2021年によく聞いた曲
Spotify Playlist
補足
例年通り2021年リリースでない曲も入っています。
リリースでもライブパフォーマンスでもサカナクションが救いの年でした。特に「プラトー」はこれまで溜めてきたものを解放するかのような久々のストレートなナンバーで、タイアップ要素の取り込み方もしみじみと上手い、2021年を象徴する曲のひとつだと思います。
11月のオンラインライブの感想:
時代に相応しい新しいものを作るっつって本当に見たことないもの出してみせるのはやっぱりすごいよ
— リソースモニ太郎 (@kokwemomo) 2021年11月23日
オンラインライブのアーカイブはオンデマンドで見られるのでよろしくね。
今やっているリアルライブのツアーも大変充実した内容でした。いつも通り音響も異様にいいし、なんと振りコピがあります。武道館追加公演プレオーダーを1/4までやってるので行こう!
2021年のサカナクションはかなり楽しみにしてた完全暗転ライブが中止になってるんだよな~今のツアーは完走できることを祈っています。
オタクコンテンツではシャニ3rd東京ガーデンシアター公演が満足感高かったけど4thは会場がしんどいところになってつらいですね。コンテンツ系ライブはこのくらいの規模感のときが一番つらいことになりがちだと思います。せめてスピーカーちゃんとした量入れてほしい。あとは会場変更や延期などいろいろあったけど夏川椎菜さんとTrySailのそれぞれのツアーが完走したのはよかったです。TrySailは最終公演が4列目とかだったので思い出深い。ありがとうローチケ。
リストにある曲であとTwitterで言及してたのはこれか。
ライル・メイズの遺作がリリースされてた、静謐で壮大、全然まだまだいけるじゃんという内容で本当に惜しい https://t.co/oMYjkbrJtI
— リソースモニ太郎 (@kokwemomo) 2021年8月31日
リストは単曲で選んでますがアルバム単位だとこのへんが一番刺さったかなーと思います。
ゴジラS.Pに登場する現代技術についての覚え書き
2030年を舞台とするSFアニメであるゴジラS.Pでは、現実とは異なる現象を説明するためのSFギミックであるアーキタイプに由来する技術だけでなく、現実の現代技術の延長線上にある技術も多数描写される。それらの2021年時点での現実の状況との関係を概観する(第7話時点の情報に基づく)。
3Dスキャン
即席の鏑矢を作るシーンにおいてスマホによる測定でペットボトルの3次元モデルを構成している。現在スマホのセンサ性能の向上によりさかんに研究開発が行われている分野で、実サービスとしては https://www.rest-ar.com/ などがあるようだ(ただし主要な計算はクラウドで行っているかもしれない)。ペットボトルのような透明物体はデプス(物体表面のセンサからの距離)の値が信用できないため不透明物体に比べてだいぶ精度が落ちるが、需要は大きいはずなので2030年に透明物体も高精度でスキャンできる技術が普及している公算は大きい。
音響シミュレーション
こちらも即席の鏑矢を作るシーンで登場。ペットボトルのそこそこ正確な3Dモデルが得られていれば、最も大きい周波数成分が大雑把に分かればいいくらいの音響シミュレーションは現在のスマホの計算能力でも十分可能と思われる。どちらかというと自然言語でのごく簡単な発話でシミュレーション条件を正確に指定できるNaratakeがすごいシーンである。劇中では穴の位置や数の最適化も行っており、これも現実だと自分でそこそこ長いスクリプトを書く羽目になると思われる。
アーキタイプの構造探索
第4話でユンとメイがアーキタイプをどうやって発見したかを議論するシーンがある(「アーキタイプはどんな分子とも似てない」というユンの発言から、どうやら構造は公表されているようだ)。分子構造を決めたときにその性質をシミュレートするのはある程度(あくまである程度)完成された技術だが、探索空間が膨大でかつ構造と性質の対応が複雑なことから、欲しい性質を持つ分子構造を自動的に生成するのは極めて困難だというのはその通りである。文字列を生成する機械学習モデルを使って化学構造を表す文字列を直接生成するという傍目にはやけくそみたいな研究も存在する。もちろん有機化合物において官能基を固定して骨格だけ変えるというようなもっと素直な手法も存在するが、一般には難しい問題であることに変わりはない。ハッシュ関数の原像探索問題の難しさからの流れで視聴者に難しさを納得させるために説明を端折っているという理解が十分可能な範疇の描写であろう(ちゃんと「てがかりなしでみつけるには」という留保もついている)。なお、既存のシミュレーションソフトウェアに何を入力してもエネルギー保存則を破るような結果など出てこないのではという説はあるが、「全てシュミレーション(ママ)し尽くさなければならない」と表示されているのみでシミュレーション手法を指定しているわけではないので、李博士らの研究はアーキタイプが満たすべき抽象的な性質を議論しておりそれを満たすかの確認のために現実にはないなんらかのシミュレーション手法が必要なのだろうといった逃げ道がありうる。実際エネルギー保存則が破られるわけはないのである程度無茶な嘘は必須である。
