はみ出し日記

Twitterに載らない長文の意見や考えをまとめる際に利用します

メイドインアビスの魅力 探窟家と超人


今回は、アニメ化や新作の映画化決定で、ブームが再燃しつつある、つくしあきひと原作の漫画『メイドインアビス』について、感想を書いていきます。

 

メイドインアビス」については、アニメの本放送時にツイッターで盛んに二次創作が行われたこともあり、断片的に情報を得てはいました。”ナナチ”という名の、人語を解す半人半獣のキャラクターや、”ボ卿”という性格に難があるキャラクターがいること、またナナチが性別不明らしいことなど(かなり偏っていますが)です。

その後ニコニコ動画でアニメの再放送が行われていたことを機に、昨年の秋ごろnetflixでアニメを一気見して引き込まれたというくだりになります。

 

 

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性別不明の生物”ナナチ” http://miabyss.com/chara03.html

 

まずは本作のあらすじを公式サイトから引用します。

 

隅々まで探索されつくした世界に、唯一残された秘境の大穴『アビス』。
どこまで続くとも知れない深く巨大なその縦穴には、奇妙奇怪な生物たちが生息し、今の人類では作り得ない貴重な遺物が眠っている。
『アビス』の不可思議に満ちた姿は人々を魅了し、冒険へと駆り立てた。
そうして幾度も大穴に挑戦する冒険者たちは、次第に『探窟家』と呼ばれるようになっていった。
 
アビスの縁に築かれた街『オース』に暮らす孤児のリコは、
いつか母のような偉大な探窟家になり、アビスの謎を解き明かすことを夢見ていた。
そんなある日、リコはアビスを探窟中に、少年の姿をしたロボットを拾い…?

 

という感じで探窟家の女の子「リコ」とロボットの少年「レグ」が『アビス』を探検してゆく物語になっています。

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左:レグ 右:リコ

 

さて感想を書いていく前に、物語の根幹をなす『アビス』について重要な二つの設定をご紹介しておきます。

 

1つはアビスを探検・調査する探窟家には、その実力によって階級制が敷かれていることです。実力者であるほど、より深く危険な環境への探査が認可されます。また階級は探窟家各々が持つ笛の色によって明示され、最上級の「白笛」は多大な尊敬を集める存在とされます。リコの母親もこの「白笛」です。

 

2つ目はアビスの呪い「上昇負荷」です。スキューバダイビングにおいて、急激な浮上が死に直結するように、アビスにおいても、上昇することによる身体負荷があります。負荷は深度が上がるにつれ深刻になり、一定深度以下まで降下すると、上昇負荷により死亡します。

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アビスの上昇負荷 https://bibi-star.jp/posts/1342

上昇負荷により死亡する可能性がある第6層以降は、先ほどご紹介した「白笛」しか進むことができない取り決めになっています。「白笛」は実力の証であると同時に、放任の印でもあるようです。

 

リコの母親である白笛「ライザ」は、リコが物心つく前に第6層へと降下しています。

 彼女の笛や荷物の一部が地上に引き上げられたことで、リコはアビスの深奥へと向かう決意をすることになります。

 

 

この作品に一通り触れた時、自分は漠然とした恐ろしさを感じました。

それはアビスに潜む獰猛な生物や、上昇負荷によって探窟家が傷つくこと、時に人でないものに変わってしまうことに対する、おぞましさだけではありません。

何より主人公のリコが、最終的に第6層以降へと向かおうとすることに恐怖を感じたのです。

第6層へ降下するということは、もう二度と地上には戻れないという事を指します。

つまり、それまで培ってきた社会的諸要素をすべて捨て去ることになるのです。

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「アビスの底」を目指すリコ

友人も家族も、おいしい食事も、アビス以外の知識を吸収する機会も、アビスから離れ全てを忘れる権利も、世の中のありとあらゆる機会を捨てて、アビスと正対するということです。

たしかにリコは母親と幼い時より生き別れになっていたり、特殊な事情でアビスに惹かれやすい体質であったりします。しかしそれでも、自ら社会的な死を目指すというのは常軌を逸しています。

そして6層以降への降下が可能となる「白笛」と、「白笛」への昇格を目指す全ての探窟家も同じく、地上の生活・地上での可能性を全て捨て、アビスへ身を投じることを目指しています。

この点において「メイドインアビス」の登場人物たちが、とてつもなく恐ろしい人々に感じられたのです。

 

 

 

その後、この漠然とした恐ろしさについて言及した書籍と、偶然出会うことになります。

それがドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの代表作『ツァラトゥストラかく語りき』です。

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佐々木中訳『ツァラトゥストラはかく語りき』 河出文庫

この序説にてニーチェは、人々を導く絶対的な「神」などもはやおらず、人間の中から人を超える存在「超人」が生まれなければならないと明言します。

(物語は山にこもっていた思想家「ツァラトゥストラ」が、人々に自らの考えを説いて周るところから始まります。故に以下の語り手はツァラトゥストラです。)

 

わたしは愛する。没落する者としてしか生きることができない者たちを。それは、彼方へと向かおうとする者たちだからだ。
わたしは愛する。大いなる軽蔑者を。彼らは大いなる尊敬者であって、かなたの岸への憧れの矢だからだ。
私は愛する。没落を余儀なくされ犠牲となっても、まずその根拠を星空の彼方にもとめるなどということをしない者たちを。彼らは、いつか大地が超人のものになるようにと、みずからを大地に捧げる者たちである。
ツァラトゥストラの序説・四より)

 

 

そして「超人」の対極に位置する「最後の人間」も、同時にそこでは示すのです。

 
 
人はみずからのなかに混沌を持っていなくてはならない、舞踏する星を産むことができるためには。…何という事だ。人間がもはやどんな星をも産みださなくなるときが来る。
もっとも軽蔑すべき人間の時代が来る。もはやみずからを軽蔑することができない人間の時代が。見よ。わたしは諸君にこの最後の人間を示そう。…

 

『僕らは幸福を発明した』ー最後の人間はそう言って、まばたきする。
彼らは生きるに苦しい土地を見捨てる。温もりが要るから。
やはり隣人を愛し、その身をこすりつける。温もりが要るから。
病気になること、不信をいだくことは、彼らにとっては罪である。
用心してゆっくりあるく。石に躓いても、人に躓いても、そいつは世間知らずの阿呆だ。
 
ときどきわずかな毒を飲む。心地よい夢が見られるから。
そして最後には多くの毒を。そして心地よく死んでいく。
働きもする。労働はなぐさめになるから。
しかしなぐさめが過ぎて、身体をこわさないように気づかう。
もはや貧しくも、豊かにもならない。どちらにせよ面倒なことだ。
今更誰が統治しようとするか。今更誰が服従しようとするか。どちらにせよ面倒なことだ。…
 
彼らは悧巧で、世間で起きることなら何でも知っている。
だから彼らの嘲笑の種は尽きない。口げんかくらいはする。だがまもなく仲直りする。
-そうしないと胃に悪いから。
小さな昼の快楽、小さな夜の快楽をもっている。だが健康が第一だ。
『僕らは幸福を発明した』ー最後の人間はそう言って、まばたきする。
ツァラトゥストラの序説・五より)

 

ツァラトゥストラのいう「超人」はまさしくメイドインアビスにおける、主人公リコや白笛の人々に合致します。そして「最後の人間」、はアビスに挑まない人々であると同時に、白笛らについて”常軌を逸している”と感じてしまう自分や大多数の読者、つまり我々であると言えます。

 

 

「超人」の存在は、「最後の人間」たちにとって”幸福”を乱す忌むべき存在です。

そのため「ツァラトゥストラかく語りき」の中でも、人々は「超人」について説くツァラトゥストラをあざ笑い、その存在について真面目に取り合おうとしません。

実際の世界においても、既存の規範・戒律・価値観を破壊してしまう「超人」のような存在は爪弾きにされることが常でしょう。

 

一方メイドインアビスにおいては、そうなっていません。白笛は人々の憧れの存在であり、彼ら「超人」の存在が中心となって世界や物語は展開されています。「アビス」という窓口を通じて、誰しもが「超人」になることができるかのように描かれていることは、メイドインアビスの世界観がもたらす最も巧妙な点であると同時に、フィクション”らしい”点だといえるでしょう。

 

ナナチに代表されるように、この作品は、アビスの影響を受けた特徴的なキャラクターなどの造形方面に目を奪われがちです。しかしわれわれ「最後の人間」が最も嫌う「超人」をベースに据えている世界観こそ、読者を魅了する強烈な歪みなのだと思います。

直近(過去半年)のゲーム事情

今回はここ半年ほどで、ちまちまやってきたゲームについて書いていこうと思います。

 

例によってツイッター以外で文章をまとめる機会がほとんどなかったため、リハビリも兼ねています。ただそれ以上にゲームのセーブデータを数年後にロードし直しても、順序だてたエスコートもなく瞬間冷凍されていた世界に放り出されるだけで、当時の心境や感想までリメインしている訳ではないことを最近感じていて、日記のように感情の記録をしておくことは必要かなと思った次第です。

 

就活が始まった当初は周りを見回して「自分も一生懸命にやらねば」等と思いつつ、でしたが、やはり自分の精神を支えているのはそう言った真面目な感情だけではないようで、steamのセールを見つけては小さめの規模の作品をぽちぽちと遊んできました。

 

前置きが長くなりました。早速書いていきます。

 

War,War never changes.

