヲタってだけで絶滅危惧種なのに地元にもいるじゃん、キスヲタ…。
私は普段、自担以外の現場に殆ど行かない。番組も、コンサートも専らずっと担当である北山宏光くんだけをずっと追っている。キスマイちゃんの事はメンバーみんな、とても好きだ。しかし、一挙一動を見逃したくないのは北山くんなので自然とずっと集中して見ている。
今回ハイタッチ会が急に始まった時、東北で開かれるのではないか…とヲタクの間で考察があらかじめされた。ТLに「今日は〇〇と〇〇だから次はどこだ」「明日はきっと〇〇ではないのか」という呟きやメンバーの目撃情報がいくつも流れてきた。
以前にもキスマイはハイタッチ会を開いた。その時は舞祭組だけでなくメンバー全員で全国を回った。その時、私はシフト制で土日ではなく主に平日休みの仕事をしていた。
どうしても、どうしても仕事を抜けることが出来なかったのと、北山くんが長崎という遠い地でハイタッチ会に出たという情報を聞いて「参加しなくても良いか」とその時は気持ちに折り合いをつけた。
「玉ちゃんの手が柔らかかった」「宮田くんが王子様だった」「千賀くんの肌の画質がFFだった」
そんなレポが次々とТLに流れてきた。読めば読むほど私は「あれ、コレ参加したら良かったんじゃね?」とめちゃくちゃ思った。いやだって、誰が来るかはわかんないけど玉森くんめっちゃ顔かっこいい(顔だけで言ったらどストライク)し、何この流れてくるキスマイちゃんの対応レポ。ええっ、私はなんでせっせと電話対応なんかしてんの?とめちゃくちゃに思った。
2016年、忙しすぎる職場に嫌気がさして思い切って転職した。今度はシフト制ではないものの土日休める会社になんとか就くことが出来た。
「土曜日に舞祭組がくる」「会場はそんなに遠くない東北」「始発かもしくは始発に近い新幹線ならハイタッチ券はゲット出来るはず」
北山くんは来ない、絶対に来ない。フロント担がうんぬんなど舞祭組ちゃんが活動する毎度の如く流れるようなプチ騒動もあった、普段から「渉ちゃん可愛いねえ」と時々愛でている横尾さんの事でちょっとヲタクがざわついたけど、けど、けど…
ハイタッチいくしかねえっしょ~!!!
会場に付いたのはハイタッチ券付きCDが販売開始されてから少し時間が経ってからだった。もう既にラジオの公開収録の整理券は配布終了となっていた為か、あまり並ばずにCDとハイタッチ券をゲット出来た。
公開収録前にハイタッチの列に並ぶ。公開収録の整理券こそ持っていなかったものの、少し離れた場所からラジオ公開収録を見ることが出来た。
真冬の朝からだだっ広いイオンの駐車場に並ばされるヲタクと、少数のちょっと興味があるから来たらとんでもねえ場所だったぜ…な一般人。コンサートで言ったら「センステ結構近くね?見やすい~」ぐらいの距離にあるステージカーがめちゃくちゃ哀愁を帯びていた。
舞祭組ちゃんが登場すると、黄色い歓声が上がる。サラサラストレートヘアの俊哉、少し寒そうな短髪の声がでかい高嗣、色が真っ白で金髪が映える千賀くん、そして声ガッサガサで腰も痛いバイト連勤明けみたいなコンディションの横尾渉。
あああ~、めちゃくちゃ舞祭組ちゃんかわいい~!話すこと話すこと可愛い~!しぬ~!
主に今回の舞祭組の楽曲「道しるべ」の制作についてとそれに伴う合宿についての話をしてくれたんだけどダントツ可愛くて母性をくすぐり倒されたのがこのエピ。
【7日 舞祭組 仙台】
— ゆかゆか (@prpr1632) 2017年1月7日
共同生活で初めて洗濯機が回せるようになった千賀健永。「だってえ、一人暮らしとかした事ないしい…洗濯とか身の回りの事は親がやってくれてたから」観客から可愛いの歓声。「千賀だから可愛いってキャーキャーしてますけど普通に考えたらおかしいからね?」横尾、辛辣。
えっ何この子可愛いんですけど…!?