ストレージが2PBあるノートPC
第1話で登場したメイのノートPCのストレージ容量表示から。現在の標準的なノートPCのSSD容量は200GB程度と考えると10年で10倍になっていることになる。どちらかというと予測というより願望っぽいが、適当に探してきたグラフによるとSSDの価格容量比は大雑把に5年で3倍に改善しているようなので10年後に10倍というのはそれなりに妥当な数字かもしれない。 10000倍だわ。完全に願望ですね。
人間が搭乗可能な2足歩行ロボット
ボストンダイナミクスのAtlasなどかなり敏捷な動作が可能な2足歩行ロボットは既に実現されているが、ジェットジャガーのサイズに加えて人間が搭乗したときの重量を考えると剛性やアクチュエータの出力への要求が大きくなり、機械的な部分でかなり厳しそうに見える(よく知らないので適当)。なお、第5話で足を車輪駆動に取り換えたあと制御を遺伝的アルゴリズムで学習している。ロボット屋さんがこのようなシチュエーションで実際に遺伝的アルゴリズムを使うかは知らないが、車輪のモデルを陽に扱った制御システムを作っている時間的余裕がないので全体の物理シミュレーション(現実のソフトウェアだとGazeboとか)さえできればあとはend-to-endで学習ができるような手法を選択するというのはそれなりに理に適っているように見える。
Naratake ENGINE
これが現代基準ならアーキタイプ関連を除けば一番のオーバーテクノロジーで、2030年にこれほど柔軟な応答ができる対話エージェントが完成している可能性は非常に低そうだ。話の都合でこのようになっているのだと思うが、このあたりの技術の進歩にもアーキタイプが関わっているみたいな大風呂敷が広げられる可能性もゼロではないかもしれない。
2019年と2020年によく聞いた曲
前置き
昨年末に1年の音楽まとめをやっていなかったので2年分です。
自分は12月31日23:30にその年最大のアンセムがドロップされるかもしれないんだから年が明ける前にその年のベストソングまとめを出すのはフェイクだよ派で、まあここは諸派あると思うのですが12月3日とかに今年のまとめを出してくるSpotifyはさすがになんなんだと思いました。
でも便利なので使います。以下Spotifyのプレイリストです。
2020年
Lantern Parade - ブルードリーム (Live)
ライブ音源コンピレーション。Lantern Paradeの詩情がよく出ていてこれを真っ先に勧めてもいいくらい。
Duval Timothy - Slave
手癖が唯一無二の芸に昇華されてるタイプの音楽家っていると思う(川井憲次とか。実は坂本龍一なんかも一面ではこのタイプかもしれない)んですがDuval Timothyは完全にこのタイプだと思います。2020年に2枚アルバムを出していてどちらも素晴らしいです。
sora tob sakana - deep blue
ラストライブ後の感想。
なんかなんであんなに自然に淡々とできるんでしょうね、6年やってきてあんな強い曲やってって普通感極まったりすると思うんだけど3人とも泣かないし崩れない
— リソースモニ太郎 (@kokwemomo) 2020年9月6日
あんなに歌えるのにいわゆる上手く聞こえる歌い方を最後まで一切しないのもかっこよかったなー
— リソースモニ太郎 (@kokwemomo) 2020年9月6日
上の記事で照井順政が「彼女たちの歌唱は良くも悪くも表現者としてのエゴのない、技巧的な装飾のないもの」と表現していてさすがにうまいこと言いますよね。ディレクションなのか本人の素質なのか知らないけどあんなに自然に淡々とやれてそれが音楽性のコアになっているアイドルグループって他に見ないです。
GoGo Penguin - GoGo Penguin
Go Go Penguinはペンギンと名のついたバンドに外れなしの法則の代表選手と言っても過言ではないからな
— リソースモニ太郎 (@kokwemomo) 2020年10月27日
他にはPenguin Cafe OrchestraやPenguin Cafeやペンギンラッシュがいます。
Squarepusher - Be Up A Hello
Big Loadaとか作ってた頃の一番享楽的なSquarepusherが帰ってきてくれて嬉しい。
夏川椎菜 - アンチテーゼ
すっかり自身のカラーを確立してアーティストとして最も充実した1年になるはずだったのが、417の日は中止、ワンマンライブは延期で札幌公演以降開催できるかは不透明と新型コロナウィルス感染症拡大によってものすごく割を食わされていて悲しい。
君島大空 - 縫層
2019年6月のWWWでのROTH BART BARONとのツーマンで初めて見てすげーひとがいるなと思ってからそう経ってもいないのにもっとすごいことになっていた。未来の音楽という感じがします。全編石若駿が緻密なドラムを叩いていてそれも聞きどころです。
長谷川白紙 - 夢の骨が襲いかかる!