Fall Out 4

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最初に紹介するのはこちら、オープンワールドRPGの大手ベセスダが2015年に発表した作品。

題名からして「放射性降下物」を意味している本作は、核戦争後荒廃したアメリカを舞台にしたRPGです。4作目となる本作は開戦直後に冷凍され200年そのまま放置された主人公が連れ去られた息子を探すというストーリーになっていました。

 

今回の物語を構成するうえで鍵を握っていたのは「人造人間」です。

メインストーリーを進めていくと規模も目的もわからない謎の集団「インスティチュート」が、生身の人間と寸分たがわぬ人造人間を、本物とすり替える形で送り込んできているらしいことが分かってきます。両者の違いを判別する術はなく、完全に死亡してから初めてわかるほど精巧な作りであるため、人々は身近な人間や自分自身がすり替えられた”偽物”なのではないかと怯え、インスティチュートを敵視しています。

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(ストーリー中盤で加入する探偵ニック・ヴァレンタイン。一見してそれと分かる旧世代の人造人間だが、その能力と人望により例外的に住民からは慕われているという設定。)

 

人造人間は冷徹な機械人形であり、地上から抹消しなければならないと意気込む武装組織「ブラザーオブスチール(BOS)」、人造人間に自我を認めインスティチュートの支配から解放してあげるべきだと意気込む技術者集団「レイルロード」。この三つ巴の紛争に主人公は介入していくことになります。なぜなら自身の息子がまさにインスティチュートに連れ去られているからです。

 

このテーマが自分は非常に面白かったです。戦闘バランス・UIの向上や、過去作になかった爆心地の探索なども魅力を増す一因でしたが、何よりテーマが良かった。

物語終盤にインスティチュートがすり替えた人間の名簿が発見されるんですが、その中にそれまで人造人間を根絶やしにしてやると息巻いていたBOS高官の名前があるんですね。BOSの誰しもが困惑する中、最高指揮官は彼を更迭し、処刑しようとします。

物語を進めるにつれて、人造人間と生身の人間を隔てるものはほぼ無いといっても過言ではないことが徐々に判明してくる。それが分かっていつつも頑なに否定し殲滅を掲げるBOSの指揮官は見ていて痛々しいです。序盤にあった人造人間から人々を守るという錦の御旗が消滅していくのが分かっていながら、その形骸化した理念を簡単には取り下げられない。

 

さらに面白かったのは、非公式wikiにおいてゲーム内の「人造人間」に対する存在しないデメリットについて書きこまれていたことでした。

本作では自身の住まう町を自由にカスタマイズできる機能があり、丁寧に整備すれば住民の満足度が上昇するように設定されています。しかし住民の中に人造人間が紛れ込んでいる場合、この満足度が低下していくという内容の書き込みがあり、ある程度それが信じられていたのです。

人造人間=得体のしれないもの≒悪性という不安や疑念がプレイヤーの側まで浸食してきているのが興味深かったと同時に、(それまでの価値観において)異分子だと感じる存在が自分たちの社会に溶け込もうとしてきたとき、我々は理性的な判断を下し柔軟に対応することが果たして出来るんだろうか、ということをとても考えさせらました。

 


映画『イヴの時間』予告編

容姿の似通ったアンドロイドと人間の交流を描いたアニメ作品で「イヴの時間」というものもあります(こちらは他者の違いを認め合うという部分に重点が置かれていましたが)。

これらの作品は他者への心理的な異分子感を理性によって再検討し、改革していくことについて、考えるきっかけになるのではないかと感じました。あらゆる場所で既存の区別を差別であると再検討することが叫ばれている現代であれば、なおさら。

 

なお本シリーズではこれまでにも、放射線を浴びた結果ヒトが突然変異したグールという存在も登場します。彼らは放射線への高い耐性を得た代わりにグロテスクな外見と、将来的には正気を失い人間を襲うようになるかもしれない性質をもち、地域によっては厳しい差別を受けています。しかしグールにも人格者や卓越した戦闘技術を持つ者はいるほか、世紀末な環境からヒトの中にも悪逆非道の道へ走る者も少なくないことなどを含めれば、結局は「ヒトと同じ」とも言えます。移民の国であるアメリカの未来を舞台にしている以上、こうした表現には何かしらの意図があるように思っています。

 


Fallout 4 - Official Trailer

といろいろ書いたものの、何より自分は廃墟溢れるポストアプカリプスの世界観がかなり好みというのが大きいです。Falloutシリーズのプレイは2作目で新参も良いところですが、人の香りがする廃墟の演出が何よりも自分の琴線に触れていると感じています。

 

 

 

次です。

人生は選択肢だらけ

 でも もし 

  選び直すことができたら

Life is Strange

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アドベンチャーゲームという枠に分類される(らしい)作品で、ニコニコの淫夢実況でダイマされて関心を持っていたところ、なぜかPS4版の半額の値でsteam版が購入できたので買ってしまいました。

オレゴン州の田舎町で写真を学ぶ主人公のマックス(写真左)が、5年ぶりに再会した幼馴染のクロエ(写真右)と共に失踪した女学生を探すというストーリーなのですが、マックスは物語開始直後に時間遡行の能力を手に入れます。

幼馴染や同級生との人間関係に悩むマックスは、時間を巻き戻しながら思い通りの結果を得ようと努力しますが…という感じ。

少しぼかしたようなキャラクターモデリングや陰影のハッキリしたオブジェクト配置など、雰囲気を重視した作風になっていて、切った張ったのアクションはほとんどありません。穏やかなBGM(どの曲も抜群に良い)と合わせて、ステージを歩いているだけでかなり情緒に訴える内容になっていたように思います。

物語を構成する重要な要素の一つである時間遡行の能力も、STEINS;GATEやアニメ版時をかける少女のようなメカニズムに関する考察は行われず、舞台装置としてマックスを翻弄する形で出現します。その点が非常に詩的で、メインテーマである人間関係の部分に集中することができるようになっていました。

 

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本作の魅力は何と言っても人間描写で、5年ぶりに再会した幼馴染のクロエとマックスとのやり取りが目玉です。他の人間はこの二人をクローズアップするために消費されているという感覚すらあるくらい。

二人は5年前互いに認め合う親友でしたが、マックスは引っ越しを機にクロエと連絡をほとんど取らなくなってしまいます。その間クロエは信頼していた父親を事故で失い、母親の再婚相手とも上手くいかないことから自暴自棄になってしまいます。そんな折出会った同級生のレイチェルがクロエの心の支えだったのですが、彼女が本編開始時点で行方不明。クロエにとっては直近の親友がいなくなると同時に、昔の幼馴染と偶然再会した形になります。

 

この三名【マックス(主人公)―クロエ(幼馴染)―レイチェル(クロエの親友)】の人間模様がストーリーが進むにつれて様々に変容し揺れ動きます。主人公はクロエから伝え聞く「レイチェル」なる人物に憧れとも嫉妬ともつかない感情を抱くのですが、一方でレイチェルが見つからない以上クロエを大切にできるのは自分しかいないと使命感に燃える。

最近流行りの””””百合””””って奴に近いんじゃないでしょうか。こうして生まれた”””複雑な感情”””と時間遡行の能力は引っ込み思案だったマックスにも徐々に変化を及ぼします。彼女自身の成長も本作の見どころの一つでしょう。


ライフ イズ ストレンジ: シネマティックトレーラー

登場人物が皆超人的な美人だったりイケメンではないというのも、表層的なモデルではなく物語に没入することを手助けしていたように思います。彼女らは特別に収集された能力者ではなく、片田舎の高校生であることを念押ししてくるというか。

 

ただ雰囲気ゲーの宿命というかシステム的な部分で問題点は色々感じました。選択肢とエンディングとの相関関係が弱いとか、時間遡行能力に関する追及が薄いために主人公たちの言動がどこか白々しいとか。

 