私はとにかく同年代の男子には興味が持てなくて、ずっと北山くんもしくは兄組を見てきたんだけどこの時の千賀さん本当に可愛かった。語尾を微妙に甘えた感じで伸ばしながらテレテレして(デレデレではない)客席を見つめつつ言ってて「なんだこの箱入り息子」感がすごかった。母性がギュンと高まった。
収録の後、棚ぼたと道しるべをメドレーで歌った。ステージカーはとても小さく、スペースが無いためまさかのダンス無しの棚ぼた。音響設備もブチブチと時折音が入るくらいの環境だった。「さっき歌いながらトラックの運転手と目が合って気まずかった」と高嗣が言っていたけど傍から見たら本当にこんな駐車場でトラックを囲んで何の集まりなのか大変疑問を持ったと思う。
さあ、いよいよハイタッチ会の始まりである。公開収録前に列を作った為か、ハイタッチ券だけ手にした人達の列は生の舞祭組に興奮しすぎてぐっちゃぐちゃだった。もうコレ列なのかわかんねえなと思いながらなんとなく譲り合ってハイタッチのレーンへ流れ込む。事前に荷物検査がある旨を伝えられていたがジャニーズコンサートの入場時のような「カバンに手を入れていいですか~?」的なのは一切無かった。リュックで来た私に至っては全く中身を見られることがなかったので警備のザル具合には少し驚いた。
スタッフにハイタッチ券を渡していよいよついたての向こうにいる舞祭組ちゃんと対面である。
千賀健永かっわいい~~~!!!!!!!!めっちゃこっち見とる~~~!!!!! (フォント323万)
入口から千ニカ宮横の順で待機してる舞祭組ちゃん。ハイタッチする前から既にめちゃくちゃニッコニコしながら手を出してお迎えしてくれたのがけんぴぃ(萌)でした。
意を決していざハイタッチに進むとメッチャクチャ顔が小さい。体もゴツゴツしてるかと思ったらめちゃくちゃ細身のスーツ似合う。なによりあの黒目がちなくりくりお目目で思いっきり顔を覗き込んでくる。
ウ、ウ、ウワ~!!!ロイヤル可愛いよ~!!!
超絶近くで見ても全く毛穴が感じられない。毛穴レス千賀健永。思わず漏らした感想がこちら。
いやほんと、健永坊っちゃまテレビ映りが悪いんだなって。めちゃくちゃ小顔だしめちゃくちゃお目目はくりくりだし、なにより肌が透き通る美白。CGかよVRかよって未だに思ってる。めちゃくちゃ美しかった…
— ゆかゆか (@prpr1632) 2017年1月7日
千賀担ってめちゃくちゃ自担の顔が好きなイメージがあるんですけどまじでワカル…ウッ…めちゃくちゃ美しかった…あれはバラエティではなく舞台で素敵な照明を当てて鑑賞したい…
— ゆかゆか (@prpr1632) 2017年1月7日
けんぴぃイズダイヤモンド(?)
普段めちゃくちゃゴリラゴリラ言ってたけどちがう、これは絶世の美ゴリラですよ皆さん…。東北民でも打ち震える寒さだったのに終始ニコニコ優しい表情で目を合わせながら「ありがとお~」ってソフトタッチしてくるけんぴぃ(萌)に見とれてしまって、あんなに前の晩から「千賀にはコレ言って、渉ちゃんにはコレ伝えて…」って考えていたフレーズが見事に飛びました。美しさって罪ね。
しかし舞祭組ちゃんのハイタッチはこれから。けんぴぃ(萌)とのハイタッチを終えて間髪入れずに現れるのが俺達の弟、二階堂高嗣なんですよ。いつもステージの上ではしゃぐ高嗣。藤北に追っかけ回されて膝を擦りむく高嗣。玉森きゅんにメイキングで突っかかってこられて言い合いをする高嗣。そんな可愛らしい高嗣をいざ目の前にしたら
えっ、めちゃくちゃ背高い歳上の男の人やん。
そうなんですよ、いつもステージの上で見てるけど改めて同じ地上というフィールドに立つとめちゃくちゃ高嗣を見上げる形になってしまって。「これが、これが高嗣にぃに…」ってなるんですよ。さっきまでステージカーの上で「MVの監修をしましたエッヘン!(*`∀´*)」ってしてた永遠のショタがめちゃくちゃかっこいいお兄さんで胸の高鳴りが抑えられなかった。
高嗣にはね、カウコンで見たアンダルシアがとてもかっこよかったのでそれについて伝えたいなと思っていたんです。愛叫魂の安静(藤北ユニット曲)の前にやっていた、高嗣がひとりで踊ったFlamingoダンスもめちゃくちゃ綺麗で。どんなにガサツに振舞おうと、手足がとても長くてふんわり踊る彼はやっぱりジャニーズ事務所のアイドルなんだなって強く思ったので、ダンスがかっこよかったと彼にはとにかく伝えたかった。
いざ自分の番になって、話しかけようと思ったらめちゃくちゃ高嗣は高嗣にぃにで。顔の造りも一番ホリが深いなあって。ちょっと頭が大きめなんですけどとにかくパーツがひとつひとつクッキリしてるんですよ、高嗣にぃに。ああどうしよう、声を出さなきゃ、自分の番だ、高嗣、高嗣…。いざ手を伸ばした時唐突に高嗣が
「芦田愛菜みたいだねえ~」
私「!?!?wwwwww??wwwwww」
前にいた親子連れの子供にハイタッチしながら真顔で次の人(私)を見つめて言い放つ高嗣。感情を込めろ抑揚をつけて話せ芦田愛菜さんには敬称をつけろ高嗣。なかなかの早さでハイタッチ会は捌かれていたんだけど、瞬時に子供も親も喜ぶフレーズが出るあたり高嗣には瞬発力が何よりあるなあと思いました。
高嗣のおかげでアンダルシアの下りはどっかにすっ飛んで「ありがとうございまヴェッwww」ていう変な声が出ました私はキモヲタです本当にありがとうございました。
芦田愛菜を引きずりつつ剥がしに促されるまま足を進めると現れるのはサラサラヘアーの宮田俊哉。今年の目標は何処かの国の王子様になりたいと先ほど公開収録で声高らかに宣言していた人。
俊哉~!!!いやもう既に王子様ですやん~!!!