長谷川白紙がトリを務めたSong For Future Generationは2020年ベストのライブのひとつだったと思います。
上田麗奈 - Empathy
『アイオライト』のピッチの揺らし方とかもう10年は歌手やってますみたいな貫禄がある。
BUMP OF CHICKEN - アカシア
コアの部分ではデビュー当時から似たようなものが未だにずっと好きだというのがこのバンドの偉大なところだと皮肉抜きで思います。
Maria Schneider - Data Lords
みなさんマリア・シュナイダーの新作クラウドファンディング、参加しましたか?まあしてないと思いますが……いまのところ配信で聞けるのはシングルカットされた『Sputnik』のみです。この曲だけでも凄みは伝わると思うので物理盤がんばって探してください。
The 1975 - Notes On A Conditional Form
シンプルに強い。
くるり - thaw
貼ったのは泣かせに来たときのくるりですがアルバムにはもっと斜めから来るやつもあります。
Oneohtrix Point Never - Magic Oneohtrix Point Never
Bibio - Sleep On The Wing
2019年以前発売
高橋徹也 - 夜に生きるもの
2ndと3rdアルバムが20周年記念で2018年に再発された。id:yunastrのひとがTwitterで勧めてたのをきっかけに聞いてぶっ飛ばされた。2枚とも一貫して生活の中の異界を凄まじい迫力で描いていてアルバムの流れも完璧なのでぜひどちらも通しで聞いてほしい。
Pat Metheny Group - The Broadcast Collection (Live)
配信限定のライブ音源コンピレーションかなんかだと思います。客がめちゃめちゃうるさいがまあそうなるのも分かる。
Beirut - Gallipoli
ブラスアレンジが得意なバンドですがこの曲での使い方が特に変でいいです。
KiRaRe - Don't think,スマイル!!
オケ編曲が素晴らしすぎる。
Stephen Cleobury, Choir of King's College, Cambridge - A Requiem for Stephen: Into a Greater Light
Stephen Cleoburyはケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団で長年音楽監督を務めた音楽家で、これは2019年に亡くなった彼への追悼のアルバムです。ケンブリッジ・キングズ・カレッジ合唱団は毎年クリスマスに礼拝コンサートをやっていて、2020年分は2021/1/24までBBC Radioのアーカイブで聞けるので聞いてください。
このコンサートはちゃんと音楽監督がついていてBBC Radioの収録も入っていて現代の作曲家の作品を含んだ礼拝としては意欲的な選曲がされ音源化もされ、とまあまあ商売っ気のあるイベントではあるのですが、あくまで礼拝の形式に則って行われるので、拍手はなく聴衆のノイズも最小限なのが素晴らしいです。
サカナクション - 834.194
聞いていた時間の長さでは2020年でもこれが一番だった気がする。もちろん素晴らしいアルバムなのだがリリース間隔もっと短くしてよりコンセプチュアルなアルバムとか出てほしい。8月のオンラインライブも単に演奏の様子を配信するだけではない作りこんだ映像を見せてきてやっぱりずっと最先端にいるバンドだなと思った。山口一郎の体調が心配。
坂本真綾 - 今日だけの音楽
坂本真綾はいつも新しくて、このひとほどディスコグラフィ全体がひとつの作品だと思えるアーティストはなかなかいないです。あと2020年に出たシングルコレクションでWOLF'S RAINのサントラにしか入ってなかったと思われる名曲cloud 9が聞けるようになっているので聞いてください。
三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza
とりあえず先日の配信ライブを見てほしい。
クラムボン - モメント l.p.