とはいえそういった点はゲーム自体の詩的な雰囲気を高める長所でもあります。物語は行方不明のレイチェルを探しつつ、4日後にやってくる巨大竜巻から町をどう守るかに次第にシフトしていくのですがバタフライ効果の有名な例として持ち出される「蝶の羽ばたきが嵐になる」の流用だと気付いてからは、このゲームが彼女たちの心情をどう脚色して描くかという部分をひたすら追求したものなんだと納得して解決しました。

 

本作の続編でありクロエとレイチェルの邂逅を扱った「Life is Strage before storm」 も忘れないうちにプレイしたいのですが、百合の”””””人間関係”””””は傍から見ているだけでも疲れてくるので、様子見中です。

 

 

 

次です。

言葉なきナラティブ

Hyper Light Drifter

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荒廃した世界、ゼルダジブリ調のドット絵グラフィック、静謐且つ哀愁の漂うBGM、文字を使用しない独自のUIなどが組み合わさり独自の世界観を放つ作品としてインディーズゲームでも高い評価を受けている作品です。

 

ゲーム自体はそれほど規模が大きいものではないのです(通しで10時間くらい?)。戦闘が少し難しい場面があるほかは、世界観に浸るゲームと言ってよいと思います。値段も2000円ほどで手ごろ。廃墟好きにもお勧めできます。何しろどこへ行っても廃墟なので。

 

シンプルな操作性と技量重視の戦闘システムの関係でyoutubeなどにRTA動画など数多く上がっています。そういった楽しみ方もできるというのは、良いですよね。

 

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 このゲームが世界観を重視している証左として文字の不使用が挙げられます。ではNPCとどうやって意思疎通を図るかと言えば、数枚の絵を紙芝居のように見せられることで済まされます。どうやら主人公とNPCは「会話」自体は出来ているようなのです。そういったやりとりからは、彼らが”文字のない社会”に住んでいることを感じさせられます。

 

ゲーム内にて世界の真ん中にあるホームタウンには東西南北それぞれの敵の拠点から逃げ出してきた人々が(動物たち?)が暮らしています。彼らの住まう町はある程度整然としていますが、文字の無い彼らの営みは歴史を生み出せません。世界に何が起こったのか、なぜ敵が拠点を制圧しているのか、物語の根幹を知りたければ拠点の各地に散在しているモノリスから文字を読み取る必要があります。これらの文字はまどマギの魔女文字のようなもので、別途翻訳が必要なものですが、書かれている内容は設定を深く理解する上では必要不可欠なものです。

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しかしこのモノリスは茂みの先など普通にプレイしている限り見つけにくい場所ばかりに配置してあります。初見ではそのほとんどをスルーしてゲームをクリアしてしまうのではないでしょうか。ただそれもまた徹底して作り上げた世界観織り込み済みであると自分は感じています。伝聞によって教わった敵をよく分からないまま倒してしまう。そこに本作が抱える寂寞具合が如実に反映されているのではないでしょうか。

 

というのも物語を進めていくにつれて本作の主人公がゼルダの伝説における選ばれた「勇者」のようなものではなく、これまで何人も送り込まれては失敗(死亡)してきた執行者の一人であることが分かってくるからです。使い捨てのコマである主人公は歴史を知る必要などなく、モノリスの文字が読めなくて当然ともいえます。でもそんな主人公が懸命に世界を回り、ダンジョンを切り拓いていくからこそ、廃墟だらけのステージが映えてくる。そんなちょっと拗れたアクションゲームになっています。

 


Hyper Light Drifter - Release Trailer

PV見ただけで分かると思いますが、ピアノベースのBGMがとても良いのでSteamで買う方はOST込での購入をお勧めします。今回紹介しているゲームのなかでも3番目くらいに音楽が好きです。2番は次に、1番は最後に紹介します。

 

 

 

次です。

「船」の帆を広げ、風を受けて進め。

FAR: Lone Sails

まずはこちらのPVをご覧ください。


 

FAR: Lone Sails - Gameplay Trailer

今年の5月に発売された新作で95%雰囲気ゲーです。残り5%は厨房管理のミニゲームという感じでそれほど難しくありません。当然難易度設定も無し。

終末世界にて主人公の女の子(?)が車輪の付いた帆船に乗り込み、ひたすら前へと進んでいくだけの内容です。こちらもインディーズゲーム。レビューには映画を見ているような感じというものもあったのですが、まさしくそのような印象を受ける内容です。

またポストアプカリプス廃墟ゲーかよと思われるかもですが、またです(無反省)。

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こういう廃墟ゲーは緩急の付け方が難しくて、オブジェクトが無さ過ぎてもありすぎても魅力を損ないます。ヒトの痕跡が全くないサバンナのような平原をひたすら進むと、飽きてきてしまいますし、人の痕跡があり過ぎると廃墟探索ではなく空き巣のような感覚に陥ってしまう。本作はBGMの挿入タイミングや昼夜の入れ替わりのタイミングなど演出的な部分も含めて、構成がとても練られていたように感じます。

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かつてのFlashゲーム(顔風船など)を想起させるような機械のギミックなどもあり、少し懐かしいような感覚にも陥りました。

また基本的にセリフが登場しないので、主人公の心情を勝手に想像できるのも良かった。

本作における船は彼女にとって世界を切り裂いて進む希望であると同時に、離れては生きられない檻でもあります。しかしそれ以上に一人ぼっちの彼女にとって、旅のさなかに見つけたラジオやぬいぐるみなど、自らの行動・足跡を照明する物品を補完する「家」としての機能が徐々に付与されていきます。

 

そしてその家を保持するために、本当に必要になった時には思い出すらも薪にくべて前進しなければならない(あらゆるオブジェクトを燃料化できるため)、そんな悲壮感が漂う場面もあります。最終盤この船がXXXしてしまったときには思わず声を上げてしまいました。本作においてプレイヤーは船を俯瞰視点、神の視点で見続ける存在ではあるのですが、船≒家に対する愛着を共有して思わずそういう気持ちになってしまうほどに没入させてくる作品です。

 

問題点として、初見でも100分ほどで終わってしまうボリュームの少なさを挙げる方も見かけましたが、演出・BGMだけで元は取れているのではないかと自分は考えています。あまりにも雰囲気とプレイ感が良すぎて、購入日には二周続けて遊んでしまうほどでした。

 

 

 

次です。

ムシ達の王とその器

Hollow Knight

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悪魔城ドラキュラにダークソウルのテイストを加えた2Dアクションアドベンチャーです。ストーリーは有ってないようなものなんですが、荒廃した虫たちの王国を記憶の無い主人公が探検し、その荒廃の元凶に迫っていくという感じです。

戦闘やキャラクター操作も複雑なところは殆どなく、NPCを誤って攻撃してしまうということもありません。ボス撃破やマップ開拓によって新たな能力を手に入れ、それまで行けなかった部分を探索するというのもわかりやすい。

 

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本作の目新しいところと言えば敵も味方も登場するものすべてが昆虫をモチーフにしているところでしょうか。ちょっとデフォルメされていて可愛いんだけど、必要以上にヒトに寄せていないキャラデザが秀逸で、穴倉のように入り組んだフィールドと合わせて世界観の浸透に一役買っています。

 

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アリの巣のような広大な地下空間は複雑に絡み合った廃墟で、現在地点を確認せずに目的地へと移動するのはほぼ不可能です。本作では行く先々で地図屋にマップを更新してもらうことが、迷子にならないために必要となります。壊せる壁や床・天井なども大量に配置されており、マッピングが好きな人にはたまらないでしょう。

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このゲームのすごいところは独自開発の団体がクラウドファンディングで資金を調達し、グラフィックの全てを「手書き」で行っているところ。

故にクオリティの割に値段がとても安い。難易度こそ高いと評判ですが、やり込みやDLCまで考慮しなければ中の上くらいの印象。時間さえかければエンディングまでは到達できると思います。PS4やSwitchへの移植も行われており、追加のDLCも開発中とのことです。クラウドファンディングによるゲーム開発には詐欺まがいのようなものもあると聞きますが、team cerryは今回の仕事でとてつもなく名を挙げたでしょう。

自身を強化しながら広大なマップを探検する、悪魔城ドラキュラメトロイドシリーズが好きな方にはお勧めできる作品になっています。音楽も良い。


Hollow Knight - Release Trailer

 

 

次です。

[N/A]大都市の生と死

Cities Skylines

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フィンランドのColossal Order開発の都市開発シミュレーションゲーム、度重なるアップデートにより高層ビル街から農村都市まで幅広いまちづくりが可能な作品になっています。土地の修正によって山や海に開拓を行ったり、些細な部分にも拘ることでロールプレイまで可能です。すごい。

序盤は町の管理に関する知識が不十分で、水道管を廃棄物処理場の下に通し上水に細菌が入り込むといった実際の街でやろうものなら失脚どころの騒ぎではないポカ*を行ったりしましたが、徐々に慣れてくると市民からの不満も減ってきました。(それでも最初の町は勝手が分からない内に採算が破綻して消滅しました)