とにかくサラッサラで自然光でもキューティクルつやっつやの美髪をふわっと靡かせる色白の王子様がそこに居た(瀕死)
俊哉はとにかく優しかった。自分より前の人の対応も視界の隅で把握出来たんだけどとにく目線を合わせる、合わせる、合わせる!スラッとした身体をすこし屈めたり横から覗き込んだりしてとにかく視界のど真ん中でふんわり笑いながら「ありがとうね!」って言ってくるのがプリンス宮田俊哉でした。
ヤバイヤバイ目が合うってなんだか照れてしまって俊哉のプルシェンコ鼻を見上げていたのにふわっと屈んで顔を思いっきり覗きこまれたから「いつもありがとう…」って口に出すのがやっとでした。
「うん、ありがとう!」って満面の笑みを見てこの人は美貌だけで一つ国を滅ぼす事ができるしきっとそれは容易いので王位を継承したらこの世は乱世になるなと確信しました。
色白スーパー王子様からもらった胸キュンを大事に抱えていざ、最後の砦へ。日頃から私がTwitterで「渉ちゃんカワイイ」「渉ちゃん末っ子気質」「渉ちゃん渉ちゃん」「本当にもう渉ちゃんは」って猫可愛がりしてる男、横尾渉の登場だ。
横尾渉、全然こっち見ない事件発生。
室井さん、事件は会議室で怒ってるんじゃない、イオンモール名取のだだっぴろくてクソ寒い冬の駐車場の片隅で起きてるんだ。
渉ちゃんはめちゃくちゃ次の人を見ながらハイタッチするので必然的に現在触れてる人をノンルックになるんですよ。マジで。
もうなんか、ここまでの道のりでいくら言葉を練ろうが考えようが本人を目の前にしたら何も出来ない事はわかっているからシンプルに一言伝えようと思って意を決してあの長い指を触りながら伝えた一言が
私「す、好きで…」
渉「ありゃと~~(アウトオブ眼中)」
聞いてねえwwwwwwwwwwwwwww横尾渉絶対聞いてねえwwwwwwwwwwwwwwwwwエエッ?wwwwwwwwwwwwwwwwww
自分でもわかるくらい顔が熱くてマフラーも巻いてたしきっとほっぺ赤くなって可愛らしく伝えられたと思ったんだけど肝心の本人めちゃくちゃ横向いて聞いてなかったと思う。私の食い気味に返ってきた「ありゃと~」ってなんだよ、エビフリャーかよ。横顔めちゃくちゃ綺麗だしエクボもめちゃくちゃ肉眼で見れたわ眼福。
~剥がしに促されてジ・エンド~
ハイタッチし終わったらすぐに退場してくれというスタッフの支持を聞きつつフワフワしたまま最寄り駅まで歩きました。
「ウワア、めちゃくちゃ舞祭組ちゃんに触っちゃったよ…」ってマフラーの中で抑えきれずにニヤニヤしつつ、一人で来た為に誰にも伝えられないこの高揚感をどうしようかと思ってました。途中、橋があったんですけどその下泳いでるカモの群れにパン工場ごとパンあげたい気分でした。
電車に揺られながら同じくハイタッチ帰りのヲタク達の「〇〇だったねえ」「〇〇だねえ」という感想を耳に、アイドルはやっぱりすごいな、こんなにも人に活力を与えるのだなとしみじみ。
正直、舞祭組ちゃんの企画には賛否両論があって、ヲタク一丸となってまるっと全部「イイネ!」とは言えない状況が未だあると感じています。該当担ではないものの、両者の気持ちはどちらも一理あるというか「ああ~わかる~…」って呟いてしまいます。形や表現が違えど、私もアイドルが大好きでこうして応援しているから。
だけど、今回一瞬でも実際に触れ合って、少しだけだけど本人達の言葉で話を聞いて、一生懸命頑張っているんだという事だけはめちゃくちゃ伝わりました。
私が、私たちが好きで応援しているあの人は、めちゃくちゃ頑張ってる。
まだまだ難しい問題もあるし、2016年は色んなことがあった年だったけどただ一つ私が今思うのは「彼らのやりたい事を応援したいな」という事です。
ジャニヲタになってから大分長い時間が過ぎていきましたがまだまだ、彼らが目指す世界を一緒に見ていたいな、これから待っているであろう景色を一緒に見たいな。
すごく寒かったはずなのにホッコリとした気持ちでその日は帰路につきました。