実際に一番聞いていたのはモメント e.p. 2なのだが会場限定なのでこちらを。
YUKI - forme
Christial Scott aTunde Adjuah - Ancestral Recall
David Theodor Schmidt - Bach Reflections
Shai Maestro - The Dream Thief
2018年 + 2019年1月によく聞いた曲
前回同様期間中リリースじゃないのも混じってます。
七尾旅人 - Stray Dogs
↓のメールが異常に面白かった。なんとなく言いたいことは分かる。
ZAZENBOYSの向井秀徳氏からこんなメールが届いていることに気づいた。
— 七尾旅人(本日アルバム発売📀) (@tavito_net) December 14, 2018
これって私信?
それともアルバムについて、コメントを書いてくれたのか?依頼してないのに?
よくわからないけど、めっちゃうれしい。 pic.twitter.com/E0OAT3oOZs
滝沢朋恵 - amphora
どの曲もイントロが長いのでiTunes埋め込みで紹介しづらい。いい意味で前作と変わりない異界感がある。
The 1975 - A Brief Inquiry Into Online Relationships
なんか多彩なうえすべてがいいので紹介しにくいタイプのアルバムです。インターネットいい話的な質感がよかった。
Tim Hecker - Konoyo
ジャケットがめちゃめちゃ格好いい。
日向美ビタースイーツ♪、ここなつ - Sweet Smile Pajamas Party
ひなビタ♪ライブ2018に2次元コンテンツものライブの精華を見た。
Poppin'Party - キズナミュージック♪
歌でも担当楽器でも各自のソロパートにこれまでの物語の蓄積を乗せられるのは強い。曲と関係ないけどCDジャーナルの木谷社長と吉田豪の対談が相変わらずやなという感じでよかった。ブシロードに関わる声優各位、なんとかやっていってほしい。
tricolor - Tricolor Bigband
P-VINEで「日本のアイリッシュ・ミュージック・シーンを牽引するバンド」って紹介されててそのシーン狭くないですか?アイリッシュ・ミュージック要素はあくまでベースという感じだしさらっと聞ける技巧が凝らされたアルバムなので身構えずに聞いてみてほしい気持ちがある。
Aphex Twin - Collapse
皮肉とかではなくこのMVみたいなのを素直にかっこいいと思える感性を大事にしたい。
Eldar Djangirov - Re-Imagination
2007年発。なんかこう良い悪いとは別の次元で「うるさい」タイプのジャズピアニストで、そういうのが好きな人にはおすすめしたい。私ジャズオタクですみたいな人に初対面で勧める勇気はない。
London Elektricity Big Band - Live in the Park
2017年発。この頭悪さがドラムンベースのコアだと思うし好きすぎる。
夏川椎菜 - パレイド
ミューレ2期生の中で音楽活動で後塵を拝してはいるが一番替えのきかない音楽的センスを持ってるのが夏川さんだと思うし本当に夏川さんに天下取ってほしいんですよ。今年はファーストアルバムも出る。
サカナクション - 魚図鑑 Disc3 深海
ビクターとの契約でどうしてもアルバムを出さなければならずちゃんとコンセプトがあるものならということで製作されたベストアルバム(ライブMCより)。山口一郎は明らかに『ネプトゥーヌス』→『シーラカンスと僕』の流れをこのベストアルバム全体の「リード曲」として組んでるんだと思うんですがそのDisc 3は完全生産限定盤プレミアムBOXとかいうやつにしか入ってないのがひねてて好き。今年はアリーナツアーがある。全公演異常に豪華なスピーカーシステムが入るので楽しいですよ。
分島花音 - one last time