*これと似た状況の地方都市米ミシガン州フリントが主題のドキュメンタリー『フリント・タウン』がNetflixで公開されています。おすすめ。

 

町は発展してくると人がどんどん外部から移住してきて、規模も拡張されていきます。しかしそうすると今度は彼らの動きを制御するのが面倒になってくるでしょう。住民の動きを管轄するAIは簡単なもののようで、公共交通機関があれば「最も近い駅の手段を利用する」ようです。各機関の混雑具合やそれに基づく目的地への到達時間の比較などは行いません。

これが何をもたらすかというと、一台に30人しか乗れないバス停で1000人以上の人間が待っていたり、片側1車線の道路が最短距離だからといって車が殺到したり。おおよそ普通の町では起きないような問題が発生します。ゲーム内の住民は人間というより知能のある水のようなイメージ。彼らの導線をどう確保するか試行錯誤を繰り返すことが町の拡張には必須となります。

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本作はシステムが複雑かつ綿密に完成されているため、プレイヤーサイドに要求されるものが多いという課題もあります。

例えばPCスペックですが町が大きくなり人口が増えるにつれて処理が増え、パソコンの挙動も徐々に怪しくなってきます。設定である程度誤魔化せるとはいえ、ゲーミング用ではないノートパソコンでの起動はお勧めできません。自分のパソコンは本作をやっていた10日くらいの期間に2回ファンが熱暴走を起こしました。

あとこちらは経験以外に解決方法がありませんが、自由度の高い街づくりにとって無計画さは命とりです。場当たり的に必要な施設を継ぎ足していくと、モリモリしたブロッコリーのような形の街になってしまいます。というか、なります。都市計画がいかに難しいかをしみじみと実感しました。PVのような整然とした都市をつくるのは並大抵のことではありません。

この二点の両立が難しい場合は素直にプレイ動画を見ましょう。(諦め)


Cities: Skylines シティーズスカイラインズ 淡路島を電車で一周の旅

 

感想としては常に賛否両論ある都市の再開発について非常に考えさせられる作品だと思いました。ニューヨークの都市開発をめぐる闘争の指揮者として有名なジェイン・ジェイコブズは、人間同士の密接なやり取りがあってこそ正常なコミュティの創成につながることを著作「アメリカ大都市の生と死」で示しました。

これはそれまでのモダニズム的な都市開発計画、つまり広い道路と大きなビルを整備してそこに人を入れれば町は勝手に発展するという思想とは大きく異なり、ごみごみした下町の価値について初めて言及したものだったのですが…

 

このゲームにおいてジェイコブズの思想は成長の足かせになるだけです。どれだけの住民に立ち退きを強いることになっても、道路を拡張し渋滞を緩和することが街自体の発展につながることが常だからです。そして本作における住民は、クリック一つで文句も言わず自宅を更地にさせてくれます。

経済的発展が住民の幸福に直結するわけではありません。しかし「人が溢れる町」を目指す時、一定区画の住民の意思を踏みにじり大規模な開発を敢行することも、的外れな選択肢ではないなというのを暗に、しかしハッキリと示してくるゲームだと思います。

 

 

次です。

パルクールと「バイター」

Dying Light

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ゾンビ要素とパルクールを混ぜた意欲作として評判の高いオープンワールドタイプのRPG。定価6000円の完全版が何を考えているのか2000円に値下げされていたため買ってしまいました。(今はまた6000円です)

主人公は自身が所属する組織GREのエージェントとして、謎のウイルスが蔓延する「ハラン市」にやってきます。町を牛耳る荒くれ集団”ライズ”の長が持つという治療薬の情報を取り返すため、そして生き残った人々の信頼を得るべく奔走するのですが…

本作の目玉の一つはパルクールという身一つで街中を駆け回るストリート色の強い競技/趣味を取り入れたことだと言われています。壁をよじ登ったり狭い隙間に滑り込んだりしてバイター(本作のゾンビ枠)と追いかけっこができたり、目的地に素早く移動したりできます。アサシンクリードにも似た高低差を生かした街の散策は、爽快であり本家のパルクールのイメージアップにも通じるモノがあります。


琉球疾走 ‐ パルクール視点動画/ParkourPOV

発売から大分経っていることもあり、多人数プレイは全く捗りませんでしたが、ランダムイベントなども多く一人で街をうろついているだけでも結構楽しかったです。

本作のもう一つの目玉はあまり言われていませんが、ゾンビではなくバイターであるという部分にあるのではないかと思っています。というのもバイターは死者かというのが本作プレイ時に常に感じたからなんですが。

バイターとは”噛むもの”=ウイルスに感染した人間であり、ぱっと見ゾンビですが部位を欠損すれば流血する(心臓が機能している)し、DLCでは人間としての意識を保った個体も登場します。

ウイルスに感染していない「生存者」の中には身近な者がバイター化したがために、自宅に幽閉している者もいたりして、バイターをどう扱うかは考えさせられました。

 

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もちろんバイターは”敵”なので、どれほど残忍に殺そうがハラン内部ではお咎めなしです。しかしそれこそ大脳の大部分が動いているとしか思えないバイターを、死者と同一視出来るかという問いは常に突きつけられていると思います。

大量のゾンビが徘徊する中を走り回るという点では似通った「デッドライジング」という作品があり、こちらの続編「デッドラ2」ではゾンビの人権を主張するCUREという団体が半ばカルト宗教のように描かれます。しかし人間の死に関する線引きについて盛んな議論が交わされている現代において、CUREの思想はズレていると断言することもできなくなってきているのではないでしょうか。創作物の中にしか存在しないとはいえ、こうしたゾンビに対して自分はどう判断するのか、その立ち位置について少し考えてみると面白いのかもしれません。

 

 

 

 

真面目に紹介するのは次で最後です。

 

きみと紡ぐ無の境地

GRANBLUE FANTASY

 

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通称グラブル、艦これ全盛期から生き延びているソシャゲ大手のひとつ。

丁度去年の今頃登録し、数度の休止を経たものの未だにちまちまやっています。

キャラパワーがシステムの不備を埋めているタイプの作品だとは思うのですが、ある意味2D時代のFFを後継作ともいわれています。(撃破した敵の消え方とかそのまんま)そのほか様々なソシャゲの良い点を取り入れて絶えず更新している点が、アクティブユーザの維持できている理由なんでしょう。

これが直近半年の中では一番プレイ時間長いと思うのですが、””無””系のゲームなので感想だけを。

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このゲームの長所であり気味の悪いところは、登場する全ての存在が善人であることです。あらゆる人種・立場の人間と即座に分かり合い、決して(人間的に)誤った選択を選ばない主人公を筆頭に、敵も味方も皆淡々と自らの求められた役割を遂行します。たまに悩みがあったかと思えば、主人公によって快刀乱麻もいいところ、綺麗さっぱり解決します。最初はそれがストレスフリーで良いなと思っていたんですが、続けているとあまりにも紋切り型な展開が繰り返され、逆に怖い。

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まあソシャゲなんてみんなそうなのかもしれませんが。

こういうあまり考えず、何かのついでにできるゲームが流行っているということはゲームですら集中して没入、注力することが出来なくなってきているという事なんでしょうか。LSDはインスタント禅だと言っていた人がいましたが、ソシャゲプレイヤーも皆実はゲームではなく脳の停止≒悟りのようなものを、潜在的に求めているからそちらに走るのかもと、本作を熱心にプレイしている社畜の知り合いを見ていると思います。

 

 

以下その他のゲームを簡単に紹介する枠

Far Cry 4

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ヒマラヤ山脈周辺と思しき山岳地帯で、民兵組織に加わった主人公が独裁者の支配地域を開放していくオープンワールド形式のRPGベトナム戦争追体験っぽいような、そうでないような。ストーリーに共感できず終盤に差し掛かったところで積んでしまいました。やり込み要素万歳なところが、さらに作業感を加速させています。プレイ感覚自体は近代兵器があり、魔法の無いSKYRIMだったのですが、どうしてこうなった。

 

 

 

Lu Bu Maker

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古代中国に転生した主人公の元に、『三国志』に登場する武将の中でも最も強く粗暴な英雄呂布が養子としてやってくる。彼女を「良い娘」に育てて、史実のような”親殺し”を回避しようという突飛な発想の育成ゲーム。「プリンセスメーカー」ならぬ「呂布メーカー」。

感想を一言でいうと子育てって難しい。全く思ったとおりの呂布に育たず、放浪したりあっさり暗殺されたりしました。なお呂布ちゃんは韓国語で話しますが、日本語字幕とニュアンスで分かるので大丈夫です。