コミティアで頒布された自主製作盤が初出。タイアップが活動の中心部という感じじゃなくなってからもエネルギーは全く失われてないので分島花音さんのライブに来てくれ。
小袋成彬 - 分離派の夏
洗練されたサウンドとか美しいハイトーンボイスとかいうキーワードから想像されうる最高のものを出してきた感じのやつです。
上田麗奈 - sleepland
え、ランティス祭り3日目めちゃめちゃ楽しみじゃないですか?欲を言えば本人プロデュースみたいな形で曲世界ばりばりに作りこんだソロライブを舞浜アンフィシアターとかでやってほしい。
XTC - Nonsuch
1992年発。なぜ今これをとしか言いようがないと思うけど本当によかったので……
清竜人 - WORKS
2013年発。ワンマンライブ2018秋になんとなく行ったのでその流れで聞き返していた。天才ですね。
挾間美帆 - ダンサー・イン・ノーホエア
技巧的でドラマチックで最高なんだけど特にインタビューでクラウス・オガーマンの名前を挙げててああああーーと頷きまくってしまった。ブルーノート東京でのライブも素晴らしかった。あと名前の字を間違えやすい。
Jóhann Jóhannsson - The Mercy: Original Motion Picture Soundtrack
偉大な作曲家の早すぎる死を悼んで。
祝福
「リズと青い鳥」を見た。抑制的な演出で切実な人間関係の機微を描いた傑作で、全体に満ちる緊迫感は力によらない決闘と表現してもよさそうなほどだ。
演出上のクライマックスは、主人公ふたりが本当はどちらがリズでどちらが青い鳥なのかに気付くシーンと、それに続く第三楽章の演奏シーンにある。ふたりが自らの役割に気付く瞬間を画面を二分割して表現しているのは全体を通して唯一と言ってもいい抑制を外した演出だ。演奏を自分のものにできないでいる学生が音楽家のアドバイスで解釈を掴む、そして才能を解放した青い鳥は渾身の演奏を披露してみせる。
これだけであれば、つまり演出上のクライマックスとテーマ上のクライマックスが完全に一致していたのであれば、ずいぶんおさまりのよい作品に仕上がっていただろう。あるいは音楽は背後に設定された情景や感情を伝えるためにあるものだという音楽の目的についてのイデオロギーの臭みをまとってしまっていたかもしれない。だが本作をそれらとは違う美しいものにしている決定的な要因は、テーマ上のクライマックスは少しずらしたところに置かれている点にある。
希美がみぞれを吹奏楽部に誘ったときのことを回想するのは、音楽室で「リズと青い鳥」を一緒に読むシーン、みぞれの告白の後のシーンの二箇所あり、前者では「吹部」、後者では「吹奏楽部」と言っている。部外者の言い方をしている後者が実際あったことに近いのだろう。「よく覚えてないんだわ」と言っていたのは、思い出せないふりをしていたという解釈も可能ではあるだろうが、たぶん本当に忘れていて、みぞれの言葉によって思い出したのだろう。そこには自分がみぞれにとってどういう存在だったのかを客観的に見つめなおす端緒が現れている。親友との越えられない才能の差に折り合いをつけただけではない。
牛尾憲輔はビーカーをこすった音のピッチを変化させて重ねた和音によるアーメン終止を「祝福」に代えたという。
音作りの手法はエレクトロニカの文脈にあるが、あいまいな進行から最後にIの和音に落として祈りや祝福を表現するというのはどちらかというとクラシックの発想で、この作品によくそぐう。アーメン終止の名称の由来となった賛美歌はもちろん、学生コンクール制度を通じて吹奏楽の近隣文化となっている合唱音楽における「原爆小景」の「永遠のみどり」や「ティオの夜の旅」の「祝福」が作例として挙げられるだろう。このような「祝福」の強い普遍性を踏まえ、そして何より画面を見ていれば明らかなように、祝福は音楽家への道を踏み出したみぞれだけでなく、希美にも、またすべての生徒たちにも向けられている。