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ちなみに呂布以外の武将も魅力的な女性として登場します…が、彼女らが呂布と親しくなるとそのまま引き抜かれ、父親である自分が殺される要因になります。

 

 

 

 

Doki Doki Literature Club


Doki Doki Literature Club! Trailer

友人からお勧めされたノベルゲ。英語原作ですが日本語化MOD含め無料で遊べます。Undertaleと比較されることが多いと聞きましたがシステムや方向性は『君と彼女と彼女の恋。』の方が近いと思います(うわべだけ見れば)。この手のゲームは何かアルことが分かってプレイすると魅力が半減してしまうので、人に勧めるのが難しいですね。

 

ゲームをするだけの気力は起きないが、何が起きるのか知りたい方はこちらをどうぞ。非常にテンポよく要点をまとめています。そしてその先の考察まで。

 

 

長くなりましたが、パソコンがトンでも記憶から忘却されてもこれで記録が残るかなと思います。かなり偏ったゲーム選出なので、お勧めできる作品ばかりというわけではないのです。ただ、どの作品も高い評価を得ているものかつ、値段も手ごろなのでsteamゲーに触れたことが無い方は、何かのきっかけにしていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公は、「Batter」(=打者)という役割を持っている。

Batterは、ある重要な任務を任されている。

Batterは、ある神聖な任務を任されている。

 

Batterを導き、その任務を達成せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OFF

 

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最近最も感銘を受けたゲームがこれ。最後はOFFの紹介で〆させていただきます。

見ての通りRPGツクール、それも"2007”で制作されたかなり古いゲームです。フランス人のMortis Ghostさん原作で、日本語版も有志の手により無料で配布されています。

音楽と世界観が抜群に良く国内外で今なおカルト的な人気を誇ります。曖昧なストーリーや解像度の低いドット絵は多くのファンメイドを生み出しました。(海外版ゆめにっきと呼ぶ人もいる)Twitterで検索するだけでも未だに新規のファンアートが数多くヒットします。ツクール産ホラーゲームの有名どころでは青鬼やIb、ゆめにっきなどがあるかと思いますが、本作はこうした作品とはまた一線を画す出来となっています。

 


OFF - Fan game Trailer.

主人公であるBatterは「ある重要な使命」のため、プレイヤーに導かれzoneと呼ばれる世界を回ります。そして行く先々で汚れた魂を浄化し、世界をあるべき姿に戻そうとします。謎解きをしながら進むRPGなのですが、世界観のどこを切っても妙なクセがある。それが気味悪いような甘美なような形容しがたい魅力を放っていると感じました。先鋭的なんだけど退廃的というか。

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自分の専門分野と関連する感想もあったので書いておきます。

バッターは世界に巣食う悪霊(敵)を粉砕し、白く清潔で淀んだところがない形へと「浄化」していきます。しかし浄化された世界は無味乾燥なフィールドであり、その度を超えた漂白具合は恐怖を覚えるほどです。それを見て思い出したのが芸術分野ではスタンダートとされている「ホワイトキューブ」の暴力性でした。

敵である悪霊が跋扈する浄化前の世界は先ほども述べたように、先鋭的なようで停滞した坩堝のようなイメージを受けます。しかし浄化された後は専用BGMも相まって、世界の一切の魅力が消え去ってしまったように感じるのです。

 

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ホワイトキューブは作品本来の魅力を最大限引き出すために考案された、床から天井までを真っ白に染め上げた直方体の空間のことで、現在の美術館やギャラリーでは展示空間のスタンダートとされています。しかしそうした徹底した無個性な空間と釣り合う為には、作品にも強烈な個性が求められます。だから分かりやすい個性を十分に発揮できていない例えば素人作家の作品などは、ホワイトキューブではなく喫茶店の戸棚など、ある程度雑音のある空間に置いた方が映えたりするものです。

 

そして本作OFFの世界におけるあらゆる要素も、浄化された世界には不釣り合いな、ホワイトキューブを拒絶する弱いオブジェクトという印象を受けます。しかし弱いオブジェクト=無価値というわけではない。浄化を遂行するBatterが終盤怪物じみて見えてくるように、行き過ぎた白さは暴力的ですらある、そんなことに気付かせてくれる作品だと思っています。(さよ教の最初でもそんな文章があったような)

 

 

ただ何しろ古いゲームということもあり、テンポの悪さが難点として挙げられるかもしれません。ランダムエンカウントを採用していたり、ツクールの仕様上消去できないコマンドが邪魔だったり、主に戦闘部分で難があると言えるでしょう。

それでも発表後10年以上の時間的ラグと、フランス語からの翻訳という言語の壁を越えて、未だに支持されるのにはやはり理由があるなと感じられるだけ、各所に示唆的な内容が含まれています。

 

 

あとこれは蛇足だと自覚の上で書きますが、淫夢クッキーBB劇場で本作をオマージュしている【オフッside:DIYUSI】というシリーズがあり、ゲームを一周クリアしてから見ると非常に優れた派生作品だとわかります。淫夢MADに抵抗の無い方は合わせて触れてみてください。(実はこのシリーズの最終回がランキングに上がってきたのを偶然見かけて自分はOFFを発見しました)

 

 

今回の報告は以上です。長文になってしまいました。

除染最前線:富岡町にて

 去る3月24日(土)、一回分だけ余った青春18切符を使い切るべく福島へ行ってきました。(4回分は熱海周辺に行っていました。不思議な土地です。いずれ報告するかも)

 

2011年の東日本大震災とそれに伴う福島第一原発メルトダウン、建屋の水素爆発。

テレビニュース、再現ドキュメンタリー、映画、新聞、Twitterで福島について様々な情報を7年間見続けてきました。

でも、やはり自分の目で見ておくべきだと思ったので行きました。目的地は富岡町。昨年4月に帰宅困難地域を解除されたばかりの場所であり、JR常磐線終着です。

 

富岡町ってどこ?

富岡町まで行くこと」だけ先に決めていた私は、時刻表以外にあまり下調べせずに出発しました。その結果いろいろと思い知ることになります。

 

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まず遠い。

JR最寄り駅から目的の富岡駅まで終始18切符が使えるのは良いのですが、距離がかなりあります。四国基準で言えば高知の中村駅から徳島駅くらいの距離がありました。

結果朝4時半に起きて到着は10時。18切符を使わないと片道電車賃8000円近くかかります。普通に行くにはちょっと金と時間がかかりすぎる距離ですね。
それでも休日という事もあってか、一眼レフを携えたお兄さん、おじさんらが数人富岡駅で下車していました。

 

あとは放射線。今年のNHKで放送していた震災特集で同地から中継等行っていました。よってあまり気にせず行ったのですが、駅に着くといきなり線量計がありました。

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単位はμSv/hと健康に影響を及ぼすとは考えられないほど低い値で、これを示す意味があるのか分かりません。特に気にする人もおらず一応やってます程度なのかも。

 

とはいえ2012年11月の調査では約9μSv/hと5日居れば通常一年で浴びる放射線量に到達するかなりの汚染地帯だったようです。(単純に乗算しただけなので内部被ばく等は考慮していません)

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放射性降下物の半減期がどれくらいなのかは知りませんが、線量だけ見れば比べ物にならないほど低下しています。除染はかなり効果を出しているように思えました。

 

 

ただし最初にも述べた通り、富岡町は期間困難地域を解除されたばかりの土地であり町の北東部は未だに除染作業が完了していません。

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こちらが現在の期間困難地域(2018年3月27日時点)

見てわかる通り第一原発に近い双葉町大熊町はほぼ全域が帰還困難地域です。

JR常磐線の終点が富岡駅になっているのもこれが理由で、この区間代行バスが出ているようでした。

 

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こうした事情により北に位置する浪江町との間は立ち入りが依然禁止されています(一部例外有り:後述)。当該地域との境目にはパトカーが巡回している他、道によっては高いバリケード、監視員、監視カメラ等が設置されており、38度線のような状態でした。

 

 

○除染地域を歩く

 まず富岡駅を降りて目に飛び込んできたのは駅の東側。海岸にかけての光景です。

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見事に何もない。

津波の影響をかなり受けたようで、工事車両が盛り土をせっせと行っていました。

海まで歩いていこうとしたのですが、海岸線全域が工事中で立ち入り禁止。

一面コンクリートなので鳥もほとんどおらず、気味が悪いほど静かな場所でした。

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詰まれたウレタンパック。除染に伴い剥がされた表土等が入っているとみられます。

付近にはこのパックを大量保存しているとみられる巨大なテントもありました。

 

 

 

 このあたりで海岸線は諦め、期間困難地域との境界へと向かいます。

 

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おそらく踏切があったとみられる場所。遮断機類は一切なく、線路の向こう側にはフェンスがあり、実質的に通行止めの状態です。この線路は富岡駅の北側にあるため、列車は通りません。 レールが真赤に錆びていました。

 

こんなところに献血カーが来ている!と思ったら

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内部被ばくの検査カーでした。こんな車見たことない。誰も受診していませんでした。

道を歩いている人もほとんどおらず、とても静かです。

 

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かつては原子力発電所について扱った博物館だったようです。現在は一般立ち入り禁止。中庭のタイルは除染目的か全面割られていました。

 

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こちらはもう少し進んだ境界線近くの個人宅?です。

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2015年のgoogleストリートビューと比較すると分かるんですが、15年時点では庭の半分ほどが砂地で覆われていました。除染で砂地が殆ど剥がされて、代わりに砂利が敷かれたようです。除染という行為自体、景観を破壊するという諸刃の剣なんだと気付かされる場所は他にも多々ありました。

 

 

除染や廃炉作業に必要な物資が膨大なためか、都市部や田舎では見られない規格外サイズのトラックも目にしました。こちらは40tの牽引トラックです。

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そして廃墟も多い。田舎に潰れたパチンコ屋があるのは珍しい事じゃないんですが、気味が悪かったのは二枚目の店舗。

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二階右側面にある縦開きの窓が開いているのが分かるでしょうか。経験則なんですが、窓が割れている廃墟はあっても、窓が「開いている」廃墟は珍しい。取るものも取らず逃げ出した6年前の様子が想起されて怖くなりました。

 

 

○「この先帰宅困難地域」

 そして辿り着いた街の北東部。帰宅困難地域です。監視員より右側が立ち入り禁止地区。非常にあっさりした境界線です。

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一方こちらは別の場所。監視カメラが設置され明らかに通行止めといった感じです。

スマホのカメラでは望遠が難しかったので写真はありませんが、境界線付近の建物は瓦がはがれたままだったり、屋根に穴が空いていたりと、震災の影響が今なおはっきりとみられるものが多くありました。

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そして北へと続く国道6号線。常磐線代行バスはこの道を取って北へと向かいますが、窓が閉められるタイプの自動車以外の通行が禁止されています。当然歩行者である自分も進めるのはここまで。ある種の「地の果て」です。

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www.youtube.com

車載カメラによる動画を見ると、当該地域では途中下車できないようバリケードが無数に張り巡らされているようです。

 

 

○震災復興は成ったか

昨年4月に帰宅困難地域が解除された富岡町では、自宅へ戻る住人も一部いるようです。実際道を歩いていると、家の前で団欒する住人の方々がいらっしゃいましたし、地域のスポーツセンターでは野球をする男性グループも見かけました。

とはいえ依然空き家はかなり多く、長年の人口不足に伴い、野生動物による被害というかつては無かった問題も発生しているようです。長年の避難は地域コミュニティを深く傷つけてしまったように見えました。

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また除染は終わったと言っても、町全体が復旧されたわけではないようです。

歩道橋の他、道路の陥没注意を呼び掛ける看板は各所で見られましたし各種店舗もほとんどが閉鎖したままです。神社など文化施設の復旧もかなり時間がかかるものとみられます。

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こうして考えると、従来富岡町に住んでいた方々が富岡の再建に尽力するのと同時に、今後復興関連事業に携わる労働者の方々がこの町を経済的に支えていくことは容易に想像されます。全く立場の違う2種の人々が共に生活する町として今後、除染や廃炉完了までの数十年を過ごしていくことは復興というより明らかな町の変質です。

 

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(駅のコンビニでの品ぞろえ、ラインナップに偏りが感じられる)

原発事故がもたらした福島の諸地域は決して事故前の状態には戻らないということを、肌で感じることとなりました。

 

 

と同時にこの地域の「当たり前」が非常に見慣れない、異常なものであったことも忘れないように書いておきたいと思います。

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空き地に汚染土の入った袋が大量に置かれていたり、特定の地域に入ることが出来なかったり。テレビで見慣れている光景だったはずなんですが、実際に目にするとやはり異様です。とても異様です。やったわけではありませんが、(おそらく)道を歩いているだけでパトカーに乗せられるというのはとんでもない場所ですよ。帰宅困難地域付近では戦時下を部分的に体験してしまったようなショックを受けました。見たつもり、分かったつもりというのは恐ろしいですね。

 

 

 

 

 

あと非常に気になったことが一つ。

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(汚染度を補完していると思われる白テントの建物、超でかい)

津波によって大量の死者を出し、未だに盛り土が終わらない海岸地域は最も人の寄り付かない場所でしょう。平坦且つ住民の反対が無い広大な土地という汚染土を一時保管するにはうってつけの場所だと思います。

しかしこの場所にもう一度津波が来たら汚染土が流出してとんでもないことになりますよね? 

私は地質学者ではありませんが、先の熊本地震で大規模な揺れが2度繰り返し発生するという事例がありました。地震がどのような周期で発生するか完全には分からない以上、可能ならばもっと山奥に移動するのが得策のように思います。

(無論そんな金も時間も土地もないから一時保管施設として定めているのでしょうが)

 

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以上富岡町の様子がとても衝撃的だったので、部分的ながら出来る範囲で文章にしておきました。

富岡での戦時下はまだ続いています。それだけは絶対に忘れてはいけないように思います。

雨の降る街―Rain World というゲームについて

期末レポート以降呆けていたら、全く文章が書けなくなっておりました。

訓練もかねて購入して半年ほど放置したのち、最近クリアしたゲームについて少し書きます。

 

今回紹介するのは、Steamで発売されているRain World というPCゲームです。

store.steampowered.com

 

 

 

○購入まで

とそのまえに、このゲームに至ったいきさつについて。

そもそもの始まりはツイッターで見たこちらの動画でした。

www.facebook.com

 

非常に短い動画で、ピンクの肉塊のようなものが飛び跳ねていることしかわかりません。ハッキリ言って意味不明。でもどこか惹かれるものがあり検索したところ、ブラウザでプレイできる簡易ビートマシンであることが判明。

Adult Swim - Limp Body Beat

本格的に音楽やったことのある人には子供だましかもしれませんが、BPMの設定やノーツの配置が直感的にできるのが楽しくて、しばらく遊んでおりました。画面を踊り狂う謎の3Dモデルも好きな部類のシュール具合です。サンプリング源やモデルを変更できるのも良かった。

そしてこんな調子のゲームをもっと作っているならタダで遊んだ分買ってみようかと、手を出したのがRainWorld。Steamでの評価が非常に高く、値段も手ごろだったので買ってしまいました。

 

○RainWorldについて

 

こうして買ったRainWorld、主人公であるSlugcat(公式名はナメクジ猫ですが、自分は白いのでハンペンと呼んでいました)はゲーム開始直後、家族と離れ離れになります。仲間を探すべく、そして荒廃した都市で生き延びるべく彷徨い歩く、そんなゲームです。

特徴は精細なドット絵、そして高い難易度です。

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(右下がSlugcat)

 

高難易度の要因は食事、そして情報不足です。

 

食物連鎖が重要なテーマである今作において、主人公は世界を救うエリートではなく強者からつけ狙われるエサでしかありません。自然界でままあるように、敵の攻撃は一撃で致命傷になります。俗にいうヲワタ式です。よって基本的に敵とは戦わずに進んでいくことになります…一本道でなければ…

 

食事

逃げ回っているだけでは済まず、Slugcatも食べなくてはいけません。

なぜなら一定時間が経過すると題<Rain>の通り雨が降ってくるからです。

最初は小降りの雨はすぐに「滝」となり、所定のシェルターに避難しないと死亡します。このシェルターに入るには一程度の満腹度が必要なため、食事が不可欠なのです。

…が初見ではフィールドの何が食べられるものなのか分かりません。

 

情報不足

ゲーム序盤で簡単な操作説明はされますが、アクション全体の2割ほどしか教えてくれません。後は自分で操作しながら探っていくことになります。

オープンワールドなのでどの道に行けば正解というのがありません。しかしある一定のルート以外は著しく進行が難しくなるため、進んだ先でエンディングが見られるかは運です。(なお開始してすぐにラストダンジョンへ進むこともできますが、エンディングは見られませんし、帰り道が尋常でない難しさで一度詰みました。)

 

とまあかなりの難易度です。。また死にゲーなので基本はトライアンドエラーなんですが、DARKSOULSシリーズにあるような「レベルを上げる」という救済手段がありません。全編を通してSlugcatは全く強くならないので、技量と運、知識によって道を拓いていくしかないのが辛くもあり面白くもあるところなのでしょう。

 

私も当然のように詰まり、しばらく放置していたのですが知らぬ間にアップデートでEasyモードが追加されており、有志作成のmapを見ながら何とかクリアしました。

 