だから絵本の世界の中で飛び立った青い鳥は群れをなしているのだ。図書室を後にしてそれぞれの道を歩き始めたふたりの後ろには共に鳥が舞っているのだ。リズと青い鳥は役割が逆だっただけじゃなく誰もが青い鳥なんだ、 鳥籠たる学校は一時の庇護者であって誰もかれもそこから飛び立っていくんだ、そして希美には、君にもきっとできるよ(それは音楽の世界でではないかもしれないけれど)、という残酷で優しい祝福が贈られている。
下校シーンの「私も、オーボエ続ける」は直前の希美のセリフから繋がっているような繋がっていないようなあいまいな宣言だが、「(希美といるためでなくても)オーボエ続ける」と読むこともできるだろう。TVシリーズでも本作でも、みぞれの才能の開花は希美との問題が(自分の視点では)ひとつ片付いた後に起きている。プロの演奏家を目指すのならば、彼女はそれを自分の制御下に置かなければならない。ふたりのずれた関係は大きく変わってはいないけれども、互いの自立を前提にした、言ってみればより健全な関係への扉を開いた瞬間を見せてくれたのかもしれない。
本当のラストシーン、希美がみぞれに恐らくは幸せな何事かを言うそのセリフは観客には聞こえない。校舎に存在する物音の視座からふたりの関係を描くという方針から導かれる必然的な演出であるとともに、ふたりはもう大丈夫だという作り手の信頼が込められたものでもあるだろう。
2017年よく聞いた音楽
前回同様2017年リリースじゃないのも混じってます。
sora tob sakana - cocoon ep
照井順政プロデュースのアイドルユニット。去年選んだamiinA同様の、音楽性を変な方向に振ったアイドル枠。マスフェスでライブも一度だけ見たけど曲のよさよりはこれは子供なのでは???という印象の方が勝ってますね……
Jaco Pastorius - Word of Mouth
今さらすぎますが本当によかったので。直接の目当ては3 Views of a Secretだったけど上に貼ったLiberty Cityがかっこよすぎてびびった。
島村卯月,小日向美穂,佐久間まゆ,櫻井桃華,双葉杏 - キラッ! 満開スマイル
デレマス関連のリリースから一曲選ぶなら。ちょっと卑猥に読める歌詞もアイドルソングらしくてよい。
Serani Poji - ワンルームサバイバル
ササキトモコを知ろうの会。
サカナクション - さよならはエモーション/蓮の花
これもなんで今聞いてるのか……ミュージック (Cornelius Remix)は理想のRemix仕事のひとつだと思うので原曲をご存知の方はぜひ。
ピアソラ五重奏団 - Live in Tokyo 1982
これも今年とは全く関係ない。ピアソラの音源は大量にあって自分もどれを聞いていてどれを聞いていないのか全然覚えていないのだが、この先ピアソラから一枚どれか勧めるとなったらこれにすると思う。「AA印の悲しみ」の緊迫感は呼吸を忘れるほど。
Bill Evans - From Left to Right
可憐で上品なメロディーの作り手というエヴァンスの一側面を抽出した一枚。
滝沢朋恵 - 私、粉になって
朴訥という表現がよく似合う女性シンガーソングライター。自分の印象としてはピアノではなくアコギを主武器にしたタテタカコといった感じ。
Rautavaara - Autumn Gardens
2016年に没した現代音楽の作曲家ラウタヴァーラの作品をいくつか掘っていた。このAutumn Gardensは主要作品には数えられていないと思われるが、通して聞くと終盤の展開の美しさに圧倒される。
nuito - Unutella
最近活動を再開したnuitoの今のところの唯一作。CDでも十分意味不明なのだがライブはさらになんで成立するのか分からない複雑さを誇り、それでいて常にチャーミングで、Tera Melosの一番いいときがずっと続いてるみたいな驚異のバンドです。ところで今気づいたんですがTera Melos来日公演あるんですね。
TrySail - adrenaline!!!