○感想

画面切り替えた先に敵がいて即死、焦って落下死、中立MOBに突き落とされて時間切れ

エサだと思ったら敵で感電死、息継ぎしたと勘違いして溺死、暗闇で突然死(敵がいる)

プレイしている間は、理不尽な死に方にかなりストレスフルでした。

 

しかしエンディングへ至る道程があまりにも美しく、全てを許しました。

と同時にRainWorldが「廃墟を彷徨い歩くゲーム」ではなかったことに気付きました。

 

 

(ここからネタバレあり)

 

○エンディングについて

Slugcatはシェルターで休憩するたびにカルマレベルというゲージが上昇していきます。

 

弱い生き物を殺し、食べながら進んでいくと業が深まっていくという具合です。

そしてラストダンジョンを進むには最大まで業を深める必要があります。

RainWorld各地にいるオブジェを巡り、上限を超えてカルマレベルを上げた

ラストダンジョンの最奥には金色の湖がありました。

 

(この先文章で読んでも何のことかさっぱりだと思うので、プレイ予定が無い方は

 動画を見た方が早いと思い、先駆者の動画を貼らせていただきました)

 

 

www.youtube.com

(この動画では13分頃からラストダンジョン最深部)

 

 

全てがドロドロに溶けあったような金色の湖を潜っていくと、

爆音とともに巨大な蛇のようなものが泳いできます。

蛇に突かれ出てきた紐のようなものに引っ張られるslugcat。

「ああここで世界蛇に吸収されるのが、輪廻転生のイメージか」

と思ったものの、抗うslugcatは拒否されたかのように放り出されます。

 

暗闇を泳いでいると集まってくる無数のslugcat達。

光へと進んだ彼(彼女?)を待っていたのは巨大な木。流れるクレジット。堂々の完。

 

自分は専門外なのですが、仏教の悟りが”輪廻を外れること”なのだと聞いたことはあります。蛇とのやり取り・カルマレベルを上げるため各地を巡ったことから妄想するのは、RainWorldが「解脱を目指す巡礼の旅」のゲームだったのではないかということ

 

声を発さないSlugcatが何を考えているのか分からない以上確かなことは何も言えませんが、悟りによって殺す殺されるの世界からの脱出ができたのだとしたら、これ以上ない綺麗なEDのように思えてなりません。

f:id:pyroxenehillgate:20180323014232j:plainそう考えれば最後に出てくる巨大な木は悟りの先にあるという全宇宙との合一、その比喩に見えてこないでしょうか。

 

 

 

 

 

ソ連出身作家が描く「民主主義の絵」

 

突然ですがこの絵をみてください。

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何とも奇妙な絵ですね。

一見すると曼荼羅のように見えますが、宗教的な要素がほとんど見られません。

背景は不均質に塗られた紫色が覆い、枠の一部にはアフリカ的な文様が見られます。

中央にいる人物は平安風/写実風な2つの顔を持ち、

武骨な腕がヴァイオリンを真っ二つにしたようなオブジェを貫通しています。

さらに駄菓子のようなものを握りこちらに歩いてくる様子。

暗い場所で子どもが見たら泣き出しそうです。

 

 

 

 

 

ではもう一枚。こちらはどうでしょうか。

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水面を思わせる水色の下地に蔦やハスの葉が描かれています。

少し絵画に詳しければ、

クロード・モネの連作「睡蓮」に似ていると感じるかもしれません。

でもよく見ると逆さまになった子供たちが、薄水色で描かれているのがわかります。

右下から動物を思わせる顔がじっとこちらを見ていることにも気が付くでしょう。

 

 

 

この二枚の絵はロシア出身でニューヨークで活動している芸術家、

「コマール&メラミッド」によって2003年に描かれました。

それぞれ、

「MOST UNWANTED PAINTING」、「MOST WANTED PAINTING」

という題がついています。

「最も好まれない絵」「最も好まれる絵」とはどういうことか。

 

 

 

芸術において最高のものを目指すとなるとイデア論に飛躍しそうですが、

彼らはもっと現実的な手段を取りました。

二人は大衆が参加する多数決によって絵画のあらゆる要素を決定する、つまり

アンケート調査でテーマ性や使用する色、描くモチーフなどを選び、

その結果誰もが好む絵画を生み出そうと試みたのです。

 

 

そして完成したのが最初に上げた二点の絵です。

あれらは2003年、日本でのアンケート調査の元抽出した要素を集めて二人が描いた

「最も好まれない絵」と「最も好まれる絵」だったのです。

 

※曰く"好まれる絵"には、人気であった

 「モネの絵」「青色・緑色」「やわらかい曲線」「ふぞろいな模様」「淡い色合い」

 「すっきりした絵」「子どもたち」「人に飼われた動物」「いわさきひちろ(作家)」

 などの要素を総合して描かれているようです。

 一方"好まれない絵"には、不人気だった

 「宗教的な要素」「有名人の顔」「ピカソ」「キュビズム様式」「アフリカ美術」

 そして色「金・えび茶・青緑・藤色」がコラージュされ完成したようです。

 

 

ですが自分の個人的な感想からすると、

前者はともかく後者が好きな絵とは言いづらく、「モネまがい」にしかみえません。

皆さんはどうだったでしょうか。

 

 

 

 

 

このシリーズは日本以外でも行われており、

例えば欧州諸国は、WANTED:水面に人々と木 UNWANTED:抽象画 

というかなり似たタイプの絵に仕上がっていました。

比較すると日本は両者共にかなり異色であり、そこが面白いところでもあります。

 

また全体の総意が最高の選択にはならないという、

民主主義の欠点を突きつける作品でもあります。

絵画への出力という最終的な判断を個人的な「二人の作家」が行っているという点も、

代議制民主主義を反映した皮肉と見て取れるでしょう。

 

 

 

 

ヴィタリー・コマールとアレクサンドル・メラミッドはモスクワに生まれ

美術教育を通じて社会主義リアリズムの技術を叩きこまれた後、

アメリカのポップアートに触発され、新たな作風を目指したアーティストです。

彼らはプロパガンダ芸術を揶揄した「ソッツ・アート」の旗手となり、

祖国での公的作品出品会を追放され、アパートでの展示を行っていました。

 

アメリカでマスプロダクトの揶揄として生まれたキャンベルのスープ缶を

物資不足のソ連にはスープ缶の”広告しかない”、とボロボロのスープ缶広告を制作

或いは

一人の人間でありながら大衆の憧れの的・記号と化したマリリン・モンロー

ソ連風に翻訳してスターリン

といった具合で過激且つ広範な分野の作品を生み出してきたようです。

 

 

「MOST WANTED ○○」シリーズはその一環として生み出されました。

(なおこの発想は二人が幼少期の頃活躍していた絵本作家、セルゲイ・マハルコフが手掛けた作品をモチーフにしたものでもあります。この作品の中で主人公はすべての動物から要望を聞き誰もが好む絵を描こうとしますが、完成した絵は誰からも振り向かれないというオチです)

 

”SONG”も制作されており、youtubeにて聴くことができます。

完成した曲自体は無意味なようにも思いますが、

なんとなく人がどんな曲を好む/嫌うのかが分かります。

 

www.youtube.com

 

(出典:コマール&メラミッドの傑作を探して 淡交社 2003年より)

 

芸術嗜好の多数決に関する問題点として、芸術が分かる人・わからない人の差について

言及したブルデューの『ディスタンクシオン』を少し読んだので、

この話にも触れたかったのですが、ダレたのでまた今度に。

 

 

 

『岡本太郎✖建築』展を見て

概要

川崎市岡本太郎美術館にて7月2日まで開催中の企画展

岡本太郎×建築』展を先日見てました。

その感想を含めて、今回の記事では赤瀬川原平磯崎新を中心に

1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博について書いています。 

 

戦後間もない大分県、ある一軒家にて隣の部屋をのぞき込む少年がいます。

彼の名は赤瀬川克彦。夜尿症がなかなか治らない気弱な少年でありました。

 視線の先には5つ年上の兄と語らう青年がおります。

彼の評判は耳にしていました。

付近の画材店を拠点にグループ「新世紀群」を創設したとか。

学業にも秀でていて学校での成績がとんでもなく良いのだとか。

赤瀬川にとっての磯崎は頭が良く、美術にも関心のある理想的な青年だったようです。 

 

腸炎の治療と伊勢湾台風を乗り越えた赤瀬川は 22歳なっていました。

先輩に呼び出され、東京で彼は前衛芸術集団ネオ・ダダの一員になり、

年一の読売アンデパンダン展(以下アンパン)に作品を出品するようになります。

更に本展を通じて知り合った高松次郎中西夏之と共にハイレッド・センターを結成。

様々な活動を行っていましたが、芸術で生計を立てるところまでは当然行きません。 

 片や一足早く上京した磯崎は東大の建築科に在籍していました。

学部を卒業した彼は、丹下健三の研究室へと進学します。

 