TrySailのライブひたすら楽しいので今度のツアー来てね。
公衆道徳 - 公衆道徳
韓国の謎のアーティストによる宅録サイケポップス。自分としては2017年に出会った音楽の中で最大の衝撃だった。ローファイな音ネタ使いの多彩さが印象的。
2016年よく聞いた音楽
なるべく最近のから選んでますが、2016 年リリース作に限っているわけではありません。あと上田麗奈さんのデビューミニアルバムとか絶対にいいって分かってるのにまだ聞けてない……
- Beirut - No No No
アメリカのインディーポップバンド、Beirut の 4 年ぶりのアルバム。フロントマンの Zach Condon にはとにかくいろいろ大変なことがあったが復活した。郷愁を湛えつつも牧歌的な音色は健在。上に貼った Tr. 1 はバンドの特徴のひとつであるブラスセクションは入ってないけど絶妙なハンドクラップが泣ける。
- amiinA - Avalon
amiinA というのは二人組の女性アイドルユニットのはずなのだがそれに似つかわしくないひたすらスケールの大きい曲がずらりと並ぶ異色のアルバム。歌詞に大地、宇宙、神話といった単語が頻出する。トラックは自分がこのアルバムを知った記事では Jonsi - Go に例えられていて聞いてみるとなるほどと思ったのだが、二人の歌唱に合わせていい意味で俗っぽくチューンされているのも間違いのないところで、変だがとても質の高いアルバム。あと特殊装丁がかっこいいのでできれば CD で買ってほしい。
- TrySail - whiz
これまでの TrySail のシングル A 面曲のなかでいちばんしっくり来る。あとカップリングの Baby My Step もいい曲だし、ライブでコール (というか一部音程がついてるのでコーラス) を入れるのが本当に楽しい。あまり関係ないが最新の HoneyWorks プロデュース曲でキラキラ中高生ファンが増えていると思われるのでライブにキラキラ中高生枠作ってほしい。
- Godovsky: Java Suite
4 巻構成 12 曲からなるピアノ組曲。恥ずかしながらゴドフスキーという作曲家自体 2016 年に知ったのだが、これまで知らなかったのが不思議なくらいエキゾチックで華やかな魅力に溢れた組曲だった。iTunes 商品紹介には無かったのだが第 6 曲の The Bromo Volcano and the Sand Sea at Daybreak が特に派手でよい。シチェルバコフの演奏はうまいのは分かるがテンポを揺らしすぎで自分の好みには合わず、Esther Budiardjo の演奏が好き。 - はなこ (CV: 花守ゆみり) - なるまるまーる
本当にかわいい。
- 前川みく (CV: 高森奈津美) - ニャンと☆スペクタクル
本当にかわいい。
- Paul Buchanan - Mid Air
The Blue Nile の Paul Buchanan のソロデビュー作 (アルバム自体が出てこないので上には表題曲が含まれる映画のサントラアルバムを貼った)。リリースは 2012 年だが素晴らしすぎてとにかくよく聞いていた。The Blue Nile の作風からさらに抑制を効かせた静謐な歌の数々。The Blue Nile では "Peace At Last" の "Family Life" が好きな自分にはご褒美みたいなアルバムだって Twitter で書いた気がする。 - マヤ(CV. 水瀬いのり) & エリカ (CV. 伊波杏樹) - アニメを語レ!~アニメガタリ同好会のテーマ~
懺悔すると Starry Wish まだ買ってません。夢のつぼみと harmony ribbon はまだよく聞いてたのだが……。このシングルはアニメガタリという劇場上映ショートアニメのテーマソングとキャラソンを収録したもの。表題曲より 2, 3 曲目の方がよい。上に貼ったのは、作詞 清浦夏実、作曲 牛尾憲輔による 3 曲目。ソロ活動の路線よりもうちょっと角度のついた曲が聞きたいという向きにおすすめ。ちなみに 2 曲目は作詞 分島花音に作曲 カヨコとなっている。豪華。
- 分島花音 - Love your enemies
実際selector劇場版主題歌のタイトルがLove your enemiesだと聞いた時点で「勝ったな……」と思いましたからね。
— 青春映画のいちばん大切なことに気づい太郎 (@kokwemomo) 2016年4月30日その分島花音による劇場版 selector destructed WIXOSS のテーマソング。見に行ったひとなら分かると思うけれど、完璧なテーマソングだった。この曲含め、劇場版 selector は最近すっかり一般化した「TV アニメの総集編+α」形式の映画の中で最も幸福なもののひとつではないかと思う。
- GoGo Penguin - Man Made Object
名前にペンギンと入っているバンドは最高の法則。編成は普通のピアノトリオだが、いろんなジャンルから影響が入っていてなんだかよく分からない。Aphex Twin の影響も指摘されているようで、Tr. 6 の "Smarra" などを聞くと確かにという感じがする。
-
クラウス・オガーマン参加作 (Claus Ogerman Orchestra - Gate of Dreams, Barbra Streisand - Classical Barbra, Bill Evans - Symbiosis など)
- TO-MAS feat. Chima - Flip Flap Flip Flap
フリップフラッパーズよかった……曲もよかった。ここでは劇伴を担当した音楽ユニットである TO-MAS の松井洋平、ミトによる、ED のカップリング曲を。フリップフラッパーズの魅力だった世界の広がりの感触を下支えしてくれた名曲。「ふたりでなら どこまでだっていける」なんですよ……