1964年ハイレッド・センター最後のパフォーマンスが、東京銀座で行われました。

この『首都圏清掃整理促進運動』においてメンバーは白衣に着替え、

舗道の植え込みやガードレール、タイルなどを雑巾などで清掃しました。

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 当時の東京は高速道路、新幹線の整備に加えて大規模な都市改造が行われています。

理由はもちろん東京オリンピック。傍から見れば珍妙かつ執念じみた掃除を通じ、

美化されていく街に対する違和感を赤瀬川は示したのでした。

加えて同年、千円札を模した自身の作品が違法ではないかとの裁判が始まります。

オリンピック一色の世論を尻目に、法を通じた国家との対決へと向かっていくのです。

 

対して磯崎の指導教官丹下は、オリンピックにてその名を一躍有名にしていました。

メインの会場の一つ「代々木国立競技場」の設計を任されたのです。

つり橋のように渡されたワイヤーを用い、天井を上から吊るすという独創的な設計は

 数度の改修工事を経た現在でも、当時の形のまま残されています。

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時は流れ1970年、赤瀬川は最高裁に出廷していました。

千円札裁判における最終上告の結論が、そこで発表される予定だったのです。

結果は棄却。6年に渡る裁判が有罪という形で決着しました。

 

この頃になると赤瀬川と共にアンパンに出品していた作家たちも、

ニューヨークへ渡ったり、作家活動を辞めたりと多様な道へと進んでいます。

しかし未だに強い反骨精神に満ち溢れていた一派は、

最後の抵抗として大阪万博に照準を定めていました。

 

安保闘争学生運動と共に闘ってきた彼らにとって万博はイデオロギーの塊であり、

米に追従することでベトナム戦争への加担を黙認してきた当時の日本政府を糾弾する

そんな意味でもかなりの反対運動が生まれたのです。

 

 さて丹下から独立した磯崎は大阪万博にてある作家の展示場構成を担当していました。

その作家とは「太陽の塔」をもって万博の顔となった岡本太郎です。

黒を基調とした構成は好評を博します。磯崎はこの時得た経験を活かし、

日本を代表するポストモダニズム建築家として名をはせることになります。 

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↑磯崎が構成した岡本太郎の展示室

 

(かなり恣意的なまとめ方をしたので当然ですが)

模型千円札の制作をめぐって国家の法と芸術を対決させた赤瀬川と、

岡本太郎と協働でイデオロギー装置とも揶揄された万博を完成させた磯崎。

大分の「新世紀群」にて同じ位置にあった二人が、五輪と万博、二つの国家プロジェクトをめぐり異なる立場となっていったことが分かるかと思います。

 

 

 五輪と万博をめぐる表と裏の芸術表現については、記録の面で大きな差があります。

代々木国立競技場や太陽の塔は現在でも見に行くことができますが、

反博作家の作品や活動については、写真すら残っていない事例がほとんどです。

半世紀前の出来事について、現在から遡る際公的な記録映像だけを追うとあたかも

「五輪や万博は誰もがもろ手を挙げて喜んだ」そんな認識になってしまいがちです。

 

2020年に開催される東京オリンピック。芸術の分野においても今後反対運動と

率先して採用される作家との間で軋轢が生まれるのではないかと思います。

恐らく大手のマスコミ等は扱わない反対派の作家たちが何を掲げ、訴えたのか。

それを公的記録に劣らず記憶し伝えていく必要性があるのではないかと感じました。

 

 

※付記※

万博の展示で岡本太郎に磯崎を紹介したのは読売新聞社文化部の海藤日出夫でした。

彼アンパンの発起人でもあり、前衛作家たちを応援していた人物でもあります。

会社員だった海藤はある意味中立にアンパンと万博に接したと言えるかもしれません。

 

彼以外にもアンパンに巣食う前衛作家たちを擁護・評価していた評論家等の人々が、

その後万博についてどのようなスタンスを取ることとなったのか。

当時の多様な人物関係を追うことは知識不足のため出来ませんでしたが、

美術手帳のバックナンバー等を確認すると、彼らの苦悩が分かるのかもと思います。

 

○尚、磯崎と赤瀬川は仲が険悪とかではないですし、磯崎自身ネオ・ダダにかなり深入りしていたようです。今回の記事は ”まあこういう見方もできるよね” ぐらいで読んでいただけるとありがたいです。

 

 

 

 

 

 

水戸備忘録

先日行ってきた水戸のレポです。 

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JRの普通電車で上野から揺られることと2時間。

水戸駅に到着したのは10時頃だったと思います。

 

 

○千波公園周辺

水戸駅から徒歩15分ほどの場所にある千波公園。

その外れに佇むのが茨城県立美術館です。

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翌日から空調工事で一次閉館でしたが、運よく常設展だけ見られました。

 

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展示作品自体は良いものが揃っていたように思いました。

ロビーにはロダンの彫刻も鎮座し、エントランスは広大

特大のガラス窓からは公園内が見渡せます。

でも…お客さんが…いない…

翌日から閉館ということで、片付けられたミュージアムショップ跡などが相まって

何とも静かな空間でした。

 

 

 

 

○市街地に佇む廃墟

公園から市街地に向かって歩いていると異様な雰囲気を放つ建物を発見。

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この角度では見えないけれど、窓が開いてるんですね。

なんとか正面に回れないかと路地に入ると、そこは一目でわかる風俗街。

「いい娘いますよ~」と客引きのおじさん・お兄さんが昼間から元気。

 

そんなお兄さんのうち一人にこのツタアパートについて聞くと

「廃墟探してるんですか?なら、『お城』見て行ったらいいですよ!

と親切にも教えていただきました。

 

更に路地を進み、角を曲がると『お城』が眼前にいきなり現れます。

 

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その名も「クイーンシャトー

1980年にオープン後数か月で潰れたとか、一晩10万円の価格設定だったとか。

様々な噂がある老舗廃墟(そんな言葉があるんですね)らしいです。

 (※古いので廃墟通の間ではかなり有名でもあるとか)

 

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(後ろ側もすごい)

 

直訳シャトー=城ということで「お城」の呼称にも頷けます。

内部の写真はありませんが「クイーンシャトー」で検索すると出てくるのでそちらで。

 

自分が惹かれたのはその位置関係。

風俗街ゆえに治安面は不安がある一方、距離的には水戸駅から徒歩20分ほど

地価もバカにならないはずです。なぜ買い手がつかないのか。

 

japandeep.info

調べていくと、当該地域を扱うこんなサイトが。

これまで観光地のホテルや物産店、喫茶店が廃墟した例はいくつも見てきましたが、

今後全国的に落ち目の風俗店がラインナップに加わるのかもと、感じる一区画でした。

 

 

 

 

水戸芸術館

 遠征の本命。(芸術系の人)誰に聞いても評判の良い博物館施設です。

 

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藤森照信展を見てきました。

東北大から東大の建築科修士を出ているアカデミックな教育を受けた方ですが、

かなり独特の、不思議な形状の建物を設計する建築家です。

また路上観察学会の発起者の一人でもあります。

 

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展示が良かったのもあるでしょうけど、客層が県立美術館とは全く違いました。

子ども連れ親子が多数来館しており、中には赤ちゃんを抱いたお母さんも。

 

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ユーモラスな作品が多いことに加えて、

写真OK、椅子には座ってOK、茶室は入ってOKというので

観覧者の方々が非常にいい表情をしていたのが新鮮でした。

 

こちらの野菜建築なんて一見馬鹿馬鹿しく見えますが、

実際に藤森さんはこの図のバナナのように宙吊りの建築を実践しています。

加えてかつてSFに出てくる近未来都市といえばこんな姿だったことを

ふと思い出させてくれるような、新鮮且つ懐かしい雰囲気を感じました。

 

 

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こちら水戸芸術館のモニュメントです。

正四面体を重ねた構造をしています。これエレベーターで登れるんです!

 

 

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最上階の展望室、足摺海底館っぽいけどかなり綺麗。

 

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眼下には水戸の街並みが。

至れり尽くせりの美術館でした。

 

 

○まとめ

茨城には「東京のベッドタウンでしょ?」という謎の偏見があったんですが

活気があるのに静かで、良い雰囲気の町でした。

今回紹介したほかにも

 

水戸黄門を祀る神社

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街中に位置する閉鎖された商店街

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変な鳥と死んだ魚がいる池(千波湖)

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など、行く先々で様々なものが見れて、歩いていて飽きないのが水戸という町でした。

今回買えなかった企画展図録を回収しに行く際、また他の場所を回ろうと思